「いきなり意味分からんことを言うな。エスパー裕子」
「えすぱー伊○みたいな呼び方は辞めてください!! さいきっく裕子でっす!」
渾身のドヤ顔で胸を張るアホの娘に呆れた視線を向けながら――俺は戦慄していた。つまるところ、図星であったりする。そもそも社長にスカウトされた理由は他のプロデューサーがアイドルに手を出した過去を畏怖し、新宿二丁目で飲んでいた俺をスカウトしたのだ。
しかし。世間的に言えば俺は隠れホモ。アイドルにホモだとバレれると、最悪は関係の悪化などで首になりかねない。
まぁ、裕子にバレたなら平気、平気。新宿二丁目で一番アホなアイドルは裕子って一番言われてるから(曖昧)
「……一応言っておくが、俺はホモなどでは無い(大嘘)」
「嘘ですねっ!」
「……(なんだ? 幸子的なウザさを感じる……)」
「そもそも怪しいのは沢山あるんですよっ! なんで毎日毎日プロレスの雑誌を、しかも筋肉露出の多い奴だけ買ってくるんですか!」
「は? いや、うえ、は? 違うし。俺はただ男爵ディー○のファンだから(震え声)」
「分かりづらいネタ振りは辞めてくださいよっ!? それで分かっちゃうくらい私もプロレス知り尽くしちゃったんですからね!?」
「プロレスディスってんの?」
「なぜそこだけマジトーン……」
やっぱりホモだと呟く裕子。言葉を何処かでミスったのか危うくバレかけているが、なんせ相手は裕子。なんの問題も無い。まだまだ誤魔化せる余地は腐るほどある。なんせ相手は裕子だ。大事なことだから二回。
「ふっ……そこまで言うのなら決定的な証拠があるんだろうな?」
「おふこーすっ!」
「ばーか」
「なんでっ!? 良いですよ! ゆっこがサイキックパワーでプロデューサーのスマホに決定的な証拠写真を念写してあげますから!!」
「ハッハッハッ超ウケるんですけどー」
「むっきぃぃいいいっ!! 後悔しても知りませんからねぇっ!! サイキック念写ァっ!!」
両手を広げ俺のスマホに手を向ける。断言するが、まず成功しない。裕子のプロデューサーを務めて早一年近く、裕子が何かしらのサイキックパワーを持っている事実に最近気付いたのだが、十中八九、裕子はそれをコントロールしていない。この前も某四ツ葉クローバーの彼女が持つクローバーを七つ葉クローバーにするとか頑張ったけど結局、向日葵に変わったから。こう文章にすると凄まじい所業だが、その向日葵が一秒で枯れたのはお察し。兎も角、裕子のサイキックパワーで俺に害する状況は起きない。
「にゃあああああああああっ!? みくのお祝いに貰った薔薇が全部枯れたにゃああああああっ!!」
マジかお前(戦慄)
「……可笑しなー……ちょっとサイキックパワーが足りないみたいですねっ!」
「お前実は植物系能力者じゃねぇの?(震え声)」
「でもやっぱりプロデューサーはホモなんだよ! じゃないと…」
「大体さぁ、俺がホモだとしてお前になんのデメリットがあんのさ」
「そ、それは……」
何故か急に顔を火照らせそっぽを向く。なんでコイツ恥ずかしがってんだ(ホモ特有の鈍感)
今日は二人で特に仕事も無くオフの日だから多少具合が悪くなっても大丈夫とは言え、やはり裕子はアホ故に体調管理が下手くそだ。あまり嬉しくは無いが、俺は裕子の額に手を置く。
「風邪か?」
「ひぅ……っ! だ、大丈夫ですよっ! サイキック裕子は風邪なんか引きませんから!!」
「馬鹿は風邪をひかない?(難聴)」
「そんな聞き間違いしますっ!?」
「――大変だよプロデューサー!! ダルの手術が成功したって!!」
裕子をからかっていると隣の部屋でテレビを見ていた筈の野球バカ(姫川友紀)が缶ビール片手に飛び出してくる。うん。何故だろう、俺がプロデュースしているアイドルは基本的に馬鹿しかいない気がする。
「別に良いだろ、日本を代表する選手だ」
「散々畜生発言しておきながら自らも怪我をするとは流石はダルだね!!」
「うーん、この」
「日本の選手が打ってくれないからメジャーに行ったらしいけどさ、怪我してちゃ意味ないよ。マー君もダルも怪我してちゃ二流だね、二流。やっぱピッチャーがメジャーに向かっても成功する訳ないじゃん」
「なんでや! 松坂はマシやろ!!」
流石は畜生、見直しました(真顔)
友紀はそのまま流れるように俺の隣に座りビールを飲み出すと改めて裕子と俺のコンビを見つめ直し、首を傾げた。
「そういや、二人でなに話してるの?」
「プロデューサーがホモだって話をしていたんですよ! 友紀さんもそう思いませんか!?」
「え……タダ…」
「やめろユッキ。ちゃんとあの選手はホモじゃないって言ってただろ!!」
「プロ野球にホモって何人いるのかな?(唐突)私的には寺○○大は絶対にホモだと想うんだ」
「そんな、なんJ民しか分からないようなマイナーな選手を……」
「だってアナプリだっけ? 出てるんでしょ?」
「いや、顔が似てるだけ…ハッ!?」
友紀と裕子の視線が交差する(コナン感)
「あっれー?(棒) プロデューサーなんで知ってるの?」
「なんJ民はホモに詳しいんだよ(震え声)」
「やっぱプロデューサーはホモなんですねっ!」
まずい。裕子は兎も角、この姫川友紀と言う畜生アイドルは存外に鋭い。俺が隠れホモだと言うことがバレてしまえば。うん。別に問題ないのだけど、ほら、世間的にホモって淘汰される存在じゃない。やはり、ここは誤魔化すしか無いようだ。
「そう言えば雫と牛談義の時間だわ(唐突)」
「誤魔化すの下手くそ過ぎでしょ……」
「やっぱりプロデューサーはホモだ! うわああああああああっ!! 認めたくありませんでしたよっ!!」
「ホモでなにが悪いの?」
「手のひらくるっくるだよ、プロデューサー!」
頭を抱え唸る裕子と驚愕する友紀。もう開き直るしかねぇな、これ。
「でも安心してくださいプロデューサーっ! サイキック裕子にお任せ下さいっ!!」
「……なにが?」
「私のサイキックパワーでプロデューサーを私に一目惚れさせますっ!!」
「ふーん」
「興味ないっ!?」
だって裕子だしなぁ。サイキックパワーで逆にホモ力が上がりそうな気しかしないのはお察し。さっきから察してばっかりたな。裕子なら仕方ない。
裕子は徐に時子が普段、常備しているキツく縛っても痛くないロープを俺の引き出しから引っ張りだし、友紀に手渡すと、俺に躙り寄る。
「なに? なんでロープ持ってんの? サイキックパワー(マジック)でもやれってか? 出来るよ」
「出来るのっ!?」
「つか友紀までなんだ。俺がホモであろうと関係ないだろ?」
「いやぁー……関係大有りってゆうか前から薄々気付いてたし……最悪酔わせた勢いでとか考えてたけど……まぁさ! これでホモじゃなくなるなら万々歳じゃん? 全く期待してないけど」
「ゆ、友紀さんまで言う!! みんな、ゆっこを舐めすぎですよ!! 私だって本気出せばマインドコントロールくらい余裕ですっ!!」
「マインドコントロールは超能力じゃないぞ……いや、うん。まぁ良いよ。時子に縛られ慣れてるし、好きに縛れよ(迫真)」
裕子のサイキックパワー(物理)に左右されるほど生半可なホモじゃない自負がある俺は為すがまま二人に縛り付けられる。友紀と裕子の器用さが発動したのか、上手い具合に椅子から身動ぎできない程、ガッチリと縛り付けられてしまった。
そんな俺の目の前に裕子は立ち、何処からともなくスプーンを取り出した。
「まずは予行練習ですっ! サイキックパワーっ!!」
「……」
「あれ……? 可笑しいな……ムンッ! あ、よし、曲がったっ!!」
「どう見ても物理なんですが、それは」
「さぁぁ!! 予行練習も終わりましたし、ゆっこ行きますっ!!」
「よし、プロデューサーから魔の心を消しちゃえっ!! ホモに人権なんかないよっ! タダノだって外国に追いやられたんだからさっ!!」
この畜生アイドルぶれないな。
裕子は何かの気合いを入れ、袖を捲ると頬を叩き始める。そして、その両手を俺の頬を挟むと真っ正面から目を見つめてくる。
「で、なんも起きないけど……」
「ゆっこサイキックパワああああああああああああっ!!」
「……頑張るなぁ」
「ぬあああああああああああああっ!!」
「アイドルが雄叫び上げるってどうなんだ?」
「ううむ……やはり超能力なんてあてにならないね!」
「ぬあああああああああああああっ!!」
「畜生アイドルに変わらね……ッ!?」
ふと隣に居る友紀を見つめた。
可愛い。いや、なんだ。胸がドキドキしてくるレベルで可愛い。まるで男色ディー○を見たときのように、友紀が可愛い。
「ぬあああああああサイキックパワー全開いいいいいいいいッ!!」
あれ、もしかして。
「……ん? プロデューサー。なんか顔赤くない? 大丈夫?」
友紀が不思議そうな顔を俺の顔に近付ける。
「うわあああああああああああああああああああああッ!?」
「ッ!? ぷ、プロデューサーの身体から黒い霧が噴出してるッ!? なにこれッ!?」
「サイキックパワぁーああああああああああああああああああッ!!」
「や、やめろオオオオオオオオオオオオッ!?」
「き、効いてるッ! 効いてるよ、ゆっこちゃんッ!! プロデューサーからホモの元凶らしき何かが噴出してるよっ!! なんだこれっ!!」
友紀が。裕子が。段々と可愛く感じてくる度に、俺の男色ディー○に対する愛が消え去っていく。やめろ。やめてくれ。俺の、俺の。
「俺の愛を消さないでくれええええええええええええええッ!?」
「にゃぁッ!? な、なにやってるんだにゃあああああああああッ!? プロデューサーから黒い霧が噴出してるにゃぁッ!?」
「ただいまーってうおオオオオッ!? な、なにやってんだテメェらッ!? プロデューサーからなんか噴き出てるぞッ!?」
「ただいまーってうわっ!? なにやってるの貴女達!? プロデューサーくんからなんか噴き出てるわよっ!?」
続々と帰ってくるアイドル達に気を向けれぬまま、俺の中の失ってはならない(必要とは言っていない)愛が失われて行くにつれ、周りのアイドル達が皆可愛く感じてくる。
そのあまりの恐ろしさに逃げようとするが、椅子に縛り付けられたまま故に動くことは出来ない。
「やめてくれええええええ裕子オオオオオオオオッ!?」
「サイキックパワーあああああああああああああっ!! 私に一目惚れしろ一目惚れしろ一目惚れしろ一目惚れしろ一目惚れしろ一目惚れしろ一目惚れしろ」
「ああああああああああああああゆっこに一目惚れしちゃううううううううううッ!?」
「ドサクサに紛れてなにやってんのゆっこちゃんっ!?」
「――一目惚れしちゃえええええええええええっ!!」
「――んあああああああああああああああああああっ!!」
俺の身体から謎の存在が全て消え去った感覚を感じた瞬間、裕子は両手を離し俺から離れる。そして額に溜まった汗を拭き取る姿を見届けた後、俺はやっとロープ抜けに成功し、地面に倒れ込んだ。
「……なに? なに? ゆっこちゃんどうなったの?」
「完璧ですねっ!! 核心的に成功しましたっ! ゆっこちゃんのサイキックパワーによりプロデューサーは正常に戻ったどころか、次に見た女性に一目惚れするサイキックパワーをかけましたっ!!(ドヤ顔)」
「次に見た女性に……って?」
「つまり、プロデューサーが顔を上げて女性を見れば一目惚れしちゃうんですっ!!」
つまり、俺は誰か女性の顔を見れば惚れてしまうのか。えっ、なにそれ(困惑)ゆっこちゃんマジパネェ。だが、流石はゆっこ。一つミスをしている。これは核心的に理解した。俺は女性ではなく男色ディー○の顔を見れば全て解決だと言う事に。
「やってくれたな、ゆっこ……」
「ふふんっ! サイキックパワーです!」
「みんな! 俺から離れろ!! 顔を見たら惚れてしまうのは間違いないんだっ!!」
第一に、あらかじめ警告しておくことによってアイドル達の顔を見なくても済むようにする。俺に惚れられたいアイドルなど居る筈も無いので、これにより道が。
「「「「「「「………」」」」」」」
「にゃぁ……パッション系アイドルがみんな一斉に牽制し合ってるにゃ……みくはCuPチャンのところに逃げるにゃ!!」
俺の周りに気配が増えた、だと(困惑)
「正気かお前ら!? 俺に惚れられたいのか!?」
「いやー……アタシって二十八歳になってから親にいい人いないのかって言われててさ、警察から引き抜いたのプロデューサーくんだし、この際良いかなぁーって」
「……待てよ姉御。アンタにそんな役目を押し付ける訳には行かねぇ。あ、あああああアタシなら構わない……プロデューサーには恩があるから。ま、任せろ」
「プロデューサー。私を見て良いよ。ナイター見に行くって約束してたし何時までもそれじゃあ、ねぇ?」
「一番頑張ったゆっこを褒めてくださいっ! ゆっこならサイキックパワーで元に戻せますよっ!(ゲス顔)」
駄目だ此奴ら。何を企んでいるのか知らないが、俺を通す気は無いらしい。このままでは男色ディー○を見る前に誰かの顔を見て惚れてしまう。やるしかない。少々危険だが、CoP先輩から教わったプロデューサー奥義を使う時が来たのかも知れない。
「プロデューサー秘技っ!! プロデューサー脱兎っ!!」
「っ!?」
説明しよう。プロデューサー秘技・プロデューサー脱兎とはアイドル達の溢れんばかりの愛を爆発させ十五階の窓から飛び降りる技。アイドル達の愛が少ない俺がこの秘技を使うと二パーセントの確率で怪我をしてしまう、CoP直伝の対ちひろ用秘技である。
「化け物かアンタは!?」
「ふはははははははっ!! 俺はもう一度ホモに戻るぞォォっ!! ゆっこォォっ!!」
振り向き、駆け出そうと顔を上げた。
「あ、せんせー! おはようございまーすっ!」
目と目が合った瞬間、俺は薫に恋をした。
~完~
くぅ~疲れましたw これにて完結です!