主に未成年向けに書いたけどオチが気に食わなくて投稿を辞めた作品れす。
「マッサージ?」
吐息が白く染まり始めるような、とある冬の真昼時。自分が任されているアイドルが突然、そう言った。
マッサージ。働き出してから肩凝りが気になっていたモノの、俺は専門のマッサージと言うのを体験したことがない。 パソコンを使う仕事柄、肩凝りとはマブダチと呼んでも過言ではない間柄だが。まさか担当アイドル、渋谷凛から心配されるほど、酷いモノだったのか。
「プロデューサー、最近は腕を回したり自分で肩を揉んだりしてるからさ。あんまり自分でやっても治らないよ?」
「あー……確かに、幸子の小坪トンネル突撃レポートから、なんか妙に肩が重いんだよなぁ」
「だからさ、マッサージしてあげるよ。最近ハマってて、色々と勉強してるんだよ」
「マッサージの勉強? ……珍しいモンを勉強してんな」
「ヤッて上げるよ、マッサージ。良いでしょ? みんなやってますから(意味不明)」
「なに? なんかグイグイ来るね。落ち着け、ステイ」
俺の上着を掴み剥ぎ取ろうとする凛を押し止める。鼻息荒い上に何か迫真迫る物があって凄く怖いんですが。
しかし、マッサージか。確かに肩が凝っているのは事実。だが、それをシンデレラアイドルにやって貰うと言うのは如何なモノか。
「大丈夫だから(意味不明)」
「いや大丈夫じゃねぇよ。それに、お前はこの後、仕事だろ?」
「一時間くらいで終わるよ。さっ、上着脱いで」
「いやだから…」
「私も速く終わらせたいの(半ギレ)」
「えぇ……」
物凄くモヤ ッとする感覚だが、何故か凛は一切譲るつもりがない。何が何だか分からないまま、俺はスーツの上着を脱ぎ椅子に引っ掛けた。
「………」
それを凛はジッと見ている。
「………」
動こうとしない凛を不思議そうに見つめ返すと、途端に眉を潜め出す。
「脱いでよ」
「いや脱いだよっ!?」
「は? あのさぁ……裸になってくれないとマッサージ出来ないよね?(意味不明)」
「い、いやいや。流石に誰も居ないとは言え、事務所で裸になるのはアレだろ……それに凛の前で裸になるとか」
「大丈夫」
「いや、大丈夫じゃ……」
「大丈夫だから(半ギレ)」
「えぇ………(戦慄)」
なんでキレてるのこの子。目付きが鋭いから普通に怖いんですけど。マッサージって裸になるモノなの。専門の店に言ったことがない俺としてはキッパリと言えない所だが、少なくともアイドルの前で上半身裸になるのは可笑しいだろう。
「はぁ……プロデューサーさ。マッサージって詳しく知ってるの?」
「えっ……いや、詳しくは知らないけど……」
「だよね。マッサージで裸にならなくても良いと想ってる素人だもん。良い? マッサージって、言わばリンパを直接解すモノなの。それには裸になって貰わないと出来ないんだよね」
「……そうなの?」
「そうだよ(真顔)」
「いやでも、アイドルの前で上半身裸ってのは……それに、誰か来たら」
「それは大丈夫だよ。十八時にまゆが帰ってくるまで誰も帰ってこないから」
指でホワイトボードを指差す凛に釣られ、目を向ける。確かに書かれたスケジュールによれば、今から三時間後のまゆの帰宅まで、事務所は俺と凛しかいない。
「……でもなぁ」
「プロデューサー、私は純粋にプロデューサーを心配して言ってるだけだよ。プロデューサーの為にマッサージを勉強したんだから……やらせてくれないの?」
「むぅ……」
眉を潜め、何処か悲しそうにする凛に俺の心が揺さぶられる。最初は冷たい子だった凛が、俺を心配してくれ、さらにマッサージまでしてくれると言うのは寧ろ喜ばしい事だ。
頭を乱雑に搔き、此方を真っ直ぐと見つめる凛の視線に照れる。
「プロデューサー」
「分かった。分かったよ……そこまで言われちゃ断れねぇさ。脱ぐよ」
溜め息交じりの苦笑を返し、俺は席を立つ。凛の嬉しそうな熱い視線を受けつつ、ネクタイを外しワイシャツのボタンを解いていく。事務所で、しかも凛の前で上半身裸になるのは抵抗があるが、私服でもタンクトップを好む俺だ。今更か。
「プロデューサーって筋肉凄いよね」
「CoPだからな。元軍人ってのもあるが、昔はプロボクサーだったし」
「……今更だけど、なんでプロデューサーになったの?」
「ちひろさん……いや、あまり想い出したくない。想い出すと軍人時代のトラウマが蘇る」
「う、うん」
戸惑った凛の視線を流し、俺は遂に上半身裸になる。脱いだシャツを椅子に放り投げ、凛に向き直った。
「で、脱いだけど」
「じゃあ、仮眠室のベッドで寝てて。準備してから行くから」
「準備?」
「媚……オイルとか。コン……手袋とか」
「……まぁいいや。了解」
何故かどもる凛を余り気にせずに、仮眠室へと向かう。
俺は主にクール系アイドルを担当しているので、約八十人近いアイドルを担当していることになる。その為か、家に帰れないことが多々ある為、それを見越したちひろさんが仮眠室を造ってくれたのだ。最近はパッション系アイドルを担当しているプロデューサーが良くアイドルとの個人面談に使っているらしいが、余談だ。
仮眠室に用意された割とお高いベッドに寝転がる。やはり高いだけ合ってかなり気持ちいい寝心地だ。上半身裸に違和感がなければ寝ていただろう。
「お待たせ、プロデューサー」
「ん……おう。で、どうすりゃ良いんだよ?」
「プロデューサーは寝てるだけで良いよ。そのままうつ伏せに寝ててね」
「うい」
言われた通り、枕に顔を埋めて力を抜く。軍人時代には常に張り詰め、こんな寝方はしたことがないが、近くに信頼出来る人物、つまり凛が居ると安心感から眠くなっていく。
「じゃあ、ちょっと揉むよ」
「おう……んっ」
ぎゅっと肩が凛の手で押される。些か力が弱いが、意外と気持ちいいモノだ。そのまま抵抗しないでいると、凛の肩揉みは続けられた。これは良い。
「どう?」
「あぁー……自分でもこんな凝ってるとは想わなかったな……気持ちいいよ、凛」
「もう一回言って」
「は?」
「もう一回言って」
「……き、気持ちいいよ、凛?」
俺が呟くと同時に、背中から何故か電子音が響く。
「ありがと」
「なに今の音?」
「ボイスレコ……携帯だよ。奈緒からのメール。あんまり気にしないで」
「……お、おう」
随分と変なタイミングでメールが来たモノだ。しかし、メールはメール。他人に何時何時にメールを送れ等言う訳が無い故に、何時来ても可笑しくない。俺はあまり気にせず、凛のマッサージを受ける。
上手いモノだ。身体の血流が良くなってきたのか、日の暖かさのような温もりを感じさせ、眠気を誘う。
「よし、じゃあ今から媚……オイルを使うから」
「オイル?」
「マッサージ用オイル(意味深)だから」
横目で見てみると、凛はオイルを洗面容器にぶち込み手でかき回している。お前は風俗嬢か。アイドルに言う例えではないが、動きはどう見てもソレ。あえて突っ込まないがいかがわしい想像をしてしまう。
「そ、ソレ、どうすんの?」
「プロデューサーの背中に塗るよ。大丈夫。みんなやってるから(意味不明)」
「い、いや……あっ」
ペタリと、凛の手に乗るオイルが俺の背中に塗られる。程よい暖かさと力加減。風俗嬢かお前は。
「じゃあこの状態で全体的に揉んでいくよ」
「ぉっ……おぉ……見た目は兎も角……これは……」
オイルのお陰か、何故か背中が熱くなり気持ち良くなっていく。いや、背中処か気持ちいい胸苦しさを感じるほどだ。本格的なマッサージってのはこう言うモノなのか。確かに、ハマる人が居るというのは分からなくもない。
「腰に下がっていくよ」
「ん……? ふぅ……いや……はぁ……別に其処まで……」
「大丈夫だから(意味不明)」
「おぉぅ……」
徐々に手が下がり、気持ち良く凝りを解していき、最終的に腰を揉む。 漏れる息が段々と熱くなっていく。なんだこれ。マッサージってこう言う状態になるの。恐いな、マッサージ。
「…………」
「あぁ~……上手いなぁ、凛は……」
「…………」
「腰が解れていくわ……眠気が消えるくらい気持ち……」
「ふんッ!!」
「あぁんッ!?」
凛の手がズボンに差し込まれ、俺の尻を揉みしだいた。
「えっ!? なに!? なんでズボンに手を突っ込んでんのッ!?」
「大丈夫だから(意味不明)」
「いや…ッ!?」
「みんなやってるから(半ギレ)」
「やってねぇよッ!? 絶対やってねぇよッ!?」
「リンパがアレなんで(意味不明)」
「いやいやいやいやいやいやいやいやッ!! ちょ、やめ、一回揉むの辞めてッ!?」
「邪魔されると終わらないんだけど(半ギレ)」
オイル塗れの手で生尻を揉む性でスーツのズボンがベタベタになっていく。それでも凛は揉むのを辞めずに無表情で淡々と触りまくってくる。
「ヤメロォッ!!(本音) ヤメロォッ!!(本音)」
「私も速く終わらせたいから黙ってて(マジギレ)」
「尻を揉む必要性ないだろッ!?」
「リンパがアレだから(意味不明)」
「アレって何!?」
「此処が一番リンパなんで(意味不明)」
「お前辞書でリンパ調べて来いよォッ!! ちょ、やめ……なんか身体が痺れて動けねぇッ!? なにこれッ!?」
「分かったよ。じゃあ前もやっちゃおうか(意味不明)」
「なんでッ!? あぁんッ!!」
凛に身体を回され、うつ伏せから前向きに。この体勢は非常に危うい。何故かって凛の手が俺の乳首を襲うから。
「リンパなんで(意味不明)」
「お前誤魔化す気無いだろッ!? ちょ……や、やめ……」
「リンパが堅くなってきたね」
「堅くなっちゃ駄目だろッ!? おま、何処見てんのッ!?」
「プロデューサーのプロデューサーかな(野獣の視線)」
「や、や……ヤメロォッ!! 洒落にならんぞ凛ッ!!」
「暴れられると終わらないんだけど(マジギレ)」
「お前、それでゴリ押せると想ったら大間違いだからなッ!! さっきから無意味な言い訳なんなのッ!!」
「じゃあこのままリンパ解すよ(謎)」
ま、マズい。普段から変な片鱗を見せていたが、此処まで大っぴらな行動に出ることは無かった。キュート系アイドルを数人担当している身として、アイドルの暴走は予知出来た筈なのに。ミスだ。完璧なミスだ。
出来れば使いたくなかった手だが。やるしかない。この状況を打破するには、呼ぶしかないのだ。
「――――助けてまゆぅぅうぅうぅぅッ!!」
俺は禁断の言葉を含め、名を呼んだ。
佐久間まゆ。
俺がスカウトし、キュート系プロデューサーに任せようとしたら遺恨のクール系移行を決定したクール系キュートアイドル。普段から鈍いだの唐変木だの言われる俺でも、流石にあの娘の好意には気付いている。
まずスカウトした日に、俺の携帯に盗聴器が仕掛けられ、空き家だった隣の家には超音波式音声機と言う軍用の盗聴器が仕掛けられた。次の日には交友関係や両親の家系まで調べ上げられ、あと一歩で婚約させられる手前まで持っていかれた手腕を持つアイドルだ。
俺が軍人と言う経歴を持っていなければ勝つ(謎)ことは不可能だった。そんな彼女。俺が名を呼べば何故か現れるのだ。本当に不思議だが、呼んで二秒も立てば後ろに立ってる。前にちびったのは此処だけの話。
「………なん……だと……」
―――だが、まゆは来なかった。
「じゃあリンパするから(意味不明)」
「いや、ちょ……ッ!! や、ヤメロォッ!! まゆッ!! 助けてまゆぅぅうぅうぅぅッ!! まゆぅぅうぅうぅぅッ!!」
「声出すとマッサージ出来ないから(意味不明)」
「やめ……ベルトを掴むなって……ベルト外すの速ッ!? 何そのテクニックッ!?」
凛の謎テクニックによりズボンを剥ぎ取られる。俺のプロデューサーは既に臨戦態勢。しゃぁないやん。男ってこんなモンよ。凛の怪しげなマッサージはゆっくりと腹を添い、そのまま、パンツの中へと―――
「―――プロデューサーさんッ!!」
突然、ドアが誰かの体当たりで開かれた。其所に居たのは、俺がプレゼントした水色のセーターを着込む、歩くセックス。間違えた。今の状況だと似たようなニュアンスだから間違えた。他意は無い。
「うぉおおぉおぉぉおおおォオオおぉぉッ!! グッドタイミングだ美波ィイいぃぃいいッ!!」
新田美波。俺がスカウトした順番で言えば五十三人目くらいのアイドルだ。
「美波、どうしたの?」
「言ったれェみなみっちゃんッ!!」
「………り、凛ちゃん? な、なにやってるの?」
目を見開き瞬きを数回。パンツ一枚でベッドに倒れる俺と、オイル(媚薬)だらけの手でパンツを掴む凛を唖然と見つめた。分かる。俺も似たような現場に居合わせたら如何すれば良いか分からないからね。
「マッサージ」
「えっ? いや……でも……」
「マッサージだから(半ギレ)」
「え、えぇぇ……ち、違うと想いますけど……だってこれ……」
「じゃあ美波はなにやってると想うの?」
「ふ、ふぇぇぇっ!? あの……その……えっと……」
真顔の凛に真っ赤な美波が視線を戸惑わせて俺を見つめる。クソ。歩くセックスとか言われてる癖に変なところでウブが出やがった。このままじゃ凛に流されてしまう。
「違うぞ美波ィッ!! 流されんなッ!! これはマッサージじゃねぇッ!! 間違いなくマッサージじゃねぇよッ!!」
「プロデューサー、疲れてるんだってさ。美波もヤッて上げれば?」
「へぇっ!?」
「美波も、マッサージしてあげれば?」
「……ま……マッサージ……」
目をぱちくりと開き、俺のプロデューサーを見つめた。あ、これ流されるパティーン(バブル感)だ。クソ。最終手段を呼ぶしかない。まゆを超え、凛すらも超える究極のクール系アイドルを。
「やるしかねぇッ!! あ……――――あぁ~、なんか急に茄子に会いたくなってきたわ~っ!!」
「ッ!?」
俺の発言に初めて凛が危機感を感じ、身体を魚籠つかせた。そう。あのアイドルだけは、何をしようが止められない。
俺が二番目にスカウトしたアイドル。
名を鷹富士茄子。
「たっだいま戻りましたよ~♪ プロデューサーさぁーん、聞いて下さいよー。茄子ちゃん、六億円ジャンボまた当たっちゃって………………へ?」
俺が呼ぶと大体来る。まゆ的な策略的じゃなくて、本当にたまたま運良く来る。何故か、俺が呼ぶと運良く来る。
「助けてナスっ!!」
「ナスじゃなくて茄子ですぅっ!! と言うか……何やってるんですかぁ?」
「後で説明するから助けてッ!!」
「くっ……茄子さん、一緒にマッサージしようッ!!」
「お前、まだこの期に及んでマッサージって言いはんのかッ!? 凄いなその神経ッ!?」
「わ、私は……」
「………んん? 茄子ちゃん、良く分からないんですけど?」
場が混乱し始め、凛は何とか状況を戻そうと必死にパンツを下げようとしてくる。俺はそれを必死に抑え、その様子を美波が目を見開き見つめていた。
唯一、茄子だけが冷静にそれを見つめ、首を傾げている。
「そなたー。そなたー。現場からちょっきってなんでしてー?」
更に混乱する。
この場で計り知れない戦闘力(アイドル力)を持つアイドルが直帰の筈なのに直帰の意味知らなくて事務所に戻って来ちゃった。
依田芳乃。この娘だけは誰にも止められないし、そもそもどう言う存在なのか知れば知るほど意味不明。
「芳乃、直帰ってのは家に直接帰ることだけど今はナイスッ!!」
「そうなのでしてー。まっこと、ぎょうかいごと言うのは難解でしてー」
「芳乃、ナデナデしてやるぞッ!!」
「ナデナデして欲しいのでしてー」
今の状況で尚態度を変えず、マイペースな芳乃は頭を俺に向け待つ。その瞬間、何故か俺の身体の痺れは消え去り、媚薬の火照りも無くなる。
「あぁっ!! あとちょっとだったのにっ!!」
「テメェエェエェェエ今回ばかりはマジギレしたからなァァアアァァッ!!」
「ひゃんっ!? あ、アイドルを殴ったっ!!」
「頭引っぱたくだけで済むと想ってんのか、アァンッ!?」
「そなたーそなたー。頭ナデナデー」
「芳乃ぉおおぉッ!! お前は本当に可愛い奴だッ!! ナデナデしてやる、ナデナデッ!!」
「ぉぉー。何時もより激しいナデナデなのでしてー」
芳乃の頭を撫でながら、俺は凛を睨む。
「テメェ、正座しろッ!!」
「マッサージだもんっ!!」
「世の中のマッサージ師に謝れタコッ!! お前がやってんのはマッサージじゃねぇッ!! ――――――企画モノAVだアァアァァアアアァアッ!!」
渾身の力で叫ぶ。それはもう自分でもビックリするくらい。
右手で芳乃の頭を撫で、身体はオイル塗れ。涙目の凛が俺のパンツを掴み、傍には顔を真っ赤にした美波と、俺の股間を凝視する茄子。
気付くべきだったのだ。この状況が如何に異常かを。
気付くべきだったのだ。真後ろに居る。神谷奈緒の存在を。
「プ、プロデューサー………」
「ッ!? な、奈緒ッ!?」
「そんな……っ」
「えっ? いや、ちが、違うぞッ!? これには列記とした訳が……ッ!!」
「――――プロデューサーのド変態野郎ぉおおおぉおおぉぉおおおッ!!」
「――――まってくれ奈緒おぉぉおおおおぉぉおおおおぉぉおおおッ!!」
――――こうして俺は事務所を首にされ、新たな事務所を設立することになってしまった切っ掛けだ。
この時はまだ知らなかったんだ。まゆが、俺の婚姻届を市役所に提出していたなんて。
~続かない~
企画モノAVってなんであんな意味不明な言い訳するんだろうね。