12月25日。聖杯戦争を終えてから4年とちょっとが経過していたっす。
代行者として忙しかった日々は最近落ち着いており、いわば暇を持て余していた俺と言峰綺礼は冬木市に戻ってきたっす。
ちょうど昼食時と言うこともあり、『紅洲宴歳館・泰山』に入り、麻婆定食を頼んだ俺は口を開くっす。
「つーか、冬木教会は大丈夫なんすか?」
「あと数日は代わりがいる」
「まあ、帰ってきた当日に業務に励ませるほど上も鬼畜じゃないっすか」
ここに来るまでに通ってきた冬木市の商店街はクリスマス一色に染まっていたっす。
「そういえば今日はクリスマスっすよ」
「それを一応は聖職者である私に言ってどうする?」
「まあ、そうっすよねぇ。せっかくだからクリスマスパーティーでもと思ったんすけどね」
「? ……ザイード、お前がそんな俗な事を考えるとは思えんが」
ふむ、確かに俺はあまり無駄なことをしなさそうに見えるのかもしれないっす。実際は「~っす」なんて言っている時点で、無駄だらけなんすけど。
「遠坂凛は今独り暮らしじゃないっすか」
遠坂時臣の娘。遠坂凛は1年ほど前に母親である遠坂葵を亡くし、今は一人暮らしっす。
「
「ふむ……ならば一人で祝いに行くといい。お前が行けばあの凛も喜ぶことだろう」
「そうっすか、残念っす。せっかくだからあんた好みのパーティーにしようかと思ってるんすけど」
「なんだと?」
あ、喰いついたっす。
「いや、一人である寂しさや不安を別種の怒りによって上書きし、企画においては悲しみや苦悩を演出しつつ、最終的には良い結果に終わらせる……名付けて『第一次愉悦パーティー』っす」
おっと。ここで、麻婆定食が来たっす。
「麻婆定食二人前お待たせアルー」
「ありがとうっす。つーか、あんたははまだその『アルー』って言ってるんすね」
「そういうザイードも相変わらず『っす』って言ってるアルねー」
料理をもってきた俺からすればある意味師匠とも呼べる女店主と多少会話をし、目の前におかれた盆、細かくはそれに乗せられた一際大きい皿を見るっす。
皿の中身はとにかく赤く、マグマのような印象を与えてくるっす。この外見から敬遠する人が多いこの店自慢の麻婆豆腐っす。
「ふむ、来たか。ちょうどいい話の続きは食ってからだ」
「いいっすよ」
結局、パーティーを行うことになったっす。
「神父なのにこんなイベントに参加していいんすか?」
「問題はない。そんなことを言えば私自身が神に許されるような存在ではないだろうからな」
「そんな適当でいいんすかね?」
遠坂邸の呼び鈴を鳴らしつつ話すっす。
もうすでに準備はしてきたっすから、完全サプライズっす。
しばらく待つと入り口が開き遠坂凛が顔を見せたっす。
「あら、ザイード。戻ってたの?」
「そうっすよ。あっちでの仕事もひと段落ついたっすから」
「ふーん。で、綺礼。今日はクリスマスだって言うのに、なんでアンタまでいるのよ」
露骨に嫌そうな顔で遠坂凛は言峰綺礼を見るっす。
「久しぶりに会ったというのに酷い言い様だな」
「アンタにはこのくらいでいいのよ」
ふむ、険悪な雰囲気っす。
「クリスマスだから、パーティーでもやろうと思って来たんすよ」
「いいわよ、そんな俗っぽいことしないで」
俗っぽいとか小学生の台詞じゃないっすね。まったく、誰がこんなふうに育てたのやらっす。
「そんなこと言ってちゃサンタが来ないっすよ?」
「あんまり子ども扱いするようだと、いくらザイードでも殴るわよ?」
「いやいや、いままで海外で仕事してきた感じだと、サンタは本当にいるらしいんすよ? 英霊的な意味で」
「へ?」
「まあ、確かに子供たちからの人気はある意味信仰といっても過言ではないレベルっすからね。偶像としてのサンタクロースが英霊化していたとしても何ら不思議はないっす。そもそも英霊になれる条件は『実在したか』じゃなくて『存在したか』っすからね。それに、とある村に住んでいたサンタクロース的な人が子供達のサンタクロースを信じる心によって英霊化することだってあるかもしれないっす。英霊なんてかなり曖昧なものっすから、何が起こっても俺は不思議には思わないっすよ」
まあ、実際英霊としている可能性は高いんすよね。シェイク・スピアみたいな作家でも英霊になってるみたいっすから。
「でもタダでプレゼントをもらえる子供なんてごく少数っす。そりゃあ、どんないい子でも一年中一度も悪いことをしない、なんてことはほとんどないんすから当然っす」
「……それならサンタはいるのね!?」
「いるっすよ。もともと英霊である俺が保証するっす」
ふむ、ちょっと嬉しそうっすね。
「そうだったのね……」
「信じてくれたっすか?」
「うん」
「じゃあ、パーティー始めるっすよ?」
「うん……ってあれ?」
「じゃあ、家主の許可も出たっすから入るっすよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
後ろから呼び止める声を聴きながら屋敷に入って行くことにしたっす。
遠坂邸のダイニングルームを使って行うことになったパーティーはたった三人ながらそれなりに盛り上がったっす。
「まずは食事っすね。とはいっても普通に食事するのでは面白くないっす。」
「なにするのよ」
「ロシアン寿司っす」
「ロシアン寿司だと。なんだそれは?」
「ここに寿司があるっす。この中には一つの種類のネタにつき一つ、わさびが大量に入っている物があるっすっす」
「そのわさび入りの寿司をとった人が負けってことね」
と言って始まったロシアン寿司で、遠坂凛がわさび入りを食べて涙目になっているのを見た言峰綺礼が、愉悦に浸っていたり。
「中に何が入っているか当てるゲームっす」
「今度は何よ」
「この4つの箱の中には何かが入ってるっす。箱の左右に開いた孔から手を入れて中に何が入ってるのか確かめるゲームっす。生物は入っていないので安心するっす」
と言って始まったゲームで、遠坂凛が中に入ってるのがこんにゃくであることを高速で当て、でもその次に入っていたたわしがわからなかったり。
ババ抜きをやって遠坂凛が言峰綺礼からジョーカーを退いてしまったことが、言峰綺礼の表情に微妙に出ていたり。
俺と言峰綺礼の仕事先の話を遠坂凛が聞いて来たりとさまざまだったっす。
!? ちょっと参ったっすね。
「さて、そろそろお開きっすかね?」
「もう夜も遅い。……頃合いだろう」
「もう終わりなの?」
遠坂凛は残念そうに聞いてくる。多分友達とのこういったパーティーには参加したことがなかったんじゃないっすかね?
「あ、でも、最後に」
「?」
俺は荷物の中から、典型的なプレゼントボックスのような包装を施した箱を取り出して遠坂凛に差し出すっす。
「クリスマスプレゼントっすよ」
遠坂凛は目を丸くしているっす。いままで、プレゼントとか渡したことはなかったっすからねえ。
「まあ、開けてみるっす」
「う、うん」
箱を開くと中には宝石つきのペンダントが一つ。
「一応、魔術使用もできるようなものっす。まあ、護身用にでもしてほしいっす」
「こんな宝石のは家にいくつもあるわ」
「ふむ、じゃあいらないんすね」
「そ、そんなこと言ってないでしょ。ペンダントとしては気に入ったから貰ってあげるわよ」
ふむ、じゃあ俺は言峰綺礼をおいて、ちょっと急いで出るっすかね。
入り口から屋敷を出ると、欠けた月が昇っていたっす。
俺はそこから遠坂邸の裏庭に行き、裏の山へ向け言葉を放つっす。
「中に入ろうとしているところを悪いんすけど。ここに入れるわけにはいかないんすよ」
「……ッ! くそッ、見つかったか。女にしか興味ねえから見逃してやろうと思ったのによお」
そこに現れたのは色白の男。
見た感じでは、ただの男に見えるっすけど、こいつは死徒。吸血鬼っすね。
「いいぜ、とりあえずお前から」
死徒の頭が下あごを残して切りとばされる。まあ、俺の投げた黒鍵のせいなんすけど。
さらに下あご以下に対して黒鍵を複数投擲しつつ、接近するっす。
後ろに倒れた死徒の身体と切りとばした頭の上部に黒鍵を突き刺し、爆弾を転がし、その場を離れたっす。
そして、死徒は跡形もなく爆発したっす。
裏庭にはいつも使用してあるはずの侵入者撃退用の魔術が発動してないっす。おそらく、俺たちを出迎えた時に解除した魔術を放置してたんすかね?
「いったん戻って遠坂凛に説教っすね」
そうつぶやいた俺は再び遠坂の屋敷に入っていくっす。
たくヲです。
クリスマスに時間が空いたので投稿。
日常描写を書く能力が欲しいです。