マッケンジー宅は爆発によって崩れ落ちたっす。
先程の二人のアサシン。爆師アサシンさんと罠師アサシンさんには、それぞれの専業スキルを駆使してマッケンジー宅に罠を設置するため、ここに残ってもらっていたんすよ。
設置したのは魔術にまったく関係ないただの爆弾。それを床下、主要な柱、壁、置物の中などに仕掛け、ちょうどウェイバーが二階に上がるために用いる階段を上り始めた瞬間に作動する、という注文をしたんす。
魔力を用いない爆弾なら魔術の痕跡などで看破されることはないっす。
魔力を用いない爆弾。これを使うときの問題はアサシンの行動範囲から爆弾の材料をとってこなくてはならなかったことっす。そこで爆薬などは冬木市ハイアットホテルに設置してあった爆弾を使用させてもらったっす。原作で、衛宮切嗣が敵の拠点であるホテルの爆破解体を行うために設置していたのと同一のモノっすね。
俺らとしてはケイネス・エルメロイ・アーチボルトの拠点は爆破されなかったとしても構わないんすよね。
さらに床下や柱、壁などの爆弾の爆発による暗殺をしたっすから、ライダーに守るすべはないっす。上からの爆風や横からの爆風をしのいだとしてもそれと全く同時に発生する床下からの爆発をうけることはできなくなるっすから。
唯一の問題は固有結界『
令呪によって防がれる可能性もないっすね。不意打ちの爆発に巻き込まれる前に『自分を守れ』と念じることができるはずないっすから。
しかし、ライダーの気配はまだ崩れたマッケンジー宅の中っす。
その気配は僅かにではあるっすけど薄くなってきているっすから、少なくともウェイバー・ベルベットは魔力供給が不可能な状態まで追い込んだと思われるっす。
流石にあのウェイバー・ベルベットがビルをも崩す爆破に耐えられる強靭な肉体を持っているとは思えないっすけどね。
おっと、ライダーが動き始めたっすね。
「お二人はライダーのマスターの生存確認を頼むっす。生きていたらとどめを刺しといて欲しいっす。爆発を聞きつけてきたアサシンにはライダーを追うように言ってくれるとありがたいっすね。俺はライダーを追跡するっす」
「一人で大丈夫なのか」
「ここに来る前に行動していたアサシンに、できるだけアサシンを集めてくるように頼んであるっすから大丈夫っす」
さて追うっすよ。
ライダーは霊体化して逃走しているっす。
逃走というより、新たなマスター探しっすかね。そして、霊体化しているのは魔力の消費を少しでも抑えるためっすかね。
たしかに、今はあの操車場にいたマスターが一斉に帰路についているはずっす。
よって、他のマスターと出会える可能性はあるんすけど……。
再契約のためにはサーヴァントを失ったが令呪を持っている状態のマスターが必要っす。
でも、そんな都合のいいマスターが現在いるんすかね?
まあ、一人で二体のサーヴァントを持つことも不可能ではないはずっすけど、魔力供給の問題があるっすからね。
現在残っているマスターの中で雨生龍之介と間桐雁夜は魔量不足っすから限界を保つ程度で終わるっす。
最も厄介なのは衛宮切嗣っす。有益な駒を得る、契約する可能性があるっすからね。セイバーを切り捨てて契約されると俺が困るんすよ。騎士であるセイバーだからこそ別行動をとっているのに、ライダーとなら一緒に行動する可能性が出てくるっすから。
ケイネス・エルメロイ・アーチボルトもサーヴァント二騎分くらいの魔力供給はできるはずっす。そもそも、ランサーはソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが魔力供給しているっすから。
言峰綺礼はどう動くかわからないっすから困るっす。令呪で自害エンドなんてシャレにならねえっす。
ん?よく考えてみたら。第五次キャスターは令呪がないはずの葛木先生と契約してたような……いや、あれはキャスターが魔術師としての実力がチートだったからのはずっすね。マスターがいないサーヴァントが一般人とそうホイホイと契約できたら聖杯戦争終わらないっす。
ところで、ライダーが再契約に動かない可能性は元々考えていないっす。
ライダーの性格からして死んでいった自分のマスターが死んで、それを悲しみはしても後悔はしない。つまり、自分の願いのため死んだ仲間がいるならその仲間のために自分の願いをかなえようとするはずっす。
王である自分の決定を後悔することはそれで死んだ部下や仲間に対する侮辱も同然、という考え方をしていたっすからね。
とはいえ、マッケンジー宅を離れてからもうそろそろ30分。ライダーの温存していた魔力もつきそうっす。
ちなみに俺の方は五人のアサシンと合流しているっす。
さて、どうなるっすかね?ライダーがこのまま消滅する可能性はあまり大きくないとは思うんすけど。なにせ、幸運A+のサーヴァントっすから、どんなご都合主義が起きてもおかしくないっす。
ん?あれは……、どうやら、ライダーはいきなり幸運に恵まれたらしいっすね。
ライダーの進む方向に子供を引き連れた雨生龍之介がいたっす。原作ではこの時間は地下で待機していたはずなんすけどね?
実体化して雨生龍之介に近づいていくライダー。さて、この辺でいいっすかね?
ライダーの魔力はもう三分の一も残っていないっす。流石に『
ここから先は高速戦っす。ライダーが再契約をする前に仕留めるっす。
「作戦通り、始めるっすよ」
俺を含めたアサシン六人のうち一人、小男アサシンさんが霊体化したまま雨生龍之介に向かうっす。そしてある程度の距離で実体化しつつ
それを阻止するライダー。
その瞬間、一瞬のことに何が起こっているのかわかっていない龍之介に俺の横にいる小太りアサシンさんが投擲した
小男アサシンさんはその瞬間に離脱するっす。
それと同時に俺は実体化してライダーに向かい突進するっす。俺がいた所からライダーまではそこそこ距離があったっすからライダーは迎撃の態勢に入るっす。
ライダー、まで十ニメートル。サーヴァントならすぐに詰められる距離で、俺は走りながら宝具『
俺の身体から分離したポジティブアサシンさんと冷静アサシンさん。宝具の効果が発生し終わり、分離しきったのはライダーとの距離は五メートル地点。
一人を迎撃しようと動いていたのに、相手がいきなり分裂し三人になった時の対処法なんてライダーは知ってるんすかね?
そのまま三人で一斉に切りかかるっす。
しかし、俺の攻撃はキュプリオトの剣で受けとめられ、ポジティブアサシンさんの心臓狙いで放った攻撃左側からの一撃はは右わき腹を浅く切る程度にとどまり、冷静アサシンさんのライダーの右側から首を狙った攻撃はライダーの動きで右肩に突き刺さり、致命傷を負わせられなかったっす。
そしてライダーは俺の攻撃を弾きつつ、その勢いで冷静アサシンさんの首を狙うっす。それを全力で跳んで避ける冷静アサシンさん。空振ったキュプリオトの剣はそのままポジティブアサシンさんの攻撃と打ち合うっす。
「ぬう!?」
その瞬間に霊体化+気配遮断で背後に近づいてきていた六人目、老人アサシンさんの攻撃によりライダーの首から血が噴き出したっす。
「これで終わりっす!!」
その一瞬の隙をついて俺と冷静アサシンさんが投擲した
ライダーが消滅していくっす。
後ろでそれを見ていた雨生龍之介。
「さて、大丈夫だったっすか?」
「あ、ああ。……で、アンタらは何者?旦那の水晶玉で見たことがあるような?」
「通りすがりの暗殺者っすよ」
偶然とはいえ、ここで雨生龍之介と出会えたのは僥倖だったっすね。
「その子供たちはなんなんすか?」
「ああ。これから旦那とパーティーやろうと思ってさ。材料をかき集めてたんだけど……お兄さんたちも参加しない?」
「なるほど。ちょっとこれからは予定があるので無理っす。すまないっすね」
「いいっていいって。何だか知らないが、俺を助けてくれたんだろ?それで十分さ」
趣味以外ではただの好青年っぽい感じだとは知っていたっすけど事実っすね。
俺は雨生龍之介の手の甲にある痣を指さしながら言うっす。
「さて、時間がないっすから本題に入るっすよ。その手の痣がなんなのかわかるっすか?」
「これ?ああ旦那とあう前に出てきたんだけど、旦那はなんなのか教えてくれないからわかんないんだけど。もしかしてお兄さんたち知ってるの?」
まあキャスターが令呪について説明するとは思えなかったっすけど当たりっすか。
まあ令呪の効果を知らないマスターには教える必要はないっすしね。サーヴァントにとってはあくまで枷に過ぎない物っすから。
「知っているかもしれないって感じっすかね。確かめるためにその痣に対して『自害せよ』って言ってみてくれないっすか?」
「え?ああ、えっと。自害せよ~っと。これでいい?」
うん。この痣は令呪で間違いなさそうっすね。赤く光ってるっす。
「あれ?なんか光って……」
さてと……。
「ご苦労様っす。これはお礼っすよ」
「え?ッ!?」
俺は
「あ」
雨生龍之介は血を流している自分の腹に手を当て恍惚の表情を浮かべているっす。
「すっげえ綺麗。……なんだ……こんなところにあったなんて」
キャスターのマスターである殺人鬼、雨生龍之介が知りたかったのは『死とは何か』ということ。いわば死の色を知りたがっていたと言えばいいんすかね?
「俺の中にあるならあるって、言ってくれたらよかったのによお」
「それじゃあ、さよならっす」
俺は
「さて、行くっすよ」
「この子供たちはどうする?」
見ると、子供たちが全員倒れているっす。
「なるほど。この男の腕輪で子供たちに催眠をかけていたのだな」
「このまま目を覚まされても厄介っすね。ここは放置して逃げるべきだと思うんすけどどうっすか?」
「良かろう。ここに捨て置けば警察が助けることだろう」
言峰綺礼は考えていた。
理想も情熱も悲願もない自分がなぜ聖杯戦争に参加する資格を得たのか、自分の求めている物は何か?
自分の中にある空虚。
始めてこれを見抜いた自らのサーヴァントとその言葉。
『聖杯は願いを遂げようとするものを優先して令呪を授けるらしいっすね?もし、聖杯がその通りのモノなら、それに選ばれたあんたには願いがあるはずなんす』
自分をあの異教徒のサーヴァントが見透かしたように口に出した言葉。
『あんたはひとつのモノに対して努力をしてから周囲に評価されるようになるまでの時間が短いっすけど、それをやめて次の何かに対して努力しなおすまでの期間が異常に短いっす。まるで始めから目指すものがないみたいに』
思えば綺礼は聖杯戦争について知った時から予感があった。
衛宮切嗣のことを遠坂時臣から聞いた時にも。
自分は『何か』を得られるかもしれないという、予感。
それを最も強く感じたのはいつだったか。
『それを踏まえて改めて問うっす。言峰綺礼、あんたは聖杯に願うんすか?』
あの言葉を聞いた瞬間が最も強く感じたのではなかったか?
そもそも、あの異教徒のサーヴァントのことが綺礼にはわからない。
例えば衛宮切嗣。経歴を見た時、この男は自分と同じように悩みの答えを見つけるために戦場に身を投じ苛烈な人生を選んだのだろうと考えた。
例えば遠坂時臣。20分にも満たなかった初の邂逅時わずかに言葉を交わしただけで彼ががどういう人間なのかがわかった。
だが、あのサーヴァントについてはまったくわからない。
何を考えているのかが全く読めない。
『最後にこれだけは覚えていてほしいんすけど。どうせ俺たちアサシンとはこの聖杯戦争中だけの、期間限定の付き合いなんすから、悩みの一つや二つ打ち明けてほしいっす。……そうすれば、あんたは「何か」を得られるかもしれないっすよ?』
あのサーヴァントは答えを知っているのかもしれない。
彼に問えば自分の苦悩の答えが導き出されるのかもしれない。
そこまで考えたところで彼のいた教会地下室の扉が開く。
「さて話し合いの時間っすよ。聖杯に願うことは思いついたっすか?」
とりあえず話し合いから始めるとしよう。
言峰綺礼が自らの本質を知る時は近い。
たくヲです。
ライダー陣営戦完結……ついでにキャスター陣営も。
ザイードさんが雨生龍之介とまともに会話できていた理由は……。
何度も言いますが、作者にとっての最大の敵は言峰綺礼です。
これからも『ザイードに憑依して暗殺王を目指す!?』をよろしくお願いします。