ザイードに憑依して暗殺王を目指す!?   作:たくヲ

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想定外も想定の範囲内っす?

 セイバーのマスター、衛宮切嗣は拠点としているビジネスホテルの一室へと戻ってきていた。

 

(最後に休眠をとってから約70時間、か。普通なら眠っておくべきだろうが……)

 

 切嗣の精神はストレスに蝕まれていた

 

 助手である舞弥が死亡したこと。

 

 これにより行動に大きく制限がかかった。情報収集は舞弥の使い魔任せだったため、他のマスターの情報があまりにも少ない。

 

 切嗣の妻にして聖杯の器、アイリスフィールがさらわれたこと。

 

 切嗣の理想のために死ぬことを誓ったホムンクルス。アイリスフィールの命はもうすでに失われているだろう。

 

 切嗣はいつか来る別れと覚悟をしていたつもりであった。しかし、この突然の別れが想像以上に切嗣の精神を圧迫することになっていた。

 

 そして何より……

 

(言峰綺礼。そしてアサシン)

 

 このコンビの存在こそ、切嗣にストレスを与え続けているのである。

 

 言峰綺礼については、その経歴を見た時から危険人物だと思っていた。しかし、まさかここまでの手腕を誇っているというのは切嗣にとっても想定外だった。

 

 どういう理屈なのか切嗣は知らないが、複数のアサシンを使って切嗣への攻撃、舞弥への攻撃、アイリスフィールの誘拐。さらにセイバーからの(一方的な)報告によると、バーサーカーをセイバーのもとへと誘導して足止めをしてきたらしい。

 

 さらに切嗣の装備の一部が盗まれており、舞弥の遺体からも武器が盗まれていた。これの再調達に相応の時間を要するだろう。

 

 アイリスフィールがさらわれた日の昼間、舞弥とともに冬木ハイアットホテルに仕掛けていた爆弾が解除されており持ち去られていた。これもアサシンの仕業だろうと切嗣は考える。

 

 冬木ハイアットホテルを拠点としていたケイネスは典型的な魔術師らしいので、爆破の警戒などしていなかったはずであり、それ以外のものとなるとアサシン以外に容疑者は思いつかない。

 

(それに複数いるアサシンが僕を監視している可能性が高い)

 

 これが最も致命的だった。

 

 寝不足の切嗣は考えをまとめるためにも、睡眠休息をとる必要がある。

 

 しかし、アサシンが見張っているとなると、油断は許されない。睡眠をとることなどできるはずもない。

 

 起きていればアサシンに襲われても令呪でセイバーを呼べる。しかし、寝こみを襲われた場合は対処できなくなってしまう。目覚めて令呪を使う前にアサシンの凶刃が切嗣を切り裂くだろう。

 

 よって今、切嗣は起きておくことを強いられている。

 

 寝不足と疲労とストレス、事前に用意した計画が崩れ去ったことに切嗣は苦悩する。

 

 こうなっては、未だにアイリスフィールを探して走り回っているであろうセイバーに魔力供給するのも億劫だ。

 

(いや……いつまでくだらないことにこだわっているんだ、僕は)

 

 切嗣の悲願、全ての闘争の終結。

 

 この冬木での戦いを人類最後の闘争に変えるためには……

 

(いつまでもくだらないことにこだわっている場合じゃない、か)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これからどうするっすかねえ?

 

「アサシン。この奥に何があるというのだ?」

 

 俺を含めて十人ほどのアサシンと言峰綺礼は、冬木市を流れる川、未遠川に流れ出る巨大下水管の中をライトを持って歩いていたっす。

 

「この先に、キャスターの工房があるんすよ」

「なぜ、私をそんなところに連れて行く?」

「一度偵察に入ったんすけど、その時にアンタを連れてくるべきだと判断したっす」

 

 なお、その時にキャスターの魔物群が消えているのは確認済みっす。

 

「……言峰綺礼。この先で見たものに対して思ったことを押しとどめてはいけないっすよ。思ったことをすべて受け入れることこそ、答えに近づくために必要なことっす」

「どういうことだ」

「そのままの意味っすよ。……着いたっすよ」

 

 そこはの闇に包まれた貯水槽。

 

 普通の人間なら何も見えないほどの暗闇の中から、かすかなうめき声が耳に届くっす。

 

 でも、サーヴァントの目ならその暗闇の中にも、そこに何があるのか見えるっす。

 

「ザイード……これは……?」

「どういうことだ?」

 

 他のアサシンたちがその光景について聞いてくるっす。ふむ、そういう反応になるんすね。

 

「キャスターとそのマスターのやったことっすよ」

「いくらなんでも……これは」

「アサシン、一体何が……!?」

 

 言峰綺礼が周囲をライトで照らし、息をのむ。

 

 広い空間はあたかも、一つの部屋のように家具(・・)が並んでいたっす。その一つ一つに作者が意匠を凝らしているっす。

 

 それが人間を使って(・・・・・・)作られていることが周りが息をのんだ理由っすね。

 

「貴様、なぜこの光景を私に見せた?」

 

 言峰綺礼は見るからに動揺しているっすね。

 

「ここにいる人たちは聖杯戦争の犠牲者っす。なにもわからないままにキャスターとそのマスターにさらわれて、こんな姿にされた。なら、あんたはこの人たちの冥福を神父らしく祈ってあげてほしいっす」

 

 まあこれは建前、本音は言峰綺礼を愉悦に目覚めさせることなんすけど。

 

「あとここにいるうちの何人かはまだ生きているっす。……でも、この状態で生き残るのは幸せと言えるんすかね?」

「……アサシン、命令だ。生き残っている人間を殺せ」

「了解っす。9人とも、やるっすよ」

 

 あと、ついでに魂食いもして、俺の糧となってもらうっすよ。

 

 そういえば魂食いでステータスって上がるんすかね?

 

 さてと。周りのアサシンたちは気が付いていないようっすけど俺は気が付いたっすよ?この光景を見て言峰綺礼が一瞬だけ笑みを浮かべたのを。まあ自覚があるかはわからないっすけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと昼食として、冬木市の一角にある中華料理屋『紅洲宴歳館:泰山』の麻婆豆腐を食べてから教会に帰ってきたっす。

 

 結構、美味かったっすよ?

 

 今、言峰綺礼は教会地下に入っており、俺は教会の一室にいるっす。

 

「で、どうしたんすか?」

「セイバーのマスターがセイバーとともに行動をし始めたようだ」

「ふむ」

 

 まさか、衛宮切嗣がセイバーと共に行動するとは思ってなかったっす。

 

 原作では関係最悪だったっすからねえ。普通ならもっとも険悪な関係になるはずの本妻と愛人の関係の方が良好で、マスターとサーヴァントの主従関係の方が険悪ってのもおかしな話っすけど。

 

 報告してきた仮面ひび割れアサシンさんに再び問いかけるっす。

 

「それで、火薬は手に入ったのか聞いてるっすか?」

「手に入ったらしい。アインツベルンとやらの城に仕掛けていたものだ」

「セイバーのマスターはアインツベルンの城にいるんすか?」

「いや、そいつ自体は新都のビジネスホテルに宿泊しているようっす」

 

 なるほど、アインツベルン城にいると思って入ったマスターを迎撃するためっすね。

 

「アインツベルン城に結界はあるんすか?」

「あったが今はもうないな。セイバーのマスターの後を付けて結界内に侵入したからな。セイバーのマスターが城を出た後に内側から結界を解除。その後に罠を解除し回収したからな」

 

 ふむこれで安心っすね。

 

「ザイード!!」

 

 いきなり現れたのは教会周辺警戒中の中肉中背アサシンさんっす。

 

「どうしたんすか?」

「どうしたもこうしたもない!運転手のいないタンクローリーがこっちに向かっている!」

「……まじっすか。あとどれくらいっすか?」

「あと一分くらいだ!」

 

 ふむ、困ったっすね。

 

「あんたはセイバーのマスターの偵察に戻ってほしいっす。あんたはタンクローリーを何とかして止める方法を考えて実行してほしいっす。俺はマスターを連れて脱出するっす」

「了解した」

 

 すぐさま霊体化して地下まで潜り実体化するっす。

 

「どうしたアサシ……」

「申しわけないっす!」

 

 喋る言峰綺礼を右腕で抱え上げ、扉へ向け走り、扉を蹴破るっす。

 

「一体何があった?」

「テロっす。とにかくおとなしくしておいてほしいっす」

 

 階段を駆け上がり、上りきった瞬間に短剣(ダーク)を投擲して窓を割り、そこから外に飛び出すっす。

 

 そして教会横の茂みに飛び込んだ時……教会にタンクローリーが突っ込み。

 

「とりあえず、目と耳を塞いで、口を開けっす!」

 

 その瞬間、教会が爆発したっす。

 

 あれ?爆発の対処ってこれでよかったんすかね?

 

 

 

 

 

 

 

 助かったみたいっすね。とっさに爆発物対処法をとれるとは流石は百戦錬磨の代行者っす。いや、元代行者っすか。

 

「これは、一体なんだ?」

「セイバーのマスター。衛宮切嗣の仕業っすね」

「なんだと?」

 

 原作でも一瞬だけ描写されていたのを忘れていたっす。衛宮切嗣は隣町に遠隔操作用に改造したタンクローリーを置いてある、と。

 

 教会に突っ込ませたのは何十人いるかわからないアサシンを一掃するためマスターを殺そうとしたって所っすかね?

 

「衛宮切嗣のことを注目していたのは知ってるっすけど、どうするっすか?」

「!?何故知っている?」

「まあ、大体わかるっすよ。俺は『百の貌のハサン』の人格の一つっすから。で、奴はあんたの答えを知っている可能性があると思っているはずっす」

 

 だんまりっすか。

 

「それはともかく、すまなかったっす。あんたの父親、言峰璃正までは手が回らなかったっす」

 

 言峰璃正は教会の一室で仕事をしていたはずっすから、爆発に巻き込まれているはずっすからね。

 

「……仕方あるまい」

 

 ふむ、冷静っすね。

 

「流石にこの爆発では生き残れてはいないと思うっすけど、探すっすか?」

「いや、まずは聖杯戦争を続けることだろう。残念でならないが……」

 

 さて、では衛宮切嗣の破棄した拠点にでも行くっすかね?罠を解除済みのところに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言峰綺礼は新たな拠点で聖堂教会の連中に向かって電話で話していたっす。聞く限りだと監督役は言峰綺礼に移ったみたいっすね。まあ表向きには言峰綺礼はマスターじゃないっすからね。

 

 どうやら言峰璃正の遺体の回収と事後処理の依頼のようっす。

 

 さてと、中肉中背アサシンさんに教会跡に来た他のアサシンにも次の拠点の場所は教えておくように言ってきたっすから、あとは新しく言峰綺礼の護衛をしてくれるアサシンが来るまで待つしかないっすね。

 

 さて、あとは……どうやって暇つぶしをするっすかね。言峰綺礼もあと一押しだと思うんすけど、このタイミングだとデメリットの方が大きいっすからねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言峰綺礼は迷っていた。

 

 周りから見ていつも通りなように見せているが、その心は動揺しきっていた。

 

『こんなことになるなら、私が□□□たかった』『私の手で□□□□□よかった』

 

 心の底に生まれたその感情。

 

 崩れた冬木教会に何もせずに立ち去ったのはその感情を知るのが怖かったからだ。

 

 かつて妻が死んだときにも似た感情が生まれていたように思える。しかし、その感情を言峰綺礼は無意識に押さえつけていた。

 

(この感情の正体を知った時、私はどうしようもなく破滅する)

 

 それは間違いない。彼はそれに恐怖していた。それを知った時今までの生き方が否定されるような予感があったからだ。

 

 そんな時思いだしたのは、自らのサーヴァントの言葉。

 

『思ったことを押しとどめてはいけないっすよ。思ったことをすべて受け入れることこそ、答えに近づくために必要なことっす』

 

 言峰綺礼の答えを見透かしたように語るあのサーヴァントはそう言っていた。

 

(この感情を受け入れたとき、私は答えを……『何か』を得られるのか?)

 

 言峰綺礼は迷う。自分はこの感情を受け入れるべきなのか否なのか。

 

 答えは言峰綺礼に確実に近づいてきていた。




 たくヲです。

 何度か言っていますがザイードは一般人?です。ザイードは一般人?です。大事なことなので二回言いました。

 いきなり衛宮切嗣の活躍。

 まさかのアサシンの被害者ではない被害者が……。

 これからも『ザイードに憑依して暗殺王を目指す!?』をよろしくお願いします。

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