伝えることは伝えた――だから私は精一杯ここで頑張るだけだ。
先行して向かう機体の中に、レギオのフリーダムがあった。
多分、考える時間が欲しかったんだろう。
全てに納得して話した自分と、唐突にそんなことを聞かされたレギオ。
どちらの方が驚愕が大きいかなんて、決まってる。
整理がつくまで、きっと彼女は私を避け続けるだろう。
私の姿を見るのは、その罪と向き合わなくちゃいけないから。
もしも、買ってあげることができたなら、鏡を買ってこよう。
きっと、今の彼女は自分の顔すら見られないから。
タクマラカン砂漠においての偵察任務に、私も参加させてもらえることになりました。
ダイテツ艦長は私の声だけで、何かがあったことを察してくれたようです。
渡りに船というべきでしょうか? 数日かそこらで簡単に整理のつくような事柄ではありません。
感情と理性と記憶のごちゃまぜ状態。
それが私の現状であり、今のところ、大きな問題になっていませんが、果たしてどうなるのでしょうか。
気持ちに、私が整理をつけること。
幼い私に出来るでしょうか?
自分はもう整理できているのに。
二つの船は止まったままであるがその中では、話し合いがなされていた。
『いいのですかな、ダイテツ艦長』
『良いも悪いもない、実力的にも問題はないぞショーン。まぁ、レギオ少尉をこのままハガネに隣接させたままというのは、いささかまずいと考えていたからな。渡りに船だったな』
『落ち込んでいたのが声だけでも丸分かりでしたからなぁ……ダイテツ艦長、彼女はトリエル曹長と何がしかあった…………と、お考えで?』
『彼女の落ち込み具合から見るに、その落ち込む前日に何かあったと見るべきだろう。その当日の行動を把握できなかったのはレギオ少尉とトリエル曹長の二人だけだ。何か、失敗したのだ。私たちと同じく取り返しがつかない失敗を』
『子供が、背負いきれるでしょうか?』
『そうではないときは、私たち大人が肩を貸せばいい』
『貸させてくれるでしょうか?』
『……』
明確な答えは出ない。
しかし子供を支えようとした大人の、不器用ながらも温かい配慮は確実に彼女に風を吹かせた。
罠でしたね、そういえば。
こちらにやって来る敵を適当にあしらっていたところ、リューネさんが囲まれてしまいました。
きちんと卑怯者発言いただきました。
ねぇ、それが生ぬるいって、わかりませんか?
今日の私は気が立っているのです。
てひどい八つ当たりをあなたにしても構いませんよね。
「ということでお久しぶりです」
『き、貴様』
「まーた、卑怯は褒め言葉だなんて、軽い発言してるんですか?」
『貴様に用はない!!』
「あなたが上に昇りつめるのも、DCが世界を征服するのも、みんな寝言でしょ。そんな寝言は、ベットの中でおねんねしてる最中に言うもんですよ。夢遊病患者さん?」
『なにぃ?!』
「言ったでしょう、煽り耐性皆無、策は小細工。ついでに言うと策を弄するにしたって、人質作戦とか痛めつけるとか人質を大切な人の目の前で殺すとか、心理的攻撃も視野に入れられないあなたが小物。さらに――」
ビームライフル、エネルギーキャノン、ビーム砲、ビームサーベルを使い囲んでいた敵を全機同時に落とす。
『くっ!!』
「こんな時に使うべきはエースパイロット、理解できませんか。人質奪取に動かれた時に臨機応変に対処できる人材でもなきゃ、簡単にのされますよ」
増援も出現するが、そんな勢い任せのことが策?
「伏兵を怒りに任せて出すな、あほう。なによりも大局を見据えて動けない、考えがいきあたりばったりなあんたにできるのは、戦術レベルまでってこと。戦略、大戦略まで考えつかなきゃならないのに、総大将?
笑っちゃいますね。総大将というのは、自分がどう動けば組織が有利になるか。そこまで考えて動くもんですよ。あなたみたいに邪魔になる人間全員潰しても、それって優秀な人材全部火にくべてるのとなんら変わりませんよ。
優秀な人材ってのは対価を用意するか、従わせられるだけのカリスマを見せつけて、この人にはかなわないと思わせるか。どちらかで有効に使っていくべきですよ。
前者はあなた、後者はシラカワ博士とかエルザムさんとかですね。
博士がハガネを潰すべき時に潰さずにいたのは彼らが剣足り得るかどうかを試したかったから、決して総大将という称号が目当ての、小物なあんたとは違うわ。それに何より――」
うん、多分私はこの人のことを家族だと思える。本気であの人を想っているから。
「私のお姉ちゃんに手を出す小物は、馬に蹴られて○○○○に沈んじゃえ」
「あんた、意外と汚い言葉知ってるんだね」
「なんだよ、その○○○○ってのは」
「聞くんじゃない、特に女子には!!」
「ぷっ」
一応マサキも鼻で笑っておく、ああダメだ。自分が制御しきれない。私は暴走している。
幼さゆえの感情のままに知識を披露して、大人を真似る。まるで子供だ。
ああ、そうだ。深く考える必要は、何もない。
事実は事実だ――それをすべて丸のまま受け入れることは難しい。
私の幼さは、私が大きくなるまで残り続ける。
無理に大人ぶろうとしたって、絶対にぼろが出るに決まってる。
そんなものは自分に任せればいい、そのために私たちは別れたんだと思っているから。
今の私には、トリエのことはどうしようもない。
でも、もし次があったとき、今度は失敗しない。
助けられないであろう人を助けるためにどうすればいいのか。
きっとそれも考えちゃいけない。
確かに未来は変わる、秒針一秒の差で。
それでも助けられない人が出てくること、それは受け入れなくちゃいけない。
それがどれほど身近な人でも、きっとそれを割り切るっていうことだと思うから。
『笑えるんだね、あんた』
「ええ、おかしいものはおかしいですから」
『そんなにおかしいこと言ったか?』
「いえ、あなたほどの年齢であればそれがわからないということはありえないものですし、あんな純粋に女性にそれをたずねるものですから」
『なんだか釈然としねぇな』
「ああ、そうか。そうですね、そうでしたか」
『何納得してんだよ』
「いいえ気にしないでください」
とてもつまらないことだから――
『おい、お前ら無事か?!』
そう史実通りに彼らが先行してきた。
赤いゲシュペンスト一機と普通のゲシュペンスト……二機?
「トリエっ! あなたまでくる必要はなかったでしょうに!!」
『ううん、それじゃダメだよ。怖いんだよ、先がわからないって』
「ッ!! 援護するだけにとどめてください」
『了解』
『ん? どうかしたのか?』
『いいえ、カチーナ中尉が気にするほどのことではありません』
『そうか』
あと一分、できることならばそこから一歩も動かしたくはないが。
「トリエ……」
『大丈夫、まだ持つから』
「信じますよ、その言葉」
彼女の覚悟は、私なんかの言葉で動かされるようなものじゃない。
そう見ていると、彼女が笑っていた。
「……あ」
『やっと顔を合わせてくれたね……本当に似てる。ううん、私が似てるんだ』
笑顔の彼女を見るだけでやる気が湧いてくる。
とにかく一分間、彼女に無理はさせられない。
それを彼女が了承するかどうかは別として――だ。
「全力、出させてもらうよ」
出力が、クルーズからMAXまで上がる。
ほぼ誰にも見せたことのない、私の本気の操縦だ。
翻弄されろ。
援軍としてやってきたハガネが見たものは、自由奔放に空を飛び、縦横無尽に暴れるフリーダムだった。
敵はそのまるで水を得た魚のような動きに対処しきれない。
名将ならばその翼をもぐことができただろう、名軍師ならば空から彼女を落とせただろう。
しかしここに居るのは名軍師でも名将でもない、ただただ己の野望を吐き出すだけのでくのぼうだ。
止めようがなかった――その機体のポテンシャルを十二分に発揮した彼女は。
出す指示、出す指示が、みんな一手、二手、遅れたものとなり、彼女の影を踏むことさえできない。
「あいつ、あんなに動けたのか?」
『そうみたいね。……キョウスケ、あの子の動き』
『間違いないだろうな。あの動きは、トリエ曹長の動きだ』
(あんな動きをしているのに、なんで)
(なるほどな、だからそう感じたのか。いやそれとも)
『ダイテツ艦長、どうやらうまくいったようですな』
『ああ、しかしこれで彼女の悩みが見えてきたな。トリエ曹長に話が聞けるかどうかが問題だが』
吹っ切れた彼女は、難しいことを考えず、周囲の目など無いかのように、ただ心の赴くままに動き続ける。
強制的に出力が下がる、どうやら無理をさせすぎたようだ。
しかしこれはこれでいい、吹っ切れたし、味方が来てくれた。
無理をさせすぎないように、フォローするだけにとどめたほうがいいだろう。
あのでくのぼうの、鼻を明かすことができただけいいとしよう。
そう考え、自陣に下がった時だった。
砂塵の向こうに影が見えた。
その影は、グルンガスト零式。
パイロットの名は、ゼンガー・ゾンボルト。
元ATXチームのリーダーだった男だ。
後続もやってきている、コロニー軍の生き残りだろう。
彼はそれを守るように、立ちふさがる。
まさに武人の出で立ちだった。
戦況は彼によって五分に戻されたように感じた。
浮かれた気分も、吹っ飛ぶような。
そんな、威圧感があった。
砂塵の戦場は、未だ終わりを知らない。
親分戦は、次回
ついでにあいつの最後も描きます。