彼女に無茶はさせられない。
ということで乗り込んだものの。
機体から降りないというのはまずいだろうか。
じっと考えていると。
トリエに――
「大丈夫、大丈夫だよ」
優しく後ろから抱きしめられて、そう言われた。
そう言われて、そんな風に抱きしめられたら。納得しちゃうじゃないか。
「ずるいですよ」
オレンジ色のサングラスを手に取ろうとして、トリエに止められた。
必要ないというかのように。
フードみたいなそれを私にかぶせる。
これで大丈夫だよというのかもしれないが、不安は残る。
しかしこの材質、よく見たらABCマントのそれではないか?
ナノマシンである程度それを再現できるとしても、ここまで再現できるとは思わなかった。
確かにマントをかぶれば、それなりにごまかせるかもしれないが。
ここで後述しておくのならばなんとかなった。
――とだけ言っておく。
ダイテツ艦長に感謝といったところだ。
接触は最低限にしておいたわけだが、もしや毒舌系キャラだと思われているのだろうか。
イルムさんの心に、ブラックホールキャンをやんわりとぶち込んだだけなのだが。
格好も含めてトラウマにならないといいなだけど。
まあ気を取り直してくれるか。
一人だけ――ラトゥーニ・スゥポータだけが私を睨んできた。
知っているの? と、視線で聞くと苦笑いをされた。
あの日、部屋に入ってきた人の一人だったと聞かされた。
その際に、私たちが似ている理由。そして私が乗り込んできたわけ。
全部喋ってしまったそうだ。
私が秘密にしている、肝心なことは話していないそうだが。
それでも納得できていないのだろう。
私が乗ってきたことで収めようとした感情が、溢れてきているといったところだろうか。
私は、彼女と二人きりで話さなければならないだろう。
それが私の行いの結果だから。
その日の夜、自分に当てられた部屋に来客があった。
その人物は、私の予想した人物だった。
「こんばんは、こんな夜中に何のようでしょうか」
マントを脱ぎ、瓶に入った水を、作ったワイングラスに注いでたずねる。
「ひとつ、聞きます。あなたに罪の意識はあったのですか?」
「罪の意識なんて、全くありませんでした。だって、私は世界一安全な場所を用意したつもりだったんですから。そこが、まさかアイアン・メイデンだったなんて、予想もしていませんでした」
「あなたは、あの子を殺すつもりがなかったと?」
「当たり前です。今現在、戦争中です。そんな中で――いえ、そうでなくとも、私は命をくだらないモノにするつもりはありませんでした。今となっては、そうしてきた人達と同じですね」
もう一つワイングラスを取り出し、水を注ぎ、彼女にすすめる。
彼女は首を横に振り、立ったまま――
「トリエは――あの子は、いつまでもつのですか」
「私は医者ではないですし、その専門知識も持っていません。ですから、はっきりとは言えませんが――」
その先を聞きますか?――と、無言で尋ねると、小さくうなずいた。
その覚悟を見届け、私は宣言した――
「今からの治療は間に合わないし――尚の事、私があの機体に乗り続けることで、防衛システムの方向性を彼女の延命に当てても――それほど長くありません」
「すぐに「ではありませんが、もう一度倒れるようなことがあれば――」……」
その先は言わずもがなであり、彼女もそれを理解したのだろう。
私は、彼女の目を見る。
月明かりが彼女を照らすも、ちょうど首から下までであり、その顔をうかがい知ることはできなかった。
ちょうど逆光になる私の顔も彼女には見えなかっただろう。
それでいいのだ、私がどんな顔をしていようと、たとえ涙がこぼれているのだとしても。
彼女には関係のないことだ。
「その日まで、あの子の――トリエの友達でいてくれますか?」
「あなたに言われなくても、トリエは私の友達」
「愚問でしたね」
そう言った私の言葉を最後に、彼女は部屋を出ていった。
私は、そのままグラスに残った水を飲み干した。
まるで、流した涙の分だけ補充するように。
ジュネーブまでもうまもなく。
何故か彼女が、レギオに憤るシーンが思い浮かびました。
考えたら、当たり前なんですよね。
『スクール』出身だからこそ。
トリエにしたことが許せない、でしょうから。