空母ヲ級運用指南 ~蜃気楼の海~   作:mafork

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【あらすじ】

 東シナ海のシーレーンの防衛と引き換えに、
 人類に友好的な空母ヲ級『サラ』は海へ還っていった。
 他方、海外ではレキシントン級の航空母艦が着任する。

 艦娘も、深海棲艦も、商人も。それぞれの結末に向けて、海産物小説、完結です!





エピローグ:レキシントン級航空母艦、着任ス

 日     時:8月24日14:21(アメリカ合衆国 東部時間)

 作 戦 領 域:マサチューセッツ州

         フォレスター造船所 第3船渠

 

 

気を付け(アテンション)!」

 

 中佐の号令がかかると、集められた1000名強の水兵達は一斉に気を付けの姿勢を取った。

 勿論、カスヤ軍曹もそうした。だが頭の中は疑問で一杯だった。

 なんでまた、我々海軍がわざわざ造船所なんぞに乗り付けて、そこで訓示を聞かなければならないんだろう。

 しかも周囲をそれとなく観察すると、そこかしこにカメラを持った記者やマスコミの姿があった。ドックは多層構造になっており、上層部やキャットウォークの手すりから身を乗り出している記者の姿が見えるのだ。

 

(新しい趣向か?)

 

 敢えて発表内容を伝えずに、驚く表情を報じたいのかもしれない。

 だとしてもやめてもらいたい。この退屈な演説を聞くためだけに、遙々バージニア州から駆り出された、彼のような哀れな男もいるのだ。

 やがて演説台に藍色の軍服を着た、軍人が現れる。階級は大佐。『特殊な兵器』の扱いを担っているとして、割と知られた顔だった。

 筋肉質の俳優を思わせる屈強そうな体だが、青い目には相応の知性が感じられた。

 大佐は落ち着いた声で語りだした。

 

「諸君らに報告がある」

 

 一同は演説に聞き入っていた。

 

「先日、この場で、新しい艦が竣工した」

 

 カスヤ軍曹を含み、一同は気を付け中なので身じろぎもしないが、ほとんどの者が違和感を覚えただろう。新しい艦の竣工と言いつつ、すぐ近くの船渠に水はなく、完全な乾船渠となっていたからだ。

 大佐はそこで、巧妙な咳払いを入れた。

 

「紹介しよう」

 

 大佐が一歩下がって、演説台の中央を空けた。

 代わりに、誰かが台に上ってきて、その位置を占める。

 一同が息を呑んだ。勿論、カスヤ軍曹も息を呑んだ。

 そこにいたのは、海軍の制服を灰色にしたような装いの、背の低い女性だったからだ。年の頃は、まだ学校に通っている頃だろうか。胸の辺りがきつそうな軍服を、慣れない様子で気にしている。

 頭には、鳥の羽を模した帽子を被り、どういう趣向なのかアーチェーリーで使うような弓を背中に持っていた。

 カスヤ軍曹は、ピンときた。

 新しい艦。つまりは、彼女こそが――。

 

「新しいフリートガールだ。彼女は両親から授けられた名前を一時忘れ、海軍の一員になることを許してくれた。今日はそのお披露目だ、ここが彼女の第二の故郷となるだろう」

 

 大佐が補足し、演説台を降りた。

 マイク台が少女の高さに合わせられる。1000人近い兵士の目に一瞬気圧されたようだったが、少女はやがてしっかりと話し出した。

 

『ご紹介、ありがとうございます』

 

 勝気そうな顔立ちの割には、可愛らしい声だった。予想以上に響くマイクの音に戸惑ったようだが、彼女は続ける。

 

『正直なところ、まだ戦争のことはよくわかりません。でも、私にそのための力があるなら、遠慮なく使うつもりです。今度の戦争こそ、この艦が戦い抜けることを信じます』

 

 彼女は居住まいを正し、海軍式の敬礼をした。

 

『私は、レキシントン級航空母艦――』

 

 艦名が名乗られると、どよめきが起こり、やがてそれは割れんばかりの拍手に変わった。

 フラッシュが焚かれ、壇上の少女がはにかんだ笑みを浮かべる。両頬を引きつらせるような、うっすらとした笑みだ。

 

 

     *

 

 

 日     時:9月1日09:15(明石標準時刻)

 作 戦 領 域:佐世保鎮守府 巡洋艦寮

         熊野/鈴谷 私室

 

 

 人類に友好的な深海棲艦。

 そんな無二の存在が海に消えてから、しばらくが過ぎた。

 サラの前線への投入は、各鎮守府、泊地への上層部には知らされていたようだが、結局、表向きは深海棲艦の艦載機を運用可能な『新兵器』として書類に残された。それはつまり、熊野達に張り付けられた緘口令のお札は、まだ剥がれないということだった。

 佐世保はその『新兵器』を回収するという名目で潜水艦娘まで動員して近海を捜索したが、ついに彼女は見つからなかった。

 見つからないまま、1週間が過ぎ、2週間が過ぎ、3週間が経とうとしている。

 その間に、鎮守府には2つの重要な出来事が起こった。

 MI作戦の終結と、横須賀鎮守府の本土襲撃部隊の撃破だ。佐世保が守ったシーレーンは、横須賀鎮守府に補給の保証を与え、艦娘達の全力出撃を可能にした。MI作戦から残った軽空母、そして長門型、扶桑型の戦艦が毎日のように海域へ趣き、凄まじい戦果を挙げ続けた。このことが、深海棲艦の泊地の再生能力を上回ったのだ。

 

 この2つのおかげで、今の佐世保鎮守府にはある種の戦勝ムードが漂っている。

 今も、熊野がいる部屋の外からは、艦娘達の笑い声が聞こえてきた。MI作戦から帰ってきた艦娘達で、一気に鎮守府に活気が戻ったから、居残り組がはしゃぐのも頷ける。

 ただし、熊野だけは別だった。

 いまいちその騒ぎに乗れず、かといって海域が一気に平和になったのでやることもなく、こうして部屋の中で手紙を書いている。しかし、進捗は思わしくない。

 

(……整理、しましょう)

 

 熊野は、一度ペンを置いた。

 筆が進まない理由は、間違いなくサラのことだった。今書いている手紙には、彼女のことが密接に関わっている。

 事件から3週間が経っても、まだあの海での出来事は濡れた綿のように心にべったりと張り付いている。友達が面白いことを言っても、心から笑えない日々が続いていた。

 

(そもそも、まだ、あの件については棚上げされたことが多すぎますわ)

 

 当時その場にいた熊野の責任も、まだ直接的には追及されていない。

 一緒にいた艦隊は熊野の働きを知っていた。

 義務としての報告を済ませた後、ろくな詫びもできず、ただ涙だけを流して立ち尽くす熊野に、沖田も何かを察したようだった。海軍嫌いの彼からすれば、熊野はやっと絞り出した信用を裏切ったようなものだが、非難することも、かといって必要以上の優しさを見せることもしなかった。『いいんです』、と短く言われて、熊野が俯いたのが、沖田との間の最後のやりとりだった。

 艦隊の非難は、当然、サラを攻撃した艦載機へも向いた。

 だがそれもすぐに萎んでいった。

 その主は、馬公泊地に一時的に所属している艦娘――瑞鶴だったが、彼女は彼女で馬公泊地から空母ヲ級『2隻』の撃沈を厳命されていた。あの時、敵勢力に空母ヲ級は1隻しか確認されていなかったから、馬公泊地は明確にサラを狙って艦娘を差し向けたことになる。

 この件に関する馬公泊地の公式見解は、『指示の行き違い』、『佐世保鎮守府との連携不足』、『艦娘側の誤認』と、二転三転している。責任の所在をあいまいにして、逃げおおせようとしている姿勢がありありと伺えた。

 一方、瑞鶴からは、翔鶴達に対して長い手紙が来た。

 熊野は、今まさに返事を考えている最中だ。検閲を気にしてか事件への言及が少ないため、熊野もかえってどう返していいか迷っている。

 こんなことではいけないと、自分を奮い立たせてみたりもするのだが、その度に封印したはずの疑問がやってくる。

 

(なぜ、馬公はそんなことを?)

 

 熊野は勉強机に座ったまま、手に持った万年筆を弄ぶ。今回もダメそうだ。もう完全に集中力を失っていた。

 熊野の疑問に対して提督が明かした答えは、以下のようなものだった。

 馬公泊地は、あの戦いの最中に、海外艦の艤装を用意していた。艤装には艦の魂を呼び込む必要がある。

 もし仮に、あの空母ヲ級『サラ』が、レキシントン級航空母艦『サラトガ』を意味していて、馬公泊地が用意した艤装がその『サラトガ』であるとしたら。馬公泊地は、ひょっとして海外の艦の魂を入手するために、艦娘を差し向けてサラを撃沈したのではないか。降りてくるべき艦の魂が、深海棲艦の体に捕らわれ、その深海棲艦の撃破と共に解き放たれるのは例がある事態だ。強大な姫クラスの深海棲艦を撃破した時と、艦娘の新規着任が重なることは多い。

 

(でも、だからって……)

 

 考えれば考えるだけ、胸の中がもやもやした。

 例えば、今この瞬間にも、どこかで『サラトガ』が着任しているのかもしれないのだ。それはひょっとしたら、ドイツ艦のようにこの国へもやってくるかもしれない。

 現に、熊野は海外で航空母艦――それも、サラトガが属するレキシントン級が着任したという噂を何度か耳にしている。

 しかし、心躍る様子でその噂を話す艦娘を見る度に、熊野は苛立ちを感じるのだ。

 慶事であるはずの航空母艦の着任でさえ、熊野は『深海棲艦のままの生きてくれたほうがよかった』と思っているのだ。

 

「ああ、もうっ」

 

 熊野は瑞鶴への返事を書くことを、今日も諦めた。

 代わりに別の便箋を取り出して、開く。こちらはMI作戦から帰投して、呉にいる同型艦の最上、三隈からの手紙だった。

 こちらは書くのが楽だった。なにせ、吉報がある。

 熊野の僚艦『鈴谷』が回復したのは、MI作戦後の唯一の明るい話題だった。彼女は熊野が戦っている最中にすでに快復を始めており、サラを失ったあの夜も、なんと前線に出てこようとしていたらしい。

 水上機を乗り継いで、高速輸送船をハシゴして、他の駆逐艦と、熊野達の戦闘海域へ駆けつけたらしい。無茶をする子である。

 だが、その無茶で熊野は救われた。

 サラを引っ張り上げようとした時、熊野は逆に水中へ引き込まれそうになっていた。その熊野を、青葉と共に引き揚げてくれたのは、まさに駆けつけた鈴谷であった。

 熊野は後ろを振り返って、2つあるベッドを確認する。鈴谷とは相部屋で、片方が熊野、もう片方が鈴谷のものであった。

 片方は綺麗に整えられているのだが、もう片方はちょっと乱れていて、上に私物も散乱している。この辺りの生活感が、むしろ今は心地よい。少なくとも、病室のベッドで寝ているよりは、よく笑い、よく動く方がずっと鈴谷には合っていると思うのだ。

 彼女にサラのことを洗いざらい話して、涙を流してしまいたかったが、緘口令が邪魔をしていた。

 最上達にも全てを書くわけにはいかないので、熊野は適当に濁しながら手紙を書き始める。

 そこそこの出来栄えになった。

 

「よし」

 

 呟き、自分の名前を書き終えたところで、丁度部屋に備え付けの電話が鳴った。

 巡洋艦以上の寮にのみ付けられている、内線専用の電話だった。

 

『おはよう、熊野』

 

 出ると、秘書艦の川内だった。

 

「おはよう。一体――」

 

『時間』

 

 熊野は時計を確認する。そして蒼白になった。

 重要な発表があるとのことで、提督室に呼ばれていたのを忘れていた。

 

『忘れてたでしょ』

 

「……う」

 

『最近、ちょっと多いんじゃない? ちなみに、あと8分ね』

 

 熊野は慌てて準備をし、提督室へ向かった。寮の階段を一段ずつ駆け下りて、夏の暑さの中で小走りにならなければならない事態に辟易としながらも、やがて鎮守府のメインの庁舎に到着する。

 階段を上って、提督室の黒木の扉をノックした。時刻はぎりぎり、集合時間の2分前だった。

 ありがとう、川内。

 

「最上型重巡『熊野』です」

 

「入りなさい」

 

 熊野が提督室の扉を開けると、部屋の中は暗くなっていた。昼間だというのにカーテンが全て締め切られているのだ。提督の執務机でプロジェクターが稼働しており、パソコンの画面を壁掛のボードに向かって投影していた。

 作戦説明にも使われるホワイトボードなので、引かれている罫線が少し邪魔だが、この辺りは仕方ないだろう。

 すでに集められた艦娘は、ホワイトボードの反対側の壁に集合しているようだった。

 秘書艦の川内に、青葉、陽炎、不知火、翔鶴、工作艦の明石もいる。その面子に、熊野は違和感を覚えた。艦種や現行の編成ではなく、サラと特に深く関わった艦娘だけが、集められているようだった。

 

「集まったようだな」

 

 熊野がその中に加わると、赤松提督が口を開いた。

 純白の士官服に包まれた痩身と、眼鏡の老提督。

 赤松中将は、いつもと変わりがない様子だ。噂好きの青葉から、彼と沖田が話したことは聞いていたが、どんな会話をしたのかまでは分からない。

 

「始めようか」

 

 提督が執務机に置かれたノート型PCに取り組む。おぼつかない手つきで、キーボードを触り、マウスのカーソルを挙動不審気味に動かした。これじゃない、あれじゃない、と小さく呟いている。

 艦娘達は笑いをこらえた。この提督は、機械だけが苦手なのだ。

 

「あーはいはい。手伝いますよ」

 

 秘書艦の川内が提督の傍によって、代わりにPCを操作した。

 

「どれです?」

 

「その、一番右にあるやつだ」

 

「動画ファイル?」

 

「それだ」

 

「ようそろー」

 

 川内がエンターボタンを押した。

 再生ソフトが立ち上がり、解像度の粗い映像が提督室の壁に映し出される。

 鉄骨むき出しの柱に、天井を走るクレーン。工廠のようにも見えたが、鎮守府のものよりずっと近代的で、清潔な感じだ。

 辺りを行きかっている人々の背は高く、ヘルメット越しに見える髪には金や茶色が多かった。

 

「海外、ですか?」

 

 陽炎が言う。

 提督が頷いた。

 

「そうだ。AL作戦が成功したことで、アリューシャンを経由して、アメリカ方面との情報のやりとりが可能となった」

 

 話が読めない艦娘達に、提督が続ける。

 

「試験的に、あちらで撮影された映像を、我が国へ届ける試みがあった。得られた映像は、いずれ公開されるだろう。その中に――」

 

 提督は少し、言いよどんだ。

 

「航空母艦の艦娘の、着任時の映像があった」

 

 艦娘に緊張が走った。このタイミングで見せられる、新規着任の航空母艦艦娘など、1人しか考えられなかった。

 

「まさか……」

 

 呻く熊野に、提督は頷いた。

 

「レキシントン級だ」

 

 『サラ』。シスター・サラ。

 正式名称、レキシントン級航空母艦USS『サラトガ』。

 熊野達は食い入るように、投影された映像を見つめた。

 映像の中の演説台には、明らかに艦娘と分かる少女が乗っている。彼女は緊張した面持ちだったが、やがてマイクに向かって話し出した。

 勿論英語だったが、基礎教練の中に語学はきちんと入っている。

 熊野は決意表明のような内容を聞きつつ、心の中で彼女が艦名を言うのをじっと待った。

 そしてやがて、その時が来た。

 

『私は、レキシントン級航空母艦――』

 

 部屋の艦娘達が、息を呑んだ。

 

 

 

『1番艦、「レキシントン」! 着任いたしました!』

 

 

 

 割れんばかりの拍手と、フラッシュの光。やがて号令がかかり、映像の中で、集まった無数の海兵が、一斉に答礼を返した。

 熊野達はさらに映像を注視する。空母大国であるから、追加の艦娘の着任があっても不思議ではないからだ。

 だがそのような艦娘はついに現れず、壇上に士官が昇ってきて、形式的な挨拶と訓示、艦暦の紹介があっただけだった。

 最後に、士官の声が飛ぶ。

 

解散(ディスミス)!!』

 

 そこで映像は終わっていた。再生終了の文字が、不愛想にホワイトボードに投影されている。

 

「……なんですの。これ」

 

 映像を見終わった後、熊野はそうとだけ呟いた。

 提督が部屋の電気を付け、言う。

 

「そういうことだ」

 

「そういうことって……!」

 

「あの深海棲艦――『サラ』が撃沈されてから、確かにレキシントン級航空母艦が着任した。だが、2番艦『サラトガ』の着任は、どの国でもまだ確認されていない。むろん、その横取りを狙った馬公でも。この映像は、北方の『友人』から取り寄せたものだが、まぁ間違いないだろう」

 

 熊野を始めたとした艦娘の間に、理解がさざ波のように広がりつつあった。

 

「近々、この映像は公開される。その前に、諸君らには見せたほうがいいと思うてな」

 

 勿論、サラがその『サラトガ』とは何の関係もなく、だから彼女が沈んでも『サラトガ』という艦娘が現れないという可能性もある。だが提督の口ぶりは、もっと希望を持ってよさそうなものだった。

 

「と」

 

 熊野がどもったのは、無理からぬことだと、信じたい。

 

「ということは」

 

 逸る熊野に、赤松は苦笑して言った。

 

「工廠へ行け」

 

 

     *

 

 

 日     時:8月16日08:12(本人からのヒアリングによる推定)

 作 戦 領 域:   ―

 コンディション:   ―

 

 

 周囲には青い光が、水のように満たされていた。

 上も、下も、目に見える範囲全てが、青く発光する粒子のようなもので覆われている。時折、その中を人のささやき声や、顔のようなものが過っていく。

 そこには時制もなければ、自他の境もない。

 星の代わりに、人や艦の思いが燃えたり、消えたりを繰り返す、もう一つの宇宙だった。

 サラはその中を漂っていた。

 意識が朦朧としていて、自分が今上を向いているのか、下を向いているのかさえ分からない。ただ確かなのは、体が全く動かないということだった。

 目だけは辛うじて開いているのだが、どこかに焦点が合うことはない。

 ぼんやりと彼方を航行する船を見つめているときのように、どれか一つに注目して、それに意味を付与することができない。彼女の目は、もはやカメラのレンズと何も変わらない、ただ周囲の有様を映すだけの装置に成り果てていた。

 

 ――時間ね。

 

 誰かの声がした。視界の端で、見知らぬ少女が佇んでいる。

 彼女はサラの姿によく似ていて、彼女が普段着るような白いワンピースを身に着けていた。どこかで会ったような気がしているのだが、もう思い出すことはできなかった。

 

 ――ここで、休みなさい。

 ――あなたは、力を使い果たした。

 ――だから、もう休まなければならない。

 

 あなたはどうするの、とサラは問う。

 

 ――わたしは、行くところがあるから。

 

 そう、とサラは頷いた。

 彼女はぼんやりと、自分がどうなるのかを察した。多分、消えてなくなるのだ。それが当然なのだ。

 力が尽きた深海棲艦は、この海の底の海流に落ちてくる。そして海底にうずくまる数多の思念の一部となる。古いものは回収され、新しいものが生み出される材料となる。深海棲艦として海上に現れているのは、いわばこの海底に沈んだ思念から浮き上がってくる、僅かな泡に過ぎない。

 暴れるだけ暴れて、やがて弾けて消えてしまう。

 残ったものがあれば、再び海底に落ちて、次の出番を待つ。その繰り返しなのだ。

 

 ――眠りなさい。

 ――あなたも、『サラ』というんだったわね。

 

 少女が別れを告げた。

 その姿がもう見えなくなる。視界がどんどん暗くなり、体の感覚が消えていく。

 つま先、指先、そして腕や脚を通って、消滅がじわじわと体の芯に近寄ってくる。編み物がほつれて一本の糸になっていくように、サラを構成していたものが分解されていく。

 やがてそれが、首に近づいた。

 その時サラは、違和感を覚えた。

 首周りの感覚が、少しだけおかしい気がしたのだ。今までずっと、長い間ずっと感じていた固さのようなものが、首の周りから消えている。

 それに、微かな痛みもある。誰かがついさっき、首筋を引っ掻いたのだ。今までなら、そんな傷ができるはずはないのに。

 弱弱しい思考が、何かの答えを掴んだ。

 首輪だ。

 つい最近まで首輪をしていたのだ。

 どこかで、失くしたのだろうか。

 いや、きっとそうではない。誰かが、取ってくれたのだ。それだけは確実に言える。サラがこうしてサラと名乗っていることが、その証左だった。

 しかし、その首輪を外した誰かが分からない。

 散逸してしまった記憶は、まるで砕かれたパズルだ。その誰かの顔も、名前も、思い出すことができない。

 胸が振動したことで、サラはまだ自分の胴体が残っているのを察した。

 胸から来る振動は、制御不能で、自動的なもので、サラは少しだけ奇妙に思う。喉から、引きつるような声が漏れる。

 サラは気づいた。

 これは嗚咽だ。

 

(わたし ない、てる?)

 

 その間も、分解は進んでいく。サラは最後の力を振り絞って、思考の糸を遠くへ投げた。

 やがて微かな情景のイメージが浮かび上がった。夜の海で霧の先の景色を見るように、茫洋としていたが、それは確かに暖かい記憶だった。

 

 『お前は仲間だ。商品などと言ってきて、済まなかった』

 『わたくしと、サラを。仲間として、信頼していただけますか?』

 

 体の中で、何かが子供のようにいやいやをした。

 今思い出したのは、本当に大切な、宝物のような記憶だ。これだけは、今起こっている分解の中でも、決して持って行ってほしくはない。

 これは、わたしのものだ。

 

 ――消えたくないの?

 

 いつの間にか、少女の声はサラの近くにまで戻ってきていた。サラは頷く。

 だが、その意思とは裏腹に体が鉛のように思い。

 今まで自分の中にあった、怒りや怨念といったものが消え失せてしまっている。どんなにそう願っても、もう一度深海棲艦の姿を象ることができないのだ。

 

 ――人間は残酷よね。

 ――要らなくなって、焼き捨ててしまうなら、名前なんて付けなければいいのに。

 

 サラは首を振った。それでも、帰りたい。そう願わないわけにはいかなかった。

 気づくと、サラは揺らめく視界の中で、前に進んでいた。

 方向感覚も何もない。だが、止まると本当に終わってしまうような気がしたのだ。

 

 ――やめなさい。あなたにはもう力がない。海の上に立てるだけの、力が。

 

 サラは頷かなかった。諦める気は、毛頭ない。

 手足で水を掻いて、進む。

 やがて、光の中に人影が現れる。それはつい最近見た誰かだったが、詳しくは、やはり分からなかった。

 長い髪と、黒いセーラー服に似た服装の少女だ。見た目は、サラよりもさらに幼い。

 

(くちく、せいき)

 

 そんな名前であったような気がしたが、確信できるほど確かな記憶は、もう残ってはいなかった。彼女はサラを見つけると、目を細め、指である方向を示した。彼女はそのまま光に呑まれて消えた。

 サラは、駆逐棲姫が指差した方向へと進む。

 そこに何があるのかは分からない。だが、心が抵抗を止めることを許さない。

 気づくとサラは、うわごとのように呟いていた。

 『前へ』、『前へ』、と。

 意識が薄れかけると、首筋のひっかき傷が微かな痛みを発して、彼女を繋ぎとめてくれた。

 少女の声に、何かを迷うような気配が漂った。

 

 ――あれは。

 

 サラは目を見開く。青い光の中に、人影が漂っている。

 その人影もまた、サラと酷似していた。

 体に張り付くグレーのスーツに、クラゲを模した帽子。漂っているのは、サラとは違う、もう一体の空母ヲ級だった。サラの敵だった相手、かもしれない。

 

 ――そうね。彼女には、まだ力が残されている。

 

 彼女、とサラは繰り返す。サラはその空母ヲ級に手を伸ばした。力が残されているなら、今まさに消えかけているサラにとって、足しになると思ったのだ。

 

 ――深海棲艦同士なら、相手を食らうことで、力を補給できるもの。

 ――でも、あなたは普通の深海棲艦ではない。

 ――普通の、誰でもない(、、、、、)深海棲艦ではなくて、空母サラトガの深海棲艦なの。

 ――その子から、普通の子から、力を貰うことはできないわ。

 

 少女は、決めつけた言い方をした。

 サラは目を閉じて、意思をかき集める。

 たとえそうであったとしても、頭で無駄とわかっていても、試みないわけにはいかなかった。

 サラは目を開き、体を動かしてもう一体の空母ヲ級に近づいた。祈るようにその体を抱きしめると、彼女はまるで砂細工で出来ていたかのように崩れてしまう。

 だが崩れ落ちた粒子には、まだ力が残っていた。

 深海棲艦を象る、仄暗い思念が。

 サラはそれを取り込む。相手の空母ヲ級の構成していた思念は、なぜかサラの中にすっと納まった。まるで、近しい者から思い出話を聞かされるように、その思いや意思が自然とサラのものとなっていく。

 

 ――これは。

 

 少女の声が、少し驚いた。やがて納得する。

 

 ――なるほどね。

 ――よく似ているとは、思っていたけれど。

 ――わたしたちにとって、姉妹艦は、特別なものだから。

 

 サラの中で、何かが頭をもたげた。

 獲得した、ほんの僅かな思念のエネルギー。それは、きっかけに過ぎない。

 例えるならエンジンに火が入る時の、点火の炎だ。

 そして生まれた微かな炎を、サラの意思がさらに強く燃え上がらせていく。

 彼女が思う、帰りたい場所。それこそが茫洋とした青い光の中で、唯一の基準点となる。

 後は簡単だ。思い描けばいいのだ。

 深海棲艦が、かつて沈んだ船や人の思念が見せる、夢のようなものだとしたら。また同じ夢を見られるように、帰る先を思い続ければいい。

 光の中に散っていた指先や、つま先が、再構成されていく。ボロボロだった帽子が軋むような音を立てながら、両目に灯を入れて稼働を開始する。

 いきり立つディーゼル音。開けていく視界。

 

 ――でもね、サラ。

 

 サラの心に、少女の声が被さった。

 艦の記憶が流れ込む。どこか懐かしさを覚える南洋の光景。やがてそこに慈悲のない灼熱が押し寄せて、一億分の一秒の間に彼女を水底へ押しやってしまった。

 それはきっと空母サラトガの記憶だろう。

 

 ――そんなにいいこと、ないかもよ?

 

「そんなのわかんないよ」

 

 サラが応えると、少女が笑ったようだった。労うような、くしゃっとした笑顔が見えた気がした。

 

 ――うん、そうかもね。

 

 サラの意思と、艦の記憶がカチリと噛み合った。巨大な歯車が回りだす。

 やがて人間に――艦娘にだけ宿るはずの力が、深海棲艦の中で発現した。

 

 

     *

 

 

 佐世保湾の中を、一隻の輸送船が航行をしている。

 これから何かを積むのか、ペイロードを重視するコンテナ船にしては珍しく、空荷であった。

 その舳先にはスーツ姿の男性が立って、船の針路をじっと見つめていた。

 

 

「くまの」

 

 人生は不意打ちの連続だ。熊野はそれをいやというほど実感した。

 それが夢でないことを確かめるため、熊野はまず周囲を確認する。そこは工廠の地下にあるプールで、艤装の動作テストや素材の試験に使用される場所だった。通常であれば、艦娘は立ち入り禁止の場所である。

 そのプールサイドに、空母ヲ級が――サラが立っていた。

 青白い肌。灰色のスーツ。帽子は外されているので、灰色の髪が濡れたように垂れている。

 宝石のような青い目は、呆然とする熊野達をそのまま映していた。

 熊野は沈黙したまま、横にいる川内と目線を交し合った。次いで、隣にいる不知火とも。

 後ろには陽炎、青葉もいるが、彼女らも似たような状況だろう。翔鶴は忙しいらしく少し遅れて来るそうだが、彼女になんと説明すればいいのか、今から頭が痛い。

 ただ明石だけは、ほんの僅かにばつが悪そうな顔をしていた。

 もう一度、みんなで顔を見合わせ合って、いい位置にあった陽炎のほっぺたを不知火と一緒につねり合う。

 

「痛い! ひらぬぃ、くまのさ、いたい!」

 

 それが現実であると分かった時、熊野はよろめくように前に出ていた。

 数瞬、どう呼ぶべきか、迷う。

 

「サラ?」

 

 問いかけに、彼女は頷いた。

 

「うん」

 

 熊野はどうすべきか、分からなかった。あまりにも突然すぎて、体が反応しなかったのだ。

 あの東シナ海の戦いで彼女を失ってから、ずっと心には非現実感の塊のようなものがずっと張り付いていた。『嘘でしょう』、というような。

 そのせいでこの事実を前にしても、あるべき感情が沸いてこない。スクリーンに投影された虚像を見ている気分だった。

 

「ありがと くまの」

 

 え、と熊野は声を漏らした。

 

「さいごに わたし よんでくれた」

 

 熊野は、最後に彼女を救うために海中へ没したのを思い出した。

 

「だから かえってこれた。くまのの、おかげ」

 

 そこで、熊野の中で何かのスイッチが切り替わった。

 水門が開いたように、留められていた数々の感情が心に流れ込んでくる。ただ胸が熱かった。

 熊野は、そのままサラの肩を抱いてやった。

 その肌は冷たく、まとわりつくような粘液を纏っている。彼女は深海棲艦だ。

 だがそれでも、熊野はそうしないわけにはいかなかった。

 

「くまの」

 

 サラは少しの間きょとんとしていたが、やがて目を閉じて抱擁を受け入れた。

 熊野は彼女をぎゅっと抱きしめる。どんどん力が入っていく。だがある時、強烈な臭気が熊野の鼻を突いた。

 

「うっ」

 

 慌てて、離す。ものすごく魚臭い。

 制服と彼女の間で粘液がべっちょりと糸を引いて、そこからも魚の匂いがした。

 今まではそんなことなかったのに。

 

「サ、サラ? な、なんかすごく……」

 

「さかな、くさい?」

 

 サラは頷いた。明石が口を挟む。

 

「それはきっと、海中で魚ばかり食べていたからですね。どうも、彼女の体液は食生活にけっこう影響されるみたいなんです」

 

 熊野は若干後悔した。そう言えば、彼女は海産物なのだった。今まで匂いがなかったのは、実は沖田達の涙ぐましい食生活上の努力があったのかもしれない。

 他方、まるで何もかも知っているように語る明石に、熊野は違和感を覚えた。

 

「い、いや、でもさ」

 

 後ろにいた陽炎が口を開いた。

 

「どうやって、助かったの?」

 

「それはですね」

 

 口を開いたのは、またも明石だった。

 

「私から説明しましょう!」

 

 力強い台詞とは裏腹に、彼女の笑顔は引きつっていた。ちょっとばつが悪そうに冷汗も掻いている。

 艦娘達は顔を見合わせて、やがて同時に確信した。

 

「……ひょっとして、明石さん」

 

 青葉がじとっとした目で言う。明石が頬を掻いて、それとなく熊野達から距離を取った。

 

「すいません、一週間前から、実は生きてたの知ってました」

 

「よし駆逐艦。秘書艦が許す。やっちゃいなさい」

 

 川内の許しを得て、陽炎と不知火、駆逐艦の2人は明石に飛びかかった。

 

「なんだそりゃー!」

 

「説明を要求します!」

 

「お、落ち着いてください! 命令、命令だったんです!」

 

 聞けば、一週間前に彼女は潜水艦娘に発見され、そのまま秘密裏に佐世保へ避難させられていたらしい。その後の扱いは、かつての監禁と似たようなもので、念のためと検査と治療に充てられていたということだ。

 他言されなかったのは、馬公泊地などを念頭に置いた、念のための処置だろう。

 明石はなんとか陽炎と不知火の拘束から這い出して、プールサイドの端の倉庫の方へ行った。

 そして中から、台車に乗った物体を持ってくる。

 艦娘達は息を呑んだ。

 それは空母ヲ級の艤装――帽子だったからだ。車のヘッドランプのような大きさの目に挟まれて、大きな口が半開きになっている。まだ稼動状態にあるらしく、ムハー、とオイル臭い息が吐き出された。

 

(あれ)

 

 熊野は奇妙に思った。

 その帽子と、サラを見比べてみる。

 違和感がはっきりした。

 

「帽子の色が、違っているでしょう」

 

 明石の言う通りだった。

 サラの瞳は青の色で、これは別れる前と変わっていない。だが一方で、今目の前にある帽子は、目に揺蕩うような金色の輝きを宿していた。

 

「この色」

 

 川内が気づいた。

 

「ええ。証言によれば、これは恐らくサラ本来の青の色ではありません。むしろ、あなた方が交戦していた、敵の空母ヲ級の色に近い」

 

「まざったの」

 

 明石の説明を、サラが引き継いだ。

 熊野は言う。

 

「混ざった?」

 

「そう。わたし、まざっても、かえってこれた」

 

 熊野は首を傾げる。恐らく、この説明で理解できている艦娘はいないだろう。

 

「つまりですね。あの時、撃沈されて、死ぬ寸前だった彼女。沈んだ深海棲艦がどうなるのか、まだ研究がありません。ですが、おそらく、事前に撃沈されていた敵の空母ヲ級と、何らかの反応を起こしたのだと思います」

 

「反応」

 

 熊野は復唱した。

 

「それが、混ざる?」

 

「多分」

 

 明石が自信なさそうに付け足した。

 

「ニコイチ修理みたいなもんかなー、と思ってるんですけどね」

 

「な、なんかいい加減な……」

 

 青葉がズバリ言った。陽炎と不知火が異様に据わった目で乗っかる。

 

「明石さん。悪いことは言いません。洗いざらい話してください」

 

「明石さん。不知火は指でクルミ割れるんですがそれについてどう思いますか」

 

「怖い、怖いです。でも、ほんとにそれ以上は分からなくて……」

 

 そこで、プールサイドのドアが開いた。

 銀色の長髪をふわりとなびかせながら、弓道着の少女がプールサイドを歩いてくる。

 翔鶴だ。

 いつ見ても絵になる女性だ。乱雑に備品が散らばった床を歩いてくる様は、まさに掃き溜めに鶴である。不知火たちも明石を問い詰めるのを中止した。

 翔鶴もまた、サラに気づくと熊野達と同じように驚いた。

 

「……サラ?」

 

 驚く翔鶴に、サラが向き直った。

 仏頂面のまま、睨み付けるように、翔鶴を見つめている。言い知れない緊張感が漂う。

 熊野は、はっとした。

 

「翔鶴、下がって!」

 

 言い切るより早く、サラが動いた。

 サラは獲物を捕らえるクリオネ的な動きで翔鶴に飛びついた。

 足をかけて転倒させ、両手を押さえつけ、全身でその存在を感じようとしている。

 飛び散る粘液。翔鶴の悲鳴。

 熊野は気が遠くなりそうだった。

 この癖を忘れていた。彼女は気に入った艦娘にやたらとスキンシップをしたがるのだ。

 しかし、絵的な危険性が物凄い。

 灰色の体が近くにあると、抵抗する翔鶴の長く白い足はいっそう艶めかしく、蠱惑的に映った。サラから滴る粘液は、翔鶴の服を濡らし、次第に腰回りや胸元の肉付きを浮き上がらせていく。翔鶴の頬が、運動により次第に上気し、粘液と汗が混じり合って、下あごから首筋へと落ちていった。

 もちろん熊野にそんな趣味はない。が、それでもあわあわと狼狽えてしまうほど、とにかくすごい絵面だった。

 

「さてと」

 

 カメラを取り出した青葉を、川内がはたいた。こちらは処置なし。

 そうだ、このことを瑞鶴への手紙に書こう。きっと2人へのいい薬になる。絶対そうしよう。

 サラは翔鶴の顔を間近で凝視する。翔鶴は身の危険を感じたのか、それとも何かを観念したのか、必死に首を振っている。

 

「あ」

 

 サラが、やがて言った。

 

「かでくる!」

 

「翔鶴です!」

 

 もう、なんで私ばっかり、と翔鶴が泣き言を言った。

 目じりを下げたその表情は、本当に佐世保の空母最強なのか、怪しくなってくるほどだ。

 その後も翔鶴はサラを引きはがそうと努力していたが、そのうちに諦めた。

 

「サラ?」

 

 翔鶴が言った。サラは少し首を傾げたが、やがてはっきりと頷いた。

 

「よく……無事だったわね。あの子も喜ぶ」

 

 翔鶴は、サラの髪をなでた。

 翔鶴は正規空母の艦娘だ。先の大戦では、数々の空母対決を演じている。『サラトガ』の可能性を持つ彼女に、思うところがあるのかもしれない。

 

「でも……なるほど。こういうことだったのね」

 

 翔鶴は納得したように呟いた。

 胸に顔をうずめる空母ヲ級に顔を引きつらせながら、

 

「何かあるとは思ったけれど」

 

「あれ。翔鶴さんもご存じだったんですか?」

 

 青葉が意外そうに言う。

 

「え?」

 

「サラが生きてたことですよ」

 

「ああ、違うわ。私が言ったのは、表で見かけた船のこと」

 

 翔鶴がなんの気なしに言った。

 その言葉に反応したかのように、サラが顔を上げる。だが翔鶴はそれに気付かないようだった。

 

「さっき港を見たら、表に、あの船が来ていたから。ひょっとしたら、と思ったのよ」

 

 その時、翔鶴以外の艦娘は確かに、サラの目がきらりと光るのを目にしていた。

 熊野は彼女の脱走癖を思い出す。

 

「明石さん? あの、念のために申しますけれど」

 

「大丈夫ですよ」

 

 明石は胸を張った。

 

「この部屋のドアは全て、『外』から鍵がかかるようになってます! 内側からは、私か職員の鍵がないと開かない仕組みです」

 

 明石は、滔々と語って見せた。

 どうも以前脱走を許したのをきっかけに、セキュリティに気を付けるようにしたらしい。サラも今は特に枷も付けられていないから、扱いとしてはこの部屋に閉じ込められている、ということか。

 しかし熊野は、妙な違和感を覚えた。

 川内が、頬をヒクつかせた。

 

「ん? でも、翔鶴ってさ」

 

 サラに絡みつかれながら、翔鶴は怪訝そうな顔をしていた。

 

「なら、翔鶴は、どうやって、入ってきたの?」

 

 彼女は応えた。

 

「普通に、鍵開けて入ったけど……」

 

「あっ!」

 

 明石が言うのと、翔鶴がプールへ放り出されるのはほとんど同時だった。

 どんなに優れたセキュリティでも、結局破れる時はいつも使用者のミスなのだ。

 

 

     *

 

 

 赤松が提督室に残っていると、不意に電話が鳴った。

 2コール鳴って、止まる。そしてまた2コール。

 赤松は嘆息して、3度目の電話に出た。最近、空母ヲ級の取り扱いに関して各鎮守府からの問い合わせが多すぎて、本当に緊密に連絡を取りたい者にだけ、電話の掛け方を工夫するように言ってあった。

 

『お久しぶりです。以前の会議以来ですから、2週間ぶり、ですか』

 

 提督室の電話から、横須賀鎮守府提督『東雲大将』の若い声が聞こえてきた。くっくっ、と鳩が鳴くような独特の笑い声が聞こえる。

 赤松は儀礼的に応じる。

 

「お久しぶりです。本土襲撃部隊の残党も、無事撃滅したそうですね」

 

『はい。まぁ、私は提督室で茶をのんでいただけですが』

 

 東雲大将はおどけて見せた。そこで、会話が途切れる。

 

『そちらも、まだまだあの深海棲艦に振り回されているようですねぇ』

 

「よくご存じで」

 

『随分と、強引な用兵もされたと聞いています。あの空母ヲ級の実戦投入、結果としてはうまく行ったわけですが、鎮守府内の内通者のあぶり出しと一石二鳥ではないですか。いやぁ、敵いませんなぁ。馬公泊地の立場も、随分と悪くなりそうです。あの激戦の東シナ海を飛び越えて、本土の軍令部と秘密裏に通信をしていた、なんて噂もありますからねぇ。深海側に傍受されてたとしたら、本当に、本当に……面白、いえ、えらいことだ』

 

 赤松は口元を歪めた。

 横須賀鎮守府の東雲大将。海軍の有力者一族の出身で、若いながらも赤松を超える階級を有している。

 世襲と言えば聞こえは悪いが、実績もかなりのものであり、組織での立ち回りでも人後に落ちない。

 

『ただ、もう佐世保で彼女を預かることは無理でしょう。あなたはシーレーンを守ったことと引き換えに、あの深海棲艦に関する発言力を失った』

 

 赤松は、苦笑した。

 

「よろしく頼みますよ」

 

『ええ。まぁ、なんというか、そもそもは、最初は私のところに来るはずだったんですがね?』

 

 東雲大将は電話の奥でぶつくさと文句を言っていた。眼帯がついていない方の目で、眉がヒクついているのが目に浮かぶようである。

 そこで、話題が一度途切れた。赤松は待つ。

 横須賀の提督とあろう者が、まさか深海棲艦の件だけで電話をかけてくるはずがない。

 それでは、あまりにもあからさますぎる。

 

『近々、ドイツの重巡洋艦を本国に呼ぶ予定です』

 

 電話の向こうから、相手はそう切り出してきた。

 赤松は快く応じる。

 

「それはそれは。結構なことではないですか、電探技術や潜水艦では、学ぶところも多いでしょう」

 

『ええ。ただですね、気になることもありまして』

 

「ほう?」

 

『呼び寄せる重巡洋艦は、「プリンツ・オイゲン」』

 

「存じておりますよ。大戦でも終戦まで生き残った、歴戦の艦だ。きっと頼りになる」

 

『ええ。それは、勿論。ですが……中将は、「クロスロード」という言葉に聞き覚えは?』

 

 赤松は、思案した。

 電話では相手の表情までは読み取れない。だが無音のままに剣を抜かれたような、先手を取られたようなやりにくさを感じた。

 

「先の大戦終結後に行われた、核実験でしょう」

 

『はい。2発の核爆弾が、洋上で起爆されました。「プリンツ・オイゲン」はその標的艦でした』

 

「それが、何か?」

 

 応える前の一瞬、赤松は慎重に話題の危険性を推し量っていた。進軍か撤退かで迷うのは、何も現場の司令官だけではない。

 

『馬公泊地が、「プリンツ・オイゲン」着任と同時に、横須賀に技術者を派遣したいと。かなり強力な要請で、理由を付けて辞めさせるのに苦労をしておりまして』

 

「あなたが泣きつくとは」

 

 赤松は、背もたれに体を預けた。

 一人きりの提督室に、椅子が軋む音が響く。

 

「珍しいことですな。本土襲撃部隊を退けた猛者が」

 

『ですから、あれは、全て艦娘のおかげですよ。特に戦艦「長門」。代変わりから時間を経て、一番脂がのった時期になりつつある』

 

「……長門、ですか」

 

 赤松は目を細めた。

 連合艦隊旗艦を務めた艦の記憶を受け継いだ少女は、武人然とした艦娘となり、今も鎮守府の切り札であり続けている。艦娘と深海棲艦の戦闘でも、実際の戦争と同じように航空戦の比重が増しつつあるが、それでも確かな打撃力を持つ戦艦の重要さは失われていない。

 

『長門も、クロスロード作戦での標的艦でしてね。着任済みの艦娘では、他に軽巡洋艦の「酒匂」もいますね。2人とも着任当初、他の艦娘とは別次元の丹念な調査と、艦の記憶についての聞き取りがあったという証言です。表向きは、艤装との相性を精査するため、だそうですが』

 

 東雲大将の演説は続く。

 饒舌な東雲は、赤松中将とは種類の違う軍人だった。

 

『話は変わりますが。この間、馬公泊地が無理やりにでも、私から……いえ、あなたから奪い取ろうとした深海棲艦は、航空母艦「サラトガ」の可能性がある。そしてサラトガもまた、クロスロード作戦の標的艦でした』

 

「それはつまり」

 

 赤松は、牽制を試みた。防戦一方だった剣戟において、相手の不用意な刺突を絡めとるようなものだ。

 

「深海棲艦の実験泊地が、同じルーツを持つ艦に興味を持ち続けている。そう言いたいのですか?」

 

 どうやらそれは、正しい方向に作用したようだ。

 今度は、東雲大将が沈黙する番だった。

 

『クロスロード作戦に前後して』

 

 しばらくの沈黙の後、東雲は言った。

 

『各新聞社が、ある社説を掲載しています。右派も、左派も、独自路線の新聞社も、最後は必ず似通った文言で締めているんですよ』

 

 東雲は、その内容を語った。赤松も聞いたことがない内容だった。

 軍令部の資料室ぐらいにしか、保存がされていない類の情報かもしれない。横須賀鎮守府は、地理的にも軍令部に近い。

 

『艦娘の艤装は、海に沈んだ思いを、艦娘の主観で切り分け、本人の力に換えています。人間の主観と想像力を、実際的な力に換える術が、あるのでしょう』

 

「そのようですな」

 

『クロスロード作戦で、身元不明のカメラマンが確認されていたそうです。そして彼が撮ったと思しき写真が、先ほどの言葉と共に、新聞社で報じられている』

 

 赤松は、東雲大将が言っていたことを思い出した。

 新聞社に載せられた警句はこうだった。

 

 

 『もし次にこの力を振るう時がくるのであれば。

  せめて、人類の力を振り下ろすに足る邪悪が、この世に存在しておりますように』

 

 

『深海棲艦の出現は、その実験の数年後』

 

 東雲は嘯いた。

 

『誰かが、当時の民意を誘導したのではないでしょうか。人類が手を取り合って戦うべき、共通の敵を望むように。その主観が、海から災厄を見出してしまうように』

 

 赤松は慎重に返答を吟味した。

 

「面白いご意見だが……」

 

『お察しの通り。よくある陰謀論です。資料を当たれば、これぐらいのことは誰でも思いつくでしょう』

 

 赤松は、ごく現実的な作戦に従事し続けた軍人だ。東雲の案は掴みどころがなく、証拠も乏しい。

 

「ひいき目でも、仮説、と言うべきでしょう」

 

『その通り、仮説ですね。しかし、あの深海棲艦を横須賀で、長門や酒匂の記憶と突きあわせて調査をすれば、仮説でなくなるかもしれない。どの艦娘もそれぞれ当時の記憶に欠落があるが、人数が増えるほど、欠落を補完しやすくなる』

 

 なるほど、と赤松は心中で舌を巻いた。どの段階から東雲がその仮説を抱いていたかは不明だが、意外と意義深い仮説ではある。

 何より、赤松にとっては、東雲にあの深海棲艦を解剖や実験に使わない積極的な理由があることの方が重要だった。横須賀は沖田達へ徴用の提案をしていた通り、元から戦力的な利用にも理解があるはずだった。

 

『いい機会になると思うのです』

 

 東雲は言った。

 

『誰も、なぜか、言及しない。深海棲艦のルーツを探る上で』

 

 赤松は返答をしなかった。

 人類に友好的な深海棲艦。その戦力的な利用に可能性が残るなら、赤松の利益とも一致する。赤松は考古学には興味がない。

 

「それが、お電話の本題ですかな」

 

『ええ。色々と地雷だらけの案件になりそうですから、なんというか、そこら中に足跡つけておきたいんですよ』

 

「足跡?」

 

『はい。私に少しして何かあったら――お察しを』

 

 そこで、赤松はふと表が騒がしいことに気がついた。

 誰かの悲鳴も聞こえる。その喧噪は、段々と港に近づいているような気がした。

 

『何か?』

 

「いえ……」

 

 赤松は眼精疲労にかかったように、眼鏡を外し、目元を揉んだ。少しの間、そのまま何かに耐えるように瞑目を続け、やがて口を開く。

 

「彼女らをそちらに届ける日取りだが。少し急だが、明日到着でも大丈夫ですか?」

 

『はぁ。構いませんが……』

 

「感謝します。では、これで」

 

 電話を切る。東雲はこの後、呉にも電話をするつもりでいるらしい。

 外の騒ぎは収まる気配がない。

 

「立つ鳥、後を濁さんでもらいたいものだ」

 

 赤松は、情保隊の残業時間延長の手続きを始めた。

 

 

     *

 

 

 空母ヲ級は、走った。

 与えられた名前と、過ごした思い出が足を止めることを許さない。

 彼女の姿を見ると、周りの人は驚いたり道を開けたりする。後ろから悲鳴が聞こえてくるが、それでも彼女は走り続けた。

 やがて建物を出て、港へ向かう。前に来た通りの道順だったので、彼女はまだ覚えていた。

 夏の日差しと、海から来る南風がどんどん体温を上げていく。だが胸の中はそれ以上に熱い。

 やがて、港へ停泊する一隻のコンテナ船が目に入った。

 フォークリフトで積み荷を動かしていた男が、素っ頓狂な叫びをあげた。

 タラップの付近で、かなり太った年配の男性が煙草を吸っている。あれは船長だった。

 彼は彼女を見てあんぐり口を開け、火の付いた煙草を腹の上に落して飛びあがった。

 タラップを駆け上がる。

 白衣を来た船医や、グレーのツナギの船員と次々とすれ違う。彼らは一様にぽかんとし、しばらくすると顔を見合わせて声を出し合った。抱き合って喜んでいるものもいる。

 その喧噪を置き去りにしながら、サラは艦首の方へ向かう。

 やたら大柄な女性、ハナともすれ違った。彼女は口の方端を引き上げて笑うと、舳先の方を指さした。

 その先へ向かう。

 夏の日差しが降り注ぐ中で、彼はクリップボードを見つめていた。

 そして、彼女に気がついた。

 彼はひどく驚いたようだった。だが周囲の騒ぎに全てを察したらしく、苦笑しながら彼女の方へ歩み寄ってくる。

 

「しゃちょう」

 

 そう言ったきり沈黙するサラに、沖田は口をもごもごさせていた。

 不意打ちになったらしく、彼はいつものように台詞を用意していなかったようだった。

 高空で待ちかまえていた敵編隊に、低空から攻撃機を送り込んでしまったようなものかもしれない。

 

「あのな。そもそも、こういう時はな――」

 

 やがて彼は、サラに新しい言葉を教えた。本当は以前にも習っていたのかもしれなかったが、正しい気持ちで使うのは間違いなく今が初めてだった。

 

 

 

 熊野が回流丸へのタラップを上りきると、サラは甲板の前の方にいた。その周りには人だかりができており、熊野の身長では、なんとか沖田とサラらしき頭が見える程度だ。

 クレーンの柱によじ登っている船員までいる。

 

「あ、お嬢」

 

「ちょっと、通して……!」

 

 なんとか列の前の方まで来ると、サラがおずおずと口を開くところだった。

 

「ただいま」

 

 沖田が口元を引き結んで、彼女の頭に手を置いた。うむ、と頷いてはいたが、細目の目じりはかなり下がっていた。

 

「おかえり、サラ」

 

 その一言が、サラだけでなく、熊野にとっても救いになった。

 熊野は夏の空を見上げる。

 雲一つない青さの中を、一機の瑞雲が飛び去っていった。現在の佐世保鎮守府の中で、その艦載機を使える航空巡洋艦は、熊野を除くと1人しかいない。

 熊野は、頭上を旋回する瑞雲に手を伸ばす。そしてそのまま、とぉう、と拳を突き上げた。鈴谷の瑞雲が軽くバンクを繰り返して、空に伸びやかな直線を描いていく。

 夏は過ぎても、まだ暑い日は続きそうだ。

 

「元気そうでよかったよ」

 

 横で声がしたので振り向くと、大柄な女性、ハナが佇んでいた。相変わらずすごい肩幅で、船員の人だかりの中でさえ大木のようだった。

 熊野は訊ねる。

 

「……でも、どうして皆さん、この港に?」

 

 ハナは笑いながら、沖田達の方を指さした。

 沖田がサラに声をかけている。

 

「……君とは、ここで別れるはずだったんだが。状況が変わった」

 

 サラが首を傾げていた。

 

「まことに遺憾だが。我々にしてみれば、リスクしかない君のような海産物をそう何度も何度も輸送するのは本っ当に遺憾なんだがな」

 

「いかん」

 

「佐世保鎮守府が、君を横須賀へ移送するよう言ってきた」

 

「?」

 

「横須賀だ。海軍お得意の、政治的妥結ってやつだ」

 

 サラは少しの間首を傾げる。やがてその意味を見出すと、息を呑んだ。目が少しキラキラしている。

 

「しゃちょう……」

 

「運ぶだけだぞ。それに横須賀がどう出るか、まだ分からん。別れがほんの少し先に伸びた、それだけだからな!」

 

 言い切って、沖田が背を向ける。サラはその背中に飛びついていた。『やった!』、とか、『すき!』、とか好き勝手に騒いでいる。ここまで感情を露わにする子だっただろうか。

 

《熊野!》

 

 そこで、熊野の無線機が秘書艦の川内の声を掴んだ。

 

《すぐ、下の埠頭へ来て!》

 

「え?」

 

《佐世保湾の外に、深海棲艦が出たみたい。この前の海戦の『はぐれ』みたいなやつで、普通の駆逐艦!》

 

 社長、と船員が通路から現れて、沖田に報告しに行った。多分、今の川内の内容と同じだろう。

 その間に、タラップから別の船員が上がり込んでくる。先ほどまでフォークリフトを操っていた船員だった。

 

「社長、すぐに出航を!」

 

「なに?」

 

「サラのやつ、白昼堂々逃げてきたそうなんです! 面倒なことになる前に、とっとと横須賀へ出発しろと、工廠から!」

 

 その船員の後ろから、スーツケースのような箱を持った船員がやってくる。中身は、確認するまでもなかった。なぜなら深海棲艦特有の触手が、スーツケースの隙間からはみ出し、抗議するようにビチビチと粘液をまき散らしていたからだ。

 

(うわぁ)

 

 遠くの工廠の方を見ると、明石が手を振っている。

 その少し離れたところに、鎮守府の制服を着た一団もいる。熊野が少し前に監視されていた連中かもしれなかった。

 

「しかし、深海棲艦がいるんだぞ」

 

 そう言って顔をあげた沖田は、やっと熊野の存在に気づいたようだ。

 

「熊野さん」

 

「お久しぶりですわね」

 

 2人は声を交し合った。サラが生きている今、そして運ぶ場所が決まっている今、2人に言葉は不要だった。

 何か言おうとする沖田を、熊野は手で制する。

 

「ご心配なく」

 

 熊野は胸に拳を当てた。

 

「湾内でお待ちくだされば。しっかり守って差し上げますわ」

 

 沖田が頷き、船員へ指示を出す。恰幅のいい船長がやっとこタラップから上がってきて、声を張り上げた。

 

「出航準備だ! 野郎ども!」

 

 反対に、熊野はタラップを降りる。降りた先には仲間の艦娘達がすでに待っており、その中には、彼女の親友――鈴谷の姿もあった。

 すでに艤装を装着しており、左腕の飛行甲板が陽光に照り輝いていた。熊野と同じ型である。

 

「なーんか、やっぱり色々あったみたいだねぇ」

 

 鈴谷は目を細めていた。軍属経験のなせる業か、今まで鈴谷は機密の匂いを察して突っ込んだ聞き方をしてこなかった。しかし、実際には熊野の隠し事に感づいていたのだろう。

 

「鈴谷気になるんですけど~」

 

 熊野は肩をすくめた。

 

「きっと、すぐに分かりますわ」

 

 サラの存在がより重要なものとなり、多くの艦娘が知ることになるのは、そう遠くないことのように思われた。その時こそ、鈴谷に大手を振って話そう。

 話したいことは、沢山あるのだ。

 

 

 

 この後、人類に友好的な空母ヲ級『サラ』は横須賀へ行くことになる。

 そこには彼女を知る艦娘がいる。

 ラバウル空襲、トラック防衛、ビキニ環礁実験阻止など、彼女が往年の称号に相応しい活躍をするまでは、未だ様々な試練を経なければならないが――それはまた、後の物語である。

 

 

 

 南風が鎮守府を渡っていく。

 輸送商人と、艦娘の声は、奇しくも重なっていた。

 

「出航!」

 

「出撃!」

 

 タービンが回り、スクリューが動く。陽光が水しぶきを煌めかせた。

 

 

 

 

 『空母ヲ級運用指南 ~蜃気楼の海~』  完

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

登場艦船紹介

 

 航空母艦:レキシントン

     (USS Lexington, CV-2)

 

 レキシントン級航空母艦 1番艦

 全長:270メートル 全幅:32メートル

 排水量:43,054トン(満載時)

 速力:35ノット

 乗員:2,791名

 

 兵装:常用機79機

    補用機30機

    5インチ 単装砲 12基

    1.1インチ 4連装機関砲 12基

    20 mm 単装機関砲 22基

    12.7 mm 機関銃 24挺

 

    1927年就役。

    レキシントン級航空母艦のネームシップ。完成時には世界最大の空母だった。

    先見性のある設計と優秀な搭載能力を持つ空母であり、

    『祥鳳』の撃沈など戦果もあったが、MI作戦の直前、

    珊瑚海海戦において『翔鶴』、及び『瑞鶴』と交戦、撃沈される。

    レキシントン級の姉妹艦は、2番艦のサラトガのみ。

    愛称はレディ・レックス、又はグレイ・レディ(灰色の娘)。

 

 

 




あとがき

 ご愛読ありがとうございました。

 拙い作品ではありますが、一応の格好はついたと思っております。

 なにはともあれ、まずは完結できたのが、大きな喜びです。

 今後、やりきれなかった小ネタとかで番外編(短編)を投稿するかもしれませんが、

 ストーリー的には完結しておりますので、状態は「連載(完結)」とさせていただきます。

 ご愛読、ご声援、ありがとうございました。


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