真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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たとえ名称は甘くても、症状は決して甘くないものもある。
詳しくはググれ。


恵まれた生まれだとしても、体は資本です。

 

「子華、このあとの予定は?」

 

「太守館において、政務です」

 

「時間がない。歓待が終わり次第、河南伊に向かう。君は河内へ行け、重要な書類があるならば韓浩に言って河南伊の中牟県へ運ばせろ。いいか」

 

「委細承知しました。役職はどうするので」

 

「伯然を太守にする旨は季皮に伝えておいた。加えて、子遠を司馬から都騎尉へ任ずる。此方は韓浩を連れていくから、その他の人事は伯然に委ねる。ほかに質問は?」

 

「いいえ、十分でしょう。早速早馬を回します」

 

「結構・・・・・・!」

 

 簡単な打ち合わせの後、王匡は改めて歓待の中心に戻る。

 この場の主役は彼だ。ならばそうそう席を立つことなどありないし、認められない。必然的に司馬芝が動くこととなる。同じく出席している楊俊に目くばせをした後、彼女は早々に執務室へ赴き、馬の扱いの上手い者に書状を渡す。

 そのあとにまた歓待の場に何食わぬ顔で列席する。そう、誰にも気づかれず、ひっそりと―――

 

「従姉上」

 

 ―――とはいかなかった。

 

「・・・・・・仲達」

 

 日に焼けてない白い肌に、目を覆うほどの長い長髪、見間違うはずがない。

 司馬懿仲達。司馬八達が次女であり、司馬芝に初めて挫折を与えた少女であった。

 

「お久しぶりです。風の噂で河内郡の主簿をしていると聞いたものですから」

 

 うっとりするような柔らかな笑みを浮かべ、少女は無邪気に微笑んだのであった・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「救われた・・・・・・!」

 

「さいですか・・・・・・」

 

 河南伊、中牟県の県庁にして、太守館(仮)の執務室の中にて、涙を流し歓喜する男がいた。

 中牟県令楊原その人である。元は一県令であった彼だが、周りからの期待によりあれよあれよと言う間に河南伊の代行となっていた。

 

「勝利・・・・・・! 圧倒的勝利・・・・・・! もう代行なんてやらない・・・・・・、絶対だ・・・・・・!」

 

「いやぁ、私も悪いとは思いましたよ」

 

「どの口を言う・・・・・・、もうやだ・・・・・・あの心労には耐えられない・・・・・・。俺は商人になるぞ・・・・・・! 任峻・・・・・・!」

 

 眼鏡のズレを修正しつつ、任峻と呼ばれた女性は苦笑交じりに揚原に応対する。

 

「・・・・・・まぁ、よろしいので。河南伊を王太守が治める以上、その選択は十分にアリでしょう。それに・・・・・・」

 

「なんだ・・・・・・!」

 

「貴方には要らぬ苦労をかけました。それくらいは融通しましょう。改めて、河南伊代行の業務。ありがとうございました、河南伊主簿である私が代表して篤く御礼申し上げます」

 

「・・・・・・ふ、ふん! 俺は元々、悠々自適に暮らしたかったんだ・・・・・・! それをお前が必死で頼み込むからそうしただけだ・・・・・・。だからその謝礼は不必要だ・・・・・・。お前は黙って俺を見送ればいい・・・・・・、それ以上はするな・・・・・・。いいな・・・・・・!」

 

 楊原は小人物だ。河南伊代行という業務も半ば担がれたもの。そして、その中心人物はほかでもない任峻だった。楊原は任峻を嫌っているが、紛いなりにも代行業務を成し遂げることができたのもほかでもない任峻のおかげである。そのことはほかでもない楊原自身がよく知っていることだ。

 政治に関しては、楊原は任峻に何もかも劣る。それは抗えようのない事実であり、救いようのない現実であった。であれば、別のことをした方がよほど建設的だった。

 

「王太守を招いた後・・・・・・、俺はお役御免だ・・・・・・! この混沌とした時代を生きるには・・・・・・、俺は力不足だ・・・・・・! だが・・・・・・、それもあと数日のこと・・・・・・! 引き継ぎは任せる・・・・・・! 止めてくれるなよ・・・・・・! 絶対だぞ・・・・・・! 振りじゃないからな・・・・・・!」

 

 商人になりたい。思えば幼いころからの夢であった。しかしこの時代、商人という立場は非常に弱い。彼の父母はそのことを考慮して、彼もまたそんな風になんとなく流されたまま官職へと登った。しかし、ここに至って、王匡という存在が彼の一筋の光明となる。

 任峻という自分の何倍も優れた官吏がいたこともその背を押した。

 

 のちに、河南伊において大きな工業施設がつくられることとなる。その初代総帥の名は楊原。河南伊代行であった男の名であり、軍事関係で王匡を支えた政商である。

 

「・・・・・・商人になれば、政治とはおさらばだ・・・・・・! もう、政治の舞台に立つことなどしないんだ・・・・・・!」

 

 残念なことに、楊原の願いはついぞ叶うことはないということを、今の彼は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 都、洛陽にてとある男の葬儀が慎ましやかに行われていた。

 

「逝ったか、蹇碩・・・・・・」

 

 ポツリと金旋はひとり呟いた。

 中常侍、蹇碩逝く。その報は少なからず情勢が動くことを予期するものであることは都の者たちにとっては周知の事実であった。

 

 あまりにも早すぎる死。多くの者、特に穏健派はその死を惜しんだ。

 

 しかし蹇碩の死によってもっとも被害を受けたのは穏健派でなく、劉弁派の者たちであった。劉弁派はこれで最も有効的な外交手段を失うとともに、自陣らの排斥はさらに強まろうということを理解していた。

 その情勢の中、彼は考える。自分にできることは何かを、それを模索するのだ。

 

「陛下・・・・・・」

 

 老年に達した一人の男性が拝礼して、佇む。

 

「じ・・・・・・よ、う・・・・・・か」

 

 冷たく、支え無しではたどり着けない玉座に腰かけながら、呂律の回らない舌を懸命に動かし言葉をひねり出す。

 

 彼の名は劉弁。後漢十三代皇帝である幼君である。

 

「はい、袁次陽であります」

 

 年齢は老境に差し掛かり、髭を蓄え、頭髪は前に少しだけしかないが、その眼には知性を漂わせている。

 彼こそ、三世四公の名門である袁家の長老、太傅袁隗その人であり、劉弁派筆頭の人物である。

 

「さん、な、い・・・・・・たいぎで、ある・・・・・・とう・・・・・・、じょう・・・・・・こく、は」

 

「未だ、参内せずであります」

 

「そっ、か・・・・・・」

 

 ガクリと頭を下げる劉弁。いきなりのことで素早く劉弁の下に向かう袁隗だが、それを手で制する人物がいる。他ならぬ吉本であった。

 

「陛下、気分はどうですか?」

 

「・・・・・・たい、ちょ、うは・・・・・・へい、き・・・・・・だが。こたえるな、この・・・・・・、まま、ならぬ・・・・・・みが・・・・・・」

 

 おそらく、心労がたまっているのだと吉本は推察する。蹇碩の死で、劉弁は精神的に追い詰められている。それだけならまだしも、劉弁は重度の障害持ちだ。

 

 メープルシロップ尿症。それが彼を蝕んでいる病である。彼の場合、新生児期に発病し、対処が遅かった為に重度の半身麻痺を患ってしまった。

 現代においても難病とされている疾患であり、現代に戻ったとしても治療法すら確立されていない病である。

 

 吉本は悔しさに顔を歪ませる。陛下を取り上げた後、不幸なことに吉本は典医としての役職を罷免された。そのまま諸国漫遊の旅に出掛けたのたが、その代償は重かった。

 もし、あのとき罷免されなければ、いや、そもそも都から離れなければ病状は今よりも格段に良かった筈だと吉本は何度も思っている。

 

「陛下、深呼吸しましょう。大きく息を吸って―――」

 

 少しでも劉弁をリラックスさせる為に、吉本は劉弁を支える。数回の深呼吸の後、どうやら劉弁の体調は落ち着きを取り戻した。

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 御前会議が終わり、吉本は考え事をしながら宮中の廊下を歩く。

 

(また、一人死んだ・・・・・・)

 

 乱れに乱れたこの時代。そんな情勢の中、吉本は一人心を痛めていた。

 この時代における命の価値の低さを、彼は憂いていた。まともな医療設備のない環境、医学に関する知識も出鱈目が横行する社会。そんな世界を変えたくて、吉本は動いてきたはずなのに、彼が治療したものは、みな簡単に命を投げ出してしまう。

 それが悔しくて、何より悲しかった。

 

「風鎮!」

 

 そんな風に思っていた時に、不意に声をかけられる。

 

「・・・・・・ここは宮中じゃ、いきなり真名を呼ぶのは感心しないな。美玖」

 

 人の良い笑みを浮かべた若い女性。彼女は郎中令の役職に就き、吉本が宮中で気兼ねなく話せる唯一の人間だった。この時代、医者という身分は決して高いものではない。吉本も若い頃はそういった露骨な差別を受けていたものだったが、この女性はその様なことはなく素直に吉本の腕を称賛していた。

 いつしか、彼女とはただの同僚という関係では収まらず、吉本もそんな彼女に惹かれていつしかともに人生を歩むパートナーとなった女性。

 

 李儒、字は文優。それが彼女の名である。

 

「えへへ、なんだか元気がなかったみたいだからね、・・・・・・なんかあったのかな?」

 

「・・・・・・なに、たわいもないことじゃよ」

 

 吉本はそういって李儒から視線を逸らすが、李儒は吉本の頬を押えると自分の真正面を向かせる。

 

「もう、そんなことないでしょ。あなたはいつもそういってなんでも抱え込んじゃう。せめて私ぐらい信用なさい!」

 

「美玖・・・・・・」

 

「だって私は貴方の妻なのよ。迷惑ぐらいどんと来いってものよ!」

 

 そういって李儒は吉本を励ます。吉本もいつの間にかやわらかい笑みを浮かべていた。

 不思議なことに、彼女の言葉に励ませられたことも一度や二度じゃない。それどころか口喧嘩ですら勝った例もない。吉本にとって李儒は最高の妻であった。

 

 吉本は大医令などという大層な身分にいるが、彼の本質はいつだって医者だった。

 政治なんてわからないし、関わろうとも思わない。それは医者の本分としては出過ぎたことだと思っているからだ。

 

 彼が思っているのはどうすれば多くの人を助けられるかということだった。

 

 だからこそ、こんなにも命というものを軽視する時代というのは彼には容認しがたいことだった。

 

「・・・・・・今日は肉が食いたいなぁ、と考えていただけじゃよ」

 

「あらそう・・・・・・。じゃあ、今日は腕によりをかけて作りましょう! うちには腕白な子も二人いることですしね!」

 

 仰々しく身振りをしながら、李儒は笑顔でそういった。吉本もまた、つられて笑ってしまう。前世はどうも結婚なんて大したものじゃないと思っていたが、成る程これは悪くないと、吉本は幸せというものをかみしめる。

 

「美玖」

 

「あら、何かしら?」

 

「ありがとう、少し、元気が湧いて来たよ」

 

「もう、貴方ったら」

 

 李儒は気恥ずかしそうにはにかみながら、口元を隠す。

 おそらくにやけ顔を隠そうとしているのだろう。無論バレバレだが。

 

「帰りましょう、今夜はご馳走よ」

 

 二人は、並びながら家路へと急ぐ。しかし、そんな彼らの姿を遠くから見つめる視線があったことを彼らは知らなかった。

 





 地雷ばっかの劉弁派。こっちも董卓陣営に負けず劣らずルナティックな難易度です。

 え? 三国志知識? まじめに医者やってた吉本にそんなものはありませんよ。
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