真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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楊原「商人王に俺はなる!」

「・・・・・・ほぅ、河南伊ですか」

 

「うむ、しかとこの耳で聞き届けた故な。しかし、王太守・・・・・・もとい、王河南伊となってしまった以上、河南伊へ行かない訳にもいくまい」

 

「・・・・・・まぁ、そうですよねぇ。一応、楊季才殿とは」

 

「しかと貴様のことを言ったぞ、これで徒に修武が荒らされることもあるまい。・・・・・・貴様の献策通りであったな、張公儀」

 

「買いかぶりは止してください、宗県令」

 

 修武県の県令、宗孝初は自身の執務室でこれからの方針を練る。

 

「兎も角、わしは貴様を推挙する。貴様は河内でも重役に任ぜられる、修武も一応の平穏を得られる。それでいいのだろう」

 

「ええ、互いにWin-Winの関係ってやつですよ」

 

「ふん、あの張公儀がこのような狸とは思わなんだよ」

 

「失敬な、私はいつだって清く正しい名門張家の張範公儀ですよ」

 

 宗慈は不機嫌そうににらむが、彼がいなければどうにもならなかったことも事実。加え、彼の寿命もそう長くはない。その点、張範は後継にはもってこいの人間だった。

 

「話を変えましょう、条例の施行はどのように」

 

「効果は上々、わしに賄賂を贈ろうとした馬鹿は豚箱に直行よ」

 

「おお、怖い怖い」

 

 とてもいい笑顔で宗慈は答える。清廉かつ、清貧を良しとするこの翁のことだ。しかし、ただの堅物かと思えば、献策を認める器量を持つ。先の条例施行においても特に理由を述べたわけでもなく採決を下したのだ。

 彼の運の尽きはあまりにも早く生まれすぎたこと、そして良い師に出会えなかったことであろう。

 

「ケフッ・・・・・・、ゴホ、ゴホ!」

 

「宗県令!」

 

 とたんに咳き込む宗慈。このような発作は日に何度もあるが、その間隔は日に日に短くなっている。宗慈は張範を手で止めるようにして近づかせない。病気持ちの宗慈にとって、せっかくの優秀な人材を感染させるわけにはいけないと思ったからだ。

 実際、その病は感染の心配はないのだが、彼なりの心遣いということを張範はわかっていた。

 

「ケフッ・・・・・・、コヒュ・・・・・・、ヒュー・・・・・・、そろそろ、潮時、かの」

 

「宗県令」

 

 口元の血痕をぬぐいながら、宗慈は背もたれにもたれかかる。肺を患っている彼であるが、何よりこの時期において多忙なことも病に拍車をかけている。

 こればかりは宗慈自身の問題だ。病というのは変わってやることもできない。

 

「時間が、ない。巻きで行くぞ・・・・・・、ついて来い」

 

「・・・・・・わかりました」

 

 宗慈にとって今というときが最も輝いていると信じて疑わない。貴重な時間と自身のタイムリミット。凡庸な頭を精一杯ひねり出し、最善へ至る道筋を作り出す。それが彼にできる最期のことだった。

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました、王河南伊」

 

「面を上げよ、丁重な出迎えありがたく存ずる。したがって貴君らの名を問いたい」

 

 河南伊、中牟県の議場にて、三人の人物が王匡を待ち受けていた。

 

「お初に、お目にかかります・・・・・・。河南伊代行・・・・・・、中牟県令楊原であります・・・・・・!」

 

 妙にあごと鼻の尖った男がまずもってそう告げる。彼が河南伊の代行として今までの諸政を担っていた楊原だ。王匡にとっては先任にあたる。

 

「河南伊にて主簿を勤めておりました。任峻、字は伯達です」

 

 青みがかった濃紺の長髪に眼鏡をかけた若い女性はそういうと、王匡は静かにその女性を見つめる。任峻といえば、のちに曹魏へ仕えた出世頭の一人である。兵站管理に優れた手腕をもち、その能力は折り紙付きだ。

 

「ちょ、張奮と申します。河南にて従事を勤めておりました」

 

「結構、貴君らの働き見事なものだった。しかし、これからは私の下でその腕を振るってくれることを願いたい。よろしいだろうか」

 

 王匡は至極当然に言ったまでだったが、一人の男が前へ進み、王匡に言葉を告げる。

 

「申し訳ありません・・・・・・! この楊原・・・・・・、暇を頂きたく・・・・・・!」

 

 楊原は勇気を振り絞り、王匡に直訴する。王匡はじっと楊原を見つめ、その様子を見つめ続ける。

 

「・・・・・・私は、河南伊の代行として職務をひとえに安穏に行ってきました」

 

「で、あろうな。楊県令、私は貴君のそのつつがなく民草を治めることができるその技量を買っている。できることならば、これからも私の下で働いてほしかったが」

 

「私は・・・・・・、今より働くには老いすぎました・・・・・・。県のことはすべて、この任峻に任せております・・・・・・! 生来・・・・・・、私は無器量、無才覚の身・・・・・・! 出来得ることなら隠居し、地に根を張り、生きたいのです・・・・・・!」

 

「しかし―――」

 

「そこからは私が説明致しましょう」

 

 王匡の言葉を遮りながら任峻は一歩前に進む。その態度に韓浩は眉をひそめ、剣の柄に手をかけるが、王匡はそれを手で制す。

 

「発言を許そう、任伯達」

 

「はっ、寛大な対応ありがたき幸せ」

 

 任峻はのどを鳴らし、この強大な怪物と相対する。河内というお世辞にもよき立地とは言えない地域を抑え、諸改革を成功させたこの英傑を認めさせられるかは不安でしょうがない。しかし、それでも彼女には言わなければならない責任と意志があった。

 

「楊県令は病を患っております」

 

 開口一番、任峻はまずはそういった。

 

「ふむ、病とは?」

 

「心の病であります。楊県令は度重なる激務と責任によって、心身共に憔悴いたしております。それによって日々腹を痛め、ろくに食事がのどを通らないことも度々ありました」

 

「人の上に立つものとして、責任とは切っても切り離せないものだ、それに、河南伊という激務につくわけではない。中牟県令としての職務に戻すというのだ。数日程度であれば、休暇も認めよう」

 

 王匡はそう譲歩するが、任峻は首を振る。これには王匡も眉をひそめる。

 

「何よりこれは楊県令の願いなのです」

 

「楊原の願いであれば、貴君がでしゃばるのは畑違いだ」

 

 王匡は任峻から目を逸らし、楊原へ視線を移す。

 王匡の一切の感情の見えない白い眼に見つめられた楊原は王匡の放つ威圧に萎縮してしまう。

 

「王河南伊!」

 

「くどいぞ、任峻・・・・・・!」

 

 任峻は必至に言葉を続ける。彼を奉りあげてしまったものとしての責任として、せめて彼の願いはかなえてあげたい。それが彼女の気持ちだ、だから続ける。もしかしたら厄介払いさせられるかもしれない。それでも彼女は続ける、信義なくして官吏は勤まらないのだから・・・・・・!

 

「楊県令は、小人です!」

 

 ピタリと王匡は静止する。

 

「楊県令はそれは事務仕事は出来ますが、河南伊としてはあまりにも役不足! その器は一県令。いや、下賤な商人が器でしょう!」

 

 任峻は眼鏡がずれるのも気にせずに、ただ楊原の評価を事細かに告げる。

 

「病を患い、心根は凡夫。責任からは逃げたがる! かようなものを一県令のままというのはあまりにも・・・・・・!」

 

「もう良い」

 

 王匡はたった一言、そう告げると、楊原へ言葉を投げかける。

 

「楊県令、どうだ? 貴様、讒言されてるぞ。反論はないのか」

 

「・・・・・・あ、ありません・・・・・・」

 

 楊原は半ば泣きながら、任峻にぼろくそ言われ続けたのだ。そりゃ自覚があったとしても傷ついた。

 

「任峻。貴様、へたくそだな。讒言というにはあまりにも相手を尊重している。やれ切れではなく、商人に落とせなど、裏があるにも程があるわ」

 

「・・・・・・」

 

 王匡はあきれ顔で、双人を見る。

 

「貴君らの言い分はわかった。それで、私に全くの利がないなどということはあるまい。しかと論理立てて申せ、良いな」

 

「はっ、申し訳ありませんでした。では、申し上げます」

 

 その後、王匡と任峻の問答は数刻の後に決まった。

 

「ではそのようにせよ」

 

「はっ!」

 

 落としどころとしては楊原が政商として工業方面を担当することで決定となった。

 後漢時代では民需の成長は著しく乏しい。郡や国家であっても一から企業を育てるなど身に合わない。この点、工業方面での政商というのは王匡にとってはありがたいことこの上なかった。もちろん、問題も多々あるが、武装供給を安価で手に入れられるのは更なる発展のためには必要だった。

 

 楊原は完全なる首輪付きの状態だが、これは相手が悪かっただろう。完全に独立は難しそうだ。任峻は心の中で楊原に謝りつつも、ある意味任峻にとっても都合のいい状況だった。

 

「にしても驚いたぞ、まさか相手の為に讒言をする輩がおるとはな」

 

「王河南伊、やめてください」

 

 王匡はにこやかに笑いながら、自らの職務を続けるのであった。




実直な意見は得意だが、讒言が苦手。そんな女性が任峻です。なお楊原の受難は続く模様
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