真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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 恋姫好き=任峻好き
 俺はもしかしたら全国にいる何万人という任峻ファンを敵に回したかもしれん。
 まさか最初のアンチヘイトの被害者になるのが任峻とは、このニーガタの目を以てしても見抜けなんだか・・・・・・。


アンチヘイト=可愛い子ほど虐めたくなる論

 

「駄目だ、やり直し」

 

 中牟県の仮太守館において王匡は精力的に政務を執り行っていた。代替わりしてすぐ、王匡は河南伊の資料に目を通すとともに、幕僚に対しマニュアルを渡していた。

 

「今後の運営はこの規定に沿って行ってもらう。太守館の役人すべてに目を通すように働きかけてくれ」

 

 その言葉とともに、王匡は自室で資料に目を通すこととした。しかし、そのマニュアルは実に細々と書かれており、覚えるのは一苦労、任峻ですらこうして作成した報告書を突き返される始末であった。

 

「お言葉ですが、これをどのようにやり直せと申されるのでしょうか。規定された物事は行ったつもりです」

 

 任峻はしかと反論する。彼女が出した報告書は滎陽県の総産出を表した報告書であった。滎陽県の役人が提出した資料をもとにつくりあげたもので、彼女はそれをきちんと明細したはずだ。それでも彼は何を不足だというのか。

 

「そうだな、おそらく資料を見れば正しいだろう、あくまで資料だけならな」

 

「どういうことです」

 

「主簿、君は三年前に滎陽県の食糧危機に際して種もみを支給しただろう。滎陽は河南伊でも中央に位置し河水から曳かれた水も機能しているはずだろう」

 

「はい、王垢・・・・・・私の配下が確かに確認いたしました」

 

 任峻は理路整然と答えると、王匡は目を細めゆっくりと言葉を継ぐ。

 

「河南伊にはおよそ五十万人の郡民がいる。無論、洛陽は抜かしている。任伯達、河南伊は河水による水運のおかげで肥沃な土壌を育む優れた立地だ。都洛陽での食はここで賄われているといって良い」

 

「無論、承知しております」

 

 それもそのはずだ。任峻は数年間この河南伊で働いてきた自負がある。中央との輸入交渉も一度や二度じゃない。農耕に関することは一通り、交易や輸送に関してもそこらの官吏には劣らない程にだ。

 

「いいや、君はわかってないよ。君はちゃんと農業産出率を見たのかい? どうして作物の産出率が例年と同様なのか、疑問に思わなかったと」

 

 王匡はそういうと、任峻に報告書を見るように指を指し示す。

 

「そこに書かれている報告、滎陽の主要農業産出物は麦だ。君もそれを知っているから麦の種もみを出した」

 

「はい」

 

「では、麦のほかの農業産出物を知ってるかね」

 

「・・・・・・いいえ、まさか」

 

 瞬間、任峻は気づく、どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのか。

 

「農作物に関する病気ならまだしも、飢饉の原因は河水による増水が原因だだからこそ、麦だけでなく、その他の作物、滎陽ではキビや大豆だったかな。あとは稲作も少ししている。それは軒並み駄目になった」

 

「部下の話では軒並み麦畑が駄目になったとしか・・・・・・」

 

「だとすればその部下が騙されたか、一枚かんでいるかだ。当然、収穫物によって、産出量は大きく変わる、特にキビや大豆は麦より一面積でとれる割合は低い。君は麦以外には種もみを支給したか」

 

「いいえ、行っていません。不要と、そういわれました」

 

 任峻は苦虫を噛んだかのように苦悶の表情を浮かべる。当時、飢饉に際してなんとかせねばという思いが強く、そこまで気が回らなかったと言い訳はできるが、それをしたところでさらに評価を下げるだけだった。

 

「過去の資料に、麦が軒並み枯れてしまってね、河内でも麦の支給を何とかした事例があった。当然の如く、収穫量は元通りだ。河南伊でも洪水事故は多い、滎陽とは別だが、農地が流されたとしても、全面麦の農耕をすれば、収穫量は基本的に上向きになる傾向がある。それも、年を積み重ねるごとにね」

 

「・・・・・・」

 

 それは、明らかなる不正だ。おそらくは穀物の横流しがあったとして然るべきだろう。経験の薄い任峻では気が付かなかった。そもそも、それを当たり前として受け止めてしまったことが原因だろう。

 いいや、彼女だけでない、河南伊全体がそれを良しとしてしまったことだ原因だ。経理に明るい楊原でも、河南伊代行の業務は身の丈に合わない責務であり、極端に悪い部分を見てしまうためにどうしてもその部分がおろそかになってしまったのも原因の一つだ。

 

「まるで成長していない。凡そ三年も経てば農業産出率は二割程度上昇する。特に河南伊は河内よりも土地が肥沃であるとすれば、さらに多くてもよいだろうに・・・・・・」

 

 任峻は歯を食い縛る。まさに彼女はとんだ道化であったことが証明されたようなものだ。彼女の自身は木っ端微塵に折れたといってもいいだろう。現に、今にも泣き出しそうであるのだから。

 

「下がるといい。それから、軽挙妄動は慎むように」

 

 拝礼を行うと任峻は執務室から逃げるように飛び出す。目に溜めた涙がこぼれ落ちそうで、胸が締め付けられる思いだった。

 そんな状態で、一人の少女と目が合う。歳は任峻とそう変わりない。いや、もしかしたら任峻より若いと思うと、途端に自分が惨めな気持ちでいっぱいだった。

 たまらず逃げてしまうと、少女は何をするわけでもなく、ただ見送る。

 

 少女は王匡の執務室に入ると、まとめ上げた報告書を提出する。王匡はそれを見つめて、裁定をくだす。

 

「結構、よくこれほどの人員を集めたものだ」

 

「はい、治安維持は統制の要でありますゆえ」

 

 少女は嬉しそうに微笑むが、疑問があるようで一言口を出す。

 

「任主簿、泣いていましたが、何を言ったんでしょうか」

 

「報告書の記載が甘かった。経験不足故か、資料の偽装にも気が付かぬほどにな」

 

「・・・・・・成る程」

 

「それで、まだ私に用かね」

 

 少女は納得するが、そのまま退出せずに執務室に止まる。疑問に思ったのは王匡だ、彼女―――韓浩の真面目さは他ならぬ彼が知っている。

 そもそも、こうして彼女を取り立て、抜擢し、現在では郡内の治安維持を統括するまでに至った彼女を導いたのは他ならぬ王匡である。

 

「彼女、若いですし。性格的にも清廉ですよ、あれで折れたりしなければよいのですが・・・・・・」

 

「なんだそんなことか、あの程度で折れるなら私の幕僚には不足だ。さっさと民間に勤めるか、荊州に逃げれば良かっただろうに」

 

「随分と辛辣なことで」

 

 韓浩は苦笑を浮かべながら王匡の返答を聞く。彼の白い眼はまさに甘えを許さないと、そういう意思が見て取れた。

 

「我々に安住などない。こんな仕事柄だ、神経が図太くないと生きていけんよ。権力が好き? 給金を多くもらいたい? 私にとっては結構なことだ。腐敗や不正は許さんが、そういった反骨心や上昇志向は実に好ましい」

 

 王匡は筆を置くと、引き出しを開け、小さな袋包みをもって、事務机とは別に床几台へ移る。

 韓浩を手招きすると、袋包みの中からはちょっとした菓子折りが入っていた。

 

「せっかくだ、どうだね? 雪」

 

 雪とは彼女の真名のことである。異性でありながら彼女は王匡の数少ない真名を預け合った仲である。そして彼が真名を呼ぶ以上、この場は公でなく私事の場であることの証明であった。

 

「ぜひご一緒にさせてもらいます!」

 

 彼女はこれでも少女、特に甘いものには興味がある。特に王匡の菓子折りにはまさに一目ぼれだった。

 菓子は様々、現代でいうカルメ焼やべっこう飴など、貴重な砂糖よりつくられたこれらは大秦国よりもたらされた種子を発芽させた甜菜より抽出された砂糖であり、商業都市河内と農耕を結びつける一つであった。

 

「すごいですよね、あんな大根からこんな甘いものが作れるなんて!」

 

「まぁ、簡単な菓子だからな、味も単調だから一人で食うには辛くてな。まぁ、こいつが中々金になる。貴重なことには変わりないが贅沢な悩みだ」

 

 そういいながらカルメ焼を一口。糖分が体を駆け巡り、仕事で疲労した肉体に染み渡る。

 

「農耕は江南当たりがいい土壌になるし、肥沃で温暖。だが、寒冷地には寒冷地なりの農耕がある。甜菜は我々にとって生命線だよ」

 

 特に、農耕において常林や司馬芝などを引き入れたのは良かったと王匡は述懐する。農耕には問題も様々あるが、彼らのような人材がいれば後事は安心して任せられるからだ。

 

「まぁ、土壌としては河南伊のほうが肥沃だ。補給地点としては申し分ない。天下の台所とまではいかないが、領民を食わせていけるのは施政者としてはうれしい限りだ」

 

 衣食足りて礼節を知る。

 今日の為の食糧でなく、明日の為の食糧を考えることから民衆は賢くなっていく。余裕は思想を育み、科学を発展させる。

 

「『礼は治弁の極なり』と言う。制度がしっかりとしていれば、自ずと礼を学ぶだろう。だが、誰もが聖人になれるわけでもない。いや、聖人などというものが政治の舞台に上るべきではないだろうに」

 

「・・・・・・『政治は悪である』醜い権力闘争、讒言、追い落とし。謀殺、失脚、献金、収賄。決してなくなることはない」

 

「そうだ。人間だれしも聖人となれるわけではない。その逆、人間は欲望の塊だ。清廉潔白、不正を憎み、貶めるところのない完璧な人物。そんなのはもう人間ではない。ただの機械と変わりあるまい」

 

「呉子遠さまは? あれこそ完璧超人でしょう」

 

 眉目秀麗、清廉にして秀才、加えて努力家。河内郡におけるもっとも優秀な将帥と言えば彼が上がるほどだ。加え、あの河内の乱においても相手の補給路を分断し、各個撃破に追い込み、少ない消耗で乱を鎮圧した手前は見事というほかない。

 

「あれは情で動く。義と言えば耳障りはいいが、大まかに言えば私情だ。何進暗殺、宦官の虐殺に一枚かんだものとしてどうしておめおめ逃げれよう。そういう矜持と、私という友人の存在が奴を突き動かしたにすぎん。

 ああいう手合いは正しいことをすれば評価されると知っているからそうしているにすぎん。愚物であろうが傑物であろうが、性格がねじ曲がっている佞臣だと後世に知られたくはないのだろう。だからこそ、私が道を違えない限り、奴が裏切るなどということはない」

 

「お詳しいですね」

 

「二十年来の付き合いだ。父と師の次に長い付き合いだ。数少ない真名の交換相手よ」

 

「そういえば、幕僚の方々とは真名を交換したので?」

 

「いいや、同性ならともかく、異性となるとどうもな、師弟関係、親代わりを別とするなら彼女だけだな」

 

「へ・・・・・・?」

 

 今こいつは何といった?

 

「私じゃありませんよね。どちらかというと妹分みたいなものですし、自分で言うのもなんですけど」

 

「まぁな。あれだ、司馬主簿だ」

 

「は・・・・・・!?」

 

 司馬主簿と言えば、王匡が直々に勧誘した河内郡の中でも新参の一人だ。勧誘もそこそこにすぐさま主簿に抜擢され、大したミスもなく、河内の政治に功績を遺した手前は韓浩も認めるところだ。

 

「いやはや、中々驚いたよ。真面目で真面目で生真面目で、そんでもって政治的判断と私情を区別しながら、なおも私を論破しようとしたからな。それに求婚もされた」

 

「? ??? 彼女名門の司馬一門ですよね?」

 

「そうだが?」

 

「いや、何というか、情熱的というか、ええ。どう答えたんですか」

 

「面白い、やってみろだ」

 

「うわぁ・・・・・・」

 

 凄い、ヤバイ、驚いた。司馬主簿、先生の好感度稼ぎすぎ。なにも言えない程に韓浩は素直に司馬芝を尊敬した。

 堅物、変態の政治馬鹿王匡が色目を使う程度には意識させたという事実は韓浩にとって何よりの衝撃である。

 

「それじゃああれですか? 結婚とか考えたりして」

 

「どうだろうな、現状では必要性を感じない。それに私には夢がある。だからこそ、子に苦難の道のりを歩んで欲しくはない」

 

 お菓子を食べる手を止め、ゆらりと王匡は韓浩に告げる。

 

「それに血は繋がっていないが、私には家族がいる。それは君であり、師であり、漢の国家に住む人々である。だからこそ寂しいとは思わない。たとえ敵として相対しようと全力をもって叩きのめすのが私なりの愛情だ」

 

「大分ねじまがった愛ですね」

 

 韓浩はべっこう飴を口に含むと、頬を赤らめ、舌鼓をうつ。

 

「これでも施政者だ。大事のためには小事を切り捨てねばならん、貧民に職を与えたが、労働環境は劣悪だ。まだまだ大なり小なり問題も未解決、忙しいことこの上ない」

 

 王匡は立ち上がり、軽く伸びをして凝り固まった筋肉をならしながら答える。

 

「だが、ここではある一定の環境が整えられている。貧民救済や犯罪者の検挙。農耕指導に税収を整え戸籍の管理も徹底している。それを作り上げたのは間違いなく任主簿だ」

 

「・・・・・・結構買っていますね」

 

「買っているからこそ、厳しくせねばならん。我々の仕事に甘えは許されないと徹底的に教え込む」

 

 間違うのは良い、間違いから学べるものもあるのだから大いに間違うべきだ。問題はその間違いにどう対処すべきか、何を為すかが重要であるがゆえに。

 

「若者を導くのが年長者の役目でもあるからな。ケツならいくらでも拭いてやる。彼女はきっと、良い政治家になれると私は信じている」

 

「私は?」

 

「勿論、頼りにしているさ」

 

 韓浩にとって王匡は憧れだ。別に卓越した指揮能力があるわけでもないし、武術の腕もそこそこ。それこそ彼は悪を挫く訳でもなく、人々のためにより良い環境を整えただけ。

 たったそれだけでも、彼女にとって王匡はヒーローだった。いや、まさしく彼女が導くための指針であったから。だからこそ彼女は進む、その真白の瞳に何が映るかを知るために。

 

「ごちそうさまでした、お菓子美味しかったです」

 

「それは良かった、今度はもっと良いものを持って来よう」

 

「あはは、それは是非とも味わわないと」

 

 甘い匂いは身にまとい、執務室から退出する韓浩、すると途中でばったり彼女と出会う。

 

 泣き腫らした赤くなった目尻を隠さずに堂々と執務室へ赴く彼女。それを見て韓浩も心配は要らないだろうと悟る。

 

「本当に凄いなぁ、先生は。人を見る目は誰にも負けないよ」

 

 ポツリとこぼしたその声は誰にも届かず、だだ、韓浩は少しだけ王匡を羨んだのだった。




 史実任峻は兵站構築のプロなのは周知の事実。
 さて、原作の劉備はどうやって兵站を構築してたんだ?(劉備の隣にいる諸葛亮を見つつ)
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