真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡 作:ニーガタの英霊
思うに転生者より現地人のほうが活躍している小説も中々ないと思うの。
基本的に転生者は表舞台に上がろうとしないで裏や後方、あるいは補佐でやってる奴多いな。(軍や戦功は部下に任せる政治特化王匡、中央来てから不満官吏と交渉する李傕、補佐・副官として金旋を支える趙範等)
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・」
あの日々を覚えている。
愛など、なかった。幸福などなかった。むしろ辛いだけだった。日々の暴力、わずかな糧、謂れのない悪意、中傷。彼女の記憶はそれがすべてだった。
何を憎めばよかったのか、何を恨めばよかったのか?
彼女は愛を知らない、幸福を知らない。
そんなものを全くもって信用などしない。儒学など馬鹿らしい、愛だの、仁だの、そんなものに何の価値があろうというのか。
すべて偽りなら、自分も偽ろう。
笑顔の仮面をかぶり、周囲をだまし、自身がつくりあげた空想の自分を胸に、彼女は―――
「視察ですと?」
「はい」
洛陽の宮中において、吉本と袁隗は向かい合う。その傍には劉弁派と目される多くの党人がいた。
「毎日が宮中の中では陛下も参ってしまうことですし、市井の様子を見ることも大切ではないかと愚考します」
「しかし吉大医令、それはあまりにも危険です。このような混乱した政情で陛下に万が一のことがあれば・・・・・・」
「そこは、私にお任せを、鼠一匹通すことなく陛下をお守りしましょう」
反対する袁隗に対し、すぐさま反論したのは李儒だ。袁隗は眉を顰めると李儒に対し語気を荒くして言葉を告げる。
「吉大医令に告げ口をしたのは貴様か? 李郎中令。確かに荀光禄勲不在であれば、都の守りの全権は貴様のものだろう。他派閥の横やりが入らなければ簡単に物事を進められると思っているなら大間違いだ」
基本的に吉本は政治の舞台にはあまり乗らずに、医者としての本分のみに注視する人間だ。妻である李儒が事の発端なら、成る程予想がつく。
しかし、ここで黙っている彼女ではない。
「ですが、このままでよろしいので? 市井では、自身らに何もせずにいる皇帝を何と思いましょうか? 我々にできることは少ない、ならばこそ博打に打って出るのもよろしいのでは」
「董卓の軍勢が居るのだ! 涼州の田舎者が短絡的な思考で何をしでかすかわからんというのにわざわざ宮中より外に出るだと? 馬鹿も休み休み言わんか!」
猛烈に反対する袁隗。誰が敵で誰が味方かわからないこの状況で皇帝を市井に出すなど朝廷という怪物と戦い続けた彼にとっては余りに危険な賭けに思えたからだ。
堅実かつ慎重に、名門である袁家の中でも特に慎重かつ冷静に職務を全うしてきた袁隗だからこその判断だ。彼はいつだってベストよりベターを選択してきた。
故にこの立場にあり、袁隗自身も自分の選択に誤りなどないと自負している。
「しかし、太傅。ここは李郎中令の言葉にも一理ありましょうぞ」
「・・・・・・貴様」
「某も李郎中令に賛成いたします」
「皆、打開策もなく終わるなど認められませんぞ」
しかし、だからと言って過半数が敵と回れば如何な知恵者といえ劣勢に回らざるを得ない。
一向に明るくならない兆し、日々力をつける劉協派閥。特に最近の放火騒ぎや、横暴な董卓軍の様子。さらに宗族である劉備の活躍によって皇帝である劉弁の存在がさらに低下している現状によって劉弁派の多くは心が折れかけている。
そうなれば一か八かの賭けはまさしく最後のチャンスなのであった。
「・・・・・・警護体制はどうだ」
「警護を統括するのは私が行いましょう。最終的に董卓との面談を実現させましょう」
ざわめき立つ周囲、驚くのも無理はない、なにせ相手はあの董卓だ。劉協派の頭目であり、皇女劉協の身柄を一身に預かっている者の下へと向かうなどそれこそ博打。殺されてもおかしくはない。
「・・・・・・民衆に皇帝の健在を表すのはまだしも、董卓の陣中に行くというのか、陛下のお命をみすみす危険に晒すのか!!」
「我々に切れる札は少ない、たとえそれが皇帝の命だとしてもです」
「本性を現しおったな女狐! 衛兵、奴を捉え―――」
「お待ちを、叔父上」
袁隗が李儒を捕えるよう命令する寸前、それを制した女性がいた。
袁基。南陽太守袁術の姉であり、劉弁派の筆頭の一人。袁隗の姪であり、現在の三公の一角である楊彪の妻であった。
他の派閥と交友をもちながらも、優秀であり、袁隗の懐刀として活躍。身内であることも伴って袁隗の信頼厚い側近中の側近である。
「・・・・・・叔父上、私は叔父上の言うこともわかります。しかし、それと同じく李郎中令の言にも道理もあります」
袁隗は鋭く目をとがらせながら袁基の言葉に注視する。
「冷静に対処いたしましょう。今、劉協派にとって恐怖なのは劉協自身の皇帝という身分をはく奪されることです。たとえば董卓陣中で陛下が殺されたとて、誰が董卓につきましょうや。それは董卓も理解の上でしょう。いくら戦上手と言え、漢の臣民すべてを敵に回し勝利することなど不可能に近い」
「奴らは三公を取り込んでおるのだぞ、特に王子師は王佐の才をもつ鬼才。誠に不可能と言えるか? その気になれば、無理やりにでも皇女を帝位に就けるぞ」
「それは劉協派すべてと対峙した場合でしょう。叔父上、穏健派を抱き込みましょう」
それは鬼札、その真意を深く読み取ったが故に袁隗はさらに眉を顰める。
「・・・・・・穏健派ならば陛下に害をなさないと? 成る程、確かに。加え、陣頭はあの劉備、こちらを皇族で固める気か」
「陛下は体が弱い、子を産めるかどうかもわからないなら、同じ皇族から養子をもらうことを考えねばなりませぬ」
将来の外戚の立場を劉備に与えることを札に穏健派と協力する。将来的に考えればあまりにも危険、しかし、それで陛下の命が買えるならば安いという判断だ。
最悪、劉備自身を皇帝に据えることも可能であるとすれば禁じ手にも近い行動だ。
「劉備の私兵は精強です。必ずや護衛の質も向上するでしょう、護衛の立場からしても賛成を投じます。中立派の影響力が高くなるならば穏健派の影響力が大きくなった方がいい、貴方の好きな方策でしょう?」
「・・・・・・」
成る程道理だ。間違いなく自身もそうするであろう作戦だ。彼としても反対する理由はほとんどない。
それでもなぜか反対せねばならないのだ、袁隗の中で妙な胸騒ぎが到来する。否定せねばならない、だがその訳は? 理屈は? ただ勘だけで反対するなどそれこそ馬鹿のすることだ。
「わかった、許可しよう。ただし袁基、貴様も李儒とともに護衛の任についてもらう、それが条件だ」
「かしこまりました」
成功すれば、わずかながらも民衆に皇帝が健在と示すチャンス、そして董卓との面談。本来ならば皇帝自ら臣下の下へと向かうのはあまり勧められたものではないが、うまくすれば董卓の権限を縮小する機会でもある。
万事うまくいけば何も問題ない、そう何の問題もないのだ・・・・・・。
「陛下の市中視察でありますか?」
怪訝な目で金旋はその報告を耳にした。
「えぇ、差し迫って劉中郎将のお力をお借りしたい所存でございます」
金旋はその勅令に頭をかしげながらも、受諾する。なにせ皇帝の勅許だ。これを否とするなど漢の臣としてあり得ない。
「あいわかった、されど劉中郎将とよくよく協議せねばならないため、多少お時間がかかりますがよろしいでしょうか」
「無論、こちらも承知の上であります。近頃は都の活気も乏しく、陛下の威光を改めて認識させる必要があるでしょう。これも、董仲穎に対抗するための策」
「我々の党派の争いに皇帝陛下を巻き込むのはいささか不敬なのでは?」
「いえいえ、滅相もない」
洛内の視察、別段遷都もなく、都の中を回るだけならば問題はないかと金旋は愚考する。しかし、都の中とはいえ危険が無いわけではない。加え、どこからか情報が洩れ、陛下の行幸を一目見ようと民衆が騒がしくなる可能性やその他諸々の要因を考える。
いくら気が乗らないとはいえ、陛下の勅令、それを曲げることは出来ない、既に賽は投げられたのだ。
「業務が残っておりますので、ここで控えさせてもらいます」
「いえいえ、多忙な金議郎のこと、私も失礼いたしました。市中視察の件、なにとぞよろしくお願いいたします」
使者は念を押すかのようにそう告げると、さっさと帰ってしまった。
「どう思う、範」
「あー、なんでまた僕に振るのかなぁ」
趙範は困り顔を浮かべながら頭を掻くが、ぼやきもそこそこに自身の考えを述べる。
「・・・・・・なんとなくだけど、現皇帝派は焦ってるのかな。こんな時期にこんなことを敢行するんだ、言ってみれば、董卓に対する牽制だろう」
「ああ、私もそう思う。問題は、あの袁太傅がこんな時期にそんなことをするのかということだ」
「と、言うと」
「あの人は海千山千の政界の長老だ。今までも安定した手を打ち続け、太傅という地位へ上った男だ。そんな男が今更こんな博打を打つか?」
袁隗の生まれは汝南の名族袁家の出身、何もせずとも出世は約束されたようなものだ。だからこそ、常にベターな策を以て少しずつ昇進を重ねた、それができる家柄であるから故に。加え、そんな安定志向な上司だからこそ、それなりに派閥を形成出来たともいえる。
間違いなく一流の政治家である。
「衛尉の張温、光禄勲荀爽の不在。執金吾胡母班は根っからの中立派。都の警備を担当するものが左遷・・・・・・異動させられ、残る胡母班は陛下の閥とは遠い所にいる。いや、面識すらなかろう。これでは陛下を守るのにどうも不安があるとは思わんか?」
張温は反董卓の急先鋒であり、陛下とは個人的に信頼されている荀爽も中立派なれど信用できる立場にあった者が軒並み中央から締め出され、唯一残る胡母班は董卓に近しく逆に劉協派にとっては信用ならんと来た。
「だとすれば今回の策、袁隗殿でないと? だとすれば、中々きな臭いですな。どのように対処すべきで?」
「・・・・・・劉中郎将には兵を出してもらおう。近頃は評判もよろしい、新進気鋭の護衛兵だ。こんな時こそ役に立ってもらわねばな。陛下、そして皇女殿下の身を固めよう。今はそれしかあるまい」
「かしこまりました」
「気をつけろ、この洛陽、下手すれば飲み込まれるぞ・・・・・・」
部屋を退室する趙範の後姿を眺めながら、金銭は一人呟くのだった。
洛陽の警備網はもうボロボロ、いったい誰がこんなことを・・・・・・。