真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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劉勲のパーフェクトはちみつ教室

「どうぞ、お納め下さい・・・・・・」

 

 南陽郡の太守御前にて、中年の男が跪く。

 緊張を孕んだ表情をひきつらせ、高鳴る胸の鼓動を抑えきれない。

 

「うむ」

 

 御前にいるのは年場もいかない少女。驚くなかれ、彼女こそ、汝南袁家の名族であり、正統後継者と目される袁術であった。

 

 男が差し出したのは小さな木箱、女官により袁術の下に運ばれたそれを彼女はゆっくりと開く。

 それは黄金、きらびやかに光り輝く宝石箱。彼女は匙を手に、それを掬う。

 

「・・・・・・甘い」

 

 ゆっくりと口に運ぶと、まずサクサクとした食感を楽しみ、そして鼻腔をくすぐる花の香り、味覚がその甘さを脳の神経へと伝え、刺激となる。

 身を溶かすような芳醇な甘さ、然りとてくどすぎない花の爽やかな甘い香りに身を任せ、やがてはその口へと運ぶ。

 

「花は蓮華、不純物もない澄みきった蜜。それも最上の巣蜜じゃ、うむ妾は満足じゃ。今年も特級を名乗るとよいのじゃ」

 

「は、ははっ! ありがたき幸せ!」

 

 特級、それは南陽に於ける蜂蜜のランク付けの中では最上位に入るとの御墨付き他ならない。

 南陽に於いて蜂蜜は全四段階に分けられ、特級、一級、二級、三級と位が付けられる。その最上位と成れば南陽でも片手で数えるしかいない名養蜂家である証明他ならない。

 

「うむうむ、励むと良い。さてもう一口・・・・・・」

 

「袁南陽太守様、次の品評がありますのでお止めください」

 

 胸が浮くような気持ちから一転、袁術の耳にたしなめる声が聞こえる。

 

「ぐぬぬぬぬ、曜卿は厳しいのじゃ! 妾はもっと食べたいのじゃ!」

 

 彼の名は袁渙、一般的に名族とされる汝南袁氏とは別の家系であり彼は扶楽袁氏、または陳郡袁氏と呼ばれる系譜の一族である。その出自は五帝時代の舜にまでさかのぼると呼ばれており、父袁滂は後漢の司徒とされ、彼もまた漢を代表する一族でもあった。

 

「蜂蜜でしたら、次もあるでしょう。此方は下げさせて貰います」

 

 遠くへと下げられる巣蜜、声の出ない叫びを胸に押し込め、悲しそうにそれを見つめていた。

 

「いや、あのじゃな曜卿。さすがにそのままと言うのは作って貰った人に失礼じゃろう。食べ物を粗末にするのはその・・・・・・なんじゃ、わかるじゃろう?」

 

「御心配召されるな、此方は我々で処理しておきます。決して無駄には致しませぬゆえ」

 

「うう、うううう・・・・・・」

 

 頭が堅い、けれど間違っていないどころか正論と呼べるだろう事柄に対し、袁術は最早なにも言えない。

 

「あー、曜卿。折角の特級の品なんだ。せめてもう一口ぐらいはどうだろうか」

 

 その様子を見かねたのか、一人の女性が男性に対し口を挟んだ。

 

「このあとにも政務が立て込んでいる、これも公務の一環として適切な判断だと思うがな」

 

「まだ子供なんだし・・・・・・」

 

「公務に歳は関係ない、太守という地位にいる以上そんなことは考慮されることではない。俺が間違えているか?」

 

「・・・・・・タダシイデス」

 

「まったく、おかしなことを聞くな。劉従事」

 

 真一文字の口から放たれる厳しい言葉に彼女、劉勲は何も言えなくなった。

 まったく、自分のような凡人にどうしろというのか。

 彼女には知識がある、それはこの世界とは違う未来の記憶であり、現在の南陽の発展はその未来知識であると考えれば彼女はいろいろと複雑な気持ちであった。

 

「一つ聞きたいのだが・・・・・・」

 

 隣から発せられるハスキーな声に対し、劉勲は振り向くとそこには一人の年老いた老人の姿があった。

 

「はい、なんでしょうか張衛尉」

 

 ただの老人と侮るなかれ、老いてなお隆々とした筋骨に威厳すら感じる威風を備えた彼こそが先の三公の一角であり、今は衛尉として劉備の後釜として平原へと渡ることとなった張温その人であった。

 劉勲は極めて平静を保っているが、心は緊張で心臓がバクバクだ。

 

「これは何の催し物だ? 何か訳があるのだろうが、貢ぎ物にしてはすべてが蜂蜜。どうも的を射ぬかない」

 

「あぁ、なるほど。わかりました、お答えいたしましょう」

 

 先程とは態度を一変させ、キリリと見た目だけでも姿勢を正すと劉勲は如実に答えた。

 

「はっきり言ってしまえば、趣味と実益を兼ね備えた結果でありますね」

 

 南陽は温暖な地方であり、豊かである。穀物の産出量も高く、交易によってそこそこの商業も発展しておる。

 故に基本的に南陽において手を加えることはないのだ。

 しかし、困ったことに我が主君は年相応に若い我が儘娘だ。小娘の我が儘で財政を破綻させるほど劉勲も袁渙も馬鹿ではない。

 だからこそ劉勲は考えた、それは養蜂へと技術のてこ入れと蜂蜜のブランド化であった。

 

 現代における養蜂による蜂蜜産出率世界一位は中国である。未来でもそのポテンシャルがあるのだ、ノウハウは現地養蜂家との折衝や話し合いに、防護服の開発に新規養蜂家を増やすために南陽でのキャンペーン。

 ランク付けによる蜂蜜のブランド化に着手し、そして成功。医療や飯店、富裕層の密かな楽しみや、果ては賄賂などに使われることとなるが、この蜂蜜産業は大成功。

 結果として我らが袁公路様はいろんな蜂蜜を食べれて満足、我々もこれによって税収を得られて満足、都市でも金銭が流通するようになって満足と、幸せスパイラルが発生していた。

 

 弊害としては君主袁南陽太守の舌が肥えてちょっとやそっとの品では満足しなくなった事であったのだが。財政的には何も問題はなく、それどころか養蜂家がこぞって蜂蜜の等級付けに来て、蜂蜜が飽和状態になる始末だった。

 

「袁南陽太守様、視察のお時間であります」

 

「曜卿、妾はもっと蜂蜜を・・・・・・」

 

 袁術は口を尖らせ不満を述べるが、袁渙はまるで意にも反さず堂々と述べる。

 

「栄養が偏ります。その様では痛風にかかり、蜂蜜の接種も制限・・・・・・」

 

 じっと見つめる視線に次第に汗をかく袁術。

 

「た、たまには散歩も良いかのう! うむ。別に蜂蜜が食べられなくなるのが怖いわけではないのじゃ、ほ、本当じゃぞ!」

 

「袁南陽太守様のお考え、誠に見事なことかと」

 

 袁術は逃げるように席を後にし、劉勲は袁渙と共に執務室へと向かう。その背後には張温の姿もあった。

 

「しかし、かような方法でうまくいってるのか?」

 

 先の話を聞いた張温は疑問を口にすると、劉勲はその問いに答える。

 

「うまく行かせたんです、勿論問題もあります。何せこれは周辺状況が好景気であることを前提にしています。景気が悪くなれば嗜好品の類いは売れなくなるでしょうね、それこそ特級品はほとんどの売れなくなります」

 

「故にこそ、我々は次の手を打たねばならない。この元手をもってして、産業を発展させる。何をするにも金が必要だ」

 

「現在南陽では難民の受け入れを行っていますが、それは手に技術を持つか、肉体的に精強な者を選別しています。つまりは製鉄技術の発展や開墾による税の増益を図るわけであります」

 

「荊州の様に学術発展により人材を得ることが理想ですが、それでも我々には金も人も足りません、現状が限界であります」

 

 渋い顔をしてるのだろうが、袁渙は振り向くことなく言葉を続ける。南陽において主簿を勤めている袁渙のもとにはそれこそ郡の情報のすべてが彼のもとに入る。

 そして彼の補佐であり、今回の蜂蜜産業の原案を提出した劉勲もまた、彼のもとで様々な政策の提言を行っている。

 官僚のトップとアイデアマン。こと政治と経済に於いてこの二人だからこそ、今の南陽の発展があるのだ。

 

「まぁ、このような状況ではありますが、今後とも長いお付き合いをお願い致しますよ、張衛尉」

 

 穏やかそうな笑みを浮かべながら、劉勲は一言告げるのだった。




 袁術魔改造(舌)
 ここの美羽さまはポンコツだけど心優しい子です。
 何だかんだ言って財力はともかく、血筋は汝南袁氏の袁紹、袁術より扶楽袁氏の袁渙さんのほうが格上な件。これだから歴史は面白い
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