真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡 作:ニーガタの英霊
「これより、軍議を始めようと思う」
董卓軍、出陣す。そう一報を受けた河南伊の幕僚たちは議場にて急遽軍議を始めた。
「敵の兵力は凡そ五万。洛陽を出て現在孟津にて進軍中。軍旗より敵の総大将は董卓の重臣樊稠と思われる」
董卓軍の重臣にして名将とされる樊稠。武の達人にして経験豊富な指揮官であり、対異民族に対する戦功も軍の中では上位に位置する男だ。
「逆に此方の兵数は凡そ一万も良いところだろう。孟津である程度釘付けられてもまだ倍以上の兵数がある。劣勢は避けられん」
「侵攻路を察するに、現在河南伊に進軍中、狙いは王河南伊の首でしょう」
「だろうな、各地の警邏隊に報告は?」
「既に韓司馬が向かいました。侵攻路に点在する村々を引き上げさせ、現在焦土作戦と夜襲などで兵力を消耗させています」
現在はあらかじめ用意していた基本戦術によって対処している。この時代の兵站構築は略奪が主であり、その被害は近隣の村からの徴収である。軍を維持する糧食のほか、兵士たちに対する飴も兼ねてのことだ。だからこそ、王匡た近隣の村に点在していた自警団らを駐在として置き、いざというときの避難を誘導していた。
そして、韓浩直属の警邏隊が主力となってゲリラ戦を敢行するという体制を整えたのだった。
「ほかの指揮官の内情は?」
「『牛』と『胡』と『張』ですね。『牛』は牛輔、『胡』は胡軫の旗かと。『張』が該当するのがそこそこいますがおそらくは張遼かと」
「成る程、どれも董卓旗下の諸将だな。おそらく攻勢に特化している面子だ、どれも前線指揮官として起用するつもりだろう」
経験豊かな董卓旗下の諸将。このままではどう足掻こうとも敗北は必至。唯一まともに戦えるのは韓浩旗下の警邏隊ぐらいだろう。それ以外だとまず練度が足りず兵力をいたずらに増やしたとしても足並みが揃わない。
「・・・・・・防衛戦をするなら、旋門関が妥当か」
「でしょうな、県に兵を出すように伝えましょうか」
「・・・・・・旋門以西の避難民ならびに中牟県だけにしておけ、後は一部鉱夫から志願を募り、罪人を恩赦と引き換えに兵にしろ。荀慈明殿にも出陣してもらう、戦争経験のある将兵は少しでも必要だ、元嗣には決戦前までに戻らせるように報告を」
「かしこまりました」
王匡が河南伊となって数カ月、職務にも慣れすっかり板についてきた任峻はてきぱきと自身に課せられた職務をこなす。
必要な量を必要な場所へ届ける、それこそが兵站構築の意義であり、それはほかの事にも通じる絶対の証明でもあった。
「ああ、それから兵站構築と財源関係は裴文行と進めてくれ。最悪後詰として出陣してもらう」
「な―――!?」
その言葉に真っ先に反応したのは他ならぬ裴潜だった。河南伊でも末席の自分がいきなり主簿の補佐へと引き上げられたことに困惑を隠せない。
「分かりました。では裴文行殿よろしいでしょうか」
「あ、ああ。俺は構わないぞ」
裴潜は困惑しながらもなんとかそれを了承する。逆に言えばチャンスでもある、自身の力を見せれば周囲も自身に一目置くだろうという打算もあるが、何より都の情勢に対し何らかの情報が入ってくることが彼にとって重要であったからだ。
「さて、私は私のやるべきことをするか」
裴潜らの様子を横目で見つつ、王匡は王匡にしか出来ない仕事をする。戦とはすなわち戦う前から決まっているのだ、その勝利を確実にするために王匡はここで死ぬわけにはいかない、多くの敵を殺し、屍山血河を作る悪魔の所業なれど、彼は後悔など一遍もなくやり遂げると決めたのだから。
「さて、よからぬことを始めようじゃないか樊稠将軍?」
冷徹に地図上に浮かべられた駒を見つめる王匡、人命というものがひどく軽いこの世の中で彼は自身の理想の為に突き進むと決めたのだから。
「・・・・・・いかんな」
洛陽から出立し、強行軍で進むこと数日、董卓軍の将軍樊稠は度重なる妨害工策に頭を悩ませていた。
「樊将軍、兵士の一部が腹を下しました」
「またか、飲み水は煮沸するように厳戒したはずだが」
「それが、煮沸しても駄目だったようで」
「参ったなぁ・・・・・・やり口に躊躇いがない。将兵の様子は?」
「大分いきり立っているようで・・・・・・」
「夜襲に備えるも地の利はあちらか・・・・・・ここまで苦労するとは思わなんだ。こういう時は略奪で不満を解消するもんなんだが、それも出来ん。予想以上に手ごわいぞ」
度重なる襲撃によって董卓軍は疲労困憊の状況に立たされていた。王匡軍の焦土戦術とゲリラ戦によって将兵は消耗し、井戸には腹下しの毒を入れられる。そのために行軍のスピードは低下し、こちらの足を引っ張る始末。
それに兵の士気を高めるための略奪が出来なければ兵站にも齟齬が出来る。まさしく戦わずして既に董卓軍は劣勢に立たされていた。
「将軍、このままでは」
「分かっている。分かっているが、このまま戦わずに引いてしまえば軍の威信にかかわる。俺は政治を知らんがこのまま反転してしまえば朝廷の恰好の餌になるだろうことぐらいはな」
そうなれば董卓の求心力は嫌でも下がる。ただでさえあの虐殺のせいで朝廷官吏と董卓ら軍閥との距離が開いてしまった。特にあの虐殺で妻を投獄された楊彪などその筆頭だった。
「奴らめ、とことん決戦を避けるか。兵数で押し切るとしても、このような状況では難しかろう。行軍を遅らせれば遅らせるほど夜襲の餌食になる。かといって強行軍をするにしても全員ついていけるかどうかと言ったところか」
「将軍」
「ああ、李傕の奴に兵糧の手配を。特に水が欲しい」
「かしこまりました」
「将兵には略奪品に手をつけないように手配しろ。指揮官の将軍たちを集めてくれ、夜襲に対して知恵が欲しい。まったく、こう兵を縛り付けるのは苦手なんだかなぁ」
頭を掻きながら、樊稠はため息を吐くのだった。
「荀慈明、中牟より兵五千を連れ、参上仕りました」
「援軍感謝いたします。軍議の際には中牟県令閣下にも出てもらいますが、よろしいでしょうか」
「了承致しました、河南伊の一大事。この荀慈明、身命を賭して戦う所存」
太守館、及び練兵場にて集まる将兵たち、現在その数およそ一万五千、旋門関に集う兵を掛け合わせてみても精々二万であろうが、決戦は野戦ではなく籠城戦ということを考えれば妥当な数と言えるだろう。
「しかし、このまま待機ですか。旋門に向かわなくてもよろしいので」
荀爽は任峻にそう疑問を呈するが、任峻は対して焦る風でもなく淡々と告げる。
「現状におきまして、正規軍と民兵の間では練度の差があります。それに与えられる装備もまた違います。軍はそう言った格差を除き、画一的な装備や練度にするために付け焼刃でありますが再訓練を行っています」
「成る程、正規軍と民兵の足並みを備えると、確かに民兵はろくな装備はありません。最悪石を拾って投げることしかできませんから」
「ええ、しかし今回は籠城戦を想定している為、武器に関しては問題はないでしょう。時間は我々の味方です、作戦の概要は敵補給線の破壊、そして敵軍の孤立化であります。特に董卓軍の内情を見るに相手は短期決戦の構えでありますれば、こちらは長期の構えであります。現に私と裴文行で兵糧や装備の配備を行っています」
「どの程度戦えますか?」
「何年でも。理論上ではありますけどね、こちらの補給線が破壊されたとしても最悪三か月は持つ算段はあります」
補給線に関していえば、任峻は適切な物資や人員の配備、ルートの構築などに一日の長がある。しかしそれらに熱中するばかりにそれ以外のことがおろそかになりがちだった。現に官吏の不正を暴けなかったのがその例だろう。しかし今ではそれらを防ぐ人間がいた。
そう、裴潜である。裴潜は数字、特に金銭管理に関しては優秀であり、補給に対する財政管理や問題の早期発見、領の経済感覚等、任峻に足りないところを見事に補佐していた。
いずれ任峻も経験を積めば、相応のことが出来るだろうが、現状ですべてを把握するのは能力的にも不可能だった。王匡が自分を裴潜と組ませたのは実に妙手であった。これほどの技能の持ち主であればいずれ重用されることも見えていたため、任峻は裴潜とは極力友好的な関係を築いていた。
「しかし、私らは旋門のさらに後方の砦にて後方業務に勤めるでしょうね、場合によって後詰として出陣かと。荀県令はその遊軍の指揮を執っていただくことになるでしょう」
「成る程、あいわかった、王河南伊にお会いしたいのですが、今どちらにおられるでしょうか」
荀爽にしてみれば到着したため王匡に挨拶と、そんな風であったが、任峻は顔をしかめると、眉間をほぐしながらゆっくりと答えた。
「・・・・・・王河南伊は書状を数枚送り、金議郎をお見送りした後、前線の旋門関に向かいました」
「・・・・・・は?」
なぜ全軍を統括する大将が前線の砦に行くのか。これがわからない
恋姫本編もガバガバだけど、この王匡伝も結構ガバガバ