真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡 作:ニーガタの英霊
「李儒文優、生まれは司隷馮翊郡郃陽県。貧しい貧農の生まれであり、母は異民族に対する兵士等に身を売って稼いでいたが、君が成人の前に病死。その後は転々とし軍の主計として働く。その後太学へ進学し官僚として郎中令となる。吉本と出会ったのもこの頃であり、吉本を利用して陛下の側近へとなり暗殺。以上相違ないか」
「ええ、相違ありません」
尋問官の言葉に対し笑みを浮かべながら肯定する李儒。度重なる拷問によって、生爪は剥がされ、背には鞭の傷、至る所に治療の痕が見受けられながらも余裕を一切崩さない態度は逆に尋問官に恐怖の感情が見え隠れするほどであった。
「・・・・・・なぜ、陛下を殺した」
「邪魔だったからです。私の望む未来にとっては、彼を殺すことは既定路線でした」
流暢に言葉を紡ぐ李儒。これまで黙秘を続けていた李儒だが、ひと月と経つにあたってようやく口を開いたと思えばこの状況だ。拷問から助かりたいわけでも、ましてや屈したわけでもない。
まさしく、もう黙っている必要がないとでもいうようないいようであった。
「この国はね、一度滅んだ方がいいんですよ」
そう言って、李儒はとんでもないことを口走った。
尋問官の制止をよそに李儒は淡々と語る。その思想を、その想いを、どうしてそのような考えに至ったかを淡々を語り続ける。
「辺境っていうのは、何もないんですよ。人ひとりが生きるのも精一杯で、誰も彼もが自分本位な人間な利己的な人間です。知ってます? 私はね、実の母に娼婦に仕立て上げさせられるところだったんですよ」
愛情などない。お前は道具だと言われ、顔も知らぬ男に抱かれる。それが正義だと、それが真実だと、洗脳のように何度も教えられた真実。
「都はいいですね。どこもかしくも華やかで、食うにも困らずに生きている。今も農村では生きるか死ぬかの瀬戸際、無理やりの徴収でそんな瀬戸際を生かされ、食うに困って餓死していく。
―――その時思ったんですよ。違うとね」
今までの朗らかな笑みとは一転、李儒は凍り付いたかのように無表情になった。その尋常ではない様子に、尋問官は背筋が凍り、この世のものではないものと相対している気分になった。
「分からないんですよね。どうしてあんなものを大切にするのか、どうしてこんな『無駄』を許容するのか、激しく理解に窮しましたよ」
それは、帝政の否定。不敬罪にあたることであった。
「皇帝による専制君主制の政治体系。それは宜しいですね、ですが本当にそれは正しいのでしょうか? 政治の失策は? 国家に対する危機を招いた責任の所在は? 一体誰が払うのでしょうか。皇帝でしょう? しかし幼帝が続く現状で本当に彼、彼女らに責任はあるのか? いいや無い。おかしいですよね。専制君主とはその責任をまず最初に支払わなければならないのに今でも居座り政争を過熱させる。
―――これを無駄と言わずに何というのですか? 帝室財産? 天子の血をひく? 易姓革命思想があるのにどうしてそんなものにこだわるのか。そもそも財産など王朝の終わりと共に焼き払われる。再利用価値のないものに価値などあるのでしょうか。
―――ほかにもありますよ。さてあなたはどうしますか」
「こ、皇帝陛下の批判など―――」
「はい、出ました。思考停止です。どうしてそこで考えないのか。そこが貴方の限界ですよ。多感的な視野なんて必要ありません。貴方はただ、目の前の現状に目を瞑っているだけ。そうでしょう、こんな国家。本当に万民が望んだ国家なのでしょうか? いいや、違います。これは―――」
「そこまでに、してもらおうか」
尋問官への言いくるめに危機感を感じたのか、部屋の扉が開かれると、そこには別の男が部屋へと入って来た。
「あまり吾輩の部下をいじめてくれるな、李文優」
「おや、李将軍直々ですか、これはうれしい」
李儒は笑みを浮かべると李傕を迎え入れるかのように笑い。李傕はそんな李儒の様子を冷笑を浮かべながら見つめていた。
「尋問を変わろう。いいかね」
「は、はい!」
一刻もこんなところにいたくない尋問官はそそくさと退室すると、部屋には李傕と李儒、それといざというときに李儒を捕えるためにいた衛兵だけが残っていた。
「で、貴様が言うのは単純な皇帝の否定ではないのだろう。単純な政治制度への問題の投げ掛け、つまりはそういうことだ」
「ええ、漸く話し合えそうな人物に会えた。それだけで胸が高鳴るかのようです」
頬を赤らめ、まるで恋する乙女のように笑みを浮かべる李儒。それは自身の考えを理解することができる理解者に会えたことによる歓喜があった。
「皇帝崇拝は人民一致の方法としては悪くありません。確かな象徴を置くと言うのはそれをもとに民が一体となり、連携を産み出すこと他なりません。しかし、こと大陸は大国家です、洛陽やその近隣、そうした都や発展都市の生まれは皇帝とは身近な存在であり。官吏も皇帝のお膝元とでも言える場所を経験するがゆえに機能する。ですが、それは中央集権で、その中央と呼べる存在以外からは皇帝となど関係はありません」
「辺境にとってはその日の生活、その地を治める人物こそが自身の支配者。皇帝よりも目の前の存在こそが重視すべき事柄だからか」
「さよう。皇帝権力は離れれば離れるほどその効果は著しく弱くなる。辺境の民にとって最も力を持つものは、太守、県令他ならない。しかも先代、先々代の陛下は傀儡とかし、先代陛下は執務を採ることすら覚束ない状況。これでどうして専制君主として立てると思ったのですか?」
皇帝権力の喪失。問題の着眼点はそこにある。いや、それだけではない。
皇室管理に使われる金品は馬鹿にならない。史実とは違い、女性権力が大きい為に存在すら危ぶまれる宦官という地位。
「つまりは貴様がやろうとしているのは専制君主制の否定。そう言うことか?」
「いいえ、違いますよ」
ある種の確信をもって言った言葉は否定と共に返ってきた。
「私は何も専制君主、独裁的権力を持つ存在を何も否定している訳ではありません。夏王朝、春秋、戦国期においてこと小国家として皇帝の様な存在は確かに力を発揮する。しかし、それは土地が其れほど雄大ではない場合に限られると私は思うのですよ。要はこの大陸国家には合ってない。ただそれだけの話です」
専制君主とは君主の能力によってその統治は変化する。優秀な人物が治めればそれはもう素晴らしく、逆に暗君が治めれば国に混乱が及ぶ。
「それに専制君主制は安定しません。どこかの綻びがそのまま国を滅ぼすことになる。国家に大切なのは時代に合わせた漸進的な変化と安定性です。法や理念も時代に合わせて変化できなければ足を引っ張ることになる。その結果がこの漢の腐敗を巻き起こした、違いませんか?」
「頭が痛いばかりだな。確かにその通りだ。伝統とは素晴らしく、敬愛すべきものであるが、行き過ぎれば害悪と成り果てる。既得権益の問題もある」
「だからこそ、壊さなければならない。破壊の後の再生、つまりはそういうことです」
李儒は何も狂っている訳ではない。ちゃんと長期的なスパンの中で自らの思想を完成させようとしている。だからこそ解さない、どうして彼女はこのような暴挙に至ったのか。
「いささか性急、拙速すぎるのでは?」
「いいえ、その様なことは有りません。むしろいの一番の好機にそれを達した。すべては策の通りです」
何も問題はない、全ては彼女の掌の上の出来事。
「思想と言うのは苦難の中にこそ生まれるもの。先の黄巾の乱。そして今徐州、揚州に広がる仏教と言う宗教思想が広がっているのが何よりの証拠です」
「・・・・・・まさか」
「種は蒔いた。あとは芽吹くのを待つだけ」
その瞬間、李傕の中ですべての疑念が交わった瞬間だった。
「・・・・・・戦乱を呼び込み、自身は革命の徒として死ぬことで貴様は自身を神格化させるつもりか!」
「思想というのは複雑に絡み合い、時代によって変化するもの。儒学は学問的側面から、宗教的な側面を持ち国教化に至った。なぜそれが出来ないというのでしょうか」
「誰に漏らした・・・・・・!?」
「いうなれば、大多数の人民です。今頃涼州ではそれなりに広がりを見せているでしょう」
「流血を呼ぶぞ・・・・・・!」
「痛みなくして人は成長しない。度重なる悲劇と戦乱の世にこそ、人は新しい何かを模索することが出来るのです。平穏な時代は人心を腐らせ、安易な方向へと進む。血の流血と悲惨な戦の中でこそ革命思想は生まれ、羽ばたく。満足した太平の世では人々は停滞してしまう。飽いていればいい、飢えた渇きの中にあって人は何かを求めることが出来るのだから」
それは劇薬のような考え、一歩間違えれば国家の破綻を示す言葉だ。
史実中国においておおよそ近代以前における大陸の科学技術の発展はそれは進んでいた。しかし近代以降においては西洋とは真逆の技術の格差を生み出し、前時代的な考えにより大陸は列強のいいようにされていた。
その知識があるからこそ、ある意味李儒の言うことはあながち的外れではない。しかし、だからこそ危険だった。
「―――やはり、貴様は殺さなければならない。貴様は吾輩の手に余る」
「・・・・・・そうですか」
うっすらと見えたのは落胆。近代日本において社会主義や共産思想を徹底的に弾圧した政府の気持ちが今の李傕にはよくわかった。
李儒の考えは無政府主義、アナキズムに近いものであり、目的の為ならば流血も厭わないテロリズム。そしてそれを、今までひた隠しにして、自身にとって最も理想的な状況へと推し進めた。
三国志の時代、その戦乱の世にタイムリミットが布かれたのだ。革命の思想はゆっくりと侵食するように大陸を侵していた。
血で血を洗う戦乱の世。その犠牲となるのは無辜の民。その民の為に立ち上がる存在が若しいたら。
―――その思想は爆発的な速さで広まる。
「楽しみにしてください。私の作る世の中を。その世界はきっとみんなが笑顔で暮らせる世で、そしてその先へ進むことが出来る社会を」
「それはどうかな。その理想を実現するのはとても難しい・・・・・・」
その先を、李傕は知っている。共産主義、あるいは社会主義国家がどのようにして誕生し、そして滅んだのかを。その先にどれ程の流血が待ち受けているかを。
「行く先は地獄だ。吾輩も・・・・・・貴様もだ・・・・・・」
「その覚悟がないはずがないでしょう。どのような責め苦とて、私は後悔はしない」
李儒がこれから受ける刑罰は凌遅刑。生きたまま、何日にも渡り切り刻まれる精神的、肉体的な責め苦を受けながら死すだろう。
だが、彼女はそれを承知の上で受ける。それが革命を始めた人間の進む道だと信じて。
李儒・・・・・・極左思想の持主。ブラック桃香様。その思想は共産思想よりかは無政府主義、社会主義、全体主義的なもの。基本的に下層階級の人々を救うために革命戦士化。計略や時流を読むことによって皇帝暗殺。
その結果戦乱の時代を引き起こすこととなった。張角に代わる三国志を始めた人間。彼女は涼州を中心に広め、その思想は既に韓遂も知るものとなっている。漢大好きな馬騰が死んだのはなぜなんでしょうかねぇ?
基本的にめぐりあわせが悪かった娘であり、王匡と会っていれば意気投合するぐらいに相性は良く、根本的な思想は王匡が国家第一、李儒が人民第一であり、互いに妥協点を探ってあれこれやる。