真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡 作:ニーガタの英霊
「夜戦だな」
「ええ、それがいいであろうと思われます」
反董卓連合、王匡軍の軍事責任者である呉壱は夜戦を提案した。
火砲の射程はそれほど遠くはない。遠目から見て木製の砲身を使っているのならば、火薬の量と威力はそれほど多くはない。その程度の距離であれば全速力で駆け抜ければ関の城壁にたどり着き射程外に出られるが、その程度は彼らの承知の上であり、騎馬の餌食かまた何かしらの策を仕掛けてくることは想像に難くない。
「これからは毎夜襲撃を行い、敵を疲弊させます。まずは我ら、次に劉州牧、その次は袁太守、また我らと代わり替わりに役割を交替し兵をある程度休ませましょう」
それに夜戦であれば敵火砲の命中精度は格段に低くなる。
「そしてこの作戦の目的は敵火砲の消耗です。何も敵の兵器は無限という訳ではありません。使えば使うほど董卓軍の状況は悪化します」
時間は双方の敵である。それがわかっているからこそ、呉壱は火砲を消耗させることで敵の継戦能力を削ごうというのが考えだった。
「味方には多大な犠牲を払うこととなるでしょう。しかし、これ以上味方をすり減らさずに敵に果敢な攻撃を誘う方法は私の頭では考えられません。いかがでしょうか」
「少し宜しいでしょうか?」
呉壱は諸侯らの顔を見て、意見が無いか聞いた。すると一人の男が疑問に思ったのか挙手した。
「構わない、有用な意見は極力取り上げるつもりだ」
「おお、では。私は袁山陽太守の下で司馬をしております満伯寧と申す者。話を聞くところ、騎馬に対してはどのような処置を行うつもりでしょうか」
身長百九十センチほどの偉丈夫、それが満白寧という男だった。そしてその懸念は最もなことであった。
「まず夜戦となればまず火砲の距離の差はないだろう。あるのは命中率の差だ。初日であればまず城壁にたどり着くことが出来る。その場合に使うのは火砲以外の関防衛に使う既存の兵装だ、騎馬隊を編成するのはその後。加え騎兵を出すところはどこだかわかるだろう」
「・・・・・・まさか」
「初日の最大の目論見は敵城門の封鎖だ。敵もまさか、門を開けるのではなく封じるというのは考えていないだろうからな。何より董卓軍の強みはあの火砲ではなく、精強たる騎馬兵団だ。以前の我々はそれを恐れていた、決して軽く見て良いものではない」
城門がこちらの有利ではなく不利になるというなら封じればいい。そうすれば董卓軍の優位性を示す騎馬を封じることが出来る。
「故に、初日に関しては皆様方にもご協力をお願いしたい」
「門をこじ開けるのではなく封じるなど聞いたことがありませんぞ!」
反対の声が上がるのを聞きながらも、呉壱は表情を崩すことなくそれどころか笑みを浮かべて返した。
「だからこそやるんだ。相手は新しい兵器を持って新たな戦争を模索しようとしている奴だぞ。そんな奴らに既存の方法が通る筈がない。我々も新たなことを模索せねばなるまいて」
「・・・・・・」
諸侯は己が幕僚らと話し合い、暫しの時間を得る。
「分かりました、賛成しましょう」
「それ以上の案が無いならこの劉正礼も賛同する」
こうして、虎牢関を攻めるための作戦が決まった。
「ありがとうございます。しかし、虎牢関を攻め落とすにあたって、もう一つ重要な任務があります」
そして虎牢関を落とすための呉壱の策を聞き、全員はその作戦に賛同し頷いた。
「俺渾身の心理戦が全く効いちゃいねぇ。どういう練度してるんだよあの軍」
さぞや無残に殺された身内の死。それを叩き付ければ何らかの反応を見せると思ったがそれもなく、敵軍は冷静に対処し、普通に首を回収しただけだった。
「やっぱり衝撃としては欠けてたかなぁ、もしかして静かに怒っているとかそういう状況? うわぁ、やっぱり蔡邕とか殺せば良かったか?」
虎牢関の内部において孟達は思った以上に連合軍の統制の高さに驚いていた。あのようなことをされれば面子だとか、義士としての立場とかで襲い掛かってくるのが一人や二人出てもおかしくないと思っていたが、そんなことはなく、むしろ敵軍は静観したまま時が過ぎようとしていた。
「大河、そろそろ時間だ」
「ん、分かった。将兵に厳戒態勢を取らせろ、騎馬隊の連中は叩き起こせ」
時刻は暗闇に沈んだ丑三つ時。やや重たくなった瞼を擦りながら夜風に当たろうと城壁に赴く。
夜風は冷たく、吐く息は白い。突き刺さるような寒さを身に感じ、鳥肌が立つのを感じながら背後から忍び寄る陰に、その剣閃を浴びせた。
蛙がつぶれるような声に耳を傾かせ孟達は叫んだ。
「敵のお出ましだぁ! 叩き落せぇ!!」
その声とともにかがり火を持ってきた兵士たちは現れ、侵入者へと制裁を加えてゆく。
「おうおうおうおう! 見事に現れたな孝直!」
「当然だ、相手はこちらの火砲の怖さを知っているんだぞ、そうなれば真正面から戦おうなんてしないさ。ならまず思い浮かぶのは夜襲に決まっている」
「違いない! ならば奴らに教えてやればいい、鉛の玉を登ってくる奴らの頭にぶちまけてやれ!!」
孟達の号令により、兵士たちは鉄球を落とす。それと同時に空砲を鳴らした。
それと同時に孟達はどこか違和感を覚えるが、すぐさまその考えを捨てる。
戦争とは取捨選択の速攻こそが命運を分ける。そこを彼は理解していた。
「それ一つが自分の頭と同じくらいでかい鉄の玉だ。火薬いらずでそのまま落とせば頭蓋骨から陥没して死ぬ」
その通り、落とされた鉄球は眼下より迫る兵士たちを次々と叩き潰す。それと同時に空砲を鳴らす。空砲とは言えその怒号は敵兵士たちを萎縮し不安にさせるには十分だ。鉄球に当たって死んだ兵士と火砲の相乗効果。視界が晴れてないからこそ、身を縮こまらせる。
「将軍! 火矢の準備が整いました!」
「上出来だ! さて、慌てふためくやつらの顔を見てやるぞ!」
用意周到に準備されたそれを一気に射抜けば眼下はまるで昼のように明るくなる。
「ざっと二、三千てところか。まあ、足音も聞こえんしそれほど多くはないと思ったがな。さて、ここまでお膳立てしたんだ。騎馬隊の連中は出てこい!」
こうなれば蹂躙は簡単なこと、明るくなった地平では騎馬が彼らを蹂躙してそれで初戦は勝つ。そう思っていた。
「・・・・・・おかしい、なぜ出撃しない」
まず違和感に気づいたのは法正。城門は一向に開くことはなく、眼下は驚くまでに沈黙を保っている。
「チッ、射って射って射かけろ!!
―――どうするんだ孝直、このまま火矢を増やせば馬に影響が出るぞ」
「今伝令を送った。とりあえず、そのまま火矢を射かけ続けてくれ。それと最悪の場合は・・・・・・」
「分かった、おい聞いたか! 弓隊はそのまま火矢を射かけろ! 守兵! 油とアイツを持ってこい!!」
孟達は怒鳴り散らすかのように叫び声をあげ命令を下す。
「大河、もしかして・・・・・・」
「騎馬隊がどうしようもないなら、使う。俺の秘蔵っ子だったんだよなぁ。せめてもう少し隠していたかったが・・・・・・」
それもどうしようも無くなれば使わざるを得ない。
「まあ、あれがあれば敵も夜襲なんざ出来なくなるさ。それに作り方は俺しか知らない。無用の長物になる前に使えればそれでいい」
「分かった」
法正は嫌な思い出なのか孟達を睨み付ける。しかしその間にも敵軍は迫り来る。
しかし孟達は的確な指揮でそれをいなし、防ぎ続ける。その姿は年に見合わぬ老将のようなキレと冴えがあった。
「も、申し上げます!!」
「どうした!」
「城門が、まったく開きません! 外側より封じられました!!」
一瞬、理解が及ばなかった。フリーズし、固まっていた状況からいち早く立ち直った法正はすぐさま敵の狙いに気づく。
「大河! いっそ騎馬隊のことは忘れろ! 目の前の敵のことに集中してくれ!!」
「・・・・・・おう!」
その言葉に、孟達は思考を遮断。敵がどうして城門を封じたかは考えず、己が参謀の言葉をそのまま聞き入れ再び指揮に入る。
戦場では一分一秒が戦況を左右する中であるが故に法正はそれを決断した。今の孟達に求められることは兵士たちを指揮し続けること。それが最善と信じている。
法正孝直は天才である、間違いなく、確実に。だからこそほかの人間の精神とはどこか歪であり、孤独感を胸に抱えていた。そんな自分を見出し、傍に置いたのがこの腐れ縁ともいえる長い付き合いであった孟達と言う男だった。
彼だけが自分を信じてくれている。自分だけが彼を理解してやれる。そういった信頼ともいえる深いつながりを持つからこそ、孟達も納得した。ただ、自分を信じているからだ。
ならば自分もその意に応えなければならない。
虎牢関は落ちない。自分と彼がいる限り、そのようなことはあり得ないのだ。
「ふふふ、愉しくなってきたぞ。大丈夫だ大河、お前に勝利を送ってやろう。ちんけな敗北などお前に相応しくない・・・・・・」
そしてこの少女、有体に言えば病んでいた。
孟達曰く、ワーカーホリックで恩も仇も倍返しなツンデレヤンデレ伍子胥系女子。それが法正孝直という娘であった。はっきりいって属性を詰め込み過ぎである。
「準備が整いました!!」
「よし、大河!!」
「―――総員」
それはとある液体の入った陶器と呼ぶには歪な入れ物。それを兵士たちが次々手に取る。
「投げ捨てろ」
城壁から投げ出されたそれは宙を落下し、地面に叩きつけられる。破片が散乱し、液体が弾けると、辺りは一面火の海と化した。
「うわっ、すっげー明るい!?」
多くの者が寝静まる真夜中で、この虎牢関だけがまるで昼のように輝いていた。
「ははっ、やっベー。超楽しい」
深夜のテンションでなんだか愉快な見世物を見ているようで孟達は非常にその滑稽な風景を楽しんでいた。
眼下に広がる火の海を踊るように溺れている幾千の兵。その現状に際し、王匡軍は撤退を迫られる。
「大河」
「おうよ、火砲用意・・・・・・打てェ!!」
そこから奏でられる轟音の祭り囃子。逃げ惑う敵軍を自慢の火砲を持って撃って撃って打ち続ける。
「さて、帰り際に一撃お見舞えしてやったが」
「ああ、流石だ大河。朝になればおおよその被害も知れよう」
「はあ、全く。俺は戦いたくなんかないのにどうしてみんな死ににいくんだ、悲しいぜ!」
「お、おう・・・・・・まったくそうは見えないが」
戦闘の余韻に身を震わせながら、心地よい疲労を感じる孟達。虎牢関の戦い、その初戦は董卓軍の圧勝という結果に終わった。
「きっと、焼け焦げた死体とか脳漿撒き散らした奴とか散乱してるんだよなぁ。あ、豚肉食べたい」
「大河、貴方疲れてるのよ」
語彙が支離滅裂となった指揮官に寄り添い、法正は彼を寝室まで送り届けた。この戦いによって王匡軍は一千近い犠牲を払い、董卓軍はほぼ無傷の勝利をおさめたのだった。
孟達の秘蔵作品。「度数がやばいほど高い酒」(孟達の生まれは葡萄酒酒造農家で、酒作りのプロ。酒を兵器転用した超火炎放射機みたいなもの)酒と言うよりもはやアルコールの塊、使う前にぬるま湯につけておくのがポイント。中国製スピリタス。飲んだら死にますBy孟達
法正「医療用って言ったよね」
孟達「てへぺろ」