真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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祝復活、リハビリがてらにどうぞ。


河内郡は今日も地獄です。

「なぁにこれぇ~・・・・・・」

 

 新卒ながら企業の部長クラスに栄転した我らが司馬芝子華は自身の執務室で一人突っ伏していた。

 原因は先月の収支報告書にあった。

 

「・・・・・・なんで私なんだ、先任優秀すぎじゃない・・・・・・? えーと名前は・・・・・・王匡!?」

 

 収支結果報告書の最後には王匡公節の名前が輝いていた。河内ではアラビア数字という独特の文字を取り入れ見やすく、簡潔に報告されていた。また、報告書には王匡の一言というべきメモ書きも相俟ってもはや教科書といえるレベルである。

 

「・・・・・・というより、ここにも横領はあったのね。でも、これ見せたら一発で手を挙げざるを得ないわ」

 

 というより、すでに纏めて不正官吏の摘発は完了しており、そのこともあって中央から王匡の信頼は高い。スムーズに県令、県長の赴任を認めさせたのはこういった経緯があったのだろうと司馬芝は推察する。

 

「それより・・・・・・」

 

 ちらりと司馬芝は目線を隣に移す。積み上がる書籍、木簡の山。予算収支のほかにも都市の衛生管理、軍事予算の報告、街道整備、特別手形の発行、農業算出、戸籍発行、商人の貸し入れ、etc。

 

「よく王太守は生きていたものだわ」

 

「私がいましたからね」

 

「はゥ―――!」

 

 物音も無く、突如として後ろから声をかけられる司馬芝。勢いよく振り向くとそこに居たのは太守府掾の趙儼だった。

 

「今回、王太守が不在のため、私が司馬主簿の補佐を任せられることとなりました」

 

「・・・・・・不在とは何処に」

 

 朝議は早々に終わり、速やかに各々職務に戻ることとなったが、王匡が不在だとは司馬芝は聞いていない。暗にそういったニュアンスを漂わせていたが、趙儼が正確にそれを読み取っただけのことだった。

 

「・・・・・・主簿には直接関係の無い話ですが、王太守は并州の張楊様の元に向かわれました。とはいっても交渉となりますので、交渉が整い次第、司馬主簿含め、議場での報告となりました。故に決して貴女を蔑ろにしている訳ではございませんのでご安心を」

 

「并州ですか・・・・・・、それはまた遠くに」

 

「ですので、一時的にではありますが現状の最高責任者は私となります。何かあったら私に報告ください」

 

「分かりました。報告などはどちらに?」

 

「ここです」

 

「・・・・・・はい?」

 

 何言ってんだこのおっさん。もとい老け顔。

 

「王太守と楊県令の人を見る目はあるとは思いますが、あなたはここに赴任して今日が初めてです。加え、職に就くわけでもなくただのうのうと暮らしてきたらしいではないですか。ですから補佐を、と思いましてね」

 

「・・・・・・」

 

 善意で言ってるのだろうし、基本親切なのだろうが、職のことには触れて欲しくはなかった。言い返そうにもどう考えても純然たる事実であるが故に何も言い返せない。

 

「とりあえず予算の収支報告からはじめましょうか。河内は特に金銭を重視していますから」

 

「はい・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 趙儼伯然は豫州穎川の生まれである。地方官僚の父母の元、幼くして利発さを発揮し、早くして名士と呼ばれる人々と親交を結んだ。

 特に深い友人となったのは杜襲。そして、郭図公則であった。

 

 さる黄巾の乱の折りに、郭図は突然趙儼の下に訪れたのがすべての始まりだったと、趙儼は懐古する。彼と同様に呼ばれた神童の中でも趙儼という人間は地方官僚の父母を持つと言えど庶民の出であった。

 加え、趙儼と同じ立場であったのは彼以外は郭図だけであった。

 

 だからこそ、友人たる郭図の誘いはまさしく彼にとって人生の転機であった。

 

「紹介したい者がいます」

 

 いつになく真面目な面持ちをした郭図の姿がとても珍しく、彼をそんな顔にさせた人物が気になったことに後悔はなかった。

 むしろ幸運だったのだろう。自分の求める君主に出会えたのだから。

 

 彼の言葉は魅力的だった、それこそ心が揺さぶられる程に。それでもやや理想に偏ったところがあったのは事実だ。

 

「理想論というのは分かっている。しかしそれでも理想を求め続けることになんの罪があろう。そして今、私が求めるものが理想としても、十年、百年と私の理想を理解してくれるものがいれば・・・・・・。あぁ、それは決して不可能ではないと、私は信じている」

 

 気の遠くなるような話だが、彼のいうことは決して不可能ではないと言い続けた。そして、きちんと現実を直視し、着地点を見失っていなかった。

 そして何より、私は彼の理想の国に住みたいと思った。

 

 だからこそ着いてきた。この思いは決して間違いじゃないと、そう思ったから。

 

 やがて、彼の下には着々と人が集まってきた。地元の名士、かつての学友、彼の部下や同僚、幼いときに知古となった者など、誰も彼もが彼と共に着いていくことを決めた者達だ。

 

 彼は不思議な魅力を持っている。まるで郭図と同じような雰囲気を持ち合わせて、加え、彼自身もひた向きに真面目で実直であった。

 

 時代は変革を望む、他ならぬ漢王朝の崩壊と共に血で血を洗う争いの輪が・・・・・・。

 

 そして次の王朝が誕生したとしてもそれは同じこと、漢の民は馬鹿馬鹿しくも、同じ人種同士で争い合う。そんなバカな真似がもう何度も続けられた。

 

 それを認めてはならない、認めてなるものか。

 

 時代は、自身が切り開く。それは天ではない、他ならぬ自身が選択するのだ。例え地獄の釜に堕ちようと、自分は決して後悔などしないだろう。

 むしろ気持ちが高揚する。二千年も続けられた血塗られた大陸の歴史を変える。そして打ち立てるのだ、新たな国家の歴史を。

 その為なら自分は鬼となろう。怪物と罵られても構わない。我々の行いは後世の者が決めること、我々に立ち止まることは許されないのだ・・・・・・。

 

 

 

 

「ハックション!! エフッ、エフッ!」

 

「・・・・・・だいぶ大きなくしゃみじゃったが、大丈夫か?」

 

 冀州、その州都である鄴の執務室で、郭図公則は大きなくしゃみをしてしまい、書類が室内を大きく舞う。

 

「・・・・・・すみません。書類飛んじゃいましたね」

 

「構わん構わん、後で秋水に拾わせるわい。で、体調はどうじゃ、郭主簿」

 

「ですから、大丈夫ですよ。これでも病気に強いことには自信がありますから、沮別駕従事」

 

 そう、彼らこそ冀州牧韓馥文節の右腕にして冀州が産んだ知将沮授に韓馥を亜父と慕う懐刀郭図公則であった。

 

「して主簿、糧食はどれ程集まったか」

 

「十分なほどにあります。それこそ、売りに回れるほどに」

 

「上々。それでなくては河内の交易を許可した意味がないからな。いやはや、王太守も大変なことじゃ」

 

「えぇ、王太守と言えば近頃上党の張太守と会っていたとか、おそらく・・・・・・」

 

「戦の準備じゃな。黒山か匈奴か、或いは・・・・・・」

 

「いずれにせよ、此方としてもかませて貰えるやもしれん」

 

 小さな弱小勢力であるが、沮授は王匡の危険性を正しく受け取っていた。史実に於いて田豊と並び、陳平・張良の如しと称された知略はこの世界においても健在だ。

 

 しかし、そんな彼も既に六十という歳を過ぎ、浅黒い肌は皮と骨、眉や髪は総白髪であり、所謂遅咲きの老将である。

 

 しかしこの男、頭は良いが上司には好かれにくく一生のほとんどを県令として過ごした為、またこうして抜擢されたことに対し、十も二十も若返ったかのように元気である。まるで散る前の桜のように。

 

 いかんいかんと、郭図は頭を振り思考を飛ばす。

 その時、廊下から大きな足音が聞こえてくると、郭図は扉から離れてその様子を見守る。すると、とある青年が扉から勢いよく飛び出る。

 

「源爺! 軍の編成なんだが―――」

 

「おぉ、よう来た秋水。ほれ、早く書類を拾わんか」

 

「ぶち殺すぞクソ爺」

 

 鋭い目付きに若いながらも白髪であり、多忙なのか、無精髭に加え、眉間には深い皺がくっきりと残る。

 審配、字は正南。沮授の話によると若いながらも切れ者であり、後方の兵站管理や作戦立案、軍の指揮などを叩き込んだと我が子とばかりに可愛がっているらしい。

 沮授が彼に厳しいのも、裏を返せば愛情である。

 

「やれやれ、我が軍の参謀がそんな短慮ではいかんな」

 

「煽ってるのはそっちだろうが!」

 

 突如として言い争いを始めた二人、そんな二人に辟易しつつも、どこか羨ましさを感じながら、郭図は一人執務室を出て行く。

 

 思えば不思議なことだ、同郷の者に会うまでこの世界が三國志の世界だと気付かずに過ごし、今正しく戦乱の世に突き進む大陸。そんな大陸の情勢に不安を感じつつも、彼は突き進むしかないのだ、平和だったあの世とは違う、今度こそ、手を汚す覚悟がなければ到底生きられない世界だと、本当の政治の世界を彼は思い知った。

 

 そして、二度目はないことも重々承知していた。

 




ネタバレ、郭図さんも転生者。
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