真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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李儒「私が死んでも第二、第三の李儒が漢を襲うだろう」

「その話は本当なのだな?」

 

 虎牢関内部で孟達はその報告を何度も聞き返す。それほどまでに予想だにしなかったことだったのだから。

 

「はい、確かな情報であります」

 

 半壊した虎牢関で彼らは頭を抱えることとなった。

 

「汜水関が落ちたか・・・・・・」

 

「にわかには信じがたい、あちらは主力が居たはずだろう」

 

 汜水関陥落の報は確かに聞き届けられた。それは同時に現在の作戦の失敗を意味することとなる。

 

「それに加え、近隣の村で反乱が起こっています。すぐさま撤退すべきかと」

 

「・・・・・・」

 

 汜水関陥落に協応するかのように近隣の村々の離反、反乱。おそらく連合勢力にそそのかされたことが原因であろうそれに対し孟達は眉を顰めるのだった。

 

「・・・・・・致し方ないか」

 

「孟将軍・・・・・・」

 

「無理だぞ張将軍。敵を寄せ付けないとは言え、関の防衛能力を大分削ってしまった。それどころか今度は農民と事かまえなければならなくなる可能性も捨てきれん。即時撤退すべきであろう。残存兵力を募り、洛陽に帰還する」

 

 汜水関の陥落、恐らく董卓軍は洛陽からの遷都を敢行するであろう。そうなった場合取り残されるのは御免だ。

 

「やっぱり、慢心が原因か?」

 

「それもありますが、うまく連合に兵士を引きずり出されました。華将軍は討ち取られ、張文遠将軍も捕らえられた模様で」

 

「・・・・・・うまくいかないものだ。しかし、いつまでもうじうじしている訳にもいかない」

 

 孟達は前を向き、諸将を見渡すと、ただ一言述べた。

 

「殿軍を残す。我々はこれより撤退戦へ移行する」

 

 辛く、重くのしかかる戦略的敗北を背に、彼らの絶望的な戦いは始まったのだった。

 

 

 

 

 

「今こそ、悪逆なる董卓に反旗を翻す時である!!」

 

 汜水関を超えた先にある町で、男はその喧噪をぼんやりと眺めていた。

 存外、簡単に反乱は起こった。男が行ったことは噂を流し、武器を流し、そして町と駐留しているわずかな軍の間に衝突を起こしただけ。たったそれだけで状況は面白い方向に転がって行った。

 

「いかがでしたかな」

 

「いやはや、見事なものでした杜老」

 

 河東郡聞喜県。河内郡の隣郡であるこの地方で今まさしく巨大な反乱が巻き起こっていた。反乱の首魁は裴儁、裴徽の兄妹。奇しくも洛陽において処断され、首を虎牢関に飾られた裴茂の子であり、裴潜の異母兄妹であった。

 彼、彼女らを中心に聞喜県の名士たちが協力し、董卓らの駐屯軍や兵站を破壊するなどその勢力は無視できないものとなっていた。

 

 男の目の前にいるのも聞喜県の名士である杜家の大旦那であった。

 

「いやはや、驚きました。かつては困窮し、もう亡くなっていたとばかりに・・・・・・」

 

「私も、あの時はもうだめかと思いました。しかし、このように今はピンピンしていますよ。王河南伊にはよくしていただきました」

 

「そうですか伯恭殿」

 

 男の名前は毌丘興伯恭。かつて河東郡の一農民として生まれ、そして新天地を目指し、河内において趙儼配下として司隷州を中心とした場所を回る行商人の皮を被った王匡軍の密偵の一人であった。

 

「汜水関が落ちたのは幸運でした。これほどに騒ぎが大きくなっても、董卓軍は動きたくとも動けないでしょうしね。後は連合軍を待つだけです。幸いなことに我らが王河南伊は補給を重要視していますから略奪等の心配はないかと」

 

 毌丘興の行ったことは反乱の共謀、然るべき時が来れば董卓軍の反乱を起こし、連合の作戦の一助になることだった。

 

「ふむ、それは上々。裴家にご嫡男もそちらにおられるご様子であられるしのぅ、王河南伊にはよろしくお願いしますよ」

 

「勿論」

 

 笑みを浮かべ、肯定する毌丘興。正念場は乗り越えた、ならばこれから優勢になるのは連合であることは間違いない。

 まずは喜ぼう、まず最初の勝利に酔い、毌丘興はふと娘のことを思うのだった。

 

 

 

 

 

「敵軍の掃討を終了しました。敵主将である牛輔は降伏した模様です」

 

「結構、よくやってくれた。牛将軍は丁重に扱ってほしい」

 

「かしこまりました」

 

 虎牢関での一連の戦いが終わり、王匡ら連合はその戦後処理に追われていた。

 敵の殿である牛輔を捉えたものの、敵の軍勢の多くは撤退に成功した。それに加え関は使い物にならず、いつ崩落するか危険な状況にあり、とてもではないが活用できる状況ではない。加え、ご丁寧に火砲の類もすべて破却されており、鹵獲して使おうにも使い物にならないのが実情であった。

 

「報告します。河東郡における工作は成功しました。地元住民からの支持を得ており、いつでも軍に参入できる模様」

 

「結構、河東の守りを薄くするわけにはいかないからな、代表者を呼んできてくれ、彼らの支持表明があれば多少やりやすかろう」

 

「はっ!」

 

 続いて報告されたのは河東の工作が成功したことであった。これで司隷州における東部の支持を得たこととなり、王匡の地盤はより一層強固となった証である。

 戦後処理に半ば動いている状況の為に、王匡はこういった工作には念を入れていた。これがあるとないとでは統治の効率性は段違いである。

 

「となると、裴文行の利用価値は上がるな。此度の戦いでもよくやってくれた。そうなると論功はやや色を付けた方がよかろうな」

 

 王匡は書類を前に格闘しながら仮説の指令室の中でそう呟く。

 

「河南伊、その裴文行のことで問題があります」

 

「聞こう」

 

「有難うございます。あの日以来の戦いからどうやら裴文行殿は気分が優れぬ様子であり、今日もいささか発熱を訴えております」

 

 それは、王匡にとっても予想外の言葉だった。

 

「・・・・・・裴文行は清潔にし、これ以上なく丁重に扱っているはずだが」

 

「しかし、最も重傷を負っているのは彼です。正直なところ、腕のいい医師の判断が必要かと」

 

 王匡軍は軍備や兵装もそうであるが、医術においてもこの時代では比べ物にならないぐらい先進的なものを行っている。しかし、それでも救える命には限りがあり、王匡自身医学にそう詳しくないわけもあって、抜本的な改革とはいかなかった。

 

「洛陽は大医令吉本をはじめとした医療の最先端都市だ。どうにかそこで見繕えないだろうか?」

 

「吉称平は医学の波及について詳しい人物でありますから、その教えを受けたものは多いかと」

 

「李文優が処刑された以上、彼の者の生存はないだろう。京兆の吉家は無傷ではあるが、本来なら連座されてもおかしくはない」

 

 軽すぎる。それがこの時代における皇帝暗殺の刑罰の認識だった。本来なれば三族殺しは当たり前、最悪九族殺されても文句が言えないのが、皇帝暗殺と言ったものだ。

 

「何かしらの裏取引があった。そう考えてもおかしくはないだろう」

 

「李文優の思想は素晴らしい物でした。掛値なく、そう言えます」

 

「そうか・・・・・・」

 

 大罪人李儒のつくりあげた思想。それはナショナリズムを発端とする身分制社会の否定と格差是正を筆頭とする思想の奔流であった。

 

 前文から始まりその構成は

 一章 国家の国防

 二章 皇帝権力の責任の明確化

 三章 中央政界における腐敗の実態と官僚制

 四章 国家における身分制度

 五章 士大夫、豪族の身分撤廃とその意義

 六章 国土不正備と異民族の脅威

 七章 中央集権制の危険、なぜ郡太守の名は高まるのか

 八章 総論

 

 となっており、現在の皇帝とそれを発端とする諸問題を痛烈に批判するものであった。

 彼女の持論は確かに頷く面もあり、非常に過激なものではあるが、その内容は辺境民衆の解放にあると言っていいだろう。涼州に生まれ、劣悪な環境から華やかな中央政界に努力して上り詰めた彼女らしい論説となっている。

 

「素晴らしいな、確かに素晴らしいだろう。それが実現にひどく困難なことを除いてはな」

 

「はい・・・・・・」

 

 そして、王匡は筆を止め、深くため息を吐いた。

 

「民衆は熱狂する。ほかでもない、涼州の知識人層がこれを支持するだろう。それに充てられて、涼州では混乱が起きることは確実だ。涼州の士大夫、豪族は殺されかねん」

 

「上意下達式の勢力ではなく、今までにない共同体のような勢力が起きかねません。・・・・・・そちらの方が、よほど責任の明確化がなっていないというのに」

 

「ああ・・・・・・」

 

 不満げな表情を見せる趙儼に対し、心底同意するように王匡は頷く。

 

「国家の責任は非常に重い。だからこそ、その上にたつ者は不断の努力が必要なのだからな」

 

 変わりゆく情勢。それは良き未来への懸け橋か、それとも逆行した混沌の大陸の再来か。今の彼らにはわからないが、それでも最善の未来を目指し、戦い続けるしかないのだろう。




 虎牢関編、もとい反董卓連合編完!
 次更新するときは一体いつになるだろう。
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