真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡   作:ニーガタの英霊

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やめて、豪族のライフはもうゼロよ!

 

 

 

 河内の首脳達による新体制が発足して半月の年月が経ったその日。予定通り河内太守館に勤める主な者達が朝議の場に集う。

 その中でも一際目を引く人物がいた。

 

 背は凡そ六尺以上、流水の様に髪を靡く髪を綺麗に分け目に沿って整わせ、一種の清潔感を漂わす。切れ長の眉に猛禽を思わすかのような鳶色の瞳。高く、形の整った鼻筋に衣服はこの時代では珍しい黒の詰襟を身に纏う。

 

 呉壱子遠。元の名は、呉懿。

 伯父の名は呉匡、あの大将軍何進の側近であり、何進暗殺後、袁紹と共に宮中に入り、宦官の虐殺を行った張本人である。

 

 中央の壇上に王匡が座るとしても、呉壱はそのすぐそば、司馬芝の向かいに座す。彼の役職は司馬。司馬とは軍権を握る役職であり、彼の場合軍令・軍政を束ね、仕事としては軍事官僚に近い役職だ。

 しかし侮るなかれ、武術に限ればその腕は河内でも一、二を争い、軍を率いれば古の名将を思わすかの様に見事な指揮を見せる。

 河内の勇壮なる兵士を作り上げたのはひとえに彼の尽力の賜物である。

 

「王太守が参ります。皆々様方、拝礼の用意を・・・・・・」

 

 少し遅れて趙儼が現れると、議場の中央に大きな地図を広げ、王匡が鎮座する上座の近くに座す。

 暫くして、正装を身に纏った王匡が姿を現す。

 

「これより朝議を始める、伯然・・・・・・!」

 

「はっ、まずは先だっての収支報告から始めます。司馬主簿」

 

「はい、王太守の推奨する商業経済のお陰で、現在河内の収入はいずれも右肩上がりとなってます。また、その資金を元手にした街道の敷設も粗方完了しました」

 

 そして街道の整備により林慮県と道筋が繋がり、鉄材の運搬量は劇的に変化する。街道整備に駆り出された貧困街の住人は新たに鉱夫として雇い入れる。

 現在河内ではそういった働き手は喉から手が出るほど欲しい。

 

「しかし・・・・・・」

 

 経済の活発化は良いとしても、司馬芝としてはやはり不満はある。

 

「農業産出率ですが月毎で見ると徐々にですが減少しています」

 

「ふむ・・・・・・。司馬主簿、原因として思い当たるものは?」

 

「やはり、商業に対し魅力的に見えるのでしょう。農民として、一生働き続けるよりも、裸一貫でも裕福な暮らしの出来る商人は彼らにとって魅力的です。そして、そういった情況で主に農民としても次男、三男などが家を飛び出すという例は後を絶ちません」

 

「農家は商人に比べても税を安くしている。そうでなくとも、一部の作物を税の代替えとしているが、それでもか」

 

「それでもです。王太守の対策のお陰ではありますが、それでもこれ以上農業人口が減少すれば、河内の事情はいびつなものとなります」

 

 そうなれば戦どころの話ではないと司馬芝は示唆する。しかし王匡は笑みを浮かべ、司馬芝を見つめる。

 

「主簿、他県と豪族の癒着はあったか?」

 

「? え、えぇ。きちんと証拠を揃えております。多少の帳簿の誤魔化しなど私には効きませんから」

 

「結構、実に結構。主簿、証拠はどの程度のものか?」

 

「改竄した帳簿と私が計算し直した真っ当なものに、行商人のタレコミで県令・県長と地元豪族の間に起きた収賄の証言、彼の持っていた裏帳簿の写しなどきちんと保管しております」

 

 司馬芝は至極当たり前の事を言っただけだが、幾人かの人が目を見開いて驚きに包まれている。

 

「素晴らしい。伯槐、これを聞いて何処まで行ける?」

 

 並み居る幕僚の中で、最年長である常林に是非を問う王匡。歳は三十前半、長く伸ばした顎髭をさすりながら常林は答える。

 

「・・・・・・県令、県長、豪族。えぇ、骨の髄までしゃぶり尽くせるでしょう。むしろこれ程働いて貰いましたならば私も全力を出さざる得ないでしょうねぇ・・・・・・。首をすげ替えるか、傀儡にするかは王太守お好みで。・・・・・・朝廷の働きかけも任せて貰えれば」

 

「其処までは任せられん、陳留の曹太守との折衝がまだ残っておろう。それでなくとも冀州、匈奴と貴様の仕事はまだある」

 

 常林の治める朝歌県は交通の要所であると同時に河内の玄関口である。周辺には陳留、冀州、并州、その背後には匈奴、鮮卑といった異民族が軒を連ねている。

 特に常林は河内幕僚の中でも外交畑であり、論客としては高い能力を持つ。しかし、本来常林は農務関係を最も得意としている。文官の質がいくら高くても、やれもかれも全てに手を出せる訳ではない。

 

「伯然、頼めるか」

 

「承りました」

 

 こうして趙儼の朝廷行きが決まり、近々県の頭がすりかわり、豪族の力を落とすこととなる。それは同時に、最早郡内で王匡の邪魔をする者の消滅を意味することとなった。

 しかし、ことはそう簡単には終わらない。

 

「鉱山行きの者達の一部で新たに奪った土地を開墾させる。豊かになるに加えて、難民問題も急務だ。取り敢えずはこれで一応の目処としたい。主簿は後日改めて私と折衝だ」

 

「はっ!」

 

「宜しい、それでは本題に入ろう。伯然!」

 

「はっ・・・・・・! では皆々様方、中央の図をご覧ください」

 

 趙儼の言葉と共に皆の目は中央の図に注がれる。

 

「これは、河内ですね・・・・・・」

 

「ご明察です。敵は河内豪族、非主流派県令、県長です」

 

「少しお待ちを、如何に俗物と言えど、彼らも漢の臣。途端に軍事行動に出るのは宜しくないかと」

 

 そう諫言したのは一人の年若い少女。濡れるような黒髪は現代で言うボブカットであり、くりくりとした瞳は非常に好奇心旺盛な動物のようで可愛らしい。

 そしてなにより、王匡の陣営の中で最年少かつ、赴任してすぐ王匡に抜擢されたため、王匡、ひいては河内に対する忠誠心の高い若武者である。

 

「その程度分かっております。太守が言うには、相手に手を出させると言うことでしょう」

 

 王匡の心意を察するかのように答えた女性は楊俊。所々美形が並ぶ幕僚の中で、彼女は何処にでもいそうな二十代後半OLの雰囲気を漂わせた人物だ。

 

「兎も角、説明はこれからだ。伯然、子遠」

 

「「はっ!」」

 

 返信をするやいなや、趙儼は作戦を捲し立てる。

 

「先ずは、周辺豪族、県令に対し収賄の証拠を叩きつけます。その上で、役職の解任、私財の没収を申し付けます」

 

「当然、そんな事をされてはたまったものじゃない。すると、奴さんはどうすると思う?」

 

「常道で考えるならば論客の派遣と言ったところでしょうな。しかし、余程弁の立つ者でなくては巻き返しなど図れないでしょう」

 

「交渉はあくまで高圧的にだ。先に攻撃させれば後はどうとでもなる。加え、常備軍を各地に派遣する」

 

「なるほど、豪族の持つ私兵を理由にして郡人の保護と言うわけですか」

 

「それに加え、太守を討ち取らせやすくさせる」

 

「お待ちくだされ、幾らなんでも危険かと」

 

「案ずるな元嗣。私は武官上がりよ、それに、いざというときに対し子遠に防衛線を引かせた」

 

 こういうときの為の常備軍だ。わざわざ高い金を払っている訳じゃない。それ以外にも王匡には上に立つものとしての矜持がある。

 

「いざというときに太守が命を張らんでどうする? 安心しろ、私はこんなところで死ぬ男じゃない」

 

「・・・・・・わかりました」

 

「宜しい。子遠、斥候の様子は」

 

「仕込みは上々だ。最近は特に優秀な斥候が入ったからな」

 

「結構・・・・・・!」

 

 薄く冷笑を浮かべ、王匡は一人上座で立ち上がる。

 

「諸君、戦の準備だ。これをもって我々は河内の新秩序を新たに打ち立てる!」

 

 王匡は意気高らかとそう宣言する。

 後に河内の乱と呼ばれたこの戦いは後世、歴史的大勝として史書に刻まれる事となる。

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