真・恋姫†無双 王匡伝 三国志ガチ勢の軌跡 作:ニーガタの英霊
なお最盛期にはこれに郭図や王匡も加わる模様
「うわーーー! 恥ずかし、恥ずかし、恥ずかしいぃぃぃ!!」
仮眠室の寝台の上でぐるぐると転がりながらもんどりうっている淑女。彼女は大きな後悔の渦にいた。
「や、やばいよ。私ったらなんて恥ずかしいことを・・・・・・」
勢いに任せて行動した結果、字で呼ぶのを許し、さらには貞操を・・・・・・。
「うわーーー! 違う違う! そんなことない、そんなことないもん。誰があんな白目男のこと」
かっと顔を赤らめ、首を振り続ける司馬芝。彼女だって女の子だ、結婚の言葉に幻想を持っていても不思議でない。しかし、実際に言ったことや場所を加味するに、ロマンもへったくれも考えるまでもなく最悪のことだろう。
「・・・・・・はっ! そういえばあの話全然聞いてない。あーーー! 私のばかばかばかぁ!」
涙声で叫び続ける司馬芝、普段からの姿からは想像がつかない程の乱れっぷりであり、普段の彼女を知っていたら目を丸くするのは当然なほどだ。
「・・・・・・でもまぁ、それほど嫌なわけじゃないし。普通に考えて、相手が太守なら問題もないわね。あー、うん。とりあえず割り切ろう! 別に死ぬわけじゃないし、これといった相手もいないしね。うん、なにも問題ないわ! ・・・・・・たぶん」
人はそれを自己の正当化というが、彼女はそんなことは気にしていない。それどころか親に結婚はまだと催促されることもないのだ、と思っている位だ。
鈍感なのか、肝が据わっているというか、これが史実において大司農までのしあがった器であろうか。
―同刻、洛陽―
「・・・・・・どうしてもご協力は出来ないと?」
「ええ、李傕将軍」
宮中のほど近くで対面する男たち、一人は三十代の中年。そう、彼こそが現皇帝劉弁の側近である大医令吉本である。
「チッ・・・・・・」
「董旻」
「わぁってるわ、なぁオッサン。どうしてそこまで俺らに協力せんのや、事と次第によっちゃあ・・・・・・」
口髭を大いに蓄えた強面の男、董旻は吉本に近づき、にらみをきかせながら脅しをかける。
「その手をつぶすぞ」
「・・・・・・成る程、確かにそれは困るな」
手、その中でも利き腕は医者にとって命も同然だ。この時代において外科手術を行えるものはそれこそ史実において『神医』と呼ばれた華佗と転生者である吉本だけであろう。一ミリのずれがそのまま患者の命に直結する。それは吉本の認めることではない。
「しかし、君ら程度にその権限があるのかな」
「権限などなくともやりようはあるさ」
そう答えたのは李傕、相国である董卓の腹心の将軍であり、董卓軍でも精強たる『赤備』『黒備』のうち『黒備』を統括する名うての将軍だ。
蒼白い肌に、油っこく固い髪、眉はなく、鉤鼻が特徴の不気味な面立ちである。そんな容貌でありながら、ふとした器を感じさせるカリスマ性を持つ。
「話は終わりなら、わしは退室しよう。陛下の経過観察の時間じゃ」
ここで陛下を持ち出されては流石の二人も引かざるを得ない。史実において無能の烙印を押された劉弁、何進暗殺時の事件の時に見たことはある。行動や年齢は年相応であるが、その態度は決して劉協に劣ることなく、むしろ立派なほどだった。
劉弁という人間はこれといって優れた人物ではない。体も悪く、病弱。しかし、芯の強さ、高潔さにおいては劉協を圧倒している。そんな印象を李傕は受けた。
董卓陣営はすでに劉協を囲っている。こと傀儡に据えるならば、李傕にとってあちらのほうが余程やりやすかった。
「・・・・・・そうですか、ならば陛下の健康を祈って、吾輩も儀式でも行いましょう」
「いやいや、それおめえが巫女見たいだけやろ」
「イイじゃないか、巫女。日本の心だよ」
「ふん、そんな非科学的なものに惑わされるとはな」
これにはさすがに三者三様の態度を見せる。
「月と賈詡の巫女衣装・・・・・・萌えるっ!」
「いやいや、賈詡に着せたら張繍に殺されるわ、ていうか月ってもうアラs―――」
「―――っせい!」
「へぶしっ―――!?」
李傕の高速ビンタが董旻の頬を打ち、大きな破裂音を響かせる。これにはさすがの吉本も目を丸くさせざるを得ない。
「月様は永遠の十七歳。いいね」
「いや、俺もう二十歳やで、十七って無理あr―――」
「イイネ?」
「アッ、ハイ」
酷いコントを見た。とりあえず、李傕が月という少女を大事にしているのはわかったのは何よりだったのだろう。
「しかし、相国は未だに参内せずか」
「そのために吾輩たちが―――」
「顔も見せたことがないというにか?」
話以前の問題だ。顔も知らない相手を信用せよというのも難しい。
「―――貴方がこちらに来るというなら、それも可能かと」
現状、宮中における劉弁の支持率は非常に低い。唯一の側近はこの時代では下賤な職といわれる医者である吉本だけである。それ以外は董卓陣営の巧みな工作で一人、また一人と劉協側へ帰参してしまった。
「断るよ、陛下はわしにとって倅も同然じゃ。何せ、前皇后の腹にいた時からの付き合いじゃからな。それに、わしはどのようなことがあろうとあの子の味方じゃ。それを覆す気はない」
「・・・・・・」
「話は終いじゃ」
その言葉を最後に吉本は宮中へと向かう。残された二人は静かに密談を始める。
「うまくいかねぇもんやな」
「むしろ、今までがうまく行き過ぎていたのだろう。だが、劉弁が存命のうちは反董卓連合などは起きんだろう」
「チッ、殺すこともできねぇってか」
「董旻」
「わぁってるよ、頭使うのはお前の仕事や。頼むわ高学歴ニート」
「ふん、ニートではない、ネオニートだ鉄砲玉」
方や最終学歴マサチューセッツ工科大卒の天才、方や中学卒業のチンピラヤクザ。生まれも育ちも違う二人であったが、彼らには奇妙な友情があった。
「兎も角。趙忠、蹇碩が生きていたのは助かった。特に蹇碩がいなければ交渉など夢の又夢だったからな」
「ケッ、流石お医者先生だよ」
宦官大虐殺の時、特に蹇碩の傷は深かった。まさに死ぬ寸前の彼を救い出した吉本には頭が上がらない。それでも、盲目隻腕となってしまい、その命もまさに尽きようとしている。現在蹇碩の立場は劉協派であるが、それでも皇族への忠誠は本物であり、命を燃やして相互間を行き来し和平を実現させようとしている。
「見事なものだよ。一部では濁流派であった彼を見直す動きもあるらしいじゃないか」
「とんだ手のひら返しじゃねぇか。ま、あいつの気持ちもわからないでもないが」
彼らが主君である董卓を大切に思っているように、蹇碩もまた、二人の皇族を大切に思っている。
「なあ、黒縄・・・・・・」
「わかっている、みなまで言うな。星」
三国志の乱世など起こさせない。董卓を殺させない。彼らの意思はそこに貫徹している。
それでも、最悪はいつだって想定していくものだ。
董旻は転生して、家族の暖かさを初めて知った。李傕は生まれて初めて恋をした。愛する者の為ならば、その命すら彼らは惜しくなどない。きっと彼女は傷つくだろう。傷つき、悲しむだろう。それでも、彼らは彼女に生きてほしいのだから。
董旻の真名が趙雲とかぶってる? わざとです。