業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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お待たせしました。
……といいつつ、実は今回アタル兄さんの出番がない!?

「「「な、何だってー!?」」」

……はい、どうもすみません。しかし、今回の話は今後の展開上どうしても必要だったもので。
アタル兄さんをお待ちの方には少々物足りないかもしれませんが、それでもいい方はお付き合いください。
では、どうぞ!



友情! 聖女の涙 の巻

 

SIDE レイナーレ

 

 

私にとってアーシア・アルジェントは、教会を追い出されたただの運の悪い、下等な人間の小娘。そして私の計画に必要な神器を宿した便利な道具。ただそれだけの存在―――に、なるはずだった。

 

『は……はじめまして。あ、あの……アーシア・アルジェントと申します。ふ、不束者ですが…』

 

初めて目の前に現れた時もどこかオドオドしていて気に入らなかった。従順と言えば聞こえはいいが、こんな気弱な小娘の世話にならなければならないのかと、プライドの高い私にはそれだけで随分と気分を害したものだった。

しかし、あの覆面レスラーに奪いとられた両翼を取り戻すためには例え人間といえども手を借りなければならない。それは分かっていたことだ。

それに何より、この娘の神器は今の私たちの計画になくてはならないもの。この傷を癒した暁には……

 

私は、「所詮この場限り」と、内心の怒りを抑え、この娘からの治療を受けることを了承した。

 

そして、私にとって幸か不幸か、このアーシアの神器を以てしても翼の回復には相当な時間がかかることが判明した。

それが分かったとき、無論苛立ちを抑えきれなかった。ただでさえ時間的に押しに押している計画がさらに遅れてしまうのだ。

 

『治りが遅いのもみんなあんたの所為よ!このグズ!ノロマ!』

 

私は恥知らずにもこの行き場のない怒りを全部あの娘にぶつけた。愚痴や罵声も随分と浴びせた。

だけど、そんな私からの扱いを受けても尚、あの娘は嫌な顔一つせずにこう言うのだ。

 

『わかりました。これも私が未熟な所為ですもの。もっと頑張ります!』

 

それを聞いて私は驚きを通り越して呆れた。

なんと能天気な娘だろう。だが、所詮は人間。口先だけだ。―――そう思っていた。

 

それから毎日、アーシアによる治療は続けられた。

あの娘はこちらが訊いてもいないのに、この教会から外に出たときの話をしてきた。

今日はこんなことがあった。こんな人に出会った。―――それこそいろいろな話を。

やがてはそれで話のネタが尽きると、今度はかつて教会に在籍していた頃の話を始める始末。

 

―――なぜ、この娘はこんなにも私に尽くす?

 

何時しか私は、しつこく構ってくるこの娘に僅かばかりの興味を持ち始めていた。

それから、少しずつではあるが、私の方から話しかけることも増えていく。

そうする度にアーシアはあの花のような笑顔をさらに綻ばせるのだ。

 

一度ほんの気まぐれに尋ねてみたことがある。

何でそんなに笑っていられるの?私が怖くないの?こっちはその気になればいつでもあんたを殺せるというのに。

そう尋ねた私にアーシアは一瞬不思議そうな顔をして、

 

『…?怖くないですよ?だって、レイナーレ様は優しいじゃないですか』

 

―――私が優しい?ハッ、何の冗談だ。

 

すぐさま私は否定する。

“慈愛”の精神(こころ)など当の昔に捨て去った。かつて、仲間に裏切られ、【天使】から堕ちたあの日から―――。

思い返せば、ここまで来るのも楽じゃなかった。堕天使としてこの【神の子を見張る者(グリゴリ)】に入ってからというもの、上の階級にいる者たちから蔑まれない日はなかった。どんなに仕事をこなしても、所詮は新参者の下級堕天使だからという理由だけで決して認めようとしない連中。あいつらこそ、あの方々の威光を笠に着た、“虎の威を借る狐”どもなのに……。

あの屈辱的な日々から、何とか奴らを見返してやりたい。その思いで仲間を集め、今日まで生きてきた。この計画が成功すれば私はあの方々からの寵愛を受けることができる。そのためならいくらでもこの手を汚そう……。

 

『ふ…ふぇぇぇ…』

 

…っ!?私としたことが、こんな人間の前でとんだ醜態を晒したものだ。まさか、自分の身の上話をするなんて……

ふと、アーシアを見れば、目から涙を滴らせながらこちらを見ていた。

 

『……何であんたが泣くのよ』

『だ、だって……私、レイナーレ様がそんな辛い目に遭ってたなんて知らなくて…』

『……人間ごときが私の心配するなんて100万年早いのよ。鬱陶しい』

 

庇護下に置いているとはいえ、自分を便利な道具扱いする者にどうして涙なんか流せるのかしら。……聖女だから?

―――だとしたら、とんだおめでたい性格してるわね。

 

私は内心で毒づきながら、同時に胸に何か温かいものが広がっていくのを感じていた。

長らく忘れていたその感覚に私は自分で気付かないふりをする…。だって、それを認めてしまえば私は―――

 

 

『レイナーレ様、少々あの娘に甘すぎるのでは?特に外出に関しては、いくら何でも自由にさせすぎです!』

 

ちょうど翼も以前と同じ大きさまで回復した頃、アーシアの扱いについて部下の一人カワラーナから苦言を呈された。

私も薄々自覚していた。アーシアのこととなるとどことなく甘くなってしまう自分に。

そういえば、このところ一緒にいることも増えてきた気がする。隣にいると安らぐというか、不思議な気分になるのだ。どうしようもなく。

残念ながら、カワラーナたちではこの気分は味わえない。彼女たちは私にとって良くも悪くも部下なのだ。特に、初期から一緒だったカワラーナたち3人を除けば、他の堕天使など所詮は利権をチラつかせて着いてきただけの金魚の糞も同じ。そんな奴らと一緒にいて楽しいわけがない。

それでは、今の私にとってアーシアは何なのだろう。そう考えたときに私は一つの事実に直面する。

 

―――認めたくなかった。私の心の中でアーシアの存在がとてつもなく大きくなっていたことを。

 

『…何?まさか、私があの娘に情が移ったとでも?……馬鹿馬鹿しい』

『…そうですか』

 

何とか口をついて出た偽りの返事に訝しげな視線を投げたカワラーナが、「ですが…」と続けたその後の言葉に私は目を見開いた。

 

『くれぐれもお忘れなきよう。あくまで必要なのはあの娘の神器のみ(・・・・)。事が成った後は娘の方は用済みです。まあ、神器を抜き取られれば恐らく命はないでしょうが、万が一ということもあります。そのときは…』

『……』

 

私は―――答えることができなかった。

 

『それにあの娘、本当に信用していいか怪しいものですね。この前も、仕事に同行した我が傘下の悪魔祓い(エクソシスト)の邪魔をしたばかりですし……もしや我々に対する反抗の意思があるやもしれません。近頃も大した用もないのにやたらと外出が目立ちます。これはひょっとすると『言うな!』…っ!?』

 

私は自分でも信じられないくらい大声で怒鳴っていた。

 

―――アーシアが……私を裏切る?

―――そんなこと、あるはずない。だってあの子は……

 

 

『レイナーレ様、私の“お友達”になってください!!』

 

 

ある日を境にしつこく言うようになったあのフレーズが何度も耳に蘇る。

 

そういえば、私のこれまでの一生において“友”などとと呼べる存在が一人としていただろうか?

……否。いるわけがなかった。そんなものを作る余裕もなければ、必要すらなかった。

なぜなら、自分以外の存在など信用できないからだ。例え今は仲間であっても所詮は他人。用が済めば最後には裏切るかもしれない。他人が心の底で何を考えてるかなんて誰にもわかりはしない。結局疑っていくしかないのだ。

他人なんて二度と信用しない。それが、かつて不本意にも堕天した私が最後に得た教訓。

……それが今、自分の中で揺らぎかかっている。何故だ?どうして私はまだ、あの子のことを信じようなんて思っている?

 

『……最近は体の調子もいいし、今日は私が迎えに行ってくるわ』

 

私の中で何かが警報を鳴らしている。行ってはいけない。行けばきっと後悔する。

 

それがわかっていたのに私は、ついにあの光景を目撃した。

下級悪魔へと転生した、兵藤一誠と笑いあっていたアーシアの顔を―――

 

―――許さない。

 

私のなけなしの信頼を裏切ったあの娘を。

 

―――ゆるさない。

 

私に“友達”になろうなんて言って惑わそうとしたあの女を。

 

―――ユルサナイ。

 

私にかつて味わったあの絶望を再び与えたあいつを…!

 

 

『嘘つき…』

 

 

もう何もかもがどうでもいい。

そのとき、私の中で最後の引き金が引かれるのを感じた。

 

 

 ◆◆◆

 

SIDE イッセー

 

 

木場にクソ神父の相手を任せた俺たちは、アーシアのいる儀式場を目指して地下通路を駆けていた。

それにしてもこの通路の長いこと長いこと。よくこんなのを地下に造ったもんだ。

 

「先輩……あれ……」

 

階段を下りた先に奥に一本だけ続く道を指差す小猫ちゃん。両側の壁には時折扉があるけど、ここが地下室のようだ。

 

「たぶん、この道の奥です……。あの人の匂いがするから……」

 

アーシアは奥か。俄然、気合が入ったぜ。

待っていてくれ、アーシア。今、助けるからな!

 

奥へ進むと、大きな扉が現れる。

 

「奥には堕天使とエクソシストの大群がいます。……覚悟はいいですか?」

「ああ」

 

小猫ちゃんの言葉に頷きかえすと、俺は扉を開け放とうと手を掛ける。……が、

 

「な、何だこれ…フンヌ~ッ!!!……あ、開かない!?」

 

やたらと重いこの扉。アタル兄との特訓で多少力に自信のついたはずの俺でもまるでビクともしない。

 

「……ハァ…しょうがない。ちょっとどいてください」

 

どこか呆れた声で小猫ちゃんが呟いた。……って、小猫ちゃん何してんの!?

 

「はああああああ……」

 

扉から大分距離を開けて、まるで某漫画のキャラが気をためるかの如きポーズをとる小猫ちゃん。

そして、そのまま扉に向けて思いっきり駆け出した。

 

「アチョーッ!!」

 

何かやる気だと感じた俺が慌てて避けると、助走でかなりスピードの乗った小猫ちゃんが奇声を発しながら扉に跳び蹴りを浴びせていた。

 

「『百戦百勝脚』―――ッ!!!」

 

小猫ちゃん!?君、そんなキャラだったっけ!?

後輩の意外な一面に思わず叫んでしまいそうになるが、何とか我慢。

そして、小猫ちゃんのおそらくとてつもない威力を秘めた一撃が、バキッという大きな音とともにあの頑強な扉を粉々に破壊した。

す、スゲー……。

 

「……あら、随分と遅かったわね?」

 

ぶっ壊した扉から露になった部屋の奥からレイナーレがこちらを振り返ってくる。

周りをみると部屋中神父だらけで、全員が光の刃を発生させた剣を手にしていた。

 

そのとき、俺は部屋の奥で十字架に磔にされた少女を見た。

 

「アーシアァァァッ!」

 

俺の叫びに気付きアーシアがこちらに顔を向ける。

 

「……イッセーさん?」

 

アーシア……今助けに来たぜ。

俺が微笑んでやると、驚いたような、そして悲しそうな顔をするアーシア。

 

「そんな…どうして…」

「どうしたのアーシア?大事なお友達がわざわざ来てくれたんだから、もっと嬉しそうになさいよ」

 

どの口が言いやがるこのクソ女!誰がアーシアをこんな目に合わせたと思ってるんだ。

そう思って憎きレイナーレを睨んだ俺だったが、その顔を見た瞬間に言葉を失う。

 

―――な、なんて冷たい目をしてるんだ…。まるでこの世の地獄をすべて見てきたような、そんな目だ…。

 

喜怒哀楽といった感情が全く見受けられない。「のっぺらぼう」というのはまさにああいう顔をいうのだろう。レイナーレの顔を何度も見てきた俺だから言えることだけど、あんな表情をする彼女は初めてだ。

一体これはどういうことなんだ?

 

「よく来たわね。悪魔の皆さん。これからいいものをお見せするわ。―――最高の儀式をね」

「っ!?させるかよ!」

 

アーシアに駆け寄ろうとする俺の前に神父たちが立ちはだかる。

 

「邪魔はさせん!」

「悪魔め!滅してくれる!」

「どけ!お前らに構っている暇はねぇんだ!」

 

俺は左手に神器を出現させて構える。こうなったら、強行突破で……

 

「先輩、ここは私が…」

「うおっ!?こ、小猫ちゃん!」

 

突撃しようとした俺の頭に両手を着き跳び箱の要領で飛び越えた小猫ちゃんが前に出る。

そして、いきなり目の前の神父に向かって強烈な回し蹴りを喰らわした。

 

「フライング・レッグ・ラリアートォーッ!!」

「グホァッ!?」

 

小猫ちゃんの蹴りが見事に首に決まり、後ろにいる奴も巻き込みながら吹っ飛んでいく。

 

「ホワタァッ! 打穴三点崩しーッ!!」

「ギャアッ!?」

 

その名の通り猫の如き身軽さで反転しながら着地した小猫ちゃんは、今度は別の奴に凄まじい速さで正拳突きを放っていた。相手はあっという間に体から血を噴き出して崩れ落ちる。

 

「す、スゲー…。まるでカンフー映画を見ているみたい」

「……先輩、ボケっとしてないで早く行ってください。蹴られたいんですか?」

「は、ハイ!行きます!今すぐ行ってきまーす!」

 

相変わらず言うことがどぎついなぁ小猫ちゃん。…あ、でも小猫ちゃんにならちょっと蹴られてみたいかも「あ゛?」な、何でもありませんですマム!

とにかく、俺は言われるがままに小猫ちゃんが作ってくれた道を進む。

 

「行かせると思うてか!」

「数はこちらが上なんだぞ!」

 

しかし、それでもやはり数の力は脅威だ。いくら小猫ちゃんが凄いと言っても、一人で一度に相手にできる数には限りがある。

案の定回り込まれてしまった。

俺に振り上げられる刃を籠手で受け止めようとガードする。そのとき、

 

「おっと、僕もいることを忘れてもらっては困るよ」

「き、木場!?お前、無事だったのか!」

 

相手の剣を受け止める、もう一人の仲間が隣にいた。

 

「生憎とあのフリードって神父には勝負の途中で逃げられてね。引き際を弁えている、中々喰えない相手だよ」

「それでも良かったぜ。お前がいてくれてさ」

「それを聞けて嬉しい……ねっ!」

 

相手の剣を弾きながら俺の前に立つ。

 

「道は僕らが開く。君は彼女の元へ!」

「早く行ってあげてください」

「わかった。ありがとう二人とも!」

 

俺の前に立ちはだかる敵を二人が絶妙なコンビネーションで蹴散らしていく。

俺はそのフォローを受けながらアーシアの方へと近づいていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

一誠がはぐれ悪魔祓いたち相手に奮戦している一方、レイナーレは今まさに最後の儀式を終えようとしていた。

 

「これであんたの顔を見ることもないわね。清々するわ」

「う…ううう……」

 

体から光を放ち苦しみの声を上げ始めたアーシアに冷たい視線を向けながらレイナーレは言い放つ。

 

「今どんな気分?友達になろうって言った相手に苦しめられるのは?…ねえ、答えてみなさいよ!」

「あうっ!」

 

怒りに声を荒げるレイナーレに前髪を引っ張られ、呻き声を上げるアーシア。その目からはただただ涙が頬を伝っていた。

 

「…フン!何が友情よ。所詮口先だけの出任せじゃない」

「……」

「やっぱり信じられるのは結局自分だけ。もうあんたの言葉に惑わされたりするものですか。―――私は、この力で今度こそ本当の愛を手に入れてみせる。あんたはそのための生贄よ。光栄に思いなさい」

 

喜悦に表情を歪ませたレイナーレだが、その顔は何故かいつもの精彩さに欠けていた。

 

「レイ…ナーレ……さま……」

「何?ようやく命乞いでもする気になった?それとも恨み言?」

 

儀式の苦しみに耐え、レイナーレに嘲笑われながらも、アーシアは必死に言葉を紡いだ。

 

「……もう……こんなこと……止めてください……本当のあなたは……そんな人じゃ……」

 

アーシアの言葉を聞き、見るからに表情を変えるレイナーレ。

 

「黙れ!まだそんな戯言を言うか!この大嘘つきめ!」

 

パンッ!

 

激昂し頬を叩いたレイナーレに、それでもアーシアは力なく微笑みかける。

 

「あなたは…(パン!)あうっ!……本当は…優しい人だって(パン!)ウッ…信じてます…。……だ、だから…(パンッ!)っ!!」

「黙れ!……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇぇぇ!」

 

アーシアが声を出すたびに怒りを露わにしていくレイナーレ。彼女によって何度も叩かれた頬は赤く腫れ上がっていた。

しかし、そんな目に会っても尚、アーシアは諦めない。

 

「私……優しいレイナーレ様に……戻ってくれるなら……この命ささげてもかまいません…!」

「ハア…ハア…口先だけなら何とでも言えるわ!」

「嘘じゃありません……私の命、あなたにあげます……それであなたが幸せになってくれるなら……」

 

決して崩すことのない笑顔。それを目の当たりにしてみるみるレイナーレから余裕がなくなっていく。

 

「いいわ……そこまで言うならお望み通り、その命奪ってあげる。あんたの神器ごとね!」

 

レイナーレの言葉とともに、体から発する光が強さを増した。

 

「あああああああああああッ!!?」

 

アーシアの体から大きな光の塊が飛び出す。彼女の神器が取り出された証拠だ。

光が飛び出すと同時にアーシアは気を失った。

 

「これが…これが『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』……」

 

レイナーレは光の塊に近づき手を触れる。掌から伝わるのはアーシアの気質に似た暖かさだった。

ついに長年欲していた力を手にしたレイナーレ。しかし、念願を果たしたはずの彼女の顔色は優れない。

 

(どうしたというの……あとはこれを受け入れれば、私は至高の堕天使になれる。そのはずなのに……この胸に渦巻くわだかまりは何なの?)

 

神器を手にしただけで、体に取り込もうとしない彼女に、傍で見ていたエクソシストの一人が声を荒げた。

 

「レイナーレ様、何をしておられるのですか!?早く神器をその身に」

「…っ!わ、わかってるわ」

 

言われるまでもないこと。そう自分に言い聞かせるように彼女は光をその身に受け入れた。

眩い光が儀式場を包み込む。やがて光が止んだ後に、宙には全身から緑色の光を発する堕天使が浮かんでいた。

 

「グハッ!?」

「アーシア!大丈夫かアーシア!?」

 

相手陣の最後尾にいた悪魔祓いをぶん殴り、ようやくたどり着いた一誠がアーシアの元に駆け寄る。

手足の拘束を解き、抱きかかえたその体は信じられないくらい冷たくなっていた。

 

「……い、イッセーさん……」

「アーシア!しっかりしろ!」

 

僅かに意識を取り戻し、返事をする彼女の声は小さく、生気を感じさせなかった。

 

「……無駄よ。神器を抜かれた者は死ぬ運命(さだめ)にある。例外なくね」

「何だって!?」

 

レイナーレから伝えられた驚愕の事実に、一誠は驚きを露わにしアーシアを見る。

 

「アーシア!嘘だよな?なあ…嘘だと言ってくれぇ…」

 

アーシアの体を揺さぶるが、彼女は弱々しく微笑むだけだった。

 

「無駄と言ったはずよ。その娘の命はもうじき尽きる」

「うるせえ!アーシアの神器を抜き取った張本人が何をぬけぬけと……もとはと言えば、おまえが…「やめてください……イッセーさん……」アーシア!?」

 

今にもレイナーレに殴りかかろうとする一誠を制したのは、意外なことに瀕死の状態にあるアーシアの細腕だった。

 

「もういいんです……これで。私…満足しています」

「アーシア……」

 

微笑みながら弱々しい声で語る彼女を、一誠は呆然と見つめる。

 

「私、最後にレイナーレ様のお役に立てて……私……」

「もういい!喋るな!」

「イッセーくん!流石にこの状況はこちらに不利だ!ここは一旦上に上がってくれ!僕たちが道を開ける!さあ早く!」

 

木場が雑兵を切り払いながら叫ぶ。

今の一誠に迷っている暇はなかった。一誠はレイナーレを一睨みすると、アーシアをその胸に抱きかかえて走り出す。

 

「さあ、彼らが逃げる道を作るよ。小猫ちゃん!」

「……了解。『心突錐揉脚』―――ッ!!!」

 

小猫が錐揉み回転しながらドロップキックを放つ。それにより一掃された敵陣にできた空間を一誠は真っ直ぐに駆け抜けた。

何とか儀式場の入り口まで進んだところで一誠は振り返る。

 

「木場!小猫ちゃん!」

「先に行くんだ!ここは僕たちが引き受ける!」

「……早く逃げて」

「でも…」

「いいから行くんだ!僕たちを信じろ!」

 

二人が背を合わせながら一誠に向けて親指を立ててくる。

 

「…クソッ!二人ともカッコつけすぎだ!……でも、やっぱ頼もしいや。俺の“先輩たち”は!」

 

今は二人の好意に甘える。そう決意した一誠はそのまま地下の廊下を駆け抜けていく。

 

 

「………」

 

一方のレイナーレは、敵であるはずの一誠たちを追う様子は見せなかった。何故かその後姿をただ黙って見つめ続けるだけだった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

アーシアを抱えて階段を上り切った一誠は、彼女を聖堂の長椅子に横たえる。

もうすでに顔色は真っ青であり、危険な状態であることは誰の眼からも一目瞭然。

 

「アーシア!もうすぐ自由なんだ!俺ともいつでも遊べるようになるんだぞ!」

「……イッセー……さん……」

 

声も大分聞き取りづらくなってきた。おそらく、最期の時が近い。そう知らせているのだろう。

一誠も内心では気付いていた。しかしそれでも諦めるわけにはいかない。

 

「これからいっぱい楽しいところに連れていくぞ!カラオケだろ。ゲーセンだろ。それから、ボウリング!ええと他には……そ、そうだアレだよアレ!」

「…イッセーさん……私、短い間でも……友達ができて……幸せでした……」

「な、何言ってんだよアーシア!」

 

苦しみながらもアーシアは健気に微笑んでいた。

 

「……私、最期に……お願いが……あるんです……たった……一つだけ……聞いて……くれません……か……?」

 

大事な友のたっての頼みとあらば聞かないわけにはいかない。

今にも消えてしまいそうな儚げな彼女の姿に涙しながら一誠は頷いてみせる。

 

「わ、わかったよ。俺、何でも聞いてやるよ!お願い!…で、何だ?何か欲しいものでもあるのか?」

 

しかし、その言葉に、アーシアは首を横に振る。

 

「……レイナーレ様を……恨まないで……あげて……」

「え…?」

 

アーシアの言葉が信じられず、一誠は思わず声も漏らした。

 

「な、何でだよ!あいつは…あの女は君を…」

「……同じ……なんです……あの方は……私と……」

「アーシアと…同じ?」

 

一誠の言葉にアーシアは頷く。

 

「……あの方は……人から……真実の愛を……知らずに育った……哀しい人……なんです……」

 

アーシアは途切れ途切れになりながらも一生懸命に一誠に伝えようとしていた。

 

「……私は……あの方の……悲しみを……少しでも……癒してあげたかった……」

 

悲しそうに目を伏せるアーシアの手を握りながら、一誠は黙々と話を聴いていた。

 

「……あの方のやり方は……間違ってます……でも、本当は……優しい方……なんです……」

 

 

―――だから……イッセーさん……

 

―――レイナーレ様を……止めてください……あなたのその手で……

 

 

 

 

 

 

 

「……お願い……聞いて……いただけますか……?」

「……ああ、わかったよ。アーシアの願い、俺が引き受ける」

「……ありがとう……」

 

アーシアが一誠からの返事に満足そうに微笑む。と同時に、掴んでいた手から力が抜け、ゆっくりと落ちていく。

今、彼女は逝ったのだ。大切な友人の、その胸の中で―――。

 

「くっ…ううう……アーシアァ…ッ!」

 

その美しい死顔にぽつりぽつりと熱い滴が落ちていった。

 

 

「やっと逝ったのね。あの小娘……」

「レイナーレ……」

 

背後から聞こえた声に振り返るとレイナーレがこちらを見下ろしている。

 

(こいつの気配にも気づかないくらい泣いてたのか……俺は……)

 

一誠はアーシアの亡骸をゆっくりと横たえ、再び立ち上がってレイナーレに向き直った。

「見てご覧なさい。ここへ来る途中、下で、『騎士(ナイト)』の子にやられてしまった傷」

 

レイナーレが自身の傷に手を当てる。すると緑色の光が見る見るうちに傷を塞いでいく。

 

「どう?素晴らしいでしょう?どんなに傷ついても治ってしまう。あの子も最後に素晴らしい物を贈ってくれたわ」

 

アーシアの神器を我が物顔で見せびらかすこの堕天使を見ていると、どうしようもなく怒りが湧いてきてしまう。

 

「てめえ…!」

「あら、何?その目は?敵討ちでもしたくなった?」

 

こちらを睨む一誠をレイナーレが嘲笑する。

今にも殴りかかりたい衝動に駆られる一誠。しかし、彼は寸でのところで思いとどまった。

彼の行動を制したのは、戦いの前に言われたソルジャーの言葉だった。

 

(落ち着け……こういうときこそ熱くなったらだめだ。冷静なれ、イッセー…)

 

自身に言い聞かせながら、相手をじっと観察する。すると、さっきまで気にも止めなかったことに気付いていく。

 

「さあ、何とか言ったらどうなの?憎い仇でしょう?早く殺しに来なさいよ。それとも何?怖気づいた?」

 

言葉巧みに挑発してくるレイナーレ。

だが、冷静に聞いてみるといつもと若干声色が違う。普段はもっと高飛車な感じがするはずだ。それにセリフもまるで無理して言っているような印象を受ける。

その僅かな違いを感じ取った一誠は、さっきアーシアが言いたかったことを理解する。

 

(ああ…そういうことか。ようやくわかったよ…アーシア。今俺がやらなきゃいけないことが!)

 

赤い籠手に包まれた左腕を掲げ、一誠は叫ぶ。

 

「いいや、俺はあんたを殺さないッ!むしろあんたを助けるために俺は戦うッ!」

「……は?」

 

一誠の答えに、レイナーレは明らかにに動揺していた。

 

「あなた…何を言ってるの?それってまさか、新手のジョークかしら?」

「いいや、本気の本気だぜ」

 

躊躇いなく言い切った一誠に今度は一転して激昂するレイナーレ。

 

「ふざけるな!!何故おまえ如きが私を助けるのよ!?意味わかんない!」

「それがアーシアの願いだからさ。俺は…友達だと言ってくれた、この子のためにもあんたを止める!」

 

一誠のその言葉に、レイナーレはあからさまに反応した。

 

「あ…アハ…アハハハハハ!!!まさか、この期に及んでまだ友情ごっこをしようっていうの?くっだらなぁい。悪魔の癖に、とんだお笑いだわ!」

「笑いたきゃ笑えばいい……だがな……」

 

一誠は嘲笑ったレイナーレから視線を外さず、胸の前で右拳を左の籠手の掌に打ちつけた。

 

「必ず思い知らせてやるよ。あんたが笑ったその『友情』の力って奴をな!」

 

その目が、本人が真剣であることを物語っている。流石にそれがレイナーレにも伝わったのか急に笑いが止まる。

 

「……その眼、不愉快だわ。なんでもお見通しだと言わんばかりの眼。あなた、私を舐めてる?」

「さあな。だったら、確かめてみろよ。至高の堕天使さんよ?」

「……っ!調子に乗るなよ悪魔風情が!この私を怒らせて生きて帰れると思わないことね!」

 

怒りに狂った形相で、レイナーレが両の手に光を集めだした。

それを拳を構え、待ち受ける一誠。

 

「さあ、来いよ。受け止めてやるぜ。あんたの全力をな!」

 

 

今、戦いは最終局面に入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




肉「のう○リー。何で今回こんなにドシリアスなんじゃい?」
米「ミーにもわからないな。ただ、これだけは言える。作者、今回の話はかなり無理して書いてるな!」
肉「な、何だってー!?」
英「どうでもいいが、今回原作主人公がちゃんと主人公してた気がする」
肉・米「「あーわかるわかる」」
麺「そんなことより、もっと小猫ちゃん映して!あの子に技教えたの実は私だから」
肉・米・英「「「…え!?マジで?」」」


……以上。脳内寸劇でした。もちろんフィクションですよ?(面白くない方はスルーで)

ただ、一つ補足説明をしておくと、
小猫ちゃんが○人102芸的な何かを使えるのは実はアタル兄さんだけの影響ではありません。ちゃんと理由があるのでそれについてはまた追々話していこうと思います。乞うご期待(?)

…あっ、次回はちゃんと兄さん出てきます。
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