業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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今回、演出の関係でかなり長くなってしまった模様。
ダれると感じた方は飛ばして読むことをお勧めします。

あと、今回はⅡ世のOP『HUSTLE MUSTLE~ハッスル マッスル~』を聴きながら読むと良いかもしれません。
(少なくとも私は今回それをイメージ書きました)

それでは、どうぞ。


出るか!? 必殺技 の巻

一誠は自身の体に起きたことが不思議でならなかった。

そして信じられなかった。自分にまだこんな力が眠っていたことが…

 

「そんな!私の光に触れて平気なんて…」

 

攻撃をあっさり止められたレイナーレが後退っている。

どうして受け止められたのか、一誠自身にもよく分からなかった。ただ何となく「今の自分なら平気だ」と思えた。たったそれだけの理由。

実際、さっきは触るだけで激痛が走った光の槍も、今はこうしてしっかり握りしめてもまるで何も感じないのだ。

 

『Dragon booster!!』

『Boost! K・K・D(火事場のクソ力)!!』

 

いつしか左腕の籠手から流れてきた音声と共に、全身に凄まじいパワーが漲ってくる。

この感覚には覚えがあった。…そう、あれは確かフリードと初めて戦ったときの―――。

 

「オオオオオオオォォォォォォーッ!!!」

 

力の高まりとともに彼は自然と雄叫びを上げていた。

そしてそれが最高潮に達したとき、全身の筋肉がはちきれんばかりに膨れ上がった。

そして、額に浮かんだ「肉」の字もそれに呼応するように赤く光輝く。

 

「な、何が起こってるの!?」

 

レイナーレが唖然とした表情でこちらを見る。

それは無理もないことだ。目の前の少年が急にマッチョな体になったら、驚かない方がおかしい。

一誠は徐に槍を掴んだ手に力を込めた。槍は一誠の手の中でまるで硝子が割れるかのごとく粉々に砕け散る。

 

「あ…ああああ~~~ッ」

 

レイナーレが見るからに顔色を悪くした。首を横に振ってさらに後退する。

今、明らかに彼女は恐怖している。この兵藤一誠という少年を…!

自慢の武器に素手で難なく触れ、あまつさえそれを握力だけで破壊する。

今まで戦った相手で、そんな悪魔が一人でもいただろうか?

 

―――何もかもが規格外だ。この少年は…!

 

 

 

「す、すごい!あの堕天使の光をものともしていない…」

「あれが……イッセー先輩の本当の力……」

 

成り行きを見守っていた木場、小猫の二人も一誠の変わりようにただただ驚くばかり。

普段の彼を知る者からしてみれば、この光景は異常であろう。一体、何が彼をここまで変えたのか?

 

一時的に魔力が上がったのか?……残念ながら、今の一誠からはほとんど【魔力】を感じない。

では、仙術で使うような【気】の力が?……かというと、それとも違う。

とにかく、何か得体のしれないパワーが彼の体からまるで炎のように噴出している。そうとしか言えない。

 

「イッセー君から感じる、この不思議な力は一体……」

「あれが、【火事場のクソ力】だ」

 

木場の口から思わず出た疑問にいつの間にか隣に来ていたソルジャーが答えた。

 

「火事場の…」

「クソ力?」

「そうだ。……危機的状況に陥った時、無意識に限界を遥かに超えたパワーが湧き上がることがある。その超常的パワーを俺たちは【火事場のクソ力】と呼んでいる」

 

ソルジャーは再び一誠に視線を戻す。

二人の表情は、納得したようなそうでないような、微妙な反応であった。

 

「……分からないならそれでいい。とにかく今日のあいつは一味違う。そういうことだ」

 

 

 

一方のレイナーレは未知の恐怖にただただ怯えていた。

 

「ありえない…何よ、これ。どうしてこんなことが……」

 

完全に倒したと思っていた相手がまるで不死鳥のように蘇り、尚且つ自分を圧倒するほどのプレッシャーを放ってきている。

確かに多少肉体は変わったのかもしれないが、見た目が大きく変身したわけではない。肌に伝わってくる魔力の波だって依然として下級悪魔のそれだ。

…だというのに、今明らかに自分の力に匹敵…いや、下手をすれば上回るかもしれないほどの強烈な“何か”を感じる。この感覚は一体何だというのだ?

そんな彼女の疑問に答えるように一誠が口を開いた。

 

「正直俺が聞きたいぜ。自分に何が起こってるのかさ。―――けどな…」

 

一誠は左腕の籠手をレイナーレに向け拳を握った。

 

「……死んだアーシアの声が、倒れそうになった俺を奮い立たせてくれた!それは確かだ!」

「死者の声がですって?。そんなものが…」

「あんたには分からないかもな。でも、俺には感じる。アーシアの声が!想いが!友情が!」

「友情ッ!まだそんな世迷言を…!」

 

一誠の台詞でレイナーレが表情を一変させる。どうやら「友情」という言葉に対する怒りが、目の前の恐怖を上回ったようだ。

 

「こうなったら完全に消し飛ばす。たとえお前が何者だろうが構うものか。私の全身全霊を込めた一撃で必ず倒す!!!」

 

レイナーレが叫ぶと、両手に再び光の槍を作り出す。しかし今度は先程までとはまるで力の込め方が違う。

本気で一誠を消滅させる気でかかっている。

 

(魔力とかに疎い俺でもわかる。こいつは桁違いにヤバい奴だ…)

 

怖い…と素直に一誠は思った。アーシアとの友情の力で復活できたとはいえ、やはり堕天使の放つ光への恐怖はそう簡単に拭い去れるものではない。しかも、今度は特大強烈なものが来るときた。本当に防げるのだろうか、今の自分に…?

 

(多分、この力も一時的なものだ。そう長くは続かない……そんな気がする)

 

だとすれば、ここで一気に勝負を決めないと逆にこちらの不利になりかねない。

しかし、一誠はここで頭を抱える。

 

(倒すって言ってもどうすればいいんだ?俺にはレイナーレを倒せる必殺技なんて…)

 

文字通りの“必殺技”と言う意味で唯一思いつけるのは『キン肉バスター』だが、肝心のアタルがそれを教えてくれなかったので、できるはずがない。

それじゃあ、もう完全に詰みじゃねえか!…と、一誠が思ったそのとき―――

 

「イッセーよ、恐れることはない!」

 

突然かけられた声に顔を向ける。その先には木場たちの横に並んで仁王立ちするソルジャーの姿が映った。

 

「ソルジャー…」

「特訓を思い出せ。お前は兄から何を学んだ?……すべての答えはそこにある」

 

特訓…技…。

一誠の脳裏にあの苦しくも充実した一週間が蘇ってくる。

 

(でも、この一週間で俺が練習した攻撃技って言ったら…)

 

『ダブルアーム』、『ローリングクレイドル』、『パイル・ドライバー』『ロメロ・スペシャル』。

どれもプロレスでは基本中の基本と言われている技ばかりだ。

そんな技で果たしてこのレイナーレに勝つことなんてできるのか?

 

一誠の心にそんな疑念が芽吹き始めたとき、ふと特訓中にアタルと交わしたある日の会話を思い出した。

 

 

 

『イッセーよ、【風林火山】という言葉を知っているか?』

『ああ、聞いたことあるよそれ。確か武田信玄の…』

『ほう、少しは知っているようだな。じゃあ意味はわかるか?』

『え?い、意味?え、えーと…【風】、【林】、【火】、【山】だから、つまりぃ…』

 

『…ごめんなさい。カッコつけて知ったか振ってました。どうか教えてくださいませお兄サマ』

『フッ、正直な奴だ。…いいか?この言葉はもともと「孫子」という兵法書にある【疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山】という一節から来ている。訳すと【移動するときは風のように速く、陣容は林のように静かに敵方の近くでも見破られにくく、攻撃するのは火のように勢いに乗じて、敵方の奇策、陽動戦術に惑わされず陣形を崩さないのは山のように構えるべきべきである】と言う意味だ』

『え、あのたった四文字にそんな深い意味が!?』

『そうだ。…イッセー、こんな一つ一つは何の変哲のない文字でも4つ合わされば深い意味を持つ立派な言葉となる。それは格闘技も同じだ』

『…?アタル兄?』

『この世に無駄な技など存在しない。皆何かしら意味を持って生み出されてきたのだ。今教えている4つの技も、確かに見た目は地味かもしれん。しかし、これら一つ一つがすべて完璧に組み合わさった時、それはとてつもない威力を発揮する強力な必殺技となる。まさにこの【風林火山】と同じだ』

 

『…イッセー、技の威力を決めるのは結局は使い手次第。安易に使えもしない大技に走るくらいなら、例え地味でも、己が慣れ親しみ磨き上げてきた技を信じろ。それが強くなる一番の近道だ』

 

 

 

 

「あ…ああっ、そうか~~~っ!そういうことだったんだ!」

 

何故兄があんな特訓を課したのか、今やっとその真意がわかった。

一誠の顔は疑念が晴れたことでどこかすっきりとしたものになっている。

 

「何をぶつぶつ言ってるか知らないけど、調子に乗るのもそこまでよ!」

 

一誠が一人納得しているところへ遂にレイナーレが己の全エネルギーを凝縮した槍を完成させた。

その破壊力は恐らくこれまでの比ではないだろう。

 

「これで終わりよ!……滅せよ悪魔っ!!!」

「…っ!」

「危ない!イッセーくん!!」

 

レイナーレの手から槍が放たれた。そして、それは一誠に向かって猛スピードで迫ってくる。

普通こういう危機的状況の場合、恐怖で動けなくなるか、目を背けてしまうものだが、一誠はそのどれとも違った。

 

「うおおおおっ!!!」

 

なんと、自分から飛んでくる槍に向かって突っ込んでいった。

 

「バカね。ついに血迷ったの?」

 

レイナーレが嘲笑した、次の瞬間。

 

「フンッ」

 

駆け出したスピードをそのままに、脚を前に出しながら屈み、スライディングの体勢をとって寸でのところで槍を躱したのだ。

 

「何っ!?」

 

驚きに目を見開くレイナーレ。

「自分に接近してくる槍にあえて近づきギリギリのところで回避する」――――言葉にするのは簡単だが、これを行うためには並外れた動体視力と運動神経、さらに槍に串刺しにされる恐怖に打ち勝つ強い精神力が必要であり、並大抵の者では決して真似できない芸当だ。

 

しかし、一誠のこの行動の狙いは実はそれだけではなかった。

スライディングで滑り込んだ勢いを利用して、レイナーレの足首に強烈な蹴りを見舞った。

 

<ガッ!>

 

「ぐうっ!?」

「今だっ!!」

 

衝撃でバランスを崩し、前のめりになったレイナーレを一誠は見逃さず、前から腕を絡めて、相手の両腕を背面に「く」の字になるように曲げた。これこそが、アタルから伝授された技の一つ、『ダブルアーム』の体勢だ。

 

「見せてやる…アタル兄から教わった、俺の必殺技ッ!!」

 

すると一誠は、レイナーレの両腕を捉えた状態で大回転し、巨大な竜巻と化した。

 

「“(はや)きこと【風】の如く”―――っ!」

『Boost!』

「きゃああああっ!?」

 

上半身の自由を奪われ、身動きできなくなったレイナーレは成す術もなく振り回される。

 

「お次はこれだ!…“(しず)かなること【林】の如く”―――っ!」

『Boost!』

 

回転しながら今度は相手の片足を掴み、残ったもう片方の足に自身の両足を絡めて、流れるように『ローリングクレイドル』に移行する。そして、回転により生じた推進力で急上昇を始めた。

 

<ガガガッ!>

 

上昇の勢いは止まることを知らず、ついには教会の天井を突き破って上空高く舞い上がった。

それを見たグレモリー眷属の二人はというと……。

 

「こ…これは!?なんて威力だ!」

(あれ?ローリングクレイドルってこんなとんでもない技だっけ…)

 

興奮した面持ちで感嘆の声を漏らした木場に対して、小猫は何故か困惑した表情だった。

 

「ぐううう~~~っ」

 

一方、技をかけられたレイナーレは、両腕および股関節にそれぞれダメージを与えられた上に、度重なる回転によって三半規管をかなり狂わされていた。ここは足をつけるべき地面のない空中であるからして、一瞬でも方向感覚を失うことがどれほど危険なことか想像に難くない。

 

「まだまだ行くぜ!」

 

一誠の猛攻は続く。空中でレイナーレを逆さにすると両腕を腰に回し、両膝で相手の頭を挟み込んだ。

『パイル・ドライバー』の体勢だ。

 

「“侵略すること【火】の如く”―――っ!」

『Boost!』

 

レイナーレを『パイル・ドライバー』に捕えた一誠はそのまま聖堂に向かって急降下。

 

<ドォゴオッ!!!>

 

「ぐがあァッ!!?」

 

別名『脳天杭打ち』というだけあり、床に叩きつけられる際の脳への衝撃は計り知れない。

事実、この着地によって彼女は頭に割れるような激痛が走った。

 

「あああああああああああっ!!!」

 

頭を抱えのた打ち回るレイナーレ。

しかし、そんな彼女に対し一誠が攻撃の手を緩めることはない。

ようやくこの技の最後の締めに入ろうとしていた。

 

「これで仕上げだ!……“動かざること”…」

『Boost!』

 

うつ伏せのレイナーレの腿の外側から、自分の足で巻き込むように挟み、自分の両手で相手の両手を掴む。そして、その状態で後方へと倒れ込めば―――

 

「“【山】の如し”―――っ!」

 

相手の体は天井に向かって反り上げられる形となる。

―――別名『吊り天井固め』とも呼ばれる『ロメロ・スペシャル』の完成だ。

 

<ガギッ…グギッ…バキバキッ…!!>

 

「うぎゃあああああああ~~~っ」

 

極められた両肩、両腿、背中の骨・関節から悲鳴が上がる。と同時に、レイナーレ自身もあまりの激痛に呻き声を上げた。

 

「か、回復が…できない~~~っ!?」

 

今のレイナーレは、アーシアから奪った『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の能力で大抵の怪我はすぐに治すことができる。

しかし、それには大きな欠点があった。まず一つ、怪我を治癒するためにその患部に神器の力を集中させる必要があること。そしてもう一つは、皮膚などの表面上の傷はすぐに治すことができても、骨や内臓と言った体の深部のダメージに関しては回復させるのに時間がかかってしまうことだ。

ましてや、このように連続して技を繰り出されてしまうと神器を使うタイミングを失い、ますますダメージが蓄積されていく。

 

<ガキィィッ!!!>

 

「ガハッ…」

 

レイナーレの体が一際大きな音を立てて軋むと一気に弛緩する。

それを感じた一誠が技を解くと、彼女は糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

「ハア…ハア…や、やった…のか…?」

「見事だ…イッセー。今繰り出したその技こそ、48の殺人技の一つ『風林火山』!」

「そ、ソルジャー…!」

 

荒く息を吐き出したイッセーがソルジャーの方に顔を向ける。思えば彼のアドバイスがあったからこそ、この技を出すことができたのだ。一誠はすぐにでも礼を言いたい気持ちだった。

しかし、ソルジャーはそれを視線で制する。

 

「礼を言う必要はない。それは紛れもないお前自身の実力。そして、それを可能にしたのは、最後まで自分の技を信じたお前の意思の力だ」

「俺の…実力…」

 

一誠は自身の両手を見つめた。

 

「でもすごいよイッセー君。悪魔に成ったばかりの君が、中級堕天使クラスの実力者相手に勝つなんて」

「……私も。少し、見直しました」

「木場、小猫ちゃん」

 

ソルジャーに続き祝福してくれる仲間たちに笑いかけようとしたところで、

 

「ま…まだ、よ…まだ、勝負は…ついてない…わ…」

「「「!?」」」

「………」

 

ダウンしていたレイナーレが再び体を起こそうとしていた。

 

「あれだけのダメージを受けてまだ立ち上がれるのか!?」

「何という執念…!」

 

木場と小猫が戦闘態勢に入ろうとするが、一誠がそれを手で制した。

 

「待ってくれ二人とも!まだあいつとの決着がついてないなら、俺がやるべきだ」

「で、でもその体で…」

「頼む。やらせてくれ。……大丈夫だって。何だか今まで以上に体が動きたくって仕方ないんだ」

 

満身創痍でありながら一誠の瞳は未だ闘志に燃えており、額の「肉」の字もさらに輝きを増していた。

こうなった彼を止める理由はこの場にいる誰も持ち合わせてはいない。

 

「…わかった。君を信じるよ」

 

一誠の言を聞き入れ剣を納めた木場。小猫も渋々構えを解く。

 

「サンキューな!二人とも。……さて」

 

一誠は再びレイナーレに向き直った。

彼女は掌からあの緑の光を放って自身の体に応急処置を施しつつ、ふらつきながらも二本の足で立ち上がってくる。しかし、先程の『風林火山』のダメージは想像以上にデカかったようで、見たところとても本調子とは言えない状態。

 

「どうやら、これでお互いにコンディションは五分と五分みたいだな」

「…ほざいてなさい。全力は出せなくとも、まだあなたを殺せるくらいの力は残っている!」

 

新たに光の槍を握ってレイナーレが叫ぶ。しかし、その光も最初の頃に比べ大分弱ってきているように見える。この戦いで彼女もかなり力を消耗しているのだ。

しかし、彼女の顔はそれを感じさせないほどの気迫に満ちていた。

 

「この日のために私は全てを捨ててきた。この戦いに勝たなければそれが全て無駄になる!……もう後戻りなんてできないのよ!」

 

何が彼女をここまで駆り立てるのか、一誠にはわからない。

しかし、それでも…

 

「全力で来いよ!あんたがどれだけ強かろうと、何遍向かってこようと、俺は何度でも立ち上がってやる!」

 

レイナーレに負けじと一誠も吼える。

そんな彼を睨んでいたレイナーレだったが、突如その瞳に、彼の隣に寄り添う見知った金髪の少女の影が映った。

 

「あ…アーシア!?」

 

レイナーレは動揺を隠せない。

まさか、この少年が言うようにアーシアが力を貸しているというのか!?これが友情の力だとでもいうのか!?

 

「…嘘よ!私は惑わされない!友情なんて不確かなものを私は信じない~~~っ!!!」

 

レイナーレは槍を強く握りしめ、地を蹴って直接一誠に向かって飛び掛かった。

 

「私は…この戦いに勝ち、本当の愛を手に入れる―――ッ!!!」

 

彼女が突き出した槍を前にして、一誠がとった行動は……“不動”。

 

「「イッセー君(先輩)!?」」

「…………」

 

一誠のまさかの行動に木場と小猫は驚く。対してソルジャーはまるで答えがわかっているかのように沈黙するのみ。

そんな彼らを他所についに光の槍が一誠の胸に突き刺さった。

 

<ズブリッ!!>

 

鈍い音を立てて深々と槍の先が胸の中に埋まる。

 

「や…やった!」

 

このまま押し込めば確実に心臓を貫ける。レイナーレの顔が喜色に染まった。

しかし、

 

「…っ!?ば、バカな!?槍が、う、動かない!?」

 

もっと奥まで突き刺そうと力を込めてみるものの、槍はまるで万力で抑えられているかのように微動だにしなかった。

 

「悪いなレイナーレ。それじゃあ俺の命は奪えない」

「っ!? お、おまえ…!」

 

驚愕したレイナーレを一誠が不敵な表情で笑っていた。

胸元をよく見ると、確かに槍は突き刺さっている。しかし深部の方は異常に発達した大胸筋に阻まれ、内臓にまで達していなかったのだ。

 

「あんたの槍は確かに怖かった……でも、俺とアーシアの友情の前では……フンッ!」

 

一誠が大胸筋に力を入れると槍の先が粉々に砕け散った。

 

「蚊が刺したほどにも感じないよ」

「そ…そんなことって…」

 

今度こそ決定的となった。もう自分の力をこの少年は超えてしまっていると。

 

「……今ならできる。あの技が」

「なっ!?」

 

動揺したレイナーレの隙を突き、彼女の右脇に頭を差し入れた一誠。

そのまま彼女の体を逆さに担ぎ上げると空高くジャンプした。

 

「イッセー君は一体何を!?」

「あの体勢……どこかで……」

「…っ!まさか、『キン肉バスター』を!?」

 

一誠の目論見を察した木場は驚きの声を上げる。

 

「いくらなんでも無茶だ!あの体でそんな高度な技を出す体力なんて…」

「いや、そうとも限らん」

「ソルジャー!?」

 

ようや口を開いたソルジャーから出たまさかの一言に木場はさらに動揺。

しかし、ソルジャーはそれを見透かすかのように落ち着き払った態度で理由を話した。

 

「……どんな高等な技も元は基礎の上に成り立っている。『キン肉バスター』といえどもその本質に変わりはない。そして、イッセーは基礎技の塊であるあの『風林火山』を体得(マスター)した。今のあいつになら、あるいは…」

 

言葉を失う二人を他所にソルジャーは一人空を見上げる。

 

(その「肉」の字を背負うからには見事その手で成し遂げてみせよ…我が弟よ!)

 

 

 

 

「ぐうううう~~~っ、いい加減にしろ!こんなところに連れてきて一体何を…」

「いいから付き合えよ。これがあんたに贈る最後のプレゼントだ。―――受け取れ!俺の…最大の必殺技(フェイバリット・ホールド)!!」

 

逆さまにレイナーレを担いだ体勢で上昇を続けていた一誠が、その最高点で彼女の両腿を両手でクラッチする。

そして今度は一転して急降下を始めた。

 

「な、何なのこの技…!?う、動けない~~~ッ!」

「今度こそ成功させる!アーシアとの約束のためにも!」

 

額の「肉」が今まで以上に光を発した。と同時に、彼の左腕の籠手に埋め込まれた水晶からも眩い輝きが漏れ出した。

 

『Explosion! K・K・D(火事場のクソ力)!!』

 

音声と共に籠手の水晶に浮かんでいた文字も「Ⅰ」から「肉」へと変わり、一誠を包んでいたオーラも一際勢いを増す。まるで今まで溜め込んでいたエネルギーを全て吐き出すかのように……

 

「思い知れ!これが…友情の力だあああ―――ッ!」

「ぐわああああああああああッ!!?」

 

もう以前のようなパワー不足はは微塵もなく、技もガッチリと固められている。

この状態を脱出することはもはや不可能。

レイナーレも加速のついた落下により抵抗することも忘れ、ただただ喚くことしかできない。

 

「キン肉ゥゥゥゥゥ…」

 

再び聖堂に舞い戻った一誠。彼の放つ最後の技は……

 

「バスタァァァァァァ―――ッ!!!」

 

<ズガガガガガガガァァァァァンッ!!!>

 

今、その衝撃で地震の如く教会を揺らした。

 

 

「ガ…ハ…ッ!」

 

 

着地と同時に粉々に砕け散った床と、爆風により飛び散るステントグラスの破片。

それらが舞い散る中、口から吐血しながら堕天使は痛感した。

 

(これが……友情の……力……)

 

まるで全身の骨という骨が爆発したかのような衝撃。

それはあまりに一瞬過ぎて、もはや痛みの感覚すらなかった…。

これには流石の彼女も認めざるを得なかった。

 

(完……敗……だわ……)

 

薄れゆく意識の中、最後に浮かんだのは最期まで自分を友と呼んでいた少女の笑顔。

 

(アーシア……私も……あなたの(ところ)に……)

 

そのまま彼女の意識は深い闇へと堕ちていった。

 

 

 




カンカンカンカーン

本章の最終試合 対戦結果
○兵藤一誠 VS レイナーレ● (決まり手:キン肉バスター)


読んでいて脳内に「すべては分厚いMUSCLE~♪」が勝手に流れてきたあなたは、多分勝ち組です。

次回で1巻の内容も最後です。できるだけ早めに投稿できたらと思います。
では、感想お待ちしています!
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