できるだけ早く、言っておきながらここまで遅くなってしまい大変申し訳ありません。
今回バトル描写はありませんが、お付き合い願えたら幸いです。
-追記-
遅ればせながら、バッファローマン。2勝目おめでとう!
ガンマンさんも良い悪役(ヒール)っぷりでした。
あと、ラーメンマンとテリーマンも頑張れ!
ブロッケンは……とにかく生き残ってください。
SIDE イッセー
「ハア…ハア……お…終わった……」
後ろで大の字に横たわるレイナーレを尻目に、俺は大きく胸を上下させながら息を整える。
最後に出したあの技のために、俺は文字通り自分の“全身全霊”を賭けた。
結果は俺の想像以上の破壊力。着地でクレーターを作るほどだとは流石に思わなかった。
ああ、でもそのせいか、どうやら俺も力を使い果たしてしまったらしい。
それまで忘れていたダメージや疲労がここに来てどっと押し寄せてくる。
ハハハ…流石にこりゃあ立っているのは無理だ。苦笑した俺はそのまま倒れ込むように…
トン…
そのとき、誰かが俺の肩を支えた。見れば、ソルジャーだった。
「よくやった、イッセー。あの土壇場でよくぞ成功させた。……これで俺も安心してお前にこの技を託せる。もう『キン肉バスター』は列記としたお前の
「ソルジャー…」
マスクで表情は分からなくても、露になっている瞳が俺を認めてくれたことを伝えてくれる。
そうか…俺、ついにものにできたんだな…。
それがわかったとき、無性に嬉しかった。
「お疲れ。とうとうやったんだね。おめでとう」
「……ヘッ、うるせーや色男」
「お疲れです…先輩」
「ありがとう小猫ちゃん!」
「イッセー君、今僕のときと明らかに態度違ったよね!?」
その後寄ってきた木場たちとも軽口を叩きあう。
そのときだった。
「フフフ、無事に勝ったのね、イッセー。えらいわ。さすが私の下僕くん」
「ぶ、ぶぶぶ部長!?」
声のする方へ振り向けば、紅の髪を揺らし、笑顔でこちらに歩いてくるリアス部長が。
まさかの人物の登場に俺は盛大に噴いた。だって、部長がここに来るなんて思わなかったから。
「部長、一体いつから…」
「少し前ですわ。ちょうど外でソルジャー様とお会いして、そこでご一緒に…ね?」
「朱乃さんまで…」
……あれ?ということは、ひょっとしてさっきの戦いも……?
「ええ、一部始終見させてもらったわ。確かに勝ちはしたけれど、私に言わせればまだまだよイッセー」
うぅ…すみません。見っともなかったスよね。途中までボコボコニされてたし。
―――でも、部長も人が悪いな。見てたなら助けに入ってくれたって…。
すると、俺の前まで来た部長に鼻先をつんと小突かれた。
「それじゃあなたのためにならないでしょ?確かに見ていてハラハラしたけど、私は信じていたわ。最後にはイッセー、あなたが勝つって…」
―――それに本当は、たとえ私であっても、この戦いだけは邪魔されたくなかったでしょ?
部長に言われて俺はハッと目を見開く。
この人は気付いていたんだ、俺の本心を。レイナーレとの一対一の大勝負に懸けた俺の想いを。
「あらあら。そんなこと言っちゃって。本当は何度も助けに入ろうとしていたのは誰だったかしら?こちらは止めるの大変でしたのよ」
「あ、朱乃!? 余計なことは言わなくていいの!」
何だかんだ心配してくれてたんだな、この人たちは。
あんな酷いことを言った俺を本気で……。
俺は……幸せ者だな……。
「オッホン!……そ、そんなことより、そこにいる堕天使についてだけど」
仕切り直しだと言わんばかりに部長が露骨に話題を変えた。
…そうだ。まだこの件は完全には終わっちゃいない。むしろ大事なのはここからだ…。
「……まだ辛うじて息はあるようね。朱乃、起こしてあげなさい」
「わかりましたわ」
気を失っているレイナーレを覗きこんでいた部長が朱乃さんに指示を出す。
それを受けた朱乃さんが手を上にかざすと、宙に水らしきものが浮かんだ。
なるほど、悪魔の魔力って奴か。
朱乃さんはそのまま宙にできた水の塊をレイナーレに被せた。
バシャッ!
顔に水を浴びせられ、激しく咳こんだレイナーレが、ようやく意識を取り戻したのかゆっくりと目を開けた。
「ごきげんよう、堕天使レイナーレ」
「……グレモリー一族の娘か……」
「はじめまして、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主よ。短い付き合いになるかもしれないけど、お見知りおきを」
笑顔で挨拶する部長に対し、レイナーレは睨めつけるわけでもなくどこか諦観した様子で……。
「……おまえがここにいるということは、負けたのね、私たち」
「あら。意外と物分かりがいいのね。じゃあ、あなたのお仲間たちの末路もご存じかしら?」
そう言いながら部長は懐から二枚の羽を取り出した。
「堕天使カワラーナ、そして堕天使ミッテルト。彼女たちは私が消し飛ばしたわ。確かあと一人、ドーナシークっていう者もいたはずだけど、彼はあそこにいるソルジャーが始末したそうよ」
「……これは確かにあの子たちの羽。……そう。死んだのね…バカな子たち…」
羽を見つめるレイナーレの呟きがどこか悲しそうだった。
「イッセー。以前、このレイナーレがあなたを襲ったころからこの町で複数の堕天使が動いていたのは掴んでいたの。けれど、私は始め、それは堕天使全体の計画だと思って無視していた。前にもいったようにいくら私でもおいそれと堕天使全体を敵に回すなんて愚は冒せない。でも、今回は少し事情が違ったわ。堕天使の中枢組織【
「あちらは、私たちを女二人だと甘く見ていたのでしょうね。冥土の土産だと得意げに話してくださいましたわ。―――結局、冥土に行ったのはあちらでしたけど」
フフフ…とにこやかに笑った朱乃さん。地味に怖い。
ふと、部長が俺の左腕に視線を向けた。じっと籠手を見つめているようだ。
「……赤い龍。そう、そういうことだったのね」
少しだけ目元が驚いていたように見えたのは気のせいだろうか。
「イッセー。あなたが堕天使に勝てた理由がわかったわ」
部長は静かに述べる。
「堕天使レイナーレ。この子、兵藤一誠の
部長の言葉に、レイナーレは片眉を怪訝そうに吊り上げた。
「―――『
「ぶ、ブーステッドギア…!?」
見るからに驚愕の表情を浮かべたレイナーレ。
「い、一時的にとは言え魔王や神すらも超える力を手に入れられるという…あの【
「言い伝えの通りなら、人間界の時間で十秒ごとに持ち主の力を倍にしていくんだったわね、確か。その能力があれば、たとえ最初は一しかない力でも時間さえ稼げば上級悪魔や堕天使の幹部クラスの力になれる。……いえ、極めれば神すらも屠れるわ」
ええっ!?マジですか、部長!?
俺の神器そんなすごいもんだったの!?
よく見れば確かに籠手に赤い龍らしき紋様がうっすらと見える。部長の話が本当なら、とんでもないシロモノだぞこれ。
俺は自分の籠手を戦々恐々としながら見つめていた。
「……でもそれはあくまで理由の一つに過ぎない。どんなに強力な神器でも効力を発揮するのに時間を要するものは戦いにおいて大きなリスクなるわ。けれど、さっきの戦いを見た限り、イッセーの力の上がり方はその『赤龍帝の籠手』の能力だけではどうにも説明がつかないの。あまりにも上がり方が急すぎるのよ」
一旦そこで話を切った部長がソルジャーの方に視線を移した。
「ソルジャー。あなたの言う通り、一誠にはもう一つ、全く別の強力な力が働いているようね。これがあなたの言う『友情パワー』なのかしら?」
部長の言葉にソルジャーは首を縦に振る。
「ああ、その通りだ。―――イッセーよ。お前には俺と同じ【火事場のクソ力】が宿っている」
「か、火事場のクソ力?」
またまた聞いたことのない単語に驚く俺にソルジャーは頷く。
「そうだ。―――――【火事場のクソ力】はお前がピンチになったとき、一時的にその限界を遥かに超えた無限のパワーを呼び起こす。……お前も感じたはずだ。全身からマグマのように湧き出てくる未知のパワーを」
「う、うん…」
その言葉に俺は頷き返しながら自分の両手を見つめた。自分の神器の能力にも驚いたが、それ以上に俺にそんな力が宿っていたなんて。
俺の限界以上のパワーを引き出す【火事場のクソ力】に、それを十秒ごとに倍加してくれる『|赤龍帝の籠手』。
―――この二つが合わさったら、ひょっとして無敵になれるんじゃ…?
「……言っておくが、この【火事場のクソ力】はそう簡単に出せる代物ではない。お前が自分より格上の相手と対峙し、窮地に陥った時、“友との友情”がお前を強くするのだ」
「友との……友情……」
ソルジャーの言葉に俺はハッとする。
俺がレイナーレの光の槍に貫かれた時、もうダメだと思った瞬間にアーシアの顔が頭に浮かんだ。それからだ、俺の中のパワーが復活したのは。
「……【火事場のクソ力】の根源は友情パワーだ。友情パワーがある限り、お前はどんなピンチでも立ち上がることができるだろう。だがそれは逆に、お前が友情を失くしたとき、そのパワーは永久に失われるということだ」
―――そのことを忘れるな。最後にそう言うと、ソルジャーは木場に俺を預けて少しばかり離れていった。
「フフフ、でもおもしろいわ。さすがは私の下僕くんね。―――イッセー、これからもっともっと可愛がってあげるから」
「ぶ、部長」
「何?」
笑顔で応じてくれる部長に申し訳なくなった俺は頭を下げた。
「すみませんでした。あのとき、俺がアーシアを助けに行くって言ったときに、部長が手を貸してくれないからって生意気なことばかり言って……。部長は裏で動いてくれてたのに……俺……」
「いいのよ。私の方こそあなたの気持ちも考えずに…ごめんなさいね…」
心の底から謝りたかった。そんな俺の頭を部長は優しく撫でてくれた。
すると自然と涙が浮かんでくる。俺は泣いていた。
……だって、俺は目的を果たせなかったから。
「ぶ、部長……お、俺……あんな偉そうなこと言って、結局……アーシアを……守ってやれませんでした……」
「泣くことはないわ。あなたはそんなボロボロになってまで自分の使命を立派に果たした。もっと胸を張りなさい」
「ぶ、部長…」
部長の励ましに俺は涙でぐちょぐちょになった顔を上げた。
「イッセー、強くなりなさい。今よりももっと。そして悪魔のことをもっと学びなさい。―――これからもこき使ってあげるから覚悟なさい。私の
「は、はい!」
部長、ありがとうございます。俺、あなたの期待に必ず応えてみせます。
俺は心の中で強く誓った。
「……さて。それでは最後のお勤めをしようかしらね」
途端に部長の目が鋭く、冷たいものに変わった。
その冷徹さを滲ませた表情で部長がレイナーレに近づいていく。
……て、まさか!?
「消えてもらうわ、堕天使さん」
嫌な予感が的中した。部長はレイナーレを殺すつもりだ。
「待ってください部長!」
「…イッセー」
引き止めた俺を怪訝そうに見つめる部長。
「お願いします。こいつへの罰はもう少し待ってもらえませんか?」
「…どういうつもり?この堕天使は私の領内で狼藉を働いた。何より、この女の所為でアーシアは死んだのよ。イッセー、あなたにとってこの女はアーシアの仇のはずでしょ?」
確かに…確かにそうだ。こいつがアーシアの命を奪った。それはわかっている。
でも…それでも俺は、こいつを見殺しにすることはできない!
「一生のお願いです。こいつと話をさせてください。……そして、できればこいつの始末は俺につけさせてください。死んだアーシアもそれを望んでいるはずです」
「……」
俺の言葉にしばらく黙り込んでいた部長は、やがて大きくため息をついた。
「……なるほど、確かにこの件にはイッセー、あなたが一番関わっているものね。ある意味、彼女を裁く権利はあなたにこそあるのかもしれない。……いいわ、好きにしなさい」
「ありがとうございます。部長……」
俺は部長に深く頭を下げるとレイナーレに向き直った。
「…まだ私を生かすなんてどういう風の吹き回し?こっちには、悪魔に話すようなことなんか何もないわよ」
「勘違いしないでくれ。俺は本気であんたと話し合いたいんだ、レイナーレ」
そっぽを向いたレイナーレに苦笑しながら話しかける。
しかし、彼女からの返ってきたのはにべもない返事だった。
「殺したければ殺せばいい……。さっきもいったはずよ。私はこの計画にすべてをかけていた。それが潰えた今、もう私には何も残っていない。このまま生き恥を晒すくらいならいっそ死んでしまった方がマシよ」
彼女はそう言うと俺にあの鋭い視線を向けて睨みつけてくる。
「……悔しいけど、あなたに受けたあの技のおかげで自害したくとも指先一つ動かせやしない。仇を討つなら今が絶好のチャンスよ?さあ、早くその籠手で喉笛を貫きなさい。今なら簡単に命を「黙れよ」……っ!?」
俺が思わず口から出てしまった呟きにレイナーレが固まる。
「黙れって言ってんだ!……生憎と俺はあんたを殺すつもりはない。ああ確かにあんたは憎いさ。アーシアが死ぬってわかった時、この手で仇を討ちたくて仕方なかった。だけどな……そんなことをしたってアーシアは……あの子は帰ってこない。帰ってこないんだよぉッ!!!」
俺の叫びが聖堂に木霊する。周りにいるみんなも、沈んだ顔で俺を見つめていた。
「それに、あんたを殺したってあの子は絶対に喜ばない。なあ、アーシアは死ぬ前に何て言ったと思う?――――『あんたを恨まないでやってくれ』って。あんなに酷いことをされたあんたを、あの子は最期まで、最期まで信じたんだ」
「なんな……うそ……嘘よ……!」
動揺を隠さないレイナーレが首を横に振って何度も俺の言葉を否定する。
だが、俺の言ったことは嘘じゃない。嘘にして溜まるもんか。アーシアの想いだけは、他の誰にも踏みにじらせはしない。
「だから俺は、あんたを殺さない。あの子との約束のために、あんたの目を覚まさせてやる!」
「やめろォッ!デマカセなんて聞きたくない!あの子が私を恨んでいないはずがない!これ以上私を惑わせるなァッ!!」
「このっ!わからずy「そこまでにしておけ」ソルジャー!?」
思わずキレそうになった俺にソルジャーの声が待ったをかける。おかげで少し頭が冷えた。
声のする方に振り返ると、ソルジャーが一人の少女を抱きかかえて近づいてきていた。
「レイナーレ。そこまでイッセーの言葉が信じられんと言うなら直接本人に確かめてみるがいい」
「…どういう意味よ?」
「言葉というものは本人の口から直接聞くのが一番確実だ」
「ソルジャー。あんたまさか、アーシアに喋らせるって言うのか!?でも、どうやって?あの子はもう…」
「心配するな。ここは俺に任せておけ」
俺の言葉を遮ると、ソルジャーはアーシアの遺体をレイナーレの隣に並べるように床に寝かせる。
「この聖堂であれだけ激しい戦いがあったのに彼女の遺体にはこの通り傷一つない。これが何を意味するかわかるかイッセー」
ソルジャーの言わんとしたことを察した俺はレイナーレを見やった。
「レイナーレ……おまえ……」
彼女は否定するように目を背けたけど、俺には分かる。
彼女は戦いの最中であるにも拘らず、常にアーシアの体を避けて攻撃していたのだ。
表面ではどんなに否定していても、心の中はきっと今でもアーシアを想っている。俺はそう確信していた。
「ソルジャー。あなたこれから一体何をやろうというの?」
「なに…少しばかり“奇跡”というやつを起こそうと思ってな」
部長の問いに答えたソルジャーが何故か自分のマスクに手を掛ける。
「まさか…」
すると、何か思い当たる節があるのか朱乃さんが声を上げた。
「フェイス・フラーッシュ!!!」
ソルジャーがマスクを捲り上げた途端―――俺たちの視界を眩い光が覆った。
◆◆◆
「「「「こ、この光はっ!?」」」」
今、一誠は勿論のこと、リアスたちグレモリー眷属、そしてレイナーレでさえもこの光景に目を丸くしていた。
光は彼ら悪魔にとって毒になる危険な代物。しかし、ソルジャーから発せられた光は、逆に彼らを包み込むような暖かさに満ちていた。
むしろこの光を浴びていると不思議とさっきまでの戦いの傷が癒されていくような感じすらしている。
「同じだわ……あのときと……」
朱乃がどこか懐かしむのように恍惚と光を見つめている。
「ああっ!?レイナーレの体から神器が!」
木場がレイナーレを指差して叫ぶ。
声につられてそちらに目を向けると、彼女の体に宿っていた緑色の光が小さな塊となって体から抜け出した。
「こ、これは一体…!?」
レイナーレ自身、この現象は理解できていないようだ。
レイナーレから飛び出した光はふわふわとアーシアの上に移動していく。
やがて、ソルジャーの光の波動を受けて神器の光はアーシアの体に吸い込まれるように入っていった。
「……見てください!アーシアさんの体に血の気が…」
今度は小猫がアーシアの体の変化を指摘する。確かに段々血色がよくなってきているように見える。
やがて、彼女の体から心臓の鼓動が聞こえ、息を吹き返し始めた。
「そう言えば、彼には死者を蘇らせる力があったんだったわ。この目で見るのは初めてだけど…」
「まさに、“奇跡”だ…」
リアスの呟きに続けるように木場が顔に冷汗を浮かべながら頷いた。
「う、ううう……あ、あれ?」
「アーシア!!」
「……イッセーさん?あの…私、どうして…?」
アーシアが目を覚ました途端、感極まった一誠が抱きついた。
「アーシア!本当にアーシアなんだな!?」
「い、イッセーさん!?」
「フッ…上手くいったな」
マスクを元に戻しながらソルジャーが不敵に笑う。
「お…お帰りアーシア!」
「はううっ!?イッセーさん…そんな急に抱き付かれたら、は…恥ずかしいですぅ…」
「あっ、ご、ごめん!」
顔を真っ赤に上気させたアーシアの言葉に一誠が慌てて抱擁を解いた。
「そんな…本当にアーシアが蘇ったって言うの!?」
「あ…レイナーレ様……」
呆然と二人を見つめるレイナーレにアーシアが気付いた。
「あ、あの…」
「……」
何とか声をかけようとするが、レイナーレは心ここにあらずといった様子でほとんど反応を示さない。
「(イッセー)」
「…っ!(わかったぜ、ソルジャー!)」
視線で一誠に呼びかけるソルジャー。
それに反応した一誠がアーシアの両肩に手を置いた。
「…イッセーさん?」
「いろいろ考えたんだけどさ、やっぱりレイナーレを説得するのは俺なんかよりアーシアの方が適任だと思うんだ」
「で、でも……私は……」
「本当の気持ちは
そう一誠に背中を押され、ゴクリと息を飲んだアーシア。
しばらくして彼女も覚悟を決めたのか恐る恐るレイナーレに近づいていく。
「ひ、ヒイッ!こ、来ないでぇッ!!」
アーシアに怯えるように身をよじったレイナーレだったが、全身のダメージで碌に動くこともできない体では逃げ場などなく、ただただアーシアから視線を背けることしかできなかった。
「何よ…。や、やるなら一思いにしなさいよ!どうせ私のことを恨んでいるんでしょ!」
強く目をつむってあくまでアーシアを拒もうとするレイナーレ。
そんな彼女にアーシアは…
「大丈夫……もう怖くありませんよ……」
「え…?」
両手を顔に回しそっと胸に抱き寄せた。
まるで赤子を抱くようにレイナーレの体を抱きしめたアーシアの体が光を発する。
彼女の神器『
淡い緑色の光に包まれたレイナーレの体から、傷が瞬く間に消えていく。
「そんな……どうして?どうして私を助けるの?私はあなたを殺した張本人なのよ!?」
理解できないとばかりに首を横に振り続けるレイナーレにアーシアは優しく微笑んだ。
「私はあなたが本当は優しい方だって知ってます。こんなドジな私をあなたはいつも気にかけてくれた。……だから、どんなに悪ぶっていたって、あなたは今でも私の知っている優しいレイナーレ様のままです」
「違う!私は優しくなんか…」
「いいえ。それは、あなたが“本当の愛情”を知らないだけ……『人から愛されること』や『人を愛すること』を知らなかった。それだけなんです」
レイナーレの両頬に手を当て、視線を合わせながらアーシアは語り掛ける。その言葉がじわじわとレイナーレの心に沁み込んでいった。
―――ああ…思い返せば、自分は今まで何のために生きてきたんだろう……。
堕天使は考える。
ただ、他の誰かにほんの僅かでもいいから本気で必要とされたい。そんなささやかな願いのためではなかったか?それが、いつからこんなに醜い生き方をするようになってしまったのか…。
自分たち堕天使を総べるあの方々に仕えていればきっとその答えが見つかる。そう思っていた。
……でも、それは結局夢物語だった。あの方々にとって自分なんて所詮は他の同僚たちと同様眼中にない存在。だからこそ、自分は寵愛を得ようと躍起になって……
「私は……私は……」
最初から自分でも気付いていたのだ。とっくに道を踏み外していたことを。そして今更あの方々の元に戻れはしないことも。自分はそれだけの大罪を犯してしたのだ。
きっとこれから一生この孤独感を抱いて生きていくしかないのだろう。
そんな…そんな苦しみを味わうくらいなら……いっそ……
レイナーレの心が絶望に染まりかけたそのとき、彼女の頬に熱い滴が落ちてきた。
(これは、涙……?)
ふと見上げると、自分を抱く少女が泣いていた。
「苦しかったんですよね……」
「え…」
「今まで……ずっと一人で苦しかったんですよね……大丈夫……これからは……これからは私が傍にいます……あなたがこれまでどんな罪を犯してきたとしても……私があなたを許します……」
アーシアはさっきよりも強く、しかし相手をいたわるように抱きしめる。
その抱擁を受けたレイナーレは自分の心を凍てつかせていた氷が解けていくのを感じた。
(ああ……私は馬鹿だ。大馬鹿者だ。こんなに身近に、自分のために本気で涙を流してくれる者がいたのに、今まで全く気付かなかったのだから……)
自然と彼女の目尻にも熱いものが込み上げてくる。
そうしたらあとはもう、決壊するのは簡単だった。
「う、うわああああああああ……」
アーシアの胸に顔を押し付け、ただただ溢れ出る感情を吐き出していた。
この堕天使にとって数百年ぶりに流した、“純粋な涙”であった。
そしてアーシアは優しく微笑みながら胸元で泣きじゃくる一人の“少女”の髪を優しく撫でていた。
その姿はまさしく“聖母”と呼ぶにふさわしいものだった。
「部長……あの……こんなこと頼める立場じゃないのは分かってますけど……」
じっと見守っていた一誠がリアスに声をかけるとリアスは困ったような顔をして肩を竦めた。
「…レイナーレのことね。言うと思ったわ。―――安心なさい。あんな姿を見せられたら流石の私も消し飛ばそうなんて気分じゃなくなっちゃったわ」
「そ、それじゃあ…!」
笑顔になった一誠にリアスは頷く。
「私は悪魔だけど、“美しいもの”は極力壊さない主義なの。まして、あの二人の間に咲いた“友情”という名の花を手折る権利は誰にもないわ」
「部長……」
一誠はリアスの言葉に感動し、今一度アーシアたちを見やった。
今そこに、一人の聖女と堕天使の間で確固たる絆が生まれていた。
それは、彼女たちにとって長い長い試練を乗り越えた先に勝ち取った真実の愛、“友情”であった。
「もしかして、あんたは最初からこれを狙ってたのか?ソルジャー……って、いない!?」
事の真意を問い質そうと一誠がソルジャーの方を振り返ったとき、すでにそこに彼の姿はなかった。
「そんな!確かにさっきまでそこに…」
「……私も気付きませんでした」
「みんな!聖堂の入り口にこんなものが!」
慌てる一誠達の元に木場が一枚の紙を持って駆け寄ってきた。
持ってきた紙を受け取ったリアスは部員たちにも見えるように広げながらその内容に目を通す。
『諸君、俺はこれにて失礼する。また縁があれば相見えることを願う。 ソルジャーより』
「ソルジャー…黙って行くなんて水臭いぜ。アーシアを生き返らせてくれた礼を言いたかったのに…」
書置きを見て、落胆の表情を隠せない一誠。そんな彼を労わるようにリアスが肩に手を置いた。
「落ち込むことはないわ、イッセー。彼のことだもの。きっとまた会えるわよ」
「何でそんな自信満々なんスか部長。ひょっとして何か根拠でも?」
「え?えーと…それはねえ……」
まさか彼の正体を言うわけにもいかず、言葉を濁したリアス。
そんな彼女を一誠が訝しげな目で見つめていた。
◆◆◆
一方、グレモリー眷属たちのいる教会から一人立ち去ったソルジャーは、人気のない夜道の途中でマスクを脱ぎ、その正体である兵藤
「アーシア…彼女を蘇らせたのは一つの賭けだったが、やはり俺の目に狂いはなかった」
アタルはそう呟くと、すでに遠くなった教会の建物を見やる。
以前にもあのレイナーレという堕天使と戦ったことのあるアタルだが、彼の記憶の中では初めて会った彼女の目は己の欲を満たさんとする邪悪な色に満ち溢れていた。
しかし、今日久しぶりに対峙した時の彼女は、敵であるアタルに対する並々ならぬ敵意は感じられたものの、その瞳はあのときよりもずっと澄んだ色をしていた。
多分だが、アーシア……彼女の献身的な“愛”があの堕天使をあそこまで変えたのだろう。
恐らくその道程の険しさは並大抵のものではなかったはずだ。しかし、それでも彼女は諦めなかった。それはまさに、彼女の生来持った愛情の深さが可能にしたのだ。
そんなときふと、
『友情は自らの手で勝ち取るもの』
……かつて誰かがそのようなことを言っていたのを思い出す。
「フッ…俺も年だな。しかし、今日は良いものを見せてもらった」
そう呟くと、互いに涙しながらも友情を確かめ合っていた二人の姿を思い起こす。
―――願わくば、今日という日を忘れないでほしい。君たちが結んだ友情は必ず将来君たちの幸せの一助になる。これからもその友情の花を大事に育てていってくれ。
―――聖女アーシア、そして堕天使レイナーレ。この二人の友情に栄光あれ!
今、帰路に付きながら、アタルは二人の栄えある前途を祈っていた。
う~ん……気付いたら、地の文より台詞の方が多くなってしまった……
まあ自分なりにキン肉マンっぽさを出そうとした結果なので、ある意味致し方なし。
皆さまはいかがだったでしょうか。感想をいただけたら幸いです。
さて、これにて一応、本編の内容は大体終わりです。
あとは短い後日談を書いて本章は完全に締めという形になるでしょうか…
ちなみに、次章は数話ほど書き溜めしてから更新しようかと思うので更新が今まで以上に遅くなると思います。ご了承ください。