あと、展開が少し早いかもわかりませんがご了承ください。
アタルが目覚めたとき、そこは知らない天井だった。
(なんだここは……私はこの世から消滅したのではなかったのか?)
状況が呑み込めず驚くアタル。
とっさに体を動かそうとするが手足どころか首にもまるで力が入らない。
するとそんなアタルをのぞき込む二つの顔があった。
「おい母さん。中(アタル)が今こっちを見たぞ」
「まあ、ホントだわ。ああ、かわいいわね~うちの子は」
(こ、これは……まさか私のこの体は……!)
察しの良い彼はすぐに気付いた。彼は人間の赤ん坊になっていたのだ。
(驚いたな……まさか、超人としての私が消滅した代わりにこうして人間に転生するとは)
だが、こういう現象も超人の世界ならそう不思議なことではないのかもしれない―――そう割り切ることにしたアタル。
だが、しばらく後に彼はその考えを改めることになる。
なぜなら彼が転生したのは彼が知る世界ではなく、超人が存在しない全く別時空の世界だったのだから。
アタルが生まれたのはごく一般のサラリーマン家庭である兵藤家。
前世は王族だっただけに、そのギャップに驚かなかったわけではないが、それでも両親は長男であるアタルを愛情をもって育ててくれたし、アタルとしても全く不満はなかった。むしろ前世で家族というものに負い目を感じていたアタルにとって今世の家族は最も大事にすべき存在となっていた。
故に生まれてこの方両親の面倒をかけるようなことは一度もしなかったし、行儀よく振る舞うことも心がけた。その甲斐あって、今ではお互いに良い親子関係を気付けたように思う。
そしてもう一つ。アタルには一つ下に弟がいた。名前は一誠。
一誠には前世の弟スグルの影を重ねていたこともあってそれはもう可愛がった。
一誠も兄であるアタルを慕い、「アタルにい、アタルにい」とよく後ろを付いて回ったものだ。
それを御近所の人が見ては「あらあら仲のいい兄弟ね~」なんて微笑ましい目で見られたのも今では懐かしい。
こうして何事もなく、平穏に時間だけが過ぎてゆく。
しかし、そんな彼にも一つだけ気がかりなことがある。
(スグルたちは……上手くやれただろうか)
思い出されるのは前世に残してきた弟とその仲間たち。
存在自体を消された自分にもはやできることは何もないが、それでもやはり心配だった。
相手はあのフェニックスだ。勝つためならどんな汚い手でも平気で使ってくるだろう。
―――だが、それでもアタルは信じている。弟とその仲間たちの友情の力を。
「あーたるくーん、あーそびっましょー!」
「グフッ!?…い、イリナ! いきなり何をするっ!」
思考の海に沈んでいたアタルの背後から男の子っぽい格好をした亜麻色髪の少女がラリアートをかましてくる。
うっかり被弾してしまったアタルはぶつけた首元を摩りながら件の少女を睨みつけた。
「ごっ、ごめん…。でもアタルくんが悪いんだよ。考え事なんかしてこっち全然構ってくれないんだもーん」
ブーブー文句を垂れているこの少女は紫藤イリナ。数か月前に近所に越してきた女の子だ。
彼女との仲良くなったのは、髪の色が物珍しいという理由だけで近所の悪ガキたちから苛められていたのを一誠と二人で助けたことがきっかけだ。
このままやられっぱなしなのは嫌だという彼女の要望もあり、前世の知識を生かして簡単な技をほんのちょっとレクチャーしてやってたらいつの間にかこうして会うたびにプロレスごっこをして遊ぶ間柄になってしまった。
(まだ子供だからと高をくくっていたのが仇になったか)
女の子だからあまり力の要らない関節技(サブミッション)を中心に教えてあげていたのだが、彼女には素質があったらしく
教えられた技を凄まじい勢いで吸収していった。ついこの間も冗談半分でネプチューンマンの『喧嘩スペシャル』を教えたら、翌日会ったときに目の前でイッセーに対し技をかけてみせた。あのときは流石にアタルも舌を巻いた。
(もしかしたら私はとんでもない才能を目覚めさせてしまったのかもしれない)
イリナの将来が心配になってきたアタルは、今更ながら自分の行いを反省した。
「ところでイッセーはどうした? 一緒じゃなかったのか?」
「ああ、さっきまで私の『喧嘩ボンバー』の練習台になってくれてたんだけど急に動かなくなっちゃって…」
「救急車を呼べー!今すぐにだー!」
アタルは大慌てで近くの電話ボックスに駆け込んだ。
ちなみにその後無事イッセーは息を吹き返しましたとさ。
ここまでイッセー君、直接の登場はなし。
イリナちゃんは多分、原作崩壊キャラ第1号になる(予定)。