今のところ少しは書き溜めした分があるので、しばらくは短めでも定期的な更新ができそうですマル
真夜中の訪問者 の巻
もう日も沈みかけた夕暮れ時。
人気もない山奥に不気味な音が響いていた。
「タアーッ!!!」
凄まじい雄叫びと共に黒い影が空中に飛び出す。
そして、抱えた
<バキィッ!!!>
技が決まった瞬間に骨がへし折れたのような音が鳴る。
そして、影は続けざまに今度は別の技の形に
<ズドォォォォンッ!!!>
着地の瞬間、轟音と共に撒き上がる砂埃。
やがて、その中から一人の
「ハア…ハア…この技も大分形になってきたな」
膝を着き息を整えている男―――“ソルジャー”ことキン肉アタルは、自らの技の出来栄えに頷きながらのろのろと立ち上がった。
見渡してみれば、彼の周りには同じようにただの残骸にされたスパーリングドールの山が出来ている。
アタルはここ最近、
弟である一誠が、悪魔に転生し、神器に目覚め、そしてついこの間の堕天使たちとの決戦にて【超人】としての能力も開花させた。
この短期間で目まぐるしく成長を続けている弟を見るにつけ、「自分も負けていられない」とばかりに、しばらく中断していた自身のトレーニングに再び取り組みだしたのだ。
そして、再開するにあたって自らに課した課題というのが、今行っているこの技の完成だ。
これはかつて、前世の弟キン肉スグルに伝え、そしてアタル自身はついにその完成を見ることができなかった幻の奥義……。
あの当時ですら未完成とは言え、すでに9割方は技の形が完成していた。それも今では洗練に洗練を重ね、9割9分9厘まで出来上がっている。あとは技の精度と破壊力をひたすら磨き上げることくらいだろう。
「スグルは……無事成し遂げただろうか」
思い返すは自分が敗北したフェニックスとの一戦。
この世に転生してからもう20年近くも経つが、それでもあの日に弟スグルと交わした会話は昨日のことのように覚えている。
「フェニックスは強大な敵…―――恐らく、あの奥義がなければ【火事場のクソ力】を封じられたスグルに勝機はない……」
アタルが伝えたのは技の50%、つまり半分に過ぎない。それをスグル自身がもつ残り半分の要素をミックスさせて初めてあの奥義は完成する。
この世界に転生した今の自分と違って、スグルたちに与えられた時間はあまりにも短い。その限られた時間の中でスグルはあの技を習得しなければならないのだ。
「……いや、あいつには心強い仲間たちがいる。きっと向こうの世界でも完成させてくれるはずだ。俺たちの“夢”を……。ならば、俺はこの世界で己の成すべきことをやるのみ」
気を取り直したアタルは積まれたスパーリングドールの山を片付けると、山の中を駆け出した。
もう空はすっかり暗くなり、辺りを闇が包み込んでいる。アタルはその中を駆け抜け、家へと向かっていた。
◆◆◆
自宅に帰ったアタルが、玄関で靴を脱いでいると、ちょうど2階からアーシアが下りてきていた。
「あ!お帰りなさいお兄様!」
「ああ、ただいまアーシア」
「こんな時間までトレーニングですか?」
「まあな。……これも性分でな」
「大変そうですね」とでも言いたげなアーシアの視線にアタルは苦笑しながら答える。
「お前の方こそ、学校には慣れてきたか?」
「はい!イッセーさんやクラスの皆さんもみんな優しい方ばかりで、毎日が楽しいです」
そう言って笑ったアーシアが纏っているのはアタルたちと同じ駒王学園の制服。
実は、リアスの計らいで数週間前に一誠と同じクラスに編入してきたのだ。
ずっと教会での生活が長く、学校というものに通ったことがなかったアーシアに最初は馴染めるかどうか皆が心配したものだったが、生来の性格の良さもあってか、今では彼女は言葉の壁を物ともせず、クラスメートたちとも良好な関係を築けているようだ。
また、学校に通う傍ら、眷属にこそならないものの、リアスたちオカルト研究会に所属し、悪魔の仕事の手伝いもしているという。最近は一誠と組むことが多いため、何気にそれがお気に入りらしい。
それを聞いたときはアタルも「この幸せ者め」と弟をからかいたくなったとかそうでなかったとか。
「ところで……一誠の奴はもう帰っているか?」
「はい。今さっきお部屋に」
「そうか…」
「じゃあ、私は先にシャワーをいただいてきます」
そう言って、風呂場へと向かっていくアーシア。
「…一応、あいつにも声はかけておくか」
アタルは一誠の部屋に向かうべく階段を昇り始める。そのときだった。
彼の研ぎ澄まされた感覚に何かが引っかかった。
(何だこれは!?今、俺たち以外の気配が家の中に……それも、イッセーの部屋に?)
只ならぬ巨大な気配を感じたアタルはすぐさま階段を駆け上がり、一誠の部屋の前に立つ。
「おいイッセー!入るぞ」
一応ノックだけはして、扉を開けるアタル。
そして目の前に広がった光景に絶句した。
「……これは、どういうことだ?」
「あ、アタル!?」
「アタル兄……こ、これは……その……」
今部屋に起こっていることを簡単に説明しよう。
部屋の主である一誠が半裸でベッドの上にいる。うん、まだこれはいいとしよう。
だが、その下に全裸で組み敷かれている紅髪の少女は……
「グレモリー。お前がなぜこの部屋に?まさか、イッセー……」
「ご、誤解だアタル兄!これは…」
事情を知らない者からすれば、これはどこからどうみても
アタルが弟に疑いの眼差しを向けてしまうのも無理はない。
そして慌てふためくイッセーの様子がさらにその仮説の信憑性を上げてしまっている。
まあ、勿論真実は全く違うのだが。
「(迂闊だったわ…アタルがいたことを考慮してなかったなんて。私のバカ!)……こうなってしまっては仕方がないわね。ごめんなさい。実は…」
観念したかのように起き上がったリアスが事情を話そうした瞬間、部屋の床が光り出し魔法陣が浮かび上がった。
「……一足遅かったわけね……」
リアスが忌々しく見つめる魔法陣からはメイド服を着た銀髪の女性が現れた。
「こんなことをして破談に持ち込もうというわけですか?リアスお嬢様」
女性はベッドの上の一誠とリアス、そして部屋の入り口に立つアタルを確認するなり、呆れた口調で淡々と言った。
「こうでもしないとあなたたちは私の意見を聞いてはくれないでしょう?」
「このような
「下賤……?」
女性から吐かれた毒にアタルの眉がわずかに上がる。
「……いきなり人様の家に土足で上がり込んできておいて随分勝手な言い様だな。あんたが何者か知らんが、常識というものを知らんのか?」
「……あなたは?」
言い返された女性が今度はアタルの方に反応を示す。一方のアタルの方はいかにも怒っていますという感じに全身からオーラが滲み出ていた。
「俺は兵藤中。そこのベッドで乳繰り合っている男の兄だ。ついでに、弟はあんたがお嬢様と呼んでいる女の眷属だぞ」
「ち、乳繰り合ってるって…」
何気に兄からも散々な言われ様にショックを受ける一誠。
そんな彼の頭を撫でて慰めながらリアスも女性に向かって口を開く。
「グレイフィア!彼の言う通り、この子は私の可愛い下僕。私、
「(“下僕”という言い方も正直考えものだがな…)」
アタルが内心でツッコミを入れるがそれはさておき。
リアスたちに反論されたグレイフィアという女性は、一瞬ハッと顔色を変えたかと思うとその場で綺麗に正座をする。
「私としたことが…大変ご無礼仕りました。申し遅れましたが、私はグレモリー家に仕えておりますグレイフィアという者です。先程は御身内の方を悪し様に罵ったこと、平にご容赦くださいませ」
床に手を着きアタルたちに向かって深々と頭を下げる。実に見事なDOGEZAであった。
流石にここまでやられるとアタルも少々気押されてしまった。
「い、いや……俺も少しムキになりすぎた。頭を上げてくれ」
「?……何か?」
顔を上げたグレイフィアがこちらを不思議そうに見ている。どうやらしっかりしているように見えて、少しばかり天然なところがあるらしい。
アタルの性格としてこの手の女性を相手にするのは苦手だった。
「グレイフィア、あなたがここへ来たのはあなたの意志?それとも家の総意?……いいえ、お兄様のご意志かしら?」
「その前に、お前はまず服を着ろ……」
半眼でグレイフィアに尋ねたリアスだったが、その恰好は全裸というはしたなさ。
仮にも淑女であろうにと見ていられなくなったアタルが、床に落ちていた上着を拾って投げ渡した。
彼女が着替えている間、グレイフィアが彼女の問いに淡々と答える。
「強いて言うなら全部……でしょうか」
「そう。兄の『
「私は構いません」
着替え終わったリアスが諦めたように深い息をつく。
「ごめんなさい、イッセー。さっきまでのことはなかったことにしてちょうだい。私も少し冷静ではなかったわ。今日のことはお互いに忘れましょう」
「あっ………はい……」
リアスの言葉を聞いてあからさまに残念そうな顔をしていた一誠だが、渋々頷く。
「もう、そんな顔しないの」
そう言うなり、リアスは一誠の頬に口づける。びっくりした一誠が思わず頬を手で押さえると、悪戯が成功した子供のようにリアスが笑った。
「今夜はこれで許してちょうだい。また部室で会いましょう」
そして、今度はアタルの方に向き直る。
「あなたにも迷惑をかけたわね。今日の件については後でまたお詫びをさせてちょうだい」
「勝手に話を進めるな。お前たちはともかく、俺にはまるで事情が呑み込めん。お前は何しに来たんだ?」
尋ねたアタルにリアスは少し困ったような顔をして、
「……ごめんなさい。それについては明日部室で話すわ。だから……」
「……ハア、仕方ない奴だ。今日はそれで折れてやる。その代り、必ず事情は話してもらうぞ」
「恩に着るわ」
リアスはそう言うなり、グレイフィアと共に魔法陣の放つ光の中に消えていった。
部屋に残される男二人。
「……イッセー、とりあえずその見っともない格好をなんとかしろ」
「ファッ!?」
「イッセーさーん、お兄様ー、シャワー上がりましたー!」
アーシアの声が聞こえてきたのはそのすぐ後だった。
◆◆◆
「お嬢様。先程イッセーと呼ばれた方はもしや……」
「ええ、兵藤一誠。私の『
「あれが当代の赤龍帝……」
移動がてら尋ねたグレイフィアが驚愕の表情を浮かべると、すぐにそれは思案顔に変わった。
「何か気になることでも?」
「いえ、私はてっきりもう
「アタルのこと?言っておくけど、彼は一般人よ。私が悪魔だということは知っているけどそれだけ。イッセーが私の眷属になったから、ときどき協力してもらうことはあるけど」
「………そうですか」
グレイフィアはリアスの答えに表面上は納得したふりをするが、内心では訝しげな視線を送っていた。
恐らく話す手前、内容に多少の虚偽を折り混ぜているのであろうが、それに誤魔化されるほどグレイフィアは甘くない。
アタルと対面したあのとき、グレイフィアは時折彼から不思議なオーラを感じ取っていた。
あれはただの一般人が放てるものではない。“大王”―――そう呼ぶに相応しい者だけに許される天性の素質。それをあの少年から感じたのだ。
リアス自身はそこまで気付いていないようだが、それも無理ないのかもしれない。
冥界を総べる四大魔王。その筆頭であるルシファー家に新旧ともに仕えた経験のあるグレイフィアだからこそ気付くことができたある意味直感のようなものなのだから。
(何にせよ、あの兵藤中という人物、只者ではない。…帰ったら、サーゼクス様に報告する必要がありそうね)
そんな思惑を胸に仕舞い込み、グレイフィアはリアスに伴われて彼女の屋敷へと入っていった。
グレイフィアさん、兄さんのカリスマ性に気付いたようです。
流石は魔王に仕えるメイドだ。年季が違いますよ。
……ん、誰か来たようだ(ry