業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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前回たくさんの感想をいただき大変ありがとうございました。
長らく休載していた間にも多くの読者の方が待ち望んでくださっていたと改めて知ることができ、胸が熱くなる想いです。
是非ともその期待に応えたいと、現在努力しておりますが、やはりブランクがあると以前と同じようには中々筆が進まないものですね……

それはともかくとして、今回は
「やや(?)会話が多め」+「内容詰め込み過ぎて話があんまり進んでいない」
な中途半端な感じになっちゃいました。
「早くマスク被った兄さんを出せ!」という方には大変申し訳ありません。
出番はもうしばらくお待ちくださいませ。


決意は一つ! の巻

突如始まったアタルとライザー眷属の一人、『戦車(ルーク)』のイザベラとの戦い。

先に相手の『兵士(ポーン)』を持ち前の技で圧倒して見せ、その実力を知らしめたアタルだったが、イザベラの脅威のパワーの前に苦戦を強いられ、ついにはその命さえも奪われようとしていた。

 

誰もが予感した…………勝敗は決したと。

 

―――しかし、実際の決着はそんな大方の予想を覆し、ほんの一瞬の間に意外な結末を迎えることになった。

 

「う、嘘…」

「どうなってんだよ一体!?」

「なぜイザベラが…」

 

その摩訶不思議な光景に誰もがどよめいた。

 

「き…貴様ぁ…一体……何を……?」

 

―――自身の得意技で止めを刺しに行ったはずが、いつの間にかそっくりそのまま同じ技を相手に返されていた。

 

イザベラが信じられないとばかりにアタルを見る。

当の彼女は今、技の衝撃で亀裂の走った床に体を埋め込まれていた。

そこに覆いかぶさる体勢だったアタルがようやく自身の体を起こすと、静かに答える。

 

「何、ちょっとした“手品”だ。―――悔しいが、今の俺では“力”でお前に勝つことは難しかったんでな」

「手…品…」

 

仮面で隠れているが、恐らくアタルの答えに目を丸くしたであろうイザベラ。

しかし、その後で何故か彼女は「ククク…」と小さな笑いを漏した。

 

「まさか、人間に…敗れるとは……やはり…貴様は……ゴホォッ!!」

 

言いかけて吐血し、イザベラは気を失った。

 

 

 

「し、信じられん!あのイザベラが人間ごときに…」

「これは何かの間違いですわ!」

 

ライザー始め動揺するフェニックスの面々。

一方、一誠たちもまた目の前の光景に困惑していた。

 

「見えたかい?小猫ちゃん」

「いいえ。……祐斗先輩は?」

「悔しいけど、僕も。……まさか、『騎士(ナイト)』の僕が眼で追いきれないスピードとはね。ちょっと自信を無くしそうだよ」

 

そう言って木場は苦笑したが、そのぎこちない口元と、額に浮かんだ冷や汗を見れば、その心中は決して穏やかではないことは明らか。

 

 

そんな中、お気に入りの眷属が二人も倒され、怒り心頭のライザーがついに前に乗り出した。

 

「おいッ、人間!貴様イザベラに何をした!?」

「……」

 

激昂するライザーの問いにアタルは答えない。

 

「あのイザベラが人間なんぞに得意の格闘技で負けるはずがない!技が決まる直前にお前ら二人が消えた瞬間―――あのときに何か小細工をしたんだろう!?……言えッ!魔術か?それとも神器の能力か?」

 

がなり立てるライザーの方をようやくアタルが見上げたときだった。

 

「……その問いに答えるつもりはない。奇術師(マジシャン)がわざわざ自分の手の内を明かすと思うか?」

「ッ!?」

 

まるでわざと煽っているようにしか聞こえないアタルの返答。

事実、その言葉でライザーの怒りの炎にさらに油が注がれてしまった。

 

「……頭に乗るなよ。クソガキッ!」

 

ライザーが片腕を天に掲げるとたちまち周囲を炎が舞った。

 

「ただの人間にこれ以上舐められて堪るか!この俺自ら焼き尽くしてやる!」

 

ライザーの怒りに呼応して炎の勢いが増していく。やはり、腐っても不死鳥(フェニックス)。彼の操る炎はアタルの眼から見ても中々のものだと分かる。

しかし、アタルはそれでも不敵な笑みを崩さなかった。

 

「果たしてそう上手くいくかな?」

「何ッ!」

「忘れていないか?……この場にはお前を止められる存在がグレモリー以外にもう一人いることを」

「ッ!!」

 

アタルが言い終えた途端、ライザーは己の背後から鋭い殺気を感じた。

 

「……ライザー様。流石にそれ以上のご無体は私も承服いたしかねます」

「ぐ、グレイフィア様!?」

 

いつの間にか自分の背後に佇んでいた“冥界最強の女王”にライザーは恐怖する。

 

―――そうだ。この場にはリアスだけでなくこの御方もいたのだった。むしろ、ある意味で彼女は婚約者であるリアス以上に気を遣わなければならない相手。それを忘れていたなんて…!

 

ライザーは己の不覚を叱咤した。

 

「ここは御二方、矛をお収めくださいませ。お聞き届けいただけない場合、私も実力行使をしなければなりません」

 

冥界屈指の実力者、そして魔王の妃でもあるグレイフィアにそこまで言われたら流石のライザーも従わないわけにはいかない。

 

「チッ!仕方がない。今日のところは退き下がってやる」

「ライザー様ッ!」

「だが覚えていろ。次のレーティングゲームでリアス、君たちを完膚なきまでに叩き潰す!」

 

リアスたちに向かって堂々と宣言するライザー。

そして…

 

「そこの人間。お前もゲームに参加しろ!」

「「「「「「 !? 」」」」」」

 

なんと今度はアタルにもゲームの参加を要求してきた。

これには一誠たちも驚く。

 

「……認めたくはないが、確かにイザベラを倒したのは事実。それだけの腕があればリアスのメンバーに加えても少しは足しになるだろうぜ。そこの不出来な弟(・・・・・)に比べたらな」

「なっ!?だ…誰が不出来だコラァッ!」

「い、イッセーさん!動いちゃダメですぅ!」

 

粗方回復したとはいえ、まだダメージが残っている体を起こそうとする一誠をアーシアが必死に止める。

その光景をライザーは鼻で笑ったが、そこにリアスから反論が来る。

 

「ちょっと待って!アタルは人間なのよ。眷属でもない者をゲームに参加させるなんて…」

「構わんさ。どうせこれは俺たちフェニックスとグレモリーの間で行う非公式な試合。そこらへんのルールは特例って形にすればどうにでもなる」

 

どうしてもアタルを参加させたいらしいライザーに嘆息するリアス。

すると、黙っていたアタルが口を開いた。

 

「折角の申し出だが…断る。―――俺にはそのレーティングゲームとやらに出るつもりはないし、参加する理由もない」

「「「「「「 !? 」」」」」」

 

アタルの意外な答えに驚く一同。

当然ライザーも一瞬目を見開いた。…が、すぐにそれも嘲笑に変わった。

 

「ふ、フハハハハハ!臆したか!やはり、所詮は人間か。ミラやイザベラには偶然勝てたかもしれんが、俺様相手じゃ命が惜しいと見える」

 

高笑いするライザーだが、アタルがそんな安い挑発に乗るはずもない。

ただ床に脱ぎ捨てた制服の上着を拾い上げ、ちらりと相手を見やる。

 

「どう解釈しようが貴様の勝手だが…これだけは言っておく。―――【窮鼠猫を噛む】という。今のお前のように、格下でも相手を侮っているようでは今に足元を掬われるぞ」

「あ"あん?まさか、この俺様がこんな初心者相手に後れを取るとでも?」

 

ライザーの機嫌がまたみるみる悪くなっていく。

 

「そうならないとなぜ言い切れる?……この愚弟でさえ、今は弱いネズミでも、死ぬ気で修行すれば貴様相手に十分喰らいつける猛獣となりえるのに」

「ほう……」

 

アタルの言葉を聞いたライザーは顔に青筋を浮かべ、一誠の方を見やりながらサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「なるほど…そこまで言うならゲームまで10日待ってやろう。リアス、君もそれだけあれば自分の下僕を何とかできるだろう?」

 

こちらに向き直り、そう提案したライザーにリアスは不快そうに目を細めた。

 

「……ハンデのつもりかしら?」

「嫌かい?だが、自分の感情で勝てるほどレーティングゲームは甘くないぞ。いくら才能があろうと、いくら強かろうと、力を思う存分引き出せなければ敗北する。そういう戦いだ」

 

ライザーの言葉に今度はリアスも押黙った。

 

「本当はこの人間を参加させたかったが……本人にその気がないようだから、代わりに修業の時間を与えてやるわけさ。ありがたく思えよ」

 

最後にライザーが一誠を見た。

 

「精々リアスに恥をかかせないことだな、リアスの『兵士』」

「――っ!」

 

その一言は今の一誠の心にひどく重く圧し掛かるものだった。

 

「ではレーティングゲームの開催は10日後とします。それでよろしいですね?御二方」

 

二人が頷き、こうして話し合いは終了となった。

 

「では、10日後のゲームで会おう」

 

そう言い残し、ライザーは下僕の少女たちを引き連れ(負傷したイザベラとミラは担架に乗せられ別ルートで)魔法陣の光の中へ消えていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

ライザーたちが立ち去り、一息入れたのもつかの間。今度はリアスがアタルの方に詰め寄っていた。

 

「アタル…あなたまでライザーに喧嘩を売るなんて。見ていて冷や冷やしたわよ。普段のあなたらしくないじゃない」

「喧嘩など売ったつもりはないが?そもそも先に仕掛けていたのは向こうの方。俺はただそれに反撃しただけだ。……比較的穏便(・・・・・)にな」

「あ、あのねぇ…いくらあなたでもライザーが本気を出したら殺されていたのよ。見たでしょう?彼の“不死鳥の炎”を。あれは私たち悪魔の中でも…」

「ああ…確かに凄まじい。今の(・・)俺であれば、あれと正面からやって勝てるとは思えない」

 

リアスの言葉にアタルは頷く。それならどうして、とさらに詰め寄るリアス。

 

「『あの状況なら確実に止めに入る』と踏んでいたからな……彼女が(・・・)

 

そう言って、何故か視線をグレイフィアに向けた。

すると、それまでの冷静沈着な彼女の顔色がこのときばかりは珍しく驚きに染まっていた。

 

「……御見逸れ致しました。まさかそこまでお気づきだったとは」

「グレイフィア?一体どういうことなの?」

 

リアスが未だにわからないといった顔でグレイフィアを見る。

それを見て苦笑したアタルが代わりに答える。

 

「……俺が最初にあの男に喧嘩を売られたとき、彼女はいつでも俺たちを止めることができたはずだ。しかし、実際には彼女は喧嘩を止めに入るどころかむしろそのやり取りを観察するかのように傍観者を決め込んでいた。これが意味するところはつまり、『彼女が俺をあの場を借りて試そうとしていた』ということだろう?」

「ま、まさかグレイフィア…本当に!?」

 

リアスに問い質され、グレイフィアが小さく頷く。

 

「……おっしゃる通りです。私はこの兵藤中様の人となりを見極めるために、独断であのような真似をいたしました。お許しください」

 

深々と頭を垂れ、白状したグレイフィアにリアスは体を震わせた。

 

「ぐ、グレイフィア!あなた、仮にも私の友人を危険に曝すようなことを許しもなく…!」

「そう怒るな、グレモリー。これも彼女なりの考えがあってのことだろう。俺としても彼女の存在がなかったらあそこまで奴と対等に話をすることはできなかった。……互いに持ちつ持たれつさ」

「で、でも…」

 

どこか納得いかないといった顔のリアスに言い聞かせるように、アタルが言葉を続ける。

 

「見たところ、君は確かに才能や実力に恵まれている…しかし、“相手との駆け引き”に関してはまだまだ素人に近い。こういう“搦め手”は戦いでも重要だぞ、グレモリー」

「む…むぅぅぅ」

 

同い年であるはずなのに、まるで兄に諭されているかのような感覚。

それをアタルに感じたリアスは、彼を軽く睨みながら悔しそうに頬を膨らませる。

そして、そのやり取りを眺めていたグレイフィアも内心でまた、アタルへの印象を“確信”へと変えつつあった。

 

(あの状況で私の意図を見抜いた洞察力もさることながら、逆にそれを利用し戦況を有利に持っていく冷静な判断力。まるで数多の戦場を経験した老練の兵士を思わせるような強かさを、この若さで身に付けているとは………この少年、一体何者?)

 

思考を巡らせれば巡らせるほど、目の前のアタルの存在が不気味さを増していく。―――と同時に、その正体が何なのか彼女自身興味が出てくるという不思議。

 

( 兵藤中……サーゼクス様も気に入りそうな人間ね… )

 

しかし、そんな彼女の意識も次のアタルの一言によって現実へと引き戻される。

 

「それで…グレイフィアさんだったか。結局俺はあんたのお眼鏡にかなったのか?」

「…っ!」

 

完全な不意打ちであったが、グレイフィアは何とか内心の動揺を押し殺し、

 

「…とりあえずは、『予想以上の結果だった』と申し上げておきます」

 

取り繕った“冷静な”顔でそう答えた。

アタルの方も「そうか」と返したのみでそれ以上訊こうとはしない。

 

しばし静まり返る部室。

その水面下で今、人知れずハイレベルな頭脳戦が繰り広げられているとは、このとき、リアスはともかく新参の一誠やアーシアは思いもつかないであろう。

 

しかし、そんな張りつめた空気に堪り兼ね、溜息をついたリアスがようやく場の空気を変えるべく話題を切り替えた。

 

「オホン!…まあいいわ。それはそれとしてアタル。あなたがさっきライザーの『戦車』を倒したときに見せた―――“あれ”は一体何なの?」

「あれ?……『順逆自在の術』のことか?」

 

ライザーのときとは違い、割とあっさり技の名を口にしたアタル。

 

「『順逆自在の術』……“術”というからには何かの技なのよね?どういうものなの?」

「それは俺も訊きたかったんだアタル兄!あの状況でどうやって相手に技を返したんだよ!」

「確かに不思議ですわね」

「僕も興味があります」

「実は…私も」

「私もですぅ」

 

これにはリアスだけでなく一誠たちも喰いつき、一斉にアタルに詰め寄る形となった。

 

「……悪いがそれについてはいくらお前たちでも簡単に種を明かすつもりは…」

「そこをなんとか教えてくれよォ」

 

頑として口を割らないアタルに弟である一誠がねだるにねだる。

さしものアタルもこれには辟易したのか、

 

「そんなに知りたいのなら……彼に訊いてみろ」

 

そう言って木場の方を指差す。

 

「え?なんで木場に?」

「……おそらく完全に見切ることはできなくとも、技のヒントくらいは見つけている。そうではないかな?木場祐斗君」

 

指摘された本人は「まいったなぁ」と頭の後ろをかいた。

 

「マジかッ!?マジでわかったのか木場!」

「いや、流石にそこまで自信はないけど。推測でいいなら…」

 

そう前置きして、木場はメンバー全員に自分の考えを語りだした。

 

「おそらくですけど、あの“技”というか“現象”については、本質は至極シンプルなんだと思います。―――『技を掛けられた瞬間、相手と自分の体勢を入れ替える』。これだけですから」

「え……それだけ?」

 

木場の説明に一同は呆気にとられた。

 

「確かに言葉にするのは簡単ですけど、実際は言うほど容易ではありませんよ。だって、僕らの眼にも映らないほどの超スピードで行われたわけですから。普通は神器のような道具や魔法でも使わなければ不可能に近い……」

「なるほど。…でも、私が見た限りそのような特殊な能力や道具を使った気配はありませんでしたわよ?」

 

朱乃がそう発言すると、

 

「ええ。ですから僕もあのときは、『先輩が“自身の身体のみで”あの現象を起こした』と考える他ありませんでした」

「ちょっと待って。いくらなんでもそれは無理があるわ。いかにアタルの運動能力が優れていると言ってもそれは人間の域を超えるものではないはず。まして、『騎士』であるあなたでも捉えきれないスピードなんて出せるわけが……」

「おっしゃることはごもっともです。確かに人間である先輩の力ではまず不可能でしょう…」

 

リアスの反論に木場は一旦頷く。

しかし、その後に「でも…」と続ける。

 

「仮に人間であったとしてもあのスピードを出す方法が、一つだけあるんです」

「何ですって?」

 

驚愕するリアスの前で木場はその唯一の方法を説明した。

 

「“相手の力”を利用するんです」

「相手の力?」

「はい。……部長は『合気道』というものをご存知ですか?」

「ええ。確か日本古来の柔術の流れをくむ武術よね。私も護身術としていくつか習ったことがあるわ」

「でしたら、理解しやすいと思います。この合気道というのは攻撃を仕掛けてきた敵の力を利用して逆に相手をねじ伏せるという、いわゆる“反射(カウンター)”の特性をもった武術です。兵藤先輩がやっていたのもまさにこれと同じだとしたら?」

「なるほど…相手は怪力が自慢の戦車(ルーク)。逆にそのパワーを利用すれば人間の(アタル)先輩でもあのスピードを出すことが可能…と」

「そういうこと」

 

小猫の言葉に頷いた木場はそのまま結論を述べる。

 

「つまり、あのとき先輩は相手の技に掛かった瞬間、その勢いを殺さずに相手のパワーをそっくりそのまま自分のものにしたのではないでしょうか。―――いや、実際はそこに自分の力を上乗せしてより強力な力に変換したのかもしれません。とにかく、それがあの超スピードを生み出した!」

「お、おう?……正直途中難しすぎてよくわかんなかったけど、何となくすごい技だって言うのは理解したぜ」

 

話の内容に圧倒されはしたが、一誠の眼は興奮で輝いていた。

一方、木場の話を傾聴していたアタルもこれにはフッと笑みを浮かべる。

 

「…流石は学園きっての秀才。そこまで見抜くとは恐れ入った」

「あなたにそう言っていただけるとは光栄です」

 

アタルが称賛の言葉を贈ると木場もまた爽やかな笑みを返す。もし他の女子生徒が居たら確実に騒ぎになるこのツーショット。実に絵になる光景だった。

 

「…君の言う通り、あの『順逆自在の術』は相手の力を利用して互いの位置を入れ替える技。―――本来そこまで意識することはないのだが、人間の身では何かと限界があってな。俺も起死回生の一手としてしか使っていない」

「何で?あんなに強力なのに」

 

訊き返した一誠に、アタルは溜息をつく。

 

「……強力であればこそだ。そもそもあの技の特性上、相手の力を利用しやすい組みつきや投げ技といった状況でないと技を決めにくい。加えて技を返すタイミングも見極めなければならない。それだけに何かと使い所が難し……グウッ!?」

 

言いかけて、アタルが突然呻きながらその場に崩れ落ちる。

 

「アタル兄!?」

「っ!まさか…ちょっと診せてください!」

 

異変を察した朱乃がアタルに近づき、シャツの下に手を入れて脇腹に触れた。

 

「やはり…肋骨を何本か折っています」

「あっ…じゃあ、あのときの!」

 

その言葉で一同の脳裏にイザベラの猛攻を耐えていたアタルの姿が過った。

 

「くっ…話には聞いていたが、予想以上に馬鹿にならんものだな。戦車のパワーというのは…」

「アタル!?それじゃあなた、今までずっとその怪我でライザーと…」

「何という無茶を!」

 

全員の顔に緊張が走る。

 

「もしかして…生身で彼女の攻撃を受け続けていたのも…」

 

イザベラとの戦いから何かに気付いた朱乃が思わず口走る。

その反応を受けて、木場も内容を察した。

 

「そうか!あれは彼女に止めの必殺技(フィニッシュ・ホールド)を出させるための撒餌!確かに威力が中途半端な技では返しても倒せない可能性がある。でもだからって…」

「しょ…正気かよアタル兄!?」

「相手に技を出させるために、攻撃を生身で受けるなんて…」

 

驚きと困惑。二つの感情が混ざり合った声が上がる中、アタルは

 

「そ…それしか…勝つ方法が…なかった……理由など……それだけで…」

 

勝利のために己が傷つくことさえ厭わないアタルの“戦闘精神(ファイティングスピリット)”に言葉を失う一誠たち。

 

「と、とにかく治療を…!」

「要らん……これくらいは自分で……」

「で、でも…」

 

アーシアの申し出を頑なに拒むアタル。

そこには彼の、かつて“キン肉アタル”だった頃から続く譲れない信念があった。

 

「……今度の戦いは……お前たちが自分の力だけで勝ち残らなければならない試練……そこに部外者である俺が立ち入ることは許されん……そして、逆もまたしかり……この怪我も俺自身で撒いた種ならば俺自身で決着をつける……」

 

そう言うと、よろよろと立ち上がった。

 

「今日はここで失礼する…邪魔したな……」

「あ…」

 

怪我を押えながら部屋を出ていくアタルに何か声をかけようとするも、言葉が出てこないリアス。

そして、それは他のメンバーも同じだった。

 

 

 ◆◆◆

 

 SIDE イッセー

 

 

「結局、お兄様はここへは何をしに…?」

「イッセー先輩を助けたのは偶然として、どうしてライザーの下僕と…」

 

アタル兄が去った後、心持ち気の沈んだ俺たちにアーシアと小猫ちゃんから疑問の声が上がる。

それは俺たちも同じ気持ちだった。

 

「そうね…彼の行動は私にもわからないことだらけだわ。私たちの仲間じゃないというならあそこで戦う必要なんてなかったはずだし。……そうすればあんなに傷つくことも」

「それは違うと思いますよ。お嬢様」

「グレイフィア?」

 

部長の呟きに、意外にもグレイフィアさんが反応した。

思わず全員の視線がグレイフィアさんに集まる。

すると、その顔は今までの冷淡なものからどこか優しさを伴う軟らかな表情へと変わっていた。

 

―――あの人こんな顔もできるんだ…

 

意外だった俺はしばらくその顔に見惚れていた。

やがて、そのグレイフィアさんの口から俺たちはアタル兄の真意を聞くことになった。

 

「きっとあの方は…皆様にお見せしたかったんだと思いますよ。これから戦う敵の戦力を、少しでも…」

 

…っ!そうか!アタル兄は、あのイザベラって女性と決闘して、それを俺たちに見せ、研究させるつもりだったんだ。確かに数としては少ないけど、それでも相手のレベルが実際どれくらいのものか知ることはできる!

アタル兄…あんたはそこまで考えて……

 

「そんな…だったらどうしてあんな回りくどいことを?」

「それはおそらく…言葉にできないあの方なりの優しさなのでしょう」

 

そう言うとグレイフィアさんは俺の方を向いた。

 

「一誠様。あなたの兄君は大変不器用な方ですね…」

「え…」

 

突然話しかけられた俺は、一瞬何を言われてるのかわからず、しばらく呆然としていた。

すると、真っ白になった頭の中にふと子供の頃アタル兄がよく口にしていたある言葉を思い出す。

 

 

 

『これだけは覚えておけイッセー。自分の意思を相手にベラベラと伝えるだけが友情の行為ではないということを…な』

 

 

 

「あ…ああああ~~~ッ!!!」

「イッセー?どうしたの?」

 

思わず声を上げてしまった俺に、部長が心配そうに近寄ってきた。

 

「ぶ、部長!例え形は仲間じゃなくたって、アタル兄はアタル兄なんです!あんなぶっきら棒でも心は俺たちのことを想ってくれているんです!俺にはそれがわかる!わかるんッスよ!」

「ちょっ…イッセー!?お、落ち着いてちょうだい!」

 

つい興奮して部長の肩を掴んでしまった。お、落ち着け俺……

 

「……わかったわ。あなたがそう言うのならそうなんでしょう」

「ぶ…部長!」

 

俺の訳の分からない訴えに部長は文句を言うこともなく、頷いてくれた。

 

「僕らも信じるよ。イッセー君」

「み…みんな!」

 

木場、小猫ちゃん、朱乃さん、アーシア。

ここにいる全員が俺の舌っ足らずな言葉で納得してくれた。

 

―――ありがとうオカルト研究会!みんな最高の仲間ばかりだぜ!

 

俺はそのとき、何故か眼から滴り落ちる熱いものを抑えきれなかった。

 

「…どうやら無事まとまったようですね。これからもお仲間は御大事になさってください。お嬢様」

「グレイフィア…」

 

暖かい目で俺たちを見守っていたグレイフィアさんが部長にそう告げると、また元の凛とした表情に戻る。

そして、俺たちの前で一礼した。

 

「皆様。また10日後にお会いしましょう。それでは、ごめんくださいませ」

 

挨拶を言い終え、魔法陣の中へと消えていくグレイフィアさん。

それを見届ける俺たちの心の中は、ある一つの決意で結ばれていた。

 

 

「……勝つわよ。みんな」

「「「「「 ……はい! 」」」」」

 

 

 

 

 

その日、アタル兄は帰ってこなかった。

どうやらあの足で病院へ行き、入院を言い渡されたらしい。

 

そして、俺は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




<補足>順逆自在の術について
 言わずと知れた兄さんの元チームメイト【ザ・ニンジャ】の技。技の原理は大体本文で説明した通りだが、原作マンガでは理論上仕掛けるのに最低500万パワーは必要とされている。でも、使用者全員の超人強度を見る限り、500万も要らないのでは?多分80万~90万あれば足りるんじゃないかと。
ただ、蜘蛛の巣縛りのように完全に動きを封じられている状態からも脱出できることを考えるとやはりある程度の超人パワーは必要なんだとは思います。
 人間時で使用する場合は超人ではないために完全な力技というわけにはいかず、高度なテクニックで補う必要があると感じたので今回のオリジナル設定と相成りました。ただ、この場合使用した後の体の負担が超人のときよりはるかに大きいはずなのでここぞというときにしか使えません。
(ちなみに、本作の兄さんは転生後この技を習得するのに約3年を費やしている設定です)



・『順逆自在の術』の説明……もうちょっとスマートに書きたかった。
なんか、後半は木場君の解説講座になっちゃいましたしねぇ…
(あと、できれば本当はニンジャとのエピソードもちょっと入れたかったんですが、文量的にバランスが悪くなってしまったため断念…(泣))

・アタル兄さんはどこまでも背中で語る御方。それを感じてくれたら嬉しいです。

・知性チームじゃなくても、兄さんはかなりの策士だと個人的には思っています。異論は認めない!




では、次回もお楽しみに。
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