業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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今回はアタル兄さんが大暴れ。
それと、ストーリーで一部原作からの改変がございます。

どうぞ!

追記:セリフの部分を少々訂正しました。


母娘を救え!奇跡の光 の巻

 姫島母娘を襲撃した男たちの前に突如現れた謎の覆面男(マスクマン)

その鍛え上げられた見事な肉体は歴戦の勇士を思わせ、覆面から覗かせる瞳が自分たちを睨む。

その眼光の鋭さに完全に射竦められた男たちは、揃って一歩も動けずにいた。

 

 

―――目の前の男は自分たちとは格が違う。

 

 

ただ立っているだけなのにそれを肌で感じていた。

 

「これ以上貴様らの好きにはさせん。覚悟してもらおう」

 

覆面の男―――キン肉アタルはそう宣言すると、ゆっくりと男たちの方に近づいてくる。

その歩みには一分の隙もなく、やはり彼が相当の手練れであることを窺わせた。

 

「な、なにを呆けている!相手は一人だ!さっさと片付けてしまえ!」

 

リーダー格の男が叫ぶ。その声で我に返った手下たちは慌ててアタルの方へと殺到する。

その数十名弱…並の人間なら刀で滅多切り、いやハチの巣にされるであろう。

そう―――並の人間なら。

 

「……見え透いた攻撃だ」

 

アタルは男たちの斬撃を素早い身のこなしで躱していく。

そして擦れ違いざま彼らの急所といえる場所に拳や蹴りを見舞っていた。

 

「グワッ!?」

「ガッ!?」

「ギギャァッ!?」

 

ほぼ一撃で血や体液をぶちまけながら意識を刈り取られる男たち。

仲間が次々に倒されていく様を見て、残された襲撃者たちはいよいよアタルへの畏れの念を強くする。

 

「……次はどいつだ」

「き…キエヤアアアアアッ!!!」

 

アタルから発せられるプレッシャーに耐えきれなくなった一人が、無謀にも正面から特攻をしかける。

男の放った刃がアタルの胸めがけまっすぐ突き進む。

 

しかし、その刃は胸に届く前に止められる。他でもないアタル自身の左手によって。

 

「…!か、刀を素手で!?」

「こんな鈍刀(なまくら)で俺を殺せると思うな!」

 

アタルが手に力を込めると刃は粉々に砕け散った。

男たちは唖然とする。彼らの刀は霊力を込めることによって通常のものよりかなり強度が増している。それを素手、しかも握力だけで破壊するのは人の業ではない。

 

「ば…化け物…」

 

武器を失い呆然とする男の首にアタルの両手が伸びる。

 

「グヘァッ!?」

「あの親子が受けた傷はこんなものではない…今からそれを教えてやる」

 

両手で首を絞めながら相手を吊り上げる。プロレスで『ネックハンギング』と呼ばれる技だ。

アタルの持つ超人パワーで締め上げられた男の顔からみるみる血の気が失せていく。

 

「ア…アガガ~~~ッ!?」

 

もがいても首を掴んでいる両の腕はびくともしない。

そのうち、男から意識がなくなり動かなくなった。

 

「フンッ!」

 

アタルはそのまま掴んだ襟をもって投げとばし、壁に叩きつける。

男の体が壁に深くめり込み、幾重にも罅が刻み込まれた。

 

「ひ…ヒィッ!?」

「か…勝てっこない」

「に…逃げるんだー!」

 

あまりにも人間離れした所業に、恐れをなした者たちが一斉に逃げ出す。

 

 だが―――

 

「敵に背を向けるとは……恥を知れ!この臆病者が――ッ!!」

「「「ギャアーッ!?」」」

 

その前に最後に残っていた一人が立ちふさがり、全員を一瞬で斬り伏せる。

その男はこの襲撃の主犯格であり―――そして、先ほど朱乃の母朱璃を刺し貫いた張本人であった。

 

「貴様……自分の仲間を……」

「仲間? フン…あのような腰抜けどもを仲間だなどと……虫唾が走るわ!!」

「何…?」

 

目を血走らせ、侮蔑の言葉を吐き出したこの男にアタルも表情を険しくする。

 

「そもそも、今回の襲撃も私一人で十分だったのだ。あやつらは所詮数合わせよ。むしろ、いなくなって清々したわ」

「っ! 貴様…!」

 

女子供に手を掛けたこともそうだが、この男の「仲間」に対する扱いにアタルは激しい怒りを覚えた。

 

「どうしようもない連中だと思っていたが……特に貴様は、その心までも腐っているようだな!」

「ほざけっ!!化け物風情が…おまえこそ我が刀の錆にしてくれるわ!」

 

男が刀を構える。その霊力を込めた刀身は明らかに先ほどの連中と輝きが違っていた。

 

「俺は今までの連中とはわけが違うぞ!」

 

言うや否や、男はアタルとの間合いを一気に詰める。その速さに一瞬アタルの顔が驚きに染まる。

 

「死ねいっ!!」

 

男が刀を横に凪ぐ。アタルが反応する間もなく、その斬撃はアタルを―――

 

「トワッ!」

「……な、何っ!?」

 

―――捉えなかった。

 

なんとアタルは相手の頭に両手を着き、逆立ちの体勢になることであの斬撃を回避したのだ。

あのわずかな時間で剣筋を完全に読み切らなければできない芸当である。

 

「ば、馬鹿な!我が必殺の一撃が…」

「自分の力を過信し過ぎだ。愚か者」

 

アタルはそう言うと、逆立ちから反転して相手の背後に着地。続けて下から腕を回して『フルネルソン(羽交い絞め)』の形に捕える。

そして最後は上体を後ろへと反らし―――

 

「ドラゴンスープレックス―――ッ!!!」

「グワァ――ッ!?」

 

―――相手の後頭部を床に叩きつけた。

 

 

<ズガァァァァァン!!!>

 

 

 床が衝撃で激しく軋む。

 

「グアァァァ…」

 

後頭部を強打の上、脳震盪も起こしている男の頭に激痛が走り、堪らず刀を手離してしまうほど悶え苦しむ。

だが、これで終わらせるアタルではない。

 

「貴様にはとっておきの地獄を見せてやる」

 

外道相手に容赦は無用…と言わんばかりに、アタルは倒れる敵を抱え起こすと、そのまま高くジャンプする。

社の屋根さえも突き破り、上空高く舞い上がると仰向け状態の相手に背を向け両足首を両脇に抱える。そのままステップオーバーして相手をうつ伏せにすると、その両手首を持って持ち上げ、肩および背を宙吊り状態にした。

この体勢はプロレスで『カンパーナ(釣鐘固め)』と呼ばれる技のものだが、アタルはそこからさらに回転を加えることで上昇を続ける。

そして上昇が最高点に達したところで回転を止め、今度はその体勢のまま急降下を始めた。

 

「グウウ…こ、この技は一体……」

 

視界が目まぐるしく変わる中、辛うじて意識を取り戻した男は、自分にとって未知の技に驚きを隠せない。

やがて男の胸には、落下時の強力な空気抵抗でできる「A」の文字の傷が刻まれていく。

 

「冥土の土産に教えてやる……この技は、一撃で周囲を焼き払う『ナパーム弾』並の威力を誇ることからその名が付けられている。―――その名も…」

 

 

「ナパーム・ストレッチ―――ッ!!!」

 

 

今、アタルの叫びとともに、彼オリジナルの必殺技(フィニッシュ・ホールド)が炸裂した。

 

 

<ドオオオオオ―――ンッ!!!>

 

 

「グボハァッ!!?」

 

 落下の衝撃で地面が陥没し、周囲に無数の亀裂が走る。本来、リングのキャンバスに激突させる技だが、ここはクッションのない石畳の上。その破壊力は……推して知るべし。

 

 男が白目を剥いて大量の血を口から吐き出したのを見届けると、アタルは技を解いた。

そのまま倒れ伏した敵に背を向け歩き出そうとしたところで、瀕死の相手から最期の声が漏れる。

 

「げ…解せん……なぜ…あの忌子を…助ける?あれは……」

「貴様らのくだらん理屈などどうでもいい!」

 

アタルは男の言葉を切って捨てる。それは彼自身の強い決意の表れでもあった。

 

「俺はただ、許せなかった……あんな子供にまで刃を向ける貴様のような卑劣な奴が。―――――それだけだ」

 

アタルが言い終えたとき、最後の襲撃者は既に息絶えていた。

 

そしてアタルはその相手を振り返ることもなく、その場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「母様…母様ぁ……!」

 

 アタルによって襲撃者が撃退されたことなど梅雨知らず、朱乃は自分を庇って倒れた母を必死に起こそうとしていた。

だが、いくら呼べども母からの反応は返ってこない。いつしか朱乃の心は絶望の色に塗りつぶされていった。

 

 

―――お願いします。神様、こんな命がほしいならいくらでも差し上げます。だからどうか母様を……

 

 

頼りになる父も今はいない。だから神様にすがるしかない。……だが、果たしてそれも信じていいのか。

 

 

―――やっぱり私がいるのがいけないんだ。私が汚い堕天使の子だから……

 

 

遂には泣きながら自分を責め始める始末。もはやこの少女に救いの手はないのだろうか。

そう思われたそのとき―――

 

「…泣くな。女が簡単に涙を見せるものではない。流せばその分幸せが逃げていくぞ。……女の涙はもっと大切な時のためにとっておけ」

 

そう声を掛けながら誰かが優しく彼女の頭を撫でてくる。

その感触に思わず顔を上げると、自分の後ろに覆面をした青年が座っている。

 

「でも…母様が…母様が……」

 

また今にも決壊しそうに滴を湛えた目を青年に向けながら、朱乃は訴える。

それを受けた青年は、マスクから唯一覗かせる優しげな瞳をこちらに向け、

 

「心配するな。君の母親のことは俺に任せてくれ」

 

そう言って再び髪を撫でた。

何だかそれが朱乃にはとても心地よく感じて―――気付けば、この“知らないおじさん”に「はい」と頷いてしまっていた。

 

覆面の青年―――アタルは、朱乃を撫でる手を止めると、倒れた朱璃の方に向き直った。

彼女が受けた傷は相当に深く、今からではどんな治療をしたとしても手遅れだろう。そう、“奇跡”でも起こらない限りは―――

 

(まさかこの力を再び使うことになるとは思わなかったが……しかし、もはやこれしか手段がない)

 

アタルは血盟軍の仲間たちから贈られた愛用のマスクに手を掛ける。

 

 

―――それは、キン肉族の中でも王家の者だけが持つことを許された偉大な力。

あるときはドブ川の水を一瞬で清らかな川の水へと変え、またあるときは巨大なシーソーを曲げる、折りたたまれたキャンバスに挟まれた仲間の危機を救うなどの“奇跡”を起こしうる神秘の光。

 

 

「フェイス・フラッ―――シュ!!!」

 

 

アタルがマスクから僅かに覗かせた素顔から神々しい光が溢れ出す。

 

「綺麗……」

 

自然と泣き止み、その光に見入ってしまう朱乃。

一方の朱璃は、光を浴びたことで徐々にその傷が塞がっていく。

 

「か、母様の怪我が…!」

 

母の傷が跡形もなく消え去り、さらに顔色も元の赤さを取り戻し始めていた。まさに“奇跡”であった。

 

 この神秘を目の当たりにした朱乃はアタルの方に向き直る。

 

「母様助かったの!?」

「ああ、一か八かの賭けだったがこれでもう心配は要らない」

「あ…ありがとーおじ様!」

 

嬉しさのあまり朱乃がアタルに抱き付いた。あまりこういう経験がないアタルは始め戸惑ったものの、

 

「……ど、どういたしまして?」

 

たとたどしいながらも最後には優しくその抱擁に答えた。

 

 

「う、ううう……あ、朱乃……?」

「母様!? 気が付いたのね!」

 

 朱璃が意識を取り戻したことで、朱乃の顔がさらに喜色に満ちた。

 

「母様ぁ…よかった…本当によかったよぉ…」

「朱乃…ごめんなさい。あなたを守ろうとしたのに、逆に心配をかけてしまったのね…」

「ううん。もういいの……。母様が生き返ってくれたから、もうそれでいいの」

「ありがとう、朱乃……ところで、そちらにいる方は?」

「……」

 

朱璃の視線がこちらに向いた瞬間、アタルは言葉に詰まった。

自分の正体を明かすべきか否か―――いや、今の自分は本来この世界にあってはならない存在だ。

ならば、このまま立ち去るが道理―――。

 

「……申し訳ないが、私はこれにて失礼する。母子ともども達者に暮らされよ」

 

朱璃の問いには答えず、そのまま立ち上がり背を向けるアタルだったが、

 

「もし」

 

背中から呼び止める声に、一瞬動きを止める。

 

「あなたですのね。私の傷を治してくださったのは。……もう絶対に助からないと思っていましたのに。本当に何とお礼を申し上げればいいか」

「……私はそこの御息女が泣いているのを見かね、少し手を貸したにすぎない。礼を言われることなど…」

「いいえ、それでも言わせてください。……ありがとうございました」

「ありがとーございました!」

 

母娘ともども頭を下げてアタルを見送る。アタルは今度こそ足を止めずに歩き始めた。

 

「おじ様!」

 

そのとき何を思ったか、朱乃が前に飛び出す。

 

「せめて、せめてお名前だけでも教えてください!」

 

その顔は赤く上気していたが、この質問だけは譲れない―――そういう気迫が感じられた。

しかし、アタルは歩みを止めない。

 

「おじ様ァ!」

 

朱乃が声を枯らさんばかりに叫ぶ。その呼びかけでようやく、アタルが振り返った。

 

「……今の俺に名乗るべき名はない。だが、あえて俺のことを呼ぶのであれば――――――“ソルジャー”。そう呼ぶがいい…」

「ソルジャー…様」

 

朱乃は頬を朱に染めその名を反芻しながら、遠ざかっていくその背が見えなくなるまでいつまでも見送っていた。

 

 

 

 

 

 

―――今このときから、少女の初恋が始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 神社を去った後、アタルは自宅の近所にある公園で一人座り込んでいた。今はもう、“キン肉アタル”であったころの姿ではなく、本来の“兵藤中”のものに戻っている。だが、その顔色は優れているとは言い難かった。

 

「やはり…【フェイス・フラッシュ】は体力をかなり消耗させるな。神器を解除した途端にこのザマとは」

 

フェイス・フラッシュは本来、そう易々と使える能力ではない。ここぞという土壇場で使う奥の手も同然なのである。

それを神器の助けがあるとはいえ、人間の子供の身で使用したのだ。その負担は計り知れない。

 

「フッ……まだまだ俺も修業不足、ということか。しかし、嬉しいものだ。かつての自分に戻れるというのは」

 

もう無理だと思っていた超人としての力。それを再び手にすることができたのは偏にあの4人の協力があったからこそ。

 

(ありがとう……ブロッケンJr、バファローマン、アシュラマン、ザ・ニンジャ)

 

アタルは今もこの胸に眠っているであろう仲間たちに感謝を述べ、再びその疲れ切った足を奮い立たせた。

もう辺りは夕暮れに染まっている。家族のみんなもきっと帰りが遅いと心配していることだろう。

 

(帰ろう……俺を待つ、最愛の家族の元へ!)

 

今日も彼は自宅へと帰る。

もはやクタクタであろうその足取りは―――意外にも軽かった。

 

 

 

『頑張れよソルジャー隊長(キャプテン)!』

 

『いつでも俺たちが付いてるぜ!』

 

『左様。大船に乗ったつもりでいるといい』

 

『カーカッカッカッ!我らを失望させるなよ』

 

 

 

また、あの4人の声が聞こえてきたような気がした。

 

 

ああ…今夜は良い夢が見られそうだ……。

 

 

 

 

 




「姫島親子救済」+「兄さんフラグが立ったよ」な回でした。

そして書いててやっぱり思ったのは、「便利だなフェイス・フラッシュ!」
この一言。

そういえば、まだイッセー君が一度も出てきてないですね。

……ええ、出ますとも。ご心配なく。
次回からきちんと出ますとも。

というわけで、次回から原作開始時に突入です。
どうぞ、今後のアタル兄さんの活躍にご期待ください。




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