今回イッセーくんとリアス視点がやたら長ったらしいですが、よろしければどうぞ。
一誠がレイナーレに襲撃された翌日―――。
当の一誠は現在、登校中の同じ学校の生徒たちから厳しい視線を向けられていた。
それもそのはずだ。なんせ彼の隣には学園のアイドル、リアス・グレモリーがいるのだから。
(どうしてこうなった―――)
今考えてもおかしい、と一誠は今朝からの状況を思い出す。
(俺、確か昨日夕麻ちゃんに殺されかけたよな?そんで…起きたら朝で、俺の部屋にいて…で、隣を見たらグレモリー先輩がいたんだよな、素っ裸で)
それはもう見事な生乳でした…(一誠談)というのはさておき、問題はそこではない。
何故先輩であるリアスが自分の部屋にいたのか。昨日の出来事は何だったのか。
―――いろいろ訊くべきことはあったはずなのに、今ここにリアスがいるという状況による混乱と、彼女のマイペースな性格が災いしてか未だに話を切り出せずにいた。
(こういうときこそ、アタル兄なら冷静に突っ込んでくれるはずなのに、何故か今日に限って朝からいないし!)
そう、リアスがいることに驚いた一誠はとりあえず頼りの兄を呼ぼうとした……しかし、どういうわけか家に兄の姿はなく、リビングに降りてみれば作り置きの朝食が二人分置いてあるのみ。
その傍に『すまないが、今日は先に出かける』と書置きを残してあったところを見ると、どうやら一誠を置いて先に登校してしまったらしい。
おかげで今朝はリアスと二人きりで気まずい朝食を取ることになってしまった。
(それにしても、この視線どうにかならねえかな……そんなに俺が先輩と一緒にいるのがダメなのかよ…)
ちらりと隣を盗み見れば、周囲の視線などどこ吹く風といった顔で堂々としているリアスの横顔が見える。
(ああ……やっぱり綺麗だよなこの人。どんな理由があるか知らないけど、とりあえずこの状況だけは役得だよな)
この一誠という少年、なんとも現金な性格をしている。
そんなこんなで、校門を抜け、学校の玄関でリアスと一旦別れることになった一誠だが、
「イッセー、あとで使いを出すわ。放課後にまた会いましょう」
「え?」
「知りたいでしょ?昨日のことについて。…それと、何故私が君の家にいたか」
そう意味深に告げられて、呆ける彼を横目にリアスは微笑みながら去って行った。
―――そして放課後。
「何がなんだか、さっぱりわからん」
教室で後ろ髪を掻きながら頭を悩ませる一誠だったが、いくら考えても無駄だと知ると机に突っ伏した。
(俺のケータイから夕麻ちゃんのケータイ番号とアドレスが消えてる…しかも、紹介した奴みんなが誰も彼女のこと覚えてないなんて…)
松田や元浜の二人まで可哀想なものを見る目でこちらを見てきた。彼女を直接紹介したにも関わらずだ。
(まるで、天野夕麻なんて女の子が始めからいなかったみたいじゃねえか。…まさか、本当に幻想だったっていうのか?いや、そんなはずはない!俺は彼女の顔を鮮明に覚えてるんだぞ!?)
まるで納得がいかない一誠に、教室の扉から声を掛ける者が一人。
「や。どうも。兵藤一誠くんだね」
一誠は半眼で自分を訪ねてきた男子を見ていた。
木場裕斗――― 一誠と違うクラスにいる同学年の生徒で、学年一のイケメンと称されるほどの爽やか美少年。女子からの人気も一誠の兄であるアタルと勢力を二分するといわれるほどだ。
今も彼が現れたというだけでクラスの女子たちから黄色い歓声が沸いている。
(まっ、実際はアタル兄には敵わないだろうけどな…)
一誠が内心で負け惜しみを呟いていると、木場がこちらに近づいてくる。
「……で、何か御用ですかね?」
「リアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ」
「―――っ!」
面白くなさそうに返した一誠に、木場がスマイルを変えずに続けてきたこの一言で全てを察した。
(そうか…先輩の使いってのはこいつのことか)
「……OKOK、で、俺はどうしたらいい?」
「僕についてきてほしい」
―――ここで考えていても時間の無駄だ。とにかく、今はグレモリー先輩から話を聞こう。
一誠は頭を切り替え、木場の言葉に了解すると素直にその後ろについていった。
◆◆◆
SIDE イッセー
木場のあとに続いて向かった先は校舎の裏手にある旧校舎と呼ばれている建物。その2階にある【オカルト研究部】の部室の前に俺たちはいた。
「ここに部長がいるよ。―――部長、兵藤一誠くんを連れてきました」
「ええ、入ってちょうだい」
先輩から声を掛けられ、木場に続いて入室すると俺は中の様子にまたまた驚かされた。
“オカルト研究部”というだけあって、まさにそれらしい部屋だった。壁や床に魔法陣やら謎の文字がびっしり書き込まれていて、何やら不気味さと異質さを最大級に感じる。
部屋を見渡していると、ソファーに一人女の子が座っていた。視線が合う。……あっ!この子、我が校のマスコット的キャラで一部の男子に大人気の搭城小猫ちゃんじゃないか!
「……なんか、目つきがいやらしいです」
い、いきなり冷たい目で見られた!?な、何故だ!?俺はまだ何もしてないぞ!
「え、えーと…一応こちら兵藤一誠くん」
木場が困った表情で紹介するけど、あの子の眼俺のこと完全に軽蔑してるよ!?
「あの
そ、そりゃあないぜ小猫ちゃん!確かに、アタル兄に比べたらアレかもしれないけどさあ……。
「まあまあ、小猫ちゃん。初対面なんだからもっとオブラートに」
…おい。全然フォローになってねえぞ木場。てか、やっぱりテメーも俺をそういう目で見てたんだな!
木場に怒りをぶつけてやろうかと思った俺の耳にシャーと水の流れる音。…シャワー?
見れば、部屋の奥にシャワーカーテンがあり、そこに女性の陰影が映っている。…て、シャワー付きなのか、ここ!?
「部長、これを」
「ありがとう朱乃」
カーテンの奥に先輩とは違う女の人の声が聞こえてきたが、俺の眼はカーテン越しに映る先輩の着替えに釘付けだった。
朝のアレを思い出してしまい、少し股間が熱くなってしまったのは仕方ないんだ、うん!
「……やっぱり、いやらしい顔」
う…っ!?これは流石に言い訳できない。スミマセン。いやらしい顔してスミマセン…。
内心で小猫ちゃんに謝っている俺の前に、やっと着替えを終えた先輩が制服姿で現れる。その後方には…え、マジか!?我が高校のもう一人のアイドル、姫島朱乃先輩だ!
「ゴメンなさい、待たせたわね。昨夜イッセーの家にお泊まりしてシャワー浴びてなかったから、今汗を流してたの」
「あらあら。はじめまして、私、姫島朱乃と申します。どうぞ、以後、お見知りおきを」
「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、こちらこそ、はじめまして!」
流石に我が校の「二大お姉さま」を前にすると緊張せざるを得ないな。
「さて、全員揃ったところで……兵藤一誠くん、いえイッセーと呼ばせてもらうわ。ようこそオカルト研究部へ」
そう言った先輩は、とりあえず立ち話もなんだからと、ソファーに座るように促した。座った俺に姫島先輩がお茶を煎れてくれる。
「……で、今回来てもらったのは他でもないわ。あなたに昨日起こったことについての話よ」
いよいよ本題ってことか。俺も思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「その前に言っておきたいことがあるわ。実は私たち―――悪魔なの」
へ~そうなんですか。悪魔ねぇ~……って、ええ!?あ、悪魔!?
驚いた俺に先輩が続けて説明したことはどれも信じられない話ばかりであった。
この人間社会の裏では、先輩たち【悪魔】、それと敵対する【堕天使】、そしてその二つを纏めて滅ぼそうとする【天使】、この3勢力が大昔からずっと争い続けていたこと。俺を殺そうとした夕麻ちゃんはその堕天使の一人だということ。
そして、今回彼女が俺を狙ったのは俺の中に
「そもそも俺、死んだんですか?なんか、今こうしてピンピンしてますけど」
「そうね……
え!?先輩が助けてくれたんじゃ…?
「……正確には、あなたを助けたのは私じゃないわ。私はただ後のことを頼まれてあなたを家まで送り届けただけ」
「そ、それじゃ誰が俺を……」
瀕死の俺を助けたのは先輩じゃない?じゃあ一体誰が…
「私も正体は
“
「ソルジャー!?」
突然姫島先輩が立ち上がった。って、うおっ!? ビックリしたぁ……
「リアス、それ本当なの!?あなたさっきそんなこと一言も言ってなかったじゃない!」
「あ、朱乃!?急にどうしたのよ!?」
「本当にその人は“ソルジャー”って名乗ったの!?……だったら、“ソルジャー様”はこの駒王町に……」
「さっきから何を興奮してるの、あなた……」
今の姫島先輩の反応はグレモリー先輩にも予想外だったようだ。木場と小猫ちゃんの二人も珍しいものを見たって顔をしてるぞ。
「…ゴホン。一旦落ち着きましょう。話が進まないわ」
「……わかりました。(後で詳しく話を聞かせてもらいますわよ?)」
グレモリー先輩が場を仕切りなおすとばかりに語気を強めると、流石に姫島先輩もそれに従ったようだ。…小声で何か言っていたみたいだが。
―――どうやら姫島先輩はその“ソルジャー”って人を知ってるみたいだけど……今は訊かない方がいいか。
「…とにかく、俺が“ソルジャー”って人に助けられたのは分かりましたけど、グレモリー先輩はどうしてあの公園にいたんです?」
「私はこの紙であなたに召喚されたのよ。見覚えない?」
先輩が取り出したのは1枚の紙。俺も何となく記憶に残ってた。確か、夕麻ちゃんとのデートの待ち合わせ中にチラシ配りからもらったものだ。
先輩の説明によると、そいつは先輩たち悪魔を召喚するための魔法陣で、人間の願いや欲望に反応して発動するものらしい。
あのときも、俺が死に際に相当強い“念”を発したから先輩のような上級悪魔を召喚できたんじゃないかって話だ。なるほどな…確かに俺はあのとき……。
「……それで、状況は把握できたかしら?」
「はい。丁寧に説明してくださってありがとうございます」
俺は先輩に頭を下げた。
「それはよかったわ。…で、今度はそれを踏まえた上で、あなたに提案したいことがあるの」
「提案…ですか…?」
「そう。単刀直入に言うわ。―――イッセー、あなた悪魔になってみない?」
「……は?」
一瞬、先輩は何を言ってるんだ、と思った。聞き間違いじゃないよな?
「俺が…“悪魔”に!?」
「そうよ。私、あなたの力に興味があるの。堕天使たちが恐れるほど神器の力を…。つまりスカウトってわけ。私の眷属としてね」
「眷属って……要するに下僕ってことですよね?それ俺にメリットあるんですか?」
男女のお付き合いとしての下僕なら少し興味がそそられる部分もあるが、悪魔のってなるとなぁ……ただの使い走りで終わりそうな気が。
「まずはあなたの安全面の問題かしらね。今回のことでわかったんじゃない?あなたに秘められた神器を狙う輩が少なからずいるってことが。今回は運よく助けられたけど、次また襲われる可能性だってないわけじゃない。……そうなった場合、私の眷属になればそういう輩からあなたを守ってあげられるわ」
た、確かに…俺なんて先輩たちから見たら所詮ひ弱な人間だしなぁ…。昨日みたいに襲われたら自分を守れる自信ないわ。
「次にメリットその2。悪魔は人間よりも遥かに優れた身体能力や寿命を得ることができる。これはわかるわよね?」
ええ、まあそりゃあ確かに、ただの人間のときよりは強くなれそうですけど……さっきの話では光や聖なる力に対しては極端に弱くなるって聞きましたよ?それってどうなんだ?強くなる代わりに弱点も増えるってことじゃ……。
「なら、最後にメリットその3。悪魔になると出世の道が開けるわ」
「出世?」
「そ。具体的には『爵位』って奴、要は階級ね。私も持ってるわ。これは生まれや育ちも関係するけど、成り上がりの悪魔だっている。最初は皆、素人だったわ」
ほ、本当かな?いまいち信用が……
「やり方次第では、モテモテの人生も送れるかもしれないわよ?」
「ど、どうやって?」
う…、今ちょっと心動かされてしまった。だ、だが…俺はこんなことでは屈しないぞ!き、聞くだけだから…あくまで。
「純粋な悪魔は昔の戦争で多くが亡くなってしまったわ。でも、悪魔という存在は出生率が極端に低いため、急激に数を増やすには素質のありそうな人間を悪魔に引き込む必要があったののよ、下僕としてね」
「…やっぱり、下僕じゃないですか」
「もう、そんな顔しないでしょうだい。話はここから!……ただそれだけでは、下僕を増やすだけで力のありそうな悪魔を再び存在させることにはならない。だから、新しい制度を取り入れることにしたの。力のある転生者―――つまり、人間から悪魔になったものにもチャンスを与えるようになったの。力さえあれば転生者にも爵位を与えようってことね」
な、何ッ!?それじゃ、やり方次第では俺も爵位を!?
「不可能ではないわ。相応の努力と年月がかかるでしょうけど」
―――うおおおおおおおおおおおおおっ!?それって、マジなのか!?だったら夢のハーレムも……夢じゃない!?
一瞬叫びそうになるほどテンションが上がった俺だが、急に冷静になって考えてみた。―――本当に俺にそんな大層な力があるのか?
「……先輩、本当に俺なんかに“力”なんてあるんですか?俺、兄貴と違って取り柄って一つもないし……」
「そうかしら?私にはあなたがただの凡人で終わるようには見えないわよ。あなたのお兄さんと同じくね」
「…っ!? やっぱりアタル兄をご存じで?」
「ええ、同じクラスですもの。確かに、彼は凄いわね。知・力・心・名声、どれをとっても文句の付けどころがない。……正直、彼も誘いたかったわ」
「……だったら、俺なんかより兄貴の方がよっぽど先輩の眷属に相応しいですよ」
つい、心にもないことを言ってしまう。ああ、まだ俺は心のどこかでアタル兄に嫉妬してたのか……。
こんな醜い自分が厭になる。本当に俺なんかが先輩に相応しいのだろうか―――ついそう思ってしまう。
でも、そんな俺に先輩は真剣な眼差しで言い聞かせるように語り掛けてくる。
「馬鹿なこと言わないで。彼には彼の、あなたにはあなたの良さがあるの。彼が完成された宝石なら、あなたは磨けば光る原石―――これから成長すれば化ける可能性だってある!」
力説する先輩の熱意に俺は大分心を揺り動かされていた。―――やめてくれ。美人にここまで期待されたら……つい応えたくなってしまう。
「……少し考える時間を下さい。もしこの話を受けたら人間辞めるわけですし、多少未練もあるんで」
「ええ、もちろんよ。あんなこと言ったけど、私もあなたに転生を強制するつもりはないわ。ただ、これだけは忘れないで。あなたが思ってる以上に、あなたのことを買っている者もいるってことを。私みたいにね」
そう言って微笑みかえてくるグレモリー先輩。やっぱり美少女の笑顔は絵になるなぁ…。
「…そうだ。もう一つお願いがあります。この話を受けるかどうかについて、うちの兄貴に事情だけでも話したいんですけど、構いませんか?」
「……理由を訊いてもいいかしら?」
そりゃそうだよな。自分たちの秘密を一般人に話すって言ってるんだ。簡単に許可できることじゃない。
―――でも、先輩たちには申し訳ないが、この条件だけは譲れねーんだ。
「…俺、昔からどうしてもアタル兄にだけは隠し事ってできないんです。昔、アタル兄と約束しました」
『自分で決めた道なら俺はそれにとやかく言うつもりはない。おまえはおまえの道を突き進め。…その代り、それを一人だけで背負うような真似だけはするな。もし弟のお前が道を間違えたとき、その道を正してやるのが兄である俺の役目だから…』
「……だから、俺はこのことを例え親には隠しても、アタル兄にだけは黙っているわけにいかないんです!―――男と男の、約束ですから」
「そう…」
俺の言葉に、先輩も仕方ないわね…といった感じで肩を竦めた。
「いいわ。あなたのお兄さんは信用のおける人物だもの。特別に許しましょう」
「部長、よろしいんですか?」
木場の奴が不安そうに先輩を見てる。
「心配しなくていいわ、裕斗。イッセーのお兄さんは他人の秘密をむやみやたらに口外するような人じゃないわ。それに第一、こんな話普通の人間は信じないわよ?」
「確かにそうですわね」
「私も、部長に賛成です」
どうやら、多数決で俺のお願いが聞き届けられるようだ。やったぜ。
「じゃあ、俺はこの辺で失礼します。明日までには答えを出しますから」
「ええ、今日はもういいわ。気を付けて帰りなさい」
俺は先輩に別れを告げ、その場を退席した。
◆◆◆
SIDE リアス
イッセーが立ち去った後、朱乃から怒涛の質問攻めにあい、今ようやくそれが終わってメンバーも解散したところだ。
最初なんで
兵藤中くん……いいえ、もうアタルと呼ばせてもらうわ。あなたもなかなか隅におけないわね。
あの朱乃が、あんなに表情をコロコロ変えるのを見るのは何年ぶりかしら。普段はおっとりした隠れドSだけど、あの子も立派な乙女だったってわけね。何だか、少し羨ましいわ。
…けど、正体が
「……それにしても、流石は兄弟。お互いに似るところは似るのね。イッセーもあなた同様に“漢らしい子”だったわよ、アタル。ちょっとスケベなとこはあったけど」
私はこの場にいない
―――思い出されるのは昨日
お互いに自分の正体について明かした後、彼にもイッセー同様、眷属にならないかと誘ってみた。
人間の身でありながら堕天使を単独で打ち倒すほどの戦闘力(彼はあれは『超人』としての力だと言っていた。私も超人という種族は始めて聞いたけど、なんでも私たち『悪魔』と同様、人間を超越した力を持つ存在らしいわ)。そして一度死んだ人間を生き返らせるほどの治癒能力―――これだけでも眷属として十分欲しくなる人材だ。勧誘するのも当然。
―――でも、彼から帰ってきた答えは……「否」。
「理由を訊いてもいいかしら」
その時点でまだ彼のことを諦めきれなかった私はダメもとで尋ねてみた。
すると、彼は私の眼を真っ直ぐ見つめながら、こう返した。
「……俺のこの力は、この世の罪なき人々の平和を守るため、そして俺の愛する家族を守るために使う、―――そう誓った。だから、君のその誘いに乗るわけにはいかない」
彼のその姿に、私は、自分の信念、それを貫き通す“漢”の生き様を見たわ。
私も不覚にもちょっとドキッとしてしまった。だってこんな人は今まで私の周りにいなかったもの。
「そっか…振られちゃったわね」
これは何を言っても、梃子でも動かないわね、きっと。そう確信した私は彼の引き込みを断念せざるを得なかった。
「じゃあ…この弟くんの方はどうかしら?」
私は倒れているイッセーの方に視線を移した。
「……それはわからん。こういう事態になったからな。君が
「あら、意外ね。私はもっと心配するのかと思っていたわ」
「こいつはこれでも、もう一端の“男”だ。そろそろ俺の元を離れ、自分一人の力で立ち上がる時期に来ている。俺はそう思っている」
「……そこに自分が口を挟んだら、それは成長の妨げになるだけ―――そう言いたいのね」
「ああ……」
私の言葉に頷き返した
「もしも…あいつが自分の選んだ道の途中で、自身の力でどうにもならない困難に直面したときは…そのときこそ俺の力が必要になるときだ」
「だから、グレモリーさん。今はまだ、俺の正体は君の胸の中だけにしまっておいてほしい。イッセーに危機が訪れたとき、それを助けるのは“兄”としての俺ではない。“ソルジャー”としての俺だ」
影ながら弟を助ける……か。あなたも結構難儀な性格してるのね。
「…自覚している。俺は不器用な男だからな……こういう形でしか、
苦笑しながら答えた
そう言ったら、彼が少し驚いた表情で私を見ていた。さっきの仕返しが出来たみたいでちょっと嬉しかったのはここだけの秘密。
「さて…イッセーは一体どんな答えを出してくるかしら」
教室から覗く月を眺めながら私は明日を待ち遠しく感じる。あの子ならきっと自分の出した結論に絶対後悔はしないはず…。
「それにしても、あの兄弟を見てると『傷の舐め合いだけが兄弟愛じゃない』―――不思議とそう思えてくるわね」
それに比べてうちのお兄様ときたら……私のことを未だに「リーア、リーア」と。ハア……彼らの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
私は一人溜息を吐いていた。
◆◆◆
一誠がオカルト研究部―――略してオカ研の者たちとの会談から自宅に帰ると、ちょうど旅行から帰ってきた両親と、朝から姿が見えなかった兄が出迎えてくれた。
こんな時間までどこに行っていた、と心配する両親を、「ちょっと部活に勧誘されててその見学に」と誤魔化した一誠。その際、小声でアタルにのみ「後で話がある」と耳打ちしてその場はどうにかやり過ごした。
夕食を食べ、各々が自分の部屋に戻っていった頃、一誠はアタルの部屋の扉の前にいた。ノックをすると「入れ」というアタルの声が聞こえ、部屋に入る。
「俺に話があるとのことだが…」
「ああ、実はさ……」
アタルが話を切り出したところで一誠が今までの事情を一通り説明した。
自分が悪魔であるリアスに助けられたこと。そして今、彼女が率いる『オカルト研究部』に悪魔として参加しないか誘われていること。
それらの話をアタルは両眼を閉じた状態で黙って聞いていた。
そして、一誠が話し終えると、アタルはゆっくりと瞼を上げ、「そうか…よく話してくれた」と漏らした。
「―――俺からは何も言うことはない。おまえの選ぶ道だ。おまえ自身で決めなさい」
アタルから言われたのはそれだけだった。
兄の伝えたいことを察した一誠も、それ以上何も言わず、「邪魔したな」とだけ告げて部屋を出ていこうとした。
だが、その背に向けてアタルが最後に二言だけ言い残した。
「……辛いことがあれば、いつでもここに帰ってこい。どんなことがあろうと俺だけはおまえの味方でいるつもりだ」
「……」
一誠は振り返らずに部屋を出ていく。だが、自然とその頬に光る何かが伝っていた。
(やっぱり、あんたは最高の兄貴だぜ……アタル兄)
一誠は、自分の目元を拭うと、心の中で自分の決意を新たにした。
(俺、【悪魔】になるよ。これまでの自分を少しでも変えるために。―――そしていつか、アタル兄に追いつくために)
―――今宵、一人の少年が、真の“漢”へと近づくための第一歩を踏み出した。
ちなみに、リアスは兄さんが異世界から来た存在だということまではまだ知りません。
超人という存在も神器としての能力程度にしか捉えていません、今のところは。
さて、今回は随分長々と書いてしまいましたが、一応今作品におけるアタル兄さんの立場を明確にできたかな?と思います。(展開が無理やりだった感は否めませんが…)
やっぱり、兄さんは影から主人公勢を見守るポジションが一番似合う!(でも出番は多め)―――そう思う半熟たまごでした。
あと、ここの一誠くんは、お兄ちゃん大好きだけど、同時に少しコンプレックスを抱えている悩める弟キャラ路線で行く予定。彼の成長する過程もこの作品で描けたらと思います。
……では、また次回をお楽しみに。(更新はゆっくり~ですが)