業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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今回は一見するとギャグ回…みたいな感じになるのかなぁ…。
例に洩れずアタル兄さんが説教臭いですが、どうか寛大な心でご覧ください。

では、どうぞ!


イッセー悪魔になる!? の巻

SIDE アタル

 

 

イッセーが襲われた日から数日が経った。

俺はあの日、クラスメートであるリアス・グレモリーと出会い、彼女の、そしてこの世界の秘密を知った。

 

―――まさか、グレモリーが悪魔だったとはな…。

 

俺が持っている悪魔のイメージというと、やはりあの“悪魔超人”たちの印象が強い。そのせいか、見た目が人間とほとんど区別がつかない彼女が自分の正体を明かしたときは、逆に違和感を覚えたものだ。

もっとも、その違和感もグレモリーが実際に背中の翼を披露してくれたことでいくらか解消された。そう言ったら、彼女が少し複雑な表情をしていたのを思い出す。

 

―――それにしても、【悪魔】と【天使】、それに【堕天使】か……人間の知らないところでそんな争いがあったとは。これでは前世の世界とさほど変わらんな。

 

ふと俺がまだ超人だった頃の世界を思い返す。あの世界でも、我々超人は【正義(せいぎ)超人】、【悪魔(あくま)超人】、【完璧(パーフェクト)超人】の3陣営に分かれて凌ぎを削っていた。

そして正義超人側として矢面に立って戦っていたのが、かつての我が弟スグルだった。スグルはどんな強敵相手にも自分とその仲間たちとの“友情”によって乗り越え、そして最後には戦った敵とさえも“友情”を結んでしまう、不思議な魅力を持った男だった。

斯く言う俺も、あいつのおかげで“正義”の心に目覚めたようなものだ。あいつの試合を影から見守るうちに、俺もいつしか“友情パワー”の素晴らしさに魅せられていた。

そんな弟、スグルの活躍があったからこそ、かの超人タッグトーナメントの後は3陣営の勢力図も“正義超人”が優位な状況になりつつあったのだ。あの邪悪の5人の神々が現れるまでは―――。

 

……おっと、少々脱線してしまったな。話を戻そう。

とにかく、グレモリーの話によれば我々人間の社会の裏側ではこうした人間以外の種族が大昔から血で血を洗う争いを繰り広げていたが、長年にわたる戦争でどの各陣営も疲弊し、現在はお互いに睨み合いを続けている「3竦み」の状態で均衡を保っているという。

 

―――なるほどな。つまり、表だって事を荒立てることができなくなった代わりに、先日のように陰でコソコソ動き回る連中が現れたということか。

そんな醜い小競り合いに、一時的にとはいえ我が弟イッセーが巻き込まれ、犠牲になった。―――その事実に俺は今でも怒りを感じずにはいられない。

正直グレモリーから「イッセーを眷属にしたい」と聞かされた時も、内心では複雑な想いだった。それでも彼女の好きにさせたのは、「悪魔」としての彼女ではなく、「リアス・グレモリー」個人の人柄を信用したからだ。

それに、ある意味では(イッセー)が成長する良い機会だとも思った。

―――以前からあいつが俺に対し劣等感のようなものを持っているのは、俺も薄々感じていた。

勿論、イッセーが俺に劣っているなどということは決してない。あいつはスグル同様、大切な誰かのために自分の身を投げ出し、そしてその者のためなら自分の限界以上の力を出すことができる人間だ。

その“優しさ”と“勇気”こそ、他のどんな優れた力よりも尊いものだと俺は思っている。それをあいつにも知ってほしかったのだが……こればかりは、俺が口で伝えたところで意味がないだろう。

だからこそ、彼女とその仲間たちとの触れ合いの中であいつ自身がその大切さに気付くこと―――俺はそれを願っている。

 

―――話が長くなってしまった。どうやらイッセーの奴も、昨晩の俺との話し合いでグレモリーの眷属として悪魔になる覚悟を決めたようだ。おそらく、今日にでもグレモリーのところで「転生の儀式」とやらをしてくるに違いない。

……フッ。せっかくの弟の門出の日だ。今晩のおかずは少し豪勢にしてやるか。―――何だかんだ俺も存外、自分の肉親には甘くなるらしい。

そう思い立ってすぐ、夕飯の材料を買いに行こうとした矢先、イッセーがオイオイ涙を流しながら俺の部屋に駆け込んできた。

 

「アタル兄~~~ッ!」

 

……一体何があった?

 

「アタルにぃ……おれ…おれ…」

 

泣いてちゃ何もわからんだろうが。

そう思いながら困り果てていると、ふとイッセーの左腕に赤色の籠手らしきものが装着されていることに気付く。

…もしやこれがイッセーの神器か。俺も神器に関しては素人も同然の知識しかないが、それでもこの籠手からは何やら凄まじい力を秘めているような感じがする。

 

「イッセー、この左腕は……」

「あ、それ……昨日話した俺の神器ってやつらしいんだけどさ…問題はそっちじゃなくて……」

 

そこから先を言おうか一瞬迷っているようにも見えたが、覚悟を決めたのか、イッセーが前髪を上に掻き揚げて俺に自分の額を見せた。

それを見た瞬間、俺は言葉を失った。

 

「そ、その額の模様は…!?」

「やっぱり!アタル兄もおかしいって思うよな!?何なんだよクソッ!オカ研のみんなには笑われるし、最悪だァ~ッ!!!」

 

再び膝を抱えて落ち込んでしまったイッセー。だが、俺が驚いていたのはそんな理由ではない。

 

イッセーの額に浮かんでいた模様―――それは、我々キン肉族が誇りとする『肉』の文字と全く同じであったのだから。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

SIDE イッセー

 

 

今日、グレモリー先輩に悪魔になることを告げるためにオカ研に寄ってみた。

先輩は俺の返事にえらく満足してくれたみたいで、両手を握りながら「これからよろしくね、イッセー」なんて声をかけてもらった。

そのあと、早速部員全員を集めて改めて自己紹介をした。

木場はまあ無視するとして……朱乃さん(本人から名前呼びでいいと許可をもらった)は御淑やかに「ウフフ、よろしくお願いしますわ」なんて言ってくれたけど、小猫ちゃんの視線がその…冷たかった。

―――やっぱり、昨日の印象が相当悪かったみたいだな。これは仲良くなるまで時間がかかりそうだ。

 

「じゃあ、早速イッセーには悪魔転生の儀式を受けてもらうわ。…といっても、方法はすごく簡単なんだけどね」

「どうするんスか?」

「これを使うのよ」

 

先輩……じゃなかった。これからは「部長」と呼ぶように言われたんだっけ。え~と…部長が取り出したのは、その髪の色と同じ紅い……チェスの駒?だった。

 

「それは?」

「これは『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』っていうチェスの駒を模した、人間などの種族を悪魔に転生させるため道具よ。これを身体に埋め込むことによってあなたは私の眷属となり、下僕としての特性を得るの」

「特性…?」

「それはまた後で説明してあげるわ。今はとりあえず、これを使えばあなたは私たちと同じ悪魔になるとだけ言っておくわ」

 

そう言って、部長は駒を俺に近づける。先輩の身体を紅い光が覆ってるけど、それってもしかして『魔力』ってやつですか!?

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、兵藤一誠よ。いま我の下僕となるため、悪魔と成れ。汝、我が『兵士(ポーン)』として、新たな生に歓喜せよ!」

 

駒が紅い光を発しながら俺の身体に入っていく。ううむ……なんつーか、見てて気分が悪いなこういうの。体に異物が入ってくる、みたいな?

ところで、儀式ってこれで終りなのか?何か拍子抜けだなぁ…って思いながら部長の方を見ると、凄く驚いた表情をしている。

 

「嘘…『兵士』1個じゃ足りないですって!?これはひょっとして……」

 

そう言ってさっきと同じ形の駒を次々と取り出しては俺の身体に入れていく。…え?何?どういうことだ!?

 

「驚いた……まさか、『兵士』を全部使い切るなんて」

「これはとんでもない逸材かもしれませんわ」

 

部長と朱乃さんが驚きを口にするが、俺は何のことやらさっぱりわからない。

 

「イッセー、気分はどう?」

「えっと…特に変化は……あ、いや。ちょっと体が怠いかなぁ?」

「まだ日も出てる時間帯ですもの。夜型の悪魔にとってはそんなものでしょうね。でも、転生は成功したわ。背中をごらんなさい」

 

部長に言われ、背中越しに見てみれば、俺の背中から黒い翼が生えていた。マジか……俺、本当に人間やめちまったんだなぁ。

 

「…そういえば、さっきは何であんなに驚いてたんスか?」

「人間を悪魔に転生させるとき、この『悪魔の駒』を使うのだけれど、通常の転生なら1個の駒で十分なところを転生者の能力次第では駒を通常より多く消費しなくてはならない場合があるの。イッセー、あなたの場合、悪魔にするのに『兵士』の駒8個全部必要だったわ。この意味が分かる?」

 

え…?それってつまり、俺にそれだけの価値があるってこと?

 

「そういうこと。……だとするとイッセー、あなたの神器はもしかするととんでもない代物かもしれない。ちょっと興味が出てきたわ。この場で神器の出し方も教えておきましょう」

 

おおっ、マジですか!?ついに俺の神器ってやつが出てくるのか。一体どういうのなんだろう。

 

「イッセー、手を上にかざしてちょうだい」

 

部長の指示通り左腕を上に上げる。

 

「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」

 

い、一番強い存在かぁ……こういうのってやっぱり好きな漫画とかアニメの主人公思い浮かべるもんなのだろうか。だとすると、「ドラグ・ソボール」の空孫悟とかかな?

そこまで考えて、俺の頭にふとアタル兄の顔が浮かぶ。

 

―――ああ、そうか…身近にいるじゃねえか。いろんな意味で誰より“強く”て、そして誰よりも“優しい”自慢の兄貴(ひと)が。

 

「…できたかしら?そしたらその人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」

 

俺は想像してみる。アタル兄が一番強く見えるのってどんなときだ?正直該当する場面があまりにありすぎてなかなか一つに絞れない。

 

…そういえば、アタル兄の数少ない趣味の一つが格闘技だった。特にプロレスの技に何故か滅茶苦茶詳しくて、ガキの頃は俺もよくアタル兄に技を教えてもらったりしたもんだ。

でも大分昔の話なので、正直記憶があいまいな部分も多い。……いや、それでもたった一つだけ俺でもはっきり覚えている技がある。

 

あれは確か、アタル兄が珍しく一人だけで森の中で特訓していたときだった。あのとき、アタル兄は技をかけるための練習用人形を抱え、高い木の上に立っていた。

これから何をするんだろうと樹の陰に隠れて様子を伺っていた俺の目の前で、俺はあの技を目にした。

人形の頭の部分を下にしたいわゆる逆さの体勢に抱えたまま木の上から飛び降りるアタル兄。そして落下しながら、頭上に掲げた人形の両腿を手で掴み、首を自分の肩口に乗せる。最後に空中からその体勢のまま尻餅をつくように着地。

すると着地の瞬間、その衝撃で人形の首、背骨、両側の股の部分がバキバキッと音を立てて折れた。

―――俺がそれまで見たこともない技だった。しかも、フォームが滅茶苦茶カッコよかった。―――俺はいつの間にやら隠れていたことも忘れてアタル兄の元に駆け出していた。

『アタルにぃ!さっきのあれ、なんて技なの!?おれにも教えてよっ!!』

あのときはいきなり俺が現れたんで、びっくりしたアタル兄が、『見ていたのか…』って困った顔をしてたけど、それでも俺がしつこく喰らいつくもんだから遂に根負けして教えてくれたんだっけ。

『あの技は…名を“キン肉バスター”という。俺にとって、最も想い入れのある技の一つだ』

どこか昔を懐かしむかのように言っていたアタル兄の表情の意味は、ガキの俺にはわからなかった。あの後、考えもなしに『おれにもできる!?』なんて訊いたりしてたのが恥ずかしい。あのときはアタル兄に『今のお前には無理だ』って優しく諭されたのを今でも覚えている。

 

「イッセー?ちょっとイッセー?何を考え込んでるの?」

 

…あ、いけねっ!つい昔の思い出に浸ってしまった。部長を心配させてしまったらしい。

 

「だだ大丈夫、大丈夫ですっ!ちょっと昔を懐かしんでただけなんで。―――それで、このあとどうすればいいんです?」

「まったく……そしたら、その人物の一番強く見える姿を真似るの。強くよ?軽くじゃダメ」

 

う、嘘だろ…まさかこの歳になって人前であのポーズをやる羽目になるなんて……。ガキの頃なら嬉々としてやってただろうが、今の俺には…その…恥ずかしすぎる。

 

「ほら、早くなさい」

 

部長が俺を急かす。ほ、本気なのか!?本気であれをやらせるつもりなのか……!?

―――ああもうっ! だったら覚悟決めてやるよ。やればいいんだろやればっ!!

 

「わかりました。……部長、ちょっと脚立を借りてもいいっスか?」

「え…ええ、いいけど」

 

俺が要求したものに流石の部長も困惑している。そりゃあそうだろうな。でも、あの技の再現にこれは必要不可欠なのだ。

俺は脚立を部室の比較的広いスペースに立てると、その最上段まで登っていく。そして、最上段に立つと何もない空間に見えない架空の相手を想像してそれを肩口で逆さに持ち上げるポーズを取る。

―――き、気まずい…。相手がいないとこんなに恥ずかしい技だったのか。皆の視線が完全に俺に集中しているし、今更やめますなんて言えない雰囲気だぞ!?

俺の両足が緊張で震える。―――ええい!何をビビってるんだイッセー。おまえは前の自分から変わるんだろ?だったらこれしきのこと、乗り越えられなくてどうする!

自分を叱咤した俺は、その勢いのままに脚立から飛び降りる。

 

「キン肉バスターッ!!!」

 

想像の中の相手の両腿を抱え、首の部分を肩で支える。そしてそのまま床に尻から着地する。

 

 

<ドタァァン!!!>

 

 

着地の瞬間、尻から背骨にかけてジンジン痺れるような感覚が走った。こ、この技…技をかける方にかなりダメージがくるじゃねえか!?こ、こんなの想定外だ!

声にならない痛みを感じながらも何とかそれを顔に出さないようにして周囲の反応を見る。

部長と朱乃さんはどこか呆気にとられた感じの表情。小猫ちゃんは相変わらずの無表情で、木場はというと……完全にリアクションに困っている顔だ!?

ひ、ひどい……人にここまでやらせといて、その反応はあんまりだ~ッ!!!

 

「…あっ! イッセーの左腕と額が!」

 

部長…その、「今思い出した~」みたいなセリフ止めてください。地味に傷つきます。

…でも部長の言う通り、『キン肉バスター』を放った後、俺の左腕と額が光りだしていた。

 

―――うおっ!もしかしてこれが神器が出てくる前触れなのか!?

ちょっとワクワクしてしまうのは、男の子なんだから仕方ないよな!

 

光は次第に形を成していき、俺の左腕を覆っっていく。そして、光が止んだとき、左腕には赤色の籠手らしきものが装着されていた。

おおッ!?これが俺の神器か!…何かカッコいいな。装飾がすごい凝ってるし、手の甲の部分にもでかい宝玉が埋め込まれてる……すげえ。

 

「やった!やりましたよ部長!俺の神器、どうです……って、部長?」

 

嬉しくなって顔を上げた俺が目にしたのは、口元を必死に抑えて何かを堪えている部長たちの姿だった。

 

「い、イッセー…そ、そのね……ブフッ!」

「プ…プフフフ…ご、ごめんなさい」

「…いや、あの…プッ!ご、ごめんよイッセーくん」

「……ププッ」

 

おいおい最後!明らかに隠そうとしてなかったよね!?今明らかに俺の顔を見て笑ってたよね?何?俺の顔に何かあんのか!?

皆の反応を見て嫌な予感がした俺は、部室に置いてある大きな鏡の方に視線を向けて……愕然とした。

 

「な、なんじゃこりゃあああああああッ!!?」

 

 

鏡に映った俺の額―――そこには赤い文字ででっかく漢字の『肉』の字が刻まれていた。

 

 

「アハハハ…ッ!!ご、ごめんね、イッセー。でも…もうがまんできないわ」

「クスクスクス…な、なんとも……ユニークな模様ですわね」

「ほ、ホントにごめん。でも…く、クククククッ…」

「……フフッ」

 

 

皆の笑い声が響く中、俺は……心の中で泣いた。

 

「う、うおおお~~~っ! ぶ、部長たちの……ばかぁ―――ッ!!」

「い、イッセー!?」

「ま、待ってください。今のはほんの冗談……」

 

その場に居た堪れなくなった俺は、部長たちが止めるのも聞かず、部室を飛び出した。

 

―――この心の傷をどうにかしてくれそうなのは……もうアタル兄しかいない。

 

そうして俺は、みっともなく涙を流しながら自宅へと駆け出して行くのだった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「アホかおまえは。その程度のことで逃げ出してくるとは情けない」

「で、でもさぁ…」

 

アタルに泣きついた後、まさか正座させられるとは思ってなかった一誠の顔は、捨てられた子犬のように落ち込んでいた。

 

「前にも教えたはずだ。『男の本質は見かけだけで決まるものではない』と。まさか、忘れたわけではあるまい?」

「そ、それは…」

「確かに彼女たちにも非はあるだろう。だが、そんな小さいことをいつまでも気にするおまえもおまえだ。そのような些末事は笑い飛ばすくらいのことはしてみせろ。…男ならな」

 

アタルの声音は低く、そして重苦しいものだった。こういうときのアタルの言うことには本能的に逆らえないのが一誠である。

ますます縮こまってしまった一誠に、アタルは深いため息を吐きながらこう続けた。

 

「……イッセーよ。俺は別にお前に対して怒っているわけではない。「容姿」というやつは表面に出てる分、一番最初に目につきやすく、評価されやすい部分だ。

世の中にはそれで割を食っている人間がいることもまた事実。否定するつもりはない。―――だがな、容姿で人に笑われたからと言ってそれで卑屈になるのは違うと俺は思う」

 

一誠に向ける視線を若干軟らかくしながら、語り掛けるように言葉を紡いでいく。

 

「……俺のとある知り合い(・・・・・・・・・)からな、容姿のことで随分苦労をした弟さん(・・・・・・・・・・・・・・・・)の話を聞いたことがある。その人はな、その顔の醜さゆえに赤ん坊の時に親に豚と間違えられて捨てられ、本人が成人してからやっと現れた両親に迎えられるまでずっと天涯孤独の身の上だったそうだ」

「ほ、本当なのかその話?いくらなんでも話を盛り過ぎなんじゃ…」

「嘘ではない。実際にあった話だ…」

 

といっても前世の世界での話だがな。……とアタルは内心で付け足した。

 

「…その人は街の治安を守る仕事をしていたのだが、やはりいろんな人から自分の容姿を馬鹿にされた。また、少々ドジが多かったこともあって、最初の頃は仕事も失敗が続き、周囲からの評価は低かったそうだ」

 

今のお前のようにな…。

そういうと一誠は何も言い返せなかった。

むしろ、自分よりひどい境遇かもしれない。流石に豚に間違えられた経験はないし、両親にだってここまで大事に育ててもらった。そういう意味では自分の方が何倍も恵まれている。

逆に、その人は周囲の人間を憎んだりしなかったのだろうか。もし自分だったら、きっと八つ当たりでもいいから仕返しをしたに違いない。

 

「だがその人はな、少しばかりお調子者な性格ではあったが、それでも無暗に人を憎んだりしたことは一度もない。例え容姿で馬鹿にされようとも、卑屈になることなく、その町の人々のために働き続けたのだ。なぜだかわかるか?」

 

アタルに問いかけられ、一誠はしばらく考え込んだが答えが浮かばず、首を横に振った。

 

「それはな、その人の心の中に『愛情』があったからだ。自分が暮らす街の人々を愛する気持ち―――それがあったからこそ、周囲に罵られようが自分の職務を全うできたのだ」

「愛情……」

 

自身が言った言葉を反芻する一誠に、アタルは強く頷く。

 

「そうだ。……だが、『愛情』というのは、言葉で言うほどそう単純なものではない。その中には、相手のどんな悪意も許してやれる“寛容さ”、そして例え悪人であってもその者を救ってやれる“慈しみ”の心、これらの要素が含まれている。―――おまえが将来どんな人物になりたいかは知らんが、これだけは覚えておけ。『もし英雄(ヒーロー)になりたいのならば、見せかけのカッコよさだけに囚われるな。心に愛がない者に真の英雄たる資格はない』」

 

アタルはそれだけ言うと、これで説教は終わりだと話を切り上げた。

 

「グレモリーたちには俺から話をしておこう。お互い仲直りをする場が必要だろうからな」

「ごめん、アタル兄……俺、迷惑かけてばっかりだ。変わるって決めたはずなのにな…」

 

気落ちしたままの弟の頭に、アタルはそっと手を乗せる。

 

「このくらいのこと、気にするな。おまえはまだ若い…迷うこともあるだろう。そんなとき、おまえに助言を与えるのは俺の役目だ」

「アハハハ…いうことが爺くさいな~アタル兄は。…だけど、ありがとう。少し元気が出たよ」

 

アタルの言葉に一誠がようやく笑顔を見せた。

やはり、家族は笑っていてくれる方がいい。……改めてそう思うアタルであった。

 

 

 

 

 

 




後日談

アタル「そういえば、その額の文字。神器を解除さえすれば勝手に消えるんじゃないのか?」
一誠 「……ハッ!?確かに!こんな単純なことに何で気付かなかったんだ!これじゃ、今まで悩んでたのが馬鹿みたいじゃねーか!!」
アタル(やはり、ウチの弟は少々頭が弱いのかもしれん…)




…以上。実にほのぼのとしたお話でしたね(?)
原作でイッセー君がイメージした最強の人物を今作品用に改変してみました。やっぱり、一誠君にとってアタル兄さんは偉大なお兄ちゃんなのです。その影響で額に変な文字も浮かんでしまいましたが…これは後々必要になってくるはず。多分。

でも、相手のいないキン肉バスターのポーズって一人でカメハメ波をするより、よっぽどキツイと思います(ビジュアル的に)。
皆さんはどう思いますか?


さて、次回くらいにはまた兄さんの戦闘シーンを入れようと思うので、楽しみにしている方はどうぞお待ちください。




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