業火のSoldier~兵藤一誠の兄~   作:半熟たまご

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間が少し開いてしまいましたがなんとか更新できました。
今回戦闘シーン入れてますが、相変わらず地味です。もっと派手な必殺技を出してほしいという方には少し物足りないかもしれません。
あとはぐれ悪魔バイサーさんの口調が割とテキトーです。ご了承ください。

では、どうぞ!





はぐれ悪魔退治! の巻

 

一誠が正式に悪魔になってから早や1ヶ月。

果たして弟がリアスたちと上手くやれているのか気になっていたアタルは、家に帰ってきた一誠本人から直接話を聞いたり、学校で会うリアスからそれとなく様子を伺ったりしたものだが、それによると今のところは新人悪魔として地道に下積みをしている段階らしい。

まさか、「悪魔が契約を取るために営業回りをしている」と聞いたときは耳を疑ったものだが、どこの業界も世知辛いということなのだろう。

そんなわけで、一誠はここ最近決まって夜遅くに契約を取りに出かけることが多い。しかしいくらなんでも、こう毎日立て続けに夜の外出を両親が許すだろうか、とアタルも当初は危惧していたものだが、そこはリアスが上手く立ち回ってくれたようで、今のところは別段怪しまれずにすんでいる。

尚、一誠の仕事ぶりに関してはリアスからの話によると、まだ契約は1本も取れていないそうだが、反面、依頼者からのアンケートではすこぶる評判がいいらしい。そういうところもまた、どことなくスグルに似ているような気がしたアタルは内心で苦笑を浮かべていた。

 

 

「おそらく今日もあいつは帰りが遅いだろう。―――さて、父さんたちも家にいないし、今晩のおかずはどうするか」

 

学校の帰り道を一人歩くアタル。

アタルは駒王学園に入ってから部活というものに入ったことはない。見た目は高校生でも中身はもう“いい年したオッサン”であるから、今更若者たちと一緒になって青春しようなどという気概が起こらなかったのもある。

しかし、それでも並の運動部員より遥かに運動神経が良いものだから、部員の少ない弱小部からは時折助っ人を頼まれることがある。そういうときはアタルも一時的に練習に参加することもあるのだが、普段はこうして一人で帰ることがほとんどだ。

別にアタルに友人がいないわけではないのだが、帰りも一緒になるくらいの“親友”と呼べる存在とはいまだ出会えていないようだ。

 

「ううむ…冷蔵庫の中身が少し心配だ。買い足す必要があるか……む?」

「はわわ…どうしましょう。また道に迷ってしまいました」

 

考え込んでいたアタルの目の前で金髪の少女がオロオロしている。

服装を見る限りどうやらシスターのようだ。何やら困っている様子だが、外国語を苦手とする日本人の国民性故か、道行く人々の誰も彼女に声を掛けようとはしない。

流石に見かねたアタルは、この少女に話しかけてみることにする。幸い、前世に世界中を周っていた経験で外国語には慣れている。

 

「失礼。お嬢さん、何かお困りかな?」

「はうっ!?」

 

突然後ろから声を掛けられて一瞬少女がビクッとする。そして、後ろを振り返ってアタルの顔を見たとき、その瞳が見開かれた。

 

「あれ…イッセー…さん?」

「む?弟を知ってるのか?」

 

どうやらこの少女、一誠の顔見知りらしい。

 

「イッセーさんのお兄さんだったんですか!?道理で似てると思いました。…あ、私、アーシア・アルジェントといいます!イッセーさんとはこの間知り合って、教会までの道を教えてもらっていたんです」

「そうだったのか。―――俺は兵藤中だ。アタルと呼んでくれて構わない。ところで、君はもしかして道に迷っているのか?」

「あ、はい。そもそも日本に来るのも今回が初めてでして、この街の地理もまだ覚えきれていないんです。この前折角イッセーさんに教会の行き方を教えてもらったのにまた迷子になってしまって」

「なるほどな」

 

言葉も通じぬ異国の地でたった一人で暮らすとなると、それは苦労することだろう。だったら、尚のこと手助けしてやるのが人というもの。

 

「よかったら今度は俺が案内しようか?この街も最近は何かと物騒だ。幸い教会は一つだけだし、あそこならここからでもそんなに遠くないだろう。送っていこう」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

 

アーシアが微笑みを浮かべる。まるで人を疑うことを知らない純粋な笑顔だった。

まだこんな純真な少女がいたことにアタルは内心で驚くと同時に、この世もまだまだ捨てたものではないと感じた。

 

「しかし、イッセーに君のような知り合いがいたとはな……俺にはそんなこと一言も言ってなかったぞ」

「そうなんですか?」

「…ああ。あいつのことだから、君のような可愛い子に会ったらその日のうちに自慢すると思ってたんだが」

「か…可愛いなんて、そんな」

「…?謙遜することはないと思うが」

 

容姿を褒められることに慣れていないのか、アーシアも照れくさそうに顔を朱に染める。それを見てアタルは若干首を傾げるが、結局そこはあまり気にしないことにした。

こうして教会に行く道すがら、アーシアと二人会話に華を咲かせる。彼女が特に聞きたがっていたのは主に一誠のこと。何でも、道案内をしてくれたお礼をろくにしないうちに去ってしまったのでそれが心残りだったようだ。

 

「イッセーのことなら気にしないでくれ。『困っている者には見返りなど求めず手を差し伸べよ』というのが我が家の家訓でな。あいつも礼をされるつもりは最初(はな)からなかったはずだ。君がそこまで気に病む必要はない」

「で、でもご迷惑をかけてしまったわけですし……」

「だったら、次に会ったときにでもあいつと仲良くしてやってくれ。あいつもその方がきっと嬉しいはずだ」

「お、お友達(・・)にってことですか?…わ、わかりました!むしろ私の方からお願いしたいくらいです」

 

勢い込んで返事をするアーシアだったが、その言葉のうち“友達”という部分の語気がやけに強い印象があったのでそれとなく話を訊いてみると、どうやら彼女の生い立ちに原因があるようだ。

彼女は生まれてすぐに両親に捨てられ、孤児院で育てられた。その後教会に連れていかれ、“聖女”として祭り上げられていたそうだが、とある事情(・・・・・)でその教会からも追い出されてしまったという。

 

(どんな事情かは知らんが、酷なことをするものだ……)

 

こんないたいけで信心深い少女を無理やり追い出すとは教会の連中というのは目が節穴なのではないか。そう思わずにはいられなかった。

 

「私…教会の方たちからはよくしてもらいましたし、今更恨んでなんかいません。……でも、あの頃はやっぱり寂しかったです。皆さん私のことを“聖女様”って呼んでくれましたけど、私自身を見てくれた人は……いませんでしたから」

「だから“友達”がほしい、か……」

 

アタルの呟きにアーシアもこくりと頷く。

 

「私、イッセーさんが羨ましいです。アタルさんのような優しいお兄さんがいて、お友達もたくさんいて……私もそんな人たちと静かに暮らしたかった」

「……できるさ。今からだって」

「え…」

 

アタルの言葉に反応して、アーシアが俯かせた顔を上げた。

 

「“友達”を作ること自体はそんなに難しいことではない。ほんの少しの勇気があれば十分だ。―――だが、心を許せる“親友”となると話は別だ。“友達”という種を撒くのは簡単だが、そこから“親友”と呼べる花を咲かすまでは長い年月が必要となる。その途中では困難もあるだろうし、挫折しそうになることもあるだろう。だが、それらの打撃に耐え抜いたときに始めて真の“友情”というものは生まれる」

 

まるで妹に言い聞かせるようにアタルはアーシアに語り掛ける。アーシアもそんなアタルの話に思わず聞き入っていた。

 

「“友達”という種を撒くことは今の君にもできるはず。君が良ければ俺やイッセーがそのきっかけになろう」

「……できるでしょうか。私に」

「…ああ。君がその優しさを失わない限りは。―――そして、その先“友情”という成長の遅い植物を育て上げることができるかは君次第だ」

 

そこまでいうと、目の前に目的地である古びた教会が見えてくる。

 

「…さて、もうすぐそこが教会だ。くだらん説教ばかりですまない。(イッセー)にもよく言われるんだが、どうにも癖でな」

「いえ、とてもためになるお話でした。それにここまで送っていただいてありがとうございます!」

「……何か困ったことがあれば、いつでも俺やイッセーに言ってくれ。“友達”の頼みだ。相談にのろう」

「あ……はい!」

 

アーシアはアタルに深々とお辞儀をするとそのまま教会の敷地に入っていく。

アタルはその背中をしばらくジッと見送っていたが、やがてもと来た道に引き返そうと背を向けた。

 

(それにしても気になるな……この教会はここ10年近く使われていないことで地元でも有名な場所だ。そんな所に今更新米のシスターを派遣する?……しかも、彼女はさっき「それまでいた教会を追い出された」と言っていた。だとすれば、誰が彼女をここに呼んだのだ?)

 

何やらアーシアの周りがきな臭い。そう感じたアタルだったが、結局その場はそれ以上踏み込むことはなかった。

だが、後に彼も弟とともに彼女の身に起こる事件に深く関わることになるとはこのとき思いもよらなかった。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「アーシアです。ただいま戻りました」

 

アタルが立ち去ったあと、教会の扉を開けて中に入ったアーシアは、一人奥の部屋へと進んでいく。

やがてある一室の前で足を止めるとドアをノックして中に入った。

 

「失礼します。レイナーレ様、ご加減はいかがですか?」

「アーシア…随分遅かったじゃない。どこで油を売ってたの?」

 

ドアを開けた先にはベッドに横たわる黒髪の女性―――1ヶ月前、一誠を殺害しようとしてアタルにより返り討ちに会った堕天使、レイナーレがいた。

 

「申し訳ありません。また道に迷っちゃって…」

「またなの?本当に愚図ね。迷子になったら探しに行く私たちの手間も考えなさいよまったく……」

「す、すみません」

 

グチグチ文句を垂れるレイナーレにアーシアが何度も頭を下げて謝る。

やがて、そんな彼女の姿勢に飽きたのか「もういいわ」とレイナーレが切り上げると、「今日の治療を始めてちょうだい」とアーシアに背中を向ける。

 

「わかりました。失礼します」

 

アーシアがレイナーレに断りを入れて、そっと彼女の寝巻を捲り上げ背中を露出させる。その背からは堕天使特有の黒い翼が生えている……はずなのだが、何故か彼女の翼は一般の堕天使に比べて明らかに小さく、羽根の数も少なかった。

 

「くっ…忌々しいわ、あの覆面レスラーめ」

 

彼女の翼をこんな風にしたのは他でもない、ソルジャーに扮したアタルである。

あの日、アタルに両腕・片足を破壊された上に両翼をもぎ取られたレイナーレは命からがらこの教会まで逃げ延びたのだが、彼女の受けたダメージは思いのほか深く、並の薬や治癒魔法ではどうにもならない状態であった。

リーダー格である彼女が再起不能のままではまずいと、部下たちが方々を探してようやく白羽の矢が立ったのがちょうど教会を追い出されたアーシアであった。

彼女はその身に『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という神器を宿していた。これは人間だけでなく、神の加護を受けない悪魔や堕天使といった存在も治癒できる希少な能力だった。堕天使たちはそこに目をつけたのだ。

一方、アーシアも「悪魔まで癒すことができる」という、ただその1点だけで教会から異端扱いされてしまい、行く当てもなく彷徨っていたところを拾われたため、レイナーレたちには恩義を感じていた。そのため、レイナーレの治療をお願いされた時も快く引き受けた。

しかし、脚と両腕の怪我は何とか治せたものの、翼の方はそう簡単にはいかなかった。本来アーシアの『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』の能力はその対象が持っている回復能力を一時的に引き上げることで治癒を促すものである。

したがって、根元からもぎ取られた翼の場合、また一から生えてくるのを待つしかなく、アーシアの力を以てしてもそのスピードを速めることしかできなかったのだ。正直、この短期間でここまで翼が成長できたのでも御の字として良いくらいである。

 

「あの……治療を始めますね」

 

アーシアが両手を翼の方にかざすとその手のひらから淡い緑色の光が発せられ、レイナーレの翼を包み込む。すると、黒翼はゆっくりとではあるが、まるで枝木が伸びるように成長を始める。

だが、ある程度のところまでいくとその成長も止まってしまった。隣を見ればアーシアが額に汗を浮かばせ、大きく息を荒げている。やはり、彼女にとってもこの治療はかなりの負担のようだ。

 

「ちょ、ちょっと!何してんのよ!」

「す、すみません。続けますから」

 

声を荒げたレイナーレに、もたもたしていた自分が悪いのだと咄嗟にアーシアが謝った。だが、レイナーレが怒ったのはそのことではなかった。

 

「……あんた、今無理してんでしょ。もういいわよ、今日はここまでで」

「そ、そんな…わ、私は大丈夫ですから」

「煩いわね!いいから言うとおりになさい。……フン、大体今あんたに倒れられたら私たちが困るのよ」

 

そう言って彼女はプイと顔を背けて服を着なおした。

その様子を見て、アーシアは何を思ったのか顔に柔らかい笑みを浮かべた。

 

「やっぱり、レイナーレ様は優しいですね」

「ハア!?あんた、眼が節穴なの?私が人間ごときに優しいですって?……冗談じゃない」

 

アーシアの言うことにいかにも「心外だ」と言いたいかのようにレイナーレは表情を険しくする。だが、アーシアはそれが彼女なりの照れ隠しだということに何となく気付いていた。

 

「でも、レイナーレ様たちが拾ってくれたおかげで、私はこうして路頭に迷わなくて済みましたし、第一レイナーレ様は今まで私に無理強いは絶対にしなかったではないですか」

「そ、それは……さっきも言ったでしょ。私はあんたを使ってる身なの!道具のあんたが使い物にならなくなったらこっちが損をするの。それだけの理由よ」

 

精々こき使ってやるから覚悟してなさい、と付け足してついにアーシアに背を向けてベッドに横になってしまった。

だが、やはりアーシアにはレイナーレが悪い存在にはどうしても見えなかった。確かに出会った当初の彼女はこちらを人間だからと完全に下に見てろくに口も利いてもらえなかったし、自分も教会で「堕天使は悪しき存在」だと習っていたこともあり、怖くてとても話をする気になれなかった。

しかししばらくして、「いつまでもこの関係は良くない」と思い立ち、自分なりにそれを改善しようと根気強く接しているうちにレイナーレの態度も柔らかくなっていき、今ではこうして会話をするくらいになっていた。

 

(レイナーレ様はとても善い方です……レイナーレ様も私のお友達だったらいいのに)

 

そのとき、ふとアーシアの頭に先程のアタルの言葉が浮かぶ。

 

(『友達を作るのは、ほんの少しの勇気があれば十分』……よし、私頑張ります!)

 

心の中で気合を入れ、背を向けて寝ているレイナーレに向き直る。

 

「レイナーレ様!わ、わわわ私のおおおお友達になってくださぁいっ!!」

 

噛み噛みだったが言えた。アーシアは軽い達成感に包まれた。

 

「いやよ」

 

だが、それはすぐに絶望に染められる。

 

「はううっ!?…な、なんでですかぁ?」

「たかが人間のあんたが私と友達ですって?身の程を知りなさい。大体道具のあんたが私に物申すのがおかしいのよ」

「わ…私は…レイナーレ様ともっと仲良くなりたくて、それで……」

「口答えする気?次余計なこというと……殺すわよ」

 

レイナーレが今まで向けたことのない殺気を込めた視線をアーシアにぶつけてくる。これにはさすがにアーシアも二の句が告げなかった。

 

「……ごめんなさい」

「……もういい。さっさと部屋から出ていきなさい。今日はもうあんたの顔なんて見たくないわ」

 

シッシッと追い払うように手を振り、再びベッドのシーツに包まってしまったレイナーレの様子にアーシアは肩を落としながら退出した。

アーシアが出ていった後、少し間をおいてレイナーレの口からため息がこぼれた。

 

「…何よ。どうしてあんな小娘の言葉に動揺してんのよ、私。―――今更、後戻りなんてもうできないのわかってるくせに」

 

部屋で彼女の呟きを聞くものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

その一方で、アーシアもレイナーレにすげなく断られて落ち込んでいるかと思いきや、そうでもなかった。

 

(アタルさんも言ってました。『友情とは成長の遅い植物である。それが友情という名の花を咲かすまでは、幾たびかの試練、困難の打撃を受けて耐えねばならぬ』―――これもきっと神様が私に与えた試練に違いありません!私これくらいで諦めません!絶対レイナーレ様とお友達になります)

 

意外とこの少女も「一度決めたことにはまっしぐら」な性格をしているのかもしれない。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

アーシアを送った後、そのまま買い物をしていたらいつの間にか日も落ち、外はすっかり闇に包まれていた。

アタルは道に設置された電燈の光だけを頼りに人気の少ない家路を急いでいた。

 

(……予想より大分時間がかかってしまったな。それにしても、今日はやけに静かだ。まるで何かが起こる前触れのよう…)

 

そのとき、アタルの耳に女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「キャアアア―――ッ!!!」

「…!?」

 

すぐさま、声のする方へ急ぐアタル。辿り着いた先は街から少し離れた場所とある廃屋の近く。

現場に足を踏み入れたとき、アタルの鼻が強烈な血の匂いを嗅ぎ取った。そして、目の前にある古びた建物から殺気も感じられる。

 

(何者か知らんが、ここで人の血が流れたことは確かなようだ)

 

緊張に満ちた空間でアタルがジッと身構える。すると建物の奥から何かが近づいてくる気配がした。

ケタケタと異様な笑い声を響かせながら、その何か(・・)は姿を現した。

 

「おやぁ?こんなところにまた美味そうな餌が現れおったぞ?」

 

上半身が裸の女性、そして下半身が巨大な四足の獣である、一見して形容しがたい異形の怪物がそこにいた。その手には長い髪の様なものを握っており、さらにその先を目で追っていくと女性の生首らしきものに辿り着く。

その姿を目の当たりにしたとき、アタルは相手の正体に察しがついた。

 

「……そうか。貴様、グレモリーの言っていた【はぐれ悪魔】とかいう奴だな」

 

【はぐれ悪魔】―――爵位持ちの悪魔に下僕にしてもらったものが主を裏切り、あるいは主を殺して主なしとなる事件がごく稀にあり、その際に主という枷のなくなった悪魔が暴れまわることがある。それが『はぐれ悪魔』と呼ばれる存在だ。

はぐれ悪魔はいわば野良犬と呼べる存在で、『野良犬は周囲に害をもたらす』との考えから、見つけ次第始末するというのが悪魔・天使・堕天使の3勢力間で暗黙のルールとなっていた。

 

「そして、この血の匂いとその生首……貴様ここで一体何人の人間を食ってきた!?」

 

アタルは表情を険しくし、はぐれ悪魔を睨む。だが、相手はその視線を意に介すこともなく、アタルの前に持っていた生首を投げ捨てながら言い放った。

 

「そんなもの覚えているわけがなかろう。それとも何か?お前は自分の食ったパンの枚数を覚えているのか?」

「貴様…ッ!!!」

 

相手の、まるで罪悪感の欠片も感じていない返答を聞いたとき、アタルの中で怒りの炎が燃え上がった。

 

「……貴様は…絶対に許さん!!」

「フフフ…人間ごときがデカい口を叩きよる。久しぶりに生きのよさそうな餌だ。このバイサーが喰ろうてくれる!」

 

バイサーと名乗ったはぐれ悪魔はそのままアタルの頭上からその巨大な足を振り下ろした。アタルは咄嗟に後ろに跳んで攻撃を回避する。

 

「思ったよりすばしこい……だが、無駄だ」

 

バイサーの呟きとともに蛇の姿をした尾がアタルのどてっ腹に襲い掛かる。アタルは驚きに目を見張りながらも即座に腹をガードするが、その上から叩きつけられた尾の威力はすさまじく人間であるアタルをあっさり吹っ飛ばしてしまった。

飛ばされたアタルの身体は廃屋の壁を突き破りそのまま建物の中へと消える。

 

「ケタケタケタ……これはうっかりした。力加減を間違えてしまったか。これではあの餌もぐちゃぐちゃに潰れてしまったかな」

 

所詮餌は餌でしかない。はぐれとは言え、悪魔である自分に歯向かえるわけがないのだ。

そう言わんばかりに笑い声を上げるバイサーだったが…

 

「……何がそんなにおかしい」

 

突如建物の中から聞こえてきた声に思わず口を噤んだ。先程とは比べ物にならないほどの殺気、いや覇気と呼べるものがそこから感じられた。これにはさしものバイサーも知らず知らずのうちに、顔に冷汗を浮かべる。

やがて、建物の奥からさっき吹き飛ばした少年とは似ても似つかない全身筋肉質の覆面男が現れた。

 

「な……なんだおまえは!?」

 

始めて声を荒げたバイサーに、覆面の男―――アタルが答える。

 

「貴様を退治しに来た…正義の味方、とでも言っておこう」

 

そういうとアタルは一歩ずつバイサーの方へ近づいていく。その隙の無い歩みを見てバイサーも相手が只者ではないことを悟ったのか、再びその強靭な四肢を奮って暴れだした。

 

「おのれぇ…小賢しいわぁぁぁぁ!人間ごときがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

アタルを踏みつぶさんと振り下ろされる前足。だが、アタルはそれを両腕で正面から受け止める。

 

「フンッ!」

「な、なにぃぃぃぃぃっ!?」

 

アタルによって止められた足はピクリとも動かない。いや、むしろ逆に押し返されている感じすらしている。

ただの人間のどこにこんな力が……バイサーの頭は混乱の極みに会った。

 

「どうした!自慢の巨体は見かけ倒しか?」

「なにをぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アタルの挑発に乗せられ前足に自身の全体重をかけて潰そうとするバイサー。すると、アタルは急に両腕の力を緩め、ブリッジするかのように勢いよく上体を後ろに反らせる。

バイサーが釣られて前のめりになったところで、その勢いのまま相手の膝裏にサマーソルトキックを放った。

ガキッという音が鳴り、バイサーの前足の膝が歪な方向に折れ曲がってバランスを崩す。

 

「なっ!?」

 

倒れそうになったことで驚くバイサーに、アタルは跳びあがってサイドから後頭部に腕を回し、そのままヘッドロックした状態で落下する。

 

「ブルドッキング・ヘッドロ――ック!!!」

 

バイサーはろくに受け身も取れぬまま、顔面から地面に強かに打ち付けられた。

 

<ダァァァンッ!!!>

 

 

「ガアアアッ!!?」

 

 

突然顔面および首を襲った強烈な打撃でバイサーの意識が一瞬で吹き飛ぶ。

だが、アタルの猛攻はこれで終わらなかった。

 

「フン!……うおおおおおおおっ!!!」

 

俯せに倒れた相手の首に両腕を回して脇に抱え込み、今度はその巨体を豪快にも『フロントネック・チャンスリー・ドロップ』で投げる。

アタルによって放り投げられたバイサーの5メートル近い体が宙に舞う姿はまさに圧巻の一言だ。

 

<ズドオオオオオンッ!!!>

 

 

「グハァッ!?」

 

 

まさか自分が投げられるとは思っていなかったバイサーは背面から落ちた衝撃に対応できなかった。

背骨を打った瞬間、全身のいたるところで電流のような痺れが走り、さらに着地の衝撃で肺から空気がすべて吐き出されて、一時的な呼吸困難にも陥った。まさに彼女が巨体であるがゆえに起こってしまった悲劇という他なかった。

 

 

「はぐれ悪魔バイサー!あなたを消滅しに……来た……わ?」

 

いつの間にか地面に浮かび上がっていた魔法陣からは新手の悪魔……いや、リアスたちオカルト研究部の面々が姿を現した。

彼女たちも上からの依頼で今回この「はぐれ悪魔退治」に出向いていたのだが、踏み込んだ現場には既に先客がおり、しかも彼女たちが目にしたのはたった一人で目当ての悪魔を蹂躙している謎の覆面男の姿であった。

 

「ぶ、部長……何か、覆面レスラーがいますけど?」

「…嘘でしょ?なんで彼がここに!?」

「あの巨体を…投げ飛ばしてる……」

「……凄いパワー。(私とどっちが上なんだろう?)」

「あ…ああ……本当だった……本当に…あのソルジャー様だわ!」

 

 

 

三者三様の反応を見せる彼らを他所に、一息入れたアタルは今やっとその存在に気付いた様子で振り返った。

 

「……どうやら、やっとお出ましのようだな。諸君」

「……本当、お久しぶりね。ソルジャー」

 

かつてキン肉アタルであった頃に戻り、年長者としての態度で臨むアタルに対し、リアスは顔に動揺を滲ませながらも軽く睨みつける。

今、彼らの間で望まずして一触即発の空気が流れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




アーシア嬢初登場。
そして展開が少し駆け足かな?という感じが否めませんが、一応今回リアス眷属たちと初顔合わせという形にしました。

戦闘シーンで今後も突っ込みどころが多くなると思いますが、そこは「ゆ○だから」みたいなノリでお願いします。

ちなみに、「友情は成長の遅い植物である~」のフレーズは、キン肉マンのなかでも一番好きな言葉の一つです。どうしても使いたかったんだ~!
……用法は若干違うかもしれませんが、そこはまあスルーで(苦笑)。

では、また間が空くかもしれませんが、次回もお楽しみに。


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