深海の都の話   作:林屋まつり

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二話

 

「驚愕の事実っぽい」

「まあ、そうだろうね」

 言仁くんは苦笑、まさに、いろいろな意味で驚愕の事実っぽい。

 都がある。見た事もない都。……まあ、泊地からほとんど出た事ないっぽいから、普通の町なんてほとんど見た事ないけど。

 けど、驚きはそれだけじゃないっぽい。都を淡く満たしているのは青い光。なんなのか、よくわからないけど、

 都を満たす淡い青の光。そして、遠くに見えるのは、物凄く大きな樹。

 えっとー、……とにかく、夕立は見た事もないところにいるっぽい。……そして、一番の問題は、

「今日は椿の家に泊まるのですっ」

「え、……電は山茶花のご飯が食べたいのです」

 ……なぜか、異様な姿をした電が二人。…………いや、もう、いろいろなところがおかしいっぽい光景。

 なんで電が二人いるの? とか、なんか、片方の電、足が蛇っぽいとか、椿と山茶花って何? とか。

「…………タイミングって面白いね」

「いや、ちょっと待つっぽい。

 今の、電、っぽい?」

「そうだよ」

「…………二人、いたっぽい」

「ああ、椿と山茶花ね。電はこの都に二人いるから、とりあえずそうやって呼び分けてるよ。

 足が蛇みたいなのは椿で、もう片方の電が山茶花ね」

「…………なんで、足が蛇?」

「深海棲艦だから、で納得してくれる?」

「…………は、半分は」

 確かに、夕立が見た事がある深海棲艦はいろいろと形が異形っぽい

 電の、蛇みたいな半身だけを見て深海棲艦だといわれれば、なんとか納得するっぽい。……けど、

 上半分は普通に電だったっぽい。

「深海棲艦にも色々いるんだよ。

 君たちが戦っていた深海棲艦は異形化の度合いが深刻だった。っていう事。そうそう、深海棲艦って艦娘がなった存在って知ってる?」

「それは、…………なんとなく、予想してたっぽい」

「そう、なら、いま歩いていた電が軽度、君たちが戦っていた深海棲艦が重度。それが一番わかりやすいかな、表現としては」

「確かに、解りやすいっぽい」

 どこまで納得していいかわからないけど、……ふと、

「じゃあ、ここって本当に深海?」

「そうだよ」

「……なんで、都があるの?」

「創ったから」

「誰が?」

「僕が、……まあ、豊浦とかにも協力してもらったけど」

「なんで?」

「なんとなく」

「…………おーけい、ちょっと整理が必要っぽい」

「うん、……そうだね」言仁くんはあたりを見て「混乱されても困るし、長くなりそうだからどこかで腰を落ち着けて話す?」

「それがいいっぽい」

 

 小さな家に到着。

「この家も、艦娘? 深海棲艦? が暮らしているっぽい?」

「そうだよ。深海棲艦だね。

 一応、艦娘のころの記憶とかもあるし、いきなり襲いかからないでよ」

「それは、さすがにやらないっぽい」

 ここに来る途中。深海棲艦にあった。声をかけられた事もあった。

 一部、異形となっている部分はあったけど、それでも、普通の艦娘っぽい。

 そして、戸を叩く。

「そういえば、家、っぽい?」

「うん?」

 首を傾げる言仁くん。

 けど、家、かあ。

 当たり前だけど、艦娘に家が与えられる事はない。与えられるのは宿舎の一室。

 それでも特に不便はなかったけど、……家、かあ。

「ふぁーい、ダレデスカー?」

 眠そうな声が聞こえた。苦笑。

「金剛、言仁だよ」

「ひひゃいっ? て、てて、て、テイトクっ?

 ちょ、ちょっと待ってっ、待ってクダサイっ!」

「大した用事じゃないし、忙しいならいいよ?」

「Noっ! すぐ終わるから待ってっ! 帰ったらダメデースっ!」

 ばたばたと音。そして、がんっ、と音。

 続く声は悲鳴を噛み殺したような音。…………なんか、大変っぽい。それより、「提督? 言仁くん、提督さんっぽい?」

「いや、愛称みたいなものだよ。

 僕は海戦なんて知らないし、そういうのは御爺様が詳しかったんだよね」

 …………ふと、物凄い違和感を感じた。

「貴方は、なに、っぽい?」

 深海棲艦でも、艦娘でもない。だって、彼は男性の姿。

 男装っていう可能性もあるけど、けど、違うっぽい。

 この都も彼が創ったって、……それは、さすがに信じられないっぽい。けど、

 けど、この都にいる深海棲艦は彼に好意を持っていたっぽい。挨拶交わしてるの見たし。

「なに、か。……うん、何者って聞かないのはいいことだね。頭いいと思うよ。

 そうだね、僕は「お待たせデースっ!」むぎゅっ」

 言いかけた言仁くんは、金剛に抱きしめられた。

「テイトクから会いに来てくれるなんて、スッゴク嬉しいデースっ!

 待ってくだサーイっ、とっておきのお茶を淹れてあげマースっ」

 なんか、お花が周囲に舞っているようなイメージで金剛。その腕の中にはしっかりと言仁くんを抱きしめてる。

「それは嬉しいんだけど、もう一人いいかな?」

 示した先には当然夕立。…………………………いや、邪魔スンナって、そんな感じで睨まないで欲しい。夕立は悪いことしてない。っぽい。

 

「確かに珍しいデース」

「そうっぽい?」

 金剛の淹れてくれた紅茶を一口。

 珍しい、と繰り返すのは夕立の姿。

 ここにいるみんなは、誰もが、大なり小なり深海棲艦としての異形の部分を持っている。

 かくいう金剛も艤装が、なんか、きらきらっぽい。

 ちなみに、艤装の異形化が一番軽度で、次に軽度なのが途中で見かけた電みたいに体の一部が異形化、そして、夕立たちが上で見かけていたような深海棲艦は全身、さらには、記憶や感情さえも異形化した重度、っぽい。

 そういう意味で、異形化の部分が見受けられない夕立は相当不思議な存在っぽい。

「羨ましいっぽい?」

 問いに、金剛は溜息。

「もちろんデース。

 ワタシは今の自分を否定する事は止めマシタ。けど、なんか、いまの艤装はきらきらで可愛くありまセン」

 ……もとのごつごつした艤装も可愛いとは思えないっぽい。

「まあ、今のところ大きな混乱もないし、少し様子を見ながら町の案内とか。…………それと、そうだね。夕立の家も手配しようか」

「あ、家くれるっぽい?」

「そのつもり、誰かのところで一緒に暮らすならそれでもいいよ?」

 問いに、夕立は首を横に振る。知り合いなんて、いないっぽい。

 もともといた泊地の艦娘たちとも、結構疎遠だったっぽい。

「場所は、悪いけどこっちで決めるね。話が終わったら鎮守府行こうか」

「鎮守府まであるっぽい?」

「テイトクが暮らしているこの都の中心部デス。

 特に名前はなかったから、何となく名付けまシタ」

「なんでもよかったけどね。

 馴染んだ名前だったら解りやすいし」

 と、言う言仁くんは金剛の膝の上。なぜか、……まあ、予想はつくっぽいけど、ともかく不貞腐れた金剛をなだめた結果の妥協案。金剛は上機嫌に後ろから言仁くんを抱きしめる。

 腕にこもった力が気になったのか、言仁くんは視線を上、金剛のほうに、

「会ったときのでこういうのは終わったと思ったんだけどね?」

「Noっ! 女の子の過去を蒸し返すのはマナー違反デースっ」

「女の子、っぽい?」

「…………く、駆逐艦、の娘からみれば、確かに、年上かもしれない、デスケドぉ」

 しょんぼりしたっぽい。苦笑。

「そうだね。金剛も十分に、可愛い女の子だよ」

「……可愛いって言ってくれるのは凄くウレシイデス、けど、子供扱いな気がしマス」

「子供だよ。君も、電も大差ないね」

「むぅ、……可愛いって言う言葉だけ受け取りマス」

 そう言ってぎゅっと抱きしめる金剛。

 さて、

「じゃあ、混乱させたままっていうのも悪いから最初から話して行こうか」

「Oh、その娘、新しく来た子デシタカ?」

「そ、鎮守府でもよかったんだけどね。

 ただ、この都の事ならここで暮らしている金剛とも話したほうがいいって思ったんだ。迷惑だった?」

「Noっ、テイトクが来てくれるならワタシはいつでも大歓迎デースっ」

「ありがと、それで、夕立。

 まず、君は間違いなく轟沈したんだ。この都にいる、これが何よりの証明だよ。外傷がなくてもね」

「そう、っぽい」

 これは、多分認めないと話が進まない事。

「外傷がないのに轟沈、っていうのも不思議デス。

 例え燃料がなくなったとしても、行動不能になるだけで沈む事はないデース」

 頷く、そうっぽい。

「外傷がないのは確実だけどね。僕も一通りは確認したし」

 …………ほえ?

 首を傾げる言仁くん。けど、「…………えーと、金剛、痛いよ?」

 一通り、って、

「あの、言仁くん」

「ん?」

「それは、服の下も、…………っぽい?」

 言仁くんを抱きしめる腕にぎりぎりと力がこもっているのを見ながら、半笑いっぽい表情で聞いてみた。

「そうだよ。異形になった個所はともかく、外傷が残ってたら治療しないといけないからね。

 ……金剛、少し苦しいよ?」

 …………この子供はっ、女の子の裸を見ておきながら何の感慨もないっぽいっ!

 ひょっとして、子供だからっぽいっ?

「テイトク、それは、夕立の裸を見た、という事デース?」

「さっきそうだよって言ったけど? どうしたの? 金剛」

 すっごく不思議そうに言仁くん。

 きょとん、とした表情に金剛は、なんか、笑みっぽいのを返した。

「どうして夕立なんデースっ! そんなに女の子の裸がみたいならっ! ワタシがっ! 好きなだけっ! 見せてあげマスっ!

 それとも、テイトクはちっちゃい女の子が好きなんデスかっ! 大鳳とか響みたいにおっぱいがちっちゃいのが好みなんデスカァアァアアアアアア!」

「夕立はそこまで小さくないっぽいっ!

 ってっ、なに始めるっぽいっ?」

 失礼な事を叫んだ金剛はそのまま立ち上がる。ころんと転がる言仁くん。そして金剛は自分の上着に手をかけて、

「……金剛、どうしたの?

 こんなところで脱ぐと風邪ひくよ?」

「なんでそんな冷静なのか問い詰めたいっぽいっ!」

 錯乱して脱ぎ始めた金剛と、首を傾げる言仁くん。

 深海棲艦が風邪ひくのか、とかその突っ込みは放棄っぽいっ!

 とりあえずこんなところで脱がれても夕立は反応に困るっぽい。……というか、確実に困るので慌てて金剛を抑えた。

「ふー、ふー、ふー、…………と、ともかくっ!

 イイデスカっ、どんな事情があろうと、テイトクは女の子の裸を見たらダメデスっ、見たかったらワタシが見せてあげマスっ!」

「いや、別にみたいって思った事はないけど、必要だから見ただけで」

「ないっ、……な、…………て、テイトク、……わ、ワタシのも、見たいとは思わない、デス?」

「うん」

 即答に、本気で崩れ落ちたっぽい金剛。

「いや、言仁くん位じゃあ仕方ないっぽい。

 言仁くん、何歳?」

「六歳」

「くぅ、……幼さが憎いデース。

 もう、もう十五歳上なら、…………ううぅ、…………」

「十五歳上、……二十一歳っぽい」

「大人なテイトク」

「……………………どしたの?」

 首を傾げる言仁くんは無視。じと、と夕立と金剛の視線が集まる。

「結構いいかも、っぽい」

「なにを言ってるの?」

 なにを想像したのか顔を赤くする金剛。

「まあいいや、現状はそんなところかな。

 この都だけど、普通に生活できる程度には環境が作られている。……そうだね。その辺は金剛のほうがちゃんと話ができる、……と、思う」

「っぽい」

 顔を真っ赤にして俯く金剛。

「僕からはなにかをやって欲しい、っていうのは基本的には言わない。

 ただ、鎮守府の方で仕事は斡旋してる。見ての通りの都で、それなり人数もいるからね。やる事もないのなら他の人の役に立て、って大鳳の意見だね」

「ん、了解っぽい。

 じゃあ、夕立もお仕事したほうがいいっぽい?」

「強要はしないよ。

 なにも欲しがらず、なにもしなければそれでいいけど、やる事ないなら働いてみたら?」

「そうするっぽい」

 確かに、なにもせずにぐだぐだしているのはちょっと、……さすがに、退屈っぽい。

「家については大体ここと同じ、……金剛、金剛?」

「はっ? どうしてテイトクは小さいんデスっ?」

 あ、復活したっぽい。

「どうしてって言われてもなあ。……僕はこのままだし、………………それとも、子供みたいな僕は嫌い?」

「Noっ! Noっ! そんな事絶対、Noデスっ! 大人のテイトクも素敵だけどっ、子供の姿をしていてもワタシは大好きデスっ!」

「そっか。僕も金剛は大好きだから、うん、よかったよ」

 にっこりと笑顔。金剛轟沈。っぽい。

「……言仁くん、おいくつっぽい?」

「六歳だよ?」

「…………恐るべし、っぽい」

「なにが? ……まあいいか。あとは何か聞きたい事は?」

「うーん、……っていうか、言仁くんって、この都で一番偉い人っぽい?」

「そうだね。命令を聞けっ、とかは言わないけど、代表は僕と思ってくれていいよ。

 鎮守府には僕と、あと大鳳と響がいるから、困った事があったら何でも相談に乗るよ。そのための代表、……ああ、と、そうだね。君たち風に言うなら提督なんだから」

「了解っぽい」

 解らない事があったらお話を聞きに行こう、と。

 鎮守府の場所についてはこれから行くことになるからいいとして、

「戦う事は、ないっぽい?」

「今のところはないかな。たまに、君たちの知っている深海棲艦は来るけど暴れたりはしない。あの娘たちはあの娘たちの考えでここを尊重してくれているからね。

 艦娘が来たらどうかな? 前例はないけど、もしかしたら危ないかもしれないね。ただ、来た事はない。……そして、来る事は出来ないよ。神隠しにでも会わなければね。

 この都にいるみんなは静かに暮らしていくことを是としているから、暴れている娘はいない。とはいえ、事情が事情だから不安定な娘が来るかもしれない。その娘が暴れないっていう保証は、ないかな。

 だから、最初は僕が会うようにしているのだけど」

「それ、危ないっぽい」

 なんか、いろいろおかしいところはあるけど、言仁くんは人っぽい。

 もし暴れる艦娘がいたら、人に止められるとは思えない。

「ワタシも同感デス、テイトク」

「あ、復活したっぽい」

 ……顔を赤くして睨まれても怖くないっぽい。

 ともかく、

「危ない事ならワタシがやりマス。

 それでテイトクの危険が払えるならワタシは喜んで引き受けマス」

「そうだね」

 言仁くんは、…………笑う。

 怖気が走るほど、綺麗に、――――

 

「僕に意見をするの?

 不敬だよ。小娘」

 さわさわと、さわさわと、…………体の中を、あり得ない血が流れる音を聞いた。

 

「あ、……ゴメンナサイ、……デ、ス」

 畏れと、それとは別の、どこかとろんとした表情で応じる金剛。

 応じる金剛を見て言仁くんは笑顔で、

「夕立も、金剛も、僕を心配してくれるのは嬉しいけど、僕は大丈夫だからね」

「う、うん、……了解、っぽい」

「解りました、デス」

「まあ、そういうわけ、夕立。

 今のところは大きな問題はないよ。僕は出来るだけの事はするし、たまに、僕の、……まあ、………………知り合い、もいるから。

 落ち着くまでは頼ってくれていいよ。落ち着いたら、自分でできる事は自分でやって欲しいな」

「ん、了解っぽい」

 さすがにずっと頼りきりはだめっぽい。

 

 それから、金剛にこの都についてのお話をいろいろと聞いてみる。

 お店はいろいろあるみたい、図書館とか、……なんでも、言仁と似たような人たちが外からお土産を持ってくるとか。それもたくさん。

 そういったものをまとめて管理しているのがお店。あとは、そういったお土産を使ってなにか作ってそれを売っている深海棲艦もいるっぽい。

 ちなみに、外には行こうと思えば行けるらしい。けど、艦娘にも人にも、会わないほうがいいって言われた。

 ……それは、構わない。特に会いたいとは思っていない。

 それと、深海棲艦は動く事に燃料とかは必要ないっぽい。その存在は、想い、で構築されている。自我の損失が、本当の意味でも深海棲艦の死、っぽい。

 地上で必死に深海棲艦を撃破しても、それがどの程度の意味なのか、…………まあ、もう夕立には関係ない。

 深海棲艦として艦娘や人を襲うつもりもないし、逆に艦娘として深海棲艦を攻撃するつもりもない。

 たぶん、ここにいるみんなと同じ結論。……うん、そうだね。

 もう、・・・・なんてやらなくていいんだ。

 

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