深海の都の話   作:林屋まつり

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六話

 

「…………ん、……あ」

「おはよ、ちゃんと目覚めたみたいね」

「あ、……いぶき、……いたた」

「はい、御水」

「あ、ありがとうございます」

 軽く頭を振りちびちびと水を飲み始める翔鶴。

「大丈夫?」

「え、ええ、……えと、私は?」

「酒呑んで酔っ払ったのよ。

 今日はお花見よ? 御酒、残ってない?」

「ええ、大丈夫」

「翔鶴、貴女、御酒呑むのはやめなさい」

「え? ……止めた方がいい、ですか?」

「昨夜の事、覚えてない?」

 問いに、翔鶴は首を傾げた。

「脱いでたわよ。

 勝手に人に乳押し付けてきて、リアクションに少し困ったわ」

 帯といただけだけどね、それはあくまでも浴衣だったからその程度ですんだのかもしれない。

 ぽかぽかして涼しくなるためにそんな格好をしたのなら、着物ならどうなるか、……まあ、間違いなくね。

「へ?」

 きょとん、とする翔鶴。

「だから、脱いだの。酔っ払って。

 ま、酒癖にはあるみたいだからいいけど、気をつけなさい。お花見の席にいるのは言仁君だけじゃないわ」

「気をつけます」

 はあ、と溜息をつく翔鶴。…………「現場でそれをやったらまさに痴女ねっ!」

「やりませんっ!」

「ぴゃぁぁあああああああああああああああああああああああああっ!」

「へ?」

「乙女の悲鳴っ!」

 立ちあがる。今のは、金剛ねっ!

「翔鶴、行くわよっ!」

「はいっ! 五航戦翔鶴、抜錨しますっ!」

 というわけで飛び出した。金剛の部屋は隣の隣。なんとなく顔を出した大鳳と同室のひさめ、長門を回避して「乙女の危機っ!」

「…………ひいっ、い、いぶきっ?」

「うわ、ほんとに乙女の危機だ」

 必死に脱いじゃった浴衣で前を隠す金剛。何があった?

「あ、おはよ。いぶき」

 そして、マイペースな言仁君。

「おはよう、言仁君」

 他の女の子たちも続く。金剛はじりじりと後退。服を着ようにも抱えこんでるのでそれも無理。

 もちろん、部屋を出ればいいんだけど。と、後ろを振り向けば翔鶴と大鳳のワレゼッタイニヒカズの意思が強すぎて無理でした。

 仕方ないからどうしたか聞こうと思ったところで、

「あ、そうだ。

 いぶき、昨日の夜お酒呑んだ? だめだよ。金剛、あんまり強くないんだよ。今日はお花見なんだから、残ってたら大変だよ」

「え、ええ、そうね。気をつけるわ。

 ごめんなさい」

「大丈夫そうだけどね。

 あ、翔鶴たちも大丈夫? 頭痛かったりしない?」

「はい、大丈夫です」

「問題ありません提督」

 で、一番問題ありそうな金剛。

「それで、どうしたの?」

「大したことじゃないよ。

 一緒に寝ようってお願いされただけだから」

 まあ、なんとなく予想通りだけど。……翔鶴と大鳳が怖い。ひさめの、むー、という感じの膨れた顔が可愛くなるくらい怖い。

「それで、金剛。

 なんで、服、着てないの?」

 じりじりと圧倒的重圧を放出する大鳳。

「ああ、それ。

 直接触れ合いたかったんだって。……まあ、二度目だし、大した事でもないからね。

 ただ、」

 ビッグ7さえ震えだす圧倒的重圧の中、言仁君はくすくすと笑って、

「まだ金剛も甘えたい盛りの女の子なんだね」

「そ、そうデスっ! ワタシは甘えたい盛りの女の子デスっ! もっともっとテイトクに甘えたい、デスっ!」

 自棄っぱちに自爆する金剛。荒ぶる大鳳と翔鶴。…………とりあえず、頬を膨らませるひさめを見て和んで、この重圧の中発言する気力を補充。

「はいはい、まあ、金剛に何事もなくてよかったわ。

 井上さんや、……言仁君がいるっていう事は尊成さんもいるのでしょう? 待たせても申し訳ないわ。お花見もあるのだし、私怨は後にしてね」

「っと、それもそうだね。

 金剛も着替えにくいだろうし、ごめんね。ちょっと部屋の外に出てもらえる?」

「はい」「わかりました」

「そういえば、言仁君。

 寝心地よかった?」

「うん、すっごくよく眠れたよ。

 金剛より起きるの遅くなっちゃった」

「…………言仁君の寝顔、どうだった?」

「可愛すぎて、ワタシ、どうにかなりそうデシタ」

 金剛はしんみりとした表情で告げた。

 

 朝食、井上さんが用意してくれた。

 で、そんな朝食の席。で「きく、どうしたの?」

 顔を赤くして尊成さんの一歩後ろにいるきく。言仁君も気になったのか「尊成、きくになにかした? 元気なさそうだよ?」

「そう「ち、違いますっ! 義兄様っ! 旦那様はなにもしていませんっ!」」

 なら、

「きく、なにか、恥ずかしいようなことした?」

 酒の勢いで、

 問いに、きくは顔を真っ赤にする。興味津々と迫る女性陣。

「そ、……そ、その、……あ、あの、…………ね、寝るときに、ですね」

 同衾かっ! 脱いだかっ!

「だ、だだ、だ、旦那、様と、手、手を、つ、つないで、いただきましたっ!」

 …………レベルが高すぎる。

「そう、そうなんだ」

「お、お酒が入っていたとはいえ、旦那様がお休みしているところで、手をつないでいただくようお願いするなんて、……わ、私、こんなはしたないお願いをするなんてっ!」

 顔を手で覆ってふるふるするきく。…………で、皆で視線を向ける。金剛はそっぽを向いた。

「きく、大した事ではない。

 あの程度の我が侭ならいつでも叶えよう。遠慮をする必要はない」

「そうだね。

 尊成、きくを大切に思ってるなら、叶えられる我が侭は叶えてあげようね」

「当然だ」

 頷く尊成さん。そして、

「あ、ありがとうございますっ! 義兄様っ!」

「え? 何が?」

 深々と頭を下げるきくに首を傾げる言仁君。

 大鳳は金剛の肩を真剣な表情で叩く。

「金剛、これが貞淑というものよ」

「自分の気持ちに正直にならなきゃ、だめ、デスっ!」

 全裸で抱きついた女の子は真顔で告げた。

 

 朝食を終えて着物を着る。髪はまとめて準備完了。

「…………いいですね」

「ん?」

 同室、一緒に着物を着ていた翔鶴の声。

「いい?」

「あ、……いえ、…………その黒髪、着物に似合うなって」

「黒髪な人向けなのかしらね。着物って」

 多分。

「けど、翔鶴の銀髪も綺麗じゃない?

 言仁君も言ってたでしょ?」

「え、……ええ」

 言仁君の名前を出せば大抵罷り通る。さて、行きましょうか。

 

「吉野神宮駅から電車で吉野までだね。

 それから、ロープウェイで吉野山駅。……到着したら少し歩いて、金峯山寺に尊治がいるから挨拶をして、あとは、好きにお花見していいけど、……その、金剛と大鳳、翔鶴と長門は僕といてね?」

「もちろんデスっ!」

「…………目的見失わないでよ?」

 金剛と大鳳は長門と翔鶴の護衛できたはずよね?

 二人が弱いとは思わないけど、深海棲艦と違って艤装がなければそれまでだし。

 何より、あそこには尊治君を含めてかなりの強者がそろってる。下手をすれば、

「あ、深海棲艦」

「本当ですね。……と、扶桑、山城。ちゃんと挨拶をしないといけませんよ。

 こんにちわ、お久しぶりですね。言仁君」

「こんにちわ」

 人の、提督。

「ここで喧嘩はご法度。

 その前提で艤装持ってきてないのだけどね」

 …………っと、いけないわね。

 人の前に立つのは曙、警戒の視線でこちらを見ている。軽く頭を振る。両手をあげる。

「曙、仕方ありません。

 私達からすれば彼女は打破すべき敵、……けど、彼女からすれば私達は襲撃者です。お互い警戒するのも無理はありません。

 その前提で不戦を掲げているのです。お互い、遵守を期待します」

「……ええ、それもそうね」

 それにしても、…………「何ですか?」

「扶桑、…………ね」

「え、ええ」

「扶桑姉さまになにか用?」

「ううん、なんでもないわ」

 軽く首を横に振る。

「提督、知り合いですか?」

 大鳳の問いに応じたのは彼女。

「はじめまして、私は春日清海。

 海軍少将を勤めています。……もしかしたら、勤めていた、になるかもしれませんが。

 言仁君とは少し前に会いました」

「その後は南朝に接触して、で、ここに誘われたっていう事?」

「そういう事です。

 海軍にはいくつかの疑問がありました。これはいい機会です。

 それで、彼女は秘書艦の曙、付き人の扶桑と山城です」

「はじめまして、ね」

「「はじめまして」」

「それで、……新田中将から聞いてんだけど。

 誰が深海棲艦?」

「気になりマス?」

 金剛の問いに曙は笑って「当たり前、なんて言ってもあたし達の常識覆すような存在だもの、興味がないわけないじゃない」

「大丈夫よ。今更深海棲艦だから討伐しよう、なんて考えてないわ」

「考えてるようなら相手になるわよ。

 戦いはご法度、宴席に武装は無粋。……けど、大切な人を護るためなら、やむなしね」

 扶桑の言葉に応じるのは大鳳。つまり、「深海棲艦ね」

「ええ、そうよ」

「あと、ワタシが深海棲艦デス。

 そう見えないかもしれないデスネ。証明、必要デスカ?」

「不要です。

 第一、自己紹介で深海棲艦だと語る艦娘がいたら、それはそれで珍しいです」

「長門と、翔鶴は艦娘なのね?」

 山城の問いに長門は頷いて「そうだ。故あって言仁の都にいるが、深海棲艦ではない」

「面白いですね。

 海上にいる艦娘と、深海棲艦の都にいる艦娘、深海棲艦の都にいる深海棲艦と、海上にいる深海棲艦。生者である私と、…………「死者である僕、かな?」」

 言仁君は肩をすくめ、くすくすと笑う。

「南朝の長については?」

「尊治、……かの、後醍醐帝のようですね。

 解っているのはそれだけです。……もっとも、現在の、この状況が影響力の高さを証明していますが。…………そうですね。是非とも丁寧に、良縁を結びたいものです」

「それがいいだろうね」

「で、私からも一つ聞いていいかしら?」

 問い、おそらく、この先を占うための。

「場合によっては海軍と敵対する事になる。その可能性、考慮してる? 提督さん」

「はっ、なに言ってんの?

 あたしらのなすべき事は護国を形にする事。国を、そこにいる民を護ることこそ、あたし達のやるべき事よ。

 そのためなら、艦娘とだって戦うし、必要なら海軍とだって敵対するわ」

「と、いうのが私達の方針です」

「へえ、……徹底しているのね」

「艦娘なら、……違うか、軍属なら当然じゃない?

 そのために、あたし達は生きてるんだしね」

 その解釈は、間違えていると思うけど。まあ、いいわ。

「どちらにせよ、大人しくしていましょう。

 きっと、それが一番よ。今のところはね」

 私の言葉に清海は頷いて「それがお互いのためでしょう」

「けど、確かに春日少将の言うとおり、不思議な状況ですね」

 翔鶴がおっとりと告げ。山城は頷く。

「考えた事もなかったわ。こんな状況」

「考えていられたら、凄いわ」

 扶桑が苦笑。言仁君は楽しそうに笑って、

「そう、そんな、考えられないような状況になってるからね。

 それはこの先も同じ、変わって行くんだろうね」

「……言仁君、その、深海の都について聞かせてもらえますか?」

「あ? なに馬鹿提督、興味あるの。

 あたしは引きこもるつもり、ないわよ」

「まだ引きこもらせるつもりもありません。

 ただ、その縁は後に重要になってくる、と思うのです」

「ふーん、……ま、あたしも興味あるけどね。

 けど、」

 がたんっ、と音。

「花見の最中に話しましょう? もう、到着したのだしね」

 花見会場へと向かう、ロープウェイが到着した。

 

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