深海の都の話   作:林屋まつり

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 IF話、顕仁と一緒に来たのが睦月一人だった場合。
 ちなみに、睦月はオリジナルに準拠しようとしていましたので、アニメ版の睦月ほどヒロインっぽくありません。違和感注意。…………今さらですか。


六話 ― 脱線

 

「起きたか」

 目を覚まして、顔をあげて、聞こえてきた声。

 大好きな人の声。それが聞けて、睦月は寝惚けも吹き飛んで笑顔。

「うんっ、おっはよっ! おじさまっ!」

「ああ、おはよう」

 声の主は、睦月より少し年上の男の子。

 顕仁、それがおじさまの名前。いつもは、……えーと? 鳶? っていうんだっけ? ともかく鳥の姿をしているけど。

 お花見の今日は我が侭を言って人の形になってもらったっ! おじさま、優しいから大好きっ!

 だから、

「とうっ!」

「っと、……いきなり飛びつくな」

 立ちあがって、窓から外を見ているおじさんに後ろから抱きつく。ぎゅーっ!

「にゃあ、大好きなおじさん見かけたらぎゅーってしたくなっちゃうのですっ!」

「それでは生活が難しそうだな。

 ……そういう事ではない。危ないと言う事だ」

「むー、そこはちゃんと確認してるよー」

 おじさまに怪我して欲しくないもん。

「…………なんだ、そうだったのか。

 条件反射かと思っていたが」

「に、にゃははー」

 ……そういう事もなきにしも、あらず?

 苦笑。

「よいよい、これから宴だ。

 はしゃぎたくなる気持ちも解る」

 ぽんぽん、と頭撫でてくれた。ちょっと子供扱いには不満。けど、

「やったっ、おじさま大好きっ!」

 もっとぎゅーってしちゃった。

 

 くれはからお花見の事を聞いて、一人なら一緒に来てもいいって言ってくれた。

 だから、一番のお姉さんである、この、睦月がおじさまと一緒に宴会参加っ! こういうの初めてだからすっごい楽しみっ! 大好きなおじさまと一緒だからもっと楽しみっ!

「睦月、朝食はどうする?

 宴会場で食う物はいくらでもあるだろうが、そちらでよいか?」

「んー、そうしようかな」

 睦月、おじさまに拾ってもらってたくさんお勉強したからお料理も大丈夫、おじさまも美味しいって褒めてくれた。

 褒めてくれるの嬉しい。だからおじさまにご飯作ってあげるのは好き、おじさまが作ってくれたご飯を食べるのも好き。美味しいし、それ以上に嬉しい。けど、

 今日はお花見だもんねっ!

「じゃあ、そうしよっかっ!

 睦月、こういうの初めてだから楽しみーっ!」

「存分に楽しむがよい。

 でなければ土産話も出来ぬ。あやつらが納得するだけの土産話は難しいぞ」

 少し、意地悪く笑うおじさま。睦月がお花見に行くっていう事になって、みんなからたくさんのお土産話をお願いされたの。

 だから、たくさんお話しできるようにしないとね。

「では、着替えるか?」

「んー、……おじさま、その前にお風呂入っていい?

 ええと、……その、ちょっと汗、気になっちゃったり、……えと、だめ?」

 せっかくの宴会だもん、早く行きたい。……けど、やっぱり気になっちゃう。

 おじさんはひらひらと手を振って「よい、女性なら気になって当然であろう。が、あまり時間をかけるなよ」

「やったっ、ありがとおじさまっ!

 ささっ、と入ってきちゃうねっ!」

 時間かけるなんてあり得ないっ! おじさまと「おじさまも一緒にはいろ?」

「さっさと行って来い馬鹿者」

 ちぇっ

 

「あーあ、おじさまと一緒がよかったなー」

 シャワーを浴びて、体を洗って、ついでに口から零れる言葉。……けど、おじさまそういうところ気にするからなあ。

 前におじさまがお風呂に入ってるときに卯月が突撃して、……家が大破しちゃったっけ。

 一緒に入れないの残念だなー、…………けど、もしかして、

「にしし、おじさまも、ちゃーんと睦月達の事女の子、って思ってくれてるのかにゃ」

 口元ゆるんじゃう。いつも子供扱いしてるけど、ちゃんと睦月も大人な女性なのです。

 その証拠にっ! 前にみずが連れてる暁と一緒に、鎮守府にいる大鳳が隠し持ってる乙女漫画を読破したのだっ!

 さて、体も洗って、鏡を見てチェック。うん、よしっ、大丈夫っ! びしっ! と鏡に映る睦月に指を突き付けて、

「綺麗になった睦月っ、見惚れていたら、やっちゃうわよっ!」

 …………っていう台詞を如月ちゃんがお勧めしてたけど、……なにやっちゃうんだろ?

 

「お待たせーっ!」

「よいか? 思ったより早かったな」

「もちろんっ、だっておじさまとお花見デートだよっ!」

「宴会であろう?」

「デートなのっ! もーっ、おじさまわかってなーいっ」

「そんなものか、よく解らぬ」

 首を傾げられた。もう、大切な事なのに、

「ではさっさと着替えるか」

「はーいっ」

 と言っておじさまは睦月用の晴れ着を持ってきてくれた。

 専用、……睦月、艦娘じゃなくて深海棲艦だから。……そして、背中には黒い、翼があるから。

「妙な着脱があるな。……ふむ」

「もっとこう、ざっくり空いてるのなら楽なんだけどぉ」

「馬鹿者、人前で気安く肌を晒すな」

「はーい。……けど、おじさまになら、……見られても、いい、かも、……です」

 こういう事言うの、ちょっと、照れるのです。

「…………知らん。と、入ったか。

 睦月、前を合わせよ。帯を締める」

「はーい」

 晴れ着、前を合わせて、おじさまがくるくると帯を巻いてくれる。

 ぽん、と背中を叩かれて、

「締めるぞ。少し苦しいかもしれぬが我慢せよ」

「えー」

「多少はきつくしないと落ちてしまうのだ。

 我が侭言うな馬鹿者」

「はーい」

 苦しいのは嫌だけど、それで脱げちゃったら恥ずかしいよね。

 おじさましかいないなら、いい、んだけどね。

 そして、おじさまに晴れ着を着せてもらって、準備完了っ!

 よし、拳を振り上げて、

「それじゃあっ! お花見デートっ! 存分に楽しみましょーっ!」

 えい、えい、おーっ!

 

「おおーっ! こ、これは凄いのですっ!」

「いつ見ても吉野の桜は見事だな」

 満開の桜、桜、桜っ! 見渡す限り桜っ!

 すっごく綺麗。思わず見とれちゃう睦月に、少し、意地悪そうな声。

「睦月、今のうちに語彙を考えておけよ。

 この美しさを伝えねばならぬのだぞ?」

「にゃっ! …………え、えーと、……こ、言葉にできない美しさっ! ……とか?」

「落第」

「……しゅーん」

 意地悪く笑うおじさま。くつくつ笑って、

「手を大きく広げてこの位凄かった、とでも言えばよいのではないか?」

「……それ、なんか子供っぽいんだけどお」

「大きな事を言うな子供。

 が、……そうだな。後で皆を連れ出して花見にでも出かけるか」

「ほんとっ! やったーっ!」

「弘川寺ならよいであろう。

 あそこの山桜も十分に見事だ。酒は、……だめか」

「にゃっ! む、睦月、お酒もイケルにゃしぃっ!」

 酒、という言葉に条件反射。そうっ、睦月達の憧れ、おじさまと、……えっと、晩酌? と、ともかく、おじさまと一緒にお酒を飲んでみたいっ!

「たわけたことをぬかすな馬鹿者。十年早い」

「むー、睦月子供じゃないですっ」

「そうやって頬を膨らませている姿がすでに子供だ。

 まあよい、花見は別に酒がなくとも構わぬ。団子でも用意しておくか」

 そう言って、おじさまは睦月を優しく撫でてくれて、

「そうだな。

 まあ、なんでもよい。そなたらと桜の花があれば、それで十分、楽しめるであろうな」

「ほよ? ……え、ええと、……おじさま、睦月達と一緒にいるの、楽しい?」

 そういう事、だよね?

 睦月の問いに、おじさまは少し不思議そうにして、

「当り前であろう? そなたら一人一人は十分に愛らしい。

 皆がいれば賑やかであるしな。楽しくないわけがなかろう」

「あ、……あははっ」

 ふえぇ、……い、いきなり、愛らしいなんて、そんな風に言うの、反則にゃしぃ。

 けど、嬉しい。

「さて、朝食でも買って回るか。

 屋台もある事だしな、行くぞ、睦月」

「はいっ!」

 

「わーっ、お店もたくさんあるねーっ」

「…………というか、あの小童。小娘に酒を売らせるな」

 電ちゃんがいる屋台には、酒、って書いてある。……まあ、それはいいとして、

「なっ、に食べようかなーっ?

 あっ、あれ美味しそうっ!」

 たこ焼き? あと、焼きそば。

「うどんはないか」

「およ? おじさま、うどん好き?」

 ぽつり、呟いたおじさまに聞いてみる。おじさまは首を傾げて、

「好きと言うか、讃岐に行った時はよく食っていたな。

 美味かったが、……なんというか、名物だからか、やたらとあったな」

「そうなんだ。

 睦月も食べてみたいなー」

「いずれ、食う機会はいくらでもできるであろうよ。

 四国地方は私にも縁のあるところでな。あるいは、皆で長居するかもしれん」

「にゃっ、そうなのっ?」

 いつもは、睦月達言仁君の都で、みんなで暮らしてる。たまにおじさまについて行っていろいろ見て回ってる。

 けど、改めて長居って言われるのは初めて、かも。

「安心せよ。その場合はそなたらが暮らす場所もある。

 周りの皆は理解ある者が多い故な、暮らすとしても不便はしないであろう」

「おぉー、……じゃあっ、睦月、うどんの作り方をお勉強したいっ!

 おじさまに美味しいの作ってあげるっ!」

「そうか、それは楽しみにしている。……が、作り過ぎるなよ?

 先にも言った通り、やたらとうどんがあるからな」

「はーい、ほどほどにしまーす」

 美味しい料理を作れるようになりたい。……けど、その理由は一つ。

 大好きなおじさまに喜んで欲しい。だから、やり過ぎはだめだよね。

「うむ、それでよい。

 さて、そこの屋台のだったな」

 たこ焼きと焼きそばを買って、あと、から揚げも買って、飲み物買って、おにぎり買って、……これで十分。

「足りるか?」

「うん、睦月は大丈夫。

 おじさまは?」

「十分だ。……さて、ではどこで食べようか。

 せっかくの晴れ着を汚すわけにもいかぬし、適当な椅子があればよいのだが」

「睦月は、」いいよ、って言おうと思ったけど「そうだよね。これ、借り物だもんね」

 この晴れ着は借りたものだし、汚しちゃだめだよね。

「…………そういえば、睦月。

 その晴れ着はどうだ? 気に入ったか?」

「ふぇ? うんっ、すっごく可愛いし着心地もいいから、睦月気に入っちゃった。……けど、」

 うそはついてないよ。すっごく気に入ってる。けど、一番大事なのは、

「あの、……おじさま、似合う、かな?」

 大好きな人に、似合うって言って欲しい。

「うむ? ああ、可愛らしいぞ。

 あの小童も見る目があるな。あやつを認めるのは癪だが、睦月の可愛らしさをよく引き立てている」

「ふぁっ! …………にゃ、にゃあ、……う、嬉しい、にゃあ」

 可愛いって、おじさま、睦月の事、可愛いって言ってくれたっ!

 とてもとても嬉しいのです。どきどきしちゃうのです。

「気に入ったのなら貰って行くか」

「えっ? いいのっ?」

「後で花見に行く時如月達の晴れ着も用意するが、形状が特殊であろう?

 サンプルが一つあった方が加工もしやすい」

「あっ、なるほどー、……って、いいの?」

「よ「構わないが、先にこちらに確認をしたらどうだ?」い、構わぬ。もらっておく、気にする事はない。持ち主など気にするな」

 多分、わざとだと思う。見た事もないほどすらすらと言うおじさま。けど、一応言っておかないとだめな気がするのです。

「…………えーと、おじさま。女の子が睨んでるけどぉ」

 じとー、とした視線を向ける女の子と、「くれは」

「こんにちわ、睦月」

 知り合いの、空母のお姫様。

「こんにちわっ! ……で、えーと?」

 もう一人の女の子。

「では、小童。これはもらって行くぞ」

「頼む者の態度かそれは。

 そなたは他者の礼節にはうるさいが、自分には適当なのだな」

「相手を選んでいるだけだ」

「……主君、こんなところで睨みあわないでください」

「おじさまぁ」

 なんとなく険悪な視線を交わす二人。…………ふと、

「そうだ、小童。いきなり花見とは何をたくらんでいる?」

「言仁君、《呪詛の御社》がどうこう言ってたけど?」

 なんだっけ? 確か、…………はっ!

「おじさまっ! 深海棲艦って海軍が作ってるんだよっ!

 睦月、びっくりしちゃったっ!」

「………………あまり、大声を出すな馬鹿者」

「あうっ?」

「と言うか、そういう重要そうな事は叫んではいけないと思います」

「にゃっ?」

「はっはっはっ、そなたは考えがないなあ」

「しゅーん」

 みんなに生温かい笑顔を向けられてしまったのです。

「まあ、それだ。

 いい加減場所の特定が手詰まりな感じがして来てな。顕仁、そなた、空を飛べよう? あほの、……いや、アホウドリのごとく飛び回って探し出すがよい」

「勝手にやれ馬鹿者。

 睦月、行くぞ」

 手を引かれた。

「う、うん、……ええと、いいの?」

 振り返る。視線の先にはやれやれ、って感じで肩をすくめる女の子と、仕方なさそうな微笑のくれは。

「よい、……まったく、あやつはものの頼み方を知らぬ。

 なにがあほだ。失礼なやつだ。睦月、そなたはああなるな」

「う、うん」

 ……え、えと、は、はじめてかも、…………いや、突発的っていうか、反射的、って解っているのです。

 けど、……おじさまから手を握ってくれたの、は、はじめてにゃしぃ。

 緊張、しちゃうにゃあ。

「ん? どうした?」

「にゃっ? にゃ、にゃんでもにゃいしっ!」

「…………なにぬねの、言ってみよ」

「にゃににゅにぇにょっ」

「食事の前に水を飲んで落ち着け」

 そう言っておじさまは片手に下げた袋から飲み物を取ろうとして、睦月の手を離して、はしっ!

「…………睦月?」

「あうっ? ……あ、あの、…………せ、せっかくおじさまと、手、つないでたいし、……だ、だめ?」

 離したくない。……おじさまは溜息。片手に持った袋を無造作に突き付けて、

「食事をとるまでだ。

 とりあえず何か飲んで落ち着いておけ」

「う、うん」

 

 桜の木の下に茣蓙発見。まだ朝だからかな、あんまり人も艦娘もいない。

 空いてる、だから。

「とーっ」

「はしゃぐな」

 思わずダイブっ! おじさまは傍らに腰をおろして袋から朝ご飯。「ちょっと重いか?」

「睦月は大丈夫だけど、おじさま、苦しい?」

「いや、ならばよい。

 私は気にせぬ。では、食べるか」

「はーいっ、いっただっきまーすっ」

「いただきます」

 おじさまと並んで座ってご飯。おにぎり美味しいっ! それに、はらはらと落ちる桜の花びらがすっごく綺麗っ!

「綺麗だねー」

「そうだな。……ふむ、桜の雨、か」

 ぽつり、呟いたおじさま。……桜の雨、かあ。

「それ採用っ! やったっ! みんなのお土産話でそう言ってみるっ!」

「馬鹿者、これは私が考えた言葉だ。

 自分で考えよ」

「えーっ?

 おじさまの言ったの、すっごい綺麗なのにー」

 むー、……と、くつくつと笑み。ぽん、とおじさま、睦月を撫でてくれた。

「ま、確かに感じ入ったのであればそれでもよかろう。

 が、伝えるのはそなただ。よいな? ちゃんと伝えぬと変な顔されるぞ」

「…………がんばりまーす」

「そうだ。……そうだな。私も聞かせてもらおう。

 せっかく私が考えた言葉だ。よく伝えよ?」

「……頑張ります、です」

 あうぅう、もしかして睦月、かえってハードルあげちゃった?

 ちょっと頭を抱えてみる。……けど、

 珍しく、悪戯っぽく笑うおじさま。そんな顔を見れたから、ちょっとよかった、かも。

 

「ねえ、おじさま」

「ん?」

「その、……《呪詛の御社》だけど」

 どうするんだろ? 

「…………そなたには関係ない」

 と、いう言葉に肩を落とす。……うん、仕方ないよね。

 深海棲艦になって、変な翼が生えて、少しだけ、飛べるようになった。……けど、そんなには飛べない。

 それに、艤装も何もないから攻撃とかもできないし、睦月。役に立たないし。だから、言っても意味がない。

 ……だよね。

 俯いて、ぽん、と頭の上に乗せられる手。

 撫でてくれる、おじさまの手。反射的に視線を向けると、優しく微笑むおじさま。

 大好きな、おじさまの笑顔。

「と、言うつもりはない。

 あれは存在自体が不愉快だ。消す。そして、睦月、そなたらの力も借りるぞ。あれはちと面倒でな、下準備をしたい」

「睦月達も、……お手伝いして、いい、の?」

 問いに、おじさまは苦笑。

「面倒で、しかもつまらん事を頼むだろうがな。

 それでよいなら、是非手伝って欲しい。…………うむむ、そうだな、手伝いとなればなにか報酬が必要か、……なにがよいか、酒を贈るわけにもいかぬし。

 ……讃岐でうどんでも、…………………………うどんか? 美味いが、女性への報酬として、うどん、か?」

 なにか悩み始めたおじさま。報酬、なんて言ってるけど。

 そんなの、いらないのに、

 睦月はおじさまの手を取る。

「報酬なんていらないの。

 睦月達、おじさまのお手伝いできるだけで、……おじさまの力になれるだけで、ほんとのほんとに、嬉しいんだよ」

 大好きな人から頼ってもらえる。それだけで、本当に嬉しいの。

 絶対に頑張るっ! 頑張って、成功させて、おじさまに褒めてもらう。……それ以上、なにもいらない。

 けど、

「為朝と同じような事を言うなそなたも」

 苦笑。こつん、と額に拳を当てられ、

「よしわかった。

 私の手伝いをしてくれたら、四国に行くぞ。最低でも一週間は皆で遊び回ろうか」

「え、えーと、おじさま? いいの?」

 びっくりするほど意気揚々と語るおじさま。けど、ほんとにいいんだけどお。

「よい。というか、やらせろ。

 まったく、手伝わせたのに報酬をいらぬというとは、それは何か? 私に感謝をするなと言うのか?」

「え、……と、あ、ありがとうって言ってくれれば、それだけで嬉しい。…………にゃ、しぃ」

「遠慮も過ぎれば悪徳だな。

 まったく、為朝といいそなたらといい、欲がなさすぎると言うかなんというか。……まあよい。

 報酬がいらぬと言い張るのなら私の散策に付き合え」

「…………うん」

 怒られた、の? ……うう、おじさま、たまに気難しい。

 うんうん悩む睦月。けど、また、頭を撫でてもらって、ほう、と一息。

 怒ってない、よね? おじさまを伺えば穏やかな表情。

「ま、いろいろ言ったが、楽しみにしているがよい。

 あそこはあれで、見る場所は十分にあるからな、私もそなたらと出掛けるのは楽しみだ」

「う、……うんっ、睦月も楽しみっ!

 よーしっ、おじさまのお手伝い、睦月、頑張っちゃうよっ!」

「そうだな、期待しているぞ」

 声をあげて、いつもの調子に戻る。よしっ!

 

 朝ご飯食べ終わって、うん、と伸びを一つ。

「それじゃあ、おじさまっ! 行きましょーっ!」

「そうだな。では、行こうか」

 

 と、いうわけで睦月とおじさまは吉野を散策。辺りには艦娘が屋台をやってる。……艦娘。

「そういえばおじさま、どうして艦娘が屋台やってるの?」

「主催があの小童だが、小童の部下が確かどこぞで提督をしていたらしいな。

 誰だったか、……まあ、その縁であろうな。深海棲艦の中には人に恨みを持つ者もいる。下手に人に任せるよりは無難であろう。艦娘の方が自衛能力も高いであろうしな」

「そうなんだあ。

 けど、……たくさんいるねえ」

 何十人も、……きっと、凄く大きなところの提督さん、なのかにゃあ?

「中将がどうのこうの言っていたな。実績を重ねて昇進したのであろう。

 元より南北朝時代を駆け抜けたやつだ。自ら戦場で、前線を駆け続けた男が行う指揮が、現代を生きる者たちに劣るとは思えぬ」

「ふえぇえ、凄いんだあ。………………た、為朝さんより凄いの?」

 おじさまの部下の為朝さん。すっごく強いの。

「どうであろうな?

 真っ向から戦えば為朝が負けるとは思えぬが、提督としての腕なら為朝に勝るであろう。何せあやつ、前線行きたがるからな」

「そうなんだ」

 と、

「かつて、源氏の最強と謳われた源為朝と比較されるとは、光栄だ」

 男の人の声、それと、「武蔵?」

「睦月、……深海棲艦、か」

「あ、う」

 思わず、身構える。だって、武蔵さんは艦娘、だよね。

 ひょっとして、睦月の事、敵、って見ちゃうの、かな?

「と、すまない。

 深海棲艦の事は提督から聞いている。手を出すつもりはない。艤装も持ち込んでいない」

 両手をあげる武蔵さん。……大丈夫、だよね。

「艦娘なら他にもいよう? なぜいきなり警戒する」

「あ、……え、えーと、……にゃ、にゃははー」

 だって、改めてこうやって艦娘と向き合うのは、初めて、な気がしたのです。

 屋台の艦娘は、……あんまり意識してなかったにゃしぃ。

「確か、……新田義興だったな。

 あの小童の子飼か」

「そう、……だが。」

 首を傾げる、……ええと、義興、さん?

「提督?」

「いや、……翼を持つ睦月型の事は聞いている。

 だが、君は?」

「顕仁」

 つまらなさそうに、応じるおじさま。

「そう、……か。

 鳶の姿をしていると聞いていたが」

 おじさまは溜息。睦月の頭を軽く撫でて「彼女といるのだ。ならばあわせるべきであろう」

「提督、この子供と知り合いか?」

「…………無礼が」

 おじさまは不機嫌そうな声で、手を振る。途端。

 地面に、赤い、文字が描かれた。

「な? これは、なんだ?」

「血書経、か」義興さんは溜息「すまない、部下の非礼を詫びよう」

 頭を下げた。おじさまは溜息。地面の文字が消える。

「提督?」

「武蔵、彼は主君の賓客だ。

 無礼のないようにしろ」

「そう、……か?

 確かに、提督の主は幼い少女の姿をしているか」

 納得をする武蔵さん。

「あの小童と一緒にするな馬鹿者」

「小童、………………いや、確かにそうか。

 すまない」

 義興さんは苦笑、軽く首を横に振って「武蔵、行くぞ」

「あ、……ああ、解った」

「二人も、是非楽しんでいってほしい」

「言われるまでもない。行くぞ、睦月」

「うん」

 

「おじさまって、偉い、人、なの?」

「うむ?」

 義興さんたちと別れて、ふと、気になった事。

 睦月、……その、あんまりおじさまの事知らないの。

 昔の事、おじさまは自分から話してくれない。その話題は避けてるの。

 為朝さんはおじさまが許可を出さないと話す事は出来ない、って、教えてくれないの。

 意地悪、とは思わないよ。睦月も、艦娘だったころの事はあまり思い出したくないし。……だから、ちょっと後悔。

 聞いちゃ、だめだった、かな?

「偉いか? ふむ、……いや、そんな事はないな。

 ただ一つの魔縁だ。為朝は私の部下と言っているが、生前の関係を尊重しているだけだ。他の者も、な」

 そう言って、おじさまは少し、困ったような表情。

「私の事が、気になるか?」

「…………う、……うん」

 たぶん、触れちゃいけない事、かもしれない。けど、……けどね。

 睦月はおじさまの手を握るの、ぎゅって。

「睦月、おじさまね、大好きなの。

 だから、おじさまの事、もっと、知りたいの。……けど、おじさま、嫌じゃない?」

「嫌に決まっておろう? 思い出したくもない」

「…………うん、ごめんね」

 即答、そうだよね。……けど、おじさまは睦月を撫でてくれて、

「そうだな、皆には一度話しておこうと思った事だ。

 よい機会だ。話しておくか。だが、」

 困ったような表情で、

「あまり、気持ちのいい話ではない。

 覚悟しておけ」

 

 そして、語られるおじさまの過去。

 父から疎まれて、弟と敵対して、……流されて、死んだ過去。

 永い、失意の時間。

 

「……おじ、さま」

 睦月達なんかより、ずっと、ずっと辛い過去。

「まあ、そんな昔があったと言うだけだ。

 あまり暗い顔をするな、睦月」

「け、けどぉ」

「………………以前、そなたらは言ったな。私に救われた、と」

「う、……うん」

 みんなで深海棲艦になって、言仁君の都にいた時。

 外に出るのが怖くて、家の中で震えていた時。……そんな睦月達を連れ出してくれたおじさま。

 最初は怖かった。嫌だった。けど、

 

 大丈夫だ。

 

 そう言って、箱の中から睦月達を引き上げてくれた。

 怖かった。嫌だった。……けど、それ以上に、睦月達の背中を押してくれた事、箱の外に出してくれた事が、嬉しかった。

 おじさまに救われた。睦月達はみんなそう思ってる。

 

「それは私もだ。

 ずっと、ともにいたいと思える家族と出会えた。それにどれだけ救われたか。

 確かに私はかつて、帝位にあった。だが、その過去よりも、そなたらと一緒にいる今の方が大切でな。昔は、偉かった、など気にするな。今まで通りのそなたらでいて欲しい。だから、」

 撫でてくれた。

「私の傍で笑っていて欲しい。私にとって、それが何よりも嬉しいのだ」

「…………う、……」

 涙が零れる。それがなんでなのか、睦月にも解らない。……けど、

「はいっ、おじさまっ」

 

「さて、また散策しようか。

 一応、奥まで行ってみよう。一番奥には西行庵がある。とりあえずはそこを目指してみるか。……睦月、結構歩くが構わぬな?」

「もっちろんっ! 睦月、おじさまと一緒ならどこまでもいけるのですっ!」

 むしろ、どこまででも一緒に行きたいっ! …………あ、

 そうだよね。一緒に、隣を歩いてくれるのなら。

「あの、おじさま」

「ん?」

「手、繋いでもいい?」

「構わぬ」

 と言っておじさまは手を握ってくれる。……けど、もうちょっと、我が侭。

「あ、あのねっ、おじさまっ!」

「う、うん? どうした?」

 思わず上擦っちゃった声。おじさま少し驚かせちゃった。

「手、手のつなぎ方、ちょ、ちょっと違う、のですっ!」

「…………は? 種類があるのか?」

「そうなのですっ! なのですっ! なのですっ!」

「落ち着けいいから。

 だが、私は初耳だ。どういうのがあるのだ?」

「え、えと、……こ、こうっ、掌を合わせて、」

「う、うむ?」

 困ったような表情のおじさま。手を取って、掌を合わせて、指を絡めるように、…………と、大鳳の乙女漫画に描いてあった。

 …………と言うか、このつなぎ方、とてもとても恥ずかしいのです。

「ふーむ?」睦月と繋いだ手をまじまじと見ていたおじさまが「これ、……どういう時にやるのだ?」

「か、家族っ! 家族と手をつなぐ時はこうするのっ!」

「そうか、知らなかったな」

 ふむ、と納得するおじさま。ちょっとだけ痛む睦月の良心。

 えーと、これは「こ、恋人繋ぎデスっ?」

「はっ?」

「あ、こんにちわ。おじさん。

 その姿は珍しいね」

「言仁か、そなたもいたのだな」

「まあ、尊治主催のお花見だし、興味あるからね」言仁君は振り返って「特に、長門と翔鶴は艦娘、生者だから聞いておいて欲しかったんだ」

 と言う言仁君、一緒にいるのは金剛さんと大鳳さん、深海棲艦のお友達。

 それと、翔鶴さんと長門さん。……は、睦月、あんまり会ってない。艦娘みたいだけど。

「ふむ、確かにそうだな。が、どうせそなたは傍観するつもりであろう?

 好き好んで、……あの豊浦にまで助力をさせて異界構築したそなたが、積極的に関わるとは思えぬが」

「ま、基本的にはね」

 は、いいとして、

「睦月っ、それは、あの、で、伝説の、こ、ここ、恋人繋ぎ、デス?」

「そうね、私も実際にやっているところは初めて見たわ。……凄い、睦月、負けを認めるわ」

 ……金剛さんと大鳳さんに慄かれたのです。

「金剛、……なんというか、テンションあがっている時に申し訳ないが、知り合いか?

 見たところ、睦月は深海棲艦のようだが」

 長門さんの問いに頷く。言仁君はふと気付いたように視線を向けて、

「長門と翔鶴は初見かな?

 睦月と、おじさん。僕と同じ魔縁で、……えーと、僕の何代前だっけ?」

「五、だな」

「………………僕のおじいさんを数えてないよね。おじさん。

 六代じゃないの? 確か」

「あの天狗は数に入らん」

「天狗?」

 って、なんだっけ?

「僕のおじいさんだよ。父方の。天狗っていうのは頼朝が呼んだってだけ、ちゃんと雅仁って名前あるからね。おじさん。

 僕は清盛おじいさんのところにいる事が多かったからあまり会わなかったけど、たまに会うと今様とか聞かせてくれて楽しかったな。

 で、おじさんの弟だよね?」

「……知らん。あやつの事は思い出したくもない」

 苦い表情のおじさま。……その人の事、苦手、なんだよね。

「え? 提督って、おじさんと親族なのですか?」

 大鳳さんは驚いて問いかけ、言仁君は頷いて「そうだよ? 正確には伯祖父さん。面倒だからおじさんって呼んでたけど」

「てっきり、愛称かと思っていました」

「まあ、魔縁になってまで血縁なんて持ち出しても面倒なだけだし、愛称でいいよ。

 ともかく、そんな人、……じゃないね。そんな魔縁」

「そうか、はじめましてとなるな。

 私は長門、今は言仁の都で世話になっている。彼の勧めで宴会には参加してみた。それと、…………翔鶴?」

 それと、もう一人。翔鶴さんはとろんとした表情で、

「提督と、恋人繋ぎ、……素敵、です」

「………………翔鶴だ」

「そうか、私の名は顕仁。言仁の都には、気が向いたら顔を出す程度だが、縁があったら会う事もあるだろう。…………それはよい、それで、睦月」

「にゃっ?」

 な、なんか、おじさまにじとっとした視線を向けられたのですっ!

「手の繋ぎ方だが?」

「にゃ、…………にゃはは、……だ、だめ?」

「…………よい、構わぬ。

 が、先に家族で、と言った事は追求するぞ?」

「ふええぇえっ! あ、あのっ?」

 そ、それは、えと、…………その、

「ちょ、ちょっと恥ずかしかった。にゃ、あ」

 恋人、っていう響きは、嬉しいけど、恥ずかしい、にゃあ。

 と、おじさまはくつくつと笑って、

「子供かと思っていたが、恥ずかしい、か。

 それでよい。安心せよ、離すつもりはないからな」

「や、」

「や?」

「やったーっ! ありがとおじさまっ! 大好きーっ!」

 手を離すのは残念、だけど、おじさまをぎゅっとする事が優先なのですっ!

「っと、……いきなり抱きつくな馬鹿者」

「うー」

 困ったように抱きとめて、頭を撫でてくれたのです。睦月、感激っ!

 

「羨ましすぎるデスっ! テイトクっ! ワタシも恋人繋ぎをお願いしマスっ!」

「て、て、提督っ、あ、あの、手、手を繋いでも、いい、ですか? 睦月と同じ、やり方でっ!」

「あの、…………その、…………て、提督、こ、恋人繋ぎを、お願いしても、よろしい、ですか?」

「…………なんでもいいが、言仁の手は二つしかないぞ」

 

「ここまで来ると、人も少なくなるね」

 桜もなくなって、木々が多くなってきた。そんなところ、吉野の中でもいっちばん奥ー、の方。

「そうだな。もっとにぎやかな方がよいか?」

 問いに、睦月はふるふると首を横に振る。確かに、賑やかなところは好きなのです。けど、

 けど、静かなところでおじさまと二人きり、も、……いいのです。

「えっと、西行庵、だっけ?」

「そうだ。と言っても小屋だがな。

 知人がこの山奥に籠っていてな」

「知人?」

「西行法師」

「法師? ……えーと、お坊さん?」

 確か、そういう意味だよね? 睦月の問いにおじさまは苦笑。

「一応、な。……何なのであろうなあやつは。

 歌人か、旅人か、……あまり仏教徒と言う感じはせぬな。…………当人に問えば旅人とでも答えるであろう。

 一所にとどまらずあちこちをふらふら歩いては歌を詠んでいた。そんな男だ」

「そうなんだあ」

 旅人さん。……睦月も、ちょっと憧れる、かも。

 おじさまに連れられて見てきたたくさんの風景。今までは、連れ出されるだけ、だったけど、

 いつか、自分の大好きな景色を見つけて、おじさまに見せてあげたい。……なんて、そんな睦月達の夢。

「さて、」うん、とおじさまは一つ伸びをして「少し休むか。…………そうだな、その辺りならいいか」

 おじさまが示した先は、柔らかそうな草が生えてる木陰。

「そこなら座っても汚れる事はなかろう。

 睦月、構わぬか?」

「うんっ」

 おじさまは軽く木に背を預けるように座る。そして、

「えへへー」

 睦月はおじさまの隣に、隣。……おじさまとくっついちゃうくらい、近くに座っちゃった。

 おじさまは一度睦月を見て、微笑。なにも言わずにまた視線を戻した。

 ほう、と一息。

「涼しいねー」

「そうだな。まだ、桜の咲く季節だ。木陰は居心地がよいな」

「…………う、うん」

 居心地いいよ。うん、睦月も、ずっとここにいたいくらい。

 木漏れ日と、さわさわと吹く風。…………そして、

「えへへー」

 こてん、と。首を横へ。

「睦月?」

「え、……えーとね。睦月、ちょっと疲れちゃったの、です」

「そうか、なら、ゆるりと休むがよい。

 どうせ、ここには誰も来なかろう。寝顔を晒しても構わぬぞ」

「はーい、……にしし、おじさまにだったら寝顔見られてもいいにゃあ」

「寝たら適当なところで起こす。文句言うなよ」

「おはようのキス大歓迎にゃ」

「馬鹿者、さっさと寝てろ」

 手を伸ばして撫でてくれた。それが心地よくて、目を閉じました。

 

 目を開ける。……あんまり、時間も経ってない?

 目を閉じる前と変わっているところはなさそう。……強いていえば、一つ。

「ふぇええ」

 お、……おじさまの、寝顔。

 木に背を預けて、目を閉じて小さな寝息。いつも寝ているときは鳶の姿で、起きているときはしゃんとしているから、こういう無防備なおじさまを見るの、初めて、かも。

 ちょ、……ちょっと、可愛い、かも。近くにある大好きな人の寝顔、……ど、どきどきする、にゃあ。

 え、……ええと、右、よし、左、よし、胸に手を当てて、深呼吸。おじさまが起きないように、そっと離れて、

「…………ごめん、ね。……おじさま」

 顔を寄せて、………………

 

「ん、……寝てしまった、か」

「あ、ああ、お、おお、おはようっ! おじさまっ!」

「睦月? ……すまぬな、私が寝てしまったか。

 …………あまり、時間は経っていないようだが」

 軽く目をこすって空を見上げるおじさま。

「そ、そうみたいだよねっ! うんっ!」

「…………まあ、よい。

 睦月、では戻ろうか」

「うんっ、が、頑張って戻りましょーっ?」

「何を頑張ると言うのだ?」

 おじさまはそう言って立ち上がって、手を差し出して、

「行くぞ。まだこの程度では土産話も足りぬであろう」

「う。うんっ」

 さっきの事を思い出した顔が熱くなるけど、……けど、

 差し出されたおじさまの手を取って、手をつないで、また、睦月はお花見デートに戻りました。

「じゃ、じゃあっ、午後も、たくさん楽しんで行きましょーっ!」

 

 おじさまと一緒にお花見デート。たくさん、たくさんお土産話を持って帰る。……けど、もちろん、…………おじさまにした事は、睦月だけの、秘密、です。

 

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