深海の都の話   作:林屋まつり

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七話

 

「やっほーっ! 皆のアイドル、那珂ちゃんだよーっ!」

「出やがりましたね、なかちまん」

「…………げっ」

 ロープウェイから降りて、待っていたのは満面のアイドル的な笑顔を浮かべる艦娘。彼女を見て苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる清海。

「なかちまんがいるって事は、……亜紀もいるの?」

「っていうかっ、那珂ちゃんの事をなかちまんって言わないでっ!」

「ふはっ!」

「今更笑うのっ? 何この時差式の苛めっ! 那珂ちゃんびっくりだよっ!」

 噴いた山城に叫ぶなかちまん。

「落ち着きなさい。那珂。

 貴女はいじられてこそ華なのよ。それが、アイドルの花道なのよ」

「聞いた事ないよそんなのっ! アイドルってちやほやされるためにいるんじゃないのっ!」

「なにか、意味不明な事をほざいていますが、どうしましょう?」

 扶桑が問うた先、清海は拳大の石を見つけてペンとともに那珂に差し出す。

「なになに? ひょっとしてサインっ?

 もー、そういうのは提督を通してくれなくちゃー、今回は特別だよー」

 那珂は自分の名前を石に書く。石にサインをお願いする人、初めて見た。

 清海はサイン入り石を受け取って、曙に渡す。

「曙、亜紀がいたらこれで撲殺しなさい。

 大丈夫、凶器には自筆の名前が書いてあります」

「わかったわ」

 無表情のまま石を握って素振りを始める曙。那珂が慄く。

「なんで那珂ちゃんが提督を殺した事になるのっ? …………って、ひゃあっ? 深海棲艦がいるっ!」

「…………ああもう、何を突っ込めばいいのかわからないわ」

 

「尊治ちゃんのところだね。

 こっちだよー、那珂ちゃんについてきてねー」

「尊治、ちゃん?」

 ともかく、那珂の後ろについて皆で歩く。……どうも、いじられ役が定着しているのか、清海と曙、山城と扶桑から攻撃を受けて、そのたびにアイドル的なそれなりのリアクションを返して和まれてるなかちまん。

 そうか、これがアイドルというものなのね。……なりたくないわ。

「……それにしても、見事、デス」

 辺りを見渡しながら金剛。言仁君も頷いて「吉野千本桜、交通の便が悪いから観光地としては衰退したけど、花の美しさは変わらないよね」

「凄いですね」

「こんなにも、美しいところがあるのだな」

 翔鶴と長門も見事に見入ってる。まあ、当然よね。ここは、それだけの意味がある。

「艦娘とも深海棲艦とも無縁の光景よね」

 ここは山。海に生きる私達がいる場所じゃない。……けど、まあ。

「ここがお花見の会場、ですね?」

「そうだね。いろいろ準備もしてあるみたいだし」

 辺りを見渡しながら応じる言仁君。茣蓙みたいなのが敷いてあって、料理が並んでて、「お酒、ね?」

「の、飲みませんっ!」

 横目で見て笑うと顔を赤くする翔鶴。また脱いだら大変だもんねー

「お酒ね。私達は飲んだ事ないけど、美味しいのかしら?」

「気をつけなさい。脱ぎ始めたりする場合があるから」

 一歩遅れて並んだ扶桑に応じる。「そんな事するの?」

「実例」「実例」

 私は翔鶴を、大鳳は金剛を示す。

「もう飲みませんっ!」「飲んだりしないデスっ!」

「あ、……そうなんだ。

 よければ、あとで一緒に飲もうって思ったんだけど、都に戻ってから、…………あの、だめ?」

 ちょっと残念そうに言仁君。困ったように見上げたので金剛と翔鶴が中破した。

 まあ、それはともかく、

「あの子が、都の長ですか?」

「ええ、そうよ。

 言仁君、魔縁の一人だから、怒らしてはだめよ?」

「個人で艦娘や深海棲艦を打破できる規格外、ですね。

 解ってます。何度も警告されましたから」

「それで、貴女も都に興味あるの?」

「興味はあります。

 けど、それよりなすべき事がありますから」

「深海棲艦の撃滅?」

 問いに、まさか、と扶桑は肩をすくめて、

「違います。

 民を護る事、それこそ私達軍船に課せられた使命でしょう」

「…………じゃあ、深海棲艦が撃滅して、民への脅威がなくなったら、自沈でもするの?」

 問いに、扶桑は困ったように微笑む。

「戦う必要がなくなったら、妹とその都に行こうかなと思っています。……自沈するのも嫌ですし、過ぎた兵器として処分されるのも、ごめんです」

「それがいいわね」

 やるべき事をやったら、平穏なところで暮らす。……それが、一番いいのかもしれない。

 私の、やりたい事は? …………溜息。

「提督も、この事を勧めるために都の事を知りたがっているのかもしれません」

「そ、……まあ、移住は言仁君に聞くことね。

 彼が都の主だし」

「ええ、そうします」

 と、そろそろね。

「みんなーっ、あそこが尊治ちゃんのいる金峯寺だよー」

 那珂の声に言仁君が頷く。さて、それじゃあ、悪の秘密結社、その長に会いに行きますか。

 

 で、その前に、

「は。榛名っ?」

「え、…………金剛お姉さまっ!」

 着物姿の榛名がいた。金剛が彼女に駆け寄る。……そういえば、妹だったわね。

「榛名っ! 嬉しいデスっ! 会いたかったデスっ!」

「お姉さま、……榛名も、金剛お姉さまにはお会いしたかったです」

 抱き合って再会を喜ぶ金剛と榛名。……うん、いい光景ね。

 しばらく再会を喜び、「テイトクっ!」

「どうしたの? 金剛」

「ワタシっ! 榛名と一緒に暮らしたいデスっ!

 榛名を都に呼んでもいいデスカっ?」

「え?」

 榛名が困ったような表情。いつもなら気付くのだろうけど、喜色満面の金剛は気付かず、

「姉妹で仲良く暮らすか。よいな。…………が、それは私が許さん」

 するり、と。

「あ?」「ひゃっ?」

 気がつけば榛名は金剛の腕の中ではなくて、

「金剛だったな。

 榛名から聞いているぞ。よき姉だそうだな。……だが、ここから連れ出すなど許さん。榛名は私のものだ。そなたに渡すつもりはない」

 兇悪な笑みを浮かべる少女。その腕の中には榛名がいる。

「な、だ、誰デスっ!」

「尊治、宴の主催者だ。

 そして、榛名の主。……そう、榛名は私のものだ。この美しい姿も、優しい心も、全部な。手放すつもりは、ない」

「な、な、な、…………は、榛名あ」

 あー、だめね。見込みないわ。だって榛名、完全に目がとろんとしてる。

「ごめんなさい、金剛お姉さま。

 お気持ちは嬉しいのですが、…………榛名は、……主様に己を捧げました」

「は、……あ、あう、あう、…………」

 がたがたし始める金剛。そして、

「ふぁーんっ! 榛名が変な女の子に寝取られたデスっ!」

「寝取、……って、金剛お姉さまっ!

 寝取られたってなんですかっ! 榛名は主様と、健全な御付き合いをお願いしたいですっ!」

「…………同性よね?」

「まあいいのではないですか?」

 あ、

「やっほ、くれは」

 言仁君に抱きついて泣き始める金剛を横目に、知り合いに挨拶。

「テイトクーっ! 榛名が変な女に寝取られたデスっ!」

「だ、だからっ! 金剛お姉さまっ、寝取られたってどういう事ですかっ!

 っていうか、主様を変な女って呼ばないでくださいっ! 榛名にだって許せない事がありますっ!」

「…………なあ、榛名」

「は、はいっ、主様っ! ちょっと待ってくださいっ!

 金剛お姉さまは榛名が御説教しますっ! 主様の事を変な女だなんて失礼な言い方した事、たくさんたくさん叱りますっ! 榛名っ、頑張りますっ!」

「…………まあ、よいが。

 ねとられる、とはどういう意味だ?」

「ひゃふっ? い、いい、い、意味、意味ですかっ? え、ええと、」

 …………うん、まあ、説明しにくいわよね。

 ちなみに、言い出しっぺの金剛は言仁君に抱きついてめそめそしている。大鳳が処置なしとため息をついた。

「ねとられる、……ねと、る? ねと? ……ね、とる? …………ううむ、難解な日本語だな」

「主君、どうしたのですか?」

 五月雨がぱたぱたと駆け寄ってきた。尊治君は首を傾げて「榛名がねとられたと言われてな。どういう意味なのだ? 榛名は知っているようだが、五月雨は知っているか?」

「いえ、すいません。

 あ、あの、榛名さん。どういう意味ですか?」

「へっ? …………あ、あの、ほ、鳳翔に聞けば解りますっ!」

「うむ? では鳳翔に聞きに行くか。

 五月雨、来るがよい。一緒に聞いてみよう」

「はいっ」

 …………とりあえず鳳翔に合掌をして、

「久しぶりね。榛名。

 あのときは挨拶なんてしなかったけど」

「知り合い?」

 大鳳の問いに「ちょっとね」と応じる。榛名は少し厳しい表情。

「そう、……ですね。お久しぶりです。

 感謝、するべきですね」

「必要ないわ。気に入らないものを潰しただけだもの。

 その様子なら南朝にも馴染んだみたいね。一応、縁のあった身としては嬉しいわ」

「…………どうも」

 ぎこちないわねえ。

「そうですね。榛名達はいろいろと頑張ってくれているので、助かっています」

 穏やかに応じるくれは。榛名は少しほっとした表情で「はい、助けてもらった恩義、榛名、全力でお返ししますっ!」

「ふあーんっ、榛名があ、悪の秘密結社で悪堕ちしたデスっ!」

「っていうか、金剛お姉さまっ! さっきから変な事言わないでくださいっ!

 悪堕ちもヤンデもいませんっ! 榛名は健全ですっ!」

「だって、だってぇえ」

「……金剛も落ち着いて、金剛だって尊治のところに来いって言われても、いやでしょ?」

「うぅう、イヤデス。ずっとずっと大好きなテイトクのところにいたいデス。

 テイトクから離れるなんて考えたくもないデス」

「そうだね。僕も尊治と同じ、大切な金剛を手放すつもりはないよ。

 だから、あの娘を困らせちゃだめだよ」

「…………うう、わ、解ったデス」

 そして、とぼとぼと榛名のところへ。

「とっても残念デスケド、お互い、大切な人が、…………榛名、なんで震えてるデス?」

 がたがたと震える榛名。そして、

「金剛お姉さまがショタコンになってましたっ!」

「ロリコン榛名に言われたくないデスっ!」

「ろ、ロリコンってなんですかっ!

 先日、主様と湯浴みをした時、榛名見ましたっ! 主様、小柄なのに、とてもスタイル良くて、美しかった、……ですっ! 主様は小柄であっても幼児体型ではありませんっ!」

 頬を染めて、それでも胸を張る榛名。金剛が膝をついた。その心情、あまり察したくないわ。

「…………ねえ、どっちが問題あると、」と視線を向けた先にいたのは扶桑だったので「……こっちはだめか。ねえ、くれは、どっちが問題あると思う?」

「だめかって、どういう意味ですか?」

 シスコンは黙りなさい。

「私は、個人の趣味には寛大でいようと思います」

 巻き込むな、と鉄壁の微笑でくれはは告げた。

 で、程なく尊治君と五月雨は、弓と矢を持った鳳翔と一緒に戻ってきた。鳳翔は榛名に矢を向け、弓を引く。

「って、え? な、何ですか?」

「榛名さん、尊治様に変な事を吹き込まないでくださいね。

 寝取るとはどういう意味ですかとか、真顔で聞かれる身にもなってください」

 にっこり笑顔。榛名が慄く。そして、尊治君はびしっ、と金剛に指を突き付ける。

「金剛っ! それは誤解だっ!

 私は榛名を寝取ったわけではないっ!」

 大声で言わないで欲しい。

「尊治、それで、ねとったってどういう意味?」

「えろい事をして籠絡したという意味らしい。

 日本語は難しいなっ」

「…………鳳翔、榛名はもうちょっとオブラートに包んだ方がいいと、……ご、ごめんなさいっ!」

 圧倒的重圧で榛名を睨む鳳翔。

「えろい事はしていないな。

 ただ、我が侭を言ってみろと言ったら添い寝を頼まれてな。別に構わないが、脱いでたのは少し驚いたなっ!」

「へあっ?」

 大鳳と視線を交わす。その意思は同じ、つまり、…………お前もか。

「………………榛名さん」

「な、なな、なんですかっ! 鳳翔っ!」

「榛名さん、大胆ですっ!」

「そ、そんな事ありませんっ! 普通ですっ! そうですよねっ、金剛お姉さまっ!」

「of Course、普通の事デスっ!

 大好きな人と直に触れ合いたいというのは、当たり前の事デスっ!」

「はいっ、金剛お姉さまっ!」

 がしっ、といやなところで和解を果たした姉妹。

「ま、いろいろ順番が滅茶苦茶になったけど、遊びに来たよ。尊治」

 ひらり、言仁君は手を振った。尊治君は頷いて、

「うむ、歓迎しよう。

 しばらく宴席を楽しむがよい。……で、夜祭の前に、話がある。午後、そうだな三時ごろに我が宮に来い」

「了解、……それじゃあ、しばらく遊ぼうか」

 

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