「それにしても、ほんと、見事なものねえ」
「同感だ。これならすいを連れてきてもよかったな」
途中でみつけたみずとふらふらと宴席を歩く。「お酒、飲める?」
「大丈夫だ」
「じゃ、もらいましょう」
つい、と指先で示した先。幼女が酒配ってた。
「こんにちわ、電ちゃん。お酒くれるの?」
「ひゃっ、戦艦棲姫、なのですっ!」
「電、相手はお客さんですよ」
「あ、そうなのですっ!」
「こんにちわ、いぶき、みず」
電ちゃんと、初霜ちゃん。
「ええ、こんにちわ。
電ちゃん、一本いただけるかしら?」
「私ももらおう」
「あ、はい、なのです」
おずおずと差し出されるお酒の小瓶。す、とそれを通り過ぎて、
「あ」
「ありがとう。お仕事頑張ってね」
さらさらと、髪を撫でる。電は一度眼を見開いて、それから心地よさそうに目を細める。
「電、彼女はいぶき。
たくさんの姫や鬼からも慕われてる深海棲艦です。とても頼りになります」
「そ、そうなのですか?」
頼りにされてもね、と内心で苦笑。……まあ、初霜ちゃんや電ちゃんみたいに、可愛い女の子に頼られるのは悪い気はしないけど。
「どうかしらね? ただ、頑張ってる可愛い女の子は大好きよ。私。
だから、電ちゃんが頑張るなら、応援するわ」
撫で撫で、電ちゃんはくすぐったそうにする。まあ、もっとも、
「実感わかないわよね。
とりあえず、この宴席にいる間は喧嘩はなしにするわ。だから、そんなに警戒しないでね」
「は、はい、なのですっ」
にこー、と微笑んでお酒を差し出す電ちゃん。やっぱり女の子の笑顔はいいわねえ。
「ありがと」「すまないな」
みずもお酒を受け取る。ほう、と電ちゃんは一息ついて、
「あ、あの、……お花見、楽しんでいって欲しいのですっ」
「ええ、そうね」「ああ、そうさせてもらう」
応じた。軽く手を振って歩き出す。
「ホストは、大島基地の艦娘か」
「そうみたいね」
海軍でも最大の規模を持つ基地。大島基地。
そこを治める提督は新田義興。海軍の中将であり、南朝の実力者。彼の所持する艦娘たちがいろいろと世話役らしい。
「ま、下手に人を起用されるよりは気楽よね」
「お前にとってはそうだろうな」
苦笑するみず。……ふと、
「そういえば、すいは?」
「泊地にいろいろため込んでもらっている。
どうせすぐに必要になるだろう」
「そうね。……ねえ、軍関係者、いると思う?」
区別はつかないな。
南朝の同調者が集まったとは思うが、…………だが、この場で暴れ出すようなものはいないだろう。
非武装など、名目と信条でしかない」
「ま、それもそうよね」
実際、それが実質的な拘束力になってるのは艦娘だけでしょうね。
深海棲艦は艤装をいつでも展開できる。魔縁に至ってはその存在自体が大量破壊兵器に匹敵する。
あの人の提督はその事が解っているのかしらね。
「いたら、敵対と思う?」
「さてな。《呪詛の御社》を軍部が保持しているのなら敵対するだろうが。……というか、深海棲艦がうろうろしているこの場で何もしなければ、それこそ軍属として問題だろう」
「……それもそうね」
問題ありそうな軍属はいたけど、おそらく抜ける前提ね。
「紛れ込んでいるか。……尊治はどういう基準で招待状をばら撒いたのか」
「さあ、知らないわ」
何も考えていない可能性が高いわね。「あ、たこ焼き」
「食うか?」
「食べる。……無料っていいわね」
「こっちは客分だろうからな」
たこ焼きを受け取る。「みずは?」
「食べる」
というわけでもう一つ。
「あと何かもらったら適当なところで一服しましょう」
「酒もあるしな」
そういう事。……というわけで、近くのお好み焼きを入手。桜の花の下、腰を下ろす。
「さて、…………」
ちん、と。小瓶を打ち合わせて、一口。
「ふぅ」
美味し。
「いろいろと苦労があるようだな。いぶき」
「ないわよ。私にはね。
好き勝手遊んでいるだけ、それが深海棲艦でしょ?」
「…………その割には面倒見がいいな」
「そういう性分なのよ。
みずも、私に甘えていいわよ? お姉さんって呼んでくれるのならね」
「ばばあ」
「フック」
失礼な言葉を告げた友人を打撃。
「…………止めてくれ、酒が零れる」
「それは失礼しました、と」
応じて酒を一口。美味しい。
「んー、……桜の花見ながら酒を飲むなんて、…………深海棲艦になって初めてね」
「私は艦娘時代を含めても初めてだ」
「ああ、それもそうね。同感、私もよ。多分。
けど、いいものねえ」
「こうしてのんびりするのも、か?」
「四六時中戦ってばかりというわけでもないわ。
楽しめることは楽しんだ方がいいんじゃない? やりたい事やるのと休息は、わけた方がいいと思うわ」
「あまり休息を取り過ぎると中毒を引き起こしそうでな」
「ああ、都にあまり近寄らないのって、それが理由?」
問いに、みずは頷く。
「なぜ、お前はそんなに人を憎んでいるのだ?」
やりたい事、やるべき事、その話をしていたからか。……そんな問いが出てきた。
なぜか、……か。
「好きな娘を泣かせたら、憎くなると思わない?」
「…………は?」
きょとん、とされた。けどまあ、仕方ないか。
「結局、その程度の私怨よ。幻滅した?」
「おおよそそんなものだろう。
他者の価値にとやかく言うつもりはない。その私怨とやらがお前にとってそれだけ大事なのだろう」
「大人な意見ねー」
「ばばあ程歳くっていないつもりだがな」
「フック」
打撃、……ちっ、防御された。
「最初期の艦娘、か」
「元々はね」
たこ焼き食べながら応じる。……懐かしい響き。あまり、嬉しくはない。
「今は一人の深海棲艦よ」
「皆の姉役か、ご苦労な事だ。
私には真似できないな」
「そういうつもりじゃないのだけどね。
ま、女の子の面倒をみるのは昔から慣れていたから」
「…………そうか、太古からの積み重ねか」
「……あんたね、一体私を何歳設定にしたいのよ?」
しんみりと呟くみずを半目で睨む。みずは頷いて「ばばあなら、なんでもいいと思う」
「ストレート」
打撃。
さて、早いけどお昼ご飯にしましょう。どうせお昼時は込むだろうし。
…………いや、屋台の買い食いで済ませばいいんだろうし、あんまり込まないかしら? ……まあ、いいか。
ともかく、ご飯出してくれると思しきログハウスへ。
「あ、いらっしゃいませ」
案の定、……っていうか。「早すぎた?」
準備中? 問いに、目の前にいる大和は首を横に振って「大丈夫ですよ」
「そ、ありがと」
それにしても、……何だろう。
「大和、ちょっとこっち、こっち来て、こっちっ、こっちっ!」
「な、……なんですか?」
手をわきわきさせると大和がじりじりと後退する。
「ちょ、ちょっと抱きしめさせて、ね」
「い、いや、……なんか、不安なので遠慮します」
「大丈夫、痛い事しないからっ! 幼女を抱きたいだけだからっ!」
「別にいいだろ。そいつそんな変な事しないだろうから」
ひょい、と出てきたエプロン装備の正成が援護射撃。私は頷く。
「はぁ、はぁ、大丈夫、痛くしない、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、痛く、しないから」
「その荒れた呼吸とか物凄く不穏ですっ!」
こほん。
「だって、大和すっごく可愛いんだもん。仕方ないじゃない。
正成だってそう思うでしょ?」
「ちびっちゃいからなあ。
あ、そうだ。いぶき、あれ面白かったぞ。ほら、大和って妹いるだろ? 坂東、……じゃねぇや、武蔵」
「正成っ!」
「あれな、小娘見てがくがくしたあと思いっきり抱きしめてたな。
小娘本気で窒息しかけてたな。顔青くなってたし」
「ああ、あれね。
私もうらの乳に挟まってみたら思いっきり抱きしめられてね。もう少しで凶器おっぱいで窒息死するところだったわ」
「なんだその爆笑の死に方っ」
言葉通り爆笑する正成。
「この、ばかっ!」
殴った。回避された。
「おっぱいは、…………凶器なのよ」
「深い言葉だな」
「そうね。深い言葉ね」
握手を交わす。変な目をした大和の振るう拳が握りあった手を打撃した。
「っていうか、正成が作ってるの?」
「あー、ものによってだ。
俺、小娘みたいな細かいのは苦手でな」
そう言ってどかんと載せられたのは、……なにか、焼いた肉を削ぎ落したやつ。
他に野菜や焼いた卵やら、あとはパン。
「ま、確かに簡単よね」
「そういう事だ。……小娘っ、ちとそっち任せた」
「はーいっ、早めに復帰してくださいね」
「へいへい」
「…………はあ、男か」
「悪かったな。男でよ」
パンに肉を挟み一口。
「正成が嫌いってわけじゃないんだけどね。
大和とお話したかったわ。あんなに可愛い女の子と一緒にいるなんて、贅沢ね」
「うるせ。……で、今回の花見、趣旨わかってるか?」
「《呪詛の御社》」
「そうだ」
「壊すつもりなのね。
その意味も解ってるんでしょ?」
「わーってる。だから主君もぶち壊そうとしてんだ。
あれは確かに、気にいらねぇな」
「貴方も同意見。……というか、南朝全体?」
「そうだな。
俺、護良、それと義興。……義興のところにいる艦娘たちも同意した。
で、お前らは?」
「私達深海棲艦が、あれを許せると思っているの?」
まあ、私は違うけどね。とはいえ、他の娘たちは許せないでしょう。
「ま、無理だろうな。
といってもなあ」
「まだ見つかってないの?」
椅子に背を預けて溜息をつく正成。私は少し呆れて問う。
「軍部が確保してるのはほぼ間違いない。
夕張のやつが気合入れてデータ銀蠅とか何とか言って探してるけど、……今のところそれだけだな。
それ探してくれるやつも募るんだろうけどな」
「状況が半端ねえ。……ああ、それを打開する為にお花見なんて始めたの」
「そーいうこった」
「ま、海の捜索ならやってやれない事はないわ。
けど、……場合によっては海軍と真っ向激突かあ」
「ま。そーなるな。
といっても海軍の大半は使い物にならないらしいし、陸軍は俺たちが相手するからなんとでもなるだろ」
「適当ねえ」
「はっ、最初はそんなもんだ。
目的決めて、方法決めたらあとはその場その場でなんとかなる。第一、わからねぇもんをうだうだ考えても仕方ないだろ」
「ちゃんと情報収集しなくちゃだめです」
とんっ、と大和が御冷やをおく、正成は軽く手を振って「っていってもなー、海軍はかなりざるなんだけど、陸軍が硬すぎんだよ。それに、海軍も鎮守府の情報はうさんくせぇ。夕張が持ってきたデータ、あれ、どこかに嘘があるな」
「そうですか?」
「勘だけどな。
ま、確かに小娘の言うとおりだが、あの情報に踊らされると面倒な事になる。考えないとな」
「大変ねえ」
考えなしに襲撃やら返り討ちやらしていた私には理解できないわ。
「いぶきには縁遠いですか?」
「そりゃあ、あんまり考えないで戦ってたし」
「深海棲艦って、気楽ですね」
「まあね。……ほら、大和も、お姉さんと一緒に気楽な深海棲艦になって、そこらへんうろうろしましょうよー」
「いえ、遠慮します」
ちぇ。……けど、そっか。
「南朝も大変ねえ」
「ま、主君の我が侭に振り回されんのはいつもの事だ」
けらけらと、正成は楽しそうに笑った。
と、
「大和はいるかっ!」
ずばんっ、と扉開いて武蔵降臨。
「いっ、……む、武蔵っ!」
「いたかっ、……ふっ、何度見ても愛らしい」
「あ、愛らしいってなんですかっ!
武蔵っ! 私は貴女の姉ですっ! 大和型の一番艦ですっ! その事をわきまえてくださいっ」
「ああ、ああもちろんわきまえているとも。
私にとって、大和は大切で、可愛くて、愛らしい姉だ。……さあ、一緒に遊ぼう、か」
「い、今は仕事中ですっ!」
武蔵に抱きしめられてじたばた暴れる大和。正成は「あー」と溜息。
「小娘、いい機会だ。矢矧と交代で休憩してろ」
「………………え、…………」
「あ?」
ふむ、私は立ち上がる。姉にへばりつく妹を一発小突く。
いいところに入ったのか変な声をあげて崩れ落ちる武蔵。彼女に抱きしめられていた大和を解放して、
「あ、じゃないわよ。
正成、働かせっぱなしで申し訳ないって思うなら、案内位してやりなさい」
「え? 必要なのか」
真顔で首を傾げる正成。…………溜息。
「ひーつーよー、なの。
いいから女の子のエスコート位してやりなさい」
「……はあ? …………ま、いっか。
んじゃ、行くか小娘」
「はいっ」
「頑張ってねー」
「休むのになに頑張るんだよ。
ちょっと待ってろ、矢矧と祥鳳に連絡するから」
「うん、……いい事をしたあとは気持ちが、………………武蔵?」
「あ、姉が、……大和が、…………うう、男と一緒に、いってしまった。
あんなに可愛らしいのに、……一緒に遊びたかったのに」
ロリコンでシスコンとか、面倒くさい。本気で泣きそうな彼女になにを言ったらいいものか、少し考えてたところで、
ばんっ! と、扉が開いた。
「一航戦、加賀、出撃しますっ!」
「帰れっ!」