深海の都の話   作:林屋まつり

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八話

 

「それにしても、ほんと、見事なものねえ」

「同感だ。これならすいを連れてきてもよかったな」

 途中でみつけたみずとふらふらと宴席を歩く。「お酒、飲める?」

「大丈夫だ」

「じゃ、もらいましょう」

 つい、と指先で示した先。幼女が酒配ってた。

「こんにちわ、電ちゃん。お酒くれるの?」

「ひゃっ、戦艦棲姫、なのですっ!」

「電、相手はお客さんですよ」

「あ、そうなのですっ!」

「こんにちわ、いぶき、みず」

 電ちゃんと、初霜ちゃん。

「ええ、こんにちわ。

 電ちゃん、一本いただけるかしら?」

「私ももらおう」

「あ、はい、なのです」

 おずおずと差し出されるお酒の小瓶。す、とそれを通り過ぎて、

「あ」

「ありがとう。お仕事頑張ってね」

 さらさらと、髪を撫でる。電は一度眼を見開いて、それから心地よさそうに目を細める。

「電、彼女はいぶき。

 たくさんの姫や鬼からも慕われてる深海棲艦です。とても頼りになります」

「そ、そうなのですか?」

 頼りにされてもね、と内心で苦笑。……まあ、初霜ちゃんや電ちゃんみたいに、可愛い女の子に頼られるのは悪い気はしないけど。

「どうかしらね? ただ、頑張ってる可愛い女の子は大好きよ。私。

 だから、電ちゃんが頑張るなら、応援するわ」

 撫で撫で、電ちゃんはくすぐったそうにする。まあ、もっとも、

「実感わかないわよね。

 とりあえず、この宴席にいる間は喧嘩はなしにするわ。だから、そんなに警戒しないでね」

「は、はい、なのですっ」

 にこー、と微笑んでお酒を差し出す電ちゃん。やっぱり女の子の笑顔はいいわねえ。

「ありがと」「すまないな」

 みずもお酒を受け取る。ほう、と電ちゃんは一息ついて、

「あ、あの、……お花見、楽しんでいって欲しいのですっ」

「ええ、そうね」「ああ、そうさせてもらう」

 応じた。軽く手を振って歩き出す。

「ホストは、大島基地の艦娘か」

「そうみたいね」

 海軍でも最大の規模を持つ基地。大島基地。

 そこを治める提督は新田義興。海軍の中将であり、南朝の実力者。彼の所持する艦娘たちがいろいろと世話役らしい。

「ま、下手に人を起用されるよりは気楽よね」

「お前にとってはそうだろうな」

 苦笑するみず。……ふと、

「そういえば、すいは?」

「泊地にいろいろため込んでもらっている。

 どうせすぐに必要になるだろう」

「そうね。……ねえ、軍関係者、いると思う?」

 区別はつかないな。

 南朝の同調者が集まったとは思うが、…………だが、この場で暴れ出すようなものはいないだろう。

 非武装など、名目と信条でしかない」

「ま、それもそうよね」

 実際、それが実質的な拘束力になってるのは艦娘だけでしょうね。

 深海棲艦は艤装をいつでも展開できる。魔縁に至ってはその存在自体が大量破壊兵器に匹敵する。

 あの人の提督はその事が解っているのかしらね。

「いたら、敵対と思う?」

「さてな。《呪詛の御社》を軍部が保持しているのなら敵対するだろうが。……というか、深海棲艦がうろうろしているこの場で何もしなければ、それこそ軍属として問題だろう」

「……それもそうね」

 問題ありそうな軍属はいたけど、おそらく抜ける前提ね。

「紛れ込んでいるか。……尊治はどういう基準で招待状をばら撒いたのか」

「さあ、知らないわ」

 何も考えていない可能性が高いわね。「あ、たこ焼き」

「食うか?」

「食べる。……無料っていいわね」

「こっちは客分だろうからな」

 たこ焼きを受け取る。「みずは?」

「食べる」

 というわけでもう一つ。

「あと何かもらったら適当なところで一服しましょう」

「酒もあるしな」

 そういう事。……というわけで、近くのお好み焼きを入手。桜の花の下、腰を下ろす。

「さて、…………」

 ちん、と。小瓶を打ち合わせて、一口。

「ふぅ」

 美味し。

「いろいろと苦労があるようだな。いぶき」

「ないわよ。私にはね。

 好き勝手遊んでいるだけ、それが深海棲艦でしょ?」

「…………その割には面倒見がいいな」

「そういう性分なのよ。

 みずも、私に甘えていいわよ? お姉さんって呼んでくれるのならね」

「ばばあ」

「フック」

 失礼な言葉を告げた友人を打撃。

「…………止めてくれ、酒が零れる」

「それは失礼しました、と」

 応じて酒を一口。美味しい。

「んー、……桜の花見ながら酒を飲むなんて、…………深海棲艦になって初めてね」

「私は艦娘時代を含めても初めてだ」

「ああ、それもそうね。同感、私もよ。多分。

 けど、いいものねえ」

「こうしてのんびりするのも、か?」

「四六時中戦ってばかりというわけでもないわ。

 楽しめることは楽しんだ方がいいんじゃない? やりたい事やるのと休息は、わけた方がいいと思うわ」

「あまり休息を取り過ぎると中毒を引き起こしそうでな」

「ああ、都にあまり近寄らないのって、それが理由?」

 問いに、みずは頷く。

「なぜ、お前はそんなに人を憎んでいるのだ?」

 やりたい事、やるべき事、その話をしていたからか。……そんな問いが出てきた。

 なぜか、……か。

「好きな娘を泣かせたら、憎くなると思わない?」

「…………は?」

 きょとん、とされた。けどまあ、仕方ないか。

「結局、その程度の私怨よ。幻滅した?」

「おおよそそんなものだろう。

 他者の価値にとやかく言うつもりはない。その私怨とやらがお前にとってそれだけ大事なのだろう」

「大人な意見ねー」

「ばばあ程歳くっていないつもりだがな」

「フック」

 打撃、……ちっ、防御された。

「最初期の艦娘、か」

「元々はね」

 たこ焼き食べながら応じる。……懐かしい響き。あまり、嬉しくはない。

「今は一人の深海棲艦よ」

「皆の姉役か、ご苦労な事だ。

 私には真似できないな」

「そういうつもりじゃないのだけどね。

 ま、女の子の面倒をみるのは昔から慣れていたから」

「…………そうか、太古からの積み重ねか」

「……あんたね、一体私を何歳設定にしたいのよ?」

 しんみりと呟くみずを半目で睨む。みずは頷いて「ばばあなら、なんでもいいと思う」

「ストレート」

 打撃。

 

 さて、早いけどお昼ご飯にしましょう。どうせお昼時は込むだろうし。

 …………いや、屋台の買い食いで済ませばいいんだろうし、あんまり込まないかしら? ……まあ、いいか。

 ともかく、ご飯出してくれると思しきログハウスへ。

「あ、いらっしゃいませ」

 案の定、……っていうか。「早すぎた?」

 準備中? 問いに、目の前にいる大和は首を横に振って「大丈夫ですよ」

「そ、ありがと」

 それにしても、……何だろう。

「大和、ちょっとこっち、こっち来て、こっちっ、こっちっ!」

「な、……なんですか?」

 手をわきわきさせると大和がじりじりと後退する。

「ちょ、ちょっと抱きしめさせて、ね」

「い、いや、……なんか、不安なので遠慮します」

「大丈夫、痛い事しないからっ! 幼女を抱きたいだけだからっ!」

「別にいいだろ。そいつそんな変な事しないだろうから」

 ひょい、と出てきたエプロン装備の正成が援護射撃。私は頷く。

「はぁ、はぁ、大丈夫、痛くしない、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、痛く、しないから」

「その荒れた呼吸とか物凄く不穏ですっ!」

 こほん。

「だって、大和すっごく可愛いんだもん。仕方ないじゃない。

 正成だってそう思うでしょ?」

「ちびっちゃいからなあ。

 あ、そうだ。いぶき、あれ面白かったぞ。ほら、大和って妹いるだろ? 坂東、……じゃねぇや、武蔵」

「正成っ!」

「あれな、小娘見てがくがくしたあと思いっきり抱きしめてたな。

 小娘本気で窒息しかけてたな。顔青くなってたし」

「ああ、あれね。

 私もうらの乳に挟まってみたら思いっきり抱きしめられてね。もう少しで凶器おっぱいで窒息死するところだったわ」

「なんだその爆笑の死に方っ」

 言葉通り爆笑する正成。

「この、ばかっ!」

 殴った。回避された。

「おっぱいは、…………凶器なのよ」

「深い言葉だな」

「そうね。深い言葉ね」

 握手を交わす。変な目をした大和の振るう拳が握りあった手を打撃した。

 

「っていうか、正成が作ってるの?」

「あー、ものによってだ。

 俺、小娘みたいな細かいのは苦手でな」

 そう言ってどかんと載せられたのは、……なにか、焼いた肉を削ぎ落したやつ。

 他に野菜や焼いた卵やら、あとはパン。

「ま、確かに簡単よね」

「そういう事だ。……小娘っ、ちとそっち任せた」

「はーいっ、早めに復帰してくださいね」

「へいへい」

「…………はあ、男か」

「悪かったな。男でよ」

 パンに肉を挟み一口。

「正成が嫌いってわけじゃないんだけどね。

 大和とお話したかったわ。あんなに可愛い女の子と一緒にいるなんて、贅沢ね」

「うるせ。……で、今回の花見、趣旨わかってるか?」

「《呪詛の御社》」

「そうだ」

「壊すつもりなのね。

 その意味も解ってるんでしょ?」

「わーってる。だから主君もぶち壊そうとしてんだ。

 あれは確かに、気にいらねぇな」

「貴方も同意見。……というか、南朝全体?」

「そうだな。

 俺、護良、それと義興。……義興のところにいる艦娘たちも同意した。

 で、お前らは?」

「私達深海棲艦が、あれを許せると思っているの?」

 まあ、私は違うけどね。とはいえ、他の娘たちは許せないでしょう。

「ま、無理だろうな。

 といってもなあ」

「まだ見つかってないの?」

 椅子に背を預けて溜息をつく正成。私は少し呆れて問う。

「軍部が確保してるのはほぼ間違いない。

 夕張のやつが気合入れてデータ銀蠅とか何とか言って探してるけど、……今のところそれだけだな。

 それ探してくれるやつも募るんだろうけどな」

「状況が半端ねえ。……ああ、それを打開する為にお花見なんて始めたの」

「そーいうこった」

「ま、海の捜索ならやってやれない事はないわ。

 けど、……場合によっては海軍と真っ向激突かあ」

「ま。そーなるな。

 といっても海軍の大半は使い物にならないらしいし、陸軍は俺たちが相手するからなんとでもなるだろ」

「適当ねえ」

「はっ、最初はそんなもんだ。

 目的決めて、方法決めたらあとはその場その場でなんとかなる。第一、わからねぇもんをうだうだ考えても仕方ないだろ」

「ちゃんと情報収集しなくちゃだめです」

 とんっ、と大和が御冷やをおく、正成は軽く手を振って「っていってもなー、海軍はかなりざるなんだけど、陸軍が硬すぎんだよ。それに、海軍も鎮守府の情報はうさんくせぇ。夕張が持ってきたデータ、あれ、どこかに嘘があるな」

「そうですか?」

「勘だけどな。

 ま、確かに小娘の言うとおりだが、あの情報に踊らされると面倒な事になる。考えないとな」

「大変ねえ」

 考えなしに襲撃やら返り討ちやらしていた私には理解できないわ。

「いぶきには縁遠いですか?」

「そりゃあ、あんまり考えないで戦ってたし」

「深海棲艦って、気楽ですね」

「まあね。……ほら、大和も、お姉さんと一緒に気楽な深海棲艦になって、そこらへんうろうろしましょうよー」

「いえ、遠慮します」

 ちぇ。……けど、そっか。

「南朝も大変ねえ」

「ま、主君の我が侭に振り回されんのはいつもの事だ」

 けらけらと、正成は楽しそうに笑った。

 と、

「大和はいるかっ!」

 ずばんっ、と扉開いて武蔵降臨。

「いっ、……む、武蔵っ!」

「いたかっ、……ふっ、何度見ても愛らしい」

「あ、愛らしいってなんですかっ!

 武蔵っ! 私は貴女の姉ですっ! 大和型の一番艦ですっ! その事をわきまえてくださいっ」

「ああ、ああもちろんわきまえているとも。

 私にとって、大和は大切で、可愛くて、愛らしい姉だ。……さあ、一緒に遊ぼう、か」

「い、今は仕事中ですっ!」

 武蔵に抱きしめられてじたばた暴れる大和。正成は「あー」と溜息。

「小娘、いい機会だ。矢矧と交代で休憩してろ」

「………………え、…………」

「あ?」

 ふむ、私は立ち上がる。姉にへばりつく妹を一発小突く。

 いいところに入ったのか変な声をあげて崩れ落ちる武蔵。彼女に抱きしめられていた大和を解放して、

「あ、じゃないわよ。

 正成、働かせっぱなしで申し訳ないって思うなら、案内位してやりなさい」

「え? 必要なのか」

 真顔で首を傾げる正成。…………溜息。

「ひーつーよー、なの。

 いいから女の子のエスコート位してやりなさい」

「……はあ? …………ま、いっか。

 んじゃ、行くか小娘」

「はいっ」

「頑張ってねー」

「休むのになに頑張るんだよ。

 ちょっと待ってろ、矢矧と祥鳳に連絡するから」

「うん、……いい事をしたあとは気持ちが、………………武蔵?」

「あ、姉が、……大和が、…………うう、男と一緒に、いってしまった。

 あんなに可愛らしいのに、……一緒に遊びたかったのに」

 ロリコンでシスコンとか、面倒くさい。本気で泣きそうな彼女になにを言ったらいいものか、少し考えてたところで、

 ばんっ! と、扉が開いた。

「一航戦、加賀、出撃しますっ!」

「帰れっ!」

 

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