「追い出されるとは、……正直、頭に来ました」
「あんたどれだけ警戒されてるのよ」
追い出された加賀は眉根を寄せて呟く、興味本位でついてきた私は首を傾げる。
「別に大した事ではないわ。普通よ。
社員食堂だって普通に食事をしているわ」
「…………その普通の食事のおかげで専用メニュー出来ましたね。
まあ、私も食べられて有り難いですが」
「もみじ?」
「どうしたのですか? 加賀、不機嫌そうですが」
「大体いつもこんな顔です」
「ご飯食べに行ったら正成に蹴りだされたのよ」
「なるほど。……加賀、自業自得です」
「納得いきません」
「はいはい、どこぞでやけ食いでもしましょう」
とりあえず加賀の手を引いて近くの犠牲、……もとい屋台へ。
「加賀、どのくらい食べる?」
「全部」
…………いや、座った目で言わないでよ。屋台の娘、怯えてるわよ?
「そうですね。そのくらい食べれば十分でしょう」
「……これだけの量の焼きそば食うとか、そんなんだから蹴りだされるのよ」
ともかく、大量の焼きそばを運び出して近くに敷かれた茣蓙に座る。加賀ともみじは早速貪り始めた。
見てるだけで胸焼けしそう。
「よくそんなに食べるわね」
「「鎧袖一触です」」
「はもんな。…………で、何か飲む」
淡々とした表情で焼きそばを貪り食う二人。喉つまらないのかしら?
「そうですね。御冷やを」「水をお願いします」
「はいはい、……あ、私も一つ食べるから、残しておいてよ」
山と積まれた焼きそばを前に念を押すまでもない。……のだけど、この二人が相手では心もとない。
「わかったわ」「大丈夫です」
とりあえず水を二つ確保。途中の屋台は今のところ無視。焼きそば食べた後に考えましょうか。
「うわ、増えた」
「美味しそうな匂いがしたので、つい」
「少しはわきまえなさい後輩」
「こんなにあるんだからいいじゃないですか、先輩」
あきはが加わって貪り食ってる。くれははどこかにいないものかしらね。
南朝空母三人娘唯一の良心はここにいない。加賀が頼りになるとは思えない。
「はい、水」
「あ、ありが「後輩のではありません」ちぇ」
手を伸ばすあきはを視線でけん制するもみじ。さて、
「それじゃ、一つもらうわね」
「一つでいいのですか? 小食ですね」
昼食食べたしね、何より「あんたらと一緒にしないでよ」
「どういう意味?」
じと、とした視線を向けるあきはにひらひらと手を振って「食いすぎ」
「そんな事ありません」
「…………まあいいけど、……っていうか、加賀。少しは反応しなさいよ」
黙々と、淡々と焼きそばを消化し続ける加賀。……本当に、なんでこんなに食べるのかしらね。この娘達。
……加賀、か。
「加賀」
「なんですか?」
「艦娘と戦う事になったら、……戦う?」
「私は、一航戦、加賀です。
この誇りにかけて、敵となった相手ならば誰であれ、容赦をするつもりはありません」
「戦うんだ?」
「そうですね。私は今、ここ、南朝に所属しています。
ならばその敵は砕くだけです。それこそが私の誇り、絶対に、譲れません」
そう、と。加賀は焼きそばを食べながら、本当に、当たり前のように、続ける。
「その敵が赤城さんであれ、…………いえ、赤城さんと本気で激突できるのは、それはそれで気分が高揚します」
「やっぱり、戦う人は戦うのねえ」
「それを選んだのならばそうするであろうな」
桜の花を見上げるのは、目つきの悪い少年。
「それにしても、驚いたわ。
そんな姿になるのね」
「あまり好きな姿ではないのだがな」
「そうなの?」
「いやな過去を思い出してな、と」
「おじさまっ!」
「…………その姿でその呼称は少し、不思議ね」
「いうな」
というわけで、少年。いつもは鳶の姿をしている魔縁、顕仁。
「あっ、いぶきっ」
「やっほ、睦月ちゃん」
「遊びに来たんだ」「こんにちわ、っぴょんっ!」「こんにちわ」
続いて皐月ちゃん、卯月ちゃん、三日月ちゃん。
「着物、あったのね」
「尊治には先に伝えておいたからな」
というのも、彼女たちの背中には翼がある。深海棲艦の形。普通の着物が切れるとは思えなかったけど。
「ねっ、ねっ、おじさまっ、似合うっ? 睦月可愛いっ?」
くるっ、とターン。「ええ、とても可愛いわっ」
「いぶきじゃなーいっ」
ちょっとへこむ。おじさんに視線を向けると、溜息。
「似合ってる」
「あ、……うふふっ、おじさまに褒めてもらうと嬉しいなっ」
「む、睦月ばっかりずるいです。
あ、あの、…………おじさま、私は、変じゃない、でしょうか?」
「ボクもっ」
「うーちゃんもみてぴょんっ!」
「………………なぜいちいちそんな事を気にするのだ」
溜息をつくおじさん。解ってないわねー
「甘いわよおじさん。
せっかくおめかししたんだもの。大切な人からの評価は気になるわよ。ねー」
「「「「ねー」」」」
このノリの良さ、大好きよ。
「……まったく、いつの時代も女というのは解らん。
まあよい、皆、似合っているぞ。……まあ、まだ小娘であるがな、それでも、十分に愛らしい」
最後に愛らしいとか言いましたこの御方っ!
流石に、睦月ちゃん達も予想外だったのか、顔が赤くなる。
「う、……うーちゃん、いきなりそんな風に言われると、照れる、…………ぴょん」
「感想を言ったらこうなるのか。……本当に難しいな」
眉根を寄せるおじさん。
「愛らしいとかいうからよ」
「……そんなものか? 思った事を告げただけだが。……まあ、よい。
四人とも、食事にするぞ。桜の下、花見には都合がよかろう」
「「「「はーいっ」」」」
「いぶきはどうする?」
「私はもう食べたし、」酒瓶を軽く振って「これだけでいいわ」
「酒か」
「おじさんは飲まないの?」
昼食らしい、お弁当を広げる睦月ちゃん達。彼女らを横目に「子供の前で酒が飲めるか」
「ボク、飲んでみたいっ!」
「わ、私、おじさまと晩酌をご一緒したい、です」
「睦月もーっ!」
「馬鹿者、子供と酒が飲めるか」
「「「「えー」」」」
「……こういう時ばかり意気投合するな」
「うーちゃん子供じゃないぴょんっ!
ほらほらっ、おっぱいも大きくなってるぴょんっ!」
「くっつくな馬鹿者」
ぐいぐいしがみつく卯月を手で追い払う。「うー」と膨れながら離れない。
「うう、睦月まだちっちゃい」「どうすれば大きくなるのかなあ」「私の大きさじゃ、だめ、ですか」
顔を見合わせてしょげる三人。
「そういう問題ではない。というか、いい加減離れよ、卯月」
「うぎー」
「睦月ちゃん、三日月ちゃん、皐月ちゃん。
そう、大きさの問題じゃないのよ」
卯月ちゃんを引っぺがして頷くおじさん。そう、「大切なのは、触られた時の反応、つまり、感度よっ!」
「「「「な、なるほどっ」」」…………だ、だっ、ぴょんっ」
「……最後、付け加えなくていいわよ、わざわざ」
皆で卯月ちゃんを見る。卯月ちゃんはそっぽを向いた。
「もう、勝手にせよ」
よし。
「さて、まずはどの程度感度があるか調べる事が必要ねっ!」
「え? へ、あ、あの、どういう事ですか?」
手をわきわきさせながら三日月ちゃんに近寄る。どういう事か。
「難しい事を抜きで言うと、…………幼女の胸をもみたいです」
おじさんは淡々とした表情で立ちあがる、淡々と女性を殴った。
「い、いたぁあっ? ちょ、おじさんっ、女性相手に手加減してよっ!」
「黙れ馬鹿者。
そなたらも、そんな事をいちいち気にするな」
「だって、…………睦月、おじさまの好みになりたいんだもん」
つい、と指をあわせておずおずという睦月ちゃん。おじさんは手を伸ばす。くしゃ、と睦月ちゃんの頭を撫でる。
「馬鹿者、そんな事をする必要はない。
なにを気にしているのか、見当はつくがな。安心しろ、そなたらを捨てるつもりはない」
「ほん、と?」
「捨てられる虚しさは知っている。私がそうだったからな。
だから、そんなもの、そなたらに味あわせるつもりはない。……その理由も必要か?」
「いえ、……その、おじさま、私達を大切にしてくれてるって、解って、います。
けど、おじさまのお役に立てているか、不安で、…………」
おずおずと応じる三日月ちゃんに睦月ちゃん達も頷く。だから、「馬鹿者」とおじさんは応じる。
「役に立てる?
先に告げたな。捨てられる虚しさは知っている、と。永くその失意を抱えていたが、そなたらのおかげで救われた。それ以上の何を望むつもりもない、私の傍にいてくれるだけで、十分だ。
共にいて、救われたのはそなたらだけではない、私もだ。だから、無理に役に立とうとする必要などない。私は、私を救ってくれた者を蔑にするつもりはない。…………が、」
おじさんは苦笑。
「一応言っておこう。そなたらはそのままで十分に愛らしい。
だから、そのままで笑顔を見せてくれ、元気に遊んでいてくれ、虚飾など、そなたらの魅力を損なうだけだ」
…………この人、凄すぎる。完全に睦月ちゃん達を轟沈した。
ぽー、と黙りこむ彼女たちに、おじさんは首を傾げ、
「どうした? 本音を語ったつもりだが。まだ足りぬか?」
首を傾げるおじさんは、何者?
「す、凄い、嬉しい、…………ぴょん」
「ボク、……おじさまの、傍にいる事が出来て、よか、……った」
「わ、私、……あ、ありがと、…………ありがと、おじさま」
「何を「おじさまーっ!」ぬわっ?」
睦月ちゃんがおじさんに抱きつく。そのまま押し倒した。そして、
女の子たちに押し倒されるおじさん。溜息。
「はあ、…………もうよい、好きなだけ泣いていろ」
「ご、……ごめんね、おじさま。…………睦月達、泣き虫でごめんね」
「よい、代わりに後で笑えばな、それでよい」
困ったように微笑んで、おじさんは彼女たちを撫でていた。
「賑やかねー」
「…………本音を言ってしまうと、まだ、少し不思議な気がします」
苦笑する鳳翔。その視線の先には加賀ともみじがなにかを熱唱している。
別のステージではくるくる踊りまわる尊治君と、彼女と一緒に踊りまわる五月雨ちゃんと涼風ちゃん。その後ろでくれはとあきはが、なにかの楽器を演奏してる。多分適当。
まあ、そんな光景。「確かに不思議よね」
「他の深海棲艦とも、こうして和解出来たら、よいのでしょうが」
「さあ、どうかしらね」
特に南の露出Lv限界突破な連中は好戦的だし、ぴりかちゃん、近づく者には容赦しないし。
良くも悪くも、私達は感情が振り切れてる。やると決めた事、その方向性をねじ曲げる事なんて絶対に出来ない。
それに、
「あの、いろはとか呼ばれてる連中は不可能よ」
「わかっています」
あれは呪詛の集積物。雑多な悪意を混ぜて固めて出来た存在。そんなものと意思疎通を考えるとか、あり得ない。
「ま、確かに和解出来れば平穏よね」
その道は果てしないでしょうけど、ぴりかとか、ろくに話を聞かないのも多いし。
「その、深海棲艦なのですけど。
あの、深海にあるという都への出入りも、してるのですか?」
「んー、それぞれね。
ひさめとかはちょくちょく行っているみたいよ。彼女、言仁君の事好きみたいだし。私もよく遊びに行くわ。
ただ、みずはあまり近寄りたがらいみたいね。なんか、平穏すぎて中毒症状を起こすとか」
「……中毒」
「ま、そういう娘もいるみたい。
平穏で平和なところよ。あそこの深海棲艦は艦娘に近いから、まあ、いろいろ歪み抱えて、おまけに戦闘もないから存在意義とかにも悩んだりしながら一生懸命生活してるわ」
だから好きなのよね、あの都。頑張り屋な女の子は大好き。
だから、
「興味ある?」
「…………はい、可能なら、戦わず、そこで静かに暮らしたいと思っています。……その、艦娘としてはおかしいかもしれませんが」
「別に変じゃないわよ。鳳翔だって、艦なんて文字が入ってるけど、それでも一人の娘なのだから。
ふふ、なにを気張ってるの解らないけどね、女の子だもの、穏やかに暮らしたいなんて不思議じゃないわ」
「女の子ですか。……そんな幼いつもりはないのですけど」
「生意気言ってるんじゃないわよ。お、こ、さ、ま」
「えと、貴女は、……その、長く、存在しているのですか?」
「ええ、そうよ。
最初期、……確認された一番最初の艦娘、その一人ね。で、一番古い深海棲艦。……あ、ばばあとか言ったら怒るわよ?」
「そんな失礼な事は言いません」
情け容赦なく、問答無用に人をばばあ呼ばわりした友人を内心で一発殴る。
「ま、そういうわけ。
だから、貴女も、私にとっては可愛い妹ね」
「…………それも、面白いですね。
けど、どちらかといえば後輩ではないですか?」
「その響きは、……その、ちょっとね」
確かに、後輩というべきなのだけどね。……ただ、どうしても彼女の面影がちらつく。いやな事じゃない。けど、…………苦笑、そう、好きな娘の事は特別でいて欲しい。……ということね。
だから、目の前にいる鳳翔には笑顔で拳を握る。
「いいじゃないっ、妹の方がっ! 響きがっ!」
「そ、そうですか?」
なんともいえない引き攣った笑顔を見せる鳳翔。
「さあ、お姉さんに甘えに来なさい、頭撫で撫でしてあげるわよ~」
「い、いや、遠慮します」
手を広げるとどん引きされた。
「おねーちゃーんっ!」「ごふっ」
そして、脇腹に抉りこまれる頭っ!
「ひゃっほー」
人の脇腹に頭突きを決めてどこぞへ逃げだすひさめ。あとで殴る。
「…………元気、ですね」
「まあね」
ああ、お腹が痛い。
「まあ、先達というのは解りました。
では、もし都に行った時にお会いしたら、いろいろ教えてくださいね」
「ええ、喜んで、……そうね。それならそこで何をやりたいか、決めておくといいわ。
戦う事はないのだもの」
「小さな料理屋をやりたいな、と思っています。
大丈夫、でしょうか?」
「んー、言仁君にお願いしてみることね。多分大丈夫よ。
そうやって暮らしている娘もいるもの」
示した先。大鳳と何か歌ってる言仁君。
「そうですか」
「ええ、大抵の我が侭は叶えてくれるわ。
けど、怒らせちゃだめよ」
「魔縁、ですね。解っています。
尊治様に比肩するのでしたら、私では太刀打ちできないでしょう」
「そういう事。
ま、あとは一度行ってみることね。尊治君、ちょっと行ってみるような事言ってたから一緒に行ってみたら?」
「はい、そうします」
けど、……「どうしましたか?」
「ううん、戦いを否定する艦娘も、やっぱりいるんだなって、そう思ってね」
応じると、鳳翔は小さく、笑う。
自嘲的な笑みで「おかしい、ですよね。空母、軍船なのに戦う事を否定する、なんて」
「平穏を愛するのは軍船の、……そうね。魂に刻まれた性よ。
だって、かつての軍船はそのために戦っていたのよ? 殺すためじゃない、護るためにね。……そんな魂を持つ貴女達が、どうして平穏を愛さないの?」
「そう、……ですか」
「平穏のために戦う、平穏のために戦わない。
ただそれだけの事。だから、そんな風に自嘲する事ではないわ」
手を伸ばす。遠慮されたけどね。……けど、
「自分の平穏を護るために、大切な人の平穏を護るために、……そのために出来る事をする。
絶対に戦う必要なんて何もないわ。戦う娘は、ただ、その方法で平穏を護りたいだけ。鳳翔は鳳翔なりの方法で平穏を愛しなさい」
撫でてみる。鳳翔は一度眼を見開いて、そして、
「…………こういうのも、いい、ですね。
なぜでしょうね、貴女に撫でられるのは、そんなに悪い気はしないです」
心地よさそうに目を細めた。