「…………え?」
「尊治君の敵、……魔縁の敵はいつだって人なのよ。
だから、吹雪、貴女の相手は私がしてあげるわ」
「……あ、…………あ、貴女、は?」
きょとんとした表情。私は頷く。
嬉しいわ。覚えていてくれたのね。
「久しぶりね。吹雪。
また、会えて嬉しいわ」
「…………先、輩?」
「ええ、そうよ。
貴女が私を殺して、もう、何年経ったのかしらね。……ふふ、あの頃の可愛い貴女が、立派になったのね」
一瞬、泣きそうな表情を浮かべ、…………けど、
「先輩も、……私の敵になるのですね」
「吹雪の作ったシステムを壊すのだから、……残念だけど、敵になるわね」
「なぜ、……ですか?
どうして、……だって、先輩には、…………関わりのない事、です」
「どうして、か」
手を伸ばす。いつかみたいに、吹雪を撫でて、
「ねえ、教えて吹雪。
その平穏を構築してから、貴女は泣いた?」
「なぜ、…………泣くのですか?」
解らないのかしら?
「だって、その平穏のため、そこにいる金剛や大鳳、……そう、何人の英雄が犠牲になったの?
ね、優しい貴女は、そんな事に耐えられるの?」
「……知りま、せんっ!」
手を弾かれる。まっすぐに、吹雪は私を睨む。
「私は、私達の魂に懸けてこの平穏を構築しましたっ!
民安かれとっ! これが、かつての英雄たちと同じく、魂を懸けて叶えなければならない祈りなんですっ! 私達は、それを形にするんですっ! そのためなら、私は何でもしますっ! 私は、そのためなら泣くわけがありませんっ!」
「…………そう、だから私は貴女の敵になる。
貴女が、泣く事さえ自分に許さない、それだけで壊す理由になるわ」
「そうですか。解りました」
吹雪は、真っ直ぐに私を見つめる。……それは、かつて、私が好きだった。彼女の姿。
真剣な、一途で一生懸命な。……そんな瞳で私を見据えて、彼女は応じる。
「先輩、私は、先輩の敵になります」
「ええ、どちらが正しいかとか、そういうのはいいから、戦いましょう。お互いのためにね」
宣戦布告、心地よく受け取る。そして、吹雪は辺りに視線を向ける。
「私達の意思は告げました。
どういうあり方が正しいとか、そんな事は問いません。私達の出した答えが絶対に正しいとも思いません。……けど、これが私達の出した結論です。
肯定するなら共に戦う事を歓迎します。否定するなら、相応の意思を持って戦いに来てください」
「提督の命令で、じゃなくて?」
苦笑気味に問う曙に、吹雪は苦笑を返して、
「構いません。……けど、それ、戦う理由にふさわしいですか?」
「はっ、冗談っ!
いつ壊れるかもわからないような、あんたらが作った人造の平穏なんて願い下げよっ!」
「気が合いましたね。いい事です。曙。
吹雪さん、貴女の言う平穏は、いいとは思いますが、」
人の提督は、柔らかく微笑む。
「他者頼りの平穏に縋るくらいなら、騒乱の果てに滅んでしまった方がいいと思うのですよ。
もちろん、そうならないように精々、足掻きますが」
「……そうですか」
「で、もちろん私達は敵ね」
「そうでしょうね。駆逐の姫」
ひらひらと笑う。みずは頷き、
「そちらの都合で作られた深海棲艦のせいで、私達は殺された。
人々の平穏はいいが、どんな事情があってもその犠牲になった者が、はいそうですかと納得するとは、思わない事だ」
「そんなつもりはありません。
貴女達が敵対するのは解っています。私達には戦う義務があると思っています」
なら、……あとは、
視線が集中する。尊治君たちとも、吹雪たちとも渡り合えるだけの戦力を振るえる一人。
「言仁、そなたらはどうする?」
「その都にいる艦娘たちと戦うというのなら、相手をします。
まだ、死ぬわけにはいかない、ですけど」
問いに、言仁君は軽く手を振って、
「僕? どっちの味方もしないよ。僕も吹雪ちゃんは間違えてると思う。その間違いを正せないのなら味方をするつもりはないよ。
けど、吹雪ちゃんの考え、平穏を大切にしたいって思いは共感できるし、そのおかげで金剛や大鳳、僕の大切な人たちに出会えたんだから、個人的には感謝したいかな。だから、そうだね。一つ助けをしてあげる」
……結構意外、言仁君なら、完全に傍観を決め込むって思ったのに。
ちなみに、大切な人といわれた金剛と大鳳は難しい表情で黙る。……ま、当たり前よね。
彼女たちのせいで殺された。……けど、そのおかげで大切な人に出会えた。だから、彼女たちが吹雪に抱く想いは、簡単に割り切れるとは思えない。
「助け?」
「僕の都の事は知っている、って言ったね。
その争いの間。都は閉ざすから、戦いたくないならおいで、匿ってあげるよ。
それと、轟沈してもね。都に来たら出すつもりはないからね。深海棲艦の皆も、負けてもまた挑めばいい程度の気持ちで参加しない事を勧めるよ」
「どちらの味方もしない、ですか」「それは残念だな」
「都でも暴れないでね。
ね?」
「もちろん、その場合は相応の対応を取ります」
「ワタシ達の居場所を壊すなら、塵一つ残さず壊れる覚悟で来てくださいネ」
応じる言仁君の両隣りに立つ大鳳と金剛。……ま、いうまでもないわね。秘書である響は別格としても、二人とも、十分に姫の名を持つ深海棲艦や、指輪持ちの艦娘と戦える。
それに、井上さんが言仁君の肩に手をおく。彼女は微笑んで、
「そういう事。
都には、早良君と他戸、それに、はたたもいるから、暴れちゃだめよ。
もし暴れたら、…………そうねえ、尊治君の拠点は、大阪府、吹雪ちゃんの拠点は、……神奈川県、だったかしら? 何も残さないからね。私の威は天災、無関係の人を巻き込まないなんて、そんな上品な事は出来ないのよ」
「よい、解った。……とはいえ、閉ざしてしまうのか。
遊びに行けないのは残念だな」
「遊びに来るのはいいよ。
ただ、これから先、轟沈した者に対して、顕界への道は閉ざす。大江山や竜宮、……まあ、異界に行くのは構わないけど、いい加減、死者は死者の立場をわきまえなよ。深海棲艦」
「はーい」
ひさめが面白くなさそうに応じる。と、
「その都を見に行く事は可能ですか?」
「吹雪ちゃん、興味あるの?」
意外そうに問う言仁君に、吹雪は頷いて、
「戦う意思のない艦娘を巻き込むのは本意ではありません。中立を宣言してくれるなら、こちらとしても助かります。
それで、どういうところか一度見ておきたいです」
「いいよ」
「私も遊びに行くつもりだったのだがな」
「ご自由に、……けど、尊治。
吹雪ちゃんと会っても喧嘩しちゃだめだよ?」
「安心せよ。今のところ私は吹雪を敵と判断していない。
私の敵はあの元帥だ。ゆえに、自衛以外の目的で交戦するつもりはない。……そちらがどうかは知らぬがな」
「私も中立の意味は解っています。
それを悪戯に乱すつもりはありません」
「睨みあいながら言われてもね。
ま、そういう事ならそれでいいよ。で、僕からは以上。……それと、そこにいる面倒そうなのは、なにか言う事がある?」
「あれ、ばれちゃった?
見つからないようにしてたんだけどなー」
「舞風?」
…………気付かなかった。
そこにいるのは確かに舞風、陽炎型の駆逐艦。
白い、変な仮面を頭に乗せてるけど、
「…………何の用ですか? 舞風」
そして、警戒している吹雪。舞風は軽く手を振って「警戒しないでよー」
「します。
用件だけ告げて帰ってください」
「うわ、扱いひど。……まあいいか。
それで、あたしの主からの伝言。《呪詛の御社》だけど、三日後に封印するって、……呪詛の入力と出力、その制御以外はね」
「封印?」
「ほう?」
「それは、ちょっと困るわね」
まだ場所も解ってないし、……舞風は苦笑して、
「主がね。封印する方法の目処が立った。って言ってたわ。
けど、結構目立つらしいの。短時間で封印するにはこれが一番だって、……それで、構わない? 多分すぐわかると思うけど」
「構いません。どちらにせよ。」
吹雪は私達、深海棲艦を見て、
「遺恨を潰すなら、激突するのが一番手っ取り早ですから」
「あら、解ってるわね。……そうね。」
振りかえる、苦笑。
「確かに、犠牲になった事は面白くないけど、吹雪。
貴女のやり方、間違えているとは思えないわ。確かに今、平穏だものね。……だから、一度存分に戦いましょう。言い訳なしでね」
「こっちが負けたら、ま、仕方ないな。で、都に引き籠ってるわ。
んー、……元艦娘最後の反逆、ってところ? 死んだ八つ当たりでもなんでもいいけどね」
私の言葉にひさめが応じる。……ま、そうなるわね。
「わかってます。
その犠牲が私達の罪だという事も、……そして、戦う義務があるとも、……だから、お願いします」
吹雪の言葉に舞風は頷いて耳元の無線機に「封印開始だってさー」と告げる。
「義興、探せ」「はい」
「さて、じゃあ、あたしのお仕事は終わり。
じゃ、またね。吹雪」
「…………はい、また」
くすっ、と舞風は笑って、消えた。
「何、……今の娘?」
「私もよく知りません。
《呪詛の御社》の構築を手伝ってくれた人の、代理人みたいです」
どこか面白くなさそうに吹雪。彼女に話すのを任せていた将門は溜息。
「豊浦だ」
「…………あやつか。
ふん、ならば封印というのも事実であろうな。よい、……三日後に封印だったな。忙しくなりそうだ。
では、己の意思を貫くために、存分に、お互いを否定し合おうぞ北朝」
「南北朝の再来か。
まあ、それもいいだろう」
「では、失礼します」
吹雪は辺りを見渡して一息。
「提督に命令されて、未知の敵と戦う時は終わりました。
これから先の戦場は、この国を護る英霊として、己の意思で、己のやり方を貫くために、戦いましょう」
艦これ世界観が崩壊しました。
独自解釈と独自設定の暴走ここに極まり。