深海の都の話   作:林屋まつり

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十一話

 

「…………え?」

「尊治君の敵、……魔縁の敵はいつだって人なのよ。

 だから、吹雪、貴女の相手は私がしてあげるわ」

「……あ、…………あ、貴女、は?」

 きょとんとした表情。私は頷く。

 嬉しいわ。覚えていてくれたのね。

「久しぶりね。吹雪。

 また、会えて嬉しいわ」

「…………先、輩?」

「ええ、そうよ。

 貴女が私を殺して、もう、何年経ったのかしらね。……ふふ、あの頃の可愛い貴女が、立派になったのね」

 一瞬、泣きそうな表情を浮かべ、…………けど、

「先輩も、……私の敵になるのですね」

「吹雪の作ったシステムを壊すのだから、……残念だけど、敵になるわね」

「なぜ、……ですか?

 どうして、……だって、先輩には、…………関わりのない事、です」

「どうして、か」

 手を伸ばす。いつかみたいに、吹雪を撫でて、

「ねえ、教えて吹雪。

 その平穏を構築してから、貴女は泣いた?」

「なぜ、…………泣くのですか?」

 解らないのかしら?

「だって、その平穏のため、そこにいる金剛や大鳳、……そう、何人の英雄が犠牲になったの?

 ね、優しい貴女は、そんな事に耐えられるの?」

「……知りま、せんっ!」

 手を弾かれる。まっすぐに、吹雪は私を睨む。

「私は、私達の魂に懸けてこの平穏を構築しましたっ!

 民安かれとっ! これが、かつての英雄たちと同じく、魂を懸けて叶えなければならない祈りなんですっ! 私達は、それを形にするんですっ! そのためなら、私は何でもしますっ! 私は、そのためなら泣くわけがありませんっ!」

「…………そう、だから私は貴女の敵になる。

 貴女が、泣く事さえ自分に許さない、それだけで壊す理由になるわ」

「そうですか。解りました」

 吹雪は、真っ直ぐに私を見つめる。……それは、かつて、私が好きだった。彼女の姿。

 真剣な、一途で一生懸命な。……そんな瞳で私を見据えて、彼女は応じる。

 

「先輩、私は、先輩の敵になります」

「ええ、どちらが正しいかとか、そういうのはいいから、戦いましょう。お互いのためにね」

 

 宣戦布告、心地よく受け取る。そして、吹雪は辺りに視線を向ける。

「私達の意思は告げました。

 どういうあり方が正しいとか、そんな事は問いません。私達の出した答えが絶対に正しいとも思いません。……けど、これが私達の出した結論です。

 肯定するなら共に戦う事を歓迎します。否定するなら、相応の意思を持って戦いに来てください」

「提督の命令で、じゃなくて?」

 苦笑気味に問う曙に、吹雪は苦笑を返して、

「構いません。……けど、それ、戦う理由にふさわしいですか?」

「はっ、冗談っ!

 いつ壊れるかもわからないような、あんたらが作った人造の平穏なんて願い下げよっ!」

「気が合いましたね。いい事です。曙。

 吹雪さん、貴女の言う平穏は、いいとは思いますが、」

 人の提督は、柔らかく微笑む。

「他者頼りの平穏に縋るくらいなら、騒乱の果てに滅んでしまった方がいいと思うのですよ。

 もちろん、そうならないように精々、足掻きますが」

「……そうですか」

「で、もちろん私達は敵ね」

「そうでしょうね。駆逐の姫」

 ひらひらと笑う。みずは頷き、

「そちらの都合で作られた深海棲艦のせいで、私達は殺された。

 人々の平穏はいいが、どんな事情があってもその犠牲になった者が、はいそうですかと納得するとは、思わない事だ」

「そんなつもりはありません。

 貴女達が敵対するのは解っています。私達には戦う義務があると思っています」

 なら、……あとは、

 視線が集中する。尊治君たちとも、吹雪たちとも渡り合えるだけの戦力を振るえる一人。

「言仁、そなたらはどうする?」

「その都にいる艦娘たちと戦うというのなら、相手をします。

 まだ、死ぬわけにはいかない、ですけど」

 問いに、言仁君は軽く手を振って、

「僕? どっちの味方もしないよ。僕も吹雪ちゃんは間違えてると思う。その間違いを正せないのなら味方をするつもりはないよ。

 けど、吹雪ちゃんの考え、平穏を大切にしたいって思いは共感できるし、そのおかげで金剛や大鳳、僕の大切な人たちに出会えたんだから、個人的には感謝したいかな。だから、そうだね。一つ助けをしてあげる」

 ……結構意外、言仁君なら、完全に傍観を決め込むって思ったのに。

 ちなみに、大切な人といわれた金剛と大鳳は難しい表情で黙る。……ま、当たり前よね。

 彼女たちのせいで殺された。……けど、そのおかげで大切な人に出会えた。だから、彼女たちが吹雪に抱く想いは、簡単に割り切れるとは思えない。

「助け?」

「僕の都の事は知っている、って言ったね。

 その争いの間。都は閉ざすから、戦いたくないならおいで、匿ってあげるよ。

 それと、轟沈してもね。都に来たら出すつもりはないからね。深海棲艦の皆も、負けてもまた挑めばいい程度の気持ちで参加しない事を勧めるよ」

「どちらの味方もしない、ですか」「それは残念だな」

「都でも暴れないでね。

 ね?」

「もちろん、その場合は相応の対応を取ります」

「ワタシ達の居場所を壊すなら、塵一つ残さず壊れる覚悟で来てくださいネ」

 応じる言仁君の両隣りに立つ大鳳と金剛。……ま、いうまでもないわね。秘書である響は別格としても、二人とも、十分に姫の名を持つ深海棲艦や、指輪持ちの艦娘と戦える。

 それに、井上さんが言仁君の肩に手をおく。彼女は微笑んで、

「そういう事。

 都には、早良君と他戸、それに、はたたもいるから、暴れちゃだめよ。

 もし暴れたら、…………そうねえ、尊治君の拠点は、大阪府、吹雪ちゃんの拠点は、……神奈川県、だったかしら? 何も残さないからね。私の威は天災、無関係の人を巻き込まないなんて、そんな上品な事は出来ないのよ」

「よい、解った。……とはいえ、閉ざしてしまうのか。

 遊びに行けないのは残念だな」

「遊びに来るのはいいよ。

 ただ、これから先、轟沈した者に対して、顕界への道は閉ざす。大江山や竜宮、……まあ、異界に行くのは構わないけど、いい加減、死者は死者の立場をわきまえなよ。深海棲艦」

「はーい」

 ひさめが面白くなさそうに応じる。と、

「その都を見に行く事は可能ですか?」

「吹雪ちゃん、興味あるの?」

 意外そうに問う言仁君に、吹雪は頷いて、

「戦う意思のない艦娘を巻き込むのは本意ではありません。中立を宣言してくれるなら、こちらとしても助かります。

 それで、どういうところか一度見ておきたいです」

「いいよ」

「私も遊びに行くつもりだったのだがな」

「ご自由に、……けど、尊治。

 吹雪ちゃんと会っても喧嘩しちゃだめだよ?」

「安心せよ。今のところ私は吹雪を敵と判断していない。

 私の敵はあの元帥だ。ゆえに、自衛以外の目的で交戦するつもりはない。……そちらがどうかは知らぬがな」

「私も中立の意味は解っています。

 それを悪戯に乱すつもりはありません」

「睨みあいながら言われてもね。

 ま、そういう事ならそれでいいよ。で、僕からは以上。……それと、そこにいる面倒そうなのは、なにか言う事がある?」

「あれ、ばれちゃった?

 見つからないようにしてたんだけどなー」

「舞風?」

 …………気付かなかった。

 そこにいるのは確かに舞風、陽炎型の駆逐艦。

 白い、変な仮面を頭に乗せてるけど、

「…………何の用ですか? 舞風」

 そして、警戒している吹雪。舞風は軽く手を振って「警戒しないでよー」

「します。

 用件だけ告げて帰ってください」

「うわ、扱いひど。……まあいいか。

 それで、あたしの主からの伝言。《呪詛の御社》だけど、三日後に封印するって、……呪詛の入力と出力、その制御以外はね」

「封印?」

「ほう?」

「それは、ちょっと困るわね」

 まだ場所も解ってないし、……舞風は苦笑して、

「主がね。封印する方法の目処が立った。って言ってたわ。

 けど、結構目立つらしいの。短時間で封印するにはこれが一番だって、……それで、構わない? 多分すぐわかると思うけど」

「構いません。どちらにせよ。」

 吹雪は私達、深海棲艦を見て、

「遺恨を潰すなら、激突するのが一番手っ取り早ですから」

「あら、解ってるわね。……そうね。」

 振りかえる、苦笑。

「確かに、犠牲になった事は面白くないけど、吹雪。

 貴女のやり方、間違えているとは思えないわ。確かに今、平穏だものね。……だから、一度存分に戦いましょう。言い訳なしでね」

「こっちが負けたら、ま、仕方ないな。で、都に引き籠ってるわ。

 んー、……元艦娘最後の反逆、ってところ? 死んだ八つ当たりでもなんでもいいけどね」

 私の言葉にひさめが応じる。……ま、そうなるわね。

「わかってます。

 その犠牲が私達の罪だという事も、……そして、戦う義務があるとも、……だから、お願いします」

 吹雪の言葉に舞風は頷いて耳元の無線機に「封印開始だってさー」と告げる。

「義興、探せ」「はい」

「さて、じゃあ、あたしのお仕事は終わり。

 じゃ、またね。吹雪」

「…………はい、また」

 くすっ、と舞風は笑って、消えた。

「何、……今の娘?」

「私もよく知りません。

 《呪詛の御社》の構築を手伝ってくれた人の、代理人みたいです」

 どこか面白くなさそうに吹雪。彼女に話すのを任せていた将門は溜息。

「豊浦だ」

「…………あやつか。

 ふん、ならば封印というのも事実であろうな。よい、……三日後に封印だったな。忙しくなりそうだ。

 では、己の意思を貫くために、存分に、お互いを否定し合おうぞ北朝」

「南北朝の再来か。

 まあ、それもいいだろう」

「では、失礼します」

 吹雪は辺りを見渡して一息。

 

「提督に命令されて、未知の敵と戦う時は終わりました。

 これから先の戦場は、この国を護る英霊として、己の意思で、己のやり方を貫くために、戦いましょう」

 




 艦これ世界観が崩壊しました。
 独自解釈と独自設定の暴走ここに極まり。
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