深海の都の話   作:林屋まつり

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三話

 

「赤城か」

 言仁さんに案内されながら歩く途中。声。

「長門さん?」

「そうだ。今は翔鶴とともに言仁に世話になっている。

 赤城は、……海軍か?」

「はい、そうです」と、応じて苦笑「ただ、どうしたものか、とも思っていますが」

「戦うか、か?」

 問いに、少し驚いて「はい、……解るのですね」

「実は、私も悩んでいる」

「そうなのですか?」

 悩み、……ですか。

「何と戦うべきなのか、……あるいは、戦わないべきか、な。

 正直に言ってしまえば、私はお前たちのやり方に賛同できん。《呪詛の御社》、だったか。そのような道具頼りの平穏は危ういと思う」

「そうですよね」

 もちろん、何度も何度も話し合った事です。

 そして、それ相応の防御を構築しました。……もっとも、

 溜息。《呪詛の御社》がある吾妻島は今、五色の輝きに満ちています。目立ちすぎです。

 とりあえず、元帥を中心にイベントの一環という事で話を進めているらしいですけど、南朝の人たちにもばれていますよね。

 その構築をしているらしい人の助手、……らしい、仮面をつけた舞風曰く、仕方ない事らしいですが。

「とはいえ、現に平穏は実現している。

 吹雪の言う事も、解る。……だから、壊していい物なのか、難しいな」

 現状、確かに平穏ですから。

「長門は難しく考えすぎデス。

 気に入らなければぶち壊すっ! で、いいんじゃないデスカ?」

 苦笑する金剛さん。長門さんは眉根を寄せて「金剛はそうするのか?」

「No、テイトクがこの都に引き籠ってろっていいマシタ。

 ワタシは外とあまり関わらない深海棲艦、正直言ってどっちでもいいデス」

 さばさばと応じる金剛さんです。

「それは、どうなのでしょう?」

「えー、どうも何もないデース。

 ワタシを深海棲艦にしたのは、貴女達デス」

 ひらひらと応じる、が。その瞳は決して笑っていません。

「そう、ですよね」

 失言でした。……そう、彼女はこの平穏の犠牲者、なのに、また戦場に引きずり出すなんて、そんな事、だめです。

「ワタシは今、幸せデス。

 大好きな家族と、最愛のテイトクと一緒にいる事が出来て、……だから、恨んだりはしてないデス。単純に、ワタシはもう死者デス。生者の争いに首を突っ込むつもりはない、というだけデス」

 俯く私に苦笑を混ぜて金剛さん。

「そうですか」

「長門や翔鶴をお花見に連れて行ったのはそれが理由デス。

 二人は生者、ワタシ達とは違いマス。どうするか、決めて欲しいのデスネ。……と、ワタシの可愛い妹達にはワタシから話しておきマス。

 瑞鶴には翔鶴が伝えるでしょうから、長門、陸奥には話しておいてくださいネ」

「わかってる。……だが、私も決めかねているのだがな」

「好きにするといいデス」

 ふと、そう言って金剛さんは不意に、一歩。そして、

「ひゃっ?」

 吹雪さんに、後ろから抱きつきました。

「吹雪も言ってましたネ?

 己の意思で、やり方を貫くため、否定すべき敵を打倒するために、戦いましょう。って。

 そのつもりで戦おうとしている吹雪たちに、中途半端な気持ちで挑むなんて絶対に、Noっ! 即行轟沈させられちゃいますヨー? ね、吹雪?」

「えーと、……改めてそういう風に言われると照れますけど。

 ただ、はい、私達は、私達で決めた事を、この魂を懸けて貫くために戦います。ただ何となくで来て欲しくは、ありません」

「ま、そーんな気楽な気持ちで雪風たちの相手になるとは思わない事ですっ!

 長門さんっ、世界のビッグ7という勇名はお伺いしていますが、この雪風、簡単には負けませんっ!」

「ほう、……駆逐艦が戦艦に宣戦布告か」

 にや、と笑う長門さん。……けど、その認識は全然間違えです。

 だって、

「そう思わない方がいいわよ。

 彼女達は指輪持ち、それに、それぞれが各鎮守府の大将代行。その雪風だって、呉鎮守府管轄内じゃ最強でしょ?」

 大鳳さんの言葉に雪風さんは、むん、と胸を張りました。

「ふっふーんっ」

 そう、その通りです。

 海軍全体で数百といる艦娘。そこにいる四人は、その中でも最上位の四人、特に、吹雪さんは頭一つ抜けた最強です。

 多分、長門さんでも、勝利は不可能でしょう。

「僕はむしろ、都の金剛や大鳳と演習をしてみたいな。

 この都の深海棲艦は、正しく艦娘の常識外の艤装を振りまわすって聞いてるし、どんな能力があるか興味があるよ」

「私もです。…………あれ? どうしたんですか? 大鳳さん」

 なんとなく、愕然とした表情の大鳳さん。彼女は恐る恐る口を開きました。

「……あ、ああ、そう、そうよね。

 時雨って元々そういう性格なのね。うん、そうなのね」

「え?」

「…………ああ、うん、いいわ。

 ただ、この都にいる時雨と随分違うから、どうしたのかなって思って、…………いいわ、気にしないで」

「い、いや、そう言われると気になるんだけど。

 ねえ、深海棲艦になった僕ってどうなってるの?」

「……知らない方がいい事もあるのよ」

「大鳳、……現実をありのままに知らせれば、むしろこの時雨、絶対に轟沈しない覚悟が出来ていいかもしれまセン」

「そ、そうね。……いや、けど、それでトラウマを作られても」

「む、難しいデス」

 深刻な表情で言葉を交わす二人に、時雨さんはがくがくして「深海棲艦になった僕って、どうなってるのっ?」

「だめになってるわ」「ダメダメデース」

「…………ちょっと、覚悟する時間が欲しいな」

「はーいっ、雪風もっ、深海棲艦になった雪風にお会いしたいですっ」

 ぶんぶん手を振る雪風さん。言仁さんは笑顔で「そうだね。先にお話したら案内するね」

「やりましたっ!」

「……ただ、そうだな。

 迷いを持ったまま戦場に立つのも、無礼か。……ああ、そうだな。

 吹雪、お前の言葉、しかと胸に刻もう。どのような選択をするか、まだ答えは出ないが、もし戦場に立つのなら、相応の覚悟を持って臨むと誓おう」

「そうですね。そうしてくれると嬉しいです」

「では、戦場に立たない者は、覚悟を決められない者なのでしょうか?」

 困ったように鳳翔さんは応じました。確かに、彼女は戦わない事を選びましたから。

「選択をした、それで十分だと思いますよ。

 なにを選択したかは選択をした人が大切に思う事です」

「胸に刻んだ祈りに、外から貴賎をつけるなんて無粋な事はしないよ。

 選択をしたんだ、なら、それを誇るといいよ」

 綾波さんに続いて時雨さん。鳳翔さんは微笑んで「そうですね」

「鳳翔は尊治に美味しいご飯を作ってあげるって大切な役割があるんだ。……って、それならここで暮さないで、尊治がやってる企業の食堂でもいいんじゃないの?」

 言仁さんの言葉に「あ、」と、鳳翔さん。

「そうですね。……失念していました」

「戦争中はここに避難してていいよ。

 それも含めて考えてみてね。……ま、正直言うと都が賑やかになるから、ここに来て欲しいけどね」

「ふふ、それも検討させていただきます」

「料理屋さん、それもいいですね。

 …………提督に、美味しい手料理を」

「翔鶴さん。涎」

「はっ?」

 なんで、一気に残念な気分になるのでしょうか?

 ともかく、そうですね。

 戦場に立つなら、覚悟を決めないと。

 

 気分が高揚します。

 

 けど、…………あるのでしょうか?

 かつての同僚、かつての友。加賀さんと戦うに足る理由が。

「…………あの、鳳翔さん」

「なんですか?」

「加賀さん、の事を聞いてもよろしいでしょうか?」

 確か、同じ南朝に所属していたはずです。

「その、……申し訳ないのですが、私もあまりお話をした事がないのです。

 私達が尊治様のところに来たのはつい最近で、……どちらかといえばくれはさん達の方が親しいと思います」

「くれは?」

「あ、…………と、申し訳ございません。

 えーと、……空母、の姫です。特に空母の鬼と加賀さんは仲がいいです」

「そうですか」

「宣戦布告をされていましたね。

 気になりますか?」

「はい」

「加賀さんと、戦いたくはありませんか?」

「……そうですね。…………あまり、気の進む事ではありません」

 なぜ、加賀さんは、……私と戦いたいと言ったのでしょうか?

 私は、加賀さんと戦わなければいけないのでしょうか?

「それじゃあ、この都に残る?

 僕は歓迎するよ。ね、翔鶴」

「はい、赤城先輩にはいろいろと教えていただきたい事があります」

「そんな、教えられる事なんて」

 私には全然。……って、翔鶴さん。なんですか? その、じとー、とした視線は?

「指輪持ちの艦娘にその謙遜は、少し嫌味です」

「あ、……」

 そう、です。左手、薬指にある指輪。

「とても、強い証しと聞いています」

「そう、…………ですよね」

 けど、

「あんまり、強さとか意識した事、なかったです」

「そうですか?」

 不思議そうに翔鶴さん。……そうですね。

「最初は追い付こうと思って、……そして、今はせめて足を引っ張らないように、って訓練して、気がついたら指輪に認められていました」

 けど、…………それでも、

 それでも、まだ、……足を引っ張るだけでないか、不安です。

「え、……指輪って、それで、ですか?」

「そうですね。……あまり、意識とかしていなかったです」

「凄い、です。流石、赤城先輩ですっ」

 きらきらした感じで私の手を握る翔鶴さん。……けど、やっぱり、まだ自分が強いという想いはありません。

 その理由、私と同じ横須賀鎮守府にいる彼女、言仁さんと何か話をしている彼女。

 吹雪さん。私が大切にしていた一航戦の誇り、それを簡単に粉砕した。最強の艦娘。

 そう、強くなろうという意識は、あんまりなかったと思います。最初はただ悔しくて追い付こうとして、そして、今は、…………せめて、共に戦えるようになりたかった。

「追い付けない背中に追いつこうとしたらいつの間にか、ですね」

「ふふ、いいですね。

 指輪に認められるなら相当の訓練が必要と聞いています。そこに至る程の強い想いがあった。っていう事ですね」

「強い想い、……ですか」

 胸に手を当ててその言葉を思う。……そう、私はなにを思って、…………

 

「さ、ここが鎮守府だよ。

 まあ、吹雪ちゃん達のイメージとは違うかな、言った通りやる事が全然違うからね」

「どちらかといえばお役所ですねー」

 綾波さんの言葉には同感です。

 と、

「司令官っ!」

 声、と。鎮守府から飛び出した誰かが言仁さんに抱きつきました。

「っと、……ただいま、響」

 飛び出して、抱きついた白い髪の少女。白いワンピース、白い肌、白い少女。

「うん、おかえりなさい。司令官」

 顔は白い包帯に覆われて見えなくとも、撫でられて、幸せそうな表情を浮かべているのは想像できます。

 と、

「提督さんっ! おかえりーっぽいっ!」

「おかえりなさいなのですっ!」

「わ、わわっ」

 さらに飛び出した少女達に抱きつかれて、そのまま皆まとめて転びました。

 

 そして、鎮守府の中へ、翔鶴さんは瑞鶴さんに、長門さんは陸奥さんに、そして、金剛さんは可愛い妹達、多分、比叡さん、榛名さん、霧島さんのいずれか、あるいは皆にお花見の話をしに向かいました。

 だから、

「基本的に、この鎮守府は私と響、そして提督がいるわ」

「うー、夕立もここで暮らしたいっぽいー」

「い、電も、……し、司令官さんと一緒がいい、のです」

「だめだ」

 羨ましそうな夕立さんと電さんの言葉に、響さんは断固として応じて睨まれました。…………そして、

「あの、……夕立」

「おお、時雨っぽいっ」

「…………うん、時雨だけど。

 その格好は、なに?」

 可愛いメイド服です。困ったように言う時雨さんに夕立さんは笑顔で、くるっ、とターン。

「夕立、皆のお手伝いさんっぽいっ!

 提督さんがいない間は、鎮守府でお掃除したりお料理したりで、お留守番の響のお手伝いしてたわっ!」

「ああ、……お手伝いさんだからメイドさんの格好なんだね」

「提督さんのお勧めっぽいっ!」

「言仁さんの趣味ですか? いい御趣味ですねっ」

 ひょい、と出てきた雪風さん。夕立さんは肩を落として「その方が嬉しいっぽいー」

「メイドさん夕立が見たい、からじゃなくて単純に向いている服だから、で贈ったらしいわ」

 大鳳さんの言葉に夕立さんが肩を落として、

「……なるほど、それはそれで、…………どっちがいいのか、解らないね」

「乙女心は複雑ですね」

 苦笑する時雨さんと雪風さん。と。

「って、……え? し、時雨が起きてるっぽいっ?」

「…………は?」

「あ、……お客さん、っぽい?」

「え、あ。……うん、そうだよ。

 佐世保鎮守府から、この都を見に来た艦娘の時雨だよ。ええと、そうだね。君に会うのは初めてだね」

「そっか、……時雨がちゃんと服着てたから、びっくりしたっぽい。

 ここにいる時雨じゃなかったのね」

「…………僕、深海棲艦になったらどうなっちゃったの?」

「その時雨さん、今はいますか?」

「この時間なら寝てるっぽい。

 最近、午後十時に寝て午前十時に起きるっぽい。………………提督さんいなくて女性ばっかりだから、……服も、あんまり着てないっぽい」

「………………時雨さん」

 全方位から微妙な視線を向けられて、時雨さんはおろおろしました。

「僕が何したのっ?」

 まあ、なにもしてないですよね。

 ……それにしても、綾波さんとお話をしている電さん。

 これが、深海棲艦となった影響、なのですね。

「気になる?」

 言仁さんの問いに、……溜息。

「はい、やはり気になります」

「うん、仕方ないと思うよ。

 皆も、……電もその事は自覚しているから、……ただ、あまり変な目で見ないであげてね。

 って、いうまでもないか」

「もちろんです」

「司令官さん、どうしたのですか?」

 不意に、振り返って電さん。言仁さんは微笑んで「お客さんは艦娘だからね。電の事、少し気になっちゃってるみたいなんだ」

「あ、……そう、なのです」

「ごめんなさい。電さん。

 解ってはいるつもりなのだけど」

「ううん、いいのです。仕方ないのです。

 こんな体になっちゃったのです。電も、…………本音を言っちゃうと凄く嫌なのです」

 そう、ですよね。

 蛇のような下半身。女の子としては受け入れ難いでしょう。

 私も、……もし、そんな姿になってしまってはどうなるか、……想像もできません。

 発狂するかも、……そうですね。そんな体になって、それでもこうして生活をしている電さんは、凄い、と思います。

「けど、そんな電でも受け入れてくれる人はいたのです。

 響も、雷も、金剛さんも、それに、司令官さんも、電がここにいていいよって言ってくれたのです。だから、電はこんなになっちゃったけど、それでも頑張って行くのですっ」

 ぐっ、と拳を握る電さん。言仁さんはそんな彼女を優しく撫でて「いい子だね、電」

「えへへー、司令官さんにいい子いい子してもらうの、好き、なのです」

「あーっ、ずるいっぽいっ、夕立もいい子いい子して欲しいっぽいーっ!」

「司令官、私もお願い」

「だ、だめなのですっ!

 司令官さんにいい子いい子してもらうのは電なのですっ」

「あら、……ふふ、みんな仲がいいのですね」

 きゃあきゃあ賑やかになる言仁さん周辺。

「いいですねー

 どんな姿になっても受け入れてくれる人がいる。綾波は羨ましいです」

 にこにこという綾波さん。

「そうですね。私も、素敵だと思います」

「そうだね。だから、赤城」

 ふと、声。

「君にはいるかな?

 どんな決断を下しても、それを受け入れてくれる人は」

「…………あ、」

 私、は。

「大丈夫です」

 口ごもる私に、凛とした声。

 吹雪さんは、真っ直ぐに言仁さんを見て、

「たとえ、赤城さんがなにを選択しても、私はそれを肯定します」

「そ、それは幸せだね」

 優しく微笑む言仁さん。……そうですね。そう言ってくれる人がいるのは、とても、幸いな事です。

 だから、

「ありがとう、ございます。吹雪さん」

 

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