深海の都の話   作:林屋まつり

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三話

 

 鎮守府、なんて名付けられているけどそんな物々しさはない。

 ただ、とても広くて大きな建物。見ていた大樹はここに生えているっぽい。

「聞くの忘れてたけど、この大樹、なにっぽい?」

「この都の要、らしいデース」

 というわけで一緒に歩くのは金剛。言仁くんは寄っていきたいところがあるっぽい。

「ここ、深海っぽい?」

「今更デース」

「了解っぽい」

 あまり深く考えない事にしよ。

「夕立は、これからここでのんびりと暮すデス?」

「んー、そう考えてるっぽい。

 目、醒ましたの今日だし、正直決めかねてるっぽい」

「仕方ないデス。

 ワタシたちは仕事に追われる事が多かったから、時間の空きには慣れてないデース」

「っぽい」

 ともかく、

「あ、金剛、と。……そっちの娘は? 夕立?」

「大鳳、……っぽい」

「…………大鳳よ」大鳳は異形化した艤装に触れて「これ、こんなになっちゃってるけどね」

 そして、手を差し出す。

「ここの鎮守府の、……まあ、手伝いをしているわ。

 なにかあったら来なさい」

「うん、頼りにしてる」

 握手を交わす。……ちょっと安心。

 いろいろ相談に乗ってくれる人たちが穏やかなのは嬉しい。意地悪だったらかなり困るっぽい。

「確か、家の事で相談デース」

「そ? ……そういえば、提督は?」

「トヨウラって人に相談したい事がある。って言ったマシター」

「そう?」

「トヨウラ? それは、艦娘じゃないっぽい?」

 そういえば、言仁くんもちらっとそんな名前言ってたっぽい。

「この都を作るために提督に手助けした人よ。

 私も会った事はないわ。彼らは彼らでつながりがあるみたいね」

「むぅ、テイトクがワタシの知らない女性と会うのは、面白くないデース」

「…………こらえなさい。金剛」

 むむむっ、と拳を握る金剛と苦笑する大鳳。「……女性? トヨウラって女性なの?」

 違うっぽい? 女性といった金剛に視線が集まる。金剛はばつが悪そうな表情で「な、何となく勢いで言ってミマシタ」

 沈黙。…………ちょっと、重い。

「…………そ、そういえば、言仁くんって何者っぽい? 普通の人には見えないっぽい」

「マエン、と言ってたデス。けど、どういう意味なのかわからないデース」

「それについては提督から直接聞きなさい。まあ、立ち話もなんだし、入りましょう。

 住居に関しては提督の執務室に行かないとなかったはずだしね」

 そう言って歩き出す大鳳。夕立と金剛も続く。

 鎮守府の中へ。清掃が行き届いてる。結構綺麗。

「生活については聞いた?」

「それは金剛から聞いた。……聞いた感じだけど何とかやっていけるっぽい。

 あ、そうだ。落ち着いたらお仕事探しに来るっぽい」

「それがいいわね。平穏は歓迎だけど、退屈は嫌よね」

「っぽい」

「ワタシはここで働きたいデース。

 テイトクの傍で働きたいデースっ!」

「満員よ」

「カワレ」「一昨日来なさい」

「こ、こんなところでいきなり睨みあわないで欲しいっぽい」

 とりあえず間に割って入る、大鳳と金剛は肩をすくめて離れた。

 と、

「相変わらずにぎやかだね。

 金剛、それと、大鳳と、……もう一人いるね。入っていいよ」

 声に促されて、大鳳が扉を開けた。

 

「響、っぽい?」

「そうだね」

 苦笑して頷くのは、おそらく言仁くんが座る大きな机の隣。

 いくつかの書類に視線を落としていた、っぽい、響。

 実際はわからない。だって、彼女の目には包帯がある。

 目を覆うようにぐるりと、純白の包帯が顔を覆っている。

 帽子がなくて広がる白い髪。汚れ一つない純白のワンピース。白のソックスと靴。

 色白の響がそんな格好なので、もう、真っ白っぽい。

「Верный、いや、響でいいよ。そっちの方が馴染んでいるだろうからね。

 夕立だね?」

「うん、そうっぽい」

「それは、ぽい、も必要ないと思うよ。

 それで、どうしたのかな? 生憎と司令官はいないけど」

「言仁くんはトヨウラ、っていう人に会いに行ったっぽい」

「豊浦? へえ、彼が来てるんだ。

 久しぶりだし、会えるかな、聞きたい事があるのだけど」

「響は知ってるの?」

 大鳳の問いに響は頷いて「司令官と一緒に私の改装をした人だよ」

「改装?」

 確かに、真っ白だけど、それじゃないっぽい?

「どういう人デース?」

「面倒な人。……まあ、それはいいや。

 それで夕立、どうしたんだい?」

「今日堕ちてきたみたいだから、住居ね。

 住む場所の紹介。確か、この執務室にあったわよね?」

「ああ、それか、ちょっと待ってて」

 そう言って響はたくさんのファイルが並んでる後ろの棚に向かう。

「響も、異形なところはないっぽい?」

「眼が、そうなっているらしいわ。

 見た事はないけど」

「目立たないのはちょっと、羨ましいデース」

「そうっぽい」

 頷く。……けど、

「どうかしらね。

 響、鏡見て真っ先に嘔吐して、そのあと、自分の眼を潰そうとしたらしいわ。……女の子が自分の顔を傷つけようとするなんて、ちょっと、想像できないわね」

「っぽい」「デース」

「…………当事者のいないところでそういう話はして欲しくないのだけど」

「ああ、ごめんね。響」

「いいけどね。

 夕立、これが空いている物件の情報だよ。見取り図と、あと、地図、と、鍵。……金剛、いろいろと面倒をかけて申し訳ないけど、案内をしてくれる?」

「Of course、ワタシに任せなサーイ」

「お願いね。それと大鳳。

 私も出るから、ここをよろしく」

「いいけど、どうしたの?」

「いるうちに、豊浦に会っておきたい。

 いろいろと聞きたい事があるんだ。…………ふ、ふふ、あいつに植えつけられた私の権能で、微塵切りにしてやる」

 ……ひ、響が怖いっぽい。

 どん引きする大鳳の横を不気味に笑いながら響が歩いて行く。

「権能?」

 ふと、ぽつりと呟かれた響の言葉が頭に引っ掛かった。

 

//.大鳳

 

 夜、……といっても、ここは何も変わらない。

 ただ、時計は二十時を示す。鎮守府内の食堂に行ってさっさと料理をする。

 ちなみに、料理は私の担当。包帯を目に巻いてる響は論外だし、提督に家事を任せるつもりはない。

 幸い、というか家事関係は慣れている。ずっと、やらされていたから。……という、私の艦娘時代はともかくとして、

 とはいえ、提督や響がいないのなら適当に作る。一緒に食べてくれる人がいないのなら真面目に作るつもりはない。

 さっさと食事を済ませて入浴。……ほう、と一息。

「提督も、響も、今日は戻らない、かな」

 湯を軽くかき分けて溜息。……提督はもちろんだけど、響も、私がここに来た時から一緒に暮らしてきた、家族。……みたいな娘だし。

 今日はさっさと寝よう、と。

「夕立、か。……本当に、異形の個所はないのかしらね」

 私や金剛は艤装が異形となっている。他は普通の艦娘と変わらない。

 どこにもないか、……それは、あり得ないはず。

 深海棲艦は艦娘が死んだ後の姿だ。そして、艦娘が死ぬ、……まあ、轟沈するという事は大破、大きな破損が必要になる。それもないのに死ぬなんて事はありえない。

 そして、破損があればそこは異形という形で修復される。私や金剛は艤装を破壊されて轟沈した。たとえば、電は両足を吹き飛ばされて轟沈したらしい。

 けど、夕立にはそんな個所はどこにもない。

 破損していないか、あるいは、…………「出よ」

 

 入浴を済ませて自室へ。浴衣に着替えて艤装を装着。

「さて、と。…………最後のお仕事、と」

 最後にして、最大の仕事。この都の監視。

 平穏だけど、とはいえここにいるのは深海棲艦。なにかあった場合は非常に危険。

 だから、見回りをする。その能力があるからこそ、私はここにいる。……さて、

 深海棲艦となった私の甲板から飛び出すのは艦娘だった時の艦載機じゃない。

 小型の、非常に小さな、

「行きなさい」

 哨戒の機能に限定して数を増やす。個体あたりは小さいけど、むしろ好都合。

 数万の、微細な艦載機が雲霞のように飛び出す。

 異常を発見したらその映像を送信せよ、と。

「よい、しょ、っと」

 艦載機を放って、艤装を机の上に乗せる。異形と化した艤装。

「さて、と。

 寝ましょ。……何事もなければいいんだけどね」

 艤装のコンソールに触れる。一応、ちゃんと映像が見れる事を確認して、私は目を閉じた。

 

 警告の音が響く。

 

「っ!」

 跳ね起きた。視線を向ければ艤装が警告の音を立てている。

「なにかあった、のかしらね」

 実は、異形化した体の使い方がわからないで建物を破壊した事も、そこそこ、ある。

 その類か、と思って艤装のコンソールを操作。

 まずは縮図、都の全景を映像として構築、確認。……そのうち、異常個所が赤く染まっている。

 コンソールをさらに操作。異常個所を拡大。さらに問題のない個所にある艦載機をそこに集中させる。

「家の情報は、……ああ、夕立、か」

 今日来た娘。なら、

 暴走、と。……判断。溜息。

「ある意味面倒なのよね。そっちの、異形化は」

 異形化は、体の、外見の変化だけとは限らない。

 精神、記憶、意思さえ造り変える事がある。艦娘だった時に戦っていた深海棲艦はほとんどがこうした形で異形化している。

 強すぎる憎悪、嫌悪が心まで壊してしまう、と。

「仕方ない、行きましょうか」

 提督がいない事はむしろ安心した。こういうときはすぐに知らせるように言われているけど、提督を危険な目に遭わせたくない。

 敬愛する人には、穏やかに暮らして欲しいのだから。

 だから、

「家の半壊、住人は夕立」

 立ち上がる。艦載機の半数を艤装に戻す。残り半分のうち、機能を再設定、隠蔽と、一応周囲への探索にあてる。

 今日来たばかりの夕立に敵意を持っている娘はいないと思うけど、艦娘だったころに彼女と因縁のあった娘がいるかもしれない。その娘が彼女を見て襲いかかるかもしれない。

 一応、その監視も飛ばして、呟く。

 

 いつかとは違う。本気で守りたいと思う人のために、

 

「大鳳、出撃します」

 飛び出した。

 

//.大鳳

 

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