深海の都の話   作:林屋まつり

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五話

 

//.雪風

 

「あー、疲れたーっ!」

 ごろん、と転がり込んだ変な客。

「仕事帰りに雪風の家に直行とか、なに考えてんですかうさぎちゃん」

「島風おかえりー」

 同居してるはたたちゃんが笑顔で出てきました。

 そして、

「ちぃーす、遊びに来たよー」

「強襲なのですっ!」

「……うわー、なんで鈴谷さん達まで来るんですか」

「あれ? 鈴谷歓迎されてないっ?」

「だが電は気にしない、なのですっ!」

 首を傾げる鈴谷さんと、びしっ、と指をさす電さん。……はあ。

「雪風の癒し、羽黒さんはお仕事ですかあ」

「電ーっ」「はたたちゃんっ」

 そして、飛び出して抱き合う二人。身長同じくらいですね。

 …………雷電と霹靂。……いえ、雪風の知ってる雷さんは今、鎮守府で御留守番ですけど。

 ともかく、そんな名前からなのかやたらと仲のいい雷電姉妹とはたたちゃんです。

「ハムスター、ごはんー」

「うさぎちゃんには特性ドングリをぶつけてあげますよ」

「鈴谷も何か食べたいー

 はい、お土産」

「あ、ありがとうございます」

 鈴谷さんと電さんは近所のスーパーに勤めてます。だからこうして食べ物を持ってきてくれるとても有り難い深海棲艦です。

 このあたり、雪風の不運対象外なのは嬉しいですね。

「ごーはーんー」

「寝転がったままだだこねないでください滅茶苦茶邪魔です。

 っていうか、島風も鈴谷さんたちみたいに差し入れ持ってきてくださいよお」

「えー、青葉新聞持ってきてんじゃん」

「ああ、あれ掃除に役立ってますよ。

 敷いてよし、拭いてよし、包んでよし、新聞紙って意外なところで役に立ちますよね」

「それ聞いたら青葉が泣くから聞かなかった事にするわ」

「それがいいでしょう。

 さて、料理ですか、苦手なんですよねえ」

 不運だから。

「雪風の料理結構美味しいから好きなんだよね」

「私雪風のご飯好きっ」

「…………はあ、って、ちょっと待ってください。みんな食べるんですか?」

 それは、ちょっと人数が多いのですが。

「おーなーかーすーいーたーっ」

 じたばたとだだをこねるうさぎちゃん。頼みますから、せめてはたたちゃんより大人しくしててください。

「雪風ー」

 つい、とそのはたたちゃんから手を引かれました。……仕方ありません。

「鈴谷さん、大井さんのところに食べに行きますか?

 これ、食事代に使えるかもしれませんし」

「雪風ご飯じゃないの?」

「雪風ご飯は後で作ってあげますよ」

 つい、と手を引くはたたちゃんは一度撫でてあげて、

「ん、じゃあそうしよっか」

「電はハンバーグを食べるのですっ」

「あそこかー

 愛の巣に踏み込むのって抵抗あるんだけどなあ。じゃあ、また雪風のおごりね」

 雪風の手を掴んで島風。

「何をおっしゃるうさぎちゃん。

 もう衣笠さんからお給料もらってるでしょ? 自分でお金出してくださいよ」

「はーい」

 ちぇー、と応じるうさぎちゃん。まったく、現金な娘です。

 さて、そういうわけで扉を開けました。

 

「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です。どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

 雪風がいました。

 

「あ、あれ? なんで雪風が二人いるの?」

 おろおろするはたたちゃん。……って、「はたたちゃんすとーっぷっ!」

 混乱して、とりあえず排除しようとしたのか、片手に雷を構築しましたっ! あんなもの振り回されたら家が吹き飛びますっ!

 止めようとして、反射的に手を伸ばして、…………不運な雪風がそんな事をすればどうなるか。

「へあっ?」

 雷に触っちゃいましたっ!

「おうっ?」

 で、雪風の手を掴んでいた島風にも通電して、仲良く感電。一緒に倒れました。

 轟沈。

 

 目を開ける。柔らかい膝の上、上から聞こえるのは泣きそうな、しゃくりあげる音。

「ひくっ、うう、ゆ、雪風、ぐすっ、ごめん、ごめんね」

「ああ、……はたた、ちゃん」

 ぽたぽたと頬に落ちる温かい雫。泣かせて、しまいましたか。

「ゆ、雪風っ! あ、あの、」

 何か言いかけて、口をパクパクさせるはたたちゃん。

 そ、と手を伸ばしてその頬に触れました。

「いいんですよ。はたたちゃんは怪奇現象から雪風を護ろうとしてくれたんです。

 雪風は、それだけで十分です」

「ほ、……ほんと、雪風。怒ってない?」

「怒ってませんよ」

 まだ少ししびれますけど、これは雪風の運が悪いだけ、はたたちゃんに悪意はありません。

 だから、大丈夫です。そっと、雪風ははたたちゃんを抱き締めました。

「雪風は大丈夫です。

 だから、泣かないでください」

「う、……うん、うんっ」

「…………あのー、こっちで巻き添え食らって感電してる島風。どうするの?」

「それと、雪風の事を怪奇現象とか言わないで欲しいです」

「ど、……」

 あ、忘れてました。それはともかく、ど?

「どっぺるげんがー? な、なのですっ?

 雪風、死んじゃうのですっ!」

「え? ゆ、雪風、死んじゃうの?」

 素っ頓狂な事を言う電と、恐る恐る雪風を見るはたたちゃん。……いえ、雪風もう死んでます。

 じゃなくて、「なんまんだーなんまんだー、なのですっ!」と、意味不明な御経を唱え続ける電さんは放置。

 で、

「ええと、雪風ですね」

「はい、……っていうか、なんでこの会話をするのにこんなに時間がかかるのでしょうか?」

「雪風も解りません」

 むー、と雪風にしがみついて警戒するはたたちゃん。

「それで、えーと? 雪風よね?」

「そうです。……あ、深海棲艦じゃありません。

 雪風は艦娘です」

「艦娘?」

「ここだと珍しいのです」

「う、……まだなんか目がちかちかする」

 首を傾げる鈴谷さんと電さん、のろのろと復活する島風。

 ともかく、

「雪風が、二人?」

 きょとん、とするはたたちゃん。

「そうみたいですね。

 ええと、……艦娘ですよね? 雪風たちの事、知ってます?」

「深海棲艦ですね。

 大丈夫ですよ。雪風は討伐に来たとかそういうつもりはありません」

「そうですか」

 なら、安心です。

「あ、そうなんだ」

 はあ、と安堵する鈴谷さん。電さんと島風の前に立ってます。

「あはは、まあ、雪風も非武装ですしね。

 いえ、警戒させた事は謝ります」

「非武装ねえ。

 あんたもネジ外れてるわね。ここが深海棲艦の跋扈する都って解ってんでしょ?」

 不思議そうに島風、それもそうですね。

「んー、けど、言仁さんも含めてこの都の皆さんは信用できそうでしたからね。

 大丈夫ですよっ、うさぎちゃんっ」

「……えー」

 ふと、雪風は雪風に視線を向けました。雪風は頷きました。

 よし、せーの。

「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」「うさぎちゃんっ」

「鬱陶しいわっ!」

 荒ぶる島風、雪風は雪風とハイタッチ。

「い、電も参加するのですっ!

 うさぎちゃんコールに、なのですを追加するのですっ!」

「鈴谷もカワイイコって言ってあげるわよっ!」

「やめてよ鬱陶しいっ!」

「……でさ、雪風」

「「お呼びですか鈴谷さんっ!」」

「雪風のステレオボイスマジうるさいっ!」

 おおう。ちょっとショック。

「じゃ、じゃあっ」

 つい、とはたたちゃんに手を引かれました。彼女は少しもじもじして、

「私、雪風の事、お姉ちゃん、って呼びたい、の。…………だ、だめ?」

「ではっ、雪風は深海棲艦雪風の事を雪姉と呼びますっ!」

「お、それいいね。

 よし採用っ、雪姉っ」

「どう見ても鈴谷さんの方が雪風より年上なんですけどー」

「艦齢込みなら一番のお姉ちゃんは雪風なのですっ!

 電も今日から雪姉と呼ぶのですっ!」

「ずっと?」

「…………ばばあ」

「……よし、雪妹、雪風の妹ならやるべき事は解りますね」

「もちろんです雪姉」

「な、なによ、やろうっての?」

 警戒する島風、電さん、鈴谷さんとも目配せして、

「うさぎちゃんっ」「カワイイコ」「うさぎちゃんっ」「なのですっ」「うさぎちゃんっ」「カワイイコ」「うさぎちゃんっ」「なのですっ」「うさぎちゃんっ」「カワイイコ」「うさぎちゃんっ」「なのですっ」「うさぎちゃんっ」「カワイイコ」「うさぎちゃんっ」「なのですっ」「うさぎちゃんっ」「カワイイコ」「うさぎちゃんっ」「なのですっ」

「ずるーいっ、私も混ぜてよーっ!」

 ぶんぶん手を振りまわすはたたちゃん。よし、彼女も参戦ですっ! と思ったところで、

「そいやぁあっ!」

 多脚島風の多方向蹴り、なぜか二発雪風に命中して他外れました。……がく。

 

「えへへー、おねーちゃん」

 なぜか雪風の腕にしがみつくはたたちゃん。……いえ、可愛いからいいんですけど。

「そういえば、この娘。艦娘でも深海棲艦でもないですよね?

 どちら様ですか?」

「神様よっ!」

「おおっ?」

 むんっ、と胸を張るはたたちゃん。

 凄い事に、事実なんですよねー

「こんな可愛い神様もいるんだよねえ。

 羨ましいなー」

「えー、私は鈴谷の方が羨ましいっ、鈴谷すっごい綺麗なんだもん。

 ねえ、雪妹、艦娘もお姉ちゃんとか鈴谷みたいにすっごく美人なの?」

「そうですけど、……雪風としてははたたちゃんもすっごい可愛いですよ?

 ねえ、電さん」

「もちろんなのですっ!

 羨ましいのですっ」

「え、えへへ」

 可愛いと言われて照れくさそうに微笑むはたたちゃん。

「ああもうっ、なにこの可愛い娘っ!

 鈴谷も妹に欲しいっ!」

 むぎゅっ、とはたたちゃんを抱きしめる鈴谷さん。

「鈴谷、妹いるじゃない。喫茶店に」

「熊野? えー、あんまり可愛くなーい」

「我が侭言わないの。

 …………姉妹がいるだけ、いいじゃない」

 少しさびしそうに呟く島風。……確か、島風に姉妹はいませんでしたよね。

「あ、それじゃあ」

 ぱたぱたとはたたちゃんは島風のところへ。そして、

「島風お姉ちゃんっ」

 にこっ、と笑顔。……おお、うさぎちゃんががくがくし始めました。

「か、」

「か?」

「かーわーいっ! 可愛いっ!

 この娘ほんとに私の妹にしたいっ!」

「うー」

 むぎゅー、とはたたちゃんが抱きしめられました。

 

 というわけで、みんなで定食屋さんへ。雪妹もいるのでちょうどいいです。

 道中、当然話題の中心は雪妹で、とても根本的な疑問。

「そういえば、雪妹、なんでいるの?

 艦娘だよね。言仁とかいやがるんじゃない?」

「んー、それについてはご飯食べながら話しましょうか。

 一応、言仁さんの許可は得てるので密入国じゃないですよ」

「しれぇの許可つきですか」

 少し驚きました。……が、まあいいでしょう。

 ともかく、大井さん達の定食屋へ。よく皆で食べに行くんですよね。安くて早くて量があって、……で、美味しくて。

「いらっしゃーい。……って、また貴女達?」

「んー、どちら様?」

 テーブルを拭いていた大井さんが呆れたような表情。奥から北上さんの声。

「島風と鈴谷と電とはたたちゃんと、…………え? 雪風が、二人?」

「「陽炎型駆逐艦8番艦、雪風です。どうぞ、よろしくお願いしますっ!」」

「…………うっさ」

「「ひどっ」」

「ま、適当なところに座って」

「はーい」

「あ、テーブル移動させるね」

「はーやーくーっ、おーそーいーっ!」

 椅子に座って文句を言う島風。

「早くして欲しかったら手伝ってよ」

「二つで足りるのです?

 ええと。……あ、六人だからちょうどなのです」

「私、お姉ちゃんの隣っ」

「じゃあ、ここに座りましょうか」

 適当な椅子に座ると、嬉々としてはたたちゃんは雪風の隣に座りました。

「では、雪風はここで」

 で、雪風の正面に雪風。「なんか、合わせ鏡みたい」

 鈴谷さんが座りながら不思議そうに雪風たちを見ています。

「改めてですけど、見た目変わらないのです。

 ええと、どっちがお姉ちゃんなのです?」

「外見変化ありませんからね。

 時雨さんみたいに、メガネでもかければわかるのですけど」

「ぶはっ!」

「…………なにを噴き出すうさぎちゃん?」

「あ、あははっ、なにそれ、だめ、似合わなーい」

 むぅ。

「わかりましたっ!」

 がたっ、と立ち上がる雪妹。

「ではっ! 黒いマントを装備しておっきな鎌を持ちますっ!

 死神雪風っ!」

「ひいっ?」「なにそれ、自虐?」「か、格好いいっ!」

 死神という言葉にびくっ、とする電さんと、首を傾げる鈴谷さん、きらきらなはたたちゃん。

 …………ふっ

「誰か、……誰か、雪風に、運を分けてください」

「切実っ?」

「あ、そういえば前に一緒に遊んだ陽炎が言ってたけど、雪風の不運って自分の幸運を垂れ流しているからで、一緒にいるといい事が起きるんだって、具体的には見てて面白い」

 あの姉、後で殴る。そして、雪風は雪妹の肩を叩きました。

「雪風、死神と呼ばれてもいいから、運を分けてください」

「せ、切実ですね」

「ちょうどいいんじゃないの?

 幸運を吸い込む雪風と、幸運を垂れ流す雪風。…………じゃなくて、さっさと注文決めなさいよ。あんた達いつも遅いから北上さん困ってるわよ?」

「雪風たちの話聞き流すの楽しいんだけどねー」

 奥から声。っと、そうですね。

「楽しいって、ほら、雑談続けなさい」

「そう言われるとやりにくいんですけど」

「ともかく注文を決めるのですっ、電はお腹すいたのです」

「私もーっ」

 ぱちんっ、と手を合わせるはたたちゃんと電さん。

「では、雪風唐揚げ定食、行きますっ!」

「売り切れ」

「かつ丼っ!」

「売り切れ」

「ぎゅ、……う、丼」

「売り切れ」

「雪妹ーっ!」

「…………し、深海棲艦化恐るべし」

 連続売り切れを達成した雪風を見て、雪妹は慄きました。

「雪妹と同じの頼めばいいんじゃない?

 幸運艦だし、あるんじゃない?」

「な、なるほど、流石うさぎちゃんっ!

 その手がありましたかっ! 雪妹っ! 頼りにしてますっ!」

「…………食事の注文で頼りにされたのは初めてです」

 ふむう、と。雪妹は視線を落として、

「メンチカツ定食っ!」「雪風もそれでっ!」

「それはありそうね。……ええと、北上さーんっ! メンチカツ定食二つー」

「…………あー、一つしかないや」

「雪姉って、凄いですね」

「雪風は悪くありませんっ!」

 

 夜、はたたちゃんを寝かしつけて、

「それで、なにか用事ですか? 雪風」

「あ、戻ったんですね」

 まあ、二人しかいませんしね。

 こと、と。「お酒?」

「古鷹さんからかっぱらってきました。

 秘蔵ですよ」

「用事とは?」

「そりゃあ、この都に尋ねて、一住人の家に押し掛けたら用事があったとしか思えないでしょ?

 観光は、……場所はないですけど、お店とかはいくつかありますし」

「いやまあ、深海棲艦になった雪風に会ってみたくて」

「会って、みたくて?」

 会うだけ、ですか? …………苦笑。

「懺悔したかったんです」

 

//.雪風

 

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