深海の都の話   作:林屋まつり

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七話

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 くすくすと微笑む。深海棲艦の鳳翔さん。

「Oh、……食べましたネー」

 なんで金剛さんはちょっと引き気味なんでしょうか?

 そして、食器を片づけて深海棲艦の鳳翔さんはお店の奥へ。

「本当に、やっているのですね」

 その後ろ姿を見送るのは艦娘の、鳳翔さんです。

「テイトクは嘘つきまセン。

 ま、鳳翔が来ようと考えているのはこういうところデス。ワタシも歓迎しマス。賑やかになるのは嬉しいですネ」

 ぱちっ、とウィンクする金剛さん。けど、

「翔鶴さんは、いらっしゃらなかったのですね」

 確か、鳳翔さんに話をするように頼まれたのは彼女、だったのですが。

 金剛さんは肩をすくめて「長門たちと話しこんでマス。ま、すぐには決められないみたいデス」

「そう、ですか」

 そうでしょうね。

 深海棲艦の発生による艦娘の犠牲、など、現在の平穏には様々な問題があります。けど、それでも、大きな争いのない、まぎれもない平穏が実現しています。

 それを許容するか、拒否するか。……私は知らなかったのですが、吹雪さん達、そして、元帥や陸軍の方々も巻き込んで散々考え抜いたようですから。

 そして、それを実現した。……溜息。おそらく、そこにはいまだに悩み続けている私には想像もできないような、強い意志があったのでしょう。

「ワタシは途中で飽きて抜けてきちゃいまシタ。

 長門は参戦すべきだ、なんて思っているみたいデスケド、あの吹雪を相手に、べきだ、程度の理由で参加するのはお勧めできませんネ。

 翔鶴と、この都にもう一人いる金剛は参戦しないで考えているみたいデス。長門を止めてくれればいーんですけどネー」

「金剛さんは、この都に残るのですね?」

 私の問いに金剛さんは頷いて「あんまり死者をこき使わないで欲しいデス」

「私も、この都にいる事を考えていますが、死者の仲間入りなのでしょうか?」

 困ったように呟く鳳翔さん。対して、金剛さんは容赦なく頷きました。

「死者の世界の食べ物を食べたら死者の仲間入り。

 そんなの当たり前の事デス」

「…………あのー」

 がっつり食べちゃいました。

「…………いえ、比喩、デスヨ?

 ほら、……えーと、…………お、同じ御櫃の米を食べる、デス?」

「同じ釜の飯を食べる。

 惜しいですね、金剛さん」

「Shit、……まあ、それはいいデス。

 ともにいよう、そう思う事が大切デス。鳳翔がこの都で暮らそう、と考えているようにデス」

「死者の都で暮らす者は、生きていようと、死者、の仲間入りですか」

「そうデース。

 鳳翔も、ちゃーんと考えた方がいいデス」

「そうします」

 そして、それはもちろん、私も、

 吹雪さんたちと一緒に戦うか、……それとも、………………

「戦いたい、そんな理由はあるでしょうか?」

「加賀さんですか」

 ぽつり、零れた言葉に鳳翔さんは応じました。頷きます。「いたっ?」

 頷いて、ばしっ、と思い切り背中を叩かれました。

 思わずむせて、犯人を睨みます。ウィンクされました。敵いそうにありません。

「赤城っ! 加賀の事を意識しすぎネっ!

 戦う理由はそれだけ? なら、戦わない方がいいデス。それとも、加賀の自己満足のために命を懸ける気デスカ? 加賀のために、死ぬつもりデスカ?」

「死ぬ、…………です、か」

 そうですね。それが、戦場に出るという事ですね。

 少しの慢心で命を落とす。それが、戦場。……こんな中途半端な気持ちで出るのは、だめです。

「吹雪は己の選択に魂を懸けるって言ってまシタっ!

 赤城も、そのくらいの覚悟は持たないとダメネっ! 吹雪の足を引っ張るつもりデスカっ!」

「……それは、だめ、です、……ね」

 金剛さんの言葉に、思い出すのは吹雪さん。

 共に出撃した時の、あの、凛とした姿。……そうですね。

 そこに並び立つのだから、それにふさわしい覚悟でないと、だめです。

「そういえば、赤城さんは、あの、《呪詛の御社》が構築した平穏は、ご存じだったのですよね?」

「え? はい。……私が知ったのは、《呪詛の御社》が稼働してから、ですが」

「あれって、誰が構築したんデス?」

「確か、……海軍から、吹雪さん、を中心に、雪風さん、綾波さん、時雨さん。陸軍から、陸軍大将の将門さん。……それと、元帥が最終認可をしたと聞いています。

 《呪詛の御社》は、舞風さんが構築して、道真先生が相談に乗っていたみたいです」

「あの、仮面をつけてた、ですか?」

「はい」

 ご存知でしたか。

 なにか、非常に異質な舞風さん。……そうですね。印象では言仁さんの秘書艦の、真っ白な響さんに近いです。

 なんというか、異質で、あまり関わりたくありません。……いえ、舞風さんだから、というわけではありませんが。

 ただ、あの仮面をつけた舞風さんは、それとは根本的なところが違う気がします。

「赤城さんは、その平穏を護りたいと思いますか?」

「そう、ですね」

 本音をいえば、よく解りません。……けど、

 護りたい。……私は、…………私が、護りたいのは、

 

 …………護りたいのは?

 

「あ、おかえりなさい。赤城さん」

「ただいま、吹雪さん」

 布団に座る吹雪さん。彼女はのんびりと出迎えました。

「もういいのですか?」

「そうですね。明日もありますし、今日はお休みしようと思います」

「ゆっくりやすんでくださいね」

 ちなみに、案内されたのは一軒家です。この都、訪れた深海棲艦たちに一軒家を渡しているとか、……ちょっとうらやましいです。

 一階の一間にはすでに布団が二つ、敷いてあります。

「吹雪さん、お風呂は?」

 多分、浴衣も着てますし、もう入ったのだと思いますが。

「一番風呂、いただいちゃいました。

 いい湯でしたよ」

「そうですか」

 ほっこりと微笑む吹雪さん。では、私も入りましょう。

 

 ちゃぷん、と音。

「ふぅ」

 いいお湯です。入渠とは違う純粋な入浴。これもいいものです。時間の制限もありません。

 そういえば、

「吹雪さんと、同じ家、なんですよね」

 二軒、と聞いています。部屋が四つしかない、そして、私達は五人。一人余りますから。

 だから、私と吹雪さんで同じ家で、もう一軒、綾波さん、時雨さん、雪風さん、ですか。

 鳳翔さんとこの都を見て回る前に誰がどこに行くか、決めたわけではないので、多分、吹雪さんが決めたのだと思います。

「同じ、横須賀鎮守府出身、だからでしょうか」

 それだけ? ……だと、ちょっと、……寂しい、です。

 って、えと?

「はーっ、な、なに考えているんですか私はっ」

 そういう事じゃなくて、ですね。

「なんで戦うか、……ですか」

 あまり、意識していなかった。左手に視線を落とす、そこに輝くのは一つの指輪。

 指輪持ち、度重なる訓練と実戦。それにより培われた高い実力を持つ証。

 けど、

 欲したつもりは、なかった。気がついたらそれを得ていた。

 そして、それを得た高揚はなかった。最上位に位置する艦娘の一人として数えられて、けど、…………けど、それでも、遥か先にある背中には全然届かなかった。

 追い付こうと必死になって、……せめて、並び立とうと手を伸ばして、本当に、そればかり考えて、指輪に認められたのも、気がついたら、だった。

 私自身より、吹雪さんの方が喜んでたっけ、と。思い出して微笑。

 …………そういえば、なぜ、でしょう。

「なんで、吹雪さんは、私を傍に置いてくれたのかな」

 吹雪さんは海軍総旗艦。最強の勇名を持ち、それに決して違わない実力を持つ。

 確かに私は今でこそ指輪持ちで、海軍でも上位に位置する正規空母。……けど、それより前から、吹雪さんは私を気にかけてくれた。

 私より、高い実力を持つ空母の艦娘なら、いたのに、…………それこそ、私より高い実力を持つ、赤城、もいたのに、

 それが嬉しい、と思う。けど、

 

 私が、護りたいものは?

 

「聞いて、みようかな」

 

 私は、戦場に何を望んでいた?

 

「お風呂、上がりました。

 それじゃあ、寝ましょうか」

「はいっ」

 外に面する障子を閉めて、手を伸ばして、……灯りを消して、

 真っ暗にして、……そして、

「吹雪さん、……聞いて、いいですか?」

 真っ暗にして、吹雪さんに背を向けて、……だって、私の事をどう思っていますかなんて、そんな恥ずかしい事、正面からは、聞けないです。

「なんですか?」

「…………え、えと、…………あ、……」

 ……いざ、聞こうとすると、恥ずかしい、ですね。

 だから、少し、気になった事を先に聞いてみましょう。会話を重ねれば少しは話しやすい雰囲気になる。と思います。

「あの、……ええと、戦艦の姫、とはどういう関係、だったのですか?」

「先輩、ですか。

 そうですね、…………憧れの人、です」

 

 とくん。

 

「先輩と私は、最初期、……建造じゃなくて、《がらくた》が作りだした。…………今風に言えばドロップ艦、なんです。

 まあ、先輩と私以外にも、何人かいましたけど」

「そうですか」

「あの、ここに来る途中に先輩に言ってましたよね。

 駆逐艦級の深海棲艦に追いかけまわされて涙目になってたって、あれ、本当なんです。……懐かしいなあ」

「今じゃあ想像もできません」

「あはは、……そうですよね。

 けど、私も結構だめで、戦闘も訓練も、失敗ばっかりだったんです。……それをいつもかばってくれたのが、先輩でした。

 しっかりしてて、強くて、頭もよくて、…………優しかったです」

「結構、意地悪な感じもしましたけど」

「……えーと、昔はもっとおしとやかだったんですけど、……なんか、変わっちゃってます」

 吹雪さんの表情は見えない、ですけど。

 けど、なんとなく笑っているのが解ります。

「先輩に追いつこうって、……先輩と一緒に頑張って行きたいって、ずっと、ずっと頑張っていました。

 訓練で成功するといつも褒めてくれて、頭を撫でてくれて、……訓練でいい成果を出せた事より、先輩に褒めてもらえた事が嬉しかったです」

 大切な、幸せな思い出を語るような、吹雪さんの言葉。

 それが、ちくちくと、痛む。

「……けど、」

 声。

 

「そんな先輩を、私は、殺しました」

 

 殺し、た?

「艦娘の献体として、先輩はいろいろな実験に付き合っていました。

 今の入渠施設や工廠は、その実験結果から作られたものです。……そして、最後の実験、耐久実験。という名目で、要するに艦娘は艦娘を殺せるのか、っていう実験です。

 艤装を装備した艦娘は人の手に負えませんし、深海棲艦頼りというのも不安ですから、……だから、最終手段として、艦娘が艦娘を処分する。……そんな、実験です」

「それで、……」

「はい。……私の砲撃で、先輩は轟沈して、…………けど、目の前で深海棲艦に変わりました。

 それが、戦艦の姫。……私の、敵、です」

「そう、……だったのですか。

 あの、ごめんなさい、吹雪さん。辛い事、思い出させちゃって」

 大切な人、尊敬する先輩を殺した過去。

「ううん、……いいんです。

 ………………そうだ。ええと、私も、赤城さんには謝らないといけない事があるんです」

「私に、ですか?」

「ええと、いきなり呼び出して、ここまで付き合わせちゃってごめんなさい」

「なぜ、ですか?」

 困ったような吹雪さんの言葉に、反射的に、そんな事を言っていました。

 少し困ったような、沈黙。だから、

「なぜ、私を?」

「…………たぶん、傍にいて欲しかったのだと、思います」

 ぽつり、声。

「最強の艦娘、……なんて呼ばれてますけど。結局、私は、先輩の背中を追いかけてた頃と変わってない。駆逐艦の艦娘です。

 だから、誰かに、近くにいて欲しかったんです。……綾波ちゃんとか、雪風ちゃんとか、時雨ちゃんは、みんなそれぞれの場所に行って、……後に来た艦娘も、みんな、いなくなっちゃうから。

 私、強くならないと、いけなかった。じゃないと、先輩の犠牲は、無意味になっちゃうから。…………けど、それで、赤城さん以外、みんなどこかに行っちゃいました」

 

 あの、駆逐艦の娘、吹雪は狂ってる。

 ………………誰かが、そう呟いたのを思いだした。

 

「ごめんなさい、赤城さん。

 私のわがままで、振り回しちゃって、……赤城さんが、離れないでいてくれたのが嬉しくて、甘えちゃっていました」

「いえ、……そんな、事は」

 胸に手を当てる、とくん、とくん、と。

 

 離れなかったのは敵愾心。

 彼女に勝ちたい、一航戦の旗艦として、駆逐艦の彼女に負けたくない。

 そんな想い。…………けど、それは、いつ、から変わったの?

 

「赤城さん。

 この都に残ってください」

「え?」

「この戦争に付き合う必要は、ないです。

 これは、私達の戦いです。……無理に、加賀さんと戦う必要は、ありません」

「……それが、ここに来た理由、ですか?」

 避難場所の確認。そんな事しなくても、内陸を含め、避難をする為の場所はいくらでもあります。

 必要ないのに、それでも来た避難場所の確認。たぶん、それは、私のため、…………そんなの、

「いや、です」

「赤城さん?」

「…………私、戦います」

 そう、です。……そう、見つけました。私の、戦う理由。

「私だって、吹雪さんには及ばないですけど、それでも、強く、なりました。

 ずっと、ずっと吹雪さんの背中を追いかけて、ここまで来ました。……だから、これからも、ずっと傍に居させてください。

 戦うなら、私も一緒に戦います。お願いします。私を、置いていかないでください」

 追いかけて、追いかけて、……せめて、並び立つくらいに強くなりたいから。

 だから、いなくなって欲しくない、です。

「赤城さん、……あの、…………ええ、と」

「私では、だめ、……ですか?」

 吹雪さんの手を握り、……真っ直ぐ。彼女を見つめて、

「い、……いえ、だめ、っていうわけじゃなくて、ですね」

 お願いします。

 貴女の強さに憧れたから。……貴女の弱さを知ったから。

 だから、お願いします。

「寂しいと思うなら、支えさせてください。戦う事を選ぶなら、護らせててください。

 私を、傍に、居させてください」

 その、小さな手を握って、真っ直ぐに、彼女を見て、

 そんな、……想いを告げました。

 

 ………………そして、翌日、私は彼女を訪ねました。

「少し、安心しました」

 鋭い視線。かつての同僚に向けられる視線とは異なる。確かな敵意と、それ以上の戦意を持つ視線。

「戦う理由、見つけましたか。

 よい事です。意思のない者を蹂躙するのはつまらない。適当な意思の者など、相対する事さえ不愉快です。……とはいえ、戦わないのも、面白味がない。…………それで、何のために、この私と戦いますか?」

「大切な人と、並び立つために、……かつての一航戦での仲間ではなく、今の、今、ここにいる、この私にとって、大切な人とともいいるために、……それが、私の戦う理由です」

 

「上等です。

 では、戦場で相対しましょう。………………今の、貴女と全力で戦える。

 これ以上に気分が高揚する事は、ないでしょう」

 





 吹雪に憧れ加賀と敵対する赤城さんとなりました。
 …………これ、キャラ崩壊になるのでしょうか?

 それはともかく、ちょっとした言い訳。
 前の話で宣戦布告をしておきながらワンクッション置いてしまいました。
 南朝サイドについてはちょろちょろと書いていたのでいいのですが、吹雪たちの事はあまり書いていませんでした。
 尊治たちに敵対する海軍の艦娘、だけでは面白くないので彼女たちのお話しでした。

 主役が敵となる悪人と戦い勝ってハッピーエンド、それだけのお話しって書きたくないんですね。面倒で。
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