深海の都の話   作:林屋まつり

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二話

 

 護良は苦笑する。その手には一振りの薙刀。

 戦闘準備はできている。簡単には負けると思っていない、そして、護良も魔縁として、そして、過去、天台宗の座主として人とは異なる能力を振るえる。

 選んだ場所は鎮守府近くの資材置き場。視界の広いここなら己の能力を十分に振るえる。ゲリラ戦を得意とする正成を林に向かわせて、ここから吾妻島に攻め込む予定だったが。

 とはいえ、

「ここの方が戦いやすいと思いましたが、……それは向こうも同様でしたか」

 苦笑。その理由は視線の先にある。

 大抵のものには見慣れているつもりだったが。

「そうね。簡単に通れるとは、思わないことね」

 苦笑の先には一人の女性。二本の刀を持つ、陸軍の一人。

 陸軍中将、五月。ここの防御を任された彼女。

 そして、その背後に、四つん這いの、……それでも、見上げるほどの大きさを持つ骸骨。

「じゃあ、始めましょう」

 そして、動き出した。

 

 たんっ、と軽い音とともに高速で突撃する五月。護良は眉根を寄せて迎撃の準備。

 てっきり、後ろの骸骨が動くかと思ったが。

 まあ、いいでしょう、と。護良は太ももを叩く、零れるように滑り落ちたのは金剛杵。足で押し出す。同時に、起動。

 突撃する五月の眼前に迫る雷撃。座主の繰る仏法の力、法術による雷撃が駆け抜ける。

「へえ」

 五月は地面を蹴る。前進の勢いは止まらず、雷撃は地面から生えた骨の指に直撃。

 後ろに配置した骸骨。両手両足は地面に埋まっている。資材置き場、その地下に伸びている。

 ゆえに、地面から飛び出した骨が雷撃を受ける。けど、

「予想以上ね」

 さらに、骨が飛び出す。十重二十重に展開される骨は雷撃に砕かれながら、受け切る。その骨を右手に持つ刀で粉砕し、左手に持つ刀を振り抜く。

 剣戟の音。護良の持つ薙刀が刀を受け、護良は薙刀を手放し、前へ。

「は、あぁあっ!」

 五月の腹を狙った蹴りは彼女の跳ね上げた膝に当たって防がれ、けど、

「つっ?」

 弾き飛ばされる、薙刀を手放した瞬間の追撃は断念。

 ただの一撃で十メートル近く蹴り飛ばされた。おそらくは、

「法術ね」

 天台宗座主、仏の加護で身体能力の強化でもしているのか。

 出鱈目、と思って笑う。高速の突撃をする護良を見据えて、手を振る。

 背後の骸骨が動く。巨大な腕での薙ぎ払い。鉄筋コンクリートの建物さえ抉り取る強靭な一撃。

 だから、懐から引き抜くのは刀の柄。

「竜王」

 呟かれる名の意味は倶利伽羅竜王、柄に竜の形が現れ、竜は水の属性を得て水剣を形作る。

 その刹那に骨の一撃が直撃。骨は水を砕くが、水は骨を絡め取る。それを持つ護良は骨の手に着地して疾走開始。

「へえ」

 五月はそちらを見上げる。先に骸骨を破壊しようとしたのか護良は疾走し、髑髏の至近から金剛杵の雷撃を叩きこむ。粉砕。

 ばらばらに砕ける髑髏。護良は跳躍して着地。その着地地点に迫る二本の刀。

 五月の刀を薙刀で受けて後ろへ。

「つっ!」

 後ろへ、跳躍してすぐに進路変更。頭蓋部分を消し飛ばされながら、それでも遜色なく動く骸骨の一撃を辛うじて回避。「逃がさないわ」

 肋骨に当たる部分が動く。ばきん、と音とともに外れて向きを変える。さらに鋭く尖り、骨が高速で伸長。二十四の骨は途中から枝分かれし、槍衾となって辺り一帯すべてを串刺しにする。当然、それは疾走する魔縁も同様。

 回避不可能な広範囲の攻撃。装甲車でさえ串刺しにする一撃を見据え、護良は薙刀を横に突き立てる。

 その程度、迎撃は難しくない。

「護摩法」

 調伏の劫火が迫る槍衾を焼き払う。骨は莫大な熱量に灰となり塵に消える。

 それを見届ける前に薙刀を掴む。次、

「飛鉢法」

 一瞬、黄金の鉢が顕現。真言宗の聖、命蓮の十八番だが、自分も出来ない事はない。

 鈍い音とともに地面が抉れる。効果範囲にある存在を飛行させる法術は地表さえ例外ではない。周囲にある資材ごと空へ。

「化け物。何が仏教徒よあれ」

 本格的に飛行する護良を見て五月は苦笑。もう少し仏教徒とは大人しかった気がするが。

「時代が違うのですよ。

 平安な時代の一反逆者ごときが、国を割って戦い続けた私達を同列に語らないでください」

 声とともに降り注ぐのは辺りにあり、飛鉢法に巻き込まれて飛行する資材。法術の後押しを受けて爆撃のように地面にたたきつけられる。

「はっ!」

 五月はそれを見据えて刀を握る。二本の刀で迫る鉄鋼、岩石、すべてを弾き飛ばす。

 防御に専念しながら骸骨を繰る。元よりそれは骨の集合体。蹲り、一回り小さく、そして、空に向かって尖らせた骨を突き出す。

 高速の伸長。飛行する地面ごと人体を貫くには十分な威力。

「はっ」

 護良はそれを見据えて笑う。足場の地面も五月に向かって射出し、飛び降りる。迫る骨を薙刀で切り砕き「焼け」

 不動明王が持つ降魔の三鈷剣。魔を焼き滅ぼす炎熱の剣で骸骨を両断、炎に包む。

 着地、骸骨は完全に灰となり消える。着地、同時に薙刀を振り抜き、飛来物を迎撃しきった五月を両断する。直前に防御。弾き飛ばすにとどまる。

 五月は弾き飛ばされて着地。けど、

「しつこいわねっ!」

「殺し損ねたら殺されます。ゆえに、確実に殺します」

 おおよそ仏教徒の言葉とは思えないが、そもそも座主にありながら戦闘訓練に励んだ男だ。仏教徒として論じる方が間違えている。

 振り下ろされる薙刀の一撃を両の刀で受け止める。疾走の勢いをすべて威力に、長柄を振りまわす際に生じる遠心力が十分に乗った熟練の一撃。並以上の武士でもこれほどの一撃は繰りだせない。

 当然護良は並ではない、そして、もちろん相対する五月もそれは同様。

「なら、まともに相対する必要は、ないわね」

 ぎち、と音。護良は反射的に横に跳躍。そこには槍を持つ等身大の骸骨。「あの骸骨ですか」

 巨体で圧倒出来ないのなら数を増やすか、と。さらに増える骸骨を見て思う。そして、

「そういう事」

 五月は二本の刀を鞘に叩き込み。それを向ける。

 軽機関銃、抜いて、向けて、引き金を引く。

 骸骨の間を擦り抜け、あるいは骸骨を撃ち抜きながら弾丸が護良に迫る。撃ち抜かれた骸骨もそれは同様。その身を動かすのは肉ではない。元より命のない骸骨なら、銃弾で撃ち抜かれようとも動きを止める理由にはならない。

「む」

 銃、と言う相対対象に眉根を寄せる。正成なら喜ぶかもしれないが、生憎と護良に銃火器を好む理由はない。

 とはいえ、逃げるにしては周囲の骸骨が邪魔。すでに骸骨は軍勢と言うだけの数がある。五月の姿は確認できない。

 ただ、銃撃の音が響く。直感で対処しているが、そろそろ限界か。だから、手を振る、袖から零れおちるのは紙で作られた人形。地面に落ちる、直前に形を成す。

 子供、護法童子。構築され、手に担うのは剣。旋回して周囲の骸骨を切り払う。…………見つけた。

「は、ああっ!」

 疾走跳躍、機銃の掃射は剣を前に持つ護法童子にすべて受けさせて、その先にいる五月を狙う。

「あらら」

 あんなのがあったとはねえ、と。五月は苦笑。

「単純に、数でどうこうってわけにはいかないか」

 仕方ない、短機関銃を片手で繰り、刀を抜く、地面に突き立てる。

「む?」

 護良は薙刀を振り下ろす。五月は短機関銃でその一撃を防御。無理な行動に短機関銃が歪むが、これ以上使うつもりはない。捨てる。そして刀を抜く。

 鞘に入ったままからの抜き打ち。が、護良は一歩後ろへ。後退して薙刀を振り下ろす。刀と薙刀では射程が違う。刀が届かなくても、十分に両断できる。

 振り下ろす、が。五月はなにも持っていなかった手を振り上げる。激突の音。眉根を寄せる。

 薙刀の一撃を受けた手は硬質な白に覆われている。骨の色。あの、骸骨だろう。弾き飛ばす。

「ふっ」

 そして、刀を投擲。薙刀で弾く。が、その先には跳躍する五月。

 弾かれた刀を手に取る。そのまま下にいる護良に突き立てる。護良は眉根を寄せて後ろに跳躍。そのまま刀は地面に突き立つ。……鼓動の音。

「さあ、働きなさい。

 夜叉丸、蜘蛛丸」

「…………そういう事ですか」

 刀が人を形作る。それは、巨大な刀を持つ「大鎧?」

 そんなものですか、と。護法童子に指示を飛ばす、が。大鎧は護法童子を叩き斬る。

「その程度では相手にならないわ、と」

 手を振る。骨で構築した大剣、両手で握る。

 確かに、彼は南北朝時代。国を二つに割って戦い抜いた英雄かもしれない。けど、

 負けちゃいないわよ、と。五月は両手の刀を構える。刀にその命を封じた配下に視線を向ける。

 自分たちとて、圧倒的な戦力差を前に戦い続けたのだ。その意思、負けるつもりはない。それに、

 負けたら、格好悪いものね。

 思い出すのは彼女、捨てられた艦娘、霧島。散々上官面していた。ここで負けたとあっては次に顔を合わせるときに少し気まずい。

 笑うような娘ではないけど、それでも気まずい事には変わらない。

 だから、二の腕を覆うように、骨の装甲を形作る。うるさく飛び回る護法童子の対処を部下たちに任せ、五月は疾走開始。

「は、ぁぁあっ!」

 純白の大剣を構えて疾走。両断を目的に振り抜く。

 狙いは一撃必殺。けど、それを許す相手ではない。

「火界呪」

 呟かれる法術の名。効果は即座に現れる。

 薙刀の刃が炎に包まれる。なにこれ、と思いながら純白の大剣を振り下ろす。

 剣戟の音。それだけならいいが、確かに熱が伝わる。

 終わらない。その場に踏みとどまり、さらに刀を振るう。

 高速の連打。平将門仕込みの豪快で、緻密な剣捌き。

 現在の陸軍にいるメンバーでも対応しきれない。けど、

 護良は器用に薙刀を操りしのぐ。迎撃し、打払う。

 流石の技量。けど、それ以上に「邪魔あぁっ!」

 刃がまとう炎がちらちらと邪魔をする。何より炎の密度は異様。どろりと、炎と言うよりは溶岩のような色は薙刀の刃を隠す。

 非常に、やりにくい。

「無駄口叩く暇がありますか」

 ひゅっ、と音。五月は大きく後ろに跳ぶ。辛うじて回避できる、はずが。

 びっ、と音。

「つ、くっ?」

 さらに後ろに跳ぶ。襟が焼け落ち、首に赤い線が見える。

 感じるのは冷や汗、回避がもう少し遅ければ、……おそらく、首の半分を失い、傷口が炭化した死体が転がるだろう。

 回避したと思ったが、あの炎は非常に邪魔。刃の長さを見誤ったらしい。

「なんてトンデモ仏教徒。

 南北朝時代ってあんなのばっかなのかしら」

 ひゅんっ、と音。護良は薙刀を振りまわして、再度刃を向ける。

 業、と音。

「柄まで」

 炎をまとう刃と言う段階を超えた。薙刀すべてが炎をまとう。

「仏教徒なのに、この平穏を妨げる、ということね」

 白の大剣を構えて五月は呟く。応じるのは感情のない声。

「他力本願、……誤った用法をあえて使いますが、道具依存の平穏など壊して然るべきです。悟りの道は遠く。けど、自らの力で踏み出さなければ訪れる事はない。平穏もそれと同じです。

 …………そうですね。私からも、意味がないと思いますが一応問いましょう」

 五月は頷き先を促す、護良は問う。

「今の、この現状が本当に平穏である、と?

 道具に頼った平穏でよいのだ、と?」

「文明のすべてを否定していないかしら?

 使えるべき道具は使うべきじゃない? それとも、裸になって素手で木の実の採取と猟をやるべき?」

「それもそうですね」

 護良にとって、特に現状の平穏に興味はない。道具だよりの危なっかしさはあるが、平穏であるのなら平穏でいいと思う。

 気に入らないのは、彼女、吹雪の勘違いだけだ。それを糺せるのならこの戦闘も、《呪詛の御社》破壊も十分の価値がある。その後の事はその後の事、武力を振るうも、仏教徒として困った者を助けるのも構わない。人だろうと艦娘だろうと深海棲艦だろうと気にするつもりはない。

 だから、すでに交わす言葉はない。そして、それは五月も同じ。

 道具は使うべき、と思っているが。依存すべきではない。現状の平穏は完全に道具に依存している。

 それがいいとは思えない。けど、

 まあ、吹雪ちゃん達が頑張ったんだしね、と。

 幼い女の子が必死になって作ったものだ。壊すには、惜しい。

 だから、

「じゃあ、行きますか」

 応じるように護良が火炎をまとった薙刀を構えて突撃。五月は足で地面を叩く。地面から白い槍衾が現れる。

 突き刺さる。護良は全身を白い骨に貫かれて、……消える。

 ごと、と落ちるのは木像。

「変わり身の術って?」

 仏教徒ってこんな事もやるのかしら、と。思うが、声。

「これは法術ではありません。神道寄りです。

 神像、……元より万象に神性を見ていたはずが、仏像などと言う余計な偶像に影響されたものでしょう、皇統としては面白くありませんが、使えるものは使います」

 業、と音。

「夜叉丸っ! 蜘蛛丸っ!」

 声、同時に両手を構える。戦車の砲撃にさえ耐える骨の装甲。そこに火炎をまとった薙刀が叩きこまれる。

「ぐ、……つっ?」

 重い、鋭い、そして、熱い。

 けど、受けた。だから、

「は、あっ!」

 両手の装甲を外す。同時に護良を蹴り飛ばす。

「むっ?」

 蹴られた事に声をあげたか、それとも、薙刀を噛んだ装甲に声をあげたか。

 さらに装甲から骨が伸びて地面に突き刺さる。護良の薙刀を拘束する。

 同時に蜘蛛丸と夜叉丸が刀を振り上げて迫る。護良は薙刀を手放す。

 刀を受ける音が二つ。護良は振り向きもせず、後ろから迫る二本の刀を両手にそれぞれ持った金剛杵で受け止める。

「穿て」

 受け止め、そのまま雷撃。帝釈天の持つ雷撃は夜叉丸と蜘蛛丸を粉砕。護良は手を振る。掌に滑り落ちたのは羯磨、金剛杵を組み合わせて十字にした法具を投擲。雷撃をまとった羯磨は薙刀を噛んだ骨の装甲を粉砕する。護良は落下する薙刀を蹴りあげて手に取る。同時に上に掲げる。

 剣戟の音。五月が振り下ろした大剣を受ける。

「つ、」

 重い。眉根を寄せて弾きあげる、が。「続くわよ」

 五月はさらに大剣を打ち込む。薙刀を圧し折る事を目的とするような猛攻。

「く」

 薙刀は業物だが普通の薙刀だ。このままいけば圧し折れる。

 だからすりぬける。次の一撃。受けると同時に膝を落として衝撃を吸収。微かにつんのめるその瞬間を逃さず薙刀を傾け、受け流す。

 横に跳躍、が。

「つっ?」

 足を取られた。足元に短い骨が突き出している。おそらく、あらかじめ伸ばしておいたのだろう。

 膝をつくような事はしなかったが。姿勢が崩れ、

「は、あぁあっ!」

 一閃、両手を使った全力の振り抜き。辛うじて受ける。

 が、

 圧し折れた。あまりの衝撃に薙刀の柄が歪み、真っ二つになる。衝撃を殺し切れず護良は吹き飛ばされる。

 砕けるのは五月の大剣も同様。だが、こちらは材質が骨だ。案の定地面に突き立てると同時に骨が集まり、白い大剣を再構築。

 護良の武器は失われた、だが。まだ法具を隠し持っているかもしれない。

 ならば、やる事は一つ。追撃、彼が何かなす前に、即行で仕留める。

 高速の突撃、護良は二つになった薙刀のうち、刃のない方を投げつける。五月は体を傾ける程度で回避。疾走の速度は変わらない。

 護良は苦笑。一緒にするな、とは言ったがどうやら侮っていたらしい。

 慢心、……と、確か知り合いの加賀が気にしていたが。

「トラ、トラ、トラ」

 不意に零れた小さな言葉、自分の耳にも届かないような、小さな声。

 かつての拠点を思い出す。懐かしいな、と。

「四天王、護法」

「むっ?」

 手元に残る、圧し折れた薙刀を地面に突き刺す。

 持国天、広目天、増長天、多聞天、四方を守護する四天王の法力がそこに踏み込んだ五月を束縛する。

「つ、……ぐっ」

「では、消えてください」

 ぱんっ、と手を叩く。その周囲に展開されるのは、光の文字。

「な、……にこれ?」

「曼荼羅、少し本気を出すので、ちょっとした余波です」

「ほ?」

 なにそれ、と。

「以前に信貴山に籠っていた時に連れてきたのです」

 二童子、剣を全身にまとった少年の姿を持つ剣鎧童子と、蛇の形を持つ空鉢童子。

「本家本元の、命蓮には及びませんが、」

 剣鎧童子が人の姿を捨てる。そこにあるのは数多の剣。蛇は濁流として押し流し、射出する力となる。

「蹂躙には、十分でしょう」

 そして、剣の濁流が四天王の護法に動きを縛られた五月に放たれた。

 

 死ぬかな、と。

 放たれる剣の濁流を見て思う。動きが重い。四天王の護法が体を縛り付ける。

 死ぬかもね、と。…………けどまあ、

「死にたくない、わね。

 また、霧島ちゃん達と騒ぎたいしね」

 だから、

「死なないようにしないと、ね」

 ぎちり、と音がした。

 

「なっ?」

 護良も、その光景には目を見張った。

 四天王の護法、動きを束縛する結界。その中央に構築される巨大な骸骨。

「護法は調伏の意味合いが強いのですが、……それでもそんなものを作り上げるとは」

 想像以上です、と。護良は苦笑。

「悪いけど、こっちももう余力ないしね。

 行くわよ」

 骸骨、その髑髏の部分から声。同時に巨大な骸骨、髑髏を残して消える。髑髏に集まる。

 剣を叩きこむ、が。応じるように髑髏から骨で構築された針が伸びる。

 護良は反射的に射出直前の剣を手に取る。そして、

「くっ」「つっ?」

 剣は骨を削り穿ち、髑髏を穿つが貫く事は出来ず。

 骨は剣を弾き退け、護良に迫るが叩き落とされる。

 莫大量の音を響かせ、周囲にある一切を薙ぎ払い。骸骨を操る術者と古い仏教徒は激突。

「つっ?」

 首筋、肩、腿、脇腹、鋭い針がかすめ、貫く。血が零れる、……が。

 首を落とされるよりは、ましですね。

 そんな事を思い痛覚を無視。……否。

 

「正真正銘の化け物ね」

 たらり、と。冷や汗をかいて五月は骸骨を繰る。

 元よりここを戦闘の場と定めた。自己の術の媒介となる骸骨を大量に運び込み、地面に埋め万全の態勢で迎え撃った。

 けど、実際にやってみれば現状が精一杯、すでに用意した骸骨もほとんどない。徹底的に砕かれている。

 負けるつもりはない。けど、

「あとは、頼むわよ。霧島ちゃん、……父様」

 友人と呼べる彼女、上司である父。その名を思い、術の維持、稼働に集中。した、ところで、

「え?」

 密度が、低下した? なぜ、と思う。力尽きたか、と思った。……「まさか、」

 視線を細める。剣と針の先、全身を貫かれて血を流す護良。

 その血は地面を赤に染め、その赤色が描くのは曼荼羅。

「まずっ? 「護摩法」」

 小さな言葉。けど、それは確実に五月に届いた。そして、浄滅の劫火が棘を焼き祓う。

「は、あっぁあああああああああああっ!」

「ちっ!」

 

 髑髏の向こう。不動明王の利剣を振り下ろす護良がいた。

 …………焼却。

 

「で、……私を滅ぼしますか?」

 声に、五月は荒い息をつく。

 手には、正しく針、……縫い針程度の太さの骨。

 槍程度の長さはあるが、それはたまたまでしかない。

 その長さは調節したからではない。劫火の剣を振り上げて迫る護良の足を止めようと、ただ長さと速射を重視した結果に過ぎない。

 足を貫き、けど、護良は劫火の剣を振り下ろし、髑髏を焼き払った。

 もう一歩、護良が近ければ間違いなく自分も焼き滅ぼされた。反射的に身をひねったが故に、灰と消えた左腕がその事を確信させる。

 けど、結果として生き残った。護良は全身を貫かれて倒れ、自分は片手を失い、それでも生きてる。

 滅ぼす、か。……否、五月は倒れた。手に持っていた骨の槍はその衝撃で折れて砕ける。

 武器はすべて失った。だから、五月はごろん、とせめてもの抵抗に、転がる程度に少し離れて、

 

「無理、もう、……疲れたわ」

「そうですね、…………疲れました」

 溜息が二つ、響いた。

 




 ちなみに、作中に飛び出した護良の能力にオリジナルは一切ありません。
 仏教徒って戦闘映えしますね。教義を考えれば困ったものですが。……まあ、別の宗教を取り込んじゃったから仕方ないですね。仕方ない。
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