深海の都の話   作:林屋まつり

117 / 128
三話

 

「こんにちわ」

 深海棲艦を蹴散らしながら進む長門と陸奥は、そんな声を聞いた。

 

 深海棲艦がいない場所、ぽっかりと空いた空間。

 そこに立つ一人の艦娘。彼女は、

「綾波、か」

「はい、えーと、…………」

 綾波は首を傾げる。

 なんて言うべきか、少し考えて、

「ここから先は軍事機密なので通ってはいけません」

「聞いた事がないのだが」

 警戒の視線を向ける長門。綾波は頷いて、

「はい、……ええと、とにかくだめです」

「それは、あれ?」

 陸奥が示す先には五色の輝き。《呪詛の御社》。

「はい、その通りです」

「深海棲艦が群発しているわ。あれは破壊すべきじゃないの?」

「……それは、ちょっと困ります。長門さん。

 確か、《波下の都》でお会いしましたよね?」

「そうだな。あの、《呪詛の御社》の事も聞いている」

「そうですか。それなのに戦うのですか?

 あれを壊したら、平穏が崩れます。それは、民の平穏を護る艦娘として、それでいいんですか?」

 一応、問い。少し、その回答に興味がある。

 例えば、そんなのはだめだ、なにか他に方法があるはずだ。そんな模範解答を告げられたら徹底的に叩きつぶす。

 そんな言葉、語り尽くした。他に方法があるはずだ。ずっと、ずっと考え続けた。

 それでも、この方法が一番だから実行した。だから、数日前に知った程度の相手にそんな夢想を語って欲しくない。

 それで、長門の回答は?

「そうだな。……ああ、そうだ。

 確かに平穏は実現されている。正直、驚嘆したよ。……ただ、な」

 長門は、苦笑。なぜ戦うのか、それを告げる。

 

「気に入らないんだ」

 そんな、理由。

 

 馬鹿な事を言っているな、と。長門は思う。

 当たり前だ。彼女達にはかなりの葛藤があっただろう。

 このやり方では、どうしても艦娘は戦う事になる。そうなれば、必然、轟沈する事もある。

 それを許容する。どれだけの葛藤や決意があってこの道を選択したのか、想像する事しかできない。

 偉そうな顔をして間違えているなど、己の誇りにかけて絶対に言う事は出来ない。

 けど、……そう、それでも、

 ぽん、と肩を叩かれる。

「ええと、お花見?

 私は参加しなかったけど、一通り話は聞かせてもらったわ。確かに、貴女達のやっている事、間違えていると思わない。

 そうね、私達は人々の平穏を護る事が本分だもの。貴女達はそれを実現してる。……正直、凄いと思うわ。けど、」

 陸奥は苦笑。

「ごめんなさい。貴女達が正しいって、解ってるの。

 けど、気に入らないのよ。……だって、艦娘が死ぬのは、寂しいもの」

 そう、そんな理由。

 長門は綾波に視線を向ける。罵声は覚悟している、そんな理由でこの平穏を、艦娘が持つべき理想を砕くのかと、そう言われても仕方ない。

 ただ、……胸に手を当てる。そう、…………ただ、辛いんだ。同じ、艦娘が死ぬのは。

 何の影響を受けたのだろうな、と。長門は苦笑、あの、《波下の都》にいたから、か。…………あるいは、泊地の姫、みず、と会ったからか。

 だから、…………目を見開いた。

 視線の先、くすくすと、嬉しそうに笑う綾波がいる。

「えーと、綾波?」

「あ、あはははっ、……よかったですっ!

 そうですね、……綾波も、気に入らないですっ!」

「え、えーと?」

 馬鹿にするわけでもない、嘲笑でもない、自嘲でもない。

 純粋に、楽しそうな笑みで、

「綾波も、……時雨も、雪風も、…………もちろん、吹雪も、ええ、元帥も、きっとですっ!

 陸軍の大将とか、あの胡散臭い舞風とかは知りませんけどね。けど、少なくとも綾波も気に入りません」

 だって、

「誰かが死んじゃうのは、辛いです。悲しいんです」

「それでも、……か?」

「はい、それでも、です」

 辛い、悲しい。……誰かが轟沈したと、その報告を聞くだけで涙が出そうになる。……そう、最初の方は、辛くて、怖くて、よく時雨や雪風と一緒に寝たりもした。

 今も、……そうしたいくらいだ。

 けど、それでも、

「それでも、……」

 綾波は胸に手を当てる。

「この魂に響いた祈りの声は、無視できないです」

 民安かれ。……かつて、命をかけてこの国を護った英雄たちが、等しく胸に抱いた最も尊き祈りの言葉。

 それを無視する事は、出来ない。

 だから、

「この方法が最適です。

 けど、気に入りません。……そんな綾波の想いを代弁して、来てください」

「妙な役割を押し付けられたな」

 苦笑する。けど、悪い気はしない。

 必死に考えた。たくさんたくさん悩んだ。

 これでいいんだと、結論した。……唯一つ。

 気に入らないだけだ。

「私達も、そうだったな。

 いや、綾波、お前たちとは比較する事も失礼だが」

 駆逐艦の娘たちを楯として扱っていた。そう、命令されていた。

 提督の命令だからと、嫌なやり方、辛いやり方に従っていた。

 …………比較にも値しないな、と苦笑。木偶のように命令を聞くだけだったあの頃の自分と、必死になって平穏を実現した綾波達とでは、比べる事さえ失礼だ。

 だから、

「そうね。

 じゃあ、あとはやりましょうか。……どっちが正しいとか、そういう問題じゃないかもしれないけど、それを占うのも、いいかもしれないわね」

 陸奥の言葉に、綾波は笑って駆け出した。

「観測機、発艦っ!」

 まずは観測機を飛ばす。相手は高速で移動する駆逐艦だ。少しでも命中精度をあげておきたい。けど、

「遅すぎます」

 飛ばした瞬間、観測機が砲撃により撃墜された。

「な?」

「綾波達に観測機と魚雷は通用しませんよ?」

 届く前に撃墜できる。時雨と吹雪なら、魚雷発射直後を精密に撃ち抜き、誤爆。攻撃者をもろとも爆沈出来る。

「それに、ぼーっとしてると危険です」

 装備した連装砲から砲撃。

「姉さんっ」

 陸奥は前へ、その一撃を受ける。が、

「やっぱ、きついわね」

 その表情が苦痛にゆがむ。陸奥も、決して錬度が低いわけではない。高い能力を持つ戦艦にふさわしい装甲を持つ。

 ただ、その威力が桁外れなだけ。

「駆逐艦とは思えないわねっ!」

 応じるように砲撃、けど、綾波は回避。滑るように砲撃をよける。「悪いが、手は尽くさせてもらおう」

 陸奥の砲撃は続く、その横から長門は綾波に向かって砲撃。

 ある程度、回避先は絞れる。その先に向かって砲撃。けど、

「弾くか」

 砲撃は綾波の砲撃に迎撃される。不可能な事ではないが。

「予想してたけど、とんでもない実力者ね」

 指輪持ち。初霜と若葉を見てその意味を知ってはいたが。案の定、桁外れだ。

 ざっ、と音。綾波は高速で駆け抜ける。両手には連装砲。そして、太ももには魚雷。

 陸奥はその挙動を見て一歩下がる。連装砲一撃であの威力だ。装甲頼りの殴り合いでは、間違いなく負ける。

 そもそも駆逐艦は装甲で防御をしながら相手を撃沈するものではない。回避を重ねて、弱い砲撃力を手数で補うのが順当。とはいえ、彼女の砲撃力は戦艦にも比肩する。回避能力が低いとは思えない。

 砲弾を撃墜して見せた命中精度は言うまでもない。

 苦笑、戦艦の、ビッグ7の勇名を持つ自分が、駆逐艦である彼女に勝てる要素が装甲くらいしか見当たらない。そして、その装甲も、低いとは限らない。

「どんどん行きますよー」

 疾走する。早い、なら。

「弾幕を張る、か」

 長門の視線に陸奥は頷く。この位置なら、十字砲火を叩きこめる。

 視線を交わして、同時砲撃。わずかなずれもない砲撃は長い間共に戦ったが故。けど、

「えいっ」

 速度は緩めず、突撃の位置をずらして斜めへ。十字砲火網を擦り抜ける。当然、間に合わないが。

「ふっ」

 砲撃、直撃する砲弾のみを撃ち落とす。高速の移動中でさえ砲撃を叩き落とすその命中精度に長門は眼を見開くが。そんな事をしている暇は、ない。

 ざっ、と音。十字砲火網を抜けた綾波は片足を水面に押しつけるようにして停止。その勢いだけで旋回。

「つっ」「きゃっ」

 旋回と同時に放たれる砲撃。砲撃直後だった長門と陸奥は辛うじて回避が間に合った、が。

「本命は、下」

 ぽつり、小さな声。

 常套手段だ、砲撃をし、ひるませた瞬間に魚雷を放つのは。……けど、

「なめるなっ!」

 陸奥に迫る魚雷を長門は砲撃して粉砕する。三連装の砲。そのうちの一つが当たった。

 感じるのは冷や汗。一撃の轟沈はないだろうが、それでも魚雷が直撃すれば、陸奥はかなりのダメージを受けただろう。

 迎撃が間に合った。だけではない、当たるか否か、一か八かだった。

「ありがとっ! 長門っ!」

 視線を向けず、感謝だけ告げて砲撃。砲撃しながら突撃する。

 距離が離れれば綾波に砲撃は当たらない。持ち前の速度ですべて回避されてしまう。

 出来るだけ、近づく。可能なら一撃で撃ち抜けるところまでは、……相手がただの駆逐艦なら、近づいて直撃させれば撃ち抜けるが。彼女の装甲は未知数。防御性能さえ戦艦級かもしれない。

 だから、近づく。のんびり戦っていては叩きつぶされる。

「接近戦ですか?」

「ええ、出来れば、一撃で仕留めたいもの」

 長門と目配せしながら近寄る。注意すべきは魚雷。

 砲撃でこの威力なら、魚雷は一撃必殺の可能性もある。

「覚悟、決めてますねっ!」

 声とともに綾波も陸奥に向かって走る。狙いは至近距離からの魚雷。

 三発程度叩きこめば確実に落とせるだろう。が、

「簡単に行かせると思うかっ!」

 接近する綾波を妨害するように長門が砲撃。反射的に綾波は動きを止める。

 流石に、真横からの砲撃は迎撃も難しい。急停止して眼前を砲弾が通過するのを確認。同時に砲撃。

「つっ!」

 動きを止めた綾波を砲撃した陸奥は舌打ち。砲門はこちらの方が多い。綾波の砲撃はすべて弾き飛ばした。……否、攻撃は弾き飛ばされた、と言うべきか。否、否っ!

「冗談っ!」

 横に大きく跳躍。同時に防御姿勢を取る。直後、爆発。

「くぅっ!」

 跳躍、そのまま吹き飛ばされる。魚雷の爆発。

 案の定、とはいえ、「なんて、破壊力」

 歯を食いしばる。防御に使った左舷の砲は半壊。三連装砲のうち、一つを残して圧し折れる。

「陸奥っ! だ「来ちゃだめっ!」」

 反射的に駆け出そうとした長門。けど、陸奥の声を聞いて急制動。その眼前を砲撃が薙ぎ払う。

 長門を砲撃で牽制し、綾波は真っ直ぐ陸奥に向かって突撃。

「各個撃破、ね」

 左舷の砲を犠牲に、陸奥自身に損傷はない。

 けど、

「撃てっ!」

 右舷の三連装砲。砲撃。けど、綾波は両手に担う連装砲を向ける。

 砲弾をすべて迎撃。そして、残り一つの砲弾が迫る。

「んっ」

 回避、そして、移動を継続。

 長門と合流した方が無難、と判断。長門も同感か、陸奥に向かって走る。

 綾波は追撃しない。両手を軽く振る。腰を落とす。

 合流した瞬間、砲撃を叩き込む。まとまってくれればまとめて撃ち砕ける。

 ……もっとも、これで終わったら面白味にかけますけどね。と、

 ただ、せっかく自分たちの想いを代弁してくれたのだ。ならば、手加減手抜かりなく叩きつぶすことこそ礼儀。だから、

 合流。同時に砲撃した。

 

 迫る四つの砲弾。陸奥はそれを見る。

 直撃したら死ぬわね、と。自然に思い。そんな思考に苦笑する。

 駆逐艦の、四発の砲撃。それで轟沈する戦艦。……状況が状況でなければ馬鹿にするな、とでも思っただろう。

 けど、

「どれだけのものかしらね」

 三連装砲から砲撃。砲弾を叩き落とすことを狙ったが、一つ、成功。

 それは長門も同様。けど、右手に装着した連装砲からの砲弾をすべて叩き落とした事になる。だからそちらに移動。回避。

 自分たちとて遊んでいたわけではない。度重なる出撃を行い相応の錬度を得てきた。弱い、とは思っていない。

 だから、そんな戦艦二隻を相手に圧倒できる彼女は、どれだけの実戦をくぐり抜けてきたのか。

 この平穏を構築する為に、どれだけの意思が必要だったのか。

「強いわねえ」

「ああ、強いな」

 追撃を避けるため長門と移動。綾波もこちらを追う。

 移動を続けながら、呟く。

「強いわね、ほんと」

「…………ビッグ7の勇名を持つ陸奥さんにそう言われると、嬉しいです」

「強くなったのね。

 ええと、舞鶴鎮守府の旗艦で、指輪持ち、だっけ?」

「そうです」

「そこまで強くなれたの、どうやったのか興味があるわ」

「出撃と訓練を重ねた結果です」

 別に魔法を使ったわけではない。自分はどこかの基地で普通に建造された駆逐艦の艦娘。綾波。

 特別なところはなにもない。強いていえば、

「夢を、見たんです」

「艦艇の夢?」

 綾波は足を止める。これくらいはいいかな、と思って胸に手を当てる。

 

「夢の中で、みんなが、歌っていました」

 お疲れ様、と声が聞こえた。

 頑張ってくれたな、と声が聞こえた。

 後は任せろ、と声が聞こえた。

 ありがとう、と歌が聞こえた。

 …………最後まで、護ってくれて、ありがとう。と、そんな、歌が聞こえた。

 

「みんな、笑っていました。

 頑張ったなって、お疲れ様、って、…………最後まで、護ってくれてありがとう、って」

 だから、

「護ります。

 そのために、強くなりました。強くなり、誰かを護り、そうすれば、誰かが喜んでくれる、きっと、それはいい事です」

 民を、平穏を、……大切と、思えたものを護る。

 綾波は柔らかく微笑む。だから、強くなりました、と。

「そうか」

「…………よかったです。御話できて、…………いつか見た夢、思い出しました」

 綾波は微笑む。その笑顔は変わらない。穏やかで、柔らかな笑顔。

「な、……に、これ」

 穏やかで、柔らかな笑顔。……けど、感じるのは、寒気がするほどの、威圧感。

「では、えーと、まずは装備調整」

 小さな呟き、同時に連装砲を上へ、砲撃。

「つっ?」

 砲撃し、空を舞う艦載機を撃ち落とす。今まで使っていた連装砲を捨て、落ちてきた単装砲を手に取る。

「じゃあ、行きますね」

 たんっ、と音。綾波は真っ直ぐ駆け寄ってくる。

「姉さんっ! 援護をお願いっ!」

 陸奥は前に駆け出す。左舷に残った最後の砲で砲撃。

 牽制だ。右舷三連装砲をいつでも撃てるように構える。視界の隅、長門が砲撃姿勢を整えたのを確認。けど、

「は、ああっ!」

「うそっ!」

 砲撃、でさえない。

 綾波は足を跳ね上げる。砲弾を、蹴りあげた。上体は後ろへ。そして、

 砲口は、精密に陸奥を狙う。砲撃。

 ざんっ! と音。上体を逸らしたまま連装砲を放ち、体を傾けて体勢を低く立て直す。

 曲芸のような行動に思わず、陸奥は動きを止める。長門は舌打ちして彼女を掴み、引き寄せる。

「ぐっ?」

 砲撃が直撃、連装砲二発の砲弾が艤装を抉る。

「驚くことじゃあないですよー

 吹雪さんもこの位はやってのけますから」

「砲弾を蹴り飛ばすとは、それも錬度の差か」

「経験の差、ですっ」

 爆ぜた。一気に綾波は距離を詰める。

「姉さんっ!」

 長門の後ろにかばわれた陸奥が三連装砲で砲撃。綾波は擦り抜けるように姿勢を傾け、さらに、海を蹴る。

「速っ?」

 一気に接近しながら、連装砲で砲撃。連射。

 長門は右へ、陸奥は左へ回避。同時に長門は三連装砲、右舷左舷一斉砲撃。

 六の砲弾が綾波に迫る。けど、そちらを一瞥し、速度調整、砲撃。

「なっ?」

 砲弾を間を擦り抜ける。単装砲を向ける。

 

 感じたのは、寒気。

 

「つうっ?」

 砲撃直後、その状態で叩き込まれる単装砲の砲撃。

 戦艦の主砲を撃ち込まれたような、そんな感触。

「姉さんっ!」「余所見はだめですよー」

 視線を向けた陸奥に向けられる連装砲。陸奥は慌てて後ろに下がる。砲撃。

「あ、……ぶないわね」

 不意に、綾波は微笑む。

「思い出しました。

 戦艦との戦い、……懐かしいです。あの時は霧島さんに後を任せましたけど。今度は最後まで相対願いたいです」

「そうだな」

 直撃した個所を抑えて、長門は立ち上がる。

「最後まで、徹底的に付き合ってやる」

「それは嬉しいですね」

 だから、綾波は連装砲を向ける。

「陸奥、下がれ」

「姉さん? 大丈夫?」

「私の艤装はまだ大丈夫だ。

 だから、私が相対する、陸奥、援護を頼む」

「………………気をつけて、ね」

「真っ向からの殴り合いですか?

 けど、あんまり装甲には自信ないのです」

「そうであれば有り難いな」

 これで、戦艦である自分を前にして装甲にも自信があります。などと言い出したら本当にどうしたものかと思ってしまうが。

 活路は、一応、ある。……と、思う。

 それに、

 ないならないで、それまでだな、と。彼女の想いは聞いた。信じるに足る、だろう。

 気に入らないから挑み、敗北した。……ならば、そのやり方を認め、せめて、少しでも気に入らない部分を補っていけばいい。

 吹っ切れるにはちょうどいい。

「では、行こうか」

 真っ直ぐに、綾波は突撃する。どうするか。

「陸奥」

 右舷の艤装を可動範囲が許す限り自分の前に持ってくる。そして、「右舷、任せて」

 呼びかけの意味を理解してくれたらしい。頷き。

「合計九門、行くぞ」

 陸奥が肩に手をおき身を寄せる。出来るだけ砲の位置を近づける。先のように擦り抜けられ、砲撃直後にある姿勢制御の瞬間を狙われたら回避は難しい。

 だから、その可能性を潰す。綾波の表情が微かに驚きに代わり、

 一息。

「全主砲、斉射っ! ってぇっ!」

 砲撃の音が響いた。

 

 合計九の砲弾。それを見据えて綾波は笑う。

「行きますよ」

 抜ける事は出来ない。そして、その砲撃範囲は思っている以上に広い。

 けど、やりようはある。右、綾波は体を傾けて、同時に連装砲と単装砲で砲撃。

 右三発の砲弾を弾き飛ばす。回避成功、と。向きを変えて突撃。直前に、

「くっ?」

 砲撃を受けた。直撃したのは一つの砲弾。

「潰しそこなったやつですか」

 油断した事に苦笑。まだまだですね。と、けど。

「まだ、沈みませんっ!」

 単装砲を跳ね上げる。即座に砲撃。

「つっ?」

 砲弾が陸奥の艤装を抉る。直撃はしなかったが砲塔を削り取るように穿ち、左舷三連装砲、すべて沈黙。

「逃がさんっ!」

 長門は向きを変え、砲撃。左舷三連装砲の砲弾を綾波に叩き込む。

「それだけじゃ足りませんよ」

 けど、綾波はそれを回避する。そんなことは「解ってるっ!」

 回避した先、そちらに向けて右舷三連装砲を撃ち込む。綾波の移動、回避は見てきた。位置としては問題ない。

 問題は、迎撃される事か。……否。

「ちょっと、無理をします」

 回避動作中だった綾波は、微かに腰を落とす。そして、一気に長門に向かって駆け出す。

 急な方向転換に足回りが痛みを訴え。けど、無視。

 砲弾は綾波の横を通過する。左舷三連装砲は、狙いを定める暇はない。あとは、

「このっ!」

 陸奥が右舷三連装砲を向ける。砲撃。

 突撃する綾波に、カウンターとして迫る。長門は彼女の対処を考える。おそらく「砲弾による、撃墜」

 呟き、両舷三連装砲を向ける。避ける余裕はないはずだ。

 砲撃直後、そこを狙って砲撃する。綾波の砲門は単装砲と連装砲、合計三門。迎撃直後ならば三連装砲を叩きこめる。

 けど、

「ちょっと、痛いの我慢です」

 疾走する足を不意に跳ね上げる。そこには魚雷。

 そのうちの一本を引き抜く。投擲。

「んなっ?」

 それは投擲するものか、と。思う前に魚雷が砲弾に激突し、爆発。

「つっ?」

 綾波の火力に応じた破壊力を持つ魚雷の爆発は、陸奥の放った三連装砲の弾丸を弾き飛ばし、その爆風を二人にまで届ける。

 その爆風から顔を庇う。そして、声。

「やっぱり、痛いですね」

 苦笑は、直近から。

「綾波っ!」

 魚雷の爆風、その中を突き抜けてきた綾波は足をあげる。

「あ」

 その足、まだ、魚雷の残る方。そして、残った魚雷が放たれる。

「つっ?」

 同時に連装砲を前に、身をかがめる事で爆風に備える。

「冗談でしょっ!」

 距離があっても、綾波の放つ魚雷の爆発はかなりの威力があった。それがこの距離で爆発したとなれば、綾波自身も巻き込まれる。故の、悲鳴に近い陸奥の声に、苦笑。

「冗談? お二人を相手にするのに、そんな酔狂な事しませんよ」

 全力を出すに値する。その判断があったからこそ、自らの損傷さえ引き換えの一撃。

 単装砲の砲撃が着水する直前の魚雷をまとめて撃ち抜く。

 

 爆発。

 

「…………続けますか?」

 ぼろぼろになった連装砲を捨てて、単装砲を向ける。

 応じるのは、力のない否定が一つ。

 綾波が思っていた以上に陸奥に損傷はない。けど、それはかばわれたから。

 彼女の腕の中には意識を失った長門がいる。戦う事は、出来ないだろう。

 そして、もし陸奥が戦う事を選択すれば、次の瞬間、長門は死ぬ。

「では、終わりです。

 そこで大人しく救援を待ってくださいね。綾波達には二人を助ける余裕、ありませんから」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。