深海の都の話   作:林屋まつり

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四話

 

「なにこれなにこれなんなのこれっ!

 これ、ちょっと不幸すぎるっ?」

 悲鳴らしい声をあげる山城。

『索敵は吾輩に任せろっ!』

「いや、いらないわ」

 無線から響く自棄な声に曙は淡々と応じる。

「そうですね」

 妙高は苦笑。索敵は大事だ。戦闘を左右し、艦隊の存続にかかわる。

 けど、いらない。なにせ、視線を巡らせば敵だらけ。そして、向かう先は巨大な五色の光に包まれている。

 眼前の敵を蹴散らしながら目視可能な標的に突撃する。……ただ、それだけ。

 突撃の陣形は前に二人、足柄と那智、右に扶桑、左に山城、そして、中央に曙。後ろは羽黒と妙高が固める。

 彼女達は標的、破壊対象である《呪詛の御社》がある吾妻島を目指す。戦い、目指しながら言葉を交わす。

「山城、不幸なら帰っていいのよ?」

 苦笑気味な台詞。おそらく、彼女達の提督、春日清海もその判断を肯定するだろう。

 もちろん、僚艦、共に出撃した妙高四姉妹も、旗艦である曙もその判断を否定しない。

 けど、

「こんな幸運っ! 見逃せないわっ!」

 山城は噛みしめるような笑み。

 幸運、……なのだろう。

 幸運、でしかない。

 敵の数は莫大。その先にある標的はなんだかよく解らないが。ともかく不吉そうなもの。

 そして、この戦いの成否は間違いなく国のあり方を左右する。歴史に残る事はないだろうが、当事者にしてみれば、歴史に残る一戦と胸を張るだろう。

 少なくとも山城はそう思っている。もし後に問われたら、例え正気を疑われても胸を張ってそう答える。

 そんな戦いに参加している。参戦し、僚艦と一緒に戦っている。

 いつ終わるともしれない深海棲艦との戦いも、人々の平穏のためならと思い意義を感じていたが、今はそれを遥かに超える高揚を得ている。

「山城っ! キャラがぶれるのは構わないが警戒しろっ!」

「ぶれるいわないでっ!」

「あんたの不幸ネタを無視してへこませるのが楽しいのよっ!」

「この戦争終わったら扶桑姉さまに泣きつくわっ!」

『楽しそうね』

 筑摩の声。その声の主は非常に微妙な笑みを浮かべているだろう。

「あ、あの、ごめんなさい。

 いろいろどうでもいいので、弾薬。……っていうか、新しい連装砲を持ってきてください」

「なかちまんさん、出番です」

 おずおずと装弾さえ面倒になった羽黒の指示に妙高はおっとりと追加。

『那珂ちゃんをなかちまんとか言わないでっ!』

『さっさと連装砲を持って行きなさい。

 チームなかちまん』

『それ、止めてください。

 こんなのが旗艦で苦労しているんです』

『不知火ちゃんっ! 那珂ちゃん旗艦だよっ! 一番強いんだよっ!

 それなのにこんなのとかいっちゃだめっ!』

『さっさと行け、貴様の提督撲殺すんぞ』

『こわっ?』

「…………提督、最近芸風増えたな」

 那智は感心したように言う。それでいいのでしょうか、と妙高は思うがそれでいいか、と結論が出たのでそれ以上は言わない。

 ともかく、前に突き進む。

 眼前には戦艦級の深海棲艦。

 三隻、並んでいる。砲撃。

「散開っ」

 那智の声。その言葉に彼女達はわずかに、進路を変える。その間を砲弾が通過、同時に「「砲撃しますっ!」」

「撃てっ!」「砲撃する」

 那智と足柄は中央一隻に砲撃を集中、轟沈。扶桑と山城はそれぞれ正面にいた戦艦級の深海棲艦に砲弾を叩き込む。

 けど、

「足りない、です」

 轟沈には至らない。

「二人は左右警戒っ」

 曙は両手に構えた連装砲の砲撃で仕留め、戦艦級二隻を轟沈。「次っ!」

「あ、あの、ごめんなさい。……なかちまんが見えました」

「やっほー、チーム那珂ちゃんだよー」

「それ、本気でやめてください。

 非常に鬱屈とした気分になります」

「羽黒っ! 武装回収っ! 妙高、援護して」

「は、はいっ」

 曙の言葉に羽黒は後ろへ。

「うわー、千客万来だねっ!

 みんな、那珂ちゃんを見に来てくれたのかなー?」

「なに一つ嬉しくありません。

 那珂、そうだとしたら帰りは一人で帰ってください。囮にはうってつけです」

「不知火ちゃんひどいっ!

 で、みんなーっ、散開だよー! お休み中の皆を護ってあげてねー」

「はいはい」

 那珂の言葉に彼女の僚艦は展開する。連れてきた明石は曙たちの補給を行い。

「これ、なかなか洒落になりませんね。

 ……いえ、この決戦に参加できるというのは、悪くありませんが」

 突撃する軽巡洋艦級の深海棲艦を迎撃しながら不知火。本当に、

「何がどう転ぶか、解りませんっ」

 両手に装備した機銃の掃射で足止め、足回りを狙い動きを阻害。そして、僚艦の砲撃。撃破した事を確認して次へ。

「もーっ、みんな那珂ちゃんの魅力にやられすぎーっ!」

 迎撃を繰り返しながら那珂。曙は頷いて「誰かっ! 誰かそのアイドルを射出してっ! 群がったら飽和砲撃っ! なかちまんは、……まあ、大丈夫っ! 何の問題もないわっ! 不幸な事はいつだって起きるわっ!」

「わかりました。行きますよ。那珂」

「不知火ちゃんっ?」

 

「相変わらず、賑やかな連中ね」

 他にも輸送先があるのだろう。那珂たちは賑やかにどこぞへ。そして、それは那珂たちの援護がなくなったことを意味する。当然、

「それじゃあ、行きますか」

 周囲の深海棲艦が砲を向けた。

 

『深海棲艦は後回しで構いません。

 《呪詛の御社》の撃破に集中。切りがありません。発生源を破壊する事が最良です』

「了解っ! 皆、目標に向かって突撃っ!」

 曙の声に僚艦は頷く。そして、深海棲艦は前に、《呪詛の御社》を護るように展開。

「羽黒っ、妙高っ、左右警戒もっ!

 扶桑っ、山城は道を広げてっ! 足柄と那智はこじ開けるっ!」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 声に、曙は黒く染まる海と、五色の輝きの先を見据える。

「さあ、砕き切り開くわよっ!」

 

 平穏か、と。曙は言葉通り前を切り開きながらその意味を思う。

 確かに、今は平穏だ。感情的な意味ではなく、数値として、それは証明されている。

 けど、

 どれだけ努力をしても、それが実らないのは虚しい。

 どれだけ頑張っても、貧しいままと言うのは寂しい。

 ……彼らは必死で生きているんだ。だから、それは報われて欲しい。

 曙は那珂達が持ってきた連装砲を構える。一息。

「あんなものなくても、なんとでもやってけるわよ。人は。

 …………なんていっても、ね」

「この方が確実だからそれを選択したのでしょう」

「そうでしょうね」

 扶桑の言葉に曙は頷く。確かに、この方法が一番確実だ。

 そして、平穏を実現できるなら実行するだろう。彼女達は方法があるのに実行しないほど、間抜けではない。

 ただ、

「ま、……気に入らないけどね」

 気に入らない。だから、

「やるしかない、ってわけねっ」

 曙は両手に構えた連装砲で砲撃。

 戦艦の放つ砲弾を撃ち落とす。砲撃、「鬱陶しいっ!」

 両手をクロスさせて左右に砲撃。扶桑と山城のすぐ横を擦り抜けて重巡洋艦の胸を撃ち抜く。

「ありがとうございますっ」

 山城は告げて主砲を向ける。砲撃。

 そっちは大丈夫と判断。

「妙高っ! 羽黒っ! 後ろはっ!」

「あ、はいっ、今のところ、退路は確保できて、ます。

 あの、利根さん達とも連絡、します」

「いや、利根達は進撃を続けた方がいい、かな?」

「そっちの方がいいんじゃない?

 なんだかんだいって利根達、私達より錬度高いんだし」

「いや、利根や筑摩の索敵能力は高い。

 退路確保には有効だ」

 足柄と那智の意見を聞き、曙は少し、考える。

 確かに、利根や筑摩の索敵能力は魅力的だ。けど、…………一息。

「うちの馬鹿提督に援護要請っ!

 主目的は退路確保で耐久重視、人選は羽黒に任せるわ」

「は、はいっ、頑張りますっ!」

「羽黒、頑張りどころは考えなさい」

「曙、少し止まりましょう」

「え? あ、妙高姉さん。大丈「考え事は集中しなさい」……あ、はい、ごめんなさい」

 前進を一時停止。那智、足柄、妙高は羽黒の護衛として近くに、さらにその周囲を山城と扶桑、曙が囲うように移動。

 基地にいた時、羽黒は主に訓練を担当していた。基地にいる僚艦の戦力は誰よりも把握している。

 そのうえでの最適解は? …………誰を、要請すべきか?

 一息。

「提督っ! 基地所属、全艦娘の出撃を要請しますっ!

 高錬度の艦娘は私達の位置、吾妻島近くまで退路の確保をお願いしますっ! あとは錬度順に、城ヶ島まで並べて退路確保をお願いしますっ! 戦艦、重巡洋艦を中心に海域制圧、空母は索敵のため一定間隔で配置、軽巡洋艦と駆逐艦は制圧位置を巡回して制圧状況維持、資材の分配をお願いしますっ!

 長期維持を優先して、交代と補給を密にするようにお願いしますっ!」

『了解しました。

 ただ、駆逐艦たちもある程度の間隔で退路確保を担当させましょう。細かい編成と、連動は私が行います。羽黒、貴女達は進撃を継続しなさい』

「はいっ!」

『吾輩たちの退路確保もお願いしたいのじゃがなあ』

『そうですね。利根姉さん。

 提督、お願いします』

『こほっ、……うん、解ったよ。

 春日少将、連動をお願い』

『了解です』

『提督、吾輩たちにも連絡を頼む』

『うん、了解』

『羽黒、引き続き、貴女と連絡を続けます。

 曙達との中継をしなさい』

「はいっ」

 交信を終了。羽黒はあたりを見る。

「終わったっ?」

 足柄の声。羽黒は頷く。一息。

「あの、ごめんなさいっ!

 提督に退路確保の要請しましたっ! 亀山中将のところに所属する艦娘と連動しますっ!」

 声を聞いて、曙は砲撃を続けながら応じる。

「ありがとっ! 羽黒、馬鹿提督と連絡を継続、連携任せるわっ! 妙高っ! 羽黒を見ててやってっ!」

「「了解っ」」

 声を聞いて、曙は手を振る。

「羽黒を中心に、陣形再構築。

 扶桑、山城は左右警戒重視、那智は下がって羽黒の位置に、前はあたしが出るっ!」

「却下します。後ろは私一人で対応します」

「あの、ごめんなさいっ! 私も、妙高姉さんの援護をしますっ!

 だから、曙さんは現場指揮を、お願いしますっ!」

「…………馬鹿すんじゃないわよっ!」

 曙の言葉に妙高と羽黒は頷く。扶桑と山城は少し、後ろに下がる。

 羽黒は城ヶ島にいる清海達との連携もあるだろう。妙高は基地の中でも曙に次ぐ実力を持つ。とはいえ、相手は数多の深海棲艦。一人で支えるのは難しい。

 だから、援護のためにも下がる。そうなれば前は手薄になるが。

「いい判断っ!」

 曙は少し前に出る。扶桑と山城が下がった事で前方への火力が不足する。だから、それを補う。もっとも、「扶桑と山城二人の代役はきついけどねっ!」

 前から迫る深海棲艦を、両手に持つ連装砲で砲撃。足柄と那智の火力を補う。二人を援護する。

 曙は指輪持ち、現存する艦娘の中でも上位に位置する存在。

 とはいえ、扶桑、山城も高い錬度を持つ戦艦。二人の火力には及ばない。だから、前方への火力は落ちる。それは当然、足柄と那智への負担が増えるが。

「感謝する」「助かるわっ!」

 それでも、那智と足柄は前を見る。怒涛のように迫る深海棲艦を撃ち、穿ち、貫く。

 粉砕する、破砕する、爆発と炸裂の音が響く。砲声と着弾の音が途切れることなく響き続ける。

 一息。

「羽黒っ! 想定では三十分後に砲弾が切れるっ!

 チームなかちまんに連絡っ!」

「はいっ! 那智姉さんっ!

 聞こえますかっ! チームなかちまんの皆さんっ! 前と同じの追加で御願いしますっ!」

『あの、こちらも真剣に頑張っている最中なので、その、チームなかちまんとか止めてもらえませんか?』

「あ、ご、ごめんなさいっ!

 けど、あの、……わ、私は格好いいと、思いますっ!」

『正気ですかっ?』

 非常に珍しい。不知火の驚いたような声。

『な、那珂ちゃんのチームだからそれでいいのっ!』

『誰かうちの頭が変になった旗艦をなんとかしてくださいっ!』

 要件は伝えた。正気を疑われた事は非常に心外。後で不知火さんとはちゃんと話しましょう、と。決意。だから、羽黒は不知火の悲鳴を無視して振り返る。「妙高姉さんっ!」

 砲撃。後ろから迫る深海棲艦を撃破。

『吾輩のところにも頼むぞっ! チームなかちまんっ!』

『…………あとで、いろいろなところに抗議します』

『なんでもいいからさっさと物資を届けなさい。チームなかちまん』

『あとで、全力で抗議します』

 と、そんな声を聞き流しながら、羽黒は砲撃を続ける。そして、思う事は一つ。

 出撃して、よかった。

 臆病な性格は自覚している。戦う事、……そして、誰かが傷つく事は、怖い。

 けど、……それでも、

「すごい」

 ぽつり、羽黒から声が零れる。声が聞こえたらしい、扶桑は苦笑して「大丈夫? 羽黒さん」

「え?」

「こわい? ごめんなさい。よく聞こえなかったのよ」

「怖いのなら撤退しなさい」

 妙高が心配そうな視線を向けてくる。曙も、一瞬振り返るが妙高が傍にいることを確認して前へ。

 そして、羽黒は首を横に振る。

「えと、ごめんなさい。大丈夫、です。

 ただ、……すごいな、って」

「この規模の出撃は私も初めてよ。

 こんなのが毎回だとすれば、…………ふふ、不幸ね」

「目的次第ね。と、来てるわよ」

「あ、はいっ、ごめんなさいっ!」

「撃ちますっ!」

 振り返り、妙高は突撃する重巡洋艦級の深海棲艦を砲撃。

「羽黒っ!」「は、はいっ!」

 羽黒は追撃、轟沈。けど、また後ろから迫る。砲撃の音。

「くっ?」

 迫る砲弾を羽黒は回避。回避しながら砲を向ける。

「負けま、せんっ!」

 

 砲撃の音を聞きながら、曙は前を見据える。

 前を行く那智と足柄は曙から見て右斜め前、左斜め前に展開。だから、向かう先がよく見える。

 五色の輝きに包まれた《呪詛の御社》、そして、数多いる深海棲艦。

 砲撃する砲撃する。そして、回避する。眼前には正規空母級の深海棲艦。放たれる艦載機は足柄と那智が機銃で薙ぎ払い、両手に構えた連装砲で砲撃を重ねる。

 砲弾が迫る。足柄も那智も庇う事はしない。曙の回避能力は知っている。だから、回避を確信して無視。曙は体を傾ける程度の動作で回避。回避しながら砲撃する。砲弾を叩き込む。

 砲撃の音は鳴りやまない。撃破の数など数えていない。ただ、

「あれ打ち壊したら、深海棲艦は発生しなくなるのよね?」

「ゼロじゃないかもしれないけど、かなり減るでしょうね」

 深海棲艦の発生は元より《がらくた》によるもの、《呪詛の御社》は深海棲艦発生の原因になる呪詛をばら撒いているだけ。

 だから、《呪詛の御社》がなくても深海棲艦は発生する。けど、

「減るなら、艦娘も必要なくなる、か」

 曙はぽつり、呟く。

 単純に、有効な兵器が少ないというだけで通常兵器で深海棲艦は撃破出来る。数が減れば、艦娘の大半は不要になるだろう。

 吹雪の言うとおり、それでも平穏を維持する為に出来る事があるならやるが、それでも今ほど艦娘が必要とされるとは思えない。

 だから、

「終わったら、どうするか」

 ぽつり、那智の言葉。それは、

「やる事あるって提督言ってたわね。

 ま、……なんとかなるでしょ」

 自沈も処分もごめんだけどね。と、曙。

 すでに、清海はそこに話をまわしていた。お花見の時に言仁と話をしていた。

 艦娘達を、引き取ってくれますか? と。

 当然、曙としては面白くない。清海の気遣いには感謝をしているし、不要だからと言って処分されるのは嫌だ。それなら確かに、自分たちを受け入れてくれる場所に行くのは最善だろう。

 けど、叶うのなら。

 

 口に出すつもりはない。

 あの、馬鹿提督が指揮する、あの基地が居心地良くて、そこから離れたくなかった、なんて口に出したくない。

 

「ま、なんにせよ。

 さっさと行くわよっ!」

 曙は声をあげて連装砲を構える。

 未来への不安はある。現状への高揚がある。

 未来への期待はある。現状への問いがある。

 …………きっと、この国を護ったかつての英雄たちも、同じだったのかもしれない。

 そう思えば、今、この場にいる事がどうしても悪いとは思えなくて。

「了解っ! ま、面倒な事は蹴散らしてから考えましょうかっ!」

「それが、私達のやりたい事なら、躊躇する必要はないな」

 吼えるように笑う足柄と、静かに笑う那智。

 その声を聞いて、曙は笑った。笑いながら砲撃をする。とりあえず、この僚艦達となら大丈夫だろう。そう思えば自然と笑みも浮かぶ。

 大丈夫、と。砲撃を重ね、《呪詛の御社》を目指しながら進む。

 と、不意に羽黒は歩みを止める。進撃が停止。

「あ、えと、ごめんなさいっ!

 提督から連絡ですっ! 呉、佐世保、舞鶴鎮守府の各旗艦が交戦をしているそうですっ! あと、横須賀鎮守府の赤城さんも、ですっ!」

「そ」

 ふむ、と曙は少し考える。思う事は一つ。

 利根達と合流しようか、と。

 彼女達と別動している理由は一つ。各鎮守府の旗艦。現在、最上位に存在する艦娘達が艦隊行動をとって相対したら、まとめて潰される可能性が高い。

 その場合、自分たちか利根達が遅滞戦術をとり、残った方が《呪詛の御社》破壊に動く、と考えていたが。

 その厄介な連中は皆、どこぞで交戦しているらしい。なら、

「利根達と合流する」

 告げる。視線を滑らせる。妙高と扶桑は頷く。

 なら、

「羽黒っ! 利根達と合流要請っ!」

「は、はいっ!」

 曙の言葉に羽黒は無線を口元に寄せて、

「あ、あの、ごめんなさいっ!

 とねちく隊の皆さん、合流をお願いしますっ!」

『とねちく隊かっ! 格好いいなっ! なあ、筑摩っ!』

『とねちく隊っ! これより春日少将の艦隊と合流します。

 名前がおかしい、ですか? その反論は却下します。利根姉さんの艦隊として素晴らしい名前です』

『提督の影薄いねえ』

『では行くぞっ! 相撲取りと愉快な仲間達っ!』

「お相撲さんじゃないって言ってんでしょうがぁぁあっ!」

「愉快なところは否定できないわね」

 怒鳴る曙の傍ら、しんみりとした口調で足柄。

『合流には了解しました。

 亀山中将、お相撲さんの友達を先導として派遣します。とねちく隊と合流を』

「馬鹿提督、後で蹴飛ばす」

『優しくお願いします』

『なっかちゃんはーっ?』

『ドラム缶引っ張ってさっさと補給のため駆けずり回りなさい』

『アイドルにその扱いはないよねっ?』

『曙達はその地点に待機。とねちく隊と合流後、全戦力で一点突破してください』

『行くぞ筑摩っ! とねちく隊、突撃じゃっ!』

『はいっ、利根姉さんっ!』

『先導派遣するって言っただろ? 余計な事やると相撲取りに張り手をさせるぞ』

『は、張り手、だと? ……筑摩ぁ、それは、怖いのう』

『大丈夫ですっ! 利根姉さんは私がお相撲さんから護りますっ』

「よしわかった。お前ら全員。戻ったら全力で打ん殴る」

「…………羽黒。なぜあれだけの連絡でこんなに会話がとっ散らかるんだ?」

 那智は首を傾げて問う。羽黒は首を傾げて、

「きっと、みんな仲良しです」

「ほわほわしてないで、援護してくださーいっ!」

 扶桑の悲鳴に羽黒と那智はあたりを見る。足を止めれば深海棲艦に囲まれる。「羽黒、後任せた」と、丸投げする旗艦に苦笑を返し、羽黒は筑摩と具体的な合流方法を話し合い始め、

 曙と那智は砲撃に戻る。合流するまでは下手に動けないし、合流直後の事を考えれば念入りに掃除をした方がいい。砲撃の音が連続する。轟沈、爆発、深海棲艦を粉砕する音が響き渡る。

 そして、砲撃の音に混じって声。

「この戦争が終わったらっ! 私はっ! 扶桑姉さまと結婚しますっ!」

「不幸な妹が死亡フラグ立てましたが、回避可能でしょうか?」

「あ、ごめんなさい。不幸だから、無理だと思います」

「わ、私が沈んでも各艦敵を撃滅してくださいっ!」

「左舷がいなくなると問題あるから各艦、山城放置して撤退ね」

 妙にテンション高く叫ぶ山城に曙は淡々と呟く。山城は肩を落とした。

「その結末、不幸すぎます」

「…………あ、あの、いきなり妹から結婚宣言されましたが、……どうすればいいのでしょうか?」

 すぐになにか言おうと思ったが、妙高と羽黒の言葉に納得して発言の機会を失した扶桑が小さく呟く。応じるのは僚艦たち。

「すまない、祝金は期待しないでくれ」

「たくさん美味しいもの食べられるわねえ」

「私は、豪華なホテルに泊まりたいです」

「あの、……ごめんなさい。提督、ウェディングドレスの用意に時間がかかると言っています」

「え?」

 なぜ提督? と、首を傾げる傍ら、羽黒は申し訳なさそうな表情で、

「その、……あの、さっきの山城さんの発言。

 つい、いろいろなところに流してしまいました。あの、ごめんなさいっ!」

「謝るくらいなら変な事しないでよーっ!」

 右舷、砲撃をして迫る深海棲艦を撃ち抜きながら振り返る。どや顔の山城にも一発叩き込もうか本気で悩むが、とりあえず後にする。

 けど、この後の事。

 この平穏が続くか? そうなれば、また、海軍所属として深海棲艦と戦うのか? あるいは、反逆をしたという事で処分でもされるか?

 それとも、例の、《波下の都》に押し込められるか?

 そして、もし、《呪詛の御社》を破壊したら? ……いろいろと、扶桑も思う事はある。

 けど、…………

 まあ、なんとかやって行きましょう、と。

 幸いにも提督は変なところが多いが信頼できる。それは、僚艦たちも同様。旗艦は言うまでもない。

 変なところも同様なのはどうかと思いますけどね、と。扶桑は苦笑し、

「この戦いが終わっても、みんなで一緒にいましょうね」

 ぽつり、呟いた。

「…………死亡フラグ二本目」

「あの、……私は、扶桑お姉さまと二人きりの家の方が、……《波下の都》に行けば家ももらえるらしい、ですし」

「結婚相手が見つかった女が、嫌味か?」

「……私は、…………いえ、貴女は山城と幸せになればいいと思うわ」

「なんでよりによって不幸姉妹がフラグを乱立させるのでしょうか?」

「あ、チームなかちまんです。視認できました。………………え? ごめんなさい。扶桑さん、なにか言いましたか?」

 扶桑は黒く染まる海を見て、溜息をついた。

「空は、あんなに青い「海は見事に黒いわね」」

 

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