深海の都の話   作:林屋まつり

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四話

 

//.大鳳

 

 高い速力はあるけど、けど、それよりも速く一刻も速くっ!

 この都を守るために、この都に来た誰かを守るために、そして、

 大切な人を傷つけないために、……とんっ、と軽く跳躍。

「艦載機、騎乗」

 艤装から放たれた艦載機。それを集結、集まり固まり、ボードとなる。

 出力特化に機能を設定した艦載機を下に集めて、――爆発。

 超高速で都を滑るボードに乗り、私は改めて夕立の家がある場所を確認。

 都が高速で流れる。夜だから、誰もいないのは好都合。

「ったく、なんでもいいけど、……提督を悲しませる事だけは、許さないわよ」

 最後の曲がり角を速度を落とさずに曲がる。そして、見えた。

 半壊した家屋。眉根を寄せる、艦載機を艤装に戻す。ボードがほどけて消え、着地。

 一息。

「夕立っ! いるのっ!」

 ドアのところから声を上げる、と。

「つっ?」

 砲撃の音。反射的に横に跳ぶ。私の頭があった場所を砲弾が通過。

「…………やってくれるじゃない。なら、」

 口元に、笑み。

「徹底的に、やってあげるわっ!」

 周囲を探索していた艦載機を空に集める。

 …………戦うつもりはないのだけどね。けど、私は金剛にも負けない自負がある。……完全に規格外の響には劣るけど。

 空の艦載機、機能を再設定、その数を百分の一に減少させ、爆撃機能を付加。

 多重爆撃。同時に艤装から艦載機を放つ、集める。握る。

 構築されるのは艦載機を圧縮した鎖。錨。

 爆撃は数秒で家屋を完全に破壊する。その一瞬前に飛び出してきた。

 まず見えたのは赤。続いて見えたのは亜麻色。

 そして、彼女を視認し、目に付いたのは口元。ちょっと前に会った時の柔らかい笑みとは完全に異なる、そして、今の彼女にはふさわしい、獰猛な猟犬のような笑み。

 

 声が聞こえる。

「さあ、素敵な悪夢を始めましょうっ!」

 

 夕立は、私に向かって連装砲を向ける。挙動、意思に一切の躊躇いはない。なら、

「はっ」

 深紅の瞳。わずかに逆立った髪。そして、砲撃。

 推定される破壊力は駆逐艦という事を考えれば規格外。駆逐艦に搭載できる砲では自壊する大出力。あるいは、戦艦にさえ迫るかもしれない。

 まあ、いいけどね。

「遅いわよっ!」

 いくら強力な砲撃でも、弾道が見えていれば回避する事は簡単。周囲に展開された微細な艦載機は異形と化した艤装を通じて夕立の挙動を精密に伝達する。

 回避、そして私は主砲を向ける。

「てっ!」

 あたるとは思っていないけどね。

 砲撃、案の定、真正面から放たれた砲撃を夕立は回避。もっとも、その挙動は少し驚く。

 本当に、ぎりぎりの回避だった。それも、こちらに駆け寄りながらわずかに身を翻す程度、もう一瞬動作が遅ければ大破は免れない。けど、そんな驚くような回避を当然のように成し遂げて夕立は近寄る。近寄りながら再度連装砲を向ける。

 砲撃。まだ、許容範囲。けど、これ以上距離を詰められたら危ないわね。

 だから、回避しながら鎖を振るう。先端の錨は飛翔しながら夕立に向かう。

「なに、その手品、面白い」

「ええ、これが深海棲艦の能力よ」

 感情のない、平坦な声。明らかに、私の知っている夕立とは違う。

 あり得ない軌跡を描いて迫る錨を夕立は一切動じず連装砲の砲撃で粉砕。けど、「まだっ!」

 頭上の艦載機を集合、砲撃を行った夕立の直上に集めて束ね、鎖として落下させる。

 拘束する。両手足を縛りつければ捕縛完了。そのあとの事は、……監視だけして響に押しつければいい。

「あくまでも、拘束狙いって事ね」

 夕立は、落下する鎖の塊を見据えて、

「けど、……それじゃあ、無駄っ!」

 手を振るう。その手には、「魚雷っ?」

 主砲を向ける。夕立は踊るように一回転、両手、指の間に挟む片手三、合計六の魚雷を放つ。

 三つはこちらに向けて、三つは上から落下する鎖に向けて、

「面倒なやつねっ!」

 魚雷の弾道を認識、把握、砲撃っ!

 迎撃する。砲撃は魚雷の弾道に重なり放たれ、……魚雷が、回避した。

「水中でもないのに魚雷って、何の冗談よ。完全にミサイルじゃない」

 回避した、私は後ろに跳躍しながら地面に向かって砲撃。そして、魚雷を無差別に迎撃する破片。

 破片にぶつけて誤爆させる。けど、

「なっ?」

 魚雷は、破片を弾き飛ばして迫る。「どーん」

「っ?」

 艦載機を全面展開、圧縮して盾とする。直後、眼前で魚雷が爆発。

「つっ!」

 想像以上の破壊力。盾が削られ砕かれる。吹き飛ばされる。

「くっ」

 着地、舌打ち。「右っ!」

 鎖を振るう。先端には再構築した錨。連装砲を向ける夕立は砲撃直前で後ろに跳び、下から殴りつける錨を回避。もう少し反応が遅かったら危なかったわね。

 そして砲撃。夕立は見越していたように横に跳躍して回避。

「驚いたわ」

「なら少しは驚いた風に言いなさいよ」

 相変わらず、淡々と、感情が抜け落ちたように言葉を紡ぐ夕立。深紅の瞳は揺らがない。

「驚いたのは手品。

 いいから、さっさと、あたしの、夕立の前から消えて」

「はっ、大口叩くわね新入り。一応わけを聞いてあげるわ」

「特別任務よ」

「誰からよ?」

 ……なんとなく、予想が確信に近づくのを感じる。

「提督から、艦娘を破壊するように」

「そ、提督のためなら死んでも構わないって思ってるけど、」

 もっとも、こんな事を言ったら提督、怒るだろうな。……怒った表情も格好よくて、ちょっとぞくぞくして嫌いじゃないけど。

 けど、

「あんたの言う提督に殺される義理はないわ。

 そうね、もしいるなら出しなさい。人であっても主砲でばらばらにしてあげるわ」

 艦娘だったころなら絶対に出ない発想。けど、今の私に躊躇するつもりはない。それに、

「あんたにも、殺される義理はない。

 安心しなさい。貴方が死んだら提督は悲しむだろうから、殺しはしないわ」

「やってみるといいわ。……艦娘が死ねば、夕立は、もう誰も殺さなくていいのよっ!」

 殺さなくて、いい、か。

 す、と。夕立は両手に魚雷を構える。投擲。

 ……魚雷は投擲するものじゃないと思うけどね。さて、

 放たれたのは六。囮にあてての誤爆は難しいか、

 そして、その破壊力、直撃すれば私は消し飛ぶ。……冗談じゃないわっ!

「もっと提督といちゃいちゃしたいのよっ!」

「気合の入れ方が私利私欲ね」

 深海棲艦だから仕方ないのよ。

 ともかく、艦載機を放つ。圧縮して構築。盾では意味がない。

 構築されるのは捻れた杭。放つ。

 六つの魚雷を串刺しにする二十四の杭。魚雷は回避軌道を取るが、杭はそれを追撃して串刺しにする。それを確認すると同時に右に走る。

 たんっ、と跳躍。足元に艦載機が集まり、飛翔。

 爆発、六つの魚雷がまとめて誤爆して大爆発を引き起こす。索敵。「死なないでよっ!」

 土煙りの中めがけて主砲を叩きこむ。さすがというか、夕立も誤爆は想定の範囲内らしい。すぐに移動して連装砲を向けてる。

 まあいいか、土煙りを蹴散らして主砲の砲弾が迫る。夕立は、そっちを見もせずに回避、即座にこちらに連装砲を放つ。けど、「遅いっ!」

 艦載機の出力を使って私は飛翔、砲撃を回避。追撃するのは魚雷。

 六、さらに投擲、十二、まだ来る、十八、へえ、いくらでも出るのね。二十四。

 都合二十四の魚雷が飛翔する私を追撃する。速度は、あっちの方が上か。けど、

「落すわっ!」

 砲撃する。全速力で追撃しているから、細かい制御は無理らしい、好都合。砲撃して魚雷一つを粉砕、いくつか、誤爆。

 大爆発、そして、それを蹴散らして突き進む魚雷が残り十五。

 そして、それだけじゃない、下を見れば連装砲を構えた夕立。

 正面と下からの攻撃。はっ、と笑う。

「まだ行くわよ」

 艤装から艦載機が追加で放たれる。足裏だけに展開していた艦載機はさらに密度を増してボードになる。当然、出力も追加。

「さぁあっ! 追いかけっこといきましょうかっ!」

 加速の爆発、魚雷は追いすがる。夕立はこちらの行く先に連装砲を向ける。砲撃。「あまいっ!」

 急旋回、へし折れるような軌道を描いて砲撃が魚雷を打撃する。爆砕、けど、ほとんどの魚雷はその爆発範囲外。巧く逃がしたか。

 戦いなれてる。それも、対深海棲艦のような戦いじゃない。

 深海棲艦と戦うような砲撃や艦載機を使った戦いじゃない。ほぼ白兵戦に近い戦い。もちろん、あり得ない。

 深海棲艦は海にしか出ない。なのに、目の前の夕立は陸上での戦いに不自然なほど慣れている。つまり、

 

 彼女の錬度は高い。

 その錬度は、どこで培ったのか? 誰と戦い鍛え上げてきたのか?

 

 その答えは、彼女自身が言っていた。吐き気がする。

「本気で、撃滅したくなるわねっ!

 あんたの言う、提督ってやつをねっ!」

 前に、知り合いの為朝が言っていた事をふと思い出す。

 もし、主が艦娘に対する一部の扱いを知ったら、地上を滅ぼしに行くかもしれない、と。……正直、その気持ちも解る。

 まあ、もう過ぎた事。だから、

「止めるわよ」

 深紅の瞳と視線があった気がした。…………瞳の色が違う。そっか。

 それが貴女の、夕立の、悪夢なのね。

 

 止められないよ、と。彼女は笑う。

 諦観に固まった艦娘は笑う。誰も、悪夢は止められない。どこにも、そんな力はない。

 …………だから、あたしは、悪夢を見続ける。そうすれば、夕立は、もう、悪い現実を続けなくていいのだから。

 

 魚雷の追撃と下からの砲撃。相対する私は飛翔速度の緩急と急旋回で対応。

 さすがに夕立も慣れたのか、魚雷を砲撃するなんて事はしなくなる。なら、こっちで撃ち落とすしかないわね。

 夕立を警戒しながら背後から迫る魚雷を砲撃、爆発。

 けど、

「その手品は、そろそろ見飽きたわ」

 再度、迎撃をしようと砲を向け、そこに飛び込んできたのは、魚雷と、

「ちっ?」

 砲門の前に魚雷が飛び出す。その魚雷を撃ち抜けば誤爆範囲に巻き込まれる。ゆえに、砲撃を中断、けど、夕立はそれさえ見越していたらしい。

 魚雷と、その後ろについてくる砲弾。私の目の前で魚雷を砲弾が穿ち、爆破。

「つっ」

 至近距離の爆発に私は、足元のボードを解除して吹き飛ばされる。墜落。

「これで終わり」

 薄れゆく意識がそんな事を聞いて、ええ、と。頷く。

 終わりね、と。艦載機に最後の指示を送った。

 

//.大鳳

 

 ――――そして、目を覚ました。

「…………っぽい?」

 なんか、惨状。

 目の前にはぼろぼろで倒れる大鳳。助けなくちゃ、と思うけど、

 なぜか、夕立は鎖で縛られてる。

「えーと?」

「目を覚ましたみたいだね。夕立」

「あ、……えと、響? ……これは、どういう事、っぽい?」

「私も興味あるよ。

 大鳳は気絶で、夕立は縛られている。夕立に渡した家はほぼ全壊。テロかな? 一応聞いておくけど、夕立、怪我はない?」

「ない、っぽい」

 痛いところはない。

「この鎖は、大鳳の艦載機か」

「……艦載機はいつから鎖っぽいのになったの?」

「大鳳の艦載機はいろいろと特別なんだよ。深海棲艦になってからね。

 ともかく、行こうか。ここにいても仕方ないし、……はあ、どうしたものかな、これは」

 とりあえず、響はぺちぺちと大鳳の頬っぺたを叩き始めた。

 

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