深海の都の話   作:林屋まつり

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 さあ、ステキなパーティしましょ!


七話

 

 数多、鳴り響く音は銃声。

 莫大、その数だけ撃ち込まれるのは銃弾。

 

 音が迫る。

 蹴散らされる深海棲艦。戦艦級の深海棲艦が近くにいたはずだが、文字通り削り取られて吹き飛ばされる。

 蹂躙、それを可能とするのは指輪持ちの艦娘。それも、自分に比肩する最上位か。

 あるいは、

 

「やっ、時雨姉さん」

 

 深海棲艦の、姫。か。

 

「僕の事を姉さん、って呼ぶという事は、君は白露型なのかな?

 夕立の事も姉さんって言ってたよね? とすると、四番艦以降、と言う事かな?」

 時雨の問いに、彼女、駆逐の姫。ひさめは肩をすくめる。

「知らなーい。

 第一、それだけで特定する必要はないでしょ? 白露型じゃない僚艦で、先に配属された娘と仲良くなれば姉さん、って呼ぶかもしれないよ?

 ま、実際、深海棲艦夕立なら同じ艦級じゃなくても姉さんって呼んでもいいしね。……あの駄目棲艦は微妙」

「うん、それについては僕も同感。

 さて、……死んだ腹いせだね。いいよ、それを受ける義務がある。って僕も思ってる。だから、来るといいよ。ひさめ」

 もっとも、と時雨は笑う。その両手には機銃。

「簡単にやられる気も、ないけどね」

 その言葉を聞いて、ひさめも笑った。

 

「さあっ! 楽しいパーティーを始めよっ!」

「始めようかっ! 僕達のパーティーをっ!」

 

 祭り場の一角、鉄火弾雨のパーティーが始まる。

 

 ひさめと時雨は疾走開始。時雨は両手に構える機銃を向ける。銃撃。

「あははっ!」

 ひさめは疾走。海面を銃弾が打撃して水飛沫をあげる。その向こうから放たれる機銃の銃弾。

「来たね」

 時雨はそれを見据えて疾走。機銃を掃射しながらひさめの銃撃を回避。

「あはっ」「ははっ」

 銃撃、銃撃銃撃、銃撃。機銃の掃射は二人の一瞬前にいた場所を穿ち、一瞬後にいるはずの場所を貫く。

「行くよっ!」

 ひさめは時雨に向かって疾走。時雨は機銃を向けて掃射。けど、それはひさめも同様。

 銃弾が銃弾を弾き飛ばす。銃声は鳴りやまず、二人はお互いに向かって疾走。疾走しながら機銃を掃射、わずかに体を傾けて回避、一歩右にそれて回避、銃弾を銃弾で弾き飛ばす。前進を停止しないあらゆる方法で銃弾をかいくぐり、眼前へ。

「はっ」

 時雨は機銃を前に向ける。ひさめは銃口を手で打払う。時雨は払われるままに旋回。ひさめは機銃を向け、時雨は回転しながら蹴り飛ばす。

 ひさめは振り返る。時雨は振り向く。銃口をあげる。二人の眼前に、同時に現れる機銃の銃口。

 機銃を突き付けて、二人は沈黙。

 機銃で銃撃されても死ぬ事はない、が。

「ふっ」「はっ」

 時雨は足を跳ね上げて同時に銃撃。

 ひさめは手を振り抜いて同時に銃撃。

 時雨の銃撃は手で弾かれてひさめの頬をかすめ、ひさめの銃撃は蹴りあげられて時雨のこめかみをかする。

 二人は同時に疾走。笑みを交わして交錯。振り返り銃撃。銃弾がばらまかれる。銃弾は銃弾を弾き、ひさめと時雨は微かに姿勢を変える程度で銃弾のすべてを回避。己が持つ機銃の射線に変更はない。相手を穿つために迫る。

「んっ」

 だんっ、と。時雨は不意に水面を蹴る。跳ねるような跳躍でひさめの機銃掃射を回避、さらに疾走。時雨が一瞬前にいた場所を銃弾が薙ぎ払う。

「逃がさない、よっ」「逃がして欲しいなっ」

 ひさめは時雨を追撃する。時雨は機銃の掃射を回避し、迎撃。水面を盛大に蹴立てて疾走。機銃が周囲を穿ち貫く。時雨は振り返って機銃掃射。火炎の鞭のような射線がひさめに迫り、ひさめは銃火の鞭をしゃがんで回避、頭上を銃火が薙ぎ払い、機銃を向ける。振り抜いた時雨の射線が鞭なら、ひさめの機銃は槍のように時雨に殺到。

「んっ」

 けど、直線軌道で迫る銃撃なんて見飽きている。銃火の槍を顔を傾ける程度で回避。体を振りまわす、右に持つ機銃で銃撃。盛大に響く銃声の向かう先、ひさめは笑って腰を落とす、頭上を銃弾が通過。

「いいねっ、時雨姉さんっ、弾切れで中断なんて馬鹿しないでよっ」

「安心していいよっ、補給のあてはあるからね」

 言いながら、機銃掃射。そのまま上に振り上げる。

 銃撃をひさめは回避。けど、空を舞う深海棲艦の艦載機を撃ち落とす。

 落ちてきたのは機銃。振りあげた機銃を手放し、落ちてきた機銃を手に取る。そして、手放した機銃を蹴り飛ばす。

「おおっ?」

 ひさめは銃撃。蹴り飛ばされた機銃を銃弾が穿つ。機銃の鋼鉄を銃弾が打撃する音が響き、弾き飛ばされる。けど、その隙に時雨は駆け出す。

「っとっ?」

 射線変更、薙ぎ払うように横へ。

「甘い、かな」

 大跳躍。膝を折って射線を飛び越える。「じゃあ、追加っ!」

 足の艤装が起動。跳躍、着水した時雨に銃弾を叩き込む。

 着地、膝を折った時雨はそのまま倒れる。今度はすぐ上を銃弾が通過し、海面に倒れるぎりぎりの位置で機銃を向け、掃射。

「わっ」

 まさか、反撃されると思わなかったらしいひさめの声。掃射は終了。時雨は手を海面について体を跳ね上げる。

「…………体、柔らかいんだね」

「柔軟はするようにしているからだよ。

 砲雷撃戦には必要な事なんだ。姿勢は重要だよ。……ええと、正射必中。だったかな、正しい姿勢を維持する為には必要な事だよ」

「……あんなほとんど寝転がりながら銃撃で正しいも何もないと思うんだけど」

「それは訓練のたまものだよ。……それにしても、そこも機銃かい? 好きなんだね」

「時雨姉さんに付き合ってだよー」

「それじゃあ、機銃以外にもなるんだ?」

 問いにひさめは頷く。便利だな、と思う。

「まあね。普段は、もっとおっきい砲撃だけど。

 これが楽しいからねっ、付き合ってあげるっ! 時雨姉さんっ!」

「付き合いがいい妹がいて僕は嬉しいよっ!」

 ひさめの艤装は三。両足と片手。時雨はそれを見据えて、両手に持つ機銃を構える。

 相手を見据えて、笑みを交わして、

「いっくよーっ!」「はじめようかっ!」

 ひさめの両足の艤装が銃弾を吐き出す。銃口は二つ。ばら撒くような銃撃。

「そうだね。この雨は、あまり好みじゃない」

 苦笑、雨は好きだけど自分に向かってくる弾雨は好きになれなさそうだ、と。

「ありゃ、逃げるんだ」

 大きく右に移動を始めた時雨を見て意外そうにつぶやくひさめ。時雨は笑って「雪風程、上手に回避できる自信がないんだ」

 だから、加速する。雪風程回避能力は高くないが、速度は勝っている。全力で離脱すれば追撃できるのは吹雪くらいか。

 もっとも、逃げるつもりはない。何より、

「逃がさないよっ」

 ひさめに逃がすつもりはないだろう。彼女は追撃する。

「それそれそれそれっ!」

 前を突き進む時雨に銃弾を叩き込む。時雨は一瞥、それだけで回避。右に、左に、高速の移動を繰り返して掃射を避け続ける。……その先には、

「それは、何のつもりかなー」

 岩礁がある。時雨が目指す先はそこか。

「かくれんぼとか、好きかい?」

「言仁君とやったのは楽しかったよ。

 けど、時雨姉さんとは、パーティーの方が好きっ」

「じゃあ、ダンスパーティーしようか」

 時雨は笑って振り向く。振り向いて、ひさめと向き直って、後ろに跳躍。

 たんっ、と岩礁に着地。

「わお」

 ひさめは笑って着地地点に銃撃。時雨はさらに後ろ、岩礁に跳び移る。

「鬼ごっこ?

 それは島風と、いぶきとやったかなあ。……ね、時雨姉さん。その時くらい、楽しませてね」

「期待にこたえるように、全力を尽くすよっ! ひさめっ!」

 たんっ、とさらに岩礁を跳躍、着地。銃弾をばら撒く。

 ひさめは笑って追撃。岩礁を駆け上がる。

「こういうのも、うんっ、面白いっ!」

「楽しんでもらえれば何よりだよっ!」

 時雨に向かって掃射、けど、岩礁を抉り穿つにとどまる。当たらない。そして、時雨はさらに跳躍して上から銃撃。

 ひさめは岩礁から飛び降りる。彼女のいた場所を銃弾が穿つ。落下、時雨は飛び降りて、岩礁を蹴り飛ばして追撃。

「あははっ!」

 ひさめは笑って上から迫る時雨に銃撃。機銃から銃弾をばら撒く。

 下から迫る雨に時雨は突撃。両手に持つ機銃を構えて銃撃。

「はっ、……っと、これは、なかなか、楽しい、ねっ」

「自分で用意しておいて自分だけ楽しまないでよー」

 笑う。体を振りまわす。銃撃。跳躍、岩礁を蹴り移動、当たりそうな銃弾を銃撃して弾き飛ばし、

 ひさめは海面に着水し、手の機銃を振り上げる。

「せいやぁっ!」「はあっ!」

 時雨は振り上げられた機銃に振り下ろした機銃を叩きつける。

 激突の音。二人は弾き飛ばされる。同時に銃撃。海面を滑りながらお互いに銃弾を叩き込む。

 盛大な波しぶきとともに停止。ひさめは岩礁を駆け上がる。

「気に入ってくれたみたいだね。

 嬉しいよ」

 時雨は優しく微笑む。時雨姉さん、と呼ばれていたからか。元気に遊ぶ妹を優しく見護る姉のような笑みで、…………彼女に、銃口を向ける。

 そして、銃撃。岩礁を駆け上るひさめを撃ち落とさんと銃弾が迫る。

「あははっ」

 駆け上がる。わずかな出っ張りくぼみ、すべてを足場にして機銃掃射を回避回避回避回避。銃弾が岩礁を抉り穿つのを置き去りに、ひさめは疾走継続。

「いいぃいいぃっ、やぁっほーっ!」

「楽しそうだねっ! さあ、僕も鬼ごっこを始めようかっ!」

 空に向かって銃弾をばら撒く。空を飛んでいた艦載機を撃ち落とす。ばらばらと、落ちてくる連装砲、単装砲、機銃、主砲、副砲、魚雷、その中から機銃を二つ掴み、魚雷を蹴り飛ばす。

「おっ、そーいっ!」

 ひさめは笑って蹴り飛ばされた魚雷を銃撃。爆発、寸前に主砲を蹴りあげる。爆風により主砲が吹き飛ばされるが。さらに時雨は蹴り飛ばして爆風に抗う。

 爆砕、主砲が破壊されてその向こうから時雨は機銃を構えて疾走。

「それそれそれっ!」

 ひさめは岩礁を掃射。銃弾が岩礁を削り、……そして、落とす。

 大質量の落下。時雨はそれを見上げて、それでも、笑う。

「は、あっ!」

 轟音が響く。「やったかなあ。……っ?」

 銃弾が、頬をかすめた。視線を落とす。削られたことを確認し、前を見る。

「回避、苦手じゃなかったんだ」

「雪風よりは、苦手だよ。

 吹雪くらいには避けることだってできるさ」

 岩陰の向こう。時雨がいる。彼女は髪についた土埃を面倒くさそうに払い落す。

「それより、その傷は油断かい?

 死体を確認するまで気を抜くのは感心しないよ」

「そうだねえ。……失敗したなあ」

 ひさめは一つ、伸びをして腰を落とす。

「じゃあ、次は油断なしっ!」

「死体を確認してからだね、それはっ!」

 ひさめは真っ直ぐ突撃。時雨は銃撃。ひさめは回避しながら真っ直ぐ迫る。

 銃撃は、ない。時雨はその現実に眉根を寄せ。銃撃継続。機銃の掃射が岩礁を抉り海面を弾き、ひさめに牙をむく。

 回避、ひさめは機銃を構える。銃撃、自分に直撃する銃弾を銃撃して弾き飛ばし、時雨に接近。

 へえ、と。呟いて時雨もひさめに向かって駆け出す。

「艦船同士の殴り合い?

 こんな岩礁だらけの場所でやるなんて、時雨姉さんって面白いねっ!」

「君にそう言ってもらえるなんて、僕も嬉しいよっ!」

 接近しながら時雨は機銃を向ける。掃射、銃弾を右に逸れて回避。ひさめは機銃を向ける。銃撃、岩礁を穿ち抉り、けど、時雨はさらに前に出て回避。岩礁を蹴りつけて方向転換。完全に向き直る前、視線を向けないひさめを見ない、ただ、直感のみで引き金を引く。

「あはっ、凄い凄いっ!」

 銃撃しながら、声。ここで時雨はようやくひさめを視線に収めたはずだ。けど、銃弾は正確にひさめに撃ち込まれた。

 経験か、鍛練か、どちらにせよ。

「楽しいねっ!」

 そんな事は、どうでもいい。

「そう言ってもらえれば嬉しいねっ」

 向き直り、時雨はさらに体を捻る。そして、機銃を持つ腕を振り抜く。

 腕の動きに合わせて横一文字に薙ぎ払われる射線。ひさめは目を見開いて岩礁を駆け上る。足元を機銃の銃弾が穿つ。

 真っ直ぐに、銃痕と言うよりは、大刀で抉り削ったような跡が残る。

「逃がさないよっ!」

 再度、今度は岩礁を駆け上るひさめに迫る銃弾による斬撃。

「逃がしてよっ!」

 ひさめは岩礁を駆け上りながら銃撃。自分に当たる銃弾を弾き飛ばす。時雨は疾走跳躍、駆け上る。

 駆け上がりながらひさめに向かって銃撃。機銃の銃弾は岩礁のあちこちを抉り穿ち削り砕き、けど、ひさめは岩礁を駆け上がりながら回避回避回避、銃弾はすべて無為に岩礁を穿つ。

 たんっ、と音。

「え?」「おっちろーっ!」

 時雨が珍しい間の抜けた声。そして、楽しそうなひさめの声。

 彼女は、銃撃ではなく突撃。岩礁から飛び降り、手を広げて落下。時雨に触れたのは指先だけ、けど、跳躍して次の足場に足をかけた直後に上からの力をかけられ、バランスを崩す。そうなれば当然。

「あはっ」「行くよっ」

 二人はもつれ合うように落下。落下しながら銃撃の応酬。機銃を向ける手を蹴り、機銃を持つ手を殴り、銃弾が銃弾を弾き飛ばし、銃撃が首をかすめ肩をかすめ、二人は転がるように落下する。

「落ちたら死ぬかな」「さてね、墜落死する艦娘も珍しいかな」

 二人はそういい、けど、二人は笑う。

 そんな終わり方、つまらない、と。

 ひさめは拳を握る。時雨は足を振り抜く。

 時雨の蹴りをひさめは拳で殴り、お互いを弾き飛ばす。移動の方向は下から左右へ。弾き飛ばされ、それぞれ岩礁の側面に着地。

 着地と同時にお互いに向けて銃撃。岩礁の壁を駆け回りながら、感覚としては上、見上げながら腕をあげて機銃掃射。

 走り回る。岩礁が銃弾に削られる気配を後ろにおいて、重力に引かれながら少しずつ下へ落ちながら、視線と銃弾を交わしながらひさめと時雨は疾走掃射ともに継続。

 そして、まずひさめが跳躍。跳びながら時雨を狙い、時雨の銃弾を銃撃して叩き落とす。着水。それを見て時雨は真っ直ぐに跳躍。先に着水したひさめが姿勢制御をするその一瞬に距離を詰めて、

「はぁああっ!」

 機銃を振り下ろす。打撃、頭を殴り、怯んだ隙に隣接距離から機銃の銃弾を叩き込む。

 けど、それは叶わない。ひさめは拳を握る。手の甲で銃身を打撃、反らして機銃の銃口を時雨に向ける。時雨は着水。同時に弾かれた手、それとは逆の手をひさめに向ける。

 隣接距離。お互いに銃口を突き付け、お互いを銃撃出来る距離。

「で、どうする? このまま共倒れ?

 ま、いくらなんでも機銃の銃撃くらいじゃあ沈まないけどね。時雨姉さんもそうでしょ?」

「そうだね。……ただ、なんだろうね。

 君から攻撃を受けるの、嫌なんだ。ほら、やっぱり姉としては妹に手をあげられるの、面白くないしね」

「ふーん、……まあ、けど同感。

 私も時雨姉さんに一発もらうの嫌だし」

 銃口を突き付けられながらひさめは首を傾げる。ふと、

「ね、じゃあ、時雨姉さん。

 こんなのどう?」

「ん?」

「二人して銃口突き付けてる機銃を手放すの。

 あとは、まあ、どっちが速いか、だよね」

「それは面白そうだね。……うん、それはいい」

 かち、と音。時雨は機銃の銃弾を一つ落として軽く蹴る。ひさめは空いている手で銃弾を受け取り、指で弾く。

 銃弾は空を舞い、水を叩く音が小さく、響く。

 お互いに突き付けていた機銃を手放す。時雨は後ろに跳躍、同時に足を跳ね上げて機銃を自分の方に蹴り飛ばす。ひさめは身を捻って体を倒し、着水寸前に拾い上げる。

 跳躍した時雨は着水、機銃を向ける。けど、倒れたまま機銃を掴んだひさめの方が速い。掃射、銃弾が時雨に迫る。

「っと、わっ!」

 反射的に、掴んだ機銃を射線に合わせる。機銃が銃撃されて破壊。けど、その隙に時雨は射線から逸れる。掃射が終わる。倒れたひさめは手を水面に押し当てて体を跳ね上げる。

 時雨はその隙にもう片手に持つ機銃で空を薙ぎ払う。艦載機が銃撃されて撃墜。落ちてきた機銃を掴み、両手で構え直す。ひさめも立ち上がり、両足の機銃を掃射。弾雨を解き放つ。

 けど、時雨は機銃を構えたまま前へ、ひさめの横を駆け抜けて回避。

「はっ」

 振り抜く。機銃による広範囲の、斬撃。回避場所は上、のみ。

 けど、

「あっまーいっ!」

 ひさめは手にある機銃で銃撃。自分に当たる位置にある銃弾を弾き飛ばす。

 銃弾が岩礁を穿つ音が連続して響く。岩礁に斬痕が刻まれ、時雨はさらに両手の機銃を向ける。

「速撃ちは私の勝ちだね。

 私の方が速く銃撃したしっ」

「冗談、当たりもしない銃撃に何の意味があるんだい?」

「そういう言葉は銃撃当ててからいいなよっ!」

「その言葉、そっくりそのまま返すよっ!」

 ひさめは両足の機銃を稼働。銃弾をばら撒いて弾雨を放つ。

 時雨は後退しながら銃撃。離れれば隙間は広がる。半身の姿勢で被弾面積を狭め、直撃弾を銃撃して叩き落とす。そして、

「二つ、ね」

 右手に持つ機銃で銃弾迎撃。左手で持つ機銃でひさめを狙う。

「こっちも行くね」

 銃撃。右手で微調整を繰り返し、銃弾を撃墜しながら左手の機銃でひさめを銃撃。

「わっ」

 機銃を向けられ、銃撃。銃弾が真っ直ぐひさめに迫る。ひさめは笑って手にある機銃を向ける。

 自分に迫る銃弾を銃撃して叩き落とす。ひさめと時雨の間に莫大量の銃弾が飛び交う。

 途絶える事のない銃声。彩るのは海面を銃弾が貫く音、岩礁を銃弾が穿つ音、そして、銃弾が銃弾を弾き飛ばす甲高い音。

 そして、

 ちゅんっ、と音。時雨は銃弾のかすめた肩に視線を落とす。

 ぴっ、と音。ひさめは銃弾がかすった頬に視線を向ける。

 直撃はない。それは己に許さない。彼女を相手にして先に被弾するのは悔しい。

 けど、それが精一杯。莫大量の銃弾を完全には捌き切れず、二人に微かな傷ができる。

 銃弾が時雨とひさめの間を飛び交う。例え戦艦級の深海棲艦でも、この二人の間を抜ける事は不可能。半分も行かないで蜂の巣にされるだろう。抜ける頃には銃弾に穿たれつくして何も残らないかもしれない。

 二人は相手をまっすぐ見据える。重なり響き続ける銃声と、飛び交う銃弾、はじける火花と飛沫は徐々に余計な思考を削ぎ落す。

 考えているのは、生きる事か殺す事か、二人にはそれさえ解らない。戦う理由はすでに忘れた。

 ただ、

 

 負けないよ。

 

 理由なんてない。理念なんてない。理想なんてない。理解なんてない。

 けど、

 

 負けないよ。

 

 掃射、交わし合う銃撃。

 重奏、響き続ける銃声。

 鉄火、煌めき輝く銃弾。

 …………そのすべてが、楽しくて仕方ない。

 

 負けないよ。

 

 ひさめは笑う。艤装の銃撃は続く。……ふと、思う。このまま押し勝っても、つまらないなあ、と。

 ひさめには、時雨たちに恨みはない。自分は元々艦娘。彼女達の平穏、その犠牲者、なのかもしれない。

 けど、その頃の記憶はない。ただ、おそらくは犠牲になったのだろう。だから、八つ当たりでもしておこう。

 平穏には興味がない。民も、艦娘も、興味はない。

 ただ、

 

 負けないよ。

 

 楽しい、な。…………出来れば、……ずっと、こうして、………………

 

 銃弾が額に当たった。

 

「…………僕を、殺すのかな?」

「いや、……意味分かんないし」

 膝をつく時雨にひさめは首を傾げる。

 押し勝った。戦艦とかなら火力任せの勝利で喜ぶかもしれないけど、ひさめは駆逐艦。高い技術に裏付けされた緻密な回避を重ねて接敵し、万全の状況で撃ち抜いてこそだ。こんな力任せの勝ち方、好みじゃない。

 第一。

「なに? 諦めたの?」

 たまたま押し勝ち額に一発、銃弾が当たった。その瞬間、時雨は銃撃を止めた。

 それを見て反射的にひさめも機銃掃射を止めたが。すでに放たれた銃弾に時雨は数十発程度、被弾したらしい。

 けど、それだけだ。

 時雨は呉鎮守府の旗艦を務める指輪持ちの艦娘。銃弾数十発の直撃で戦闘不能などあり得ない。

 けど、時雨は海面に腰を落としている。機銃を構える気配はない。

 戦闘放棄、と見える。

「諦めた。……うん、そうだね。そうかもしれない」

「なにそれ、最悪」

「はは、……うん、なんていうか。

 ひさめ、君が楽しそうでよかったなって思って、……そう思ったら、ずっとこうしてあそ、……」

 時雨は苦笑。不謹慎だな、と。思いながら言葉を変える気になれなかった。

「そう、遊んでいたくなってね」

「じゃあ続けようよー」

 遊びをねだる妹みたいだな、と。膨れた表情のひさめを見て時雨は微笑。

「そしたら、やっぱり他になにかあったんじゃないのかなって、そんな事を思ってしまったんだ。

 もっと、平穏な今じゃなくて、もっと楽しい事があるんじゃないのかなって、……そんな風に思い始めてね」

 そんな事を、ふと考えてしまった。集中の極にあってやっと捌き切れた弾雨だ。余計な事を考えれば防御が追い付くわけがない。そして、当然のように被弾した。

 被弾した。……だから、

「勝負、お預けに出来ないかな? ひさめ。

 このままだと余計な事を考えながら続ける事になりそうなんだけど、出来れば、ひさめとはそんな風に考えず、頭空っぽにして撃ちあいたいんだ」

 だめかな? と、問う時雨に、ひさめは肩を落とした。

「なにそれ、時雨姉さんって、ほんと最悪。

 だめって言って続けても面白いわけないじゃん」

「うん、……そうだね」

 ぱた、と時雨は倒れた。ひさめは溜息をついて寝転がる。

 疲れた。と、深海棲艦と艦娘は仲良く遊び疲れて倒れる。遊びが終わったとなれば、もう、動く事さえ億劫になる。

 仲良く寝転がり、ぽつり、声。遊び疲れたから喋るのも面倒だけど、言わないとといけない事もある。

 

「絶対に、また遊ぼうね。時雨姉さん」

「うん、僕もお願いするよ。ひさめ」

 

 満足のいく約束を交わして時雨は微笑んだ。

 疲れたなあ、と。

「さて、……みんなどうしてるかな」

 呟いてみるけど、まあ、なんとでもするだろ。と、友の事を思い、一息。ふと、抱いた思い。

 この平穏、壊れたら楽しくなるようになんとかやってみよう。平穏が壊れなくても、……まあ、出来るだけ楽しくなるようにしてみよう、と。

 そう思えたのなら、ここにいる事も意義があった。そう思って満足の吐息をついた。

 

「けど、今回は私の勝ち。

 時雨姉さんは罰として、あの駄目棲艦の更生をする事」

「え?」

 

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