深海の都の話   作:林屋まつり

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十二話

 

 ――――民安かれ。

 

「…………あー、くそっ」

 爆発し、沈没していく艦。そこに座る、一人の男。

 壁に背を預け、座る。駆逐艦吹雪の乗員。

 沈没による激震の中、彼は、苦笑。

「やっぱ、巧くいかねぇよなあ」

 すでに、吹雪はほぼ沈没している。助かる可能性は、ない。

 

 ごめんなさい。

 

 沈没していく艦の中、彼は懐から一枚の写真を取り出す。

 どこか緊張した表情を浮かべる袴を着た男性と、傍らにいる、はにかんだ微笑の女性。

 そして、そんな二人を中心として、周りには多くの人がいる。みんな、笑顔を浮かべている。

 おそらくは、…………

「ごめんな。……帰れそうに、ないな、こりゃ」

 

 ごめんなさい。

 ごめんなさい、護る事が出来なくてごめんなさい。私が、不甲斐無くて、もっと、……もっと、頑張れなくて、ごめんなさい。

 

「民安かれ、……か。

 な、やっぱ難しいよなあ。……だーめだ。嫁さえ護れねぇ。ってか」

 彼は、軽く笑う。

 民安かれ、胸に刻んだその言葉。大切な、大好きな人が安らかに過ごして欲しいと、その思いで彼はここにいた。

 けど、それは叶えられない。

 仮に、この戦争に勝利しても、仮に、その写真に写る彼女に莫大な富が入ったとしても、

 ……愛する人を喪った失意は、安らぎを許さないだろう。

 だから、彼は呟く。

「畜生、……ほんと、ごめんな」

 

 ごめんなさい。

 

 爆発の音が響く。それを聞いて、彼は写真から顔をあげる。

 もう、すぐに水が来るだろう。彼が生きていられる時間は、極僅か。

 だから彼は写真を懐にしまう。せめて、死ぬその最後の瞬間まで、大切な人から離れないように、

「さて、……と、」

 写真を懐にしまい、微笑。

 彼は、ぽつりと、

「頑張ってくれて、ありがとな、吹雪」

 

 なんで?

 

 ありがとう、なんて言わないでください。

 辛いです。貴方を家に、家族のところに帰す事が出来なかったのに、……それなのに、そう言われると、辛い、です。

「……民安かれ、か。…………なあ、吹雪。

 知ってっか? 艦船って、女性なんだとさ、……いや、なんでだかしらねぇけどよ。

 だからさ、……もし、……もし、だぜ? もし、お前が生まれ変わったら、……えーと、船魂、ってのか? それが、もし、また、形になったらさ。

 その時は、…………まあ、艦船に言うのも変かもしれねぇけどよ。……・・・・・・・くれよ」

 

 彼は命を預け、ともに戦い続けた彼女に、小さな祈りの言葉を紡いで、目を閉じた。

 

 ――――――爆発。

 

 護れなくてごめんなさい。胸に抱いたその祈り、届けられなくて、ごめんなさい。

 だから、……艦娘として、また、この地に生きる事を許された私は、今度こそ、その祈りを遂げます。

 護れなかった人のために、そして、その人たちが護ろうとした人のために、戦います。

 …………今度こそ、この魂にかけて、護ります。

 

 民安かれ、……その言葉を尊いと感じた。

 だから、護ろうと決めた。

 

 きっと、この夢が私の出発点。

 

「こんにちわ、吹雪。会えて嬉しいわ」

 苦笑。

「流石に、沈んだりしませんでいたか」

「ふふ、沈むなんて思ってた?

 貴女の知ってる先輩はそんなに柔かしら?」

「……いえ、話に聞いていた戦艦の姫ならここに来ると思っていました」

「そう」

 くすくすと笑う笑ういぶき。

 相対する吹雪は、一息。

「戦います、よね?」

「どうしようかしら? 《呪詛の御社》を破壊していいなら、通してくれる?」

「…………解りました」

 吹雪は頷く。確信する。

 どちらも、退く、という選択肢はない。

 いぶきは優しく微笑む。昔、吹雪が、先輩、と慕っていたあのときと変わらない笑顔。

 姿は変わってしまった。けど、それでも変わってない。…………吹雪は軽く頭を振る。

 それ以上を考えたら、…………「先輩」

 苦笑。

「そんな風に呼ばなくていいわよ。吹雪。

 辛いでしょう? 人の平穏を乱す、凶暴な深海棲艦、戦艦棲姫。それでいいわ」

 懐かしい声に、少し、困ったような表情。けど、吹雪は首を横に振る。

「先輩、私、……先輩の事、……ずっと、尊敬していました。…………たぶん、好きだった、と、思います」

「そう、ふふ、嬉しいわ」

「その頃の事を重ねると、……ほんとは、辛いです」

 吹雪は俯く。連装砲と機銃を下げた手は力なく重ねて下へ。

「本当は、辛いです。艦娘が深海棲艦と戦って、轟沈した。って、それを聞くたびに、悲しくなります。

 強くなろうとして、頑張って訓練して、……それで、周りにいてくれたみんなが離れて行くのも、寂しいです」

「そう」

 とつとつと語られる言葉に、いぶきは困ったように微笑む。

 最強と名高い艦娘。けど、「変わらないのね」

「そう、ですね。……たぶん、変わってないのだと思います。

 先輩の後ろをついて回ってた、駆逐艦の艦娘。弱虫な私のまま、だと思います」

 一度決めた事、大切な祈りを遂げるために、頑張り続けた少女。

 彼女の零した言葉に、いぶきは微笑む。

 弱虫だけど、一途で、一生懸命な女の子。誰よりも可愛い、大切な後輩。

「だから、」

 武装を持つ手に力がこもる。顔をあげる。いぶきに向けられる視線に力が宿る。

「ここで、先輩に勝って、終わらせます」

「そう」

 弱い自分との決別か、いぶきは苦笑。本当に、可愛い娘、と思う。

 強くあろうとしていたから、弱い事さえ、許せないかもしれない。「困ったわ」

「何がですか?」

「ううん。負けたくない理由が増えちゃった。さて、」

 一息、いぶきは腕を振るう。

 

 咆哮が響く。

 

 異形の艤装が展開される。戦艦の姫。その名に恥じない頑強で、強大な、深海棲艦の艤装。

 最強の深海棲艦。その名に違わぬ威圧を持つ。数多の艦娘にとって絶望の象徴。

 それを前に、吹雪は連装砲を構える。

「はじめましょうか」

 砲撃、そのうち二つを連装砲で弾き飛ばす。

 弾き飛ばせなかった砲弾は当たらない。そして、吹雪は駆け出す。

 元より、戦艦相手に遠距離から砲撃戦をするつもりはない。普通なら押し負ける。

 ただの深海棲艦相手なら砲撃戦の殴り合いでも負ける事はないが、相手は戦艦の姫。駆逐艦のやり方を果たすべきだろう。

 最高速度で突撃。「へえ」

 速い。もう一撃叩き込もうか、と思ったけど。

「これはどう?」

 艤装、主砲でもある口の下にある銃口。吐き出すのは銃弾。

「機銃ですか、器用ですね。先輩」

 ばら撒かれる弾雨に吹雪は突撃する。片手に下げた機銃を向ける。疾走しながら銃撃。自分に当たる銃弾だけを弾き飛ばしながら、いぶきの懐へ。

 迫る、装甲。

 艤装の装甲である腕が唸りをあげる。突撃する吹雪にカウンターとしての打撃が叩きこまれる。

 対して、吹雪は疾走の勢いを止めず、跳躍。とんっ、と。跳躍して装甲に着地、さらに跳躍を重ねて回避。

「ふふ」「行きます」

 大跳躍を果たした吹雪はいぶきを飛び越え、空から連装砲を向ける。応じるのは三連装の砲撃。

 放たれた砲弾が空で火花を散らす。砲撃の音、その直後に響く、砲弾同士が激突する音。そして、着水の音。

 いぶきの機銃が海面を銃撃する。銃撃して吹雪を追うが、捕らえられない。高速の起動で吹雪は銃撃を置き去りにし、「いっけぇっ!」

 砲撃。いぶきは装甲で砲弾を殴り飛ばす。そして、三連装の砲、そのうちの二つで海面を砲撃。装甲の打撃で視界がふさがれた一瞬、その隙に放たれた魚雷を誤爆させる。

 大爆発。盛大に跳ね上がる水柱。そこに向かって残った砲から砲弾を放つ。水柱から飛び出した吹雪は砲弾を蹴り飛ばす。

「え?」

 蹴り飛ばした吹雪は小さく声をあげる。眼前、いぶきの艤装、その口から零れる光。

 それが集まる。光が渦巻く。その意味。最悪の可能性を考え、魚雷を抜く。姿勢を制御する。その頃に放たれる、戦艦棲姫の主砲。

 艤装の口から放たれる、超火力の砲撃。吹雪といえど、直撃すれば轟沈は確定、けど。

「だめです」

 魚雷を投擲、軽く跳躍して魚雷を砲撃。

 その爆風に、吹雪は吹き飛ばされる。直後、主砲が海面を薙ぎ払う。水を蒸発させて消し飛ばす。戦艦級の深海棲艦でも、直撃を受ければ轟沈、では済まないだろう。おそらくは消し飛ぶ。

 広範囲を薙ぎ払う規格外の砲撃。吹雪は回避して着水。

「乱暴な回避ね」

「走るよりは速いです」

 砲撃しながら前へ、再度いぶきに駆けよる。

 迫る砲弾。それを見ていぶきは軽く移動して回避。ただの駆逐艦なら回避の必要はない。駆逐艦の砲撃ではその装甲に傷つける事は出来ない。むしろ、直撃してなお無傷であるその姿を見せ、不沈と言う絶望を与えた方がいい。

 けど、吹雪は違う。

 そもそも、駆逐艦の砲撃程度で自分の三連装砲を弾くなど不可能だ。砲弾で撃ち落とす技量はともかくとして、砲撃の威力が違う。戦艦の主砲でなんとか可能な芸当だ。

 そんな砲撃に好き好んで当たりたくはない。

 だから、

「ふふ」

 砲撃しながら突撃する吹雪に、いぶきは舞うように、踊るように砲撃を回避。

「戦艦なのに、よく回避しますね」

「ええ、駆逐艦なのに戦艦並の火力を持っている相手だもの。艦種の性能なんて、後回しにしましょう」

 相対するお互いが規格外。規格通りの戦いなど、望むべくもない。

 くすくすと笑って、いぶきは身を回す。手を吹雪に向ける。

 応じるように、艤装は三連装砲を向ける。砲撃。

 吹雪は速度を落とさないまま、腰を落として、わずかに姿勢を逸らす。擦り抜ける。

「へえ、よく回避できるのね」

「雪風ちゃんには負けますけどね」

 擦り抜ける。その先には戦艦の姫。吹雪はさらに加速。対して、

「なら、これは回避できる?」

 機銃の掃射。吹雪は機銃の銃撃で弾き飛ばす。そして、

「いい機会ね」

 いぶきが突撃する。高速の突撃。そして、艤装の腕が構えられる。

「打撃、ですか」「ええ」

 いぶきは腕を構える。艤装の腕も連動し、そして、振り抜かれる。

 剛腕による打撃。吹雪は海面を蹴る。わずかに斜めへ進路変更。右肩を剛腕の打撃が巻き起こす風が叩く。そして、

「懐、です」

 三連装砲は使えない。吹雪といぶきの間に妨害する物はなにもない。

 至近距離から砲撃。それを意識して、けど、

 

 咆哮が響く。

 

「つ、あぁっ?」

 突撃した吹雪は、艤装の咆哮に弾き飛ばされる。

「な。なんですか今のっ?」

「音響兵器。深海棲艦の艤装って便利でいいわよね」

「どんだけ器用なんですか」

 そんなもの、聞いた事がない。……確かに、道真から聞いた話によれば可能だろう。

 ただ、それは自己改造の領域。容易くできるとは思えない。

「あら? 私だって努力はしているわよ」

「そう、でしょうね」

 最強、と。その名は伊達ではない。

 数多の艦娘と戦ったはずだ。そして、そのすべてを撃破した。故の最強で、そこにはそれ相応の強化があっただろう。

 軽く頭を振る。咆哮による打撃。けど、その打撃力は大きくない。弾き飛ばすと言う意味が強い。

 けど、それは厄介である。懐に飛び込めば弾き飛ばされる。そして、この距離は、

「行くわよ」

 艤装の両肩に装備された三連装砲が咆哮をあげる。

 腰を落とす。その位置、厄介と判断。砲弾の数は六。正面から来る砲弾を全力で回避すれば一番外側の砲弾に当たる。

 ばら撒かれた砲弾は吹雪の移動速度を考慮して的確に撃ち込まれる。苦笑。すでに、そこまで読み取っているのですね、と。だから、

「やぁああっ!」

 正面から来る砲弾を蹴り飛ばす。けど、視線は逸らさない。いぶきの艤装が機銃を構える。掃射。

 吹雪は身体を振りまわすようにして、蹴り上げた足を着水。同時に機銃を持つ手を跳ね上げる。掃射。

 莫大量の銃弾が二人の間を交錯する。吹雪は銃撃し、いぶきの銃弾を弾き飛ばしながら移動。彼女の周囲を回るように駆け抜ける。

「撃ちあい?」

「それだけでは、ありませんけど、ねっ」

 吹雪は駆け抜ける。その先。「深海棲艦っ!」

 疾走し、跳躍。

 動きを止めた深海棲艦を蹴り飛ばす。いぶきの銃撃は深海棲艦に当たり、銃弾は届かなくなる。そして、

「撃ちますっ!」

 砲が火を噴く。機銃の掃射を受けてぼろぼろになった深海棲艦は海に沈み、その後ろから連装砲の砲撃。いぶきは艤装を操作。装甲である手で砲撃を受ける。

「さすが、ね」

 案の定、痛い。けど、

「同じ手が通用するとは、思わないでね」

 三連装砲の砲撃。同時に駆け出す。

「んっ」

 吹雪はそちらに視線を向ける。砲弾の数は三。けど、すでに移動を始めている吹雪はさらに速度をあげて回避。

「まだまだよ」

 声、前を走る吹雪と、追撃するいぶき。いぶきは海をかけながら砲撃で吹雪を追撃する。

 けど、

「んっ」

 回避する。右へ、左へ、駆逐艦の機動力と小柄な体が持つ利点を発揮し、直撃すれば大きな損傷は免れない砲弾の雨をかいくぐる。そして、

「撃ちっ」跳躍、軽く体を回すようにして「ますっ!」

 跳躍中に砲撃。そして、砲弾の先を見届けず着水。さらに疾走。

 背後、砲弾が撃ち落とされた音を聞く。だから、

「やっ」

 急停止、急旋回、足の艤装が悲鳴を上げる。が。無視、振り返り、魚雷を放つ。

 数は三つ、距離はあるが、気にする事はない。遠距離からの雷撃は慣れている。

 海流に流されながら的確に魚雷はいぶきに迫る。

 けど、

「あ、はっ」

 艤装の腕が稼働する。振り上げ、振り下ろす。

 打撃。剛腕が叩きつけられた海面が荒れ狂う。局所的に発生した津波が魚雷を押し流す。舌打ち。

「撃ちますっ!」

 当たらない。そう判断した吹雪は即座に魚雷に砲弾を叩き込む。爆発。盛大な水柱ができる。

 一瞬、いぶきの姿が隠れる。だから吹雪は駆け出す。右へ、急旋回していぶきの視界から外れる。そこで砲撃を叩き込む。……けど、

「きゃあっ?」

 読まれてた。駆け出した先にばら撒かれる機銃の銃弾。それが吹雪の身体を叩く。

「つ、うっ」

 足は止めない。下手に足を止めたら、今度は砲撃が叩き込まれる。

 機銃なら、なんとかやり過ごせる。けど、砲撃を受けたら危ない。

 片手の機銃を構える。視線の先、銃弾をばら撒くいぶきと視線が合う。

 先輩、……と。小さく声。

 走りながら、海上を疾走しながら機銃の銃弾を銃撃して弾き飛ばす。さらに、加速。

「抜け、たっ」

 機銃の掃射範囲から飛び出す。苦笑。

「よく耐えたわね。

 けど、残念ね」

 砲撃の音。

 三連装砲、その砲撃に対して吹雪は連装砲で砲撃。砲弾二つ叩き落として、

「つっ」

 砲弾の一つが吹雪に直撃。

「まだ、まだですっ!」

 まだ、と。応じる吹雪に強がる様子はない。

「戦艦の副砲直撃しても小破届かないって」

 いぶきは苦笑。随分と鍛えたのでしょうね、と。

 元々訓練を苦にする性格ではなかった。それに、

「気遣いも、それはちょっと嬉しくないわね」

 自分の犠牲を無駄にしたくない。もしそんな想いがあるとしたら、それは止めて欲しい。……とはいえ、その意味もあるでしょうけど、と、そう思える程度には彼女の事を知っている。

「なんにせよ」

 副砲の直撃を受けて、それでも真っ直ぐに迫る吹雪に、再度三連装砲を向けて、

「負けたくはないわね」

 砲撃した。真正面からの砲撃。吹雪は擦り抜けるように回避。見越している。もう方舷の三連装砲はすでに砲撃準備で来ている。

 回避直後、そこに向かって砲撃。直撃コースだが。

「あら?」

 吹雪は、姿勢を低くしてやり過ごした。転倒しかねない挙動。けど、吹雪は突撃の速度を落とすことなく、回避。戦艦の姫に肉薄する。

 主砲が口を開ける。咆哮の打撃で吹き飛ばそうか、と思ったところで、

「え?」

 爆発。

「魚雷? って」

 爆発に気を取られた刹那、すでに吹雪は眼前に、

「やぁぁああああっ!」

 向けられるのは連装砲。至近距離から、砲撃。

「つっ」

 吹き飛ばされる。着水。

「魚雷での暗殺なんて、やるわね」

「着水してしまえば解りにくいですから」

 おそらく、姿勢を低くしたその瞬間。魚雷を放ったのだろう。水中を進む魚雷は確かに暗殺には向いている。

 砲撃回避しながらそこまで手を打っていたのなら、本当に実戦慣れしている。

「ああ、痛いわ」

 魚雷の直撃と至近距離からの砲撃。流石にいぶきも堪える。

 けど、

「ほんと、強くなったわね。吹雪。

 昔の私じゃあ、もう敵わないわ」

 ずっとずっと昔。艦娘として、先輩、と慕われていたころ。

「今、はどうですか?」

 吹雪の問いに、苦笑。

「敵わない。……が、許される状況じゃないわ」

 確実に勝ちを拾えるとは思えない。けど、負けるつもりは、ない。

「そうですね」

 それは、吹雪も同じ。

 負けない、と。

 負けたら、全部だめになる。魂に刻まれた祈りも、胸に宿る誓いも、尊敬していた、大好きだった先輩の犠牲も。

 そして、名も知れぬ誰かの命も、……そう、だから、

 

 護ると、誓った。

 

 そのためにも、

「負けません」

 吹雪は腰を落とす。艤装に火を入れる。その意思に、火を灯す。

 

 駆け出す。疾走は真っ直ぐに、全方向への回避を意識し、重心は左右に、必要なら砲弾を蹴り飛ばせるように、視線は逸らさない。

 どうしますか? と思ったところでいぶきは微笑。艤装の両腕が持ちあげられる。そして、

 爆音。水面を打撃したとは思えない音が響き、その衝撃が津波を呼ぶ。

 大波が迫る。いぶきの姿を覆い隠す。けど、一瞬、見えた。

 構えるのは三連装砲。津波に飲まれるか、砲撃で砕くかしたら、その瞬間に三連装砲が咆哮をあげる。砲弾が自分を撃ち抜くだろう。

 だから、

「んっ」

 わずかに、横を向く。前へ、津波を駆け上る。このまま波に乗り駆け上がったら、津波越しに撃ち抜かれる。

 だから、吹雪はさらに跳躍。直後に砲弾が波を貫く。跳躍した吹雪は波を飛び越える。視線の先、吹雪に三連装砲を向けるいぶきがいる。

 三連装砲の砲撃。空を舞う吹雪に回避する事は出来ない。する必要は、ない。

「や、あっ!」

 足を振り上げる。振り下ろす。砲弾を足場に、さらに跳躍。向けるのは機銃。

 銃撃、文字通り、弾雨を降らせる。

「つっ」

 空からの機銃掃射。それに全身を撃たれていぶきは眉根を寄せる。

 砲撃? 否、また足場にされるだけ、なら、

「痛いわね」

 艤装が上を向く。吹雪は落下しながら次の行動を予想。主砲の砲撃? なら、着水の方が速い。魚雷の爆風を使わなくても回避可能。そして、おそらくはいぶきも解ってる。

 だから、

 艤装が咆哮をあげる。打撃力さえ持つ振動が銃弾を破砕。そして、艤装の腕さえ使った高速の離脱。

 銃撃範囲から逃れる。吹雪は着水。即座に連装砲を向ける。視線の先には三連装砲を向けるいぶき。

 砲撃の音が重なった。爆砕の音。砲弾を弾き飛ばす。いぶきは前に疾走。

 距離を詰める。そして、吹雪も望むところ、と前へ。

 艤装の腕を拳へ。……否、手を広げる。振りかぶる。砲口を向けるには近すぎる。故の打撃。

 迫る掌に、吹雪は急停止。そして、跳躍。

 掌に、足を当てて、

「ふっ」

 吹き飛んだ。衝撃のすべてを使っての大跳躍。「距離を取った?」

 いぶきは眉根を寄せる。けど、

「ああ、深海棲艦ね」

 吹雪が吹き飛んだ先、動きを停止した深海棲艦達がいる。なるほど、小柄な吹雪ならあそこに紛れ込める。

「なんて言うのかしらね、ああいうの。

 ゲリラ戦? ……まあ、いいわ」

 走り出した。

 

 動きを止めて棒立ち状態の深海棲艦。妖精さんを通じて深海棲艦にかけた制御は一つ。

 動くな、と。

 元より深海棲艦程度で戦艦の姫を打倒できるとは思っていない。余計な事をされるくらいなら障害物になってくれた方がましだ。

 もっとも、それでもどの程度意味があるかわからない。機銃で薙ぎ払われるのがオチ。けど、

 魚雷を意識する。隠れられるのなら、それで十分。隠れながら、魚雷を使っての長距離からの雷撃で仕留める。

 ほう、と一息。

「戦うのって、難しいです。

 先輩」

 最強、などと言われても自分はただの艦娘。深海棲艦のような不思議な攻撃は出来ない。

 砲撃し、銃撃し、雷撃するのが手一杯。けど、それでも、可能な手段で勝利を手繰り寄せる。

 一つ一つ、丁寧に、……そう。

 不器用な自分では、これが精一杯。勝利に向けての手順を、一つ一つ確実にこなしていく。

 先輩に教えてもらった頃。がむしゃらにやって失敗してばかりだった自分に、焦る事はないと、出来る事を一つずつやって行けばいい。と、教えてくれた。

 大切な過去を思うと、胸が温かくなる。…………けど、

「難しい、です」

 敵対している理由は解る。いぶきの言う事も、多分、解る。

 先輩は、優しいから。

 だから、

 

 戦うと、決めた。

 

 自分たちが犠牲になる事はない。人々の平穏のために戦う必要はない。

 戦い続けなければいけないのなら、その原因を壊す、と。

 その相手、相対する彼女。誓いを踏み砕き、決意を叩き壊そうとする敵。

 いぶき、彼女は棒立ちの深海棲艦を蹴散らす。銃撃する必要はない、艤装の腕を振りまわすだけで、殴り倒して押し退ける。

 まだ、捕捉はされていない。だから、魚雷を撃とうとして、…………眼前に飛んできた深海棲艦に目を見開いた。

 殴り、投げ飛ばしたらしい。

 銃撃しながら機銃を振り抜く。撃ち抜かれた深海棲艦が両断される。

 分断されてずれた身体の向こう、三連装砲を構えるいぶきがいる。吹雪は両断された深海棲艦を蹴り飛ばす。砲撃。

 砲弾は深海棲艦に叩き込まれ、その向こうから迫る吹雪はわずかに進路を変える程度で回避。

「その程度で隠れられると思ってた?

 生憎、探索は苦手じゃないのよ?」

 いぶきはくすくすと笑う。当然の事、今まで、迫る数多の艦娘を撃ち砕いてきた。奇襲や暗殺など見飽きている。

 そして、もちろん、岩礁が立ち並ぶ場所での戦いも、同じ。

 両腕を振りまわす。近くに佇む深海棲艦を掴み、投擲。連続で投げつける。

「ふっ」

 対する吹雪は機銃による斬撃で深海棲艦を排除しながらいぶきを見据える。油断した。と思う。

 たくさんの経験を積んできた。莫大な戦果をあげてきた。

 それは、相対する彼女も同じ事。最強と名高い深海棲艦を狩り、名をあげようとした提督がどれだけいたか。

 そして、その提督が派遣した艦娘がどれほどいたか。そのすべてを彼女は沈めてきたのだ。

 本当に、

「強いですね、先輩」

 飛んできた駆逐艦級の深海棲艦を蹴飛ばし、巡洋艦級の深海棲艦を撃ち落として呟く。苦笑。

「貴女も、見違えたわ。

 ねえ、どうしてそんなに強くなったの?」

「必要、だから、ですっ!」

 さらに飛んできた戦艦級の深海棲艦を両断し、その向こう。

 三連装砲が火を噴く。連装砲を跳ね上げる。砲撃、砲弾を迎撃して、肉薄。

 声は、血を吐くように響く。

「強くなろうって決めましたっ!

 艦娘としてっ! 民の平穏を護るためにっ! それが、私達のなすべき事だからっ!」

「…………それが、罪滅ぼしだから?」

 ぽつり、聞こえた声。

 沈黙。いぶきにはそれで十分らしい。彼女は、笑みを消す。

「ふざけないでっ! 私はっ! 貴女に戦場に出て欲しかったわけじゃないっ!

 強くなる事なんて願ってないっ!」

 ただ、生き残って欲しかった。ただ、……平穏に、暮らして欲しかった。

 大切な後輩として、艦娘の先達として、せめて、彼女が死ぬ事のないように、道をつけたかった。

 だから、……三連装砲を向ける。

「貴女の決意、踏み砕くわ。

 戦う必要をなくして、失意の底に沈みなさい」

 

 もう、大切な貴女が辛い思いをしませんように、

 

「……確かに、その意味がない、とは言いません」

 艦娘の献体として、様々な実験に付き合い、ぼろぼろになった艦娘。

 入渠施設も、工廠も、すべて、その成果の上で成り立っている。……彼女の犠牲を前提として、現状がある。

 だから、それは護らなければいけない。それが、彼女を殺した自分の、義務だから。

 それを罪滅ぼしと言うのなら、確かに、罪滅ぼしだろう。けど、

 例え、それをいぶきが望まなかったとしても、

「忘れては、いけないんですっ!」

 祈りを魂に宿し、過去を胸に抱き、

 …………忘れてはいけない事を、自分に刻み、

 吹雪は走る。放たれる三連装砲二つ、計六の砲弾。

 魚雷を抜く、投擲。六の砲弾の中央へ。機銃を振り抜く。斬撃は砲弾を銃撃し、魚雷を撃ち抜いて爆発。

 砲弾を吹き飛ばす。爆風の向こうから吹雪は連装砲で砲撃。いぶきは艤装の腕を操り砲弾を防御。

 視線が交わされる。負けない、と、その意思を交わす。

 

 光。

 

「ふっ!」

 その意味を察し、吹雪は急旋回。最速で駆け抜ける。

 直後に放たれる主砲の一撃。海面を蒸発と言う形で抉り、吹雪に迫る。

 回避成功、振り向き様魚雷を放つ。理不尽な破壊力に削れて海が荒れるが、その砲撃は一度見た。だから、この距離からでも当てられる。

 荒れる海の下を突き進み、波に軌道を乱され、その結果としていぶきに食らいつく魚雷。が、想定通り。

 三連装、その一撃で魚雷を誤爆。大爆発はさらに海を揺らし、いぶきと吹雪は荒れた海を駆け抜ける。

 打撃、先手はいぶき、艤装の巨腕、右腕が吹雪に迫る。跳躍して回避。その先に迫る左腕。

 さらに回避を見越して三連装砲を向ける。逃げた先に砲撃を叩き込む。

 けど、吹雪はそれを選択しない。足を前に、迫る拳を足の裏で受ける。その衝撃を膝で吸収し、跳ね上げる。

 大跳躍。距離が離れる。直前、連装砲の砲撃。

「つっ?」

 至近距離からの砲撃に、巨腕が抉れる。指、と言える部分が二本、千切れ吹き飛ぶ。

 着水、吹雪は動きを止める事なく機銃を構える。

 視線の先。艤装の機銃を展開させるいぶきがいる。ばら撒かれる銃弾。その密度は、さらに高い。

 足止め。その意図を察し、吹雪は前へ。そう、勝つためなら、足を止めるつもりはない。

 そんな事、己に許さない。

 横殴りの弾雨を銃撃して弾き飛ばし、擦り抜け回避。高密度の機銃掃射を高速で擦り抜ける。

 加速、加速、さらに加速。銃弾を銃撃して弾き、道を切り開いて速度を落とさず回避。

「抜け、たっ!」

 機銃掃射を駆け抜ける。構えるのは連装砲。……そして、目を見開いた。

 眼前にはいぶき、想定していたより、ずっと、近くにいる。

「驚いた?

 掃射しながら少しずつ前に出たのよ」

 弾雨に気を取られて接近を許した。その現実に吹雪は歯噛み、連装砲の引き金を引く、が。

 弾き飛ばされた。咆哮による打撃に吹き飛ばされる。そして、それだけでは済まない。

 姿勢の制御ができていない、不意を突かれた打撃に、両手は外に弾かれ、砲撃。

「つ、あぁっ?」

 二発、砲弾が撃ち込まれる。

 着水、その表情は苦痛に歪む。負けを認めてくれるかしら? と、いぶきは期待し、苦笑。

 目を見ればわかる。まだ、彼女にそのつもりはない。

「まだ、戦うの?」

「もちろんです」

 答えるとともに連装砲を向ける。砲撃。

「ふぅん」

 防御、それに両腕を使う。片腕は指が弾き飛ばされている。だから両手を使う。その隙、

 吹雪は疾駆。両腕を使った防御により、一瞬、視界がふさがれる。

 その場所は解る。今まで、戦い見てきたのだから。

 身体を屈めて疾走。いぶきの視界からその姿を消す。けど、

「そこよね」

 その程度でどうこう出来る相手ではない。視界から消えた時点で死角に入った事は想定内。そちらに向けて砲撃。

 三連装の砲撃。けど、

 ぎぎぎぎぎ、と音。いぶきは眉根を寄せそちらに視線を向ける。

 砲弾は、銃撃によって逸らされる。毎秒千を超える銃弾が、砲弾のまったく同じ場所に着弾。銃撃が重なりわずかに砲弾が逸れる。

 その、極僅かな隙間に吹雪は身体を滑り込ませる。紙一重。砲弾の風圧が身体を叩く、が。

「ふっ」

 無視、擦り抜けたと同時に連装砲で砲撃。いぶきはもう方弦の三連装砲で砲弾を叩き落とす。そして、吹雪は機銃を向ける。

「いき、ますっ」

 再度の、一点集中の精密銃撃。

 槍のような銃撃が艤装の中央を貫く。機銃の銃口が貫かれて弾け飛ぶ。重なる銃撃にいぶきは眉根を寄せ、吹雪は機銃を一閃、斬撃のような銃弾がいぶきの顔を狙う。

「つっ?」

 俯くように回避。吹雪は機銃を手放す。ベルトが肩にかかる。魚雷を抜く。

 そして、連装砲の砲撃。

「このっ」

 砲撃に、いぶきは傷ついた装甲の腕を振るう。砲弾が装甲を穿ち、腕が千切れる。

「つっ」

 そして、吹雪は懐に飛び込む。魚雷を投擲し、そして、放つ。……そして、爆発した。

 一つは残った装甲の腕を三連装砲ごと吹き飛ばし、もう一つはいぶきの足元で爆発。至近距離からの、二発の魚雷爆発。直撃したいぶきはもちろんの事、直近で爆風を浴びた吹雪もダメージに眉根を寄せる。

 吹き飛ばされそうになるのを、最大出力でこらえる。連装砲を手に取る。

 艤装が砕かれ、いぶきは主砲を向ける。咆哮の打撃で吹き飛ばしたとしても、すでに戦う事は出来ない。ゆえに、確実に当てられる至近距離からの一撃を狙う。

 光、集める。けど、吹雪が連装砲を向ける方が、速い。

 

「終わり、」

 

 それは、いつかと同じ。

 かつて、砲を向けた過去が脳裏をかすめた。

 

「…………あ」

 砲撃し、止めを刺す最適の瞬間、躊躇。

 眼前には、光。主砲が彼女に向けられる。吹雪は条件反射で引き金を、――――

 

「ほんと、困ったわねえ」

 

 ――――引いた。

 

「……どうして、ですか?」

 俯き、小さく震える彼女。その前には、全壊一歩手前の艤装を持つ彼女がいる。

 いぶきは、深く一息。

「まあ、大丈夫かと思ってたのだけどねえ。……はあ、やっぱり、無理だわ」

 いぶきは大仰に肩を落とす。そう、結局、主砲は撃てなかった。

「どう、して?」

「まあ、結局、……そういうことね」

 俯く彼女。苦笑して頭を撫でる。

 装甲である両腕は吹き飛んだ。機銃は穿たれ破砕されている。主砲も、連装砲の直撃を受けて半壊。彼女自身、魚雷の直撃などで大破している。

 茫然と、撫でられるままの吹雪に、いぶきは苦笑。軽く手を広げる。

「それじゃあ、私は《呪詛の御社》を破壊しに行くわ。

 吹雪」

 止めるなら、撃ちなさい。と、いぶきは微笑む。吹雪は、彼女に連装砲を向ける。

 その砲身は、かたかたと、震えていた。

 

 いつかと同じ、あのときは、砲撃をして、そして、…………

 …………そして、私、は?

 

「どう、……して」

 つと、涙が零れる。

「どうして、……です、か。

 護らないといけない人を、護りたくて、だから、……戦おうとして、…………それで、大切な、人を、喪って、……なんで、…………なんで、ですか」

 なんで、こんな選択をしないといけないのですか? 吹雪は、涙を零しながら、小さく呟いた。

 

 彼女は間違えているよ。

 いぶきは、言仁の言葉を思い出す。

 民安かれ、その祈りを叶えるために戦い続けた少女。……けど、彼女は間違えている。

 勘違いをしている。

 

「どうしてか、……吹雪。

 貴女は間違えているの、だから、そんなに辛い思いをしているのよ」

「何が、ですか?」

 何が間違えているのか? 尊治に言われた。言仁に言われた。考えた。考えても、解らなかった。

 いぶきは微笑み、彼女の目から零れた涙を拭う。

 いつかできなかった事。それを果たしていぶきは微笑む。拭っても、また、涙が零れおちる。けど、これで終わり。

 いつかできなかった些細な事。けど、死んでも死に切れなかった大切な事。それを果たす。それ以上は、……残念だけど、まあ、彼女の友達に任せればいい。

 いぶきは、深海棲艦。艦娘とは違うのだから。だから、過去、艦娘だったころ、やり残した事だけを果たせば、それでいい。

「さてっ、私が戦う目的は果たしたし、それじゃあね。吹雪」

 そして、微笑む。ずっと、ずっとずっと昔、憧れた。大好きな微笑。

 彼女に、優しく、祈りの言葉を告げる。

 

「これからは、・・・・・・・ね」

 

 茫然と、佇む吹雪を背にいぶきは《呪詛の御社》に向かって進む。……それにしても、

「ああもう、ほんと、痛いわ」

 艦娘で言うなら大破。轟沈一歩手前。

 苦笑、自分の見立てでは吹雪は中破程度。そう、戦い続ければ、間違いなく負けたのは自分。

 自分を超えた強さ。可愛い後輩がそこまで強くなった事、先輩としては嬉しい。

 あるいは、……そこまで戦い続けた事が、少しさびしい、かもしれない。

 溜息。

「ほんと、邪魔ねえ」

 眼前に立ちふさがる深海棲艦。いぶきはうんざりとした表情で残った三連装砲を向ける。……爆発。

「結構きつそうね。

 最強の勇名も、吹雪には勝てなかったの?」

「曙?」

 振り返れば曙が苦笑。彼女だけではない、妙高たちや扶桑、山城、そして、利根や筑摩たちの艦隊もいる。

 警戒する彼女達を手で制し、曙はひらひらと手を振って、

「どうする? 《呪詛の御社》まで曳航する?」

「…………そうね、お願い。

 代わりに、あれは私が撃ち抜くわ」

「どうやって?」

 いぶきの言葉に曙は胡散臭そうに問いかける。

 視線の先には全壊一歩手前の艤装。

「まあ、主砲は、多分撃てるし」

「撃った瞬間に自壊しそうだけどね。

 ま、なんでもいいわ。こっちもそれならそれで好都合だし。……はあ、それにしても深海棲艦を曳航か」

「悪かったわね」

 溜息をつく曙に憮然といぶきが応じる。曙は無視して「扶桑、山城、手伝って、このでかぶつ運ぶの」

「…………言うわね」

 でかぶつ呼ばわりされて面白くなさそうにいぶきが曙を睨む。曙は手を振ってやり過ごす。

 陣形変更。妙高が前に、そして、左右に那智と足柄が展開。羽黒は殿で清海に状況連絡。

 そのまま深海棲艦を切り崩し、……そして、至った。

 

 人々の平穏を約束する《呪詛の御社》。

 

「さて、……と。

 それじゃあ、私が一発叩き込むわ。多分それで打ち切り、あとは頼むわよ」

 いぶきは視線を向ける。曙達は頷く。吾妻島を覆う五色の輝き。最大出力で砲撃し、…………苦笑。おそらく、それで自分は終わり。

 最大出力に艤装が耐えられるとは思えない。

 けどまあ、いいか。

「…………あんたさ。

 なんでそんなになってまで戦うの?」

 

 どうして、死ぬ覚悟を持って戦うのか?

 主砲に、光、集まる。

 曙の問いに、いぶきは笑う。深海棲艦、戦艦の姫らしい笑みを浮かべて、応じる。

 

「私、人間って大っ嫌いだからよ」

 

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