深海の都の話   作:林屋まつり

15 / 128
七話

 

//.大鳳

 

「……まあ、気遣いなのでしょうから、特に文句は言わないけど」

 覗き見をしていたほうに視線を向ける。さて、

「なんて言えばいい? 夕立、でいいかしら?」

 いつかと同じ、紅の瞳をした彼女に問いかける。彼女は首を横に振る。

「悪夢」

 応じて、ソファに座った。

「夕立の、あたしの事、気付いてるわね?」

「貴女をたたきのめせばいいんじゃないのかなー、って程度には」

「そうよね。それが正解。

 誰も、夕立の悪夢を止めてくれなかったから」

「特別任務、なんて言われて艦娘を殺して回った、ね」

 悪夢は頷く。とつとつと呟く。

「最初、任務に疑問はなかった。あたしだって軍属だもの。

 軍規に違反したら相応の処罰は必要、って解ってるわ」

「そうでしょうね」

「艦娘には感情はある。

 軍規に違反する艦娘がいても、残念だとは思うけど、仕方ないって思っていたわ。そういう事もある、って。

 そして、あたしは、そんな艦娘を殺した」

 最初は疑問なんてなかった。残念で悲しいけど、仕方ない事だって思ってた。

 

 どうして? と、問われた。

 ――――意味がわからないっぽい、だって、悪い事をしたのは貴女でしょ?

 

「誰だったか、……潮、だった、と思うわ。

 彼女、見つからなかったからいろいろと探していたけど、その途中で、話聞いたりして、解ったの。真面目で優しい娘だった。なんで殺さないといけないのかわからなかった。

 見つからなかった理由も、不安を感じていた彼女と、彼女の僚艦が隠してたからだったんだけど」

 けど、任務だから見つけて殺した。……けど、それがだめだった。

 なんで殺したのかわからなかったから、改めて、その理由を調べてみた。調べる必要なんてほとんどなかった。曖昧な言い方だけど、特別任務依頼書にはその理由が明記されていたから。

 

 どうして?

 

「彼女も、前に殺した彼女も、あたしの殺したどの娘もっ、殺されなくちゃいけない理由なんてなかったっ!

 ただ、提督が気に入らないからっ、ただその程度の理由だったっ!

 そんなことにも気付かずっ、あたしはっ、艦娘を殺してたっ!」

 その泣き声は夕立か、彼女のみた悪夢か。

 …………なるほど、

「もう、止れないのね」

 だから、悪夢が生まれた。深海棲艦となった事で悪夢と夕立は切り離された。切り離されたのは、艦娘を殺して回る。艦娘としての夕立。

 そんな機能を持つ悪夢。ただ、それだけしかできない彼女。

 自己否定は、深海棲艦となったことで形を作った。いつか、悪夢を止めてくれる事だけを祈って、

 だから、お願いします。

 

「もう止まる事さえできない。この悪夢を、終わらせてください」

 

 紅色の瞳をした少女の、血を吐くような言葉に、私は頷く。

「ええ、私が勝って、その悪夢を終わらせてあげるわ」

 

 中央の広場で、私と悪夢は向かい合う。

 いつもはひまな娘がいるけど、今は誰もいない。そして、周囲には金色。

 黄金に包まれて、中央の大樹も、そして、鎮守府も見えなくなる。

 辺りには誰もいない、なにもない、金色の空間の中、私と悪夢が向かい合う。

 紅色をした瞳の夕立。艦娘を殺して回った駆逐艦の少女。……弱い少女が切り離した、悪夢のような現実の形。

「さあ、――――」

 零れる言葉は私の口から、

「――――悪夢を、――――」

 彼女は何も言わない。終わりを祈り、望んで、砲を向ける。

「――――終わらせましょうっ!」

 

//.大鳳

 

 こんな、夢を見た。

 

 眼前に展開するのは雲霞のような微細な艦載機。

 深海棲艦の大鳳が持つ深海棲艦の形。

 艦載機が集まる、足元には推進機付きのボード。それに乗り飛び出した。けど、

 応じる夕立は一切動じることなく連装砲を向ける。砲撃。

 大鳳はボードを傾けて回避、同時に鎖につながった錨を振り抜く。まっすぐに飛来する錨を精密に砲撃。けど、錨は砲弾を回避するように動く。

 食らいつく、夕立は一歩逸れて回避、直後、視線を向けもしないで鎖に砲弾を叩きこむ。切断して弾き飛ばす。

「後ろ、っぽいっ!」

 腰を落とす。頭上を主砲から放たれた砲弾が通過。ボードに乗って飛翔する大鳳はさらに主砲を構える。けど、「遅いっ!」

 腰を落として、すぐに跳躍。大鳳から離れるように後ろに跳びながら夕立は指の間に挟んだ魚雷を投擲。

 追撃する大鳳の眼前に迫る六の魚雷。

「はっ」

 ボードを蹴って跳躍。速度を重視した魚雷はとっさの回避に対応できず大鳳の足の下を通過。

「食らいなさいっ!」

 大鳳は地面に着地、ボードは加速して夕立に迫る。けど、「食らわないっ!」

 後ろに倒れる。足を跳ね上げる。ボードを蹴りあげる、腹を見せたボードを連装砲で撃ち抜く。そして、視界を妨げられた向こうから迫る、大鳳の主砲砲撃。

「んっ」

 夕立は横に大きく跳ぶ。視界がふさがれた向こうから砲撃されるのは想定範囲内。だから、大きく横に跳んで砲撃想定範囲の外に飛び出す。

 ボードが砲撃により粉砕。

 たんっ、と。

「逃がさないっ!」

 大鳳は疾走しながら四つの副砲を順次砲撃。砲を放ちながら円を描くように走る。対するのは、爆発。

「その程度じゃ、だめ」

 夕立も同様、疾走しながら体を振りまわすようにして指挟んだ魚雷を投擲。

 魚雷は副砲の砲撃を爆砕し、粉砕し、爆破させて大鳳を追う。砲撃は魚雷に砕かれながらも夕立に迫る。

「まだっ」

 疾走に緩急を追加。方向転換、急制動、急加速、悲鳴を食い潰して運動の限界を重ねる。

 そして、大鳳は足を止めて艦載機をより合わせた杭を投擲。魚雷を貫き突き刺し、爆破。その衝撃に吹き飛ばされて、けど、

「爆撃、開始っ」

 吹き飛ばされて、吹き飛ばされながら艦載機を解放。上空に展開同時に爆撃。百の艦載機が夕立の直上から爆弾を落とす。

「はっ」

 紅の瞳を細めて回避行動。身を捻る。半歩進む、最低限の動作で爆撃を回避。そして、「落ちてっ」

 上に向かって弧を描く腕、投擲したのは三つの魚雷。

 爆破。

 三つの魚雷が続けて爆破し艦載機を破壊。頭上の大爆発を無視して連装砲を構える。砲撃。

 連装砲の砲弾、それと交差する形で大鳳の主砲から放たれた砲弾が夕立に向かう。

「っとっ」「んっ」

 大鳳は連装砲の砲弾を下に、夕立は主砲の砲弾を右に、回避して、

「行くっ」

 たんっ、と夕立は大鳳に向かって疾走。大鳳は艦載機を上に飛ばして副砲を構える。

 砲撃、夕立は右に、左に、回避しながら連装砲から砲撃。

「はっ」

 連装砲の砲弾を副砲で迎撃。そして、主砲が火を噴く。夕立は左手を振るう。手にしていた魚雷を投擲、主砲の砲弾を迎撃して爆発。

「へえ」

 大鳳は後ろに跳ぶ。空を舞う艦載機が下に爆撃を開始、さらなる爆発を巻き起こす。

「追撃に魚雷か、えげつないわね」

 爆発の粉塵を鎖を使って薙ぎ払う。正面を睨む。そこに、夕立はいない。

 だから大鳳は鎖を伸長。広範囲を薙ぎ払うが、いない。なら。

「つっ!」

 眼下に迫る紅。大鳳を睨む連装砲。鎖を振るった腕は引き戻せず、大鳳の砲はすべて射程外。

 終わるつもりは、ない。

 向けられる連装砲を蹴りあげる。逸れた砲弾が眼前を通過。

 連装砲を蹴りあげられた夕立が目を見開く。けど、大鳳は姿勢を崩して腰を落とす。艤装をはずす。鎖を放り投げる。

 夕立は後ろに跳びながら腰を落とした大鳳に連装砲を向ける。けど、「逃がさないわよっ」

 腰を落として、はずした艤装を蹴って前へ飛び出す。後ろ手に艤装から一部、取り出す。

「貴女ほどじゃないけど、トラウマなんだからあんまり使わせないで欲しいんだけどねっ」

 取り外したのを思い切り投げつける。夕立は構えた連装砲でそれを撃ち抜く。

 

 大爆発。

 

 ――――そんな、夢を見た。

 夢の中、意識が刈り取られる直前、赤い瞳の夕立は満足そうに笑っていた。

 

//.大鳳

 

「助力、感謝する、わ」

 目の前には眼前の大爆発で吹き飛ばされて気絶した夕立。もちろん、大爆発で吹き飛ばされたのは私も同じ、立ち上がる気力のないのでそのまま倒れこんで告げた。

 周囲の金色が晴れる。そして、

「大鳳」

 真っ先に駆け寄ってきた声。その事に笑みを浮かべる。

「ふふ、……勝ちました。提督」

 手を伸ばす。その手が掴まれる。強く、握りしめられる。

「うん、よかった」

 言葉少なく、ってっ

「て、提督っ、なんで泣いてるんですかっ?」

「え? ……と、あれ?」

 ぽろぽろと、涙をこぼす提督。

 自覚ないのか、不思議そうに自分の眼もとに指をあてる。

「安心したんだろうね。

 大鳳、見えなかったと思うけど、大鳳と夕立が開戦してからすっごく心配そうにしていたよ。……うん、夕立も無事そうだね」

 倒れる夕立のところにいたらしい響が告げる。

 そっか、心配、かけちゃったんだ。

 申し訳ない、と思うけど、提督は丁寧に私を撫でてくれた。

「ごめんね。大鳳の事、信じてるつもりだったんだけど、……やっぱり、喪うんじゃないかって思って怖かった。

 大切な人を信頼しきれないなんて、僕も、やっぱりまだまだだね」

「そんな事は、ありませんよ。提督」

「大切な人が戦うなら心配するのは当たり前だ。

 心配もせずにいたらその娘が虚しいだろうな。……そういう事だ。大鳳、心配をかけた事はお前の実力不足ではない。気にする事ではない」

「あ、はい」

 苦笑気味に告げられる守屋の言葉に、私は頷く。

「それにしても、《稲城》がここまで砕かれたか。

 準備を怠ったつもりはなかったが、少し甘く見すぎていたな」

「えと、準備、ありがとうございました」

 改めてあたりを見るけど、中庭に欠損らしいものはない。誰もいない事を除けば見慣れた、いつも通りの中庭。

 たぶん、守屋の言っていた準備、ってやつね。

「構わない。その実力が見れただけでも十分だ。

 いや、見事な戦いだった。……そうだな、まだ私が生きていたころに欲しかったな。大鳳のような優秀な娘がいれば、蘇我の連中に負ける事も、赤檮に殺される事もなかっただろうな」

 上機嫌な言葉。けど、

「む、……絶対に、渡さないよ。

 大鳳は僕のだ。いくら守屋の頼みでも絶対に手放すつもりはないよ」

 …………ふわあ。

「……今回の功労者だからね。そうだよ。だから、だめだ。手を上げちゃだめだ」

 視界のすみーっこの方でこちらに視線を向けないようにしながらぶつぶつ呟く響。けど、そんな事はどうでもいいわね。

 くつくつと、笑う音。

「安心しろ、子供から家族を奪うほど落ちぶれたつもりはない」

「僕はもう子供っていうわけじゃないんだけどね」

「生意気を言うな子供。

 私たちから見れば十分に子供だ。せいぜい背伸びして家族に面倒を見てもらえ」

 子供扱いに面白くなさそうな提督。ふと、

「とすると、私も子供、なんですか。守屋から見れば」

「子供というよりは、この都にいる者は皆、赤子だな。

 だから、立ち上がろうと思ったら呼べばいい。手くらいは貸してやる。もっとも、立ち上がろうとして転んで泣いても慰めるつもりはない。せいぜいそこの子供に甘やかされればいい」

 赤子、……ですか。

「……顕仁も子供?」

「捻くれたな。

 大人を名乗りたければせいぜい道真くらいになれ、そうしたら子供ではなく未熟者と言ってやる」

 くつくつと笑う守屋。あの、おじさんさえ子供扱い。……つくづく、魔縁っていろいろ突き抜けているわ。

 子供扱いされて面白くなさそうな提督を横目に、守屋は楽しそうに笑って「そうだな。しばらくこの都を見て回るか。響、夕立は?」

「大丈夫、怪我してるけど、大きなものじゃない。

 少しすれば目も覚めると思うよ」

「そうか、なら、体調が戻ったら酒の一つでも奢ってやろう。

 面白いものを見せてくれた礼だ」

「酒、……確か、鳳翔さんのところにありましたね」

「いや、私が持ってくる。

 松尾大社は、……好かんな。大神神社か、あそこならいくらでも神酒を用意できる」

「いくらでも用意できるなら呼べるだけ呼んで宴会でもやれば?」

「それもいいかもしれないな。

 予定を調整しておけ、……とすると大神神社だけでは足りないか、……石神神宮は、……最近はあるか。

 あとは、出雲大社と香取神宮、鹿島神宮に用意させれば足りるな。熱田神宮と諏訪大社にも一応、声をかけておくか。……道真に声をかけて、天満宮からかき集めるのも面白いかもしれないな」

「…………神酒で池でも作るつもりなの? 守屋」

「酒池など下賤だ。ではな、楽しかった。

 夕立にもよろしく言っておいてくれ」

 そう言って歩き出す守屋と、そちらを少し面白くなさそうに見送る提督。ふと、

「提督?」

 手を強く握られる。提督はまっすぐに私を見て、

「大鳳。絶対に、僕は僕の家族を、君の事を手放さないからね」

 …………うわー、少し拗ねた表情の提督が可愛くてたまらないって、本当に私は重症だわ。

 

//.大鳳

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。