「命の価値ねえ。考えた事もねーな」
都から出て陸上、自動車を運転しながら正成。私は助手席に座ってます。
「そうですか?」
「ああ、考える暇もなかった。
そういうのは俺の友人が詳しんだよな」
「今、向かっているところですよね」
なんでも、友人のところに行くとか。頼まれ事があるみたいです。
「ああ、そうだ。
それでちとばか現実見せてやるよ。はっきり言って俺はお前の事気にいらね。生きる目的見つけるとか、本気であり得ねぇ」
「むぅ、……そのために生まれたのだから、そうするべきっていうだけです」
「艦娘だったか、なにか、どいつもこいつもこんな面倒なのか?」
「面倒って言わないでくださいっ」
「へいへい。
んで、これから行くところだけどな。寺だ」
「お寺、ですか」
「そ、そこにいる俺の友人が頼まれてほしい事があるんだってよ。
そいつ人生相談みたいな事もやってるから、そいつに話聞いてもらうのもいいだろうし、頼まれた事が面倒じゃ無けりゃあ付き合えよ」
「お手伝いですか?」
「小娘でも雑用は出来るよなー、買物とかー」
けらけら笑う正成。むぅ。
「私は戦艦ですっ
連合艦隊の旗艦で海軍の切り札なんですっ」
「その形でなに言ってんだよ小娘。
第一どこが戦艦なんだよ。筏のほうがまだ戦艦らしく見えんぞ?」
「ひどっ!」
た、確かに見た目子供で、艤装も何もないですけどっ!
けらけら笑う正成、失礼な彼から視線をそらす。……ふと、
「外」
「あ? まあ、建物の外だな。
それがどうかしたんか?」
ハンドルを操りながら正成。こちらは見ていないけど運転中だから当たり前です。
「いえ、……その、珍しくて」
「ああ、そか。
艦娘ってあれ、鎮守府か海しか行かないんだろ? こういう光景は珍しいか」
「…………はい」
頷く。けど、実際は少し違う。
艦娘としての記憶、そのほとんどが鎮守府内の、部屋ばかり、海の記憶なんて、轟沈されたあの日だけ、
「ま、景色はタダだ。どうせ長旅なんだ、好きなだけ見ておけ。……あー、飯どうするかな。
なあ小娘、お前らって飯食うのか? それともあれか? ガソリンとか口から流し込むのか、………………その場合どうすりゃいいんだ俺」
「普通に食べられますよ。……って、私の分も買ってくれるんですか?」
「いらねぇならそれでいいけどよ。
無理矢理食わせるつもりねぇし、ってか、そんなに驚く事か?」
「それは、……その、」
暗い部屋の中、自分の維持に必要な最低限の燃料だけ、一人、惨めさを噛みしめて摂取していた。
「…………はい」
「ふーん? つくづく艦娘ってよくわからんな。
ま、別に好き嫌いねぇだろ、次のパーキングで飯食うぞ」
「わかりました。……って、そういえば長旅って」私は自動車の窓から外を見て「どのくらいですか?」
「ざっと七時間だな」
「なっ?」
七時間っ?
「しかたねーだろ、あの都、異界くせに顕世への接続場所が壇ノ浦限定なんだよ。
んで目的地は滋賀県延暦寺、馬鹿みたいに遠いんだよ。600キロくらいあんじゃねぇかな」
「うわあ」
「ま、眠かったら寝てろ」正成は腕時計を一瞥「……到着は夜かな。場所は寺院だから、ちゃんと寝られるようにしておけよ」
「わかってます」
寝よう、とは思っていないです。
「ならいいや、……えーと、あと、三十分くらい走らせたら飯だな。
なに食うか考えておけ」
「えと、……って言われても、あんまり食べ物は知らないです」
「…………本気で艦娘ってわからん。
え? なに、食い方とか教えんの? 面倒くさすぎる」
「それくらいはわかりますっ、……けど、そういうの、知識とかでしか知らないし」
「はー、ま、じゃあ食いたい物だけ考えておけ。
注文するときに悩まれても面倒だしな」
「……あの、カレーってありますか?」
食べたいもの、と真っ先に思いついたのがそれ、……って、「なんで噴き出すんですかっ?」
「あー、さすが小娘だわ。子供っぽい物が好きなんだなーってな」
「だーかーらっ、小娘って言わないでくださいっ」
「いてぇえっ、こんなところで殴んな、ってかあぶねぇよばかっ!」
「きゃあっ、ま、正成っ、前見て前っ! 危ないいっ!」
「ひっつくなこの馬鹿小娘っ、てめぇのありもしねぇ胸押し付けられても嬉しくねぇよっ!」
「なに言ってんですかこの状況でっ、っていうか、ありますっ、私大きいんですからぁあっ!」
「脳内の私スタイルに興味はねぇぇえっ!」
「……し、死ぬかと思いました」
「同感だ、この馬鹿小娘」
自動車から降りて、ぐったりとする私と正成。
「ったく、自動車運転してる俺に殴りかかるとか馬鹿か、馬鹿なのかこの小娘は」
「馬鹿とか言わないでくださいっ
これも失礼な事を言う正成が悪いんです」
「俺のせいかよ」
げんなりと応じる正成。けど、これは確実です。
女の子相手に寸胴だの胸がないだの言う男性なんて、絶対に悪です。悪党です。
ともかく店内へ。「ふぁああ」
「あ?」
見た事のない光景。凄い、広いですっ!
「正成っ、えと、……ど、どうすればいいんですかっ?」
「まずは落ち着け。
飯食いに来たんだから飯取りに行くか、……ここは、食券か。お子様ランチなんてあんのかな」
「ま、正成、その歳でお子様ランチは、あり得ない、です」
「お前が食うんだよお子様」
「いい加減お子様扱いしないでくださいっ」
「誰がどう見てもお子様だろっ!
ああ、そういえばカレーが食いてぇとか言ってたな。甘口とかあるんかな」
「普通のでいいですっ」
ともかく食券を買って、店員さんから料理をもらう。私はカレー、正成は、なにかの定食です。
「小娘。道中疲れたか?」
「ふぇ? いえ、そうでもいないですよ」
車に乗っていた時間は、大体二時間くらい、特に疲労はありません。
「いや、土産いつ買うかなって思ってな。
あんまり疲れてるようならちょくちょく休憩入れるけど、そうでもねえならさっさと到着したい。あんな狭苦しい車ん中じゃなくて畳の上でごろごろしたい」
「お土産? ああ、寺院の」
「そうそう、そこで小娘が活躍の場だ」
「は?」活躍?
「あそこ、」示したのは通路の奥の「土産物、俺こういうの選ぶの苦手なんだよな」
「はいはい、付き合いますよ。私もお客さんですしね」
「おっ、助かるっ」
本気で苦手みたいです。嬉しそうに言う正成。
はあ、と溜息。頼りになる存在が見つかったからか、嬉しそうに正成も「いただきます」と手を合わせて食べ始める。
「いただきます」
言って、一口。
最初に感じたのは温かさ、そして、味覚を刺激するカレーの味。
おいしい、と。思いもう一口。
「って、うおっ?」
隣から悲鳴、けど、私は無視してもう一口。口内だけで感じていた熱が少しずつ全身に回っていく感じ。
咀嚼し、食べたものが体の中に落ちていく実感。
もう一口。
「おい、小娘っ」
「なんですか?」
「いや、…………大丈夫かお前?」
「し、失礼ですねっ、なにが、ですかっ」
きょとん、とした正成は手を伸ばす。片手にスプーン、もう片手はカレー皿を抑えているので、その手を止められず、
目元に触れられる。離れた。
「え?」
スプーンをお皿に落とす、自分で目元に触れる。
そこには、正成の指についていた物、……涙?
「どう、して?」
「俺が聞きてぇえよ。
なんでカレー食ったら泣くんだよ。そんなに辛いのか? だから甘口にしておけって言ったんだ。待ってろ、買ってきてやる」
立ち上がる。けど、私はその手を取る。
「なんだ?」
「ち、違い、ます。
そうじゃ、なくて、……えと、」
泣いている事を自覚して、その理由を意識したら、また、ぽろぽろと。
「温かい、食べ物って、初めてで」
それに、誰かと一緒に食べるのも、初めてだった。
だから、
「それで、……わ、私、」
はー、と溜息。
「泣いてる子供の隣で飯ってか、……何なんだこの状況」
「ご、ごめんなさい、ちょ、ちょっと待ってください。すぐ、な、泣きやみます、から」
「あーあー、うるせ。
子供が大人に気遣う必要はねぇよ。好きなだけ泣いてろ。幼児は泣くのが仕事らしいしな」
そう言って、ぐしぐしと乱暴に頭を撫でられる。その感触に温かさと心地よさを感じてしまって、……けど、子供扱いは悔しいから。
「幼児じゃ、ない、です」
それだけ、返しておきました。