深海の都の話   作:林屋まつり

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五話

 

「御土産ですね。これは気分が高揚します。

 大丈夫、私にかかれば鎧袖一触です」

「加賀、君は何を話しているのですか?

 一蓮上人、全部持ち帰って子供たちに分けてあげてください」

「ふふ、ありがとうございます。尊雲上人」

「…………護良、その判断は間違えているわ」

「わかりましたよ。一蓮上人、一箱もらいます」

「ふふ、はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 礼儀正しく受け取る加賀。っていうか、

「え? なんで加賀がこんなところにいるのですか?」

「私としてはなんで貴女がそんなちっちゃ、…………ちびになっているのかが気になるわ」

「表現悪化してますよねっ!」

「おい、小娘」

 重々しい言葉、振り返る。正成は頷く。

「ちび、うおっ?」

 失礼な事を言う大人を打撃。回避されてしまいました。

「なー、護良。それより夕飯食おうぜ。食い物、なんか出せよ」

「もうそんな時間でしたか」

「そうね、食事は大事よ。

 ここは、肉がないから不満だけど」

「加賀、君は寺院に何を期待しているのですか?」

 肉、…………あっ

「加賀、肉ならありますっ!」

 私はお土産とは別にあった袋をかっさらって、目を輝かせた加賀に投げました。

「って、それ俺の酒のつまみだ馬鹿小娘っ!」

 手を伸ばす。けど、打撃。

「お酒は、寺院ではよくありませんよ。正成」

 伸ばした手を叩き落とした護良さんは笑顔。正成は笑顔。

「…………ちょっと面かせ、似非仏教徒」

「いいですよ。加賀の言葉ではありませんが、正成の相手は、なかなか気分が高揚します」

 穏やかに悪い笑顔の護良さんと、楽しそうに悪い笑顔の正成。二人は連れ立って外へ。その後ろ姿を見送って、ぽつり、呟きました。

「結局、同類なんですね。二人は」

 

 護良さんと正成は外に行ってしまいました。なので、一蓮上人が夕食を作ってくれています。

 そして、

「それで、話を戻すけど、どうしてそんなちびになったのかしら?」

「せめて、ちっちゃいって言ってください」

 どうして? ですか。

 それは、この場で言っていいのか。……そう、だって、私は深海棲艦。

 艦娘である加賀にとって、打倒すべき相手。

 言葉を噤む私に、小さな苦笑。

「先に私の話をした方がよさそうね。

 なぜ、鎮守府じゃなくてこんなところにいるか」

「あ、はい。お願いします」

「まあ、そんな面倒な話じゃないわ。

 出撃で、燃料が切れて動けなくて漂っているところ拾われた、っていうだけ」

「え、と。……それで、鎮守府には戻らないの、ですか?」

「ええ、戻るつもりはないわ。

 捨てたつもりのスクラップに戻ってこられても困るでしょう」

 淡々と、加賀は告げました。……けど、

「捨て、た」

「不思議な事ではないわ。

 一航戦に足る実力は相応の負担を要求する。あとは、それを負担しきれるか否か。

 そして、否だった場合はどうするか、ただそれだけの問題よ」

 つまり、負担しきれなかった。だから、捨てた。加賀は他人事のように、過去の事のように、淡々と、あっさりと語る。それが、

「…………ないの、ですか?」

「なに?」

「悔しく、ないの、ですか?」

「ないわ。理解できない事じゃないもの。……まあ、赤城さんに会える可能性がかなり低下したのは残念だけど」

「だ、だからってっ、……だって、艦娘は、戦うために造られたのでしょうっ!」

「ええ、戦ったわ。そして、捨てられた。

 それでもなお戦い続けようとは思わないだけ、轟沈した艦は速やかに去る。未練がましく残るなんて無様な事、それこそ一航戦の誇りを汚すことになるわ」

 自分の戦いは終わったのだ、と。加賀。

「そう、ですか」

「ここなら鎮守府はおろか、軍部の追及の手も逃れられる。

 延暦寺も、なにより、護良にはそれを叶えるだけの力があるわ」

「私だけではありませんよ。加賀。

 この国は軍部が思っている以上に、暗い、暗い側面があるのです」

「あ、護良さん」

「随分と、はしゃいだようね」

 振り向くと袈裟がぼろぼろな護良さん。その手には薙刀なんて持ってます。

 続くのは似たような格好の正成、刀は鞘に収めてください。

「私の父君と、南朝。……そうですね。頭の悪い表現が許されるなら、悪の秘密結社といったところでしょうか」

「あの馬鹿ども、主君に無茶言われると途端にはしゃぎまわる。

 ガキかっての、……まあ、いろいろ便利だけどな、連中」

「君はその幹部ですね。悪党、正成」

「うるせぇ黙れ似非仏教徒」

 笑いながら言う護良さんと、そっぽを向く正成。

 と、

「ご飯が出来ました。手が空いてたら配膳の手伝いをお願いできますかー?」

 一蓮上人の声。反射的に立ち上がりました。

「行きましょう」

 同じように立ち上がる加賀。「正成も手伝ってくださいよ」

「大人は大人の話があるんだよ。

 手伝い行って来い」

 しっしっ、って手を振る。むっとするけど、護良さんが申し訳なさそうに手を合わせて小さく頭を下げたので溜息。

「はいはい、正成のご飯はこっそり減らしますからね」

「その分は私に来るのね。……ふふ、心が躍ります」

「え?」「え?」

 目を輝かせる加賀。……いえ、冗談のつもりでしたよ?

 

 正成の茶碗に盛られたご飯を、自分用の茶碗に移している加賀を横目に「よいしょ、と」と、お手伝いです。

「持てますか?」

 お盆の上には野菜中心のおかず。

「あ、大丈夫です。

 それより、野菜が多いのですね」

「多いというか、全部野菜類です。

 厚揚げとか、大豆の加工品でいくつか誤魔化していますけどね」

「そうなのですか? えと、苦手な人がいるとか?」

 加賀は違うだろうなあ、と。正成のご飯を何割か奪取した加賀を横目に思いました。

「いえ、基本、仏教徒は肉食を禁じているのです。

 まあ、最近はそこまで厳しく禁じているわけではないですけどね」

「肉が食べられないのは不満ね」

「…………加賀、貴女は寺院に何を期待しているのですか?」

 ご飯を圧縮して盛り始めた加賀に一蓮上人は苦笑。

「生活に不満はないわ。

 海戦も、しないならしないで構わないもの、けど、食事が質素なのは、正直残念ね」

「延暦寺から食材もらっているではありませんか。

 土地の一部が削られたって本気で嘆いていましたよ」

 一蓮上人は苦笑、加賀は頷く。

「無駄に広い土地など切り払ってしまえばいいでしょう。

 どうせまともに機能しているのはごく一部なのだから」

「それ、延暦寺はともかく日吉大社では言わないように、怒られますよ。

 共存共立を是としていますけど、奥の方では比叡山を奪い取った延暦寺に思う事はあるでしょうから」

「肝に銘じておくわ」

 真剣な表情で応じる加賀。山盛りになった自分の茶碗に視線を向けていたけど、きっと、真剣なのは一蓮上人の言葉に対して、ですよね?

「もう少し、乗せられるかしら? …………いえ、搭載の限界に弱気になって何が正規空母? なにが一航戦?

 そう、限界に挑み、超え、それを糧にする。だからこそ一航戦は最強と言われていたのよっ」

「…………音声だけなら、格好いいのですけどねえ」

 慎重に正成のご飯を奪取する加賀を横目に、私は歩き出しました。

 

「はい、正成」

「な、……え? なに、この少なさ?」

「これが、一航戦の実力です」

「意味分からねぇよ。

 ってか、俺の飯返せっ! しかも、それ俺のつまみだっ!」

「肉、……久しぶりです。

 気分が、高揚します」

「それは俺のだぁぁああっ!」

 

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